断片集 杉浦碧
いやあ、驚いた。驚いたなんてもんじゃないやね、あれは。
なんてったってあれですよ、空飛ぶボディ・コンシャス・スーツですよ。
恥ずかしい格好には免疫あるつもりでいたけどさぁ。桂ちゃんっていったっけ。あの子も相当大胆だよね。
なんてったってあれですよ、空飛ぶボディ・コンシャス・スーツですよ。
恥ずかしい格好には免疫あるつもりでいたけどさぁ。桂ちゃんっていったっけ。あの子も相当大胆だよね。
「ちょっと拡声器で叫んだだけなのに……まさかリリカルな魔法少女を呼んでしまうとは……」
ここに至るまでの顛末を思い出しながら、にへへと笑む。
ビルの屋上から、高らかに思いのたけをぶちまけたあたしは、黒いボディコンスーツを着た飛行少女に拉致された。
強引に駅まで引っ張りまわされ、列車に連れ込まれて……って、こうやって語るとけっこうな事件だけれども。
ひとりぼっち、という状況からは脱却できたわけですし、なんだかんだで僥倖な出会いだった、と解釈するとしようか。
ビルの屋上から、高らかに思いのたけをぶちまけたあたしは、黒いボディコンスーツを着た飛行少女に拉致された。
強引に駅まで引っ張りまわされ、列車に連れ込まれて……って、こうやって語るとけっこうな事件だけれども。
ひとりぼっち、という状況からは脱却できたわけですし、なんだかんだで僥倖な出会いだった、と解釈するとしようか。
「いやー、それにしても懐かしいなぁ。内装がまんまだったから、もしやと思ったんだけど……」
とあるファミリーレストランの従業員用女子更衣室に、あたしはいた。
なんでこんなところにいうのかというと、列車に乗って南から北へ移動した後、
例のボディコン少女たちとお話をするために、ちょこっと立ち寄ったのだ。
縦に細いロッカーが立ち並ぶ、この窮屈感。昔の職場そのまんまの空気だ。
なんでこんなところにいうのかというと、列車に乗って南から北へ移動した後、
例のボディコン少女たちとお話をするために、ちょこっと立ち寄ったのだ。
縦に細いロッカーが立ち並ぶ、この窮屈感。昔の職場そのまんまの空気だ。
「ひょっとしてここ、『リンデンバウム』の支店かなんかなのかな」
風華学園で先生――っていっても非常勤講師だけど――を始める前は、そんなオシャレな名前のレストランに務めていた。
舞衣ちゃんやあかねちゃんもいたっけ。舞衣ちゃんなんか、あたしのこと同級生だと思ってたりしてねー。
とと、別におかしなことじゃあありませんよ。なんせ碧ちゃんは、『現役』のじゅうななさいですから。
舞衣ちゃんやあかねちゃんもいたっけ。舞衣ちゃんなんか、あたしのこと同級生だと思ってたりしてねー。
とと、別におかしなことじゃあありませんよ。なんせ碧ちゃんは、『現役』のじゅうななさいですから。
「あー、でもホント懐かしいなぁ! 正義の味方の正装っていったら、やっぱこれだよね~」
ロッカーの中に入っていた、可愛らしいデザインの制服を取り出す。
あたしがよく、料理を零したりして汚しちゃってたやつ。リンデンバウムのウェイトレスの制服。
ひらひらのスカートがついたそれの肩口をちょんとつまみ、見せびらかすように広げてみる。
あたしがよく、料理を零したりして汚しちゃってたやつ。リンデンバウムのウェイトレスの制服。
ひらひらのスカートがついたそれの肩口をちょんとつまみ、見せびらかすように広げてみる。
「……よし」
手に取ったら、我慢できなくなった。ま、ここ更衣室だし。なにも問題はあるまい。
というわけで、そそくさと脱衣を始めるあたし。誰も見ていないのをいいことに、豪放に着衣を脱ぎ捨てる。
艶かしい衣擦れの音が碧ちゃんの隠しきれない色気を――ってな演出に期待したいところだけど、ギャラリーはゼロ。
みんなには外で待っててもらってるし、そもそも女の子ばっかりだから、クリスくんみたいないじり甲斐のある子もいないし。
というわけで、そそくさと脱衣を始めるあたし。誰も見ていないのをいいことに、豪放に着衣を脱ぎ捨てる。
艶かしい衣擦れの音が碧ちゃんの隠しきれない色気を――ってな演出に期待したいところだけど、ギャラリーはゼロ。
みんなには外で待っててもらってるし、そもそも女の子ばっかりだから、クリスくんみたいないじり甲斐のある子もいないし。
「クリスくんといえば……二人とも元気でやってるかな。ミキミキやりのちゃんたちも心配だけど、やっぱねぇ」
下着一枚の姿になりながら、また思い出す。
ここにきてから、二度も大きなトラブルに巻き込まれた。
一回目は温泉。実はHiMEであることが発覚した静留ちゃんと一悶着あり、結果、クリスくんや唯ちゃんと離れ離れになってしまった。
二回目は遊園地。理樹くん主導のもと動き出すかと思われた新生リトルバスターズは、岩石に躓いた勢いで一歩目を踏み外してしまった。
ここにきてから、二度も大きなトラブルに巻き込まれた。
一回目は温泉。実はHiMEであることが発覚した静留ちゃんと一悶着あり、結果、クリスくんや唯ちゃんと離れ離れになってしまった。
二回目は遊園地。理樹くん主導のもと動き出すかと思われた新生リトルバスターズは、岩石に躓いた勢いで一歩目を踏み外してしまった。
グループというものから、なんとなく縁遠くなってしまっている気がする。
一人でできることなんて高が知れていると思うし、あたし自身、正義の味方をやるなら孤高でいるより戦隊を組みたい。
三度築き上げることができたこのコミュニティは、絶対に大切にしよう。そう、あたしは誓うのだった。
一人でできることなんて高が知れていると思うし、あたし自身、正義の味方をやるなら孤高でいるより戦隊を組みたい。
三度築き上げることができたこのコミュニティは、絶対に大切にしよう。そう、あたしは誓うのだった。
「と、それはそうと、お着替えお着替え~」
鼻歌なぞ歌いつつ、再びリンデンバウムの制服に手を伸ばす。
慣れた手つきでお着替え完了。鏡に我が身を映し、生まれ変わった自分を観察する。
慣れた手つきでお着替え完了。鏡に我が身を映し、生まれ変わった自分を観察する。
「……うん。いい顔してるじゃないか、杉浦碧」
元気溌剌とした、杉浦碧の素の表情がそこに映っていた。
そう、あたしの名前は杉浦碧。実年齢二十四歳。だけれど心はじゅうななさい。
夜な夜なオーファン退治に勤しむ正義の味方。それがあたし、碧ちゃんの在り方だ。
そう、あたしの名前は杉浦碧。実年齢二十四歳。だけれど心はじゅうななさい。
夜な夜なオーファン退治に勤しむ正義の味方。それがあたし、碧ちゃんの在り方だ。
葛ちゃんのときと、温泉のときと、遊園地のときと。
三回も失敗を重ねて、ついでに媛星が見えるようになって、ようやくあたしはあたしに気づけたのだ。
三回も失敗を重ねて、ついでに媛星が見えるようになって、ようやくあたしはあたしに気づけたのだ。
「桂ちゃんに、アルちゃんに、真ちゃん。オッケー、刻んだ。危機あらば必ず、汝らのもとに正義の味方が駆けつけようぞ」
強く、強く決意を固め、あたしはダー……っと、制服を脱いだ。
今は、しまっておこーっと。これは本番用の勝負服、ってことでね。
なにより、表じゃ新しい仲間たちが首を長くして待っているだろうし。
今は、しまっておこーっと。これは本番用の勝負服、ってことでね。
なにより、表じゃ新しい仲間たちが首を長くして待っているだろうし。
「次の目的地は教会か。ま、なせばなるなる。大船に乗った気で任せておきたまえよ。わっはっはっは」
「杉浦先生ー! 着替え、まだですかー!?」
「杉浦先生ー! 着替え、まだですかー!?」
おっと、真ちゃんが痺れを切らして迎えにきたようだ。
早く行ってあげないと。けど、杉浦先生って呼び方はいただけないなぁ……あとで指導しておかないと。
早く行ってあげないと。けど、杉浦先生って呼び方はいただけないなぁ……あとで指導しておかないと。
「はいはーい! いま行きますよーっと」
女子更衣室の扉を勢いよく開け放ち、あたしは新天地へと向かう。
新たな仲間たちと連れ添って、また新しい仲間を求めるために。
ひとりじゃ見えない暗闇も、みんなで力を合わせば晴れてくる。
短いながらも、リトルバスターズの輪の中で教わった大事なこと。
あたしはこれを、今後も忘れないように生きていきたい。