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断片集 那岐

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断片集 那岐



「いよいよ明日か……この儀式の終焉も」

真円の月と紅い媛星。
空に浮かんでいる輝くそれをホテルの一室から見上げている者が一人。
悠久の時を数多の星と共に生きた少年、那岐。
彼にとって忌々しい紅く耀く星をずっと見つめている。

「まぁ……最もこの儀式もただのまがい物でしかない……遠慮無く潰させてもらうよ」

那岐は空を見据えてそう呟いた。
自身の元主人は今も儀式への完遂に向けて全力を賭しているだろう。
本来ならば那岐も儀式を完遂させる側だったはずだ。
しかし、運命は唐突に方向転換を起こし、那岐が想定していない方へと向かい始めてしまった。
今まで自分を縛っていた運命は崩れ、いつの間にやら儀式を崩す側に組することになっている。
それも、あの黒幕のせいかもしれないが今は考えない。
ただ、那岐に言えるのはこの儀式は星詠みの舞ではないという事。
姉が命を懸けて作り上げたものでは決してない。
ただ、形を似せたまがい物なのだから。
だからこそ、那岐は今ここでHiME達と共に歩んでいる。
もう、迷いなど存在せず、ただ進むだけだった。

「しかしまぁ……傍観者に近かったあの始まりの時から比べると……随分、僕も動く様になっちゃたかな?」

那岐が回顧するのはあの始まりの鐘がなった時のこと。
64人のHiMEが一同に会したあのハジマリだった。
その時那岐はまだ式として神崎に属していて。
運命に縛られていた『炎凪』でしかなかった。

そのハジマリを……那岐はゆっくりと思い出していく。





 ・◆・◆・◆・


「はぁ…………滅茶苦茶だぁ…………段取りもあったもんじゃない…………というか、……そもそもこんなの有り得ない」

怨嗟ともいえるような呻き声がモニターに囲まれた部屋の内に響く。
映し出されているのは68人もの人間らが眠っている異様な光景だった。
これから儀式が始まるらしい。
しかし、未だに呻き声の持ち主である炎凪は儀式について困惑しているばかりであった。

そもそも、始まりすらよく覚えていない。
いつの間にかこの島に居て。
目の前には従うしかないマスターが居て。
そして星詠みの舞は変わったと唐突に告げられた……だけ。

全くもって意味が解らなかった。
一番地にこんな事をする力なんてもう存在していないはずなのに。
全て準備は整っていて確かに儀式は変わっていた。
変わらないのは紅く耀く媛星だけ。

「……どーせ従うしかないんですけどね。
 あーあ……、全く愚痴ばかり出てくるよ。どうせただの小間使いには教える事は無いって事ですか」

目的は余り変わっては居ない。
HiMEの想いの力を使って媛星の力を手に入れる。
ただし、64人もの人数で方法は殺し合いというやり方で。
それで儀式を行うと。
何故方法を変えたのか。その説明は無かった。

「老若男女、果ては人外まで多彩を揃っていますって……あー頭痛くなってきた……」

凪は今回のHiMEの顔をひとりひとり確かめていく。
見慣れた4人のHiME。
普通で平凡な少年。
見目麗しい少女。
白髪の中年男性。
腕が4つの化け物。
黒い禿頭の骸骨みたいなもの。

……思わず凪は天を見上げ、そして頭を抱える。

余りにも予想外で信じられない。
凪の想定外の化け物でさえ居るのだ。
なんだかもう何が出てきても可笑しくなかった。
星詠みの舞っていつこんな風になったのだろうか……と溜息が耐えない。
自身の姉上に尋ねて見たいがこの場には居ない。
はぁともう一度強く溜息を付いてモニターを見つめる。
凪のマスターである神崎らが始まりを告げるセレモニーを開始していた。

「やだなぁ……もう。全然やり方がスマートじゃないよ。
 こんな殺し合いまがいの事なんて……全くマスターはもう耄碌しちゃったのかねぇ……。
 ……姉上が命を懸けて作り上げた星詠みの舞が、こんな下種なものに。……はぁ。本当に……、何かもう…………嫌になってくる」

忌々しく、本当に忌々しそうに凪は呟いた。
何故こんな事になったは知らないが溜息しか出てこない。
わざわざ人数を大量に増やして殺し合いをしなければならないのだ。
自身の姉は犠牲者なるべく少なくしようとしていたはずなのに。
それなのに凪の主人はもっと増やしている。
……やってられなかった。

「触媒は今回は無いようだけど。
 ……でもその分、恋人や親友、親子供、兄弟と殺しあわないといけないなんて、……もっと悲劇さ。そんなもの」

触媒という悲劇を加速させるものは今回存在しない。
だがしかしそれ以上に触媒となるような大切な存在同士で殺しあわないといけないのだ。
それは恋人であり、親友であり、親子であったり。
そして大切な存在の死によって殺し合いは加速し、哀しみは更に深まっていくだろう。
従来の儀式よりも、もっと凄惨で救えない悲劇になるのではないだろうか。

それを思うと凪は憂鬱になってしまう。
少なくとも……そんな悲劇を凪は望んではいないのだから。
星詠みの舞が上手く進行してくれるのはいい。
だけど、形を変える必要も無いのに形を変え結果として更に悲劇が増えてしまう。
そんな事……許したくもないし望んでもいない。
凪は苛立たしくて、苛立たしくてモニターに映る己が主人を怨みを籠めて睨む。

しかしその瞬間、凪の視線はとても哀しく物憂げなものに変わってしまう。


「……でも、僕には何もできやしない。忌々しいねぇ……逆らう事もできず、ただ見ている事でしか出来ないなんて……さ」

炎凪は一番地、神埼黎人の式でしかない。
逆らうと消されてしまう存在なのだ。
だから、どんなに悔しくてもただ見ている事でしかできない。
こんな哀しみしかないものを。
ただ見続ける事しか出来ないのだ。
反抗もできず成り行きを見守るだけ。
それが自分の運命だと決めつけて。
だから、哀しくもあり憂鬱で。


「…………嫌だなぁ……本当。……………でもそれも仕方ないんだよ……………………だって僕は」


でも、炎凪が炎凪である由縁は。

ただの式であり。

主の命令により運命を見続け、見つめるしかないのだから。

そして。


「――――――運命に縛られているんだから………………哀しい……哀しい運命に…………ね」



本来の役割を奪われた


哀しい被害者でしかないのだから。





 ・◆・◆・◆・


「……あの時の僕からすると……随分と諦めが悪く見えるのかな? ……今の僕は」


回想を終えた那岐は苦笑いを浮かべてそう呟く。
やはりあの頃から比べると自分は随分と変わった。
それが余りにも可笑しくもあり、嬉しくもあり。
那岐は未だに笑い声を漏らしている。

「……まぁ、それでもいいさ」

だが、途端に表情を厳しいものに変えた。
見据えるのは紅き星。
そして、

「見てなよ……元マスター。どんなにシナリオを書き直そうと……決してそのシナリオ通りには進まないさ」

倒すべき存在に向かって言葉を紡ぐ。
瞳に諦観ではなく強い意志を籠めて。
もう悲惨な殺し合いを見ているだけではない。

「僕はもう……見ているだけだったあの頃とは違うよ。縛るものはもう全てなくなったんだから……何もかもね」

那岐に縛るべきものはもう何も無く。
たとえ哀しい運命だって―――


「どんな哀しい運命だって―――――――僕を縛りやできない」


縛る事はできず。


むしろどんな運命でも


「そして運命さえも―――――――僕の手で変えて見せるさ」




―――変えてえみせる。



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