断片集 クリス・ヴェルティン
「……んー。ここはちょっと違うな……こっちの方がいいかな……?」
霧雨の音しか聞こえない静かな夜。
僕はホテルの自室でフォルテールを奏でていた。
唯湖の為に奏でてから……3日の間が経っている。
特に弾けない事も無かったのだけれども……色々時間が取れなかったのだ。
まぁそんなこんなで僕は最後の夜に結局いつも通り音を奏でている。
僕はホテルの自室でフォルテールを奏でていた。
唯湖の為に奏でてから……3日の間が経っている。
特に弾けない事も無かったのだけれども……色々時間が取れなかったのだ。
まぁそんなこんなで僕は最後の夜に結局いつも通り音を奏でている。
「……うん。これでいこう……ここはこれでいいと……」
部屋には繰り返し奏でられるフレーズ。
僕はその音を聞きながら吟味し、そして楽譜に書き写していく。
そんなことを僕は先程からずっと繰り返している。
僕はその音を聞きながら吟味し、そして楽譜に書き写していく。
そんなことを僕は先程からずっと繰り返している。
「……なんで、今こんな事をしているんだろうな」
僕には明日がどうなるかはわからない。
明日は恐らく全てが終わり全てが始まる日なのだろう。
そして、今、最後の夜に僕がやっている事は何てこと無い……いつも傍に居た音楽だ。
弾けなくなったりもした……でも、今、またこうして奏でる事が出来ている。
それはなんて幸福な事だろう。
明日は恐らく全てが終わり全てが始まる日なのだろう。
そして、今、最後の夜に僕がやっている事は何てこと無い……いつも傍に居た音楽だ。
弾けなくなったりもした……でも、今、またこうして奏でる事が出来ている。
それはなんて幸福な事だろう。
だけど何故、今残り少ない時間をその音楽に費やしているのだろう。
他にやるべき事があるかもしれないのに。
唯湖の事だって明日決着が付くのだろう。
なのに……それでも音楽を僕は選んでいた。
他にやるべき事があるかもしれないのに。
唯湖の事だって明日決着が付くのだろう。
なのに……それでも音楽を僕は選んでいた。
それほど……音楽は僕に身近にあるものだろう。
明日がどうなるか解らない今。
僕はいつもの日常と変わらない音楽を。
いつものように奏でている。
僕は不思議な事にこれでいいと思っている。
明日がどうなるか解らない今。
僕はいつもの日常と変わらない音楽を。
いつものように奏でている。
僕は不思議な事にこれでいいと思っている。
きっと……僕と音楽は切って離せないのだろう。
例えこんな遠い何処か知らない場所に連れて来られたとしても。
以前の僕らしくない行動ばかり続けていたりしても。
それはきっと変わりはしない。
僕はそんな事に笑みすら浮かんでしまっていた。
例えこんな遠い何処か知らない場所に連れて来られたとしても。
以前の僕らしくない行動ばかり続けていたりしても。
それはきっと変わりはしない。
僕はそんな事に笑みすら浮かんでしまっていた。
変わり行くもの。
変わってしまったもの。
もう取り戻せないもの。
失ってしまったもの。
失いたくないもの。
変わってしまったもの。
もう取り戻せないもの。
失ってしまったもの。
失いたくないもの。
すべてのものが色を変えてしまっていたけど。
音楽だけは変わらずに。
僕の傍にずっとずっと。
当たり前のように存在しているのだろう。
当たり前のように音色を奏でているのだろう。
当たり前のように音色を奏でているのだろう。
僕はそんな音に満ち溢れた世界に……居続けるのだろう。
世界が音に満ちて……そんな場所で。
僕は……生きていくのだろう。
そんな気がして……僕は静かに笑った。
・◆・◆・◆・
「……ふぅーいい湯だった。上がったぞクリス……って何をやっているんだ?」
僕が暫く音楽に没頭していると、なつきがお風呂から戻ってきた。
長い艶やかな髪をバスタオルで拭きながらこっちに寄って来ている。
僕は一旦演奏を止め、なつきの方に改めて向いた。
長い艶やかな髪をバスタオルで拭きながらこっちに寄って来ている。
僕は一旦演奏を止め、なつきの方に改めて向いた。
「ん……ちょっとね……って」
「うん?」
「うん?」
…………いや、まぁ。
せめて、タオルくらい纏って欲しいような……。
一糸纏わない姿は色々扇情的で……まぁ兎も角。
せめて、タオルくらい纏って欲しいような……。
一糸纏わない姿は色々扇情的で……まぁ兎も角。
「何か纏ってよ……なつき」
「っ!? ……この馬鹿クリス!」
「っ!? ……この馬鹿クリス!」
なつきは顔を朱に染め慌てながらバスローブを纏う。
今更そこまで過敏に反応するものでもないけど。
互いに沢山見ているわけだし。
今更そこまで過敏に反応するものでもないけど。
互いに沢山見ているわけだし。
…………それはまぁいいか。
「ちょっと作業をしてたんだ」
「……作業? 楽器で?」
「そう。ちょっとね」
「何をだ?」
「内緒」
「……作業? 楽器で?」
「そう。ちょっとね」
「何をだ?」
「内緒」
そう、僕が悪戯っぽく言うとなつきは何処かむっとした表情をする。
隠された事に何処か気に食わないらしい。
ちょっと可愛いなと思いつつも、これは残念だけどまだなつきには告げられない。
隠された事に何処か気に食わないらしい。
ちょっと可愛いなと思いつつも、これは残念だけどまだなつきには告げられない。
これはなつきの為のものだから。
なつきの為の大切な……大切に作らないといけないものだから。
なつきの為の大切な……大切に作らないといけないものだから。
「ふんっ……どうせ私なんて……」
「……いじけないで。変わりに何か演奏するよ」
「……いじけないで。変わりに何か演奏するよ」
少しいじけそうになり、哀しそうに曇ってるなつき。
僕はそんななつきに対して優しく慰めようとする。
僕はそんななつきに対して優しく慰めようとする。
「……そういえば、クリスの演奏を聞くのは久し振りだな」
なつきは表情を少し明るくし僕に寄り添うように座った。
どうやら、演奏を聴くのに随分と乗り気らしい。
そんななつきの態度に僕自身もなぜか嬉しくなってフォルテールに指を乗せ軽い予備動作に入る。
どうやら、演奏を聴くのに随分と乗り気らしい。
そんななつきの態度に僕自身もなぜか嬉しくなってフォルテールに指を乗せ軽い予備動作に入る。
軽い予備練習でしかない1フレーズの演奏。
それだけでもフォルテールは綺麗な音を奏でてくれる。
なつきはそれだけで引き込まれているみたいだ。
それだけでもフォルテールは綺麗な音を奏でてくれる。
なつきはそれだけで引き込まれているみたいだ。
僕はその様子を見ながら何を弾こうかと思案していた時、
「……クリス、これは何だ?」
なつきがフォルテールのケースの中に入っていた楽譜に興味を示す。
その楽譜は僕にとって馴染みの深いもの。
……ある意味全ての始まりかもしれない曲。
その楽譜は僕にとって馴染みの深いもの。
……ある意味全ての始まりかもしれない曲。
それは、
「……リセエンヌ。このフォルテールの持ち主……リセルシアの曲だよ」
「リセルシア……あの墓の時の」
「……うん、そうだな。なつき、じゃあこの曲を演奏しようか」
「……うん、そうだな。なつき、じゃあこの曲を演奏しようか」
僕はリセへの曲を演奏する事に決めた。
今、この歌を彼女に聞いて欲しいから。
今、この歌を彼女に聞いて欲しいから。
そして、奏で始める――明日への希望を歌った曲を。
聞いているのだろうか? 彼女は。
僕はこんなにも遠くに来た気がする。
君は高い空の上で見ているのだろうか?
僕はこんなにも遠くに来た気がする。
君は高い空の上で見ているのだろうか?
それは解らないけど……でも僕は……
君のお陰で明日が見れている。
そんな気がするのだ。
そんな気がするのだ。
明日は全てが決着するのだろう。
その明日を。
その未来を。
その未来を。
僕が怖がる事はもう無いだろう。
「いい曲だな……クリス」
「うん……」
「うん……」
それはきっと君のお陰なのかもしれない。
有難う。
「明日は希望……そうかクリスのスタートはここだったんだな」
「うん……そうだよ……ここから…………全部始まった」
「うん……そうだよ……ここから…………全部始まった」
そして、明日を見る事が出来るのだから。
明日は希望に満ち溢れていると。
その未来を……僕達が手にいれる事を……信じているのだから。
だからこんな空の下で……
僕達は明日を歩むのだろう。
明日を希望に溢れたものにする為に。
歩いていくのだろう。
それを君は……見守っているのかな?
僕達の……明日を。
「クリス…………頑張ろうな……明日を希望に変える為に」
「うん……そして、またその時にになったら……奏でよう……今度は君の歌を」
「……えっ?」
「その時……贈るよ大切な……君の歌を」
「……クリス」
「うん……そして、またその時にになったら……奏でよう……今度は君の歌を」
「……えっ?」
「その時……贈るよ大切な……君の歌を」
「……クリス」
だから。
行こう。
希望に満ち溢れているだろう明日へ。
君と―――
一緒に。