ギャルゲ・ロワイアル2nd@ ウィキ

LIVE FOR YOU (舞台) 6

最終更新:

Bot(ページ名リンク)

- view
だれでも歓迎! 編集

LIVE FOR YOU (舞台) 6 ◆Live4Uyua6



 ・◆・◆・◆・


金属でできた硬い床を軋ませ、壁を震わせ天井を揺らし、音を遠く遠くへと響かせながら二頭の獣が長い通路を行く。

想いの力により顕在化した常世のものならざる不思議の獣――チャイルド。
一頭は狼犬の姿をしたデュラン。
金属質の表皮をもった四肢に銀の毛皮。両肩に砲を背負った玖我なつきの忠実な僕。彼女とクリスとを背負い疾走する。
後から追うもう一頭は巨犀の姿をした愕天王。
真紅の表皮に鼻頭から伸びた分厚い衝角。黄金に揺れてたなびく、刃を持ったたてがみ。威風堂々。主たる碧を背に邁進する。

生半可なバイクなどよりかは速く走れるデュラン。そして巨体ゆえに歩幅も大きい愕天王。
二体は無人の通路をただただひたすら進んでゆく――が、しかし、件の”舞台”とやらの姿はまだ見えてきてはいなかった。

島の地下に張り巡らされた基地は広い。
舞台の確かな場所はわからないが、一番地の本拠地まででも直線距離にして2キロメートル弱といったところ。
曲がりくねってもいれば勾配もある。となれば更にもう少しは距離があるだろうか。
変わらぬ風景はよりそれを強調させる。そろそろ口を閉じて集中しているのにも痺れを切らしたと、3人がそう思った頃。変化が訪れた。




「ここが”舞台”ってところかな?」
「いや、私の感覚だとまだ距離としては半ばといったところだ。唯湖の姿も見えないし、それに――」

広く、ガランとした円形のホールの中へと入ってきて一行はその足を一端止める。
3人はまず碧が言ったようにここが舞台かと思ったが、なつきが言ったようにそうではないともすぐに気付いた。

「――足止めらしいぞ」

この広いスペースで待ち受けていたのは目標とする来ヶ谷唯湖ではなく、敵だった。
それは一人と一体と言い表すべきなのか、それともアンドロイドであればやはり一人とは数えず合わせて二体と表すべきか。
3人を待ち構えていたのは、深優によく似た姿かたちを持つアンドロイドが一体。それと、

「チャイルド……じゃないか。オーファンだね。私達用の相手というわけだ。これは」

一体のオーファンだった。
オーファン。それはHiME達が従えるチャイルドの原型ともいうべき存在であり、同じく媛星の力により顕現した怪しの獣。
チャイルドとはHiMEと契約したオーファンのことを指し、つまり実質的にはその存在に異なるところはない。
無論。個体差はあるにしろ、その実力も一体一体がチャイルドと同等というわけだ。

「おーけーおーけー。
 さすがは生徒会で立派な仕事をしていただけのことはあるね。神崎くんも演出というのがわかっているじゃないか」

愕天王の上で腕組みをし、碧が納得といった風にうんうんと頷く。
クリスと同行するなつきは勿論、碧もこちらに来ると読んでその対応にオーファンを置くというのはまさしく正しい形だろう。
しかも。待ち構えていたオーファンの姿は色こそ漆黒なれども、形と大きさは碧の操る愕天王と瓜二つだったのだから。

「と、いうわけで! ”ここは私にまかせて先に行きなさい” ……なんてね、なつきちゃん。クリスくん。OK?」

エレメントである鉾槍を手中に出現させ、碧はそれで先へと向かう通路の入り口をびしりと指した。
だが、言われたクリスとなつきはその申し出にわずかに逡巡する。3人で一緒に敵へと当たった方が安全なのは確かだからだ。
唯湖を救出するのに決められた制限時間があるわけでもない。確実にひとつひとつ障害を取り除いてゆくのもひとつの手だろう。
だがしかし、

「クリスくん。なつきちゃん。君達の役割はなんだ? いるべき場面はどこだ?
 私、杉浦碧は正義の味方。清き想いを持つ者を守り、悪逆非道の輩を打ち倒す。ここは――」

――私の場面だ! と、碧は二人の迷いを一喝により吹き払った。
目の前のことに囚われ目標を見失うは愚劣の極み。小さな賢しい選択は時に大きな過ちに通じることもある。
突貫、ドッカン。邁進、舞想。それが信条。それが正義の味方だと、ただ不敵に一笑。碧は再び向かうべき先を鉾槍で指す。

「すまない。ここは任せた」
「ありがとうミドリ」
「なぁに、いいってことよ。私には約束の相手もいないしね、できることをただするだけ。
 それよか。君達こそ私に身体張らせておいて失敗しましたじゃすまないんだからね。――がんばってきなさい!」

鉄の爪が床を蹴り、デュランとその背に跨ったなつきとクリスは先の通路へと姿を消してゆく。
それを見送り、表情を引き締めると碧は相対すべき敵の方へと振り返った。
一切の感情も信念も想いももたない冷たい表情のアンドロイドは入ってきた時と同じ場所、同じ格好でまだ佇んでいる。

「……追わないってことはやっぱ私向けの相手か。うん。
 それじゃあ始めようか。正義の味方が倒さなきゃならない敵はいっぱいいるんだ。時間かけてられないっての!」

言った瞬間。それまで置物のように固まっていたアンドロイドとオーファンが先手を取るように動き出した。
碧と同じように鉾槍を取り出したアンドロイドを背に、大きな蹄で地響きを立てながらオーファンが猛突進をしかけてくる。
その先端には愕天王と同じように硬く分厚い衝角が突き出している。
もしも突き刺さるようなことがあれば、愕天王といえど、碧といえど決して即死は免れないだろう。
ならば回避するか? しかし、碧はそうしない。チャイルドである愕天王も怯える素振りひとつ見せない。

激突。

自身が本物であることを証明するかのように、碧と愕天王はただそのまま偽者を迎え撃ち――撃ち返した。
ゴウンと部屋全体を振るわせる轟音が鳴り響く。
愕天王の衝角に掬い上げられたオーファンの巨体が跳ね飛ばされ、勢いよく反対側の壁へと衝突。そしてまた轟音が響いた。

「古今東西。偽者が正義のヒーローに勝ったためしなんてないのよ。
 いかに、最強無敵で絶対可憐な私と愕天王の力を真似しようとも、偽者である限りは絶対に勝てなーい!」

大きな胸を揺らしながら碧は愕天王の上ではっはっはっと大笑いする。
彼女は間違っていない。いかに正確にトレースしたデータがあろうとも、所詮コピー兵士は急造品。完成度には大きな問題がある。
チャイルド代わりのオーファンを宛がい数値上では正義の味方と互角にしてみても、実際はこんなところだ。

「そもそも、想いなくして正義と勝利はありえなーい! 通す信念もないあなた達がどうして私を倒せようか!」

勿論。そんなことは策を仕掛けた神崎にだってわかっている。
HiMEの強さは彼がなによりよく知るところだ。仮にシアーズが単独でこんなことをしていれば彼もそれを笑っただろう。
一対の偽者では一対の本物には勝てないなどというのは元より明らか。

「さてと、じゃあ今度はこっちの番よ。かっこいい必殺技をお見舞いしてやるん……だって、……え?」


だから、”三対”のアンドロイドとオーファンを彼は用意した。


壁際のシャッターがガラガラと音を立てて開き、その中から新しくそしてまたそっくりなアンドロイドとオーファンが姿を現す。
元よりいたものと合わせて全部で三対。一対一ならば碧と愕天王には勝てないだろうが、しかしこの場合はどうだろうか……?

碧の読みは正しかった。彼女をここで止める為にこのアンドロイドとオーファンは用意されていたのは確かだ。
だがしかし。それも、偽者が一対だけいれば正義の味方を気取る碧は必ず一人で残る。と神前の読んだ通りの行動。
上手を取られたと気付いた時にはもう遅い。

開いたシャッターが、そしてやってきた通路と先に進む通路の隔壁が全て閉じた。室内の空気は一気に不穏なもので満ちてゆく。

「たはは……まいったな、これは」

三体のオーファンがアンドロイドを背に愕天王へと殺到する。それぞれが必殺の衝角を碧へと向けて。


激突。そしてまた再び轟音。


地が振るえ、今度は血が流れた――……。


 ・◆・◆・◆・


「――あぁ、参りましたね。全くこんな古典的な罠に引っかかるとはこの私もヤキが回ったということでしょうか」

地下深い暗闇の中でトーニャはそんな言葉をぽつりと零した。
しかし、彼女の言葉に反応する何かも答えを返す誰かもその周りにはない。彼女の傍にあるのはただ暗闇だけだった。

「……とりあえず、登らないことにはどうにもなりませんね。はぁ、よっこらしょと」

愚痴っていても埒は開かないと、トーニャはデイパックから懐中電灯を取り出し濡れた岩肌を慎重に登り始めた。
先ほどまで立っていた基地の中とは違い、足場は極めて悪い。
耳に届く音からするとここから更に下方には川が流れているのだということがわかる。
もし足を踏み外して落ちたらどうなるか。想像して、トーニャは慎重に慎重を重ね、ゆっくりと確実に岩場を登ってゆく。

「さてと、どこにも皆さんの姿は見られませんねぇ……一体、どこに落ちたのやら」

ほどなく、5メートルほど登ったところでトーニャは平坦な場所へと辿りついた。
見渡せばところどころ地面は舗装されており、ちらほらと街灯が立っていて辺りはほの明るい。
少し離れたところには背の高いプレハブ小屋が見え、その周囲には鉄骨やドラム缶などが山と積まれていた。
記憶の中の見取り図を思い返し、トーニャはここが基地の最下層を通る資材運搬用道路だと気付く。

「まぁ無難なところですね」

言って、トーニャは自分が登ってきた岩壁の淵を振り返る。
さぁさぁと聞こえる水音の通り、この下は川だ。もしそこに落ちていたならば、戦場からは離れられるがまた別の危機があったろう。

「…………通信は不可能と。ええ、わかってましたけとも。一応、確認しただけです」

街灯の足元まで寄り、懐中電灯を仕舞って代わりに基地の見取り図を取り出してトーニャは、はぁと小さく溜息をついた。
始まって早々、仲間達とは離れ離れ。しかも、当てにしていた相手からは直接殺傷されないというアドバンテージも失われている。
状況としては最悪だろう。那岐や九条ならともかくとして、他の面々ならばいつ殺されてしまうともわからない。
自分にしたって、先ほどのように兵隊が50も100も集まってこられたらさすがに一人ではどうしようもないはずだ。

「みんな無事でしょうか。いや、そもそもとして落ちて死んでいないか……」

トーニャは自分が落ちてきた上の方を見上げる。
はるか上方。見取り図の記載によればおおよそ50メートルほど上に、床が外れた通路から漏れている光が小さく見えていた。
その下方には点検用のキャットワークやインフラ用のパイプなど細々したものと、小さな電灯の明かりが確認できる。

「あそこらへんに引っかかっていればどうにか無事だと思うのですが」

トーニャは暗がりの中に目をこらす。だがしかし、仲間の内の誰の姿も見つけることはできなかった。
一番小さいやよいや美希にファルなどはただの女の子もいいところで、もしここらへんまで落ちてきていたらと思うと背筋が凍る。
自身にしても落ちる途中でキキーモラを宙を走るパイプに絡めたからこそ地面との直撃を免れたわけで、
そういった手段をなんらもたない彼女達であればよくて瀕死。十中八九は真っ赤な死花を暗がりに咲かせることになるだろう。

「………………あぁ、もう! ねがねがしてても話が進みません」

もしかすると生き残ったのは自分だけ。そんなろくでもない想像を頭から振り払いトーニャは行動を開始する。
しかし、開始するも、どう動けばよいのかわからなくてその足はまたすぐに止まってしまった。

一人で神崎の下まで向かう? それはあまりにも無謀な話だ。
加えて、自分達は本命ではない。本命を通す為に敵を陽動し引き付けるのが本来の役目なのである。
とはいえそれも仲間達が固まって行動していることが前提。自分だけでは影響は微々たるもので役割は果たせない。

「頭を使いましょうアントニーナ・アントーノヴナ・二キーチナ。闇雲に動けばどうにかなるなんてことはないのですから」

再び街灯の下に戻ってトーニャはふむと唸る。
時間は無い。こうしている間にも敵兵がここまでこないとも限らない。別の場所にいるであろう仲間達の下にもだ。
やはり要求されるのは速やかなる合流。それをいかにして実現するのか、すぐに答えを出さないといけない。

「敵側にレーダーがある以上、危険でない場所というのは存在しない。
 故に、集団が分割された場合はとりあえず先を目指せとそんな取り決めでしたが、しかしバラバラとなるのは想定外。
 皆はどう動くのか。皆は皆がどう動くと思うのか。それを考えて……と、ふむ?」

ぶつぶつと呟きながら思考していたトーニャはハッと目を丸くしてぴたりと動きを止めた。
そしてあることに気付き、再びデイパックの口を開いて中をごそごそと漁り始める。
中にあるのは懐中電灯や見取り図の他にはサブウェポンとなる拳銃や薬がいくつか。何故かバカップル反対腕章などなど。
しかし、それらは目的のものではない。もうひとつ。メダルに代えるのは惜しいと残しておいたアイテムがあった。

「――あった」

それは、”首輪探知レーダー”。

本来。見知らぬ参加者の接近を感知する為の機器で、第1のゲームが終われば無用の長物となるはずだった物。
首輪をはめた人間がほぼ全員揃っている以上。もう使うことはないだろうと思われていた物だった。

現在。そのレーダーの上にはなんの反応も表示されていない。
高槻やよいも、山辺美希も、ファルシータ・フォーセットも、羽藤桂も、羽藤柚明も、反応はない。
反応しっぱなしだと煩わしいという場合の為に名前を登録することで非反応にする機能があり、それを使用しているからだ。

「えぇと……これで」

トーニャはレーダーを操作し、まずはひとつ高槻やよいの名前を登録から解除する。


「よし!」


取り付けられたランプが明滅し、レーダーの上にパッと高槻やよいの名前がひとつ浮かび上がった――。



LIVE FOR YOU (舞台) 5 <前 後> LIVE FOR YOU (舞台) 7



タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
ウィキ募集バナー