LIVE FOR YOU (舞台) 5 ◆Live4Uyua6
・◆・◆・◆・
結論から言えば、その場所には何も存在しなかった。
戦いの昂ぶりも、
想いを穢された怒りも、
帰らざる悔恨への悲しみも、
心や身体への消えざる痛みも、
何も、存在していなかった。
ただの状況と、短い言葉がそこにあった、それだけのこと。
薄暗い地下道に影が走る。
それは明らかな厚みと質感を持つ影。
それは明らかな厚みと質感を持つ影。
標的を死へと誘う、幻影。
無様なものだ。
そう、影は思考する。
影には本来思考をするという機構は存在しない。
そのような行動を取る必要性など、無いが故に。
そう、影は思考する。
影には本来思考をするという機構は存在しない。
そのような行動を取る必要性など、無いが故に。
それでも、影はそう思わざるを得なかった。
それは、その影の機構に一部、狂いが生じている故に他ならない。
が、そもそもだ、その様な思考に至るということは、その原因となる現象が存在する、ということだ。
それは、その影の機構に一部、狂いが生じている故に他ならない。
が、そもそもだ、その様な思考に至るということは、その原因となる現象が存在する、ということだ。
無様だ。
これを無様と言わずに何というのか。
当る事の無い銃弾。
止まる事の無い進撃。
無駄に消費される弾薬。
ただ無意味に響き渡る轟音。
徒労としか言いようの無い迎撃。
その全てを、無様と呼ぶしかない。
止まる事無く駆けつづけ、絶えず無様を生み出し続けながら、影は思考する。
かつては、最強の暗殺者という名を冠されたファントムが、何と言うザマか。
いや、正確に言えば、此処にいるのはファントムでは無い。
この世にファントムの名を持つものは、既に存在していないのだから。
だから、無様と思う必要など無い、そうとも思う。
だが、それでも無様と言うより他に無い。
かつては、最強の暗殺者という名を冠されたファントムが、何と言うザマか。
いや、正確に言えば、此処にいるのはファントムでは無い。
この世にファントムの名を持つものは、既に存在していないのだから。
だから、無様と思う必要など無い、そうとも思う。
だが、それでも無様と言うより他に無い。
これだけの長時間の戦闘で、何の戦果も上げられず。
完成された筈の技巧の見る影は無く、物量を消費するだけの戦いしか出来ない。
これが、ファントムの戦いだと?
完成された筈の技巧の見る影は無く、物量を消費するだけの戦いしか出来ない。
これが、ファントムの戦いだと?
アインも、キャル……いやドライも、あの男も、嘲笑するだろう。
既に消費した弾薬は両の指に遥かに余る。
それでも、相手には何の痛痒も与えられ無い。
こんな無様な戦いしか、出来ないのか。
これが、仮にもファントムの名を冠する存在か。
既に消費した弾薬は両の指に遥かに余る。
それでも、相手には何の痛痒も与えられ無い。
こんな無様な戦いしか、出来ないのか。
これが、仮にもファントムの名を冠する存在か。
「なあ、そう思わないか、アイン、それに……キャル」
答えが帰って来るはずの無い問いが、つい口から漏れる。
当然、返事など無く、あったのは無言の行動のみ。
前方に見える二つの影のうち、片方は今まで構えていた狙撃用ライフルをそのまま放り出し、新たに虚空から生み出した拳銃を構える。
もう片方は、未だに硝煙の香りを漂わせる両手の銃を、再び構えなおす。
獲物以外は、まるで同じ外見を持つ、人形。
敵が使用しているとかいう、アンドロイド。
当然、返事など無く、あったのは無言の行動のみ。
前方に見える二つの影のうち、片方は今まで構えていた狙撃用ライフルをそのまま放り出し、新たに虚空から生み出した拳銃を構える。
もう片方は、未だに硝煙の香りを漂わせる両手の銃を、再び構えなおす。
獲物以外は、まるで同じ外見を持つ、人形。
敵が使用しているとかいう、アンドロイド。
「ああ、本当に」
その人形が、見覚えのある構えを取る。
銃を両手で握る人形は、半身を向け、腰を落とした姿勢で。
二挺の銃を両の手に持つ人形は、ネコを思わせるしなやかさを見せる姿勢で。
銃を両手で握る人形は、半身を向け、腰を落とした姿勢で。
二挺の銃を両の手に持つ人形は、ネコを思わせるしなやかさを見せる姿勢で。
「無様だな……」
二つの影は、並んで此方に向かい、走る。
その動きに、一切の乱れは無い。
ただ、精密な機械のように、死を呼ぶ幻影が走る。
その光景に、一瞬、どう対処して良いのか、迷う。
その動きに、一切の乱れは無い。
ただ、精密な機械のように、死を呼ぶ幻影が走る。
その光景に、一瞬、どう対処して良いのか、迷う。
本当に、無様だ。
これでは、処分されても、仕方ないだろう。
いくら、対峙している相手が、同じファントムだとしてもだ。
これでは、処分されても、仕方ないだろう。
いくら、対峙している相手が、同じファントムだとしてもだ。
・◆・◆・◆・
殺される事は無い。
それは逆に言うならば、『殺さなければ、何をしても良い』という事だ。
手足を吹き飛ばそうが、二目と見られぬ顔になろうが、死んでさえいなければどうにでもなる、という事でしかない。
まあ撃たれた反動でショック状態になるという事は良くあるので、もう少し加減はされるだろうが、
それでも、殺されないと楽観視していい状況では無い。
男である玲二は兎も角として、女連中などはそれからが地獄だろう……が、それは考えても意味のない事。
それは逆に言うならば、『殺さなければ、何をしても良い』という事だ。
手足を吹き飛ばそうが、二目と見られぬ顔になろうが、死んでさえいなければどうにでもなる、という事でしかない。
まあ撃たれた反動でショック状態になるという事は良くあるので、もう少し加減はされるだろうが、
それでも、殺されないと楽観視していい状況では無い。
男である玲二は兎も角として、女連中などはそれからが地獄だろう……が、それは考えても意味のない事。
だから、地下道を進む玲二は、最初から油断などしてなかった。
殺される事はない、と頭で理解していても、油断するという機構自体が、存在していないのだから。
バイクは既に乗り捨て、薄暗くはあっても視界は悪くも無く、喧騒とは無縁の地下道。
この場所において、吾妻玲二が遅れをとるようなことは、まず有り得ない。
殺される事はない、と頭で理解していても、油断するという機構自体が、存在していないのだから。
バイクは既に乗り捨て、薄暗くはあっても視界は悪くも無く、喧騒とは無縁の地下道。
この場所において、吾妻玲二が遅れをとるようなことは、まず有り得ない。
……それでも、その一撃は、回避不可能だった。
種類にもよるが、狙撃銃から放たれる銃弾の初速は秒速1000M近い。どれだけ鍛えようが、人では回避不可能な速度だ。
故に、長距離からの狙撃を回避する手段は2つしかない。狙撃されない状況を作り出すか、または狙撃される前に回避するか。
多少曲がりくねっているとはいえ、遮蔽物もろくに無いこの地下道で狙撃されない状況を作り出すというのは難しい。
だから、必要なのは狙撃される前、
正確には狙撃手の気配を察しその引き金を引く瞬間に回避する、という技能であり、吾妻玲二はそれが可能な存在である。
その吾妻玲二にして、第一撃の気配は、感じ取れなかった。
いや、正確には感じ取ることは出来たのだ。だがそれは、引き金を引く瞬間ではなく、引き金が『引かれた』瞬間。
限界までに磨き上げられたファントムの能力を持ってしても、
既に回避不可能な時になって、ようやく吾妻玲二は己が狙撃されているという事実に気付いたのだ。
故に、長距離からの狙撃を回避する手段は2つしかない。狙撃されない状況を作り出すか、または狙撃される前に回避するか。
多少曲がりくねっているとはいえ、遮蔽物もろくに無いこの地下道で狙撃されない状況を作り出すというのは難しい。
だから、必要なのは狙撃される前、
正確には狙撃手の気配を察しその引き金を引く瞬間に回避する、という技能であり、吾妻玲二はそれが可能な存在である。
その吾妻玲二にして、第一撃の気配は、感じ取れなかった。
いや、正確には感じ取ることは出来たのだ。だがそれは、引き金を引く瞬間ではなく、引き金が『引かれた』瞬間。
限界までに磨き上げられたファントムの能力を持ってしても、
既に回避不可能な時になって、ようやく吾妻玲二は己が狙撃されているという事実に気付いたのだ。
遅い。
あまりにも遅すぎる感知。
だから、その一撃が吾妻玲二の脳髄を打ち砕くでなく、頬に切り傷を刻む程度のもので済んだのは、偶然ではなく、必然。
無論、回避不可能であったはずの玲二にとっての必然ではなく。
さりとて、最初から初弾で仕留める予定であった狙撃手にとっての必然でもなく。
言葉にするなら、この戦場が用意された時点で生み出されていた、必然。
狙撃手の引き金が引かれる前、一秒の半分にも満たない時間だけ、前に、
無論、回避不可能であったはずの玲二にとっての必然ではなく。
さりとて、最初から初弾で仕留める予定であった狙撃手にとっての必然でもなく。
言葉にするなら、この戦場が用意された時点で生み出されていた、必然。
狙撃手の引き金が引かれる前、一秒の半分にも満たない時間だけ、前に、
玲二が『別の理由によって』動き出していたからに、他ならない。
狙撃手の技量の高さへの驚愕を感じながらも、玲二は一歩目を踏み出す。
何故なら、そうしなければ、必然的な死が待っているのだから。
無論、その場所に居続ければ、狙撃手の次弾が今度こそ玲二を射抜くだろう。
だが、それよりも前に訪れる必然、狙撃手の気配よりも前に、玲二が動くことになった理由。
狙撃手のものとは異なる銃声が鳴り、玲二の居た地点に弾丸が突き刺さる。
何故なら、そうしなければ、必然的な死が待っているのだから。
無論、その場所に居続ければ、狙撃手の次弾が今度こそ玲二を射抜くだろう。
だが、それよりも前に訪れる必然、狙撃手の気配よりも前に、玲二が動くことになった理由。
狙撃手のものとは異なる銃声が鳴り、玲二の居た地点に弾丸が突き刺さる。
敵は、『二人』
駆け寄る小柄な影に目をやりながら、予め持っていたM16をセミオートで乱射。
スコープに目をやる余裕が無いが、それでもおおまかな弾道は身体が覚えこんでいる。
目標は狙撃手ではない、元より咄嗟の事ゆえに、狙撃手の位置確認には失敗している。
だがその事実を悔やむ間もなく、咄嗟に身を翻す。一秒前まで玲二の体のあった地点を、襲撃者の次弾が通過する。
既に彼我の距離は70mも無い、動きを止めることは死に直結する至近距離と言っていいだろう。
故に前進を止めずに再び銃撃。
元よりセミオート故、正確に狙いを付けた訳では無いが、それでも彼我の距離を考えれば、目標の1M圏内に纏まるであろう技量による弾幕。
それが、確実に回避される。
それも、左右に避けるどころか、一秒で10mを踏破する速度で接近しながら、だ。
それでいて、その相手は確実に、玲二の動きを捕捉している。
スコープに目をやる余裕が無いが、それでもおおまかな弾道は身体が覚えこんでいる。
目標は狙撃手ではない、元より咄嗟の事ゆえに、狙撃手の位置確認には失敗している。
だがその事実を悔やむ間もなく、咄嗟に身を翻す。一秒前まで玲二の体のあった地点を、襲撃者の次弾が通過する。
既に彼我の距離は70mも無い、動きを止めることは死に直結する至近距離と言っていいだろう。
故に前進を止めずに再び銃撃。
元よりセミオート故、正確に狙いを付けた訳では無いが、それでも彼我の距離を考えれば、目標の1M圏内に纏まるであろう技量による弾幕。
それが、確実に回避される。
それも、左右に避けるどころか、一秒で10mを踏破する速度で接近しながら、だ。
それでいて、その相手は確実に、玲二の動きを捕捉している。
最初の位置に刺さった、一撃目。
牽制の、二撃目。
そして、玲二の動きを読みきった、三撃目と四撃目。
既にこの一瞬の内の動きは肉体の構造上の限界に達しており、次の瞬間までは大きな移動は出来ない。
頭蓋骨は意外に硬く、丸みを帯びている為、拳銃の弾速では角度によっては即死を免れることもある。
故に、襲撃者の両の手より同時に放たれた二発の銃弾は、玲二の胴体に突き刺さる。
既にこの一瞬の内の動きは肉体の構造上の限界に達しており、次の瞬間までは大きな移動は出来ない。
頭蓋骨は意外に硬く、丸みを帯びている為、拳銃の弾速では角度によっては即死を免れることもある。
故に、襲撃者の両の手より同時に放たれた二発の銃弾は、玲二の胴体に突き刺さる。
「ぐっ!」
戦闘が始まってから数秒、この場において初めての銃声以外の音が、玲二の口から漏れる。
右の肩甲骨付近に、二発。
装備している防弾チョッキの効能で致命傷にはなっていないが、それでも骨に響く。
だが、それでも止まるわけにはいかない。
一瞬が過ぎ、玲二の肉体が稼動しだす時には、既に襲撃者は次の銃弾を放ってくるだろう。
右の肩甲骨付近に、二発。
装備している防弾チョッキの効能で致命傷にはなっていないが、それでも骨に響く。
だが、それでも止まるわけにはいかない。
一瞬が過ぎ、玲二の肉体が稼動しだす時には、既に襲撃者は次の銃弾を放ってくるだろう。
しかし、玲二の予感した一撃は訪れない。
その代わりというかのように、狙撃手の二撃目が、やはり玲二には感知できないまま、玲二のいた場所に突き刺さる。
それでも、今度は狙撃地点は取れた。100mにも満たない程の近距離、反撃も可能な位置。
だからと、同じ方向にいる襲撃者と狙撃手に向けて、残る弾丸を乱雑に撃ち尽くす。
精密な狙いを付けずに掃射される面制圧は、だからこそ逆に回避は困難。
それゆえ襲撃者は一旦下り、狙撃手も位置を変えた事で、一度仕切り直しとなる。
その代わりというかのように、狙撃手の二撃目が、やはり玲二には感知できないまま、玲二のいた場所に突き刺さる。
それでも、今度は狙撃地点は取れた。100mにも満たない程の近距離、反撃も可能な位置。
だからと、同じ方向にいる襲撃者と狙撃手に向けて、残る弾丸を乱雑に撃ち尽くす。
精密な狙いを付けずに掃射される面制圧は、だからこそ逆に回避は困難。
それゆえ襲撃者は一旦下り、狙撃手も位置を変えた事で、一度仕切り直しとなる。
仕切りなおし、といっても、ルールのある試合ではない。
今すぐ再開されるかもしれないし、意外に長い時間休憩することになるかもしれない。
無論、玲二としては長期戦に持ち込みたい理由など欠片も無い。
ここでのんびりしている訳にはいかないし、ファントムという戦力が性質上、攻勢に特化しているという事もある。
他方、相手側からしても、この場所からの玲二の侵入はやはり想定外だったらしく、
狙撃陣地が構築されている訳でもないので、持久戦に持ち込むのは難しい。
今すぐ再開されるかもしれないし、意外に長い時間休憩することになるかもしれない。
無論、玲二としては長期戦に持ち込みたい理由など欠片も無い。
ここでのんびりしている訳にはいかないし、ファントムという戦力が性質上、攻勢に特化しているという事もある。
他方、相手側からしても、この場所からの玲二の侵入はやはり想定外だったらしく、
狙撃陣地が構築されている訳でもないので、持久戦に持ち込むのは難しい。
だから、この場は間違いなく短期決戦になる。
防弾チョッキ以外に防御手段も無く、身を隠す場所も無い。
先の接触で、相手の力量も知れた。1対1でも勝ちを拾える確率はそう高くない相手が2人。
一瞬の気の緩みが己の死に繋がるこの状況下、行動を停止することは自殺行為である。
相手に狙撃手がいる以上後退するのは不可能、何より他に侵入経路は存在しない。
先の接触で、相手の力量も知れた。1対1でも勝ちを拾える確率はそう高くない相手が2人。
一瞬の気の緩みが己の死に繋がるこの状況下、行動を停止することは自殺行為である。
相手に狙撃手がいる以上後退するのは不可能、何より他に侵入経路は存在しない。
無論、そんな段階を踏んだ思考をしている余裕は、玲二には無い。
思考ではなく、感覚で理解し、ある意味では無謀に近い突撃を執り行う。
ポケットから換えのマガジンを取り出し、M16の弾丸を補充。武装を変更する余裕は無い。
元より、あの二人を相手にして他の武装を取る理由も無い。
数で劣る以上、突撃銃の優位を捨てて命中を取る事は出来無いし、面制圧に優れるエクスカリバーMk2は速度と弾数で劣る。
思考ではなく、感覚で理解し、ある意味では無謀に近い突撃を執り行う。
ポケットから換えのマガジンを取り出し、M16の弾丸を補充。武装を変更する余裕は無い。
元より、あの二人を相手にして他の武装を取る理由も無い。
数で劣る以上、突撃銃の優位を捨てて命中を取る事は出来無いし、面制圧に優れるエクスカリバーMk2は速度と弾数で劣る。
投げ捨てた空のマガジンが数メートル後方の床に落ち、それが立てる高い音を聞きながら、玲二は僅かに思考する。
既に襲撃者は此方に向かい突撃を開始し、狙撃手の銃弾も恐らくは数秒の内に放たれる。
思考する余裕など見出せない状況の中で、それでも思考する。
既に襲撃者は此方に向かい突撃を開始し、狙撃手の銃弾も恐らくは数秒の内に放たれる。
思考する余裕など見出せない状況の中で、それでも思考する。
これは、どういうことなのだ、と。
陣地の制圧には、面の打撃力が必要となる。
無論、決定的な局面を決定付けるのは、点の突撃力なのだが、そもそもその局面に至るのに打撃力は必要不可欠なのだ。
相手の陣地に、蟻の一穴を開ける一矢も、それでけでは単なる集中攻撃の的でしかない。
敵陣全体の力を削り、それによる点の強弱を生み出し、突撃地点を決定付ける圧倒的な打撃力こそが、真に必要。
無論、決定的な局面を決定付けるのは、点の突撃力なのだが、そもそもその局面に至るのに打撃力は必要不可欠なのだ。
相手の陣地に、蟻の一穴を開ける一矢も、それでけでは単なる集中攻撃の的でしかない。
敵陣全体の力を削り、それによる点の強弱を生み出し、突撃地点を決定付ける圧倒的な打撃力こそが、真に必要。
最も、玲二自身もその辺りは殆ど座学でしか知らない。
軍隊にいた経験などある筈も無く、強固な陣地への突撃経験も殆ど無い。
そもそも、多数の相手に突撃せざるを得ないような状況を生み出してしまうこと自体が、暗殺者としては落第だ。
狙撃、変装、買収、偽情報、予めの仕掛けによる面爆破、堅実かつ確実な方法などいくらでもある。
そういう観点で言うならば、今この場での玲二は、ファントムとしては落第であろう。
だが、ファントムとしては落第だからこそ、今この状況で戦えている。
軍隊にいた経験などある筈も無く、強固な陣地への突撃経験も殆ど無い。
そもそも、多数の相手に突撃せざるを得ないような状況を生み出してしまうこと自体が、暗殺者としては落第だ。
狙撃、変装、買収、偽情報、予めの仕掛けによる面爆破、堅実かつ確実な方法などいくらでもある。
そういう観点で言うならば、今この場での玲二は、ファントムとしては落第であろう。
だが、ファントムとしては落第だからこそ、今この状況で戦えている。
ファントムで無くなった後の日々。
当ての無い旅を続け、下調べも不十分に、多数の敵への突撃を繰り返す。
心では死に場所を求めているのに、技巧を刻み込まれた身体は、何時しか自然と対処法を学んでいく。
完成されていた頃の玲二ならば、この場は逃げを打っていただろう。
既に奇襲でも何でもなくなった攻撃に、不足しがちな打撃力。身を隠す遮蔽物も無く、乱戦に持ち込むにも難しい戦況。
敵は玲二と同じかそれ以上の力量の相手が二人。 しかも待ち構えている場所への突撃など、無謀以外の何者でもない。
当ての無い旅を続け、下調べも不十分に、多数の敵への突撃を繰り返す。
心では死に場所を求めているのに、技巧を刻み込まれた身体は、何時しか自然と対処法を学んでいく。
完成されていた頃の玲二ならば、この場は逃げを打っていただろう。
既に奇襲でも何でもなくなった攻撃に、不足しがちな打撃力。身を隠す遮蔽物も無く、乱戦に持ち込むにも難しい戦況。
敵は玲二と同じかそれ以上の力量の相手が二人。 しかも待ち構えている場所への突撃など、無謀以外の何者でもない。
それでも、玲二は前に進む。
後退するための一時的な前進ではなくて、明確な前進。
確かに、玲二にはこの場で退くことの出来ない理由がある。
突撃のタイミングを合わせている以上、ここで玲二が退けばそのシワ寄せは他の連中に降りかかる事になる。
最初の牽制でも何でもない一撃から考えると、主催者側が此方を殺せないというアドバンテージは、もう存在しないと考えていいだろう。
玲二が退けば、眼前の敵が他の連中に襲い掛かるという可能性もある。
この敵の力量で本気で殺しに掛かられたら、生き残れるのは何人居るかだ。
確かに、玲二にはこの場で退くことの出来ない理由がある。
突撃のタイミングを合わせている以上、ここで玲二が退けばそのシワ寄せは他の連中に降りかかる事になる。
最初の牽制でも何でもない一撃から考えると、主催者側が此方を殺せないというアドバンテージは、もう存在しないと考えていいだろう。
玲二が退けば、眼前の敵が他の連中に襲い掛かるという可能性もある。
この敵の力量で本気で殺しに掛かられたら、生き残れるのは何人居るかだ。
だが、それらは玲二が無謀な突撃を行っていい理由にはならない。
玲二の目的とは、まず玲二自身が生き残らなければ果たされる物では無い。
加えて、他の連中も何人か……九条むつみやウェストらこの地からの脱出に必要な人間を除けば、死なれて困る訳でもない。
個人的に何人か、死なれたら目覚めが悪いのが居ないわけでも無いが、それでも目的と秤に掛ける程では無い。
玲二の目的とは、まず玲二自身が生き残らなければ果たされる物では無い。
加えて、他の連中も何人か……九条むつみやウェストらこの地からの脱出に必要な人間を除けば、死なれて困る訳でもない。
個人的に何人か、死なれたら目覚めが悪いのが居ないわけでも無いが、それでも目的と秤に掛ける程では無い。
それでも、玲二は前に進む。
前に、『進んでしまっている』
言うまでも無く、吾妻玲二は最強の名を冠された暗殺者、ファントムだ。
魔術やチャイルドと言った絶対的なアドバンテージを抜きにして考えた場合、
玲二が越えられないのならば、この場を参加者が越えるのは不可能であると言えるだろう。
だが、それがそもそもおかしい。
進む理由など無い、そのはずなのに、だ。
魔術やチャイルドと言った絶対的なアドバンテージを抜きにして考えた場合、
玲二が越えられないのならば、この場を参加者が越えるのは不可能であると言えるだろう。
だが、それがそもそもおかしい。
進む理由など無い、そのはずなのに、だ。
考えるというレベルに達していない玲二の無意識の思考を遮るように、軽めの足音を立てながら襲撃者が迫る。
作り物のような、いや、恐らくは真に作り物の表情に何ひとつ変化を起こさないままに。
その速度は玲二と殆ど変わらない、いやと比べると装備の軽さの分、速いくらいだ。
駆け寄る襲撃者を視界から外さないようにしながらも、狙撃手の位置を探る。
襲撃者の拳銃の口径ならば、よほど当たり所が悪くなければ対処は可能、だが狙撃手はそうはいかないからだ。
ライフル弾ならば、仮に防弾チョッキの部位であっても貫通し、致命傷を与えてくる。
肩や首を掠る程度でもその衝撃は楽に脳震盪を起こし得る威力があり、先ほどの切り傷程度など奇跡に近い領域の軽症だ。
だから、狙撃手から目を逸らすわけにはいかない。
並みの狙撃手なら撃つ気配である程度対処できるが、この相手は目を逸らせば即、死に至る。
視界の隅に僅かに映る、ライフルを持ちながらポジションの移動をしている狙撃手、襲撃者と同じ顔を持つ少年。
やはり、その顔には能面のように何の表情も浮いていない。
その表情を目にして、玲二は敵の正体を知る。
いや、既に漠然とした理解は玲二の中に存在してはいた、
ただ、その表情が、
出会ったばかりの頃の深優・グリーアを連想させるその表情が、
ようやく、明確な文字を玲二の脳裏に浮かび上げる。
戦闘用アンドロイド。
常人を遥かに越える身体能力を持つ、兵器。
作り物のような、いや、恐らくは真に作り物の表情に何ひとつ変化を起こさないままに。
その速度は玲二と殆ど変わらない、いやと比べると装備の軽さの分、速いくらいだ。
駆け寄る襲撃者を視界から外さないようにしながらも、狙撃手の位置を探る。
襲撃者の拳銃の口径ならば、よほど当たり所が悪くなければ対処は可能、だが狙撃手はそうはいかないからだ。
ライフル弾ならば、仮に防弾チョッキの部位であっても貫通し、致命傷を与えてくる。
肩や首を掠る程度でもその衝撃は楽に脳震盪を起こし得る威力があり、先ほどの切り傷程度など奇跡に近い領域の軽症だ。
だから、狙撃手から目を逸らすわけにはいかない。
並みの狙撃手なら撃つ気配である程度対処できるが、この相手は目を逸らせば即、死に至る。
視界の隅に僅かに映る、ライフルを持ちながらポジションの移動をしている狙撃手、襲撃者と同じ顔を持つ少年。
やはり、その顔には能面のように何の表情も浮いていない。
その表情を目にして、玲二は敵の正体を知る。
いや、既に漠然とした理解は玲二の中に存在してはいた、
ただ、その表情が、
出会ったばかりの頃の深優・グリーアを連想させるその表情が、
ようやく、明確な文字を玲二の脳裏に浮かび上げる。
戦闘用アンドロイド。
常人を遥かに越える身体能力を持つ、兵器。
それが、二体。
予感が、あった。
……いつからか?
一秒前かもしれないし、一分以上前からかもしれない。
最初の一撃を受けた時か、それともこの地下道に入った時からか。
ホテルでの作戦会議の時かもしれないし、あるいはそれよりもずっと前からか。
一秒前かもしれないし、一分以上前からかもしれない。
最初の一撃を受けた時か、それともこの地下道に入った時からか。
ホテルでの作戦会議の時かもしれないし、あるいはそれよりもずっと前からか。
銃火が薄暗い地下道に瞬き、硝煙の香りが少しずつ濃さを増す。
金属のぶつかりによって生まれる歪みの音が鳴り響き、喧騒が世界を覆う。
歩みを止めれば一秒と掛からずに屍となる空間。
徐々に激しさを増す心臓の鼓動が、未だに自身が生あるものだと告げる。
金属のぶつかりによって生まれる歪みの音が鳴り響き、喧騒が世界を覆う。
歩みを止めれば一秒と掛からずに屍となる空間。
徐々に激しさを増す心臓の鼓動が、未だに自身が生あるものだと告げる。
受け手に周る事は許されない。
それは、即ち敗北を意味するのだから。
盾と矛は同等だが、盾と銃は同等ではない。
ましてや盾の無い、攻撃同士のぶつかり合い。
攻撃を止めるということは、己の武器を放棄するということだ。
それは、即ち敗北を意味するのだから。
盾と矛は同等だが、盾と銃は同等ではない。
ましてや盾の無い、攻撃同士のぶつかり合い。
攻撃を止めるということは、己の武器を放棄するということだ。
走り、伏せ、回り、跳ぶ。
持ちうる限りの技巧を尽くし、前に進む。
この状況においては、後退以外は前進と同等だ。
生きて、動いている限りは全ては攻撃の一動作と成りうるのだから。
それが高槻やよいどころか、羽藤柚明の徒競走にすら負けるほどの時間が掛かっているとしても、だ。
持ちうる限りの技巧を尽くし、前に進む。
この状況においては、後退以外は前進と同等だ。
生きて、動いている限りは全ては攻撃の一動作と成りうるのだから。
それが高槻やよいどころか、羽藤柚明の徒競走にすら負けるほどの時間が掛かっているとしても、だ。
(……19、20)
速射状態のM16の弾丸が尽きる。
残りの段数は常に把握しているので弾切れを焦る事は無いが、
残りの段数は常に把握しているので弾切れを焦る事は無いが、
「チッ」
その瞬間を狙い済ましたかのように、いや、間違いなく残弾を把握した上で襲撃者が迫る。
僅かに右側、一瞬間までいた場所に弾丸が突き刺さる。 足を止める暇すらない。
弾幕を切らせばすぐさま押し込まれるの事はとうに理解している。
M16を右脇に挟み、右手のみでマガジンの交換作業を行なう傍ら、左手に構えたSIG SAUER P226で狙撃手に牽制を与える。
僅かに右側、一瞬間までいた場所に弾丸が突き刺さる。 足を止める暇すらない。
弾幕を切らせばすぐさま押し込まれるの事はとうに理解している。
M16を右脇に挟み、右手のみでマガジンの交換作業を行なう傍ら、左手に構えたSIG SAUER P226で狙撃手に牽制を与える。
自身への攻勢が一瞬完全に途絶えた事を察した襲撃者が迫るが、足で地を蹴り小石を撒き散らして牽制。
稼いだ一瞬で交換を終えたM16を再び構えなおし、弾幕を仕掛ける。
だが、その移り変わる刹那、
稼いだ一瞬で交換を終えたM16を再び構えなおし、弾幕を仕掛ける。
だが、その移り変わる刹那、
「ぐっ」
襲撃者の放った二発の弾丸の内一発が、腿の前部を掠める。
歩くのに支障の無い部位だ、気にする必要は無い。
そうして、弾幕を形成しようとした瞬間、3回目の引き金を引こうとした瞬間。
全力で、左に転がる。
ギリギリで回避出来た凶弾、数えて5発目の狙撃が通り過ぎる。
歩くのに支障の無い部位だ、気にする必要は無い。
そうして、弾幕を形成しようとした瞬間、3回目の引き金を引こうとした瞬間。
全力で、左に転がる。
ギリギリで回避出来た凶弾、数えて5発目の狙撃が通り過ぎる。
(どういう、ことだ)
そういう事があると、聞いてはいた。
だが、例え聞いていなかったとしても、見間違える筈が無い。
それでも、問わずにはいられない。
だが、例え聞いていなかったとしても、見間違える筈が無い。
それでも、問わずにはいられない。
狙撃手の能力
結局、完全に学びきることの出来なかった狙撃能力。
結局、完全に学びきることの出来なかった狙撃能力。
襲撃者の能力
見い出し、その発展系をこの島で見る事になった戦闘能力。
見い出し、その発展系をこの島で見る事になった戦闘能力。
疑いようもない。
この敵は…………ファントムだ。
地を這う凶弾
ファントム・アインと
走り寄る影
キャル、……いやファントム・ドライを用いた、戦闘兵器。
それが、この場所を守る、敵の正体。
「これが……」
……思わず、問いただしたくなる。
だが、そのような躊躇など許される筈もなく、立ち上がる動作の中で既に撃ち始める。
その状況であっても射撃能力に衰えは無いが、それでもまるで当る気配は無い。
当然だ、既に襲撃者、いやドライ´は右側に前進している。
その状況から攻撃されれば、アイン´とドライ´の十字砲火を受ける事になる。
だから一瞬だけ狙撃手、アイン´の存在を忘れる事にする。
ドライ´に残りの銃弾を使い尽くす勢いで連射を行い、どうやら防弾装備でないドライ´はそれでようやく後退する。
その速度に遅れを取らないように追随する。離れればまたアイン´の狙撃が来る。
走りながら、まだ僅かに弾の残るM16のマガジンを交換する。P226の出番は無かった。
だが、そのような躊躇など許される筈もなく、立ち上がる動作の中で既に撃ち始める。
その状況であっても射撃能力に衰えは無いが、それでもまるで当る気配は無い。
当然だ、既に襲撃者、いやドライ´は右側に前進している。
その状況から攻撃されれば、アイン´とドライ´の十字砲火を受ける事になる。
だから一瞬だけ狙撃手、アイン´の存在を忘れる事にする。
ドライ´に残りの銃弾を使い尽くす勢いで連射を行い、どうやら防弾装備でないドライ´はそれでようやく後退する。
その速度に遅れを取らないように追随する。離れればまたアイン´の狙撃が来る。
走りながら、まだ僅かに弾の残るM16のマガジンを交換する。P226の出番は無かった。
余力が生まれた事で、思考が再開される。
本来そのような事はしないが、それでもつい考えてしまう。
本来そのような事はしないが、それでもつい考えてしまう。
(無様なものだ)
走りながら、思考する。
これを無様と言わずに何というのか。
これを無様と言わずに何というのか。
当る事の無い銃弾。
止まる事の無い進撃。
無駄に消費される弾薬。
ただ無意味に響き渡る轟音。
徒労としか言いようの無い迎撃。
その全てを、無様と呼ぶしかない。
止まる事の無い進撃。
無駄に消費される弾薬。
ただ無意味に響き渡る轟音。
徒労としか言いようの無い迎撃。
その全てを、無様と呼ぶしかない。
(これが)
疑いようはない
(こんな)
最初から予感はあった。
(こんなものが)
撃たれたときから、見覚えがあった。
(こんなものが、ファントムの戦いだと?)
こんな、二人がかりで、ファントム崩れひとり殺せないような、無様な、代物が……ファントムだと?
玲二は、普通の人間である。
撃たれれば血が出るし、その欠損は確実に肉体の動きを損なう。
致命傷を上手く避け続けたところで、待つのが出血多量による死であることは変わらないし、そもそも足でも射抜かれればそこで勝負ありだ。
戦闘開始した距離は100m程度。
双方の技量と得物からすれば至近距離である。故に高速で行なわれる戦闘は開始してから未だ一分と経過してはいない。
だが、そもそも一分あれば充分すぎる筈なのだ。
ファントムである玲二と、それに互する相手が二人。
遮蔽物の無い真っ直ぐな通路に、お互い身を隠す装備も無い。
遅滞防御を目的とした足止め目当ての戦場で無い、明確な撃ち合い。
フルオートを用いずとも、双方合わせれば100を越える弾丸を楽に放てるだけの時間。
この状況で、未だに決着が付いていないというのは、明らかに異常であると言える。
撃たれれば血が出るし、その欠損は確実に肉体の動きを損なう。
致命傷を上手く避け続けたところで、待つのが出血多量による死であることは変わらないし、そもそも足でも射抜かれればそこで勝負ありだ。
戦闘開始した距離は100m程度。
双方の技量と得物からすれば至近距離である。故に高速で行なわれる戦闘は開始してから未だ一分と経過してはいない。
だが、そもそも一分あれば充分すぎる筈なのだ。
ファントムである玲二と、それに互する相手が二人。
遮蔽物の無い真っ直ぐな通路に、お互い身を隠す装備も無い。
遅滞防御を目的とした足止め目当ての戦場で無い、明確な撃ち合い。
フルオートを用いずとも、双方合わせれば100を越える弾丸を楽に放てるだけの時間。
この状況で、未だに決着が付いていないというのは、明らかに異常であると言える。
そもそも、最初の一撃が『外れる筈が無い』のだ。
偶然による回避ならともかく、あれは必然だった。
アイン´による必然でも、玲二の必然でもなく、第三者、ドライ´の介入による、必然。
第三者の介入というと偶然の部類に入るが、この第三者は、この場に居るのが必然であった相手だ。
アイン´の能力に不安が残るが故に、最初の一撃は牽制で、ドライ´が本命という段取りであったなら、判らなくも無い。
確かに、ドライの技量は特筆に価する。
純粋な人間に、技量で遅れを取ったのはこの島では二度目だろうか。
だが、その遅れは敵であるはずのアイン´によって、取り戻された。
偶然による回避ならともかく、あれは必然だった。
アイン´による必然でも、玲二の必然でもなく、第三者、ドライ´の介入による、必然。
第三者の介入というと偶然の部類に入るが、この第三者は、この場に居るのが必然であった相手だ。
アイン´の能力に不安が残るが故に、最初の一撃は牽制で、ドライ´が本命という段取りであったなら、判らなくも無い。
確かに、ドライの技量は特筆に価する。
純粋な人間に、技量で遅れを取ったのはこの島では二度目だろうか。
だが、その遅れは敵であるはずのアイン´によって、取り戻された。
明らかに、噛み合っていない。
アイン一人だけなら、既に脳漿を流すだけのオブジェになっている。
キャル一人だけなら、今頃は糸の切れたマリオネットのようになっている。
それなのに、何故二人で来た?
ドライ´が動かなければ。
アイン´が、最初の一撃以降牽制に徹していれば。
それだけのことで。
たったそれだけのことが出来ていれば、すでにとうにカタが付いていたのに。
キャル一人だけなら、今頃は糸の切れたマリオネットのようになっている。
それなのに、何故二人で来た?
ドライ´が動かなければ。
アイン´が、最初の一撃以降牽制に徹していれば。
それだけのことで。
たったそれだけのことが出来ていれば、すでにとうにカタが付いていたのに。
相手は連携がまるでとれていない。
ホンの僅かでもとれていればそれで充分なのに。
充分に俺を殺せるだけの技量を持っているのに、自分たちでソレを無駄にしてしまっている。
ホンの僅かでもとれていればそれで充分なのに。
充分に俺を殺せるだけの技量を持っているのに、自分たちでソレを無駄にしてしまっている。
無様を生み出しながら、三度目の突撃をドライ´が慣行する。
もはや大きな動作は必要ない、最小限度の動きで事足りる。
その間にM16をディパックに収め、ゆうゆうとベレッタに持ち換える。
ドライ’の位置を調整し、アイン´の射線上に来るように誘導する。
そうしてアイン´を封じておきながら、ドライ´が攻撃に移るタイミングを見計らって、アイン´の射線上に半歩だけ踏み出す。
ドライ´がその動きに合わせて狙いを向けようとしたところに、アイン´の狙撃が割り込み、ドライ´がバランスを崩してたたらを踏む。
その機を逃さずドライ´に両手で一発ずつ撃ちこむ。無論、既にアイン´の射線からは再び身を隠してある。
狙いは、わき腹と内腿。
どちらも狙い余さず、ドライ´が僅かによろめく。
そして、後退、その動きには不自然なところは見られない。
動くのに支障の無い部分を掠めるように、あえて狙ったのだから当然だ。
そして、そのドライ´を追い、前に出る。
もはや大きな動作は必要ない、最小限度の動きで事足りる。
その間にM16をディパックに収め、ゆうゆうとベレッタに持ち換える。
ドライ’の位置を調整し、アイン´の射線上に来るように誘導する。
そうしてアイン´を封じておきながら、ドライ´が攻撃に移るタイミングを見計らって、アイン´の射線上に半歩だけ踏み出す。
ドライ´がその動きに合わせて狙いを向けようとしたところに、アイン´の狙撃が割り込み、ドライ´がバランスを崩してたたらを踏む。
その機を逃さずドライ´に両手で一発ずつ撃ちこむ。無論、既にアイン´の射線からは再び身を隠してある。
狙いは、わき腹と内腿。
どちらも狙い余さず、ドライ´が僅かによろめく。
そして、後退、その動きには不自然なところは見られない。
動くのに支障の無い部分を掠めるように、あえて狙ったのだから当然だ。
そして、そのドライ´を追い、前に出る。
ドライ´を仕留めるのは簡単だが、そうなると今度はアイン´を相手するのが難しくなる。
だからダメージだけ与えて後退させた。殺してしまっては盾にならない可能性がある。
ダメージが低い箇所を狙ったのは、単に敵が負傷時にどんな対応をするかが未知数だっただけの事。
走るのにも支障が無いようにしたのは、負傷した速度に合わせると時間がロスするから。
だからダメージだけ与えて後退させた。殺してしまっては盾にならない可能性がある。
ダメージが低い箇所を狙ったのは、単に敵が負傷時にどんな対応をするかが未知数だっただけの事。
走るのにも支障が無いようにしたのは、負傷した速度に合わせると時間がロスするから。
お互いの連携など、考えられるように出来ていないのは明白だ。
決められた命令、この場合は俺を殺すこと、のみ考えて向かってくる。
だから、お互い邪魔しあっている。
ドライ’が射線上にいればアイン’は撃てない。
それでも遮二無二命令に従う為に、隙を見つければ考えずに撃ち、それがドライ´の行動を妨げる。
これがもしアインならば、俺がドライ’を盾にしていると理解した上で、その上で俺の行動を読み取って撃ってくるだろう。
決められた命令、この場合は俺を殺すこと、のみ考えて向かってくる。
だから、お互い邪魔しあっている。
ドライ’が射線上にいればアイン’は撃てない。
それでも遮二無二命令に従う為に、隙を見つければ考えずに撃ち、それがドライ´の行動を妨げる。
これがもしアインならば、俺がドライ’を盾にしていると理解した上で、その上で俺の行動を読み取って撃ってくるだろう。
キャル、いやドライ´の近接能力は確かに高い。
だが、いくら高い能力を持とうとそれを生かせなければ意味が無い。
キャルの能力は天性のものだ。それをいくらコピーしたとしても真似など出来ない。
なるほど、確かに身体能力は深優同様大したものだ。素の能力なら俺はおろかキャルを上回っている。
だが、それだけだ。
だが、いくら高い能力を持とうとそれを生かせなければ意味が無い。
キャルの能力は天性のものだ。それをいくらコピーしたとしても真似など出来ない。
なるほど、確かに身体能力は深優同様大したものだ。素の能力なら俺はおろかキャルを上回っている。
だが、それだけだ。
キャルの動作は、あくまでキャルにとっての最適動作でしかない。
キャルの天才性によって生み出されたファントム・ドライの能力は、キャル自身でなければ生かせない。
だから結果として、ほんの少し、一秒の数分の一にも満たない時間だが、動作に乱れが生じる。
そこを利用すれば、簡単にあしらえる。
キャルの天才性によって生み出されたファントム・ドライの能力は、キャル自身でなければ生かせない。
だから結果として、ほんの少し、一秒の数分の一にも満たない時間だが、動作に乱れが生じる。
そこを利用すれば、簡単にあしらえる。
……カタログスペックだけを過信するからこうなる。
俺以上の、ファントムシリーズの中で最高の精度を持つアインの狙撃技術。
天分の才による、圧倒的の一言に尽きる、ドライの突撃力。
それを、深優に匹敵する能力のアンドロイドに搭載すれば、確かに俺を遥かに超える強力な兵装になると思えるだろう。
天分の才による、圧倒的の一言に尽きる、ドライの突撃力。
それを、深優に匹敵する能力のアンドロイドに搭載すれば、確かに俺を遥かに超える強力な兵装になると思えるだろう。
ああ、確かにその発想自体は悪くない。
だが、なら何だこの体たらくは。
だが、なら何だこの体たらくは。
連携の欠片も無いバラバラな攻撃。
本来なら俺が気付いていようとも避けきれないアインの狙撃技術は、ドライ´の無謀な突撃によって感知され、
その後もドライ´に当ることを恐れてか、散発的な攻撃しか出来ない。
そしてその散発的な攻撃は、ドライの動きを妨げ、結果として致命的な隙を生んでいる。
最初の一度目は散発的な反撃をしつつ見送る事しか出来なかった。
だが二度目は確実に狙い打つだけの余裕はあった。
三度目ともなれば、手足の二本も撃ちぬけるほどに。
本来なら俺が気付いていようとも避けきれないアインの狙撃技術は、ドライ´の無謀な突撃によって感知され、
その後もドライ´に当ることを恐れてか、散発的な攻撃しか出来ない。
そしてその散発的な攻撃は、ドライの動きを妨げ、結果として致命的な隙を生んでいる。
最初の一度目は散発的な反撃をしつつ見送る事しか出来なかった。
だが二度目は確実に狙い打つだけの余裕はあった。
三度目ともなれば、手足の二本も撃ちぬけるほどに。
だが、あえて見逃す。
盾のない状況でアイン´に近寄るのが困難ということもあるが、それよりももっと許しがたい理由で。
盾のない状況でアイン´に近寄るのが困難ということもあるが、それよりももっと許しがたい理由で。
その思惑などまるで知らず、ドライ´は再び此方に向かってくる。
アイン´も、下ろうとはせず、取り回しに不自由な狙撃銃を構えたまま此方の隙を伺うのみ。
もはや、彼我の距離は二秒と掛からないほどの縮まっている。
最初の位置から考えれば、至近距離としかいいようのない位置。
この状況で、何故まだ無駄な攻撃を行なうのか。
アイン´も、下ろうとはせず、取り回しに不自由な狙撃銃を構えたまま此方の隙を伺うのみ。
もはや、彼我の距離は二秒と掛からないほどの縮まっている。
最初の位置から考えれば、至近距離としかいいようのない位置。
この状況で、何故まだ無駄な攻撃を行なうのか。
これが、仮にもファントムの名を冠する存在か。
無駄な突撃を三度も繰り返しているのに、何故また同じ事しかしない。
ドライ´が時間を稼いでいる間に、アイン´が後方に再び狙撃陣地を構築して、そこから狙い撃ちをしてもいい。
或いは、ここは引いてもいい。
基地内で他の兵に紛れて影から襲われては、進むもものも進めない。
出来損ないとは言え、俺を含む数人以外が相手なら、十二分に殲滅できる戦力をここに無駄に配置しておいてどうする。
外見が同じアンドロイドというなら、他の固体に紛れて攻撃させればどれだけの恐ろしい敵か。
ドライ´が時間を稼いでいる間に、アイン´が後方に再び狙撃陣地を構築して、そこから狙い撃ちをしてもいい。
或いは、ここは引いてもいい。
基地内で他の兵に紛れて影から襲われては、進むもものも進めない。
出来損ないとは言え、俺を含む数人以外が相手なら、十二分に殲滅できる戦力をここに無駄に配置しておいてどうする。
外見が同じアンドロイドというなら、他の固体に紛れて攻撃させればどれだけの恐ろしい敵か。
その程度の判断も出来ないから、ここでこうして、壊れる事になる。
予測ではなく、確定事項だ。
予測ではなく、確定事項だ。
ドライ´は、失敗作だ。
高い身体能力と高い技能の両方を持っていても、それを併せて用いれなければ意味が無い。
身体能力は生かしきれず、技能は再現できない。
結果として、二つの能力がお互いの足を引っ張り、欠点となってしまっている。
改良は、出来まい。
それでいて、単独での突撃を好む。
高い身体能力と高い技能の両方を持っていても、それを併せて用いれなければ意味が無い。
身体能力は生かしきれず、技能は再現できない。
結果として、二つの能力がお互いの足を引っ張り、欠点となってしまっている。
改良は、出来まい。
それでいて、単独での突撃を好む。
どうせ入れるなら深優の能力をコピーすれば良いものを。
能力的にまるで合っていないキャルの能力をコピーしたところでそれは唯の粗悪品だ。
自転車の部品をバイクのに積んだとしても、それは単なるガラクタ。
よしんば動いたとしても、それは無駄に図体が大きく、小回りの効かない自転車でしかない。
そんな適当に作ったものを使ってどうする?
兵器とは、いや道具とは、生み出したものを試し、改良を積み重ねていって始めて使い物になるのだ。
能力の把握出来ていないものを強引に使うからこうなる。
能力的にまるで合っていないキャルの能力をコピーしたところでそれは唯の粗悪品だ。
自転車の部品をバイクのに積んだとしても、それは単なるガラクタ。
よしんば動いたとしても、それは無駄に図体が大きく、小回りの効かない自転車でしかない。
そんな適当に作ったものを使ってどうする?
兵器とは、いや道具とは、生み出したものを試し、改良を積み重ねていって始めて使い物になるのだ。
能力の把握出来ていないものを強引に使うからこうなる。
……だが、アイン´は手を加えれば良い兵器になるだろう。 現時点では状況判断力の無いただの失敗作でしか無いが。
そこはばかりは「あの男」の慧眼と腕を認めざるを得ない。
高い狙撃能力と、裏打ちされた技術の積み重ね。
アインから俺に伝えられた、既に継承された技術。
それをアンドロイドの能力に組み込む事はそんなに難しい事ではない。
そこはばかりは「あの男」の慧眼と腕を認めざるを得ない。
高い狙撃能力と、裏打ちされた技術の積み重ね。
アインから俺に伝えられた、既に継承された技術。
それをアンドロイドの能力に組み込む事はそんなに難しい事ではない。
――玲二の知るよしも無い事だが、異なる世界、キャルがドライと称された世界においての話。
玲二の言うあの男、ファントムの生みの親たるサイス・マスターが、まさに玲二と同じことを言っていた。
アインによって完成した技術は、だがそれだけでは意思無き道具に過ぎず、
それ故、自らの意思で人を殺せる玲二ことツヴァイは更なる完成形として。
だが、それ以上の才能を持つキャルは、逆に高すぎる能力と押さえ切れぬ感情から、ドライの名を与えられながらも失敗作として。
そして、後にアインを元にしたフィーア以下6人のファントムシリーズが完成する。
玲二の言うあの男、ファントムの生みの親たるサイス・マスターが、まさに玲二と同じことを言っていた。
アインによって完成した技術は、だがそれだけでは意思無き道具に過ぎず、
それ故、自らの意思で人を殺せる玲二ことツヴァイは更なる完成形として。
だが、それ以上の才能を持つキャルは、逆に高すぎる能力と押さえ切れぬ感情から、ドライの名を与えられながらも失敗作として。
そして、後にアインを元にしたフィーア以下6人のファントムシリーズが完成する。
ファントムとして作られ、ファントムを育て、ファントムであることを捨てた玲二。
創造主たるサイス・マスターを最も強く憎む玲二が、彼と同じ思考に至ったのは、何かの皮肉と言うしかないだろう。
創造主たるサイス・マスターを最も強く憎む玲二が、彼と同じ思考に至ったのは、何かの皮肉と言うしかないだろう。
最も、そんな考えに意味は無い。
二人とも、此処で壊れるのだから。
二人とも、此処で壊れるのだから。
ただ、壊れたとしても、そこで終わりとは限らない。
無論、そのまま失敗であったと打ち捨てられる事のほうが多いが。
その情報を元に、新たな改良点が見つかることもある。
丁度、戦い破れたものが、そこから這い上がる様にも似ているだろう。
無論、そのまま失敗であったと打ち捨てられる事のほうが多いが。
その情報を元に、新たな改良点が見つかることもある。
丁度、戦い破れたものが、そこから這い上がる様にも似ているだろう。
……そして、改良などさせはしない。
そんなことを、させてやる理由など何処にも無い。
アイン´も、ドライ´も、ここで壊す。
これ以上、存在を許してやるものか。
何が悪いのかとか。
どこを修正すればよいのだとか。
こうすればよかったなどと、何も考える余地も与えられない程に、壊す。
アイン´も、ドライ´も、ここで壊す。
これ以上、存在を許してやるものか。
何が悪いのかとか。
どこを修正すればよいのだとか。
こうすればよかったなどと、何も考える余地も与えられない程に、壊す。
それが、
それが、俺に出来る唯一の手向けだ……アイン。
いつの間にか、玲二とアイン´の距離が、ドライ´のそれと大差の無い位置まで、前進していた。
アイン´は狙撃銃を捨て、拳銃を両手で握り、半身を向け、腰を落とした姿勢で。
ドライ´は二挺の銃をそのままに、変わらぬネコを思わせるしなやかさを見せる姿勢で。
二人同時に、玲二に飛び掛る。
ドライ´は二挺の銃をそのままに、変わらぬネコを思わせるしなやかさを見せる姿勢で。
二人同時に、玲二に飛び掛る。
その光景に、玲二は一瞬対処に迷いを覚える。
対処不可能という迷いではなく、何かしらの感慨を思い起こさせられたのでもない。
ただ、今更になって漸く行動パターンを変えた事に対する、呆れのようなもので。
対処不可能という迷いではなく、何かしらの感慨を思い起こさせられたのでもない。
ただ、今更になって漸く行動パターンを変えた事に対する、呆れのようなもので。
短く溜息を付きながら、玲二は前進する。
丁度、アイン´とドライ´の中間になる位置まで。
一見すると、挟み撃ちにされた危険な状況であるが、実際はそうではない。
玲二に当らなければ、お互いの銃弾がお互いを射抜く位置関係になる為、二人とも撃てない。
一瞬の判断によるものだろう、アイン´は銃を片手に持ち替えて右手でナイフを掴み。
ドライ´は跳躍から延髄を目掛け跳び蹴りを仕掛けてくる。
その思考速度は非常に褒められるものではあるが。
丁度、アイン´とドライ´の中間になる位置まで。
一見すると、挟み撃ちにされた危険な状況であるが、実際はそうではない。
玲二に当らなければ、お互いの銃弾がお互いを射抜く位置関係になる為、二人とも撃てない。
一瞬の判断によるものだろう、アイン´は銃を片手に持ち替えて右手でナイフを掴み。
ドライ´は跳躍から延髄を目掛け跳び蹴りを仕掛けてくる。
その思考速度は非常に褒められるものではあるが。
それも、玲二の予想の範囲でしかない。
命を奪う一撃が2つ、玲二に向けて放たれる、その一瞬前。
“カツン”
と、硬い音が地下道に響く。
それほど大きな音では無いが、それでもアイン´とドライ´の動きが、一瞬だけ停止する。
その機を逃さず、玲二の右手がアイン´に伸びる。
その手にあった筈のベレッタこそ、先ほどの音の原因である。
意図的に自由にしたその右手が、突き出されるアイン´の右手に伸び、その勢いを殺さぬように、玲二の左側に流され、
同時に左手のP226を右側に向ける。
命を奪う一撃が2つ、玲二に向けて放たれる、その一瞬前。
“カツン”
と、硬い音が地下道に響く。
それほど大きな音では無いが、それでもアイン´とドライ´の動きが、一瞬だけ停止する。
その機を逃さず、玲二の右手がアイン´に伸びる。
その手にあった筈のベレッタこそ、先ほどの音の原因である。
意図的に自由にしたその右手が、突き出されるアイン´の右手に伸び、その勢いを殺さぬように、玲二の左側に流され、
同時に左手のP226を右側に向ける。
そして、
アイン´のナイフがドライ’の首筋を切り裂き、
左手に携えた玲二の銃がアイン´の心臓を貫く。
玲二の側に二人から、鮮血が花のように散り、
それで、終わり。
能面のような表情は動かないが、それでもその顔からは血の色が失せ、
能力によって顕現されていた銃は、光の粉となって散った。
左手に携えた玲二の銃がアイン´の心臓を貫く。
玲二の側に二人から、鮮血が花のように散り、
それで、終わり。
能面のような表情は動かないが、それでもその顔からは血の色が失せ、
能力によって顕現されていた銃は、光の粉となって散った。
どのように作ろうと、人としての形を保っている以上、その急所も変わらない。
人を殺すことにのみ特化された道具を相手にすれば、不出来な人が生き残れる筈も無く。
この場で費やされた時間は、普通の兵士二人を足止めに用いたとしても大差の無い程度。
完成された暗殺道具に、粗悪なガラクタをぶつけた、当然の結果。
故に、完成された道具はガラクタを返り見るなど事なく。
人を殺すことにのみ特化された道具を相手にすれば、不出来な人が生き残れる筈も無く。
この場で費やされた時間は、普通の兵士二人を足止めに用いたとしても大差の無い程度。
完成された暗殺道具に、粗悪なガラクタをぶつけた、当然の結果。
故に、完成された道具はガラクタを返り見るなど事なく。
「…………」
無言で、二人の頭部に二発、脊髄とこめかみを正確に打ち抜く。
仕組みなど知らないが、脳を破壊されればそのデータを再現は出来ないだろうから。
それっきり、玲二はもう二人を返り見る事などなく、
仕組みなど知らないが、脳を破壊されればそのデータを再現は出来ないだろうから。
それっきり、玲二はもう二人を返り見る事などなく、
「 」
短い言葉のみ残して、通路の先に消えた。
これで、もう。
今度こそ、再会する事は無い。
その可能性は、断ち切った。
今度こそ、再会する事は無い。
その可能性は、断ち切った。
ふと、思い出が流れる。
キャルと居る時以外の、唯一光る色を持つ記憶。
決して楽しい記憶だけでは無いけれど。
それでも、決して忘れえぬ過去。
二度と帰らざる、想い。
その想いと共に、言葉を、
キャルと居る時以外の、唯一光る色を持つ記憶。
決して楽しい記憶だけでは無いけれど。
それでも、決して忘れえぬ過去。
二度と帰らざる、想い。
その想いと共に、言葉を、
「さようなら……アイン」
出会うことのなかった彼女に、
告げることのなかった別れの言葉を、告げた。
告げることのなかった別れの言葉を、告げた。
LIVE FOR YOU (舞台) 4 | <前 後> | LIVE FOR YOU (舞台) 6 |