八十神高校を去り、あてもなくクラウドが向かった先は、映画館だった。
誰かが中で待ち伏せしていないか、息をひそめて蛇のように静かに忍び込む。
命の気配は感じないが、自分と同じように、気配を消して出方を伺っているのかもしれない。
さらに辺りを見回して、本当に誰もいないことに気付くと、一呼吸付く。
(………。)
緊張がほぐれたのか、どっと疲れが出て、汗も噴き出てきた。
やがて、辺りの風景を見回す余裕が生まれてくる。
そこは、ミッドガルの映画館とはなんら変わりはなかった。
天井近くに置かれている数台のテレビ、スクリーン室への入り口、チケット売り場、ポップコーンボックス、映画のポスター。
どの映画館にもあるものだ。
唯一例外を除けば、入り口の横に趣味の悪い像がでんと構えていることくらい。
一通り脳に新しい情報をインプットし終えると、ふいに過去のことがフラッシュバックする。
レオナールの無念と困惑に満ちた表情
チェレンの悲しい目をしながら、焼き尽くされる姿
紅いカーディガンの少女の、命を使い果たし、血まみれになりながらも強い光にみちていた瞳。
(しっかりしろ……殺人くらい、平気でやってきたじゃないか。)
クラウドの殺人の初舞台はこの地ではない。
かつて仲間と冒険した時から、多くの犠牲を払った上で任務を果たしてきた。
ここで殺害を躊躇ってしまえば、魔晄炉侵入作戦の時に殺害した神羅の警備兵は、魔晄炉爆破で死んだミッドガルの市民はどうなんだということになる。
(……星の命のためだったんだ。 多少の犠牲は仕方なかった)
(多少? 多少ってなんやねんな? アンタにとっては多少でも 死んだ人にとっては、それが全部なんやで……)
いつかの仲間同士の会話
星の命を奪う魔晄炉を爆破していたバレットと、その魔晄炉を都市の開発に組み込んでいたケット・シー。
互いが互いの正義があり、その正義の上での犠牲があった。
あの時自分は反射的に二人の言い争いを止めたが、本当はどう思っていたのだろうか。
大きな目的を達成するためなら、多少の犠牲は必要だ。
それなのになぜ、こんなにも頭にちらつく?
この映画館に、気配を消して隠れている者がいないかと探し回っていた所、売店のカウンター裏にポップコーンのボックスがあった。
食品サンプルかと思いきや、意外にもそれは本物のポップコーンだった。
毒であることも考慮したが、毒ならこんなに隠されたかのように置かれることはない。
『危険な食べ物ではないのでどうぞお取りください』というかのように、見えやすい場所に置いているだろう。
恐らく今の状況は、脳のエネルギーが足りないことも理由の一つだろう。
普段の冒険や神羅兵時代の任務中は、二連戦程度どうともなかった。
しかし、この世界での二度の戦いは、どちらも激闘だった。
自分の想像以上のカロリー消費によって、脳や筋肉が糖分を求めているのだろう。
ポップコーンを鷲掴みにし、口に放り込んでいく。
(誰がこんなものを置いたかは気になるが、意外と気の利くところあるじゃないか。)
口の中に、砂糖と蜂蜜の甘い味が広がる。
やはり短期間の2度の強敵との戦いによる体力の消耗は、予想以上だったようだ。
何度かポップコーンを口の中に詰め込んだ後、ザックから水を取り出して勢いよく飲む。
少し落ち着いた所で、今後の方針を立てる。
最初の放送の時間まで、もう30分もない。
ティファやエアリス、恐らく連れてこられるであろう他の仲間のことも知りたい。
知った所で、目的は変えようがないが。
問題はその先のことだ。
ゲームの経過時間に比例して、脱出を考案する対主催に該当する人々が、徒党を組む可能性が上がる。
だが、ゲームに乗った自分は、この先同盟を組める可能性は低い。
チェレンのように都合よく目的が一致する人に会えたとしても、常に反目を気にしながら戦うことになる。
だから、先回りして、人が集まりやすそうな場所に奇襲を仕掛けるのが妥当だ。
地図を見渡す。
しかし、異様なまでに施設が多く、その中で知ってる名前の施設はカームの町一つしかないので、どうにも的が絞れない。
放送が終われば、人が集まりそうな施設を虱潰しに探していくしかないだろう。
放送が始まるまでの短い時間、この映画館に何か残されていないか、探し回ってみる。
クラウドは今度は映画館の奥に一つだけあった、映写室に入る。
ここも椅子があり、正面に大きなモニターが構えてある、普通の映写室だ。
しかし入ると、急に映画が始まる。
(!?)
映された場所は間違いない。最初に自分達が集められた建物。
もうその場所に参加者はいないが、真ん中にあの少女がいた。
「ラララララララ。天使は踊る。天使は踊るよ。ラララララララララ。」
くるくると回りながら、金髪の少女は意味不明な言葉を呟く。
急に、映像の中のマナと目が合う。
「ちょっと、こんな所でなにしてんのよ!!映画見てる暇があったら、さっさと参加者の一人でも殺してくれば?」
どういうからくりかは知らないが、マナが自分に語り掛けてきた。
「黙れ。」
そんなことを言われなくても、自分は優勝するつもりだ。
モニターを通してまで殺し合いを命令するくらいなら、こんな映画館など最初から建てるなと言いたくなる。
怒りの下に、グランドリオンで映写室の後ろのプロジェクターを粉砕する。
「何やってるの?そんなことしても無駄よ?早く殺しに行きなさいよこの馬鹿?殺せ!殺せ!コロセ………。」
少女特有の高い声から、少女とはとても思えない野太い声に変わる。
音声の不調だろうか。
ここにいても特に手掛かりはなさそうだし、何より不愉快だから早々に映写室を後にする。
映写室の扉を閉めると、あれほどうるさかった映像が急に途切れた。
恐らく、映写室の扉か、あるいはその入り口の床があの不愉快極まりない映像を映すスイッチになっているのだろう。
壊したプロジェクターはフェイク。
分かってしまえば、簡単な仕掛けだ。
近くにあるらしいスイッチを壊してみようかと思ったが、戻るのもバカバカしい。
映画館の入り口付近に戻る。
その時、先程の像と目が合った。
よく見ると、それはもう一人の主催者、ウルノーガを模した像だった。
最初に入った時は、映画館にある物よりも、映画館に隠れている人の方が気になったため、何の像なのか気が付かなかったようだ。
(ん?)
クラウドが注目したのは、ウルノーガ像の杖の部分。
杖の先に付いている珠だけは、光り方からして、明らかに材質が違った。
クラウドが触れると、それは妙に簡単に取れた。
その珠からは、何か魔法の力を感じた。
マテリアかと思うが、どの色にも該当しない。
まあ、チェレンが自分の世界にいない魔物を従えていたし、違う色のマテリアがあってもおかしくはないのだが。
支給品と違って説明書がないため、どう使えばいいのか分からないが、ザックに仕舞っておく。
(なぜ、こんなに分かりやすい場所に置いた?)
そもそもこれを置くことを誰が許可したのか知らないのだが、隠すにしては誰でも見つけられる。
自分が見つけたのは、一番にこの映画館に入ったからだろう。
例えば自分が隠すなら、あの映写室。
マナの映像や音声に釘付けにした後、座席の下か中にでも隠していれば、見つけるのは難しいだろう。
あまり体力が回復した気はしないが、ここはどうにも落ち着けない場所なので、放送前だが出ることにした。
クラウドが手に取ったそれは、マテリアではない。
「オーブ」という、魔法を通り越した『何か』を創り出すもの。
言うならば彼の想い人エアリスが持っていた白マテリアや、彼の宿敵セフィロスが持っていた黒マテリアに近いか。
クラウドのザックでは、異なる二種類の色の宝珠が輝く。
一つは、いのちのたま。
もう一つは、シルバーオーブ。
それぞれがこの戦いにおける災いとなるか、それとも救いとなるか。
【E-4/映画館入り口 /一日目 早朝(放送直前)】
【クラウド・ストライフ@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:HP2/5 脇腹、肩に裂傷(治療済み) 所々に火傷
[装備]:グランドリオン@クロノトリガー
[道具]:基本支給品、いのちのたま@ポケットモンスター ブラック・ホワイト シルバーオーブ@その他不明支給品1~2
[思考・状況]
基本行動方針:エアリス以外の参加者全員を殺し、彼女を生き返らせる。
1.ティファ………
※参戦時期はエンディング後
※最初の会場でエアリスの姿を確認しました。
【
支給品紹介】
【シルバーオーブ@DQ11】
命の大樹に近づくのに必要な6つのオーブの一つ。原作ではウルノーガに奪われた後、6軍王の一人であったホメロスに渡された。
また必殺技「シルバースパーク」を打つためのトリガーになる。
※他の5色のオーブがどこにあるか、誰に支給されているか、はたまた存在しないかは不明です。
※クラウドがシルバースパークを打てるかは次の書き手にお任せします。
最終更新:2021年01月17日 17:33