無人の街に奔る一筋の青い風。
音速ハリネズミ・ソニックは先程出会った少女マルティナを追って会場を駆けていた。
「うーん、こっちの方だったと思うんだが、あの雷さえなけりゃなぁ…」
マルティナが最後に放った雷はソニックにとっても全力で回避に徹しなければ危険であり、飛んでいくマルティナを気に掛ける余裕はなかった。
結果、見失った少女の姿を探すためにこうして夜の街を駆けまわっている。
本気を出せば会場を一周するまであっという間のソニックの速さでも、建物を注意深く見ていくと時間の浪費はそれなりの物だった。
「……おっ、あそこ、明かりがついてるな」
そんな中発見した一軒のビルディング。
その一帯で唯一窓から明かりの見える部屋があり、誰かが居た形跡が伺える。
ソニックは階段を一足飛びで駆け上がり、目的の部屋へと急いだ。
ドアを蹴り開け、誰何の声を上げる。
「Hey!誰かいる、か……」
部屋には血の海が広がり、その中央には一人の少女が倒れている。
「おい、しっかりしろッ!おいッ!!」
抱きかかえ、頬を軽く叩くが少女は何も答えることはなかった。
ずたずたに切り裂かれた体、虚ろな眼。
少女――天海春香が既に骸だったのは、誰の目にも疑いようがなかった。
「……Shit!」
怒りで拳を震わせ床を打つ。
バトルロワイアルが開始してまだ数時間、しかし少女を手にかけた者が確かにいるのだ。
自由を重んじ秩序を嫌う傾向のあるソニックだったが、邪悪とは何かを彼は知っていた。
邪悪とは、この世に二つとない花を無惨に散らすものだ。
討たなければならない。
こんな所で誰にも看取られず、一人無惨に死んでいった少女のために。
法の徒という訳ではなく、けれど彼は確かに己の中の正義によって立つ者だった。
死体をもう一度調べる。できていた傷は槍ではつかない形をしていた。
この少女を殺したのが先程出会った少女ではないであろうことに仄かに安堵し、しかし憤りは一切緩めず、今や物言わぬ躯へと告げる。
「…代アンタの無念はオレが晴らしてやる、必ずな」
虚空を見つめる少女の瞼をゆっくりと下ろして、彼はその場を後にした。
▲ ▼
四条貴音は街灯の下で息を潜める様に休息をとっていた。
流れるような銀の長髪はいつもの通りだったが、その整ったかんばせからは普段の底知れぬ雰囲気と凛々しさは伺えない。
あの曲がり角の先には誰かが自分を殺さんと息を潜めているかもしれない。
先程自分が刺した二人組のもう一人が応報を果たさんと追ってきているかもしれない。
そんな疑心と不安に駆られ、その手の姉妹剣オオナヅチの片割れを握りしめる。
殺される前に殺さなければ、生き残ることはできない。
春香の様に。
脳裏にボロボロの人形の様にされた仲間の姿が蘇る。
春香はどんな時も笑顔で、誰かを傷つける事など考えたこともないような娘だ。
その春香が死んでいた。事故などではあり得ぬ悲惨な死にかたで。
人を冷酷に手にかけることができる人間が、少なくとも一人は存在するのだ。
「もっとも…私も人の事はとても言えないでしょうね……」
もう一度、プロデューサーに、友のみんなに会いたい。
その一心で手の短剣を鮮血に染めた。そして、これからもその手を汚す心づもりである。
仲間の…千早の名前を騙って。
名前を騙る事によって向けられる謂れのない憎悪が彼女に降りかかるかもしれないのは理解している。
「誠、罪深いですね……あなた様やみなにはとても見せられません」
だが、例え正道でなくとも。こと生存において善悪による優劣はない。
惜しげもなく過ちを重ね、あらゆる負債を積み上げてなお進むのだと、短剣に付着したザックスの血を見て意識を固めなおし、
…そこで、血が付いたままでは不味いのではないかという考えに至った。
確か、刀剣の中でも有数の切れ味を誇る日本刀でも血や油が付いたまま放置していれば途端に切れ味が落ちるという話を聞いたことがあった。
それに、万が一何某かにこの血の付いた短剣を見られれば―――、
そんな彼女の危惧は、直後に現実のものとなる。
「Hey!そこのアンタ、そこでStopだ!!」
貴音の肩がびくりと震える。さっき辺りを確認した時は誰もいなかったはずなのに。
咄嗟に懐に剣を隠し、声の方へ向き直った。
「これはまた…面妖な……」
振り向いたすぐ傍に居たのは、二本足で立つ青いハリネズミだった。
首輪を嵌めていることから、参加者であることは推察できる。
「オレはソニック、アンタは?」
「……如月、千早と申します」
ソニックと名乗ったハリネズミは腕組みをしたまま貴音を見つめてくる。
検めるような視線は居心地が悪かったが、動くなと言われた手前迂闊に動くわけにもいかない。
「単刀直入に言うぜ、アンタに二つ聞きたいことがある」
「…何でしょう?」
「さっきこの近くで倒れてたやつがいてな。アンタ、何か知らないか?」
ソニックが放ったその問いに貴音は流れる血の温度が二度は下がったような錯覚を覚えた。
倒れていた者というのは自分が刺したザックスの事だろうか。
だが、怪しまれるわけにはいかない。努めて平静を保ちつつ、彼女はシラを切った。
「……申し訳ないですが、存じ上げません」
「そうか、じゃあ二つ目だ。アンタの着てる服の袖、ちょっとよく見せてくれ」
貴音は一瞬その問いの意図が分からなかった。
釣られるように袖に目を剥け、そして硬直する。
ザックスの血痕が付いていたのだ。彼女は己の失敗を悟った。
あの二人から逃げる際に血が付いていないかは確認した、しかし夜で暗く気も動転していたため完璧ではなかったのだ。
推理小説で追い詰められた犯人の心境とはこのようなものかと感じながら、仕方なく腕を上げて袖口をソニックに見せる。
「Uhh…血がついてるみたいだけど、どうしたんだ?」
「実は、ソニック殿と会う前に二人組の殿方に襲われまして、その折についたものかと」
「二人組、か」
「えぇ、急に襲われて、必死に抵抗して何とか逃げる事ができたのですが……」
「…………」
即興のカバーストーリーだったが、それなりに説得力を持たせられたらしい。
少しの間があったが、その後ソニックは同行を貴音に同行を提案してきた。
殺し合いに乗っている二人組がいるならば一人で行動するのは危険だという、至極当然の判断だ。
勿論、殺し合いには乗っていないという。
「…分かりました、此方としても独りでは心細く思っていた身。そのお誘いお受けしましょう」
「オーケー。それじゃまずその手の手当てをしないとな。確かオレの支給品に―――」
ソニックはそう言ってその背のバッグを下ろし中を漁り始める。
どうやら、貴音が腕をケガしていると考えたらしい。実際は真逆なのだが。
無防備にも背を向けてカバンを漁るソニックに貴音の鼓動が早まる。
元より彼女に二足歩行で人語を解す得体の知れないハリネズミと行動を共にするつもりは無く、殺すつもりだった。
ザックスと同じように刺すかと考えていたが、こんなに早くチャンスがやってくるとは。
冷静に辺りを見回して、周囲に誰もいないかを確認する。
その後、音もなく懐に隠したナイフを握りしめた。目標はまだ後ろを向いたまま。
それでいい。後ろを向いたままなら、ザックスの様に凄まじい視線を向けられる事はない。
ナイフを振り上げる。振り下ろせば刃が届くまでに一秒もかからないだろう。
(――――申し訳ありません)
街灯の光に反射して血刃が閃く。
その刃は夜の闇を裂いて突き進み、貴音は心中で殺害を確信する。
―――ソニックの姿が忽然と目の前から消えるまでは。
「え?」
穿つべき目標を失い短剣はバッグに突き刺さるが、それだけだ。
一体何処に行ったのか。戸惑いと同時に奇妙な音が彼女の耳朶を打つ。
ギュル
ギュル
ギュル
耳鳴りにも似た回転音。
しかし、何が回転しているのかまでは、彼女には終ぞ分からなかった。
その一秒後、彼女の視界を青一色の弾丸が音の速さで塗りつぶしたのだから。
□ ■
「悪い予感に限ってあたるモンだな」
くるくると宙に舞った短剣をキャッチしてソニックは呟いた。
彼はそっと気を失った『千早』の傍によって、袖を確認する。
怪我は負っていなかった、つまりこれは返り血という事になる。
やはりか、と彼は腕を組んでそれを見つめた。
――彼が千早に出会って最初に意識したのは血が付いていないかどうかだ。
あの殺されていた少女の損傷が激しかった事から、剣などの凶器を使ったによ、
クッパの様に爪などで引き裂いたにせよ、下手人に返り血が付いている可能性は高いと踏んでいた。
それ故に、注視しなければ気づかなかっただろう血痕に気が付く事ができた。
―――噛み合わない。
その後、千早の二人組の暴漢の話を聞いたソニックがまず抱いたのはそんな感想だ。
あの少女が死んでいた部屋には争った形跡はなかった。つまり、少女を殺した犯人は一切の抵抗を許さず少女の命を奪ったのだ。
相当な手練れかつ容赦のない相手が、しかも二人組が強襲したという千早を取り逃がすだろうか。
(千早がパルテナやベヨネッタぐらい強いなら不思議じゃないが…いや、そもそもその二人があの子を殺したとも限らないか)
結論を言ってしまえば、彼は血痕や話から微妙な違和感を抱いたのだ。
普段のソニックなら見落としていた可能性の方が高かっただろう。
だが千早にとっては不運な事に、あの名も知れない少女の死体との邂逅が彼の警戒心を向上させていたのである。
そして何より、千早の雰囲気は似ていた。
悲壮な覚悟をして、取り返しのつかない過ちを犯そうとしていたマルティナに。
だからこそ彼は千早を試した。
わざと無防備な背中を晒し、彼女の反応を誘った。
至近距離から発射されたミサイルや機関銃の掃射すら目視で回避する理外の反応速度を誇るソニックだからこそ可能な離れ業だ。
『大乱闘』でもまず見せない全力だったが、本音を言えばこんな形で見せたくは無かった。
杞憂であってくれればいい――そんな彼の思いは残酷な形で裏切られる事となった。
「後ろを向いてた時に仕掛けたってのは…やっぱりそう言う事か」
まだ出会ったときに剣を振り回されていたら錯乱していたのだと片づけられた。
しかし千早は此方が背を向けるまで剣を出さなかった、つまり冷静な判断力があったという事になる。
……まぁそれならば話もできるかと、ソニックは二つのバッグと千早の体を担ぐ。
だが、話をしたとしてどこまで彼女の話を信じるべきか。
また、彼女が殺し合いに乗っていた場合、どうするべきか。
マルティナの事もある。千早とマルティナならマルティナの方が危険度は高い。
前回戦った時はまだ彼女がソニックの速度に慣れておらず、精神的にも不安定だったため有利に戦えた。
だが、彼女が覚悟を完全に決めてしまった後に戦えば間違いなく難敵となるだろう。
故に急がなければならないが、千早を放っておくわけにもいかない。
まさか連れまわしてマルティナを止めるわけにもいかないし、縛ってどこかに置いていくのが一番リスクがなく早いが、
もしおいてきた場所が禁止エリアに選ばれたり危険人物に出会ったら彼女はそこでジエンドだ。
ともあれ、まずは話をしなければどうにもならない。
一先ず戦闘は避け、奇襲されにくい建物の中まで走り抜けることにする。
戦闘になった場合、自分はともかく気絶してる千早の身が危険だからだ。
例え誰かに狙らい撃ちされたとしても、自分のスピードなら逃げに徹すれば撒けるだろう。
「……気に入らないな」
何もかもが気に入らなかった。
自分を縛る首輪も、簡単に人を狂わせて殺し合わさせるこの世界も
この『大乱闘』にどこか似た殺し合いの全てが。
数年に一度、遠い世界で生まれた、出会うはずのなかった者たちが集い、
元の世界では殺し合った者相手でも一時水に流し腕を競い合い、
亜空から侵攻してきた侵略者に対しては力を合わせてこれにあたる。
共に戦い、
共に縁を結び、
共に強くなる。
その『大乱闘』が穢されたような不快さだった。
だから、気に食わない。絶対に破綻させる。
憤りと共に、ソニック・ザ・ヘッジホッグは再び走り出す。
気づけば、夜は明けつつあった。
―――人を一人担いでなお、その速度はやはり驚嘆に値するものだ。
彼は正しくこの地においても最速であると言っていいかもしれない。
しかし、それはあくまでソニックが一人でいる場合を仮定した話。
この会場に至る前にキーラの放ったビームに彼が敗北したように。
彼を縛る存在がいる時、ソニックは容易に最速の座から転落する。
彼の速さは、彼だけしか守ってはくれないのだから。
【D-2/市街地(南部)/一日目 早朝】
【四条貴音@THE IDOLM@STER】
[状態]:強い罪悪感、恐怖、不安、気絶
[装備]:
[道具]:
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。どんな手を使ってでも。
1.如月千早の名を驕り、参加者に紛れながら殺していく。
2.春香……!
3.ザックスが生きているかどうか不安
※如月千早と名乗っています。
※
ルール説明の際に千早の姿を目撃しています。
【ソニック・ザ・ヘッジホッグ@大乱闘スマッシュブラザーズSP】
[状態]:健康、苛立ち
[装備]:スマッシュボール×2@大乱闘スマッシュブラザーズSP
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~2個) 、双剣オオナズチ(短剣)@MONSTER HUNTER X
基本支給品、双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:バトルロワイアルの打破。もたもたしてると置いてくぜ?。
1.一先ず戦闘は避け、どこか建物の中で千早の話を聞く。
2.マルティナを見つけて彼女を止める。
※
灯火の星でビームに呑まれた直後からの参戦です。
※リンクやクラウドやスネークと面識があり、基本的な情報を持っていますが、リンク達はソニックを知りません。でも「こいつスッゲー見覚えあるな…」くらいは感じるでしょう。
※
最終更新:2021年01月06日 09:07