「は、速すぎます~っ!」
バトルロワイアルが開始されて数時間。
会場の片隅で、とあるアイドルの絶叫が聞こえたとか、聞こえないとか。
□
リンクと2B、そして雪歩の三人は、石畳の道を歩いていた。
イシの村を出発してから一時間近く経過していたが、目的地への道のりはまだ半分というところだ。
空はまだ暗い。ランタンを持つリンクが周囲を警戒しながら先行して、少し離れて2Bと雪歩が続く形だ。
「あの、2Bさん……」
「……どうした?」
そのせいか、2Bは雪歩から話しかけられることが増えた。
話の内容は、数千年後の地球のことやアンドロイドのことなど、質問ばかりだ。
質問をする理由は、純粋な好奇心だけではなく、気を紛らわせるためでもあるようで、雪歩は沈黙を恐れているようだった。
会話をしていると、周囲への警戒が疎かになりやすい。それでも、雪歩の質問に対して、2Bは淡々と返答していた。
「えっと、9Sさん?についても知りたいですぅ」
「9Sは諜報部隊に所属する、スキャナータイプのアンドロイドだ。
ハッキングを得意としていて、知識が豊富だ。たまに余計な好奇心を見せることがある。
……まあ、それはいい。9Sが首輪を外せるかも、と言ったのは、膨大な知識があるからだ」
「へぇ……見た目はどんな感じなんですか?」
「人間の少年だ。そうだな……身長はこれくらいか」
これくらいと言いながら、2Bは手を自分の目線の高さに置いた。
2Bには、雪歩が9Sの見た目を知りたがる理由が分からなかったが、さらに情報を期待する視線を受けて、9Sの姿を詳細に説明した。
「ええと……髪の色や服装は私と似たようなもの。9Sは半ズボンだけど」
「ってことは、白髪(はくはつ)に黒服の男の子……ふふ」
「何か可笑しい?」
「い、いえ!ごめんなさい!
ただ……話を聞くと、2Bさんと9Sさん、まるで姉弟みたいだなって」
「きょうだい……」
9Sと比べると知識の少ない2Bでも、その単語の意味は知っていた。
同一の母体から生まれた、遺伝情報を同じくする複数の個体のことだ。
しかし、アンドロイドには生物学的な性質は当てはまらない。
機械生命体の中には、親子や姉妹のような概念を持ち込んでいるものもいるが、あくまで自称しているだけだ。
「アンドロイドに血のつながりはない」
「もちろん、そうでしょうけど、つまり……それだけ親しそうってことですぅ」
「親しそう?……ある程度、類似性があるのは当然だ」
例えば、素体を同じくするアンドロイドは、見た目が似るのは当然のこと。
白髪や黒を基調とした服装も、ヨルハ部隊のメンバーのほとんどが当てはまる。
2Bや9Sが特別なわけではない、ということだ。
「親しそう、か……」
それでも、2Bは不思議な感覚を覚えた。
今まで他者から自己と9Sがどう見えているのか、などと考えたこともないからだろうか。
その不思議な感覚について、それ以上考えることを避けようとして、2Bはリンクに話しかけた。
「それよりリンク、そろそろ休憩しないか」
「ああ、そうしようか。雪歩も構わない?」
「は、はい……」
そのとき2Bは、雪歩がほっと息をついたのを見た。
一時間近く歩き続けていたので、人間であれば疲労が溜まるころだと判断したが、間違いではなかったようだ。
石畳の道を少し外れた木陰で、各自休息を取ることにした。
「ここからだと山小屋が近いから、少し見てくる。二人は休憩していて」
すると、休憩を始めてから一分もしない内に、リンクがそう言い出した。
わずかほども疲れた様子を見せていないことから、体力的には余裕があるのだと分かる。
「リンクさん、一人で平気なんですか……?」
「武器が必要なら渡すけど」
「森には慣れているから平気だよ。武器も……」
リンクはきょろきょろと周囲の地面を見渡すと、一メートルくらいの枝を拾い上げた。
そして、それを数回振ると、満足したように頷いた。
「“これ”で充分だ」
そう言うが早いか、駆け出したリンク。
リンクが森の中に消えたあと、2Bと雪歩は顔を見合わせた。
「すごいですね、リンクさん」
「騎士として訓練を積んでいるだけはある」
「はい……」
「……」
「あ、あの……すみませんでした。私なんかのために」
「ん?」
「森を抜けるルートなら、もっと速く進めたかも……」
「……」
そこまで聞いた2Bは、雪歩の発言の意図を理解した。
765プロへ向かうにあたって、イシの村から南下して森を抜ける、という経路も考えられたが、結局はこうして石畳の道を選んだ。
その理由は、雪歩の服装にある。雪のように白いワンピースと可愛らしいスニーカーは、雪歩の可憐な雰囲気に良く似合うものだが、肌の露出している部分が多く、林道が整備されていない森を歩くのには適していない。
火山や雪原、砂漠など、その土地の環境に応じて適切な装備をすることが当たり前であるリンクが、そのことに気づいた。
その結果、舗装された安全な道を進むことにしたのだ。
「謝罪する必要はない。目的地までの距離はそう変わらない。
それに、夜の森林は視界が悪いから、襲撃されたときの対処がしにくい」
謝罪を伝える雪歩に対して、2Bは冷静に返事をした。
その声色に雪歩への気遣いは感じられない。戦闘アンドロイドとしての現状分析を述べただけのようだ。
「で、でも……森に9Sさんがいたかもしれませんよ?」
「……それは可能性の話に過ぎない。どのルートを選んでも確率は変わらない」
そう言いながら、2Bは雪歩から視線を外した。
数秒後、2Bは思わず自分が拳をぐっと握りしめていたことに気づいて、その手を開いた。
「それはそうですけど……」
「気にしなくていい。今は、この先どうするかを考える方が重要」
なおも謝罪をしようとする雪歩に対して、2Bはそう断定した。
過去のことは変えられないのだから、それについて考えすぎても意味がない。
そう伝えると、申し訳なさそうな顔のままだが、ようやく雪歩も口を閉じた。
それからしばらく、二人の間には沈黙が流れ続けた。
□
「誰もいない、か」
訪れた山小屋に参加者の姿は無く、リンクは肩を落とした。
この一時間近く、新たな情報を何も得られていないことが、リンクを焦らせていた。
せめて山小屋に人が居た形跡がないか、そう考えてくまなく調べている内に、あることに気がついた。
「この小屋……新しい?」
真新しい木のにおい、そして、衣服に継ぎを当てたように見える、色合いの異なる木。
そして山小屋の外には、切り倒された木の切り株や、ボロボロな木の残骸、おがくずなどが点在していた。
ここから想像されるのは、誰かが山小屋を修理したということ。
しかし、殺し合いが開始されてから、木を切り倒して山小屋を修理するような物好きがいるだろうか。
直感的に、リンクの頭には一人の男が浮かんでいた。
「まさか……サクラダ?」
サクラダ工務店の代表者であるサクラダ。
ハテノ村で出会った、とても独特な人物だ。
大工という仕事に誇りを持っているサクラダであれば、山小屋を見て修理をしたくなっても不思議ではない。
「いや、そんなまさか……」
山小屋の外観を眺めて、リンクは眉をひそめた。
自分の知り合いが殺し合いに巻き込まれている想像など、したくないものだ。
勘違いであることを期待して、山小屋を去ろうと決めたそのとき。
背後の茂みが、ガサガサと音を立てた。
「なんだ!?」
リンクは素早く枝を構えて振り向いた。
しかし、音の主も速度では負けていない。リンクが視界に捉える直前に、再び茂みを揺らして消えた。
「待て!」
即座に走り出すリンク。
新たな情報を得られるかもしれないチャンスを、逃すわけにはいかない。
暗闇の中、草木を薙ぎ払いながら影を追いかける。
「……見つけた!」
リンクは影を視界に捉えると、加速して距離を詰めていく。
そして、走るのを止めようとするために、走る影の前へと回り込む。
そうすれば、寸前で停止するだろうと予想しての行動だったが、リンクの予想は外れた。
「クエーッ!」
「うわっ!」
影は鳴き声を上げながら、勢いよくリンクと衝突した。
背中から倒れ込んだリンクが見たもの、それは名も知らぬ黄色い鳥――チョコボ――である。
その後、チョコボを乗り回して森から出て来たリンクに、2Bと雪歩が非常に驚かされたのは、言うまでもない。
□
チョコボのお陰で、三人が道を進む速度は格段に上昇した。
雪歩はリンクが操るチョコボに乗り、2Bは持ち前の脚力で疾駆する。
そうして数分が経過したころ、石畳の道の左手に巨大な建造物が現れた。
その建造物の迫力に、雪歩は感嘆の声を漏らした。
「うわぁ……あれ、お城ですか?」
「地図にあった“Nの城”のようだ」
地図を出して確認する2B。リンクも地図を覗き込み、現在位置を確認する。
目的地の765プロがある市街地が、遠目に見え始めていた。
「765プロまで、もう一息ってところかな」
「そうですね、でも……」
雪歩は城を見上げた。城は荘厳にそびえている。
これだけ大きい城であれば、参加者がいる可能性は充分にある。探索する意義はありそうだ。
2Bとの会話を思い出す。どこに知り合いがいて、どこですれ違ってもおかしくない。
何を優先させるべきか、雪歩たちは選択に迫られている。
【C-1/道路/一日目 黎明】
【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:健康、チョコボに騎乗中
[装備]:木の枝@現地調達 デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実
[思考・状況]
基本行動方針:
0.城を探索するか、765プロを優先するか。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。
3.ゼルダが連れてこられているかどうか情報を集めたい。
※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
【ヨルハ二号B型@NieR:Automata】
[状態]:健康
[装備]:陽光@龍が如く 極
[道具]:基本支給品、モンスターボール(中身不明)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いの破壊。
0.城を探索するか、765プロを優先するか。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.首輪を外せる者を探す。9S最優先。
3.遊園地廃墟で部品を探したい。
4.モンスターボール……ってなに?
※少なくともAルートの時間軸からの参戦です。
※
ルール説明の際、9Sの姿を見ました。
【萩原雪歩@THE IDOLM@STER】
[状態]:不安、チョコボに騎乗中
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ナイフ型消音拳銃@METAL GEAR SOLID 2(残弾数1/1)
[思考・状況]
基本行動方針:
0.城を探索するか、無視するか。
1.D-2、765プロへ向かう。
2.協力してくれる人間を探す。他に765プロの皆がいるなら合流したい。
3.2Bさんやリンクさんと仲良くなれるかな……。
※B-1エリアの森には、チョコボ@FINAL FANTASY Ⅶが出現するようです。
【チョコボ@FINAL FANTASY Ⅶ】
基本的に黄色い体毛をした鳥。陸上を素早く走ることができる。
FFの世界では、主に乗用として利用されている。
このロワにおいては、何らかの手段で捕獲及びそれに準ずる行為をしない限り、一度チョコボから降りるとチョコボは去ってしまう。
最終更新:2022年04月25日 07:21