カイムを振り切った二人は、小高い丘の上に登っていた。
「一体全体どうなってんだい………この世界は……。」
二人組のうちの一人、ウルボザは丘からの景色の先を睨んでいた。
かなり遠くにあるため小さく見えるが、その先に見える建物の一つは、間違いなくハイラル城だった。
「あのお城、知ってるの?」
遥はウルボザの視線の先にある城を見つめる。
「知ってるも何も、私はそこの姫様を守る英傑の一人だったのさ。」
「エイケツ?」
知らない言葉で遥が首をひねる。
「難しく考える必要はないよ。国にとって大事な人を守る人、ぐらいに考えてればいいさ。」
「おじさん……みたいな?」
遥は答える。
彼女が言う桐生一馬は、国にとって重要な人物、というわけではない。
だが、守りたい者あれば命に代えてでも守ろうとする人物だった。
「へえ……おじさんって人も、誰かを守る英傑なのかい?」
遥は首を振る。
桐生は他のヤクザからも様々な呼ばれ方をしていたが、英傑という二つ名は聞いたことはなかった。
「とりあえず、強い人ってのは分かったよ。それでいいだろ?」
遥は黙って首を縦に振る。
「アンタも大事な人がいるじゃないか。その人の為にも、死んじゃダメだよ。」
遥は釈然としないような表情で、頷く。
(御ひい様より、もう少し小さいかねえ……)
ウルボザは感じ取った。
この少女も、どこか年不相応に感情を押し殺していると。
かつてのウルボザが守る相手と同じように。
(何があったか知らないけど、ヘンに背伸びしていても、いいことはないんだよ……。)
自分の出来ることと言えば、その相手をそっと見守るくらいだ。
それしかできないのなら、命続く限り、それを押し通そうとウルボザは決意する。
「ところで遥、あんたはこの地図でどこか知ってる場所はあるかい?」
遥は地図の右下、『セレナ』と書かれた場所を指す。
「ここに、おじさんもいる……。」
そこは、遥にとって思い出の場所。
あの日『バッカス』で桐生に助けられてから、家代わりに使っていた場所。
桐生は常にいたわけではないが、同じようにセレナを拠点として使っていた。
その場所に行けば桐生にも会える。
いつもと同じように助けてくれる。
麗奈も同じように匿ってくれる。
そう心の中で信じていた。
「ちょっと遠くなりそうだね……まずはあっちに見える、船みたいな場所に着いたら休憩して、それから行こうか。」
ウルボザはハイラル城とは違う方向を指差して言った。
確かにここからでもセレナは見えないくらい遠いので、何も言わずにそうしようと遥も思う。
丘を降りて、北東へ進もうとする二人。
目指す先はE-3,偽装タンカー。
なぜ堂々と地図に「偽装」と書いてあるのか二人共謎に思うが、船の中なら隠れやすい場所があるかもしれない。
道をそのまま歩いていると、前方によたよたと歩く人の姿が見えた。
「ちょっと!!アンタ、大丈夫かい?」
ウルボザがその姿を近くから見ると、それは妙齢の美しい女性だった。
しかし、服には血がべっとりと付いていた。
歩き方のおぼつかなさから、恐らく悪質な参加者に襲われ、済んでの所で逃げてきたのだとウルボザは推理する。
「…………。」
女性は口をパクパクと動かし、何か言おうとしている。
「え!?」
「タベ………タ…………イ。」
「あんた、お腹空いてるのかい?私の食べ物をあげようか?」
ウルボザはザックを開き、パンを取り出す。
彼女は勘違いしていた。
些細な、しかしこの戦いの場ではとてつもなく致命的な勘違いを。
美しい女性、アリオーシュの服についていた血は、彼女の物ではなく、彼女を襲ったゾンビのもの。
そして、彼女が食べたいと言っていたのは、決して支給品の食料などではなく……。
「え!?」
女の細腕とは思えない力で、いとも簡単にウルボザが押しのけられた。
地面に倒れはしなかったが、勢いでパンを落としてしまう。
「コドモ……タベタイ………。」
アリオーシュは目をギラギラと光らせ、遥に向かう。
「タベタイ………タベタイ!!」
「………!!」
その勢いに身がすくんで遥は動けなくなった。
歯をむき出しにして迫り来るアリオーシュ。
たまたま出会った女性が、子供を「捕食して守ろう」とする精神異常者だとどう想像しよう。
そしてその女性がT-ウイルスの影響で、異常さが加速しているなど、大層な妄想癖がある人物でもない限り、想像できまい。
いや、この世界では異常こそが正常であるのかもしれないが。
遥も、神室町にいた時から、誰かが殺される瞬間や、自分が死の危機に瀕したことはあった。
だが、自分を捕食しようとする人物に会ったことは一度としてなかった。
アリオーシュは遥の腕をガッチリ掴む。
手に、子供の柔らかくて弾力のある肉の感触が伝わる。
この感触を、守りたい。手だけではなく、口の中でも、体の中でも味わいたい。
アリオーシュは口を大きく開け、遥の肉を食いちぎろうとする。
「――はぁッ!」
しかし、落雷がその目的を阻害した。
「アアアアアアギャアアアあああ!!」
けたたましい悲鳴と共に、遥の拘束が解かれる。
「何ボサっとしてんだい!!早く逃げるんだよ!!」
ウルボザは遥に怒鳴る。
「え!?私………。」
「私のことは気にするんじゃない!!これを持って先に船の所へ逃げるんだよ!!」
ウルボザは武器以外の支給品を入れたザックを遥に投げる。
ザックの衝撃が体に伝わってようやく遥は逃げ始める。
今になって、遥の心の奥底から恐怖が湧き出てきた。
食べたい?
あの女性が言ったことが、理解できなかった。
神室町にいた時は、命の危機にさらされたことは何度もあったけど、食い殺されそうになったことは一度もなかった。
食べられるってどんな感じだろう。
普通にご飯を食べていたけど、食べられる側のことは考えたことなかった。
きっと、銃なんかで撃たれるより、痛いんだろう。
そんなことを頭にめぐらせながら、遥は走る。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「コドモ………タベタイ……カエセ!!」
電撃の痺れから回復したアリオーシュは、バタフライエッジを抜き、ウルボザに敵意をむき出しにする。
「返せっつったって、アンタのモノじゃないだろ!!」
同様にウルボザもロアルドスクロウを抜き、アリオーシュにめがけて構える。
(コイツ……私の雷を食らったのに、ピンピンしてるなんて、どういうことだい?)
ウルボザが疑問に思ったのは、アリオーシュの生命力。
自分の雷を食らえば、人間は愚か、並みの魔物でも容易に戦意を喪失する。
だが、この女性からは全くそういったものが喪失した様子はない。
一時的痺れたのは確かだし、体のあちこちからまだ煙が出ているが、戦う気力は充分のようだ。
(まあいいさ、それなら容赦なく殺せるよ!!)
その点からウルボザは、アリオーシュを人間の姿をした魔物だと判断した。
魔物ならそれでいい。
人間同士の殺し合いはたとえ相手が殺す気でいたとしてもする気は憚られるが、魔物なら心配ない。
いつもの魔物退治のように、冷静に心を殺して戦うことが出来る。
実のところはアリオーシュは人間である。
強靭な生命力のタネは二体の魔物との契約、そしてリッカーを捕食した時に得たTウイルスの影響なのだが。
アリオーシュが大剣を振り回し、ウルボザの首を掻っ切らんとする。
「そんなんで当たると思ってるのかい?」
ウルボザは素早く身を反らし、斬撃を紙一重で躱した。
大剣は誰も斬り裂かず、地面にめり込む。
その隙にアリオーシュに斬りかかろうとした瞬間。
地面から即座に二撃目が襲来した。
「!?」
「コドモ……殺シテ、取リニイかナイと………。」
咄嗟にロアルドスクロウで受け止め、鍔迫り合いに持ち込もうとするも、予想外の抵抗が両手に来た。
(なんて力だよ……モリブリンじゃああるまいし……。)
自分が力で押されるとは。
剣の大きさなら相手の方が上だが、それにしてもこの力は異常だと感じた。
「ちいっ!!」
「早ク……アのコ………タベタイ……。」
ウルボザもゲルドの族長として、生前は砂漠での過酷な訓練に明け暮れていた。
いくら魔物といえども、細腕相手に力で後れを取るとは予想していなかった。
再びアリオーシュが大剣を構えて、斬りかかる。
だが、その場所には誰もいなかった。
既にアリオーシュの真横に移動していたウルボザは、すかさず脇腹を蹴飛ばす。
「見せてやるよ。ゲルドの英傑の力を」
横から、アリオーシュの一撃が襲い来る。
確かにそれはウルボザを斬ったはずだった。
しかし風に飛ばされた木の葉のように身軽に舞うウルボザに、致命傷を与えたことにはならない。
その後も大剣が振り回されるも、一度も斬ることは出来ない。
ウルボザは踊り手のようにアリオーシュの周りを動きつつ、翻弄していく。
いくらウルボザに力があっても、力比べではゴロン族やヒノックスに勝つことは出来ない。
だが、彼女ら、ゲルド族には身のこなしがある。
ウルボザがゲルドの戦士として生きた時代より昔から存在していた戦い方。
蝶のように美しく舞い敵を翻弄させ、蜂のように刺す。
その美しさと激しさでは、他の部族で右に出る者はいない。
(私のお気に入りの剣と盾が無いけど、上手くいったようだね。)
最初の狙いはアリオーシュの利き手。
首尾よく手の甲を斬り付けることに成功した。
剣を落とすかと思いきや、傷ついた手でまだ攻撃して来る。
相手は人間ではないと改めて実感しつつも、今度は姿勢を低くして左足を斬り付ける。
やはり反応は鈍い。
相手に痛覚というのが無くなっているのか。
それとも罠のようなものか?
ウルボザは相手の様々な手を予想する。
たとえ目的が食事や子孫繁栄のような、極めてシンプルなものしかなくても、罠を張って狡猾に戦ってくる魔物もいる。
集団で襲撃し、地形に隠れながら襲撃の時を待つリザルフォスが良い例だ。
言い表しようのない嫌な予感に恐れたウルボザは、早急に相手の急所を突こうとする。
「私の、子供ハどこォォぉ?」
アリオーシュの大剣がウルボザの胸に襲い掛かる。
しかし、ウルボザは空中でトンボを切って一回転。
「もらった!!」
そのまま、逆にアリオーシュの心臓にロアルドスクロウを突き刺した。
「アアアア!!」
アリオーシュの体は痙攣し、膝をつく。
(しかし、恐ろしい相手だったね………。)
先に逃がした遥を追わなければいけないが、相手はウルボザの予想を上回る力と生命力を持っていた。
一先ず落ち着こうと、息を大きく吸い込む。
「ふう………」
それを大きく吐き出す。
どうにか心を落ち着かせたウルボザは、再度息を吸って、遥を追いかけようとする……が、それが何故か出来なかった。
アリオーシュが持っていたバタフライエッジが、ウルボザの心臓を貫いたから。
「………!!」
なぜ、と言おうとする前にウルボザの口から大量の血が出る
「ウフフフ………肉……にく……ニク…。」
そのままアリオーシュは剣を抜く。
ウルボザから体から大量の血が噴き出て、崩れ落ちた。
だが、さっき雷を打ってからとっくに1分は経っている。
せめて、もう一度。
この怪物を生かしたら、きっとまた誰かが犠牲になる。
その犠牲を、ここで止めねば。
(遥、あんたは生きなよ。)
血が行き渡らず、言うことを聞かない腕を無理やり上げ、技の体勢に入る。
その瞬間、雷が落ちた。
ウルボザの頭に、バタフライエッジという名の雷が、だが。
彼女はアリオーシュを、人の姿をした怪物だと思っていたが、心臓を失ってなお動ける怪物だとは思ってなかった。
それは、不注意だろうか。
否、不注意ではない。
なにしろアリオーシュが心臓を失っても動ける体になったのはつい先ほど。
彼女が捕食したリッカーから手に入れた、Tウイルスの感染が原因だからだ。
(運動しタからカしラ?お腹……空いタわネ………。)
アリオーシュは動かなくなったウルボザの身体にかじりつき、肉を食いちぎる。
Tウイルスは過剰に代謝の速度を上げるため、空腹も異常なペースで進行するのだ。
(やっぱり……美味シクナカッタわね…………。)
新鮮な肉なのでリッカーよりかは美味だが、やはり大人の肉は硬くて食べにくい。
それに、もうすぐ代えようのないご馳走にありつけるのだから、こんなもので満腹になるわけにもいかない。
あの子がやっぱり食べたい。
二口、三口もすればすぐにその肉塊を棄て、衝動に身を任せてそのまま歩き始めた。
【E-3/草原 /一日目 黎明】
【アリオーシュ@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:ダメージ中、T-ウイルス感染(進行中)
[装備]:バタフライエッジ@FINAL FANTASY Ⅶ
[道具]:基本支給品、ランダム支給品
[思考・状況]
基本行動方針:こどもたちをまもる。
1.遥を追いかけ、食べる。
2.さっきからお腹が空いてしょうがないわ……
※リッカーを食べたことによりT-ウイルスに感染しました。
現在でもクリーチャー化が進行中です。
それに伴って回復力と、食欲が増進しています。
また、クリーチャー化した場合脳を破壊され完全に活動を停止した段階で「死亡」と判断します。
【E-3/偽装タンカー前 /一日目 黎明】
【澤村遥@龍が如く 極】
[状態]:健康 恐怖
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(1~3個) ウルボザのランダム支給品(1~2個)
[思考・状況]
基本行動方針: 自分の命の価値を見つける。
1.ウルボザを待つ
2.ウルボザと合流して休憩した後は、セレナへ向かう。
3.おじさんと会いたい。
※本編終了後からの参戦です。
【ウルボザ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】
【残り59名】
「ふむ、怖気付いたのかね、バレット君。」
遠くの方で、最初に雷が落ちたのを見たのは、バレットだった。
もしや仲間が雷の魔法を使ったのではないかと気になり、その方角へ向かうことを提案する。
偽装タンカーへと向かう途中だが、回り道をすると、衝撃の光景が広がっていた。
一人の女性が、別の人間を食べていたのだ。
すぐに食べるのをやめてどこかへ歩き出したが、それ以上に衝撃的だったのは、背中にぽっかりと穴が開いていたことだった。
背中に穴が開いても何食わぬ顔して歩けることは、銃を心臓に打ち込んでも効果がない可能性が高い。
頭に打ち込んだり、首を切り落とせば殺せるかもしれないが、支給されている武器の使い方も分からない今は、勝てるかどうか分からない。
「うるせえ……どうするか考え中だ。」
自分は考え事は苦手だが、そう答えてしまう。
「君は銃弾(バレット)なのにすぐに飛んでいかないようだな」
「……。名前で遊ぶなっつってんだろ……。」
目の前の同行者さえ何者なのか分からない状態で、対処法もはっきりしないまま相手に戦いを挑みたくない。
しかし、相手が向かっているのは自分達が目指していた、タンカーの方角。
今戦わなくても、目的地を変えなければ、すぐに戦うことになる。
今すぐに戦いを挑むか、もう少し様子を見るか、はたまた進路を変えるか。
【E-3/草原 /一日目 黎明】
【バレット@FF7】
[状態]: 健康 アリオーシュに対し若干の恐怖
[装備]: 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0~1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.あの女性(アリオーシュ)をどうする?
2.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる
3.マテリアの使用法をオセロットに説明するとともに、怪しいので監視する
※ED後からの参戦です。
【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×6) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(???)@FF7 基本支給品 ランダム支給品(0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットとともにタンカーへ向かう。
※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
最終更新:2021年04月10日 21:17