「そろそろ放送の時間ね。あーおもしろかった! 死んだ死んだ! いっぱい人が死んだ!」
薄暗い明かりに照らされながらご機嫌な声を上げる少女、マナ。
その視線は部屋に用意された大きなモニターに映し出された会場の地図に釘付けになっている。
地図の所々に浮かび上がっている丸。そしてその上に記載された参加者達の名前。
時が経つにつれ順調にその丸が消えていき、首輪から盗聴していた音がプツリと途切れるのは至上の快感だった。
自分の掌の上であんなに大勢の人間を踊らせて、命を奪う。これ以上の愉しみなどないとばかりにマナはこの六時間を満喫していた。
「ふん、人間とは醜いものだ。優勝の褒美に釣られる者、他者の為に殺戮に手を染める者、戦闘を愉しむ者……全く理解出来んな」
その傍らにて、別室から現れたウルノーガがすっかり丸の少なくなったモニターを見上げる。
どうやら放送の頃合いを見計らって来たようだ。彼はさほどこの殺し合い”自体”には興味はないらしい。
だがマナはそんなウルノーガが気に食わないようで、ギョロリと赤い双眸をそちらに向けた。
「あなただって昔はその醜い人間だったんでしょ?」
「……貴様、なぜそれを知っている」
「ふふ、うふふふ。わたし、心が読めるの。それに本当はこう思ってるんでしょ? 『ホメロスめ、折角蘇らせてやった上我自ら勧奨の言葉をかけてやったというのに、主に楯突くとはな……予想外だ。もし奴が大樹の子と共闘すれば――』」
「――下らん」
早口で捲し立てるマナはウルノーガの睥睨に背筋が凍る。
彼の放つ圧力により強制的に口を閉ざされたマナは不快そうに顔を歪め、八つ当たり気味に床へ唾を吐き捨てた。
「あのような使い捨ての駒が敵に回ったところで問題はない。あまり適当な事を抜かすなよ、小娘」
「ふふ、わかったわ。けど、わたしの部下のイウヴァルトはしっかり役目を果たしてくれてるみたい。どこかの誰かさんみたいに扱い下手じゃないからね」
「…………貴様」
ウルノーガの放つ威圧に魔力が混じる。地響きを起こすほどのそれにマナは冷や汗をかきながらもいびつな笑顔を浮かべていた。
実際ウルノーガはホメロスの謀反を予想していなかった。イレブン達やグレイグへの恨みから優秀なマーダーとして活躍することを期待していた故に支給した強力なアイテムの数々は今や主たるウルノーガ自身を打倒する為に刃を向けている。
無論可能性など無いに等しいが、もしホメロスがイレブン達と徒党を組み己と対峙することになれば……少々厄介な相手になることは事実。
そこまで読んでいたからこそマナは彼を挑発し、そして今こうして思い通り逆鱗に触れている。
その事実がおかしくてたまらなくて、マナは笑顔を崩すことが出来なかった。
「その辺りにしておいたらどうだ、二人共」
剣呑な雰囲気を断ち切る声。
マナとウルノーガは視線を向けるまでもなくその正体に気付き、数秒ののちに魔力の衝突を切り上げた。
「……宝条か」
「無礼な真似をしてしまいましたかな、ウルノーガ様」
「良い。このような小娘、殺すだけ魔力の無駄だ」
「ええ、実にその通り。ウルノーガ様が聡明なお方で助かります」
くたびれた白衣に身を包む初老の男性、名は宝条。
今回の殺し合いの開催において彼は重要な立ち位置に当たる。
知識欲、研究欲の権化とも呼べる異常な思想。そしてそれを実現できる技術力を持ち合わせたマッド・サイエンティスト。
参加者に着用された首輪の開発は勿論、部屋に用意されたモニターやパソコン、放送機器などの機械関連は全て彼が管理している。
いや、厳密に言えば彼一人ではなく彼が連れてきた百人ほどの神羅兵とともに、だが。
現に今もモニターの向こうの部屋では神羅兵たちがパソコンと向かい合っている。流石に七十人ものデータを同時に管理するとなると宝条一人では厳しい、という理由だ。
今は放送前ということもありこうして宝条が抜けても問題ない程度には落ち着いているようだ。
「ふふ、宝条はわたしの味方してくれるの?」
「馬鹿を言え。私は自分の研究を邪魔されたくないだけだ。命を握られた者たちが互いの目的を掲げ殺し合い、奪い合う……そしてその中には私の息子もいる! 追い詰められた力を持つ者がどんな行動を取るか。どんな死に様を見せるのか! 科学者としてこれほど興奮することなどあるまい! ……それを貴様らの我儘で狂わされるなど、私が許さん!」
肩を震わせ、目を血走らせながら熱弁する宝条にマナは気圧される。
宝条が狂人であることは知っていたがよもやここまでとは。同じ狂人として親近感が湧く。
だからこそマナは宝条を気に入っていた。そもそも自分の世界にはない技術力を見せられた時点で手元に置いておきたいという欲望はあったのだが。
「そんなことどうでもいいからさ、早く放送始めなよ」
第三の声が掛かる。
マナは声の主の方向へと振り返り、宝条はふんと鼻を鳴らし興味を失ったとばかりに手頃な椅子に腰掛けた。
「――足立」
「あのさぁ、放送まであと二分もないんだけど? 君達時計もロクに見れないわけ?」
腕を組み壁にもたれ掛かる声の主、足立透に促されて時計を見れば確かに放送の時間が迫ってきている。
彼の言い方は癪に障るが、運営という立場上そういった
ルールはきちんとしておかなければ示しがつかない。
マナは苛立ちを隠そうともせずに舌打ち混じりに宝条を呼び、放送機器の扱い方について簡単な説明を受けた。
「じゃあ始めるわ。あ、最初はなんて挨拶したほうがいいの?」
「さぁね。適当にご機嫌ようとか楽しんでるとか、そんな感じでいいんじゃない?」
「へぇ、じゃあそれにするわ。えーっと、これを押せば……よし、できた!」
スピーカー機材のスイッチを入れ、軽い耳鳴りじみた音が全体に響き渡るのを感じる。
初めて体験する未知なる技術の片鱗に酔いしれながら、マナは妖しく口角を釣り上げながら放送を開始した。
『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる? こっちはすごーっく楽しませてもらってるわ! 声だけでしか分からないのが残念なくらいにね』
その可憐で無邪気な声に参加者は何を思い、何を抱くだろうか。
憤慨、憎悪、期待、不安――それぞれ違うものを抱きながらも、ほぼ全ての人間がその声に意識を傾けただろう。
マナはそんな参加者たちの心情など察するつもりもないまま、手元にあるルールの書かれた紙を見ながらつらつらと言葉を連ねていく。
『それと、大事なことを言っていなかったけど……この放送と同時に名簿が配られるの。他の人達の名前が書かれた紙よ。顔は載ってないから、偽名を使ってる人も心配ないわ。これでお友達がどれくらいいるのかとか、どれくらいの人が参加してるかとかも分かるでしょ?』
名簿、それを口にすると同時にマナはちらりと横目を投げる。
幼い一瞥を受けたウルノーガは無言のまま名簿の積まれた机の前へと向かい、杖を振るう。
と、青い光が名簿を包み込んだかと思えば、人数分の名簿がそれぞれ参加者のデイパック内へと配られた。
『ちゃんと確認した? これから死んだ人の名前を言っていくから、手に持っておいたほうが便利かもしれないわよ。ほら、名前を呼ばれた人を確認できるでしょ? 名簿を見て仲間の名前を見て、その人と会えるかもしれない――って思った直後にその人の名前が呼ばれた、なんてことがあっても泣かないでね!』
名簿後出しというルールはある種、最初から配る形式よりも残酷なものだった。
誰が参加しているかわからないことが理由で殺し合いに乗った者も少なからずいるだろう。
それにマナの言う通り、希望を与えた直後に絶望が降りかかる者も少なくないはずだ。
だからこそマナは期待する。放送を終えた後の参加者たちの反応を。
常人離れした感性の元に築かれた愉悦を声に乗せたまま、ゆっくりと唇を開いた。
『それじゃあ、死者の名前を発表するわ』
■
――天海春香
この子の歌声、とっても好きだったわ。まぁもう二度と聞けないんだけどね。
――天城雪子
自分の命を捨てて人を守るなんて素敵。でもその人、本当に命を懸けて守る価値なんてあったの?
――アリオーシュ
この人、自分の子供を殺されて狂っちゃったらしいわ。全ての子供を守りたいっていう高潔な願いを持ってたのに、誰にも伝わらなかったみたい。
――ウルボザ
厄介な子供に付き纏われて災難な目に遭っちゃったみたいね。こんな状況で子供なんか守ろうとするからよ。
――カエル
お仲間に殺されるなんて可哀想。この結果が騎士道っていうやつなの?
――桐生一馬
最初の時にわたしに逆らった男ね。死んで清々したわ!
――グレイグ
本人は満足げに死んだつもりでも、誰も救われてないわよ。一人で空回って、馬鹿なやつ。
――ジャック
雷電、って呼んだほうが馴染みあるかしら? 相手が悪かったわね。
――チェレン
一人じゃ何もできない癖にやけに自信満々だったわよね、こいつ。そういうやつは早死にするって教えてくれたのね。
――マールディア
この子が最期に言った言葉、知ってる? 死にたくない、だって! これから楽しい事が待ってるはずだったのに、こんな形で終わっちゃってかわいそう。
――ヨルハA型二号
逃げれば生き延びられたはずなのに、なんでわざわざ戦うことを選んだのかしら。意地っていうの? 人の心なんかないはずなのにね。
――レオナール
守ろうとした相手に背後から刺されるなんて間抜けよね。みんなも気を付けなさい。
――レオン・S・ケネディ
魔法を知らない人間が魔法に殺される瞬間って結構面白いのね。思わず笑っちゃったわ!
以上の十三名よ。
残り人数は五十七人。かなりの勢いで死んだわね!
期待通りに動いてくれて嬉しいわ。次は何十人死ぬのかしら?
これからもわたしたちを楽しませてね!
死者の発表を終えたマナはふうっと満足気に息を吐く。
十三人――それほどの人間がたった六時間の内に死んでいった。
その中には名のある強者もいたし、戦いとは無縁の人間もいた。しかしそんな立場や事情など関係なく次々と人が死んでいった事実がおかしくてたまらなかった。
『ふふふ、ふふふふ! あははは! はははははは!』
放送中だということも忘れてマナは哄笑を響かせる。
思い出してしまったのだ。死を間際にした参加者たちが残した言葉を。
ある者は立ち向かい、ある者は敗北し、ある者は抵抗も出来ぬまま――姿が見えない分、想像力が掻き立てられる。
自分の思い描いた想像の世界の中で無様に命を落としていく者たちの姿を思い出してしまったがゆえに、マナが我を取り戻すのに少しだけ時間がかかった。
『ふふふ、お腹痛い……あ、そうそう禁止エリアの発表ね。えーっと、一時間後にF-1、三時間後にC-1、それと……五時間後にC-5が禁止エリアになるみたい。今そこにいる人達は時間までに違う場所に行ってね。あ、自殺したいっていう人がいるなら好きにすれば?』
それはちょっと面白くないけど、とマナが付け足す。
主催者という立場から見て参加者が自分から死を望み、命を絶つ行為ほど面白くないものはない。
足掻き、藻掻き、苦しむ姿が見たいのだから当然だ。もっともウルノーガは結果だけを求めているためその限りではないが。
『ああそれと、Nの城っていう場所に行けば手持ちの支給モンスターを回復してくれるわよ。一部の人はすっごく重宝するんじゃない? それじゃあみんな、頑張ってね。健闘を祈ってるわ!』
プツリ、呆気ない音とともに放送は終わりを告げる。
時間にして数分にも満たない短い時間だが、これにより参加者に与えた影響は大きいだろう。
死者の名前、禁止エリア、そして名簿の配布。手探りだった参加者たちはこれでより殺し合いへの意識を強めることになるはずだ。
「お前たち……自分が何をしているのかわかっておるのか!?」
放送を終えた頃、不意にマナの耳に怒号が掛かる。
視線を向ければ紫色の衣服を身に纏い、白いひげを蓄えた老人の姿が映った。
「それはこっちのセリフよ。自分の状況が分かっていないみたいね」
男の名はガッシュ。理の賢者と呼ばれる存在。
時を渡る船シルバードを創り上げた張本人であり、クロノたちが世界を救うのにもっとも貢献した人物と言っても過言ではないだろう。
本来ならば既に亡くなっているはずだが、クロノたちの活躍により滅びの未来が無くなったために生き永らえていた。
そんな彼がここにいる――一体なぜ、という疑問は彼の体を縛るロープが物語っているだろう。
ガッシュの技術力はかの宝条さえも凌駕していた。
時を渡り、過去と未来を行き来する技術など宝条だけでなく彼を知らない者からすれば夢物語だと思っていただろう。
そういった魔法があるのならば納得できるが、ガッシュはそれをただ純粋な技術力で成し遂げた。
それを利用した結果がこの異なる世界の人間を集めた殺し合い――ガッシュ本人は己の力がこんな形で使われるなど屈辱でしかなかった。
「後悔するぞ……貴様らは必ず破滅を迎える!」
「はいはい、ちょっと黙ってなさい」
「ぐっ……!?」
鋭い睥睨を向けるガッシュへマナが手をかざしたかと思えば瞬間、ガッシュは深い眠りに誘われる。
がくんと項垂れ意識を手放した彼を見下すように目を細めれば、すぐさまマナは喜色を顕しながらウルノーガたちの方向へと顔を向けた。
「ねぇ、誰が優勝すると思う?」
それはある種の余興だ。
たった六時間という短い時間ながらこの殺し合いは大きく動きを見せた。
「わたしはカイムね! 彼の暴れっぷり、知ってるでしょ?」
「何言ってんの。結局捕まっちゃったじゃない、彼。それにイウヴァルトってやつはどうしたのさ」
「イウヴァルトはあくまでゲームを面白くさせるためにいるんだもの。優勝できるとは思ってないわ」
かわいそうに、と心にもない台詞を吐き足立はイウヴァルトへ同情を向ける。
確かにカイムは強力なマーダーだが、エアリス達に拘束されている現状から察しても優勝への道が近いとは思えない。
恐らく自分の世界の住人という贔屓目が入っているのだろう。と、足立は適当に片付けた。
「宝条は誰だと思ってるの?」
「聞くまでもないだろう。無論、セフィロス――私の息子だ!」
彼の言葉に異論を唱える者はいなかった。
セフィロスの実力は音声でも伝わってくる。恐らく全参加者の中でもダントツの力を持っているだろう。力だけで言えばウルノーガにも匹敵するほどだ。
しかし彼自身はクラウドとの決着に固執しており、殺し合い自体には積極的ではない。
だからこその禁止エリアだ。展望台のあるC-5を禁止エリアにしたのはは宝条の提案によるものだった。
さしものセフィロスといえど禁止エリアになるとなれば移動を強いられるだろう。その際になにかアクションがあれば殺し合いを加速させてくれるはずだ。
いわばセフィロスは、単騎で禁止エリアの場所を左右させる程脅威的な存在だった。
これは宝条が自分の世界の住人だから、自分の息子だからという贔屓目などでは決してないと断言できるほどに揺るぎようのない事実なのだ。
「僕はトウヤってガキが気になるね。実質彼のためにNの城について言い添えたんだろう?」
無言を貫く場に足立が口を挟む。
彼に対してもまた異論はなかった。
トウヤ――二度の戦闘を潜り抜けながらも未だ傷一つついていない少年。
それはひとえにポケモン自身の性能と、それを駆使する能力にある。
彼のバッグで眠っているバイバニラを回復させればその戦力は何倍にも膨れ上がるだろう。
彼自身は殺しに対して積極的ではないようだが、もし今のペースでポケモンを集め続ければセフィロスに次ぐ脅威になるのは間違いない。
それを期待して、マナは回復スポットであるNの城について付け加えた。
「へぇ、みんなバラバラなんだ。……ウルノーガは?」
「誰が勝ち残ろうが興味ない。全ての世界の人間が死に絶える、その結果が得られれば良いのだ」
「なにそれ、つまんない」
「私達は過程を楽しみ、ウルノーガ様は結果を求める。そういうことなのだろう」
会話に参加しようとせず、ただ窓の外から景色を眺めるウルノーガにマナは不機嫌そうな視線を向ける。
続けざまに紡がれた宝条の言葉に納得したわけではないが、ウルノーガにこういった話題を振る方が間違いだったとマナは舌打ちを鳴らした。
「――案外、優勝者なんて出ないのかもね」
瞬間、艷やかな声色がマナたちの鼓膜を揺らす。
全員分の視線を浴びながらも余裕を崩さず、ヒールの音を規則的に鳴らす黒髪の女性。
「どういう意味だ、エイダよ」
名をエイダ・ウォン。
レオンやクレア達と同じ世界の住人であり、素性や目的など全てが謎に包まれている工作員。
それはこの場においても言えるようで、誰一人――心を読むことができるマナでさえ彼女の心中を掴めずにいた。
「七十人もの人間が揃っているのだから、どんなアクシデントが起きても不思議ではないということよ」
「ふん、私の技術力を疑っているのか?」
「そういった可能性もゼロではない、ということよ」
それだけを言い残し、踵を返したエイダは階下へと続く薄暗い階段へ姿を消していく。
「……なによあいつ、気に入らない」
「小娘が。私の力を舐めおって……まぁいい。続きを楽しむとしよう」
全員が全員冷たい視線でそれを見送りつつも、水をかけられたように場が落ち着いたことで宝条は持ち場に戻り、マナはモニターの前へと移動した。
唯一ウルノーガのみが無言でエイダの向かった先に視線を投げていたが、暫くすると闇に包まれ姿を消した。
「あーあ、場がシラけちゃったよ。僕も散歩にでも行ってこようかな」
取り残された足立は飄々とした様子でエイダと同じく階下へと下りる。
後に残されたのはモニターの前でニタリと口角を釣り上げるマナと、深い眠りに落ちるガッシュだけだった。
■
カツ、カツ、カツ――
灯りも満足に用意されていない階段を下るエイダ。
背後から何者かの気配を感じればすぐさま振り返り、浅い笑みを溢した。
「君、なんでさっきあんな事を言ったんだい?」
足立はエイダへと神妙な顔つきで問いかける。
それは純粋な疑問だ。足立は彼女の本当の目的を知っているからこそ、疑問が残る。
わざわざウルノーガ達の不信を買うような真似は傍から見ていても得策とは言えなかった。
「あの発言によって彼らの懐疑は私へ向けられた。けれど私は何もしない、ということよ」
「はぁ? ……なにそれ、どういうことだよ」
「いえ、『これ以上は』何もしないと言ったほうが正しいかしら」
「あのさ、そういうのははっきり言ってくれない? 性格悪いよ、キミ」
不敵な笑みを崩さぬエイダに足立は段々と苛立ちを募らせる。
そう、足立透とエイダ・ウォン――この二人は主催側にして、このゲームを破壊する為に動いていた。
もっとも一番露骨に反感の意思を見せていたガッシュにはそれは伝えていないが、今伝えたところで計画の邪魔になる予感しかしない。
そういった危惧もあり、エイダの計画に足立が協力するという形になっている。
「ジョーカー、という存在を知っているかしら?」
「ジョーカー? ……ああ、まぁね。このゲームで言うイウヴァルトとかネメシスとかだろう?」
「ええ。いわば殺し合いを円滑に進めるための駒。その役割を与えられた全員の名前を言ってみて」
「なんだい、急に。……さっき言ったイウヴァルトとネメシス、それにホメロスに……ああ、確かロボも改造されたんだっけ。それだけじゃなかった?」
予想通りの反応を示す足立にエイダは思わず肩を竦める。
一々癪に障る仕草に足立は頬を吊り上げながらエイダの言葉を待った。
「いいえ、もう一人居るわ」
「もう一人? そんなやつ……って、まさか――」
ようやく勘付いた足立はハッと顔を上げる。
そんな表情の変化を察してかエイダは答え合わせとばかりに彼の思考をなぞった。
「そう、私が用意したジョーカー――リボルバー・オセロット」
疑念が確信に変わったその瞬間、足立は息を呑んだ。
足立の視点からしてもリボルバー・オセロットという人物は謎が多い上、他の参加者と比べて目立たなかったからあまり注意していなかった。
まさかここでその名前が出てくるとは、と足立はほんの少し興奮を覚える。
ホメロス、イウヴァルト、ネメシス、ロボが殺し合いを円滑に進めるジョーカーならばオセロットはその逆。殺し合いを阻止、破壊するために参加者に紛れ込んだジョーカーだ。
リボルバー・オセロットは支給品の優遇は受けていない。しかし確かな”補助”は受けている。
全参加者、それぞれの世界についての情報はもちろんのこと、一番恩恵を受けているのは別だろう。
彼の首輪には特別なジャミング装置が仕掛けられている。
運営にとって不都合な情報を掻き消し、別の音声を流しカモフラージュできるすぐれものだ。
これは彼だけではなく彼の周囲の首輪にも適用され、これにより堂々とジョーカーにしか知り得ない内容を話そうとも一見自然な会話が成り立っているように見せられる。
おまけに神羅兵の何人かを買収しているため、早々勘付かれることはないだろう。
無論限界はあるため、それまでにゲームを破壊してくれることに期待するしかない。
そういった説明を受けた足立はなるほどと頷き、改めて目の前の女性の用意周到さに舌を巻いた。
「もちろん、これを知っているのは私と貴方だけよ。他の主催側は彼をただの一参加者だと思っているでしょうね」
「へぇ、そりゃいい。けどそれって上手くいくのかい? 宝条とかウルノーガならまだしも、マナってガキは心が読めるんだろう?」
「思考を読まれて困るほど単純な人間じゃないわ。それに、貴方もそういうタイプみたいじゃない?」
さも当然のように答え、あろうことか同意を求めるエイダに足立はくく、と低い笑みを漏らす。
ああ、確かにそうだ。あんなガキに理解できるほど自分の思考は浅くない。
足立透という人間は正常とは程遠い位置にいるのだから。
そうでなければ”こんなところ”に連れてこられなどしないだろう。
「それにしても意外ね。貴方が協力してくれるなんて」
「え? ……ああ」
恐らく要件は伝え終えたのだろう。
エイダの淡々とした口調に興味が乗り、流れる視線は理由を求めるように絡まる。
暫く間を置いて、足立はどこか空虚な表情で己の右手を見やった。
「気に入らないだろう? 僕にゲームで勝った彼らが、こんな下らないゲームで命を落とすなんてさ」
足立透という男を知らない人間からすれば理解できないであろう発言。
しかしそれは彼にとって紛れもない本音であり、彼を反逆に走らせる唯一の動機。
自分を打ち負かし、世界を救った彼らがこんなクソみたいな殺し合いで終わるなど――彼のプライドが許さない。
たったそれだけのシンプルな理由だ。
「……そう」
エイダは少しだけ驚いたように瞠目するもそれも一瞬。
また普段通りの不敵な表情に戻り、階段を下り始めた。
「そういう君はどうなんだい? なぜ殺し合いを壊そうと思ったの?」
遠ざかる赤い背中に足立の声が投げられる。
それを受けたエイダは二、三歩後に足を止め、黒髪をなびかせながら振り返った。
「――秘密よ」
【???/一日目 早朝】
【ウルノーガ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.???
※消滅後からの登場です。
【マナ@ドラッグ・オン・ドラグーン】
[状態]:愉悦
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを見届ける。
1.放送後の反応が楽しみ。
2.カイム、イウヴァルトへの期待。
※Aルートからの登場です。
【宝条@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:興奮、大きな興味
[装備]:なし
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを管理する。
1.今は仕事に専念する。
2.首輪への絶対的な自信。
3.セフィロス、我が息子よ――
※死亡前からの登場です。
【ガッシュ@クロノ・トリガー】
[状態]:気絶中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
0.気絶中
※ラヴォス撃破後からの登場です。
【足立透@ペルソナ4】
[状態]:苛立ち
[装備]:ニューナンブM60(残弾数5)@ペルソナ4
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.エイダと共にゲームを終わらせる。
2.リボルバー・オセロットへの期待。
※本編終了から数カ月後からの登場です。
【エイダ・ウォン@BIOHAZARD 2】
[状態]:健康
[装備]:???
[道具]:???
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.足立と共にゲームを終わらせる。
2.リボルバー・オセロットへの期待。
※本編終了後からの登場です。
最終更新:2024年10月06日 00:27