「ふひっ……ふひひひひひひっ……奏でましょう、あくまの調べを……」

狂気。
それを体現するかのような笑みを顔に貼り付けて、聖女だった存在は地に落ちた『破壊対象』に向けて何度も、何度もその手の槍を突き刺す。

「歌いましょう、貴方に贈るゴスペルソングを……」

「ギ……ギギィ……」

破壊対象、スカウターが苦悶の声を上げるたびに、聖女の顔はまるで好物のダーハルーネ産スイーツを食している時のようにいっそう晴れやかに染まっていく。
幾度となく繰り出された刺突によって、スカウターが動かなくなるまでに大して時間は要さなかった。
そして今しがた生きていた者の死を前にして、聖女セーニャの顔は再び曇りを帯びるのであった。



【スカウター@クロノトリガー 死亡確認】



それは、まったくの偶然であった。
スカウターの索敵能力の高さは、その身体の小ささや他者の会話を完全暗記して伝達できる頭脳もさることながら、大部分は音もなく空を飛べることに由来する。特に人間であれば、上空への警戒というのは前後左右に比べてどうしても薄くなりがちである。確かにセーニャはこの世界の多くの参加者の中でも実力者の部類に入る。しかしそんなセーニャであっても、自身に忍び寄るスカウターを発見できる道理などないはずであった。

しかしルッカにロボ、そしてカエルとの立て続けの戦闘で疲弊していたセーニャは先程まで気絶していたのである──ちょうど、仰向けの姿勢で。そして差し込む朝日や聞こえてきた定時放送によってふと目を開けた瞬間、偶然にもスカウターの姿が目に入ったのだった。ここまで同じ世界の者と立て続けに出会い続けているとなると、彼女らが出会うのももはや必然だったのかもしれない。


そして両者は激突する。
破壊の対象を見つけたセーニャと、セーニャを振り切って命令を遂行せんとするスカウターと──この衝突がスカウターの敗北という結末に終わることはすでに語った通りである。

まずセーニャは、黒の衝動に導かれるままに即座に魔力を練り上げメラゾーマを放った。雷属性以外の属性攻撃の通じないスカウターはそれを吸収する。
呪文が通じないと解ると同時に槍での攻撃に切り替えるセーニャ。対するスカウターは、魔法へのカウンター特技『超放電』を放つも、セーニャの着ている星屑のケープに備わる魔法防御力によって、その程度では足止めにすらならなかった。

攻撃が通用しないと分かり、迎撃よりも撤退を優先すべきと判断して急いで飛び立とうとするスカウター。ただしそれを許すセーニャではない。黒の倨傲によって片方の翼を一突きで貫く。翼を貫かれたスカウターは飛行能力を失ったために地に落ちた。

天と地の戦いは、相手の土俵へと落ちたその地点でもはや完全に決したも同然だった。


「……つまらない。もう壊れてしまいましたわ。」

さて、心ゆくまでスカウターの破壊を楽しんだセーニャだったが、スカウターが動かなくなるとどこか悲しげな表情を見せた。
あれだけ渇望していた破壊とは、終わってみれば何と虚しいものなのか。
言うなれば壊れた玩具を放り捨てる時のような感傷。破壊にしか快楽を見いだせないのなら、その時は必然的に到来する。


破壊とは無に向かう行いである。何かを破壊することで、もうそれを再び破壊することは出来なくなる。引いてしまったトリガーはもう戻せないのだ。
そして破壊の果てに待っているのは、もう何も破壊出来ない、究極的な無でしかない。

だが、破壊したものを破壊する前に戻せるのなら──それはまさに永遠の娯楽。
だからセーニャはこの殺し合いに優勝した時は時間の巻き戻しを願うのだ。そこに黒の衝動に巻き込まれる前に抱いていた願いが大きく影響しているのは間違いない。
助けるために殺す、から壊すために殺す、へのシフト。
黒の衝動に取り憑かれる前よりもその本質は筋が通っているように見えるのもまた何かの皮肉か。

「きっと壊しに行きますわ。だから貴方は、私を失望させないでくださいね……。」

嗚呼、世界樹崩壊前の世界への巻き戻しが待ち遠しい。
世界中に崩壊の影を落としたあの大破壊を、ウルノーガとホメロスを破壊した上で今度は自らの手で行なってみせよう。


そして今度こそ、この手で──


どれほど根強い狂気に苛まれてもなお、あの人を見つけて安息を覚えた直後に絶望のどん底に叩き落とされた、あの時の記憶は消えない。

あの人が命を懸けて私たちを守ってくれたように、私もあの人を守りたかった。
あの人が私にくれたものを、私もあの人に届けたかった。

もう二度と、あの時のような悲しみを背負わなくていいように。


──あの人を……お姉様を、破壊しよう。今まで味わった中でも何にも変え難い最大の虚無感。それは破壊が終わった後の虚無感もは違う類の悲しさだった。
でも、それならばきっと、それを与えてくれるものの破壊はどこまでも、どこまでも快楽に溢れるものであるはずだから。

【D-5 草原 /一日目 朝】

[状態]:HP1/7、腹に打撲 MP消費(大) 『黒い衝動』 状態
[装備]:黒の倨傲@NieR:Automata、星屑のケープ@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(確認済み、1~2個)、軟膏薬@ペルソナ4
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して世界樹崩壊前まで時を戻し、再び破壊する。

※世界樹崩壊後、ベロニカから力を受け継いだ後からの参戦です。
※ウルノーガによってこの殺し合いが開催されたため、世界樹崩壊前まで時間を戻せば殺し合いがなかったことになると思っていました。
※回復呪文には制限が掛けられていますが、破壊衝動のためにMPを回復呪文のために使おうとしません。
※ザキ系の呪文はあくまで生命力を奪う程度に留まっており、連発されない限り即死には至りません。
※放送は気に留めておらず、名簿を見ていません。




「……戻ってこないな。殺られたか?」

一方、スカウターを偵察に送ったイウヴァルトは、予定の時間より数分経ってもスカウターが戻ってこないことで見えない敵の存在を察する。便りが無いことが結果的にスカウターの最後の便りとなった。

隠密行動のエキスパートであるスカウターの居場所を特定して問答無用で殺したとなれば、かなりの実力者かつマーダーのスタンスであろう。
居場所の特定が偶然であったことを除けば、その推測はさしずめ間違っていない。

だが、ここでスカウターを失ったのはイウヴァルトにとってはかなりの痛手だった。
ハンターを要警戒対象だと認識できたのもスネークを騙し抜いたのも、どちらもスカウター無しでは成し得なかったことだ。

今しがた放送で名前を呼ばれていないということは、まだカイムは生きているということ。
カイムがどれだけ消耗しているのかは分からないが、自分の手札はなるべく温存しておきたいところだ。
ハンターやスネークと戦わなかったのも、スカウターの魔力を消費したくなかったというのが大きい。他のところで、それもできることなら、カイムや他の強敵と相討ちで死んでほしいところだ。
さもないと──

「……うっ……うああ……!」

嫌な記憶が頭を掠め、イウヴァルトは両目を抑える。

天空で激戦を繰り広げた時の、レッドドラゴンを操るカイムの姿が、死んだ後である今も目に焼き付いて離れない。
あの時、自分は自分の全てを投げ打って挑んだ上で敗北した。
自分はカイムにはもう勝てないと、嫌でも実感してしまった。

そしてカイムが一言も喋らなかったことが、何よりも辛かった。
一言でも良かった。
一言でもカイムの苦悶の声が聞こえていたならば。
一言でもカイムが俺を人間として責め立ててくれていたのなら。こんなにも奴を遠い存在だと思わなくて済んだかもしれなかったのに────


「……ぐっ!!はぁ……はぁ……」


嫌な記憶を振り払うように大地を踏みしめる。
大丈夫だ、慎重に立ち回ればカイムになど負ける余地は無いと、幾度となく自分に言い聞かせながら。

スカウターが使えないと分かったイウヴァルトはバックパックの中から1本の剣を手に取る。その剣の名は『アルテマウェポン』。宿敵カイムが今持っている剣と、ちょうど対立する形となる武器である。

そしてその剣を手に取るだけで、ブラックドラゴンと契約した時のように特別な魔力が身体に宿るのを感じられる。
それはその剣に装着された『マテリア』によるもの。そのマテリアについては、マナの手書きの紙媒体が付属していた。


『アナタにはやっぱり黒が似合うわ。違う世界の技術を無理に組み合わせちゃったせいで1回しか使えないから注意しなさいよ。』


余計なお世話だと言いたくなる注意書きの後に、歪な文字でこう書かれている。

『召喚マテリア(ブラックドラゴン)』

殺し合いの開始直後、その紙を確認したイウヴァルトは、全く聞き覚えの無い単語と聞き覚えのある名詞が羅列されていることに首を傾げた。

ブラックドラゴンを召喚?
こんな小さな珠に契約の竜を使役するチカラが込められているとでも言うのか?
その真偽を確かめようにも、1回しか使えないと書かれている以上は使うわけにはいかない。


その一度きりのトリガーは来るかもしれない時に備えて温存しておかなくてはならない。
カイムを他の奴らに殺させる計画が100%上手くいくとは思っていない。カイムの実力は自分が最もよく知っている。
だが他の奴らを捨て駒としてどんどんカイムにぶつけ続ければ、少なくともカイムの戦力は削がれていく。
そして万が一カイムと自分が衝突することになったら、その時こそ自分の全戦力を解放する時だ。
お互いに全力をもってえた場合の結末はあの天空戦で分かっている。だが、こちらだけが全力を出せる場合は勝機は充分にあると言えよう。
もちろん、カイムが死んだ場合も戦力を温存しておくことは残党の殲滅に使えるため、無駄になることはまず有り得ない。

ジョーカーとして支給品を優遇してもらっている地点でカイムよりは有利な立場に立っていたはずだ。今やスカウターは失ってしまったが、これ以上の戦力を失うわけにはいかない。

しかしスカウターを失ったのは戦力温存という視点から見てもかなりの痛手だった。スカウターは戦闘を避けるにはこの上ない偵察要員だったからだ。
これからは手探りで進まなくてはならない以上、どうしても必要な戦闘というのは出てくるだろう。
必要な戦闘はなるべく剣だけで──それも体力を減らしてアルテマウェポンの威力を落とさないようにできる限り避けつつ──来たる戦いに備えて生き延びねばならない。

さて、この先にはスカウターを殺したであろう正体不明の敵がいる。やはり見つかるのは避けたいところだ。

スカウターを送り込んだ経路からなるべく離れつつ回っていかなくてはならない。その過程で病院辺りを経由するとちょうどいいだろう。もし武器か何かが残っているのであれば、更なる戦力増強にも繋がるかもしれないのもある。

次の進路を決めたイウヴァルトは、脳裏に浮かぶカイムの影と戦いながらも病院へ向かう。
ただしそこは、イウヴァルトと同じく『ジョーカー』の位を持つ者の護る戦場なのであった……。


【D-6/草原/一日目 朝】


【イウヴァルト@ドラッグオンドラグーン】
[状態]:健康
[装備]:アルテマウェポン@FF7、召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)
[道具]:基本支給品、モンスターボール(空)
[思考・状況]
基本行動方針:フリアエを生き返らせてもらうために、ゲームに乗る。
1. 参加者を誘導して、強者(特にカイム、ハンター)を殺すように仕向ける。
2. 残った人間を殺して優勝し、フリアエを生き返らせてもらう。
3.カイムと戦うこととなった時のために戦力はなるべく温存しておく。

※召喚マテリアの中身を【ブラックドラゴン@ドラッグ・オン・ドラグーン】と勘違いしています。
※空っぽのモンスターボールは野生のポケモンの捕獲に使えるかもしれません。


【アルテマウェポン@FF7】
クラウドの最強武器。
マテリア穴は6つ。内連結部分は3。体力が多いほど威力が上がるという特殊効果がある。

【召喚マテリア(ブラックドラゴン@DQ11)】
アルテマウェポンに装着された召喚マテリア。使用するとブラックドラゴン@DQ11が現れ、一定時間共に戦うことが出来るが、1度使用すると使えなくなる。『テールスイング』『噛みつき』『おたけび』『はげしいほのお』の特技を使用する。ちなみにデルカダール地下水路に出現する個体。



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067:第一回放送 時系列順 069:夢の終わりし時
投下順
059:流星光底長蛇を逸す イウヴァルト 089:劣等感の果てに残ったもの
037:破壊という名の何か セーニャ 080:未知への羨望

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最終更新:2020年12月31日 23:35