(ここがホテルね)

 クレア・レッドフィールドは、なにごとも無くホテルに到着していた。
 バイクから降りて外観を眺めると、窓の数からして十五階以上あるとわかる。
 ヘルメットを置いて、慣れ親しんだ動物に対してそうするように、愛車のサドルを撫でた。
 駐車を任せる係員は出てこない。バイクはひとまず物陰に隠しておくことにした。

(警戒しすぎたかしら)

 クレアはラクーン市警を出てから、誰とも遭遇せずにいた。
 エンジン音を聞きつけた参加者と接触する可能性を考えていたのも、取り越し苦労だ。
 回転ドアを通過してフロントへと進む。派手すぎないインテリアからは、品の良さが感じられた。
 人の気配はしない。すこし警戒を緩めながら、歩を進めた。

「こんなときでなければ、ぜひ泊まりたいわね」

 軽口を叩きながら、クレアはフロントの台に両手をついて跳び越えた。
 そうしてフロントの内側に入り込むと、予想していたものを見つけて口角を上げた。
 トランシーバーだ。
 ホテルでは従業員同士の連絡手段として小型の無線機を用いるところもある。
 そのことを思い出したクレアは、まず無線機を探すことにしたのだ。
 トランシーバーの動作確認をしてから、デイパックにしまう。

「これでソリダスも不満は言わないはず。
 それにしても、我ながらカンの良さに驚くわ」

 再びデイパックを担いだクレアは、呆れたように呟いた。
 求めていた道具をピンポイントで入手できたのは、ラクーンシティでの経験のたまものだ。
 ゾンビに追われた経験は無駄ではない。そうレオンに話す想像をして、クレアは目を伏せた。

「レオン……」

――魔法を知らない人間が魔法に殺される瞬間って結構面白いのね。思わず笑っちゃったわ!

 第一回放送で、マナはレオンについてこう話していた。
 この内容から想像できるのは、レオンは状況を理解する間もなく殺されたということだ。
 魔法。パープルオーブを手にしたクレアは、もはやその存在を否定できない。
 しかし、レオンはそうではなかった。それを受け入れて飲み込むより先に、命を絶たれたのだろう。

 せめて遺体を弔いたいと思うも、現状では容易なことではない。
 クレアは思考を転換させるために、深く息を吐いた。

「それじゃあ、次はカメラね」

 クレアはホテルの監視室を探すことにした。
 ホテルの全室を回ることは、かなり時間のかかる行為である。
 しかし、シェリーを捜索して保護したいクレアとしては、時間をかけたくなかった。
 そのため、監視カメラを確認して、異常の見受けられた場所に向かおうと考えたのだ。

 フロントに設置されていた案内図をもとに監視室へ。
 監視室内には複数のモニターが置かれ、光を発していた。
 テレビをザッピングするように、映像を切り替えていく。
 ほとんどのカメラには、人影はおろか何の異常も映らない。

「あら?」

 ふと、クレアはモニターを操作する手を止めた。
 映し出されたものに、明確な違和感を抱いたからである。

「ここは……展望レストラン?」

 ホテルの最上階に位置する展望レストラン。
 そのフロアの中央に、木の箱が置かれていた。
 わずかな違和感を抱きつつも、それを一旦スルーしておく。

「どうしたものかしら」

 カメラを全てチェックし終えたとき、クレアの頭には二つの可能性が浮かんでいた。
 ひとつは“有用なアイテムが入っている”可能性。そしてもうひとつは“トラップである”可能性だ。

「……とりあえず、行くしかないわね」

 パープルオーブという前例もある。ここはリスクを取るべきだ。
 そう結論づけて、クレアは展望レストランに向かうことを決めた。

 エレベーターに乗り込み、十五階のボタンを押す。
 ほどなくして開いたドアの先に見えたのは、気品に満ちたレストラン。
 そして、中央に鎮座ましましている、雰囲気に似つかわしくない木製の箱だ。

 近づいて観察しても、箱である以上の情報は得られない。
 クレアは覚悟した面持ちで、フタに両手をかけて持ち上げた。
 木と金属のきしむ音をさせながら開いた箱を、おそるおそる覗き込む。
 すると、そこには『ハズレ』と書かれた紙だけがあった。

「はあ?」

 クレアは脱力した。肩透かし以外の何物でもなかった。
 これに込められた意図を推し量ろうとして、すぐに止めた。

「あのお子様の遊び心ってことかしら。下手なジョークよりもお粗末だけど」

 自然と乱暴な言葉づかいになりながら、クレアは窓際へと近づいた。
 せめて何か情報は得られないかと、眼下に広がる景色を見ようとした。

「あら、あれは――」

 その直後、クレアは愕然とした。
 紫色の閃光と同時に、眼下の建築物が崩壊したのだ。
 ひとつではない。いくつもの建物が、まるで積み木の家のように簡単に崩れた。
 もしあの場所に参加者がいたとしたら、まず無事ではないと確信できる規模だった。

(なんてこと……)

 クレアは窓ガラスに手を当てて、崩壊した区域を見つめた。
 あの規模の崩壊を起こすには、一般的な爆弾のひとつやふたつでは足りない。
 兄からの教えで銃火器の扱いを心得ているクレアはその分析に至り、戦慄した。

(あの崩壊にシェリーが巻き込まれていたら)

 そんな最悪の想像をしてしまい、クレアはぞっとした。
 すぐさま窓に背を向け、エレベーターへと駆け込んで、一階のボタンを押した。
 冷静さを欠いていることは自覚していた。あの場所に向かうのは予定外であることも。
 しかし、それでもクレアは止まれない。止まることはない。
 行動力という名のエンジンは、もう点火していた。


【F-4/ホテル/一日目 昼】
【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労(小)、不安
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0~1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2、トランシーバー×3@現実
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
0.E-4エリアの崩壊が起きた区域へと向かう。
1.E-4エリアの後、“八十神高等学校”へと向かう。いつか “セレナ”に寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。

※エンディング後からの参戦です。

【トランシーバー@現実】
現地設置品。
ホテル等で使用される、小型の携帯用無線機。乾電池式。
サイズは成人男性の手のひらに収まるくらい。色は黒。


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投下順
105:Discussion in R.P.D. クレア・レッドフィールド 129:クロス八十神物語


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最終更新:2025年01月04日 07:04