ラクーン市警のエントランスを背にして、ソリダス・スネークは葉巻を取り出した。
警察署内の押収物倉庫で発見した品物だ。サバイバルナイフで頭を切り落とし、古びたマッチで着火したそれを、ゆっくりと口に運ぶ。
「ふむ」
逸品だ。満足した声が漏れた。
そのままゆるゆると紫煙を味わいながら黙考する。
さきほど襲撃してきた怪物の素性、分身を作り出すことができる紫色の球の原理、そしてクレアが意識を取り戻した後の方針について。
「……チッ」
苛立ちまじりの舌打ちが漏れる。
どれひとつとして明確な答えに至らない。
それもそのはず、情報が圧倒的に不足しているのだ。
この殺し合いが開始して六時間近く、ソリダスはクレアと怪物以外の参加者に遭遇していない。
参加者と出会い情報交換をすることの重要性は、もともと予想はしていたが、クレアとの邂逅を経てなかば確信していた。
クレアがラクーン市警の構造を把握していたように、地図に記載された固有名詞らしき施設には、参加者の誰かと関係があるのだ。
「となると、やはり偽装タンカーは……」
二年前、ハドソン川を航行中に沈没したタンカー。
地図の偽装タンカーとは、海兵隊が極秘裏の演習のため偽装していた船のことだろう。
ソリダス自身はそのタンカーに乗船こそしていないが、なじみ深いものが載せられていた。
「メタルギアRAYが、ここに?」
水陸両用型二足歩行戦車、メタルギアRAY。
海兵隊の主導により試作された、メタルギアの亜種のひとつ。
その圧倒的な火力を持つ武装と、非常に高い索敵能力から、開発当初は空母の戦略価値が低下するとまで評された代物だ。
しかし、それがこの地図の偽装タンカーで入手できるとは考えにくい。もしメタルギアが操縦可能な参加者の手に渡ってしまえば、その瞬間から殺し合いは成立しなくなるからだ。
対処法を知るソリダスならいざ知らず、そうでない一般人が太刀打ちすることは不可能。十中八九ワンサイドゲームになる。
もちろん、主催者が強者による蹂躙を望んでいるとすれば別だが――
「――やめだ。妄想ばかり膨らませても仕方ない」
半分ほど燃えた葉巻を思い出したように咥えて直した。
そもそもの話をすれば、偽装タンカーは二年前にマンハッタン沖で沈んだはず。
主催者がどういうつもりで用意したのかは、現状では想像の域を出ないといえよう。
『ごきげんよう、みんな。殺し合い楽しんでる?』
いよいよクレアを叩き起こすことも考え始めたとき、放送が流れ始めた。
何が楽しいものかと毒づきながら、デイパックから名簿を取り出して眺める。
そのほとんどは知らない名前だ。しかし、いくつかは目に留まる名前があった。
――ハル・エメリッヒ。メタルギアの開発に携わっていた技術者で、シャドー・モセス島事件の後には反メタルギア財団を設立した人物。現在は偽装タンカー沈没事件の首謀者のひとりとして指名手配されている。
――リボルバー・オセロット。KGBやGRUなどの特殊部隊を渡り歩いてきた、拳銃の名手であり拷問のスペシャリスト。シャドー・モセス島事件以降は、ソリダスの指揮下で活動している。
「そして……」
――ソリッド・スネーク。元FOXHOUND隊員にして伝説の英雄。
アウターヘヴン蜂起、ザンジバーランド騒乱、そしてシャドー・モセス島事件。複数の事件で単独の潜入任務を行い、激闘の末に解決に導いたとされる歴戦の兵士だ。
それに加えて、伝説的な兵士ビック・ボスのクローンのひとり――すなわちソリダスの兄弟――でもある。
二年前のタンカー沈没事件の首謀者であり、タンカーと一緒にハドソン川に沈んで遺体も回収されたはずだが、この名簿が真実なら生還していたことになる。
「そうか」
ソリダスはどこか納得したように頷く。
その口元は、マナへの苛立ちなど忘れたように緩んでいた。
同一の遺伝子を持つ蛇が二匹、同じ殺し合いの場に呼び出されている。
その意味は何か。
「どちらがよりビッグ・ボスに近い優れた兵士か、この戦場で明らかになる」
戦場では常に弱い者から死んでいく。
殺し合いというイレギュラーな状況下だが、それでも戦場には違いない。
それならば、ここでどちらの蛇が優れているか、はっきりさせるのも面白い。
残り香だけになった葉巻を落とす。
「スネーク、貴様はどう動く?」
これまでソリダスは、主催者に踊らされている感覚があった。
しかし、ソリッド・スネークの存在を知り、確固たる目的が生まれた。
その瞳が活き活きとしだしたことに、おそらく本人も気づいてはいない。
「ソリダス!」
背後から掛けられた声に、ソリダスは振り向く。
先程まで疲労で寝ていたクレアが、エントランスから顔を出していた。
「ふん、ようやくお目覚めか」
「放送は聞けたわ。……あなたの知り合いはいた?」
「知り合いはいたが死んではいない。お前は違うのか?」
「……ええ」
わずかに沈痛な面持ちを作るクレアだったが、すぐに切り替える。
そして名簿を取り出すと、いくつかの名前にチェックを付けた。
「私の知り合いは三人。ひとりはレオン……放送で呼ばれたわ。
二人目は一緒にゾンビから逃げた、シェリー・バーキン。あとはシェリーの父親のウィリアム。
この三人よ。シェリーはまだ十二歳の女の子なのに、こんなことに巻き込むなんて……正気じゃないわ!」
憤慨して語気が荒くなるクレア。
その様子を冷ややかな目で見て、ソリダスは問うた。
「まさかそのシェリーを探しに行く、などと言わんだろうな?」
「ええ、そのつもりだけど?」
「今は戦力を集めて、主催者に対抗する集団を作り上げることが先決だ」
「……だったら?」
「無力な子供を探している余裕はない」
「そんな言い方……!」
反駁するクレアの声は、どこか力が無い。
それは内心で、残酷な現実を理解しているからだろう。
六時間で十三人が死んだ。多くの参加者が殺し合いを肯定している証拠だ。
このままのペースで進行していけば、一両日中には終了しかねないとすら思えるほど。
現在位置のわからない参加者を捜索するのがどれほど困難かは、想像に難くない。
ソリダスはラクーン市警の建物を見上げた。
「ここで武器を調達してから動くつもりだったが、時間が惜しい。
まずは頭数からだ。移動しながら、主催者に対抗できるだけの人数を集める」
「だったらそのついでにシェリーを探したっていいでしょう?」
食い下がるクレア。
しかしソリダスは呆れたように溜息を吐いた。
「私の考えがじゅうぶんに伝わっていないようだな」
それも無理はない。ソリダスとクレアが邂逅してからわずか数時間。
当然ながら、お互いの思考や思想を把握する段階には至らない。
そう理解しつつ、ソリダスは自らのスタンスを伝える。
「“無力な子供”は“戦力”にはならない」
「なっ……」
絶句するクレア。
ソリダスの言葉は、無力な存在を切り捨てる宣言だ。
「お前の話では、シェリーは銃も握ったことのない、か弱い子供なんだろう?」
念を押すように問いかける。
少年兵として武器を持ち、戦場を駆けまわる子供も存在する。
それゆえに、子供だから無力という先入観が危険であるのは確かだ。
しかし、子供をそれ相応の兵士になるまで育成するのには、時間がかかる。
兵士や工作員として育てられ、また自らも少年兵を育て上げてきたソリダスは、その労苦が身に染みている。
「戦場を経験していない無力な子供がいたところで、邪魔になるだけだ。
必要なのは戦力、情報、そして首輪を解析して外す能力。それは理解できるだろう?」
「……」
沈黙を肯定と受け取って、ソリダスは続ける。
「あらためて言おうか?既に死者が何人も出ている。
この状況で小娘を捜索して、かつ保護するとなれば、かなりのリスクだ。
ここでシェリーのことは一度忘れて、今は戦力と情報の確保に動くべきだ」
「……それなら私は」
クレアの口から言葉が紡がれようとした瞬間。
「――それは早計かもしれませんよ、キング」
介入する第三者の声。
加齢により枯れ始めたその声に、ソリダスは聞き覚えがあった。
「オセロットか」
「ご無事でなによりです」
うやうやしく頭を下げる老人がそこにいた。
いや、見た目は老人だが、その実は優秀な軍人だ。
肩口まで伸ばした白髪、ダスターコートに拍車付きのブーツ。
そして、左手にはSAA(シングル・アクション・アーミー)。
その名はリボルバー・オセロット。ソリダスの同志がそこにいた。
「無事なものか。首輪で命を握られて、まともな武器すらもない」
「ならば、ここで会えたのは僥倖でしたね」
不敵な笑みを浮かべるオセロット。発言の真意が分からず、ソリダスは目を眇めた。
「強力な兵器でも支給されたのか?」
「いえ。私が持つのは、使い方次第で強力な武器となり得るものです」
「……情報か」
「ええ。さっそく話を……と言いたいところですが」
背後にいる黒人男性をちらと見るオセロット。
いかにも力自慢という風貌の男だが、その顔色は優れない。
「まずはこの男の傷の処置をしておきたいのです。情報交換はその後に」
「なら、私が手当てをするわ。その間に話していたら?」
「そうか。手早く済ませることだ」
「ではキング、まずは名簿から――」
ソリダスはオセロットの手腕を買っていた。
有益な情報を与えてくれることに、わずかほどの疑いもなかった。
□
無事な照明が少なく、薄暗いラクーン市警のホール。
そこで、クレア・レッドフィールドはバレットの肩に包帯を巻いていた。
バレットの肩の傷は、怪物に噛まれたものらしく、何らかの毒かウイルスに感染した危険性もあるという。
そこでクレアは、怪物の特徴を聞き出し、それをラクーンシティに出現したゾンビに似た個体だと判断。
まずは署内に点在していたブルーハーブを集め、すり潰して粉末状にすると、バレットに飲ませた。
その流れで、署内に置かれていた包帯で簡単な処置を施していたのだ。
「嬢ちゃん、ずいぶん手際がいいな」
「傷の手当てなら何度もしたもの。主に自分のね」
「それもだが、ハーブの調合も手慣れたもんだ」
クレアはソリダスが集めていた分のグリーンハーブやレッドハーブも調合していた。
ラクーンシティでの事件の際に何度もした作業であるがゆえに、片手間でもできる。
しかし、その事実を知らないバレットからすれば、異質に見えたかもしれない。
「あぁ……たまたま兄に教わってたの。
また活きる日が来るとは思ってなかったけど」
クレアは兄、クリス・レッドフィールドのことを思い出す。
ラクーン市警の特殊部隊『S.T.A.R.S.』に所属しており、護身のためにと沢山の知識と技術を与えてくれた、頼れる存在だ。
その過程で教わっていたハーブの調合方法が、今またこうして活きるとは。
「いい兄貴を持ったんだな」
「そうね」
たとえ初対面の相手でも、兄を褒められて悪い気はしない。
それだというのに、クレアは手当ての最中ずっと、複雑な面持ちを浮かべていた。
その原因はバレットではなく、今もエントランスの近くで情報交換を続けている、二人の男性だ。
耳をすませると、二人の会話が途切れ途切れに聞こえてくる。
「この名簿……奴ら……まで……」
「……ええ……かなり……でしょう……」
「だが……何を……タンカー……メタル……」
「もしかすると……かも……」
お互いを“キング”と“オセロット”と呼び合う二人。
どうやら知り合いのようだが、会話には親しげな雰囲気や気安い応酬は見られない。
どちらかと言えば、主従関係やビジネスライクな関係性といったところだろうか。
オセロットのもたらす情報が、ソリダスの行動方針を決定する可能性もある。
そのため、クレアとしては会話内容が気になるのだった。
「うさんくせえ」
「え?」
「そう思ってるんだろ?わかるぜ。
身のこなしも態度も、耄碌したジイさんじゃねえ。
少なくとも戦闘に関しては玄人だ。これだけは保証するぜ」
オセロットの実力を認める発言に、否定的な意見が飛び出すとばかり思っていたクレアは面食らう。
バレットの言葉には、単なる予測や推理を越えた実感が込められていた。
「……オセロットは信頼できるの?」
クレアは核心を突くために問う。
これまでの会話で、クレアはバレットの直情径行を察していた。
そしてどうやら、バレットたちが信頼し合って同行していたわけではないということも。
「信頼?これっぽっちもしてねえよ!」
「しっ!声が大きいわ」
激昂するバレット。遠巻きのソリダスとオセロットが、会話を止めてこちらを見た。
やはり直情的だと、クレアは内心で溜息をついた。
「そっちこそ、ソリダス……だったか?
あいつは信頼するに足る人間なのかよ?」
「……ソリダスがマナを打倒しようとしているのは、間違いないわ」
クレアは自分でも煮え切らない言い方だと感じた。
案の定、バレットにも怪訝な顔をされる。
「なんだ?ヘンな言い方だな」
「弱者を切り捨てる、そのやり方が気にくわないだけ」
クレアはつい先程のソリダスの態度を思い出して歯噛みした。
ラクーンシティで出会い、守り抜いたシェリーが、今また危険な事態に巻き込まれている。
まったくもって看過することのできない問題だ。
「あの男となにかあったのか?」
「そうね……」
クレアは滔々と話した。
シェリーのことやソリダスとの会話、そしてソリダスと自分の行動方針の違い。
全てを語り終えたとき、腕組みをしたバレットがにやりとした笑顔を向けてきた。
「……なるほどな。嬢ちゃんは信用できそうだ」
「嬢ちゃんなんて呼び方はやめて。私はクレアよ」
「ああ、悪かったな」
笑顔のまま続けるバレット。
痛みでわずかに顔をしかめながら、ゆっくりと告げた。
「もし俺がクレアと同じ立場なら、同じことをすると思うぜ」
そう前置きして、バレットは娘のマリンのことを話し始めた。
友から託された一人娘は、バレットにとって戦場を駆け抜ける原動力であったという。
その愛情の込められた話しぶりから、クレアはバレットのことを信頼してもいいと感じた。
「これからどうしようかしら……」
「手当ては終わったか?」
いつの間にか近くにいたソリダスが、クレアへと問いかける。
「ええ。傷自体は深くないわ。ハーブがどれだけ効くかはわからないけど」
「そうか。ひとまず様子見だな」
口ではそう言いながら、バレットに視線を向けようともしないソリダス。
まるで心配していないかのような対応に、クレアは不信感を強めた。
「それはそうとクレア、今は何年だ?」
「え?1998年でしょう?」
「……なるほど」
わずかに息を呑むような表情を見せたソリダス。
殺し合いと関係なさそうな質問に困惑していると、続いてソリダスの背後にいたオセロットがバレットに問いかけた。
「バレット、君にとって今は“西暦”何年だ?」
「セイレキ?なんだそれ」
「そうか……」
腕組みをして考え込むソリダス。その眉間には深いシワが刻まれている。
まるで難しい議題について考える、大学教授のようだ。
「どうでしょうか、キング」
「ふむ……信じるしかあるまい」
傍らのオセロットに促されて、軽い溜息と同時に呟くソリダス。
その口から出て来た単語に、クレアは自身の耳を疑った。
「タイムマシンの存在を」
□
ソファに腰掛けたバレット・ウォーレスは、ゆっくりと左肩を回した。
調合されたハーブのおかげか、痛みはずいぶん和らいできたが、まだ違和感が残る。
ふとしたときにズキリと響く痛みに集中が切れそうになりながら、ソリダスの話に耳を傾ける。
「情報を整理するとこうだ。
この殺し合いに参加させられている人間は、違う時代から集められている。
クレアは今が1998年だと言ったが、私とオセロットにとって今は2009年だ」
「2009年!?」
「それだけではない。バレットは西暦が通じなかった。
あり得るのかわからないが、西暦が存在しない時代から来たと考えるほかない」
「なんの話をしてるかサッパリだ」
聞きなれない単語に疑問を投げたバレットは、ソリダスに睨まれて口を噤んだ。
余計な時間を取らせるな、と言わんばかりの眼光だ。
「……つまり、今この場にいる数名だけでも、過ごしている時間にズレがある。
全員が本当のことを話しているとすると、この矛盾を解消する答えはひとつしかない。
殺し合いの主催者は、いわゆるタイムマシンのような、時間を移動する手段を持っている」
「デロリアンは実在した、ってわけね」
「にわかには信じがたいが、そういうことだ」
デロリアンが何者か分からないが、質問したところで再び睨まれるだけだと察して問うことはやめた。
「納得がいっていないようだな、バレット」
「……当然だろ。タイムマシンだかなんだか知らねえけどよ」
「例えば私のいた時代では、タイムマシンは実現していない。
お前はどうだ?バレット・ウォーレス。過去や未来に行き来できる手段に、心当たりはあるか?」
ソリダスからいきなり意見を求められて、バレットは面食らった。
これまで冒険をしてきて、不思議な出来事にいくつも出くわしたが、時間を移動するとなるとかなり壮大だ。
大都市ミッドガルの巨大企業である神羅カンパニーであれば、そうした実験をしていても不思議ではないが、あいにくと噂のひとつも聞いたことがない。
実際に潜入したときも、そのような実験や資料は目にしなかったはずだ。
「……いや、ピンと来ねえな」
「そうか。だがこう尋ねたらどうだろうな。
参加者の名簿に、死んだはずの知り合いがいないか?」
「…………まさか」
バレットはしばらく考え込み、やがて気づいた。
時間を移動するタイムマシンは、過去や未来を行き来できる。
クレアにとってオセロットやソリダスは未来の人間だ。その反対も然り。
主催者たちがタイムマシンを利用して、参加者を誘拐しているのだとすれば。
「死んだ奴が生き返ったんじゃなくて……」
「エアリス・ゲインズブールやセフィロスは、お前にとっての過去から集められた、ということだ」
「マジかよ……」
バレットは口をへの字にした。
死者が生き返った仮説よりは、信憑性があるように思えてしまうからだ。
それと同時に、さきほどのオセロットへの怒りがふつふつと湧いてきた。
「テメエ、わかってたんなら言いやがれ!もったいぶりやがってよ!」
「君は今の話を私からされて、素直に信じたか?」
「ぐ……」
バレットは立ち上がりオセロットに詰め寄るも、問いに即答できずに黙り込む。
そのまま口を開かず、再びソファへと腰を下ろした。
「どうやら納得したようだな。……では続きだ。
この殺し合いを主催している連中は、一枚岩ではない」
「どういうこと?」
「まず、この殺し合いを開催した主催者には、明確な目的がある。
単なる見世物がしたいだけなら、適当な人間を金で釣って殺し合わせればいい。
だがこの殺し合いでは、わざわざ年齢も国籍も異なる多くの人間を“誘拐”している。
裏返せば、大きなリスクを負ってまでも、実現したい明確な目的があると考えるのが妥当だろう」
「たしかに、リスクが高すぎるわな」
バレットはソリダスの意見に得心した。
バレットとて裕福な暮らしをしているわけではない。生活に困窮して、金のために動く人間がいくらでもいるのは理解している。
そうした人間を集めて、金銭を報酬に殺し合わせることは、難しくないように思える。
しかし、そうではない。バレットは望んでここに来たつもりは毛頭ないのだから。
それは仲間たちも、クレアも同様だろう。
「それがどうして、一枚岩じゃないことになるの?」
「まあ待て、結論を急ぐな。
……参加者が明確な目的のもと、異なる時代から集められているとする。
そうだとすれば、主催者の連中も異なる時代から集まったと考えた方が自然だ。
これには推測も含まれるが、根拠はある。最初に集められたとき、主催者同士で意思疎通ができていない素振りを見せていたのがそれだ」
「そういえばそうね。勝手なことするなとかなんとか……」
バレットは、少女が異形の男に諫められていたことを思い出した。
諫め方も冗談めかしたそれではなく、冷酷な声であったのを覚えている。
「この殺し合いが異常に大掛かりな計画なのは間違いない。
それを計画した主催者の中で、意思疎通ができていないなんてことがありえるか?」
「いろんな時代から集められたから、一枚岩になっていないんだろうってことね」
「そうだ。おそらくは目的も微妙に異なるのだろう。
先程の放送からも、マナが殺し合いを楽しむ異常者であるのは間違いない。
しかし、動機がそれだけなら、やはり大勢の人間を誘拐するリスクを選ぶ必要はない」
「じゃあ他の動機って?」
「そこまでは不明だ。情報が足りない。
せめてウルノーガと呼ばれていたあの男を知る者がいれば、情報も手に入るだろうが」
「結局のところは、情報が足りていないのが現状ですな」
オセロットの言葉に頷いてから、仰々しく腕を振り上げて語り出すソリダス。
「さて、ここからが本題だ。
われわれは主催者に対抗するための集団を作り上げる。
改めて告げるが、必要なのは戦力、情報、そして首輪を解析して外す能力。
そして先程までは“無力な子供”は“戦力”にならないと考えていたが、認識を改める必要がある」
そこで一呼吸おいて、クレアを一瞥するソリダス。
「この殺し合いの参加者が主催者の目的を叶えるために集められたのだとしよう。
そうだとするならば、参加者ひとりひとりに、集められた理由があると考えるべきだ」
「つまり?」
「すべての参加者が重要な“鍵”になり得るということだ」
「“鍵”ねえ……」
バレットは考える。ソリダスの例えは抽象的で不明瞭だ。
しかし、言わんとすることは理解できた。にやりと笑みを向ける。
「ようするに“無力な子供”も見捨てずに助けるってことだろ?」
その態度を見て、ソリダスは肩をすくめた。
「あくまで合理的な思考の下にな」
「それならうだうだ議論するより、サッサと動こうぜ」
一言余計だと鼻を鳴らして、バレットはソファから立ち上がる。
クラウド、ティファ、そしてエアリス。
仲間たちはまだ生きている。彼らと合流できれば、心強いことこの上ない。
「俺の仲間が行きそうな場所なら心当たりがある。
D-3エリアのカームの街だ。橋を渡るのはリスクだが、誰かいるはずだ」
仲間の誰かがそこにいる。バレットは言葉とは裏腹に、強い確信を抱いていた。
最初は橋を渡る危険性を考えて躊躇していたが、名簿を見て行く理由が強まったのだ。
どうしてもそこに行きたいと、語気も荒めに提案をしていると、ソリダスが溜息をついた。
「話に聞いたとおりだな、バレット」
「あん?」
「下手な鉄砲も数撃てば、とは言うが……むしろ百発百中の魔弾であって欲しいものだ」
「……なにが言いてえ」
バレットはソリダスを睨みつけたが、その視線は自然に受け流される。
代わりに返答したのはオセロットだ。
「キングは下手を打つなと言っているんだ。
バレット、君はいささか感情的に動くフシがあるからな」
「まあ、わかる気がするわ」
「んなっ……!」
クレアからも短絡的と言われ、バレットは動揺で言葉を詰まらせる。
「まずはその腕を取り付けることだな。
タンカーには行けなかったが、ここでも簡単な工具はあるかもしれないぞ」
「簡単に言ってくれるぜ……」
オセロットの無責任だが的を射た発言に、バレットは舌打ちしたい気持ちになった。
アリオーシュとの戦闘でも、両腕が使えていればより有利に立ち回れたはずだ。
とはいえ、ここから工具を探して取り付けるには、時間がかかりすぎる。
考えあぐねるバレットに、思わぬ援護が来た。
「それなら、私に任せてくれないかしら。
正直なことを言うと、最初に見たときから気になっていたのよね」
クレアがデスフィンガーをまじまじと見ていたのだ。
続けてバレットの右腕をじっくりと観察する。その眼はどこか輝いていた。
「任せるって、どういうことだ?」
「こう見えても、バイクいじりが趣味なの」
同世代の女子よりは機械に詳しい、と語るクレア。
十数分後、クレアの手つきに怯えながらも、どうにかデスフィンガーを装着できたバレットは、安堵していた。
流石にピッタリではなかったが、動かす内に慣れる程度の違和感しかない。
「任せてよかったでしょう?」
「……まあな」
得意気なクレアと対照的に、バレットはどこか生返事だ。
義手の接続が上手くいくかどうか、最後まで神経を張り詰めていた反動だった。
「話が逸れたな。続きだ」
冷静というよりむしろ冷酷なソリダスの声に、バレットは現実に引き戻された。
軽く右手を動かす。無骨な見た目をしたデスフィンガーから、わずかに軋む音がした。
□
リボルバー・オセロット。
この殺し合いの破壊を、秘密裏にエイダ・ウォンから依頼されたジョーカー。
簡単な任務ではないと理解していたが、それにしても難易度が高いと、六時間以上経過して痛感していた。
まずは対主催者の集団を作り上げるのが順当だと考えていたが、死者が出るペースが予想以上に早いのが現状だ。わずか六時間で十三人。仮に同様のペースで死者が増えるとすれば、正午までに参加者は六割近くにまで減少する。
殺し合いを円滑に進めるための『ジョーカー』が存在することは知らされていたが、充分すぎるほど機能しているようだ。
それでも、ラクーン市警で既知の参加者であるソリダス・スネークと合流できたのは僥倖であった。
ソリダスはかりそめとはいえ合衆国大統領を務めた男であり、ビッグ・シェルを武力制圧する際には、ロシアの私兵部隊と対テロ演習仮想敵部隊デッドセルとの混成部隊『サンズ・オブ・リバティ』をまとめ上げていた。
主催者を打倒するための集団、その先頭に立つには適任だ。
「参加者の情報は覚えたな?」
「ええ、なんとかね」
「とにかくセフィロスには気をつけろ!」
三人が話している情報とは、もともとの知り合いについての情報のみだ。
オセロットがエイダから与えられた参加者の情報は、「名前と元の世界での素性」という限定的なもの。
アリオーシュに『みやぶる』のマテリアを使用したと偽装したときも、名前と外見から判断できる内容だけを話していた。
オセロットは、バレットやソリダスには直接スパイであることを伝えたが、全ての参加者の情報までは与えていない。
その理由の一つは、首輪のジャミング装置の範囲が狭いためだ。
ソリダスとオセロットが別れたあとで、不自然な発言が盗聴された場合、スパイの存在を主催者に疑われる危険性がある。
「やはり首輪は盗聴されている可能性が高い。
主催者を打倒する宣言くらいでは、即首輪を爆破とはならなかったが……
反抗の具体的な計画や核心的な情報については、筆談をした方がいいだろうな」
そしてもう一つは、参加者がこの舞台において、どのように動くかまでは分からないためだ。
不確定な情報は思い込みを誘発する。そして、思い込みはミスの原因となる。
この舞台においてミスは命取りだ。
「そして次は目的地を決める」
すっかり場をコントロールしているソリダス。
そのカリスマ性は、遺伝子に刻み込まれたものなのだろう。
まるで戦場の指揮官のように、広げた地図に手を乗せて今後の行動を指示する。
「探索のため二方向に分かれる。北西の島へ向かう組と、東へ向かう組だ。
北西の島へ向かう組はバレットとオセロット。“カームの町”を中心に探索をしてもらおう」
「またコイツとかよ……」
バレットの愚痴を、オセロットは聞き流した。
もとよりカームの町を目指そうとしていたバレットからは、もちろん反論は出ない。
「そして、私とクレアは東側へ向かう。
最終的な目標は“八十神高等学校”。道中は二手に分かれるぞ。
私はこの“偽装タンカー”に立ち寄って確認しておきたいことがある」
ソリダスの目的はメタルギアRAYに違いない。
その推論は妥当だ。事実、オセロットもその考えが頭をよぎった。
しかし、あまりにも強力な兵器を、主催者が簡単に手渡すとは思えなかったため、その発想は捨て置いた。
ソリダスも期待半分といったところだろうが、確認をしておくのは損ではない。
「クレアは地図の南端を移動して、この“セレナ”と“ホテル”を見て回れ」
「それはいいけど……かなり時間がかかるわよ?」
「安心しろ、移動手段は見つけておいた」
ソリダスは懐から取り出したものを、クレアに向けて放り投げた。
受け止めたクレアの顔は驚きに染まる。
「これって……私のバイクの鍵!」
「警察署の裏手に置いてある。動作には問題ない」
「……ありがとう。助かるわ」
反応を見るに、クレアはソリダスのことを信用しきってはいないようだ。
とはいえ、指示に異を唱えるほどの不信感でもなく、微妙なところか。
「欲を言えば、連絡を取り合うための無線機が欲しいところだな。
それも含めて、探索及び参加者との接触、そして情報の共有だ。
人員は多いに越したことはない。できる限り戦力を集めるように」
バレットとクレアの二人も、無言で頷いた。
強権的な態度のソリダスだが、その提案は妥当なものだ。
目的を同じくする以上は、二人が裏切るメリットもない。
「いいな、我々は主催者を打倒する!
我々は“サンズ・オブ・リバティ(自由の息子達)”。
このふざけた殺し合いを破壊し、自由を手に入れるのだ!」
熱のこもったソリダスの号令を最後に、エントランスは空になる。
オセロットは表面上で冷静を装いながら、全く安心していなかった。
主催者に対抗するための集団を作り上げるまでには、かなりの時間がかかる。
死者が出ているペースを考えると、あまり悠長ではいられまい。
考えれば考えるほどに、達成不可能に思えるミッション。
あの伝説の男ならば、どう対処するのだろうか。
オセロットは銃把の感触を確かめた。
【F-3/ラクーン市警/一日目 午前】
【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、T-ウイルス感染(?)
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0〜1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。
※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲みました。T-ウイルスの発症がどうなるかは後続にお任せします。
【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×2)、ハンドガンの弾×22@BIOHAZARD 2、替えのマガジン2つ@METAL GEAR SOLID 2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
2.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。
※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)を得ています。
【クレア・レッドフィールド@BIOHAZARD 2】
[状態]:疲労
[装備]:サバイバルナイフ@現実、クレアのバイク@BIOHAZARD2
[道具]:基本支給品、不明支給品(確認済み 0〜1個)、パープルオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2
[思考・状況]
基本行動方針:対主催の集団を作り上げる。
1.“八十神高等学校”へと向かう。道中で“ホテル”と“セレナ”にも寄る。
2.シェリー・バーキンを探して保護する。
3.首輪を外す。
※エンディング後からの参戦です。
【ソリダス・スネーク@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:バタフライエッジ@FF7
[道具]:基本支給品、壊れたステルススーツ@METAL GEAR SOLID 2、薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2
[思考・状況] 基本行動方針:バトルロワイアルの打破と主催の打倒。
1.主催者に対抗するための集団“サンズ・オブ・リバティ”を作り上げる。
2.“八十神高等学校”へと向かう。道中で“偽装タンカー”にも寄る。
3.殺し合いに乗った者は殺す。
4.首輪を外す。
5.ソリッド・スネークよりも優れた兵士であることを証明する。
※主催者を愛国者達の配下だと思っています。
※ビッグ・シェル制圧して声明を出した後からの参戦です。
※地図上の固有名詞らしき施設は、参加者の誰かと関係があると考えています。
【共通備考】
※ソリダス、クレア、バレット、オセロットの四人で、参加者の情報を共有しました。
※支給品の譲渡を行いました。
バタフライエッジ:バレット→ソリダス、弾薬:クレア・ソリダス→オセロット、サバイバルナイフ:ソリダス→クレア
※主催者はタイムマシンのような時間を移動する手段を持っており、また主催者たちが異なる時代から参加者を集めたのには、何らかの目的や理由があると考えています。
【クレアのバイク@BIOHAZARD 2】
現地設置品。ラクーン市警内に設置されていた。
クレア・レッドフィールドの私物である大型バイク。車体は赤。
ガソリン満タン。リメイク版では「ハーレー・ダビッドソン」のロゴが書かれている。
【薬包紙(グリーンハーブ三つぶん)@BIOHAZARD 2】
現地調達品。
クレアがグリーンハーブを三つ調合して作成した回復薬。
ちなみに、ラクーンシティの住民のほとんどが、ハーブを調合できるらしい。
最終更新:2024年08月24日 21:23