イシの村を後にして30分と少しして、魔王たちがたどり着いたのは、廃墟だった。
外からの見た目は、城を彷彿とさせるほど大きい。
魔王が拠点としていた城や、サクラダの知るハイラル城に比べればそこまでは大きくない。
だが、少なくとも町の屋敷よりかは土地を広く占めているだろう。


「ンマ~、ボロボロの建物ね。何か争いでもあったのかしら?」


だが、城に見られるような荘厳さはない。
壁は苔むしており、所々が崩れている。
屋根もボロボロになっており、よほどの廃墟マニアでなければ、紹介すべき建物でもない。


「いや、この場所は元の世界でもこのような有様だった。」


魔王が元の世界で、この場に来たのは10年ほど前。
自分に挑んだ英雄サイラスの遺体を運び込んだ時のことだ。
だが、彼が目当てにしているのは、彼に関係することではない。
廃墟の奥にある、封印された宝箱だ。
現在魔王たちが探している、6色のオーブ。
全て集めることで、新しい可能性が開かれるという。


「うわっ、かび臭いニャ~。」
「辛気臭い建物ね~。これを直そうとする大工はいなかったのかしら?」
「直すぐらいなら、新しい建物を作った方が手っ取り早いだろう。」


人を集めるに至っては、お世辞にも向いているとは言えない場所だ。
だが来訪者たちを追い返そうとするのは、臭いや雰囲気だけではない。


「ここってオバケとかが……で、出たニャ!!」


階段を登り2階の広間に出た所、突然オトモが大声で叫んだ。
どこからともなく、武器を持った骸骨の魔物が現れる。
動いているだけではなく、骨の色が赤や紫の時点で、ただの骸骨ではないことが伺える。
槍を持った骨の魔物、ボーンナムに、鎌を持って空を飛ぶ骸骨、アナトミー。
生ある者を自分たちの仲間に加えようと、一斉に襲い掛かって来る。


「消えろ。」


魔王がパチンと指を鳴らすと、辺りに爆炎のドームが出来る。
侵入者を排除しようとする者達が、皮肉なことに魔王の領域への侵略者となってしまった。
炎の空間に無断で入った不埒物は、瞬く間に炎の洗礼を受けることになる。
勿論、中心部にいる3人は巻き添えを食わない。
1体を除いて、骨の魔物たちは全て火葬される。
勿論、1体殺さなかったのは魔王がドジを踏んだわけではなく、考えあってのものだ。
その圧倒的な強さに、オトモとサクラダはただただ息を飲むしか無かった。


「さあ、私に従ってもらおうか。」


魔王がその手を、一匹のボーンナムに伸ばす。
彼は中生に飛ばされてきてから、大きいものや小さいもの、いくつもの怪物を力で従えて来た。
だが、骸骨は魔王の言葉を無視して襲い掛かって来る。
最後まで戦う事しか知らぬ骨の魔物は、鎌で両断された。


「………。」


事もなく魔物の一団を殺した魔王の表情は、どこか物憂げだった。
元々明るい表情ではない彼だが、眉間の皴がいつもの3倍は寄っているので、嫌でも察することが出来る。


「魔王の旦那、さっきのヤツに何かやられたかニャ?」


彼の表情を慮ったオトモが、心配そうに声をかける。


「気にするな。考え事ぐらい、好きにさせろ。」
「ねえ、ちょっとちょっと。」


不意にサクラダが、話を切り替える。
彼の視線の先に会ったのは、床に大きく空いた穴だ。
しかもいやらしいことに、丁度扉の近くに広がっている。
これでは、次の部屋に行くことは不可能だろう。


「魔王ちゃん、ずっと空を飛んでいるでしょ?アナタ一人で行けないの?」
「無理だ。そもそも飛んでいるのではない。魔法で床より少し上を浮いているだけだ。それに……。」


お前達2人だけの時にまた奴等が出たらどうする、と言おうと考えたが、自分の言葉ではないと思い、口をつぐんだ。


「よく分からないけど、アタシがすぐに修理するわ。」
「出来るのか?」
「うん。さすがにここまで大きい建物を全部改築することはムリだけど、これぐらいなら出来るわよ。」


そう言うとサクラダは、意気揚々と作業を始めた。
オトモは手伝おうとするが、彼は名前の最後に『ダ』が付いていないので、彼の仕事には手伝えないと言われた。


(………願いを叶えてもらうのは、不可能かもしれんな。)


魔王が考えていたのは、この世界の杜撰さだ。
元の世界にあった北の廃墟に眠っていた武具を手に入れなかったのは、理由がある。
それは廃墟の宝箱の多くが、強力な魔力によって封印されていたのもあるが、それだけではない。
廃墟に現れるありふれた魔物達が、どうにも強すぎるのである。
自分や3大将軍のソイソーやマヨネーを以てすれば1体や2体ぐらいは倒すことは可能だ。
それでも、高い身分であった自分らが辺境の地で時間を使い潰すことは出来ないし、適当な雑兵を送ればあっさり返り討ちに遭う。
だから、自分に挑んだ英雄の死体置き場にして、以降は北の廃墟には手つかずだった。


だというのに、この手ごたえのなさは、否定できない違和感があった。
魔法一発で、一瞬で消えていく魔物達。
勿論、会場に巣食う怪物たちよりも、参加者同士で戦って欲しいということだと解釈できる。
だが、魔王は別の角度から、この場にいる敵が弱い理由を考えていた。
それは、『主催者の能力の不足』という理由だ。


マナやウルノーガ、はたまた彼女らの協力者は、幾つもの異なる世界から参加者を呼び寄せた。
そして、様々な世界をつなぎ合わせた殺し合いの会場も創設した。
凡愚、否、相当の才に溢れた者でさえ出来ないことを、平然とやってのけた。
死者の蘇生に新たな世界の創設。神に見紛う行為といっても過言ではない。一見は。


しかし、ブルーオーブのような、本来あるはずのない場所にある道具。
姿形は同じなのに、妙に実力のない魔物。
各世界の細かい所に目を配れば、辻褄の合わない所が少なからず存在する。
尤も、オトモやサクラダ、凡百の参加者にとっては、そうだとしても然程問題はないだろう。
だが、魔王にとっては、主催者によって2度目の命を貰った者には、問題なのだ。


(……私は、私なのか?)


一見、哲学か何かのような問いかけ。
しかし、不完全な世界同様、見知らぬ所で不都合が生じている可能性が高い以上が、気になって仕方がない。
当然、クロノが死んだ場合の、優勝して彼を生き返らせるという話も、不可能に近くなって来る。
よしんばそれが出来たとしても、生き返らせた相手が、ある日突然土くれに変わっていても何ら不思議ではない。


「魔王ちゃん!オトモちゃん!終わったわよ!!」


一人で彼がそんなことを考えていると、不意にサクラダが声をかけた。
先程まであった穴はすっかり鳴りを潜め、代わりに木材で作られた木の床が敷かれている。


「すごいニャ!これなら通れそうだニャ!!」

「う~ん。素材が足りなかったってのもあったけど、あまりいいデザインではないわね~。
またここに来て、本格的に修繕したいわ。」

「私はそんなものに拘るつもりはない。こんな床など、通ることが出来ればいいのだ。」


魔王がそう言ったのは、建築物に拘らないといった性格だからではない。
この北の廃墟が、巧妙に作られた偽の建物だと考えたからだ。
同時に、サクラダが魔王と同じ世界の出身者でないことに、多少の勿体なさを感じた。
大工という職業に精通している者ならば、建物の細かい所から、元の世界とこの場所の齟齬を感じ取れるかもしれないからだ。


「恐らく、この先に何かがあるはずだ。」


北の廃墟の最奥は、魔王にしても未開の地。
もしも彼がカエルと戦うことを拒否し、彼らと共に旅に出れば話は変わったかもしれないが、今となっては関係ない話だ。


最後の部屋は、これまでの場所と何ら変わりはなく、ただ辛気臭い部屋だった。
ただ長い階段が続いており、それらが奥に何かありますよと、暗に示しているようだった。


「ここに何かあるのかニャ?」
「分からん。それより、また現れたぞ。」


先の部屋と同じように、何体かのアンデッドが現れる。
そして魔王もまた同じように、ファイガを放った。
いともたやすく、火葬されていく。今度は骸骨の魔物ではなく、人魂の魔物も混ざっていたが、特に変わりはない。
1体を除けば。


「ま、魔王ちゃん、まだ一匹残っているわよ!!」
「分かっている。しかし何だヤツは…?」


天井近くで、シャンデリアに似たモンスターが、青々と炎を放っていた。
表現として間違っているのではない。魔王とは別世界のモンスター、シャンデラは青白い炎を身にまとっていた。
そして炎が集まると、魔王目掛けてその塊を撃って来る。


(初見の魔物だ…シャンデリアを模しているだけに、炎は効きにくいのか?ならば……)


「アイスガ!!」


炎が効きにくいならば、氷で攻めればいい。
だが魔法の吹雪は、炎を吹き飛ばすことが出来ても、シャンデラに大した効果は発揮しなかった。
炎の力を持つ怪物に、氷が効きやすいのは魔王の世界のルール
ポケモンの世界に通じるルールではない。


「あ、あんまり効いてないみたいだニャ!!」
「うるさい。ならば別の方法を試せばいいだけだ。」


魔王としても、参加者でもないモンスター相手に魔力を浪費するのは間抜けの所業だと思っている。
だが、目の前にいるのは、別世界を知るためのカギになるかもしれない怪物。


「これでどうだ?」


続けざまに魔王は、冥属性の魔法、ダークボムを放つ。
重力の歪みに飲み込まれ、魔王に対して高みの見物を決めていたシャンデラは、あっさりと地面に落ちる。
シャンデラの世界にとってあくタイプ、あるいはゴーストタイプに該当する魔法は、てきめんな効果を齎した。


「この怪物ちゃんは、この場所を守っていたのかしら?」


明らかに、他の魔物達に比べて手ごたえのある相手だった。
言葉が通じるならば話の1つもしたいところだが、残念ながら話は出来そうにない。


「そう考えるのが妥当だ。」

(そう言えば……このモンスター、あのベルという少女が持っていた生き物に似ているな……。)


サクラダと話をする片手間に、魔王が思い出したのは、ランタンこぞうのことだ。
まだ死んでは無いようだし、使えるのではないかと一瞬考えるが、すぐにその考えを捨てた。
ベルは見たことの無い、赤白のボールを使っていた。
仕組みは聞くことは無かったが、あの道具を使うことで自由に使役できるのだとは察した。


「魔王の旦那!これは一体何か知ってるニャ?」


オトモは倒れているシャンデラを無視し、階段の一番上に上がる。
そこにあったのは、金色の紋が印象的な、黒い宝箱が2つ。
箱の模様は、魔王にとって馴染みのある物だった。


「……これはダメだ。」

「どういうことだニャ?」

「ジールの魔術を使わねば開かん。」

「え?開いたわよ?」


ジール王国の発展のきっかけになり、破滅のきっかけにもなったのはラヴォスの力。
その力で封印された箱は、当然強大な魔力を含んだ道具でなければ開かない。
だが、サクラダは何の問題もなく開けることが出来た。


「でも、このボールは何かしら?確かベルちゃんが持っていたような……。」
「貸せ。」
「ああ!何するのよ?」


すぐにボールを、地面に寝転がっているシャンデラ目掛けて投げる。
ボールが光ったと思ったら、水色の光線を出し、ポケモンを包み込んだ。
瞬く間にシャンデラは吸い込まれていく。


(まさかこのような形で、再び魔物を使役することになるとはな…)


明らかにシャンデラより小さいボールをまじまじと見つめる。
ピンクとクリーム色、明らかにベルのボールより豪華な装飾、変な例え方をすれば女の子見向きなデザインのボールを見ながら考える。



「あったニャ!これ、イレブンの旦那の家にあったものじゃないかニャ?」
「模様からしても恐らく、同じ物だろうな。」


オトモが手に取ったのは、赤いオーブだった。
色は違えど、どこか神秘的な魔力を放っているのは、あのブルーオーブと同じだ。
魔法の王国で生まれ、魔力に対して敏感な魔王ならばよく分かることだ。


「何だかアタシ達、順調に進んでない?」


来た道を戻る途中、サクラダが嬉しそうに話した。
検討を付けた場所に、目当ての品があり、予想外の戦力増強まで出来た。
彼の言うことは間違ってはいない。


「ねえったら、目当ての品が見つかったんだから、少しぐらい仏頂面やめなさいよ。」
「………。」
「人には向いてることとそうじゃないことがあるのを察するのも、必要なことだと思うニャ。」
「いらぬ気遣いをするな。」


今の所順調なのは間違ってはいない。
だからこそ、あれこれと不自然が生じている今の状況を、懸念していた。
そしてその不自然を気づかぬまま放置していれば、最悪な状況を呼び起こす。
ラヴォスという常軌を逸した力に頼り始め、そして滅亡を迎えたジール王国を知っている彼だからこそだ。


北の廃墟を出ると、魔王の気持ちを体現したかのような暗雲が、彼らを迎え入れた。


「あら?嫌あね…雨でも降るのかしら……」


先に出たサクラダが呟く。
雨というのは、大工が特に忌み嫌う気候だ。
作業に支障が出るのは勿論のこと、素材が乾きにくかったり工具が劣化しやすくなったりする。
だが、魔王はそれどころではないことに気付いた。
暗雲は天気によるものではなく、人為的に魔法で作られたものだと分かったからだ。


すぐにダークボムを放ち、雷光を闇の力で書き消そうとする。
空が歪み、爆発と共に更なる闇に包まれた。
だが、一手遅れた。


言葉にならない悲鳴が闇の中で響く。


闇が晴れた時、無事でいたのは1人と一匹。
守れたのは後ろにいた魔王のみで、サクラダは雷の矢に串刺しにされ、黒焦げになって倒れていた。
その原因は、彼が金属製のハンマーを持っていたのもある。
彼の世界の金属製の武器は、他の者達の世界の金属武器より雷を呼び寄せやすい。


「お前か……魔王とは聞いてまさかとは思っていたがな……。」


雷が止むと、魔王にとって聞き覚えのある声が聞こえた。
そして目の前にいるのは、赤髪とハチマキが印象的な男。
勇者グレンと共に、自分を一度負かした相手。


「クロノ………!!」


風向きが、完全に変わった。
しかもそよ風からつむじ風に。
魔王の目の前にいたのは、魔王の同行者を殺したのは。
彼が生き返らせようと思っていた者だった。


もう、あの頃には戻れない。
風は向かい風というのに、あの場所に戻してくれることは無い。












【サクラダ@ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド 死亡確認】
【残り40名】




【B-2/北の廃墟入り口/一日目 昼】


【オトモ(オトモアイルー)@MONSTER HUNTER X】
[状態]:健康  
[装備]: 青龍刀@龍が如く極 星のペンダント@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み) ソリッドバズーカ@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に着いていく。
1.ご主人様、今頃どうしているニャ?
2.サクラダの旦那……


【魔王@クロノ・トリガー】
[状態]:HP2/3  MP1/3
[装備]: 絶望の鎌@クロノトリガー
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~2個(確認済み、クロノ達が魔王の前で使っていた道具は無い。) 勇者バッジ@クロノ・トリガー シャンデラ ヒールボール(シャンデラ)@ポケットモンスター ブラックホワイト レッドオーブ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[思考・状況]
基本行動方針:クロノを探し、協力してゲームから脱出する 。もしクロノが死ねば……?
1.オーブを探す
2.これは……まさか!?


【クロノ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)
[装備]:白の約定@NieR:Automata
[道具]:基本支給品、ハイリアの盾(耐久消費・小)(@ゼルダの伝説ブレスオブザワイルド)、ランダム支給品(1個)
[思考・状況]
基本行動方針: 優勝し、マールを生き返らせる。
1.そのためには仲間も、殺さないとな。
2:まずは人が集まってそうな場所へ向かう。

※マールの死亡により、武器が強化されています。
※名簿にいる「魔王」は中世で戦った魔王だとは思ってません。

※ED No.01 "時の向こうへ"後からの参戦です。このルートでは魔王は仲間になっていません。
※グレイグからドラクエ世界の話を聞きました。




【ポケモン状態表】
【シャンデラ ♀】
[状態]:HP1/5
[特性]:ほのおのからだ
[持ち物]:なし
[わざ]:シャドーボール サイコキネシス だいもんじ しっぺがえし
[思考・状況]
基本行動方針:魔王に従う。
1.魔王に従い、バトルをする。


支給品紹介
【レッドオーブ@ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて】
命の大樹に近付くのに必要な6つのオーブの1つ。
MP、SP、気力などの何かしらと引き換えに、『クリムゾンミスト』を使うことが出来る。


【ヒールボール(シャンデラ)@ポケットモンスター ブラック・ホワイト】
北の廃墟の宝箱にあったバイバニラが入ったモンスターボール。元の持ち主はシキミ。
またボールには特別な力があり、中にいるモンスターは徐々に体力が回復していく。







ところで、ジール王国生まれの魔王でさえ知らぬことだが。
封印されし宝箱の中には、ペンダントの力を吹き込むことにより、中身をさらにグレードアップさせる方法がある。
ホワイトベストをホワイトプレートに、鬼丸を朱雀に。
ただでさえ強かった力を持つ武具を、魔力の熟成によりさらに強化できる。
魔王たちが北の廃墟で見つけた宝箱は、ペンダントの力無しでも開けられたものだったが。
もしも、ペンダント、あるいはそれに近しい魔力がある道具を使って開ければ、どうなったのだろうか?


Back← 118 →Next
117:強い女 時系列順 119:Unconscious
投下順
097:青き光に導かれ サクラダ GAME OVER
オトモ 125:かつ消え、かつ結びて【前編】
魔王
103:それは最後の役目なのか クロノ

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:
最終更新:2024年10月31日 05:34