「あ」
 「ん?」


 美津雄と真島はリンクたちの元へ帰るため山岳地帯から市街地へ出る。それと同タイミング、バレットとオセロットはカームの街へ向かうため舗装された道を歩いていた。
 意図せず向かい合うこととなった二組。真島とオセロットが己の得物を取り出すのは同時だった。

「物騒やなぁ、そないなもん仕舞いや」
「それはこちらの台詞だ。お前がそのナイフを下ろせば考えてやろう」

 睨み合う山猫と狂犬。
 漂う緊張感に当てられて美津雄は動けない。オセロットの傍らに立つバレットは動けないというよりも、真島と美津雄を値踏みしているようだった。

「おい、オセロット。警戒すんのは分かるけどよ、こいつらが乗ってるとは思えねぇ」
「何を根拠にそう思う?」
「あの眼帯男は置いといて、傍のガキは無力だろ。そんなやつ連れてる理由なんざ殺人野郎にはねぇはずだ」
「無害を装う狡猾な者もいると言ったはずだが? もう忘れたのか、バレット」

 バレットの言うことも一理ある。
 しかし、オセロットにとって状況が悪い。先程トウヤに一杯食わされている上、真島のドスを抜く速度は己の早撃ちにも匹敵していた。
 銃を向けただけで有利を取れればバレットの言う通り交渉をしただろうが、状況は対等のまま。選べる立場ではない。

「お、そっちのでかい兄ちゃんは分かっとるな。その口ぶりからして、お前らもこのゲームぶっ壊そうとしとるんやろ?」
「ああ! おいオセロット、銃を下ろせよ。そんなビビらなくても俺が話を聞いてやるから安心しろ」
「勝手に話を進めるな」

 外野の声を遮断し、オセロットは銃口を真っ直ぐに真島へ向ける。隣の美津雄は不安そうにしていながらも、対主催を声に上げるバレットのおかげで敵意は出していない。
 しかし、真島吾朗は違う。剽軽な態度とは裏腹に刺すような敵意が滲んでいた。なにか隠し玉でもあるような雰囲気だ。

「な、なぁ……! 真島さん、武器下ろそうぜ……あいつら、敵じゃないみたいだしさ」
「ああ、そうだ敵じゃねぇ! おいオセロット、お前も下ろせ。このままじゃ埒あかねぇぜ」

 同行者の声に反して狂犬と山猫は動かない。
 そのまま十秒、二十秒と経過し──先に音を上げたのは真島吾朗だった。

「わかったわかった、ったくしゃあないの~……これでええんやろ?」

 頭の高さまで両腕を上げ、右手に握っていたドスを手放した。銀色の円を描きながら落下する刃物にオセロットは視線をやり、拳銃の照準を地に向ける。
 しかし次の瞬間、オセロットにとって大きな誤算が訪れた。



 ────武装解除はまだ〝完全〟ではない。



「ヒィィヤッ!!」


 今まさに鬼炎のドスが地に落ちようかという瞬間、真島の蹴りがドスの柄を打ち抜く。弾丸の如く飛来する鋒がオセロットへ向かった。
 常人離れした反撃はどんなに戦い慣れした戦士であろうと意表を突けるだろう。銃に絶対的な信頼を持つ人間ならば抵抗さえ叶わず串刺しだ。

 しかし、〝リボルバー〟の名を冠するオセロットに限ってそれはない。
 銃は武器ではない、手足だ。寸分の狂いもなく短刀を撃ち抜き、続いて真島に照準を合わせる。
 と、オセロットの視線のやや下。人外じみた速度で真島が懐の寸前まで潜り込んでいた。銃撃には不向きな至近距離であるが、オセロットの照準は狂犬の額に向けられている。

 「シッ!」

 銃声が響くよりも先に真島の掌底がオセロットの右腕を打ち上げる。反撃の左フックを真島は右腕でいなし、返しのボディブローを放った。
 だがオセロットはその腕を掴み、地へと投げる。背中から地面へ叩きつけられ無防備となった真島へ追撃をしかけたところで、狂犬の名に相応しい不規則な蹴りがオセロットを後退させる。

 跳ね起きの要領で飛び上がる真島。その胸へとオセロットの打撃が放たれ、それを片腕で受けたことでより距離が離れる。
 腕の射程から離れた以上両者の行動は必然的に限られる。真島は後ろ回し蹴りを、オセロットは上段蹴りを渾身の勢いで放った。


 ──バシィィンッ!


 空中で衝突する蹴りが見事なまでの音を鳴らす。それは一種の気付けのようで、目にも止まらぬ攻防に思考が追いつかなかった美津雄はようやく我に返った。

「お、おい!! なにやってんだよ!!」

 美津雄の声が上がったと同時、いつのまにか傍らにいたバレットも全くだぜと同意する。
 バレットは二人の攻防についていけなかったから傍観していたのか? 否、違う。むしろこの中で誰よりも化け物じみた戦闘をこなしてきた。
 そんな彼だからこそ、止めなかった。助けを求めるような美津雄の視線にバレットはため息を洩らし、真島とオセロットを睨む。

「てめぇら、〝茶番〟してんじゃねぇ!!」

 それは美津雄が求める制止ではなかった。
 茶番──その言葉の意味を理解するよりも早く山猫と狂犬が足を下ろす。途端に張り詰めていた緊張の糸がほぐれ、戦闘終了を肌で感じた。

「ヘッ、合格や。騙し討ちに頼って戦い方忘れてるような腑抜けやないらしいな」
「お眼鏡にかなったようで光栄だ。こちらも、君のような〝殺し合い〟の本質を理解している人材が欲しかったところだ」

 は? と、美津雄の間の抜けた声が洩れる。
 つまるところ、二人が本気で命の奪い合いをしていたわけではないと急にネタばらしされたのだ。
 オセロットと真島が互いの得物を拾い上げ、交換する。その姿はさきほどまで戦っていた者のそれではなく、その不釣り合いな光景に美津雄は夢を疑った。

「ったく、人の事脳筋みたいに言いやがって。てめぇも十分肉体言語好きじゃねぇか」
「語弊がある言い方はやめろ。……もっとも、彼に本気で殺意があったのならば私も躊躇なく撃っていたがね」

 オセロットの言葉は見栄やはったりではない。真島が懐に潜り込んだあの時、彼の脳天を撃ち抜くことは可能だった。無論高速で動く標的の脳を撃ち抜くなど、彼以外には不可能な芸当だが。

「よう言うわ。俺かて〝とっておき〟あったんやで?」
「また始まったよ……」

 しかしそれは真島も同様。
 驚くことに、彼はほしふるうでわを使わずに常人を逸脱した速度で接近していたのだ。もしその加護を受けていたのならば、いかにオセロットといえども反応出来なかったであろう。

「さて、〝真島吾朗〟。それに〝久保美津雄〟。我々に協力してくれないか?」
「あ? なんで俺の名前────」

 と、オセロットが首輪を指差す。
 続いて唇に指をあてがう仕草を見て真島はその疑問をひとまず飲み込む。詳しくは後で話す、ということだろう。

「ま、ええわ。今のでお前らがなんの算段もなく理想語っとるわけやないってのはわかった。ほんなら、詳しく聞かせてもらうで」
「な、なんかよくわかんないけど……こういうのって自己紹介から始めた方がいいのか?」
「お前、変なとこで律儀だな……道路で立ち話ってのもなんだしよ、適当な家探そうぜ。オセロットもそれでいいだろ」

 頷くオセロット。道路で立ち止まる男四人の集団など色々と悪目立ちする。バレットの言う通り場所を移した方がいいだろう。
 四人の足並みは市街地を進む。最中、真島はふと一抹の不安を覚えた。

(ミファーちゃんのこと、一応言っとくべきか? わからんな、殺し合い乗っとるっちゅう確信もあらへんし……)

 情報交換をする中で必ず話題となるのが互いの協力者のことだろう。その際にミファーを危険視していることを明かすべきか、そんな葛藤を覚えるのも無理はない。
 あらぬ疑いだった場合は亀裂が入るであろうし、もし話したことで全員が警戒する事態になればミファーも思わぬ行動にでるかもしれない。

 情報とは凶器。
 慎重に取り扱わなければ痛い目を見る。
 同盟を組む以上、隠し事は避けた方が無難ではあるが────似合わない熟考が頭を痛めた。









【D-2 市街地 一軒家/一日目 日中】
【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(小)、疲労(小)、両脚に怪我、失意(大)
[装備]:民主刀@メタルギア2、デルカダールの盾@ドラクエⅪ、ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実、残ったアオキノコ×2、ソニックのランダム支給品(0~1個)、貴音のデイパック
[思考・状況]
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイム(名前は知らない)はどうなったんだ?

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマス、ペルソナ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナ、如月千早を危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。

【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中) 、右肩に銃創、体にいくつかの切り傷
[装備]: 双剣オオナズチ(長剣)@モンハンX
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、マカロフ(残弾2)@現実、ハンドガンの弾×24@バイオ2、ランダム支給品(確認済み、1個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2.リーバルは早めに始末したい。
3.真島吾郎、久保美津雄に警戒

※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。
※ニーアオートマタ、アイマス、ペルソナ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナ、如月千早を危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。
※参加者が違う世界から集められたことに気が付きました。




【D-2 市街地(D-3付近)/一日目 日中】
【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(小)、悲しみ、決意
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(残り食料5/6、水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1~2個)、調合書セット@モンハンX
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.生きる
2.如月千早(四条貴音)の本当の名前を知りたい。

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※ブレワイ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナを危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。
※参加者が違う世界から集められたことに気が付きました。

【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部に痛み、疲労(小)、決意
[装備]:鬼炎のドス@龍が如く、ほしふるうでわ@ドラクエⅪ
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.目の前の二人(オセロット、バレット)と情報交換する。
2.美津雄を守る
3.ミファーに警戒
4.遥を探し出し保護する。
5.桐生を探す(死体でも)。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。
※ブレワイ、龍が如くの世界の情報を得ました。
※トレバー、カイム、マルティナ、ミリーナを危険人物として認識しました。トレバー以外の名前は知りません。
※参加者が違う世界から集められたことに気が付きました。

【バレット・ウォーレス@FINAL FANTASY Ⅶ】
[状態]:左肩にダメージ(処置済)、背中に痛み
[装備]:デスフィンガー@クロノ・トリガー、神羅安式防具@FF7
[道具]:基本支給品、ランダム支給品(0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:仲間の捜索と、状況の打破。
1.目の前の二人(真島、美津雄)と情報交換する。
2.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。特にエアリスは保護したい。
3.戦力が整い次第セフィロスを倒す。それまでは北中央エリアには近づかない。
4.リボルバー・オセロット、ソリダス・スネークを警戒。
5.クラウドとティファの死を認めない。認めてやるもんか。

※ED後からの参戦です。
※ブルーハーブの粉末を飲んだことによりT-ウイルスの発症を防げました。

【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×5)、ハンドガンの弾×18@バイオ2、替えのマガジン2つ@メタルギア2
[道具]:基本支給品、マテリア(あやつる)@FF7
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを破壊する。
1.目の前の二人(真島、美津雄)と情報交換する。
2.北西の島へ向かい、対主催の仲間を集める。
3.時間的な余裕はあまりない。別の手段も考えておくべきか。
4.トウヤとの再会は避けるべきか。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。
※主催者側との繋がりがあり、他の世界の情報(参加者の外見・名前・元の世界での素性)を得ています。








◾︎







 真島と美津雄が立ち去った後の渓流。
 折り重なる二人の少女の遺体。銀髪の少女が四条貴音、栗色の髪が萩原雪歩のものだ。
 物言わぬ屍となった二人は、真島たちの黙祷を受けて安らかに逝けたのだろうか。かつて見た夢を、最期に叶えられたのだろうか。

 傍らに咲く赤い華が揺れる。
 それはまるで二人へ供えられたかのように。気休めではあるが無念な死を遂げた彼女たちはほんの少しでも救われたはずだ。







 そんな理想の押し付けは、許されない。
 死者の魂が救われるなど、生きている者が勝手に唱えたエゴなのだから。






 二度と動かないはずの萩原雪歩の遺体。
 彼女の青白く、細い指先がぴくりと動いた。






 ラクーンシティに蔓延したTウイルスは、なにも人間だけが感染するわけではない。レオンたちは出会わなかったが、サーカスのライオンや象などにも感染し凶暴性を遥かに増加させていたのだから。
 元はウイルスを摂取したネズミが原因となり街にばら撒かれることとなったのだから、元を辿れば当然とも言える結果だ。


 そして、それは〝カラス〟も例外ではない。
 もしもアリオーシュやウルボザのようなウイルスを取り込んでいた肉を食ったカラスが、別の死体を貪っていたら?
 ウイルスは傷口を通じて生者死者関係なく感染する。つまりは────







「────────ァ゛、」







 のろり、と。影が起き上がる。
 歯は剥き出しに。瞳孔を失った目に理性はない。
 ぐしゃりと赤い華を踏み潰す生ける死体。かつて〝トモダチ〟であったそれを見下ろして、雪歩であったものは唾液を垂らした。









【萩原雪歩@THE IDOLM@STER ゾンビ化】



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最終更新:2024年11月19日 01:36