ともだち。


はじめてのともだちをうしなった。


なにもできなかった。


とめられなかった。


すくってやれなかった。



いまいる市街地が、戦場でなくなった後も、ずっと慟哭は続いた。
声が枯れるまで亡骸の傍らで叫び続けた。
零れ落ちた涙が、もう動かないザックスに落ち、火傷を冷やし、凍傷を温めるかのように濡らした。


――――……なんだ、子供じゃねーか。こんな物騒なもん子供が持っちゃダメだろー?
――――……よくわかんねーけど、気ぃ悪くしたなら謝るよ。な? えっと、立てるか?


彼と共にいたのは、ほんのわずかな時間、半日すらない。
1人で薬草を探し続けていた時間を除くと、その時間はもっと短くなる


――――わかんね。でもま、その辺歩いてれば他の奴らと会えるだろ。もし危ないやつが来てもしっかり守ってやっから安心しろよ、美津雄!
――――じゃ、行こーぜ美津雄。こんなふっざけたゲーム、ちょちょいとぶっ壊してやろうぜ!


それでも、かげがえのない友達だった。
初めてできた、心から友達と言えるし、ザックスの方も自分のことを友達と認めていた。


――――じゃ、ここらで休むか。座れよ美津雄、結構シンドそうだぞ?
――――へへ、バテバテじゃんか。ほれ水、水分補給は大切だぜ


友達なんて下らないもの。
ゲームの世界で仲間になって、共に一人ではとても倒せないような敵を倒したり、何か大事なものを分かち合ったりするなんて現実では出来ないものだと思っていた。
現実の友達なんて、薄っぺらで全くと言っていいほど意味のないもの。
そんなものを作るぐらいなら、実際に存在しなくても、ゲームで裏切らないし、困ったときには助け合える友達を作ればいいと思っていた。


――――そりゃ、話したいからに決まってるだろ。……あ! そういややっと話してくれたな! いやぁ、結構嬉しいもんだなぁ~
――――水、こぼしてるぞ。具合でも悪いのか?


でも、間違っていた。
今なら分かる。
欲しくて欲しくてしょうがないのにどうやっても手に入らないものを、手に入れなくてもいいものだと酸っぱいブドウ理論で誤魔化していた。


――――ああ、美津雄……怪我、ねぇか?
――――なんで、かぁ……難しいこと聞くなよ。一々んなこと考えてないって……
――――頼りにしてるぜ、美津雄


アイツは間違ってなかった。バカでもなかった。
大切な仲間であり、尊敬する人であり、誇りでもあった。
あの生き方が正しいか、間違っていたかなんてわからないけど、自分以外の全ての人間がアイツは間違っていると言っても、正しさを証明したかった。


――――心配すんなって。言っただろ、お前は俺が守るって
――――なぁ、美津雄……お前、夢ってあるか?
――――夢を持て、美津雄。そしたらちっとは、世界が楽しく見えるかもしれないぜ


僅かな時間、それでも竹馬の友の様に思えた男の言葉を何度も反芻する。
今はっきりと覚えていても、いずれあやふやになり、最後に忘れてしまうのが怖かったからだ。


忘れない。
決して忘れない。


「………おーーーい。」
自分を呼ぶ声が突然聞こえた。

「よしよし、怖かったな~。お兄さんは悪人ちゃうで~。」
「うわああああ!!!」
後ろを振り向くと、眼帯に趣味の悪い柄の服と、刺青が印象的な男が立っていた。
そのインパクトに、思わず悲鳴を上げてしまう。


「おいおいおいおい、いくら俺がイケメンだからって言うて、そうビビることは無いやろ。」
おどけた口調で男ははぐらかそうとする。
しかしそれとは思えない凄みが、目の前の男には会った。


「……来るなら来いよ!!オレは死んでも生き延びてやる!!」
勝てる見込みは薄いが、それでも美津雄は銃を男に向けた


「わーーーーーーっ!!タンマタンマ!!俺、そういう人ちゃうねん!!ちょっと前まで、好き放題暴れたろうと思ってたけど、今はちゃうねん!!
つーか死んでも生きるって矛盾しとるやろ!!死んだらアカンやん!!」
「え……?」

不可解なリアクションを取る男に対して、向けていた銃を降ろしてしまう。
(でも、オレを騙そうとしていたら、『ちょっと前まで好き放題暴れる』なんてこと……言わないよな?)

ほんの少し冷静さを取り戻し、思考を巡らせると、殺意が無いという可能性も見いだせてきた。

「分かってくれたか!!いや~、嬉しいで。行けども行けども誰もおらんし、寂しかったところで、お前の悲鳴が聞こえたんや。……ソイツ、お前の友達か?」

眼帯男はちらりと動かなくなったザックスの方を見やる。
それに対して美津雄は黙って頷く。

「そうか。誰だって、大切な人を失うのは辛いものやからな。
よし、お兄さんと一緒に、近くの墓場にこの人を埋めに行こうや。」

言うが早いか、男はザックスを背負い始める。

「夢……。」
「ん?どうした?」
「夢って……どうやったら見つけられると思う?」

ザックスには夢を持てと言われた。
でも、美津雄には、そんなものはない。
この男は、何か持っているのか聞いてみようと思った。


「脈絡もなく難しいことを聞くなあ~。いかにもお前ぐらいのガキんちょが考えそうなことや。
でも、俺にもこれだけは分かるで。」
おどけていた眼帯男は、急に神妙な顔つきになって語り始めた。

「夢ってのはな、探そうと思って見つけるものじゃないねん。生きて悩んでまた生きて、そうしていたらきっと探さんでも夢の方から来てくれるものやと思うわ。」

眼帯男の言葉を聞き、何故か涙が出た。
先の涙とはまた違うものだった。

「だから、死ぬなや。悩んでも立ち止まってもええ。お前一人になっても、生きや。」
優しく男は美津雄の肩をポンと叩く。
そう言えば、長らく人肌は感じたことが無かったな、と割とどうでもいいことを思ってしまった。

「な~んてな。これは、この年まで好き放題やっていた、俺のただの持論や。
テストに出るわけでもないのに、そんなアホみたいに真剣な顔して聞いてどないすんねん。」

それからまたおどけた顔に戻った。

「せやせや、名前忘れとったな。俺は真島吾郎、気さくに真島の兄さんとでも呼んでくれや。」
「俺は久保美津雄……。真島さんの夢って、どんなものなんだ?」
「いきなり呼び方無視かい!?まあええわ。俺の夢はな、桐生ちゃんを喧嘩でぶちのめすことや。」
「………。」

喧嘩好きそうな男だとは思っていたが、そこは見た目通りなんだな、と美津雄は思った。
しかし、その口調は、どこかさっきまでの勢いがないのは伝わってきた。
もう朧気でしかないが、その桐生ちゃんとやらは、最初の放送で呼ばれた桐生一馬のことだろうと察しがついてしまった。


「その人って……。」
そう思っていた言ったところで、東の方、ここからそう遠くない場所から、轟音が響いた。

「な、なんやアレは……。」
驚嘆の声を上げる真島吾郎に対し、美津雄は言葉を発することさえ出来なかった。
彼等がみたのは、隕石だった。
真っ赤なエネルギーの塊が、その場所に落ちていった。


信じられなかった。
例えシャドウの力を使っていても、あんな芸当はきっと出来ないと分かっていた。
あの方向は、リンク達が向かっていった場所。
だから、逃げるわけにはいかない。


会って、あの少女にも、仲間を咎めたことを謝らないといけない。


「よっしゃ、あの場所目掛けて出発進行や!!美津雄の友達ちゃんはちょっと待っててな。」
美津雄が向かおうとする前に、真島はすでに走り始める。
走るのが苦手なのは変わらないが、その後ろを追いかけ始めた。


★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


「何が起こっているというんや……。」
最初に見つけたのは、折り重なって死んでいる茶髪と銀髪の二人の少女だった。
2人とも胸を打ち抜かれて死んでいた。

美津雄は2人共知っていた。
片方は放送前、ザックスを刺した千早と名乗った少女。
もう片方はその仲間で、自分が謝ろうとしていた少女だった。



「おい!!大丈夫か!!しっかりしいや!!」
真島の呼びかけにも答えはない。
4つの瞳孔はどれも開ききり、手足は既に青みが掛かった死人の色をしていた。
彼とて死者を見てないわけではない。
むしろ人一倍は見てきたぐらいだ。
それでも、そう声をかけずにはいられなかった。


「ふざけんなや……。」
もう見つめてくれない、萩原雪歩の瞳を見て、真島は呟いた。
その罵倒は、誰に対してか。


「何のためにあの時助けたと思っとんねん……」

その言葉は、死者に向けているとは思えないほど辛辣だった。
だが、そこには言葉のトゲが決して見られなかった。

「この腐ったゲームをぶっ潰す俺の計画が、台無しやないか……。」
Nの城で折角助けたというのに。
その彼女が、こんなにも早く死んでしまうのは、死者を見続けた彼でさえもいたたまれなかった。



「何なんだよこれ……。」
美津雄も声を漏らす。
わずか数時間前は死の予兆など無かった者が、こうも救いようがなく死んでいる。

2人いる少女のうち、片方は殺し合いに乗っていた。
命を狙われたし、仲間を傷つけられた。
だからといって、こんな結果で死んでしまうのを美津雄は望んでいなかった。


しかし、美津雄にも真島にも分かっていた。
いや、分かってしまった。
この場所は先ほど隕石が落ちた場所から少し離れている。
そのため、ここはまだ地獄の1丁目でしかないということだ。


市街地から離れたその場所は、文字通り地獄のような風景だった。
惨劇という言葉をそのまま体現したような景色が広がっていた。
地面は焼け焦げ、いくつもクレーターを作り、いかなる生き物も住むことを許さないようになっていた。


焼け死んでいる青いハリネズミ
同じく焼け死んでいる上に、翼が片方ない赤竜
壊れた白黒のアンドロイド


犠牲者たちが、その場に転がっていた。

その近くで、半魚人の少女が必死で青い服の金髪の男を呼びかけていた。
真島は男の方に見覚えがあった。
Nの城で戦い、自分の剣を一本渡した相手だ。

「おい!助けに来たで!!」
「……!!あなたたちは!?」
突然やって来た真島と美津雄に半魚人は驚くも、すぐに持っているナイフを構える。



「わーーーーーーっ!!だから何でこんなナイスミドルなお兄さんを敵だと思うねん!!」
「ミファー……。その人は……敵じゃない。」
「え?」

言葉を紡ぐのでやっとのようだったが、リンクは辛うじてミファーに攻撃を止めるように頼んだ。

「あんたは……無事……だったんだな。」
「久し振りやなあ、リンクちゃんだっけ?
早速戦いたいところだが、ちょっとそれどころじゃないみたいやな。ちょっと場所変えるぞ。こんな所におったら、怖い怖いおじさんに見つかって殺されるかもしれへん。」


「っしょ。意外と重いな。」

真島はリンクを背負い、市街地に戻ろうとする。
ミファーはその間でも、両手を光らせ、1つでも多くリンクの傷をふさごうとしていた。

「ぴちぴちギャルの嬢ちゃん、凄い手品やな~。何食ったらそんなこと出来るん?」
「…………。」

ミファーは真島の言葉を無視して、リンクに再生の術をかけ続けた。


「なあ、リンク。仲間のことごめんな。」
もう死んでしまったが、美津雄はリンクの仲間を咎めたことを謝罪する。
リンクは首を横に振って、気にするなと無言で言う。


「ザックスはどうなった。」
「………死んだよ。俺を庇って、戦い抜いた。何も出来なかった。」
「すまなかった。最後まで居てやれなくて。」

来た道を戻るが、その途中に雪歩と貴音の死体がまた目に入る。
銃声からして察しは付いていたが、雪歩とその仲間が助からなかったことは、リンクにも分かってしまった。


冷たい空気が辺りを漂う。
2B、雪歩、貴音、ソニック、リザードン、そしてザックス。
わずか数時間で、この近くにいた半分近くの参加者が死んでしまうのは、誰にも予想出来なかった。
これまでの思い出も、友情も、硬い決意でさえも、この場では守ってくれない。



「真島さん、オレ、代わろうか?」
「アホぬかせ。お前らみたいな若造に心配される程耄碌しとらんわ。」
それからも死の空気は4人にずっと付き纏っていた。
しかし、その空気は外からによるものだけではなかった。

(う~ん、あのぴちぴちギャルの嬢ちゃん、何がしたいんや?)
その空気に紛れてしまい、美津雄は分からなかった。
しかし、ヤクザという職業柄、殺意に対して敏感な真島のみが、それを察していた。


(さっきからチラチラ俺らのこと見とるけど、あれは俺のこと好きって視線やあらへん。
アイツが送ってるのは、覚悟キメた奴の視線や。)

「これ以上俺は誰も悲しませへん。生き抜いてやるで。この腐ったゲームをぶっ壊すまではな。」
それは自分の決意表明か、ミファーに対して放った言葉なのか。


誰が言ったか。
あなたは生きていない。死んでないだけと。
死は誰にも決めようがないし、逃れようがないことだ。
このような殺し合いに巻き込まれずとも、殺す者がいなくても、寿命や病気や怪我でいずれ死ぬことになる。
だが、生きるか生きないかを決めるのは自分自身だ。


だから、失っても最後の最後まで生き続けよう。
それが他者に依存する形になっても。
まだ生きるのを辞めるにはまだ早い。



【D-2 山岳地帯と市街地の間/一日目 昼】

【リンク@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)、疲労(大)胸上に浅い裂傷、両脚に怪我、軽い火傷、失意
[装備]:民主刀@METAL GEAR SOLID 2、デルカダールの盾@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて ブーメラン状の木の枝@現実
[道具]:基本支給品(残り食料5/6)、ナベのフタ@現実 残ったアオキノコ×2、ソニックのランダム支給品(0~1個)双剣オオナズチ(長剣)@MONSTER HUNTER X、貴音のデイパック
[思考・状況] :ゼルダはどうしているだろう?
基本行動方針:守るために戦う。
1.それでも生きる
2.カイムの生死を確認したい

※厄災ガノンの討伐に向かう直前からの参戦です。
※ニーアオートマタ、アイマスの世界の情報を得ました。
※美津雄の調合所セット(入門編)から薬に関する知識を得ました。


【ミファー@ゼルダの伝説 ブレス オブ ザ ワイルド】
[状態]:ダメージ(中)  右肩に銃創 体にいくつかの切り傷
[装備]: 鬼炎のドス@龍が如く極
[道具]:基本支給品、マカロフ(残弾2)@現実 ランダム支給品(確認済み、0~2個)
[思考・状況]
基本行動方針:リンクを優勝させる
1.不意打ちで参加者を殺して回る。
2. 今はリンクを回復させる
3.真島吾郎、久保美津雄に警戒

※百年前、厄災ガノンが復活した直後からの参戦です。
※治癒能力に制限が掛かっており普段よりも回復が遅いです。


【久保美津雄@ペルソナ4】
[状態]:疲労(大)、悲しみ、決意
[装備]:ウェイブショック@クロノ・トリガー
[道具]:基本支給品(水少量消費)、ランダム支給品(治療道具の類ではない、1~2個)、調合書セット@MONSTER HUNTER X
[思考・状況]
基本行動方針: 夢を探す。
1.生きる

※本編逮捕直後からの参戦です。
※ペルソナは所持していませんが、発現する可能性はあります。
※四条貴音の名前を如月千早だと思っています。

【全体備考】
※ザックスの支給品は遺体の傍に放置されています。


【真島吾朗@龍が如く 極】
[状態]:頭部出血(止血済み)、疲労(大)、決意
[装備]:ほしふるうでわ@ドラゴンクエストⅪ 過ぎ去りし時を求めて
[道具]:基本支給品
[思考・状況]
基本行動方針:ゲームをぶっ壊す。
1.まずは市街地で休憩できそうな場所を探す
2.美津雄を守る
3.ミファーに警戒
4.遥を探し出し保護する。
5.桐生を探す(死体でも)。
6.錦山はどうしよか……。

※参戦時期は吉田バッティングセンターでの対決以前です。
※運営が盗聴していることに気付きました。


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103:それは最後の役目なのか 時系列順 107:崩壊の序曲
投下順 105:Discussion in R.P.D.
099:壊レタ世界ノ歌 序 リンク 126:It rains cats and dogs! ──ESCAPE
ミファー
092:夢追い人の────(前編) 久保美津雄
真島吾朗

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最終更新:2024年11月04日 01:11