――お…おはようゴザイマス、ご主人様。ご命令を


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――ワタシも、見とどけてみたいのデス。アナタ方のする事が、人間を…いえ、この星の生命を、ドコへみちびいて行くのか。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――どうでしょう。ミナサン。ワタシがココに残って、フィオナさんのオテツダイをするというのは。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


――ワタシニとっては400年ハながい時間デシタ……。シカシ、クロウのかいアッテ、森ハよみがえりマシタ。


「ハイジョ、ゾッコウ。」


――■■■、ワタシも未来で元気にやっていきマス。




スネークの排除に失敗したロボは、病院内に戻った。
そんなロボの脳裏を、何かの言葉が過った。
それはロボが発したのであって、プロメテスが発してない言葉。


2階の廊下を歩いている途中に、アイセンサーが捉えたのは、錦山の死体。
ロボはその名を聞いたことは無かったが、ジョーカーとしてデータに保存されていた。
殺したのは同じジョーカーであるイウヴァルトであって、自分ではないが、殺したようなものだ。


しかし、機械の心に、プロメテスの心には何も響かない。
元の世界の仲間でさえ排除しようとするのだから、特におかしくないことだ。



『みんなお疲れ、色々と頑張ってるみたいだねぇ。これより第二回放送をはじめるよ』



丁度その頃放送が流れ、改めてその男が死んだと言うことを告げられる。
死を見聞きしても、ロボの何かが変わることは無い。ただ、機械の足を動かし、廊下を巡回する。
ただ、内蔵のたべのこしが、ロボの受けたダメージを回復していく。
2階の巡回を終えると、階段を下りて1階に。


『カエ………ル……』


だが、次にアイセンサーが捉えたものは、鉄の心臓を大きく動かした。
そこに黒焦げになって倒れていたのは、ロボのかつての仲間。
いや、プロメテスにとって、そんなモノは関係ない。“それ”は別の誰か(ロボ)の仲間であり、自分(プロメテス)の仲間で無いからだ。


『これ以上仲間を傷つけル前ニ……』


そのはずだがプロメテスは、いや、ロボはおもむろに、自分の胸に手を伸ばした。
ベア―クローが機械の心臓に刺さろうと、いや、ベア―クローを機械の心臓に刺そうとする。
友を殺してまで、自分は生き永らえたくはない。せめてまだロボの意識が少しでもあるうちに、自らを壊そうとする。


『!?』

――ダメデスよ、プロメテス。


謎の電子音と共に、ロボの身体の自由が利かなくなる。
そして、電子頭脳に流れたのは、ロボにとって聞こえるわけがないはずの声だった。


――こうなりたいと願ったのは、アナタデスよ。


ロボの丸い頭の中に響くのは、彼の造り主、マザーブレインの声だった。
人間を皆殺しにしようとするマザーを、ロボは破壊し、彼女が管理する工場も停止したはずだった。
ゆえに、彼女がいることは、ロボがいること以上にあり得ないことだ。


『そ、そんな訳ありまセン!』


不意にロボの頭の中に流れた映像は、あの日のリーネ広場だった。
ラヴォスを倒し、未来を守り、仲間のクロノの故郷に帰った日。
クロノの罪が無実となり、王妃マールと結ばれることが許された日。
それぞれが別れの言葉と共に、元の世界に帰っていく冒険の終わりの日。
ロボの未来が変わり、彼の存在が、消えてなくなることになる日。


その映像に紛れて、何かが聞こえた。
誰かが泣く声が。自分ではない自分を修理してくれた誰かが泣く声が。
この世界でも声を聞いたことのある誰かの泣く声が。


――■■のバカ、バカ!悲しい時はすなおに悲しむのよ!!こっちがよけい悲しくなっちゃうじゃない!!


――あの時、アナタは願いマシタ。別れたくないト。


『私ハ……確かに願いマシタ。』


本来なら、機械であるロボが何かを願うなど、おかしい話だ。
だが、あの時彼がアイセンサーから流したオイルは、確かに別れたくないという願いの顕れだった。


願いを叶えてもらう、ということは必ずしも良いことでは無い。
お金が欲しいと願えば、家族の死による保険金と言う形で得られたように、それが歪んだ形で成就することもある。
ロボが願った、未来が変わっても共に冒険した仲間といたいという願いは、最悪の形で叶えられた。


――願いを叶えて貰えたのダカラ、次は宝条博士の願いを叶えてあげる番デスヨ。


その言葉を聞いてロボは違和感を感じ取った。
未来の人間を全て殺そうとしたマザーが、人間である宝条に従うのか。
ロボは宝条とは会ったことが無い。しかし、ジョーカーとして、別世界の参加者同様データにインプットされていた。
彼は未来のロボットとは相いれることの無い人間だと。



これは宝条たち、主催陣営が理の賢者ガッシュを連れて行くために、クロノたちの世界のAD2300年に行く時のことだ。
尤もその時代は、ラヴォスによる崩壊を迎えていないため、ロボが生まれ育った時代とは似て非なるものだ。
崩壊していなかった世界は、そこにいるロボットたちも人間たちに牙をむくことは無い。
だが、その可能性までが消え去ったわけではないのだ。
宝条博士はガッシュを連れて来るついでとばかりに、マザーブレインのデータも回収した。


そして、崩壊を免れた世界のマザーブレインのデータが、崩壊した未来のロボと接触したことにより、ロボを再び支配するに至った。
当のロボ自身は、マザーブレインの本拠地たるジェノサイドームを破壊した際に、データは全て破壊したと思い込んでいた。
従って自身の電子頭脳の中核をなす部分に、人間に危害を加える回路が残っていたことは、ロボ自身にも気づいていなかった。
いや、気づいていなくても問題ないことだった。しかし、別世界からの介入という、完全にイレギュラーな事態が新たな問題となった。


「危ない……!でも、誰が……危ないデスカ?」


爆弾で壊された壁の穴を通じて、遠くから音が響いてくる。
何か大きな建物が壊れる音。怪物の雄たけび。聞いたことのある爆音。
そして感じたのは、誰かの危機。でもそれが、誰なのか思い出せない。何かが阻害している。


外を見ようにも、ロボのアイセンサーには、病院の外は濃い霧がかかっているかのように映る。
あくまで病院の巡回のみを目的に、データを改造されているのだ。
だから、外を見ても何も見ることは出来ない。折角のエネルギー源を捉えるセンサーも、当然役には立たない。


「──シンニュウシャをハッケン。ハイジョします。」


そこには誰もいない。
だが、その言葉を境に、ロボは足を止めた。
何をする訳でもなく、見えないはずの壊れた壁の向こうを、ただじっと見る。


ロボのその言葉は、『巡回』というコマンドを中断させる効果がある。
中断させるだけだ。それ以上は何もない。
傍から見れば、まだ彼は何もしていない。
ただ、それは彼の、出来る上での僅かな反抗なのかもしれない。




【D-5/病院内部/一日目 日中】
【ロボ@クロノ・トリガー】
[状態]:ダメージ(中)、MP消費(小)
[装備]:ベアークロー@ペルソナ4 、たべのこし@ポケットモンスター ブラック・ホワイト
[道具]:基本支給品、ランダム支給品0~1個
[思考・状況]
基本行動方針:病院内に侵入した敵を排除する
1.ワタシの名前はプロメテス。

※主催者によって、ジョーカーである参加者(イウヴァルト、ホメロス、ネメシス)は感知出来ないようになっています。
他にも何らかの理由で感知できない参加者、NPCがいるかもしれません。


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最終更新:2025年06月16日 23:58