[PEACE MAKER(平和をもたらすもの)]

今私が握っているS.A.A(シングル・アクション・アーミー)の俗称だ。
西部開拓史時代に幾多の名だたるガン・マンがこの銃で争いを収めたからだとか。
なんともヒロイックな呼び名だが、それも含めて改めて評価しよう。
この銃はとても美しい。
美しい、と表するのも武器に対して可笑しな話と思うだろうか。
だが、強ちそうでもないのだよ。
なにしろこの銃が活躍した時代は1870年代、我々の生きるよりもはるかに昔。
1世紀以上も前の武器に過ぎないからだ。
今の時代こいつを手に取るのは博物館職員か時代遅れのガン・マニアくらいに限られるだろう。

「私は後者だよ」

白髪の老爺は、大きな背中に告げた。
のっそり振り返った髭面は、大いにどうでもよさそうだ。
潜めた眉は困惑を物語り、歪んだ唇が「ああめんどうくさい」とでも良いたそうに半開きである。

「そうかい、じいさん。だがよ、俺から一つ忠告させてもらうぜ」

「と、いうと」

「撃ち殺す前の一言にしちゃあちいと長いぜ」

初対面の台詞どころではなく、武器を手にした相手にいち早く発見されてのこれである。
反撃も考えたが、浅黒い肌の大男─バレット・ウォーレスは今現在、片腕という大きなハンディを背負っている。
面倒に巻き込まれる前に煙に巻き逃げるが妥当だと判断した。

「大いな誤解があるようだ。私は殺す相手に長々と講釈を垂れるのは─まあ嫌いではないが」

「あん?」

「リボルバーというのは総じて、引き金に指をかけて撃つものだ。そうだろう」

老爺の手には、回転式拳銃のバレル、そして銃身の部分が握られている。
すなわち、今すぐにはこちらを撃つ気はなく、敵意を持たないことを語っていた。




「一昔以上前のシロモノには違いないが、こんな場では頼れる装備に違いない。そうだろう?」

一頻り歩いた先に、開けた場所があった。
北は見渡す限り水平線ということで、不意の襲撃を避けるには丁度いい。
適当な石の上に2人は何方が先と言うでもなく、腰を下ろした。
座ると、老人はおもむろに唯一の武器だと言う拳銃を地べたにそっと置き、手放す。

「ああ、頼れる装備かもな。で、何の真似だよ」

「君の前にそれを置く……力なき老人が疑い無しに話を聞いてもらう為の苦肉の策と思ってくれ給え」

「力なき?ウソが下手だなじいさん」

横目でその顔を睨んでも、まるで表情に変化はない。
冗談を言うにしては冷めた顔だし、誤魔化しをしているようにも見えなかった。
バレットは自分の言っていることが見当違いのような気がしてきて、自嘲の笑みが浮かんだ。
こいつはウソが得意中の得意なんじゃないか?と。

「俺の右っ側に銃を置いた時点で譲歩にゃなってねえんだよ」

「失礼」

置くなら正面だろうが、と付け加えてバレットは右腕をもう一方の腕で弄りだした。
老人は一瞬視線をこちらに向けたものの、やがて姿勢をもとに戻す。

「片腕が機械なのが珍しいかよ?」

「いいや、よくあることだ」

そういう彼の表情はやはり読めない。
仏頂面というわけでも、感情を殺しているというわけでもないふうにとれる。
どちらにせよバレットにとっては大凡、信用するに値しない。
そういう顔を老人はしていた。

「そういう場に身を置いていた」

「……」



評価は少しだけ変わった。
横に居る老人は断言してもいい、"まったく信用できない"。
だが、信用できないことがハッキリとわかるのなら、今はそれでいい。
バレットとて、反神羅地下組織に居たころから腹の探り合いは(あくまで得意ではないが)経験済だ。
少しでも信用していい、と思った相手にこそ牙をむかれた時が恐ろしいのだ。
だったら最初から一定の距離を取り、相手の言動や行動に左右されてペースを奪われるのを避ければいい。
そう思い、バレットは脇に挟んでいた、剣呑な金属の塊を、右腕のジョイント部分と見比べた。
果たしてこの武器と思しきパーツが自分の腕で操れるのかを見るためだ。
見覚えのないこれは、腕の太さは概ね合っているように見えても細かな規格が違っている可能性が高い。

「……思ったより単純な作りのパーツだな」

「戦闘中や移動中に換装可能であろう、君の右腕部分とよく似ている。調整に必要な工具を求めているのなら東はどうかな?」

「なに?」

「停泊しているタンカーがあるがこれは偽装だ。精密機械をも扱う施設を内包している。お望みのものもきっとあるだろう」

「あんた、やけに詳しいな」

「さてね。地図と私を信じるのならば行ってみれば良い」

バレットは自分の思考を、行動を巧みに誘導しようとする老人にため息を漏らす。
いや─本当はわかっているのだ。
彼はごくごく当たり前のことを言っているのに過ぎない。
ここから最も近く、地図に記してある施設と言えばそのタンカーなのだ。

(俺が知ってる"カームの町"へ長い橋を渡って行くことも考えはしたが……)

単独での行動で細い一本道を往くことは間違いなくリスキーだ。
少々考えれば、タンカーへ向かうという行動に行き着いただろう。
この提案、もしかしたら本当にただの親切心での言葉なのだろうか。
疑惑は晴れることがない、しかし。
この場での無闇な反発は意味がないことを、正しく理解していた。

「……そいつはどうも。あばよじいさん」

「私もちょうど、そちらへ行くところでね」

立ち上がって、早々に踵を返そうとした、その歩みがピタリと止まる。
偶然の遭遇までは良い。
だが、その後の同行まではバレットには理由を掴めなかったからだ。

「あんたのお守りをする気はないぜ」

「なに、君と同じ理由で行くのだよ」

「……?」

一瞬、ほんの一瞬ではあるが。
老人の右腕が、妖しく蠢いたように見えた。
生身の腕ではあるようだ。
だがそれは、どこか不自然さの上に成り立っている。

「あんたも……」

「戦いに支障があっては困るのでね」

おそらく、腕を失くしたもの同士。
所作、思考、それら容易く読み取られたのも、片腕の銃使いという共通点があるが故かもしれない。
バレットは本当に食えない相手だ、と顔をしかめた。
だが。

「……付いてくるんなら勝手にしな」

置いていって、どこか目の届かないところで"悪さ"をされる。
それよりはすぐ傍に居てくれたほうがマシと、そう判断した。
更に言えば、今の片腕の自分ではこの老人すら制することが困難だと、バレットは考えた。
奇妙な同行者を受け容れざるを得ないのは釈然としないままに、右腕の調整を優先とするため一路南へと歩みを進める。

「それに類稀な偶然に出食わしたこの喜びを誰かに伝えたく、話し相手を求めていた」

「偶然?何だよ」

「それはだな……私はこう呼ばれている。"リボルバー・オセロット"」

いきなり名乗る老人にバレットは面食らう。
いつの間にやら手元に戻していたピースメーカー。
それを、巧みなガン・アクションで操るその姿は、先程までより人間らしいように思えた。
まるで玩具を買ってもらった少年のような、悪戯染みた笑みまで浮かべて。

「愛銃との再会を喜ぶのは可笑しなことかね?」



「そうかい、良かったなオセロットさんよ」

「しかしだ、このグリップ上部の窪みは頂けない。……ああ、どうやらこちらの飾り石はここから落ちたもののようだ」

「?」

「そもそも銃に施す彫刻"エングレーブ"にしては、これは過度なものだ。重心はずれるし、直接手にふれる部分ならばなおさらだ」

隣を歩くことを認めたわけでもないのに、銃を惚れ惚れと撫でながら歩く老人に、バレットは一瞥をくれる。
なるほど確かにその拳銃には、何かを嵌め込むのに適した小さな穴が存在していた。
彼の芸術センスにはそれは許しがたいことだったのだろうか、大いに嘆いている。
バレットは"銃のことに限ってはペラペラ喋りやがって"と心のなかで毒づいた。
知ってか知らずか、彼の銃を語る口は止まらない。
そんな最中、はたと気づいた。
この銃、そして片手の小さな宝石のような物体。
どちらもバレットには見覚えが有るものだと。
紛れもない、仲間のヴィンセントが扱っているものと同型だ。
そしてその武器に装着できるであろう、マテリアに違いなかった。

「戦術的優位性"タクティカルアドバンテージ"を自ら手放している。ガンスミスの趣味とでも?実用と観賞用は違う」

「……そいつはマテリア穴だろう。良い武器には有るのが普通なんじゃないか?」

「ほう」

立て板に水、とばかりに喋っていたオセロットの語りがぴたりと止まる。
自分の中の知識と、今しがた告げられたバレットの言葉とを冷静に繋ぎ合わせているようだ。

「"Material"?君の視線から察するとこの宝玉が。装飾の為ではなく、武器としての品位を高める勲章でもなく。必要があっての穴だと」

「そんなところだが……詳しく教える義理はねえ。そういうのはなんでも屋にでも頼むんだな」

「もっともだ。……そうだな、一時的に君の目的に協力するというのは交換条件になるかね?」

ズンズンと進むバレットは、必要ないと突っぱねるつもりだったが、果たして断ったオセロットは今後どうするだろう。
マテリアのことを知る人間に出会うまで、同じように接触を試みるだろうか。
この会場には確実にティファが居ることは確認済みだ。
もしかしたら他の仲間もそうかもしれない。
今ここで自分が同行することで、仲間達がオセロットと接触するリスクを減少させるほうが得策ではないだろうか。
だが、僅かな同行ではあれど、即刻強硬的な態度に出るような人物ではないと判断できたことだしここは放置すべきだろうか。
まとまらぬ考えに歩きながら頭を掻く。
そしてつくづく感じた。
自分はこういうふうにあれこれ悩むのは性に合わない、と。

「チッ、面倒くせえ。いいか?条件は"俺と、俺の仲間の邪魔するんじゃねえ"だ!それでいいか」

「仲間。私には君の知人の情報はないので判別し難い条件だが」

「会ったら言ってやる!……ったく面倒なことになっちまった」

「さて、一時共同戦線を張るにあたって、まず聞いておきたい。名前は?」

バレットは誤魔化しや腹の探り合いが面倒になったので素直に言ってしまおうとして気がついた。
自分の名前を聞いたら、オセロットは少々面白がるんじゃないかと。
だがここで答えに詰まるのも癪だった。
諦めたように名乗る。

「……バレットだ」

「銃弾"バレット"。リボルバーの傍らにバレットとは!」

当たって欲しくない想像が的中して、バレットはうんざりした。
こういう状況で肩を竦めるのは俺の役目じゃなく、あのツンツン頭じゃあなかったか、と眉をひそめる。

「洒落が利いている。コードネームか?」

「うっせえ、本名だ!……いいか、洒落だか偶然なんだか知らねえが」

無い腕をぶんぶんと振って、バレットはがなり立てた。
握られっぱなしのペースは、こちらが握り返してやる、とでも言わんばかりに啖呵を切る。

「何が狙いか知らねえが、俺があんたにケツを引っ叩かれて鉄砲玉になるだなんて思うなよ」

「君は9mm弾に例えられるような小さい男とでも?」

「ケッ。……いいか俺も詳しく教えられるほど知ってるわけじゃねえからな」

拳銃と銃弾が、一時的とは言えペアとなり、歩き出す。
東の海岸線へと向けて歩み出したその先には、偶然にもバレットの仲間たちが待っている。
果たして巡り合うことができるのか、そしてリボルバー・オセロットの真の目的とは。
どちらも依然として、バレットが知ることはない。



【E-2 橋付近の海岸線/一日目 深夜】
【バレット@FF7】
[状態]: 健康
[装備]: 神羅安式防具@FF7
[道具]: デスフィンガー@クロノ・トリガー 基本支給品 ランダム支給品(0~1)
[思考・状況]
基本行動方針: ティファを始めとした仲間の捜索と、状況の打破。
1.タンカーへ向かい、工具を用いて手持ちの武器を装備できるか試みる
2.マテリアの使用法をオセロットに説明するとともに、怪しいので監視する

※ED後からの参戦です。


【リボルバー・オセロット@METAL GEAR SOLID 2】
[状態]:健康
[装備]:ピースメーカー@FF7(装填数×6) ハンドガンの弾×12@バイオハザード2
[道具]:マテリア(???)@FF7 基本支給品 ランダム支給品(0~1)
[思考・状況]
基本行動方針:???
1.バレットとともにタンカーへ向かう。

※リキッド・スネークの右腕による洗脳なのか、オセロットの完全な擬態なのかは不明ですが、精神面は必ずしも安定していなさそうです。。



【デスフィンガー@クロノ・トリガー】
強力な鉤爪で敵を掴むロボ用の武器パーツ。
魔王の城で手に入る、凶悪な見た目の武器。

【神羅安式防具@FF7】
マテリア穴は4個で、連結穴が1組。マテリア成長率は等倍。
神羅の一般兵に支給される防具らしい腕輪。
目立つ赤色のロゴマークが入っている。


【ピースメーカー@FF7】
ヴィンセント・ヴァレンタインが装備する回転式拳銃。
マテリア穴は3個で、連結穴が1組。マテリア成長率は2倍。
コルトS.A.A.(シングル・アクション・アーミー)の通称であり、『調停者』の意味を持つ。
西部劇などに登場することで知られる有名な拳銃。
バイオハザード2やペルソナ4における同名の武器との差異はマテリア装備機能の有無である。

【ハンドガンの弾@バイオハザード2】
最も広く使用されている弾薬で、反動が弱く弾道も安定し、扱いやすい。
ガンパウダー2つで合成が可能。


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最終更新:2021年01月17日 17:23