Reach Out To The Truth(2) ◆dGUiIvN2Nw
「どうだ? 漆黒。お前はこの仮説、どこまで信じる?」
難しい顔をして、ずっと地面を睨みつけていた漆黒に、瀬多は聞いた。
「……この仮説には確証がない。空想を空想で塗り固めているだけだ」
「だが、全てがうまく符号する」
「そうだ。ここに至って、全ての情報がそれを指し示している。その事実は無視できない」
漆黒は、しばらく考え込んでいたが、やがてすっと手を掲げ、指を三本立てた。
「三割だ。まず女神アスタルテ、ギャラティックノヴァが絡んでいない可能性が一割。ゲームという言葉がイザナミによるミスリードである可能性が四割。そして──」
「イゴールの言っていた真実とやらが二割、か」
瀬多の呟きに、漆黒は頷いた。
「そうだ。主催者側は敢えてヒントを出していた。つまり、真実に自力で辿り着くことを想定、または期待していた。ならば、イゴールと再度出会った時に聞ける真実は、また別のものということになる」
ここでばれるような真実なら、わざわざイゴールが契約までさせていた理由がなくなる。イゴールの知る真実は、瀬多が示した仮説とはまた別のものであるはずなのだ。
「三割、か。高いんだか低いんだかよくわからない数値ね」
「だが、命を賭けるには十分な確率だ」
漆黒の言葉に思わず全員が彼を見つめる。
が、誰も反論はしなかった。
「……確かに、現状最も可能性の高い仮説であることは認めないといけないな」
「で、でも……それがわかったところで、一体どうやってここから脱出するの?」
千枝の疑問は、単純だが的を得たものだった。
「俺達だけじゃ、ここから脱出することは不可能だ」
瀬多は簡単にそう言ってのけた。
難しい顔をして、ずっと地面を睨みつけていた漆黒に、瀬多は聞いた。
「……この仮説には確証がない。空想を空想で塗り固めているだけだ」
「だが、全てがうまく符号する」
「そうだ。ここに至って、全ての情報がそれを指し示している。その事実は無視できない」
漆黒は、しばらく考え込んでいたが、やがてすっと手を掲げ、指を三本立てた。
「三割だ。まず女神アスタルテ、ギャラティックノヴァが絡んでいない可能性が一割。ゲームという言葉がイザナミによるミスリードである可能性が四割。そして──」
「イゴールの言っていた真実とやらが二割、か」
瀬多の呟きに、漆黒は頷いた。
「そうだ。主催者側は敢えてヒントを出していた。つまり、真実に自力で辿り着くことを想定、または期待していた。ならば、イゴールと再度出会った時に聞ける真実は、また別のものということになる」
ここでばれるような真実なら、わざわざイゴールが契約までさせていた理由がなくなる。イゴールの知る真実は、瀬多が示した仮説とはまた別のものであるはずなのだ。
「三割、か。高いんだか低いんだかよくわからない数値ね」
「だが、命を賭けるには十分な確率だ」
漆黒の言葉に思わず全員が彼を見つめる。
が、誰も反論はしなかった。
「……確かに、現状最も可能性の高い仮説であることは認めないといけないな」
「で、でも……それがわかったところで、一体どうやってここから脱出するの?」
千枝の疑問は、単純だが的を得たものだった。
「俺達だけじゃ、ここから脱出することは不可能だ」
瀬多は簡単にそう言ってのけた。
「ここから脱出するための道は何とか見つけることができるだろう。魂を収集するというのなら、その魂が通る道筋があるはず。
奴らの絶対的な自信から見て、ギャラティックノヴァはこことは別の世界にあると考えていいだろう。ならば魂が通る、唯一ここから抜け出せるか細い一本の道を見つけ出せば、あとはそこを突き抜けるだけだ。だが、突き抜ける方法を俺達は持っていない」
「その道とやらはどうやって見つけるつもりなんだ?」
「それは博麗霊夢か東風谷早苗を見つければ何とかなるだろうと考えている。ここが巨大な神楽殿だというのなら、天宇受女命を祭る神社があってもおかしくない。
神憑りか、または本物の神楽でも踊ってもらうか、おそらくそれで魂の通った軌跡がわかる。それがこの世界に開いた唯一の抜け道だ」
鎮魂を会場内で行うのなら、その儀式をするための何かが必ずここにはある。瀬多はその何かが、天宇受女命の力そのものだと考えていた。
そして、その力を使おうと考えるなら、必ずそれを祭る神社が必要なのだ。
「でもそれで終わり。道がわかったからといって、どうにかなるものでもない。結局、私達はその道を渡る力がないってわけね」
「ああ。だから負の女神に頼るんだ」
「え? でも、私達を助けようとしている人達が外にはいるんですよね。その人には頼らないんですか?」
「負の女神はともかく、主催者側に助っ人がいるという情報はあまりにも不確かなものだ」
アドレーヌの素朴な疑問に、漆黒が答えた。
「漆黒の言う通りだ。それに、イザナミの思惑も計りかねているところがある。主催者側が一枚岩でないことはわかるが、それ以上の情報はわからない。こんな状況で贅沢を言うようだが、不確定要素はできるだけ排除したい」
漆黒の言葉から、メダリオンに負の女神が封印されていることは確定している。
しかし他の情報は、全てが不確定だ。ゲーム機のことも、もしかしたらただのブラフかもしれない。クリスタルも、ただ殺し合いを促進させるだけのアイテムかもしれない。
そんな状況で、いるかもわからない助っ人の助けを当てにするのはあまりに悠長だ。
奴らの絶対的な自信から見て、ギャラティックノヴァはこことは別の世界にあると考えていいだろう。ならば魂が通る、唯一ここから抜け出せるか細い一本の道を見つけ出せば、あとはそこを突き抜けるだけだ。だが、突き抜ける方法を俺達は持っていない」
「その道とやらはどうやって見つけるつもりなんだ?」
「それは博麗霊夢か東風谷早苗を見つければ何とかなるだろうと考えている。ここが巨大な神楽殿だというのなら、天宇受女命を祭る神社があってもおかしくない。
神憑りか、または本物の神楽でも踊ってもらうか、おそらくそれで魂の通った軌跡がわかる。それがこの世界に開いた唯一の抜け道だ」
鎮魂を会場内で行うのなら、その儀式をするための何かが必ずここにはある。瀬多はその何かが、天宇受女命の力そのものだと考えていた。
そして、その力を使おうと考えるなら、必ずそれを祭る神社が必要なのだ。
「でもそれで終わり。道がわかったからといって、どうにかなるものでもない。結局、私達はその道を渡る力がないってわけね」
「ああ。だから負の女神に頼るんだ」
「え? でも、私達を助けようとしている人達が外にはいるんですよね。その人には頼らないんですか?」
「負の女神はともかく、主催者側に助っ人がいるという情報はあまりにも不確かなものだ」
アドレーヌの素朴な疑問に、漆黒が答えた。
「漆黒の言う通りだ。それに、イザナミの思惑も計りかねているところがある。主催者側が一枚岩でないことはわかるが、それ以上の情報はわからない。こんな状況で贅沢を言うようだが、不確定要素はできるだけ排除したい」
漆黒の言葉から、メダリオンに負の女神が封印されていることは確定している。
しかし他の情報は、全てが不確定だ。ゲーム機のことも、もしかしたらただのブラフかもしれない。クリスタルも、ただ殺し合いを促進させるだけのアイテムかもしれない。
そんな状況で、いるかもわからない助っ人の助けを当てにするのはあまりに悠長だ。
「じゃあ結局、私達はその負の女神が復活してくれるのを待つしかないってわけ?」
「実はそうでもない」
瀬多がごそごそとバックを漁る。霧雨魔理沙のものだ。
「こんなものを見つけた」
そう言って瀬多が取り出したのは、マスターボールというものだった。
どんなポケモンも捕まえることができるというレアなモンスターボールだ。
「攻略本によると、戦力強化のためのポケモンが入っているらしい。ゲームでいうところの隠しアイテムってやつだ」
そう言って、手の中でボールを弄ぶ。
「ついでに、こんな紙切れも張り付いていた」
一枚の紙を全員に見せる。
そこには、『三度目の朝まで、クリスタルを』とだけ書かれた。
「なにこれ? ふざけてるわね。何のメッセージにもなってない」
「三度目の朝までにクリスタルを集めろってこと? それとも三度目の朝まで待てってことかな。つか、三度目の朝って、いつまで待たなくちゃいけないのよ」
一回目の放送で既に十人もの参加者が死んでいた。このままいけば、三度目の朝を迎える頃には、既に殺し合いは終了しているだろう。
「おそらく、これは奴らの保険だったんだ」
千枝の疑問に答えるように瀬多は言った。
「三度目の朝まで縺れる程に戦力が拮抗しているのなら、その拮抗を崩すだけの力を与えようとするのは殺し合いを促進したい側からすれば当然の考えだ。
戦力の度合いによっては一気に殺し合いは加速する。自分達が介入できない分、道具で殺し合いを促進させる。これはその布石だろう」
主催者の目的が負の感情を認識させることにあるとすれば、できるだけ長い時間をかけ参加者同士で殺し合ってくれた方がいい。
より疑い合い、憎み合って。
その時間を捻出するために用意したのが、三日目の朝に使用できるようになるアイテム。
三日も経てば、それなりに負の感情のサンプルは集まっているという推測があったのだろう。
自分達の力だけで殺し合ってくれた方がいいのだろうが、それでも戦力を増加させたところで参加者が抱く負の感情は変わらない。
「実はそうでもない」
瀬多がごそごそとバックを漁る。霧雨魔理沙のものだ。
「こんなものを見つけた」
そう言って瀬多が取り出したのは、マスターボールというものだった。
どんなポケモンも捕まえることができるというレアなモンスターボールだ。
「攻略本によると、戦力強化のためのポケモンが入っているらしい。ゲームでいうところの隠しアイテムってやつだ」
そう言って、手の中でボールを弄ぶ。
「ついでに、こんな紙切れも張り付いていた」
一枚の紙を全員に見せる。
そこには、『三度目の朝まで、クリスタルを』とだけ書かれた。
「なにこれ? ふざけてるわね。何のメッセージにもなってない」
「三度目の朝までにクリスタルを集めろってこと? それとも三度目の朝まで待てってことかな。つか、三度目の朝って、いつまで待たなくちゃいけないのよ」
一回目の放送で既に十人もの参加者が死んでいた。このままいけば、三度目の朝を迎える頃には、既に殺し合いは終了しているだろう。
「おそらく、これは奴らの保険だったんだ」
千枝の疑問に答えるように瀬多は言った。
「三度目の朝まで縺れる程に戦力が拮抗しているのなら、その拮抗を崩すだけの力を与えようとするのは殺し合いを促進したい側からすれば当然の考えだ。
戦力の度合いによっては一気に殺し合いは加速する。自分達が介入できない分、道具で殺し合いを促進させる。これはその布石だろう」
主催者の目的が負の感情を認識させることにあるとすれば、できるだけ長い時間をかけ参加者同士で殺し合ってくれた方がいい。
より疑い合い、憎み合って。
その時間を捻出するために用意したのが、三日目の朝に使用できるようになるアイテム。
三日も経てば、それなりに負の感情のサンプルは集まっているという推測があったのだろう。
自分達の力だけで殺し合ってくれた方がいいのだろうが、それでも戦力を増加させたところで参加者が抱く負の感情は変わらない。
「じゃあクリスタルってのは?」
「よく見てくれ。クリスタルを、のところ。修正ペンか何かで塗り潰して、その上から文字を書いたって感じじゃないか?」
全員が紙を凝視する。
よく見なければ分からないが、確かに瀬多の言う通り、事前に書いてあった文字を消して上書きしたように見える。
「た、確かに……」
「それに、筆跡も少し違う。つまり、『三度目の朝まで』というキーワードを書いた人物と、『クリスタルを』というキーワードを書いた人物は別人だとうことだ。
要するに、ここに書きたいキーワードに二人の間で齟齬が生じていたということ。それはつまり、このボールに対する考え方が違うということで、言うなれば────」
「目的が違う……。そっか! 私達を助けようとしてる側と、してない側!」
千枝が手を叩いて叫ぶ。
「その通り。そして当然、ボールが殺し合いの保険だという考え方は、助っ人側には成り立たない。助っ人からすれば、自分は怪しまれず、且つ参加者ができるだけ目減りしない、そんなタイミングで切り札を渡したいはずだからな」
ゲーム機も人と積極的に接触しなければならない機能があった。クリスタルも、四つ集めなければ意味がない。
それらは参加者に移動を強制させるもので、助っ人側の主張としては、全て殺し合いを促進させるものというわけだ。
「攻略本に情報が記載されているところを見ても、これは元々殺し合いを促進させたい人間が用意したものと見て間違いない」
ゲーム機の情報が攻略本に載っていなかったところを見ても、攻略本は主催者によって作られたとみて間違いない。ならば、攻略本に載っている情報は全て主催者の意図するもの。
今回のマスターボールでいえば、戦力増強。それが主催者の狙いだった。
「『三度目の朝まで』というキーワードはこの際無視していいんだ。問題は『クリスタルを』のところ。
このマスターボールはロックがされていて使えないんだが、そのロックは時間じゃなくてアイテムによって外れる。その鍵がクリスタルだとみてまず間違いないだろう」
そして、その中身も間違いなくすげ変わっているはずだ。参加者側により有利なものに。
「よく見てくれ。クリスタルを、のところ。修正ペンか何かで塗り潰して、その上から文字を書いたって感じじゃないか?」
全員が紙を凝視する。
よく見なければ分からないが、確かに瀬多の言う通り、事前に書いてあった文字を消して上書きしたように見える。
「た、確かに……」
「それに、筆跡も少し違う。つまり、『三度目の朝まで』というキーワードを書いた人物と、『クリスタルを』というキーワードを書いた人物は別人だとうことだ。
要するに、ここに書きたいキーワードに二人の間で齟齬が生じていたということ。それはつまり、このボールに対する考え方が違うということで、言うなれば────」
「目的が違う……。そっか! 私達を助けようとしてる側と、してない側!」
千枝が手を叩いて叫ぶ。
「その通り。そして当然、ボールが殺し合いの保険だという考え方は、助っ人側には成り立たない。助っ人からすれば、自分は怪しまれず、且つ参加者ができるだけ目減りしない、そんなタイミングで切り札を渡したいはずだからな」
ゲーム機も人と積極的に接触しなければならない機能があった。クリスタルも、四つ集めなければ意味がない。
それらは参加者に移動を強制させるもので、助っ人側の主張としては、全て殺し合いを促進させるものというわけだ。
「攻略本に情報が記載されているところを見ても、これは元々殺し合いを促進させたい人間が用意したものと見て間違いない」
ゲーム機の情報が攻略本に載っていなかったところを見ても、攻略本は主催者によって作られたとみて間違いない。ならば、攻略本に載っている情報は全て主催者の意図するもの。
今回のマスターボールでいえば、戦力増強。それが主催者の狙いだった。
「『三度目の朝まで』というキーワードはこの際無視していいんだ。問題は『クリスタルを』のところ。
このマスターボールはロックがされていて使えないんだが、そのロックは時間じゃなくてアイテムによって外れる。その鍵がクリスタルだとみてまず間違いないだろう」
そして、その中身も間違いなくすげ変わっているはずだ。参加者側により有利なものに。
「ふん。随分と遠回しな伝え方だな。もっとストレートにできなかったのか?」
「たぶんできなかったんだろう」
瀬多には、どういうやりとりがあったのか、手に取るようにわかった。
この思わぬ助っ人は、おそらく支給品を比較的自由に扱える立場にあった。そこでゲーム機やらマスターボールやら、色々と細工をすることができた。
マスターボールの鍵をクリスタルにしたのは、長期的に見ればクリスタル争奪戦が始まるのを予期してのことだろう。だからこそ、助っ人は主催者にこう言った。
『クリスタルの重要性を示唆すれば、もっと殺し合いは加速するんじゃないか』と。
おそらくは歪曲的な言い方だったのだろう。あくまで主催者本人が気付くように仕向けた。それで急遽とってつけたようにクリスタルという単語をいれた。
支給品に関する仕事が助っ人の仕事だというのなら、そういった些細な変更も助っ人に任せていたとしても何ら不思議じゃない。
紙を変えず、わざわざ書き直したのは、先程の瀬多の推理を参加者にさせるためだ。助っ人の存在に勘付いている人間なら、これが重要アイテムだと気付くだろうし、そうでなかったとしてもクリスタルという単語は無視できない。
これで助っ人は、自分の伝えたい情報を何の危険もなしに参加者に伝えることとなった。
「たぶんできなかったんだろう」
瀬多には、どういうやりとりがあったのか、手に取るようにわかった。
この思わぬ助っ人は、おそらく支給品を比較的自由に扱える立場にあった。そこでゲーム機やらマスターボールやら、色々と細工をすることができた。
マスターボールの鍵をクリスタルにしたのは、長期的に見ればクリスタル争奪戦が始まるのを予期してのことだろう。だからこそ、助っ人は主催者にこう言った。
『クリスタルの重要性を示唆すれば、もっと殺し合いは加速するんじゃないか』と。
おそらくは歪曲的な言い方だったのだろう。あくまで主催者本人が気付くように仕向けた。それで急遽とってつけたようにクリスタルという単語をいれた。
支給品に関する仕事が助っ人の仕事だというのなら、そういった些細な変更も助っ人に任せていたとしても何ら不思議じゃない。
紙を変えず、わざわざ書き直したのは、先程の瀬多の推理を参加者にさせるためだ。助っ人の存在に勘付いている人間なら、これが重要アイテムだと気付くだろうし、そうでなかったとしてもクリスタルという単語は無視できない。
これで助っ人は、自分の伝えたい情報を何の危険もなしに参加者に伝えることとなった。
しかし、と瀬多は思う。
いくらなんでも、この助っ人は動き過ぎだ。切り札なんて一つでいい。いや、一つだからこそ迷彩が効き、敵の裏をかけるのだ。たとえ負の女神だけではここから脱出できないと考えていたとしても、もう少しやりようがある。
この助っ人は、好き勝手にやっても許されるという何らかの自信があったのだろう。主催者側から直接許可をもらっているのか、詳しいことはわからないが、どこかその存在は特別視されているような気がする。
だが、いくら許されるからといって、こうも重要アイテムをこちらに支給したのでは、誰かに反感を買ってもおかしくない。それだけ焦っているのかもしれないが、どちらにせよ少々展望をないがしろにし過ぎている。
それも作戦の内なのかどうか。その真意を瀬多は知りたかった。
(助っ人か。本当にいるのなら、どうにか連絡を取りたいものだが……)
いくらなんでも、この助っ人は動き過ぎだ。切り札なんて一つでいい。いや、一つだからこそ迷彩が効き、敵の裏をかけるのだ。たとえ負の女神だけではここから脱出できないと考えていたとしても、もう少しやりようがある。
この助っ人は、好き勝手にやっても許されるという何らかの自信があったのだろう。主催者側から直接許可をもらっているのか、詳しいことはわからないが、どこかその存在は特別視されているような気がする。
だが、いくら許されるからといって、こうも重要アイテムをこちらに支給したのでは、誰かに反感を買ってもおかしくない。それだけ焦っているのかもしれないが、どちらにせよ少々展望をないがしろにし過ぎている。
それも作戦の内なのかどうか。その真意を瀬多は知りたかった。
(助っ人か。本当にいるのなら、どうにか連絡を取りたいものだが……)
そんなことを瀬多が考えていた時だった。
突然、奇妙な機械音が辺りに響いた。
「な、何の音────」
アドレーヌの声を瀬多が人差し指をたてて黙らせる。
瀬多のその様子を見て、全員が押し黙る。その音がどこから聞こえるのかを、全員が聞き耳をたてる。
「……あれ? もしかしなくても私?」
そう。その音は確かに千枝のバックから聞こえる。
慌ててバックに手を突っ込む。
しばらくごそごそとバックを漁り、そこから取り出したのは拳銃の形をしたライターだった。
奇妙な音は、そのライターが発していた。
「ちょ、ちょっとちょっと! なにこれ爆弾!? ……あ! 咲夜が逃げる!! おいこら! なにあんただけ保身に走ってんのよ!!」
一目散に逃走を計る咲夜に、千枝はダイブしてしがみつく。
その反動で二人は転倒。咲夜が引き離そうとしても、千枝は決して力を緩めない。
「ちょ、ちょっと千枝!! 死ぬなら自分一人で死になさい!!」
「うっさいボケ!! どうせならお前も道連れじゃー!!」
ぎゃーぎゃーと喚く二人。
離しなさい!! とか、死んでも離さん!! とかいうやりとりを繰り返していると、ひょいとアドレーヌがライターを手に取った。
色々と弄っていると、カチャリという音と共に形が変形した。
ちょうど銃身とグリップの境目の場所を軸に、への字に曲がる。
「あれ? これライターじゃないみたいですよ」
トリガーガードを少し押すと、それが勢いよく引っ込み、への字だった銃がさらに鈍角を広げる。
そこにきて、ようやく瀬多もこれが何なのかがわかってきた。
「少し貸してくれ」
アドレーヌに差し出された銃を手に取り、自分が思い描く完成形に合わせてピースを動かす。
ライターは面白いようにカチャカチャと音をたてて変形していく。
突然、奇妙な機械音が辺りに響いた。
「な、何の音────」
アドレーヌの声を瀬多が人差し指をたてて黙らせる。
瀬多のその様子を見て、全員が押し黙る。その音がどこから聞こえるのかを、全員が聞き耳をたてる。
「……あれ? もしかしなくても私?」
そう。その音は確かに千枝のバックから聞こえる。
慌ててバックに手を突っ込む。
しばらくごそごそとバックを漁り、そこから取り出したのは拳銃の形をしたライターだった。
奇妙な音は、そのライターが発していた。
「ちょ、ちょっとちょっと! なにこれ爆弾!? ……あ! 咲夜が逃げる!! おいこら! なにあんただけ保身に走ってんのよ!!」
一目散に逃走を計る咲夜に、千枝はダイブしてしがみつく。
その反動で二人は転倒。咲夜が引き離そうとしても、千枝は決して力を緩めない。
「ちょ、ちょっと千枝!! 死ぬなら自分一人で死になさい!!」
「うっさいボケ!! どうせならお前も道連れじゃー!!」
ぎゃーぎゃーと喚く二人。
離しなさい!! とか、死んでも離さん!! とかいうやりとりを繰り返していると、ひょいとアドレーヌがライターを手に取った。
色々と弄っていると、カチャリという音と共に形が変形した。
ちょうど銃身とグリップの境目の場所を軸に、への字に曲がる。
「あれ? これライターじゃないみたいですよ」
トリガーガードを少し押すと、それが勢いよく引っ込み、への字だった銃がさらに鈍角を広げる。
そこにきて、ようやく瀬多もこれが何なのかがわかってきた。
「少し貸してくれ」
アドレーヌに差し出された銃を手に取り、自分が思い描く完成形に合わせてピースを動かす。
ライターは面白いようにカチャカチャと音をたてて変形していく。
「アドレーヌでも冷静なのに。まったくお前達二人ときたら」
レミリアが呆れたようにため息をつく。
「え!? 私も!?」
「まったく。千枝ときたら」
咲夜があっけらかんと言った。
「お前だけは絶対に許さん!!」
再び咲夜に飛びつこうとした千枝を、瀬多の「できたぞ」の声が止めた。
「それは何だ?」
漆黒の疑問も無理からぬこと。彼の世界では、“これ”は存在しないのだから。
「携帯電話だ。遠くにいる者と連絡をとることができる」
漆黒は便利なものだと感心して、ライターだったものを見つめる。
変わらず鳴り響く携帯の、ボタンと思しきところに指を添える。
「俺が出る。いいな?」
全員が頷く。
瀬多はその電話の主に当たりをつけながら、ボタンを押した。
レミリアが呆れたようにため息をつく。
「え!? 私も!?」
「まったく。千枝ときたら」
咲夜があっけらかんと言った。
「お前だけは絶対に許さん!!」
再び咲夜に飛びつこうとした千枝を、瀬多の「できたぞ」の声が止めた。
「それは何だ?」
漆黒の疑問も無理からぬこと。彼の世界では、“これ”は存在しないのだから。
「携帯電話だ。遠くにいる者と連絡をとることができる」
漆黒は便利なものだと感心して、ライターだったものを見つめる。
変わらず鳴り響く携帯の、ボタンと思しきところに指を添える。
「俺が出る。いいな?」
全員が頷く。
瀬多はその電話の主に当たりをつけながら、ボタンを押した。
◇◇◇
【??? ラウンジ】
【??? ラウンジ】
永琳は悩んでいた。
イザナミの思惑が分からずに? 神々をどうやって出し抜くかを考えて?
否。
それは目の前の自動販売機に対するものだった。
「ツチノコって……おいしいのかしら」
何千年と生きる彼女も、ツチノコを食べたことはない。
興味はある。興味はあるが、……買いづらい。
なにせ、他のものと比べて段違いな程に高いのだ。散財はしたくない。
悩む永琳。しかしそんな彼女にまったく頓着せず、ツチノコのボタンを押した男がいた。
ガタンと音がし、自動販売機の中から串に刺さったツチノコを取り出す。
「食わないのか?」
「……それ、おいしいの?」
「味は保証する」
にやりと男は笑った。
がぶりと一口。
しかし、様子がおかしい。何か飲みこみづらそうにもごもごと口を動かしている。
ようやく飲みこみ、男は一言呟いた。
「……腐ってる」
……買うのは止めておこう。
永琳は適当に保存食を選び、自販機から取り出した。
「マルクがお世話になってるわね」
「あいつをどうにかできないのか? 休憩中も仕事中も付き纏われて、正直困ってる。いつの間にか俺の膝の上に座ってるんだ」
クスリと永琳は笑う。
「あなたに懐いているのよ」
「子供に懐かれたのは初めてだ」
「女性に口説かれたことは?」
「何度か。手痛いしっぺ返しをくらうのがほとんどだったが」
そう言って、男は苦笑する。
「今回は違うわよ」
男は黙ってツチノコを口に頬張る。
腐っていたのではなかったか。そんな疑問を、永琳は呑みこんだ。
「俺はお前を信用してない。俺の相棒もな」
「私は信用してるわ。あなただけだけど」
「そりゃ光栄だ。嬢ちゃんにそうまで言われたら、さすがに下心が出てくる」
「存分に出しなさい。けど一つ訂正。私は嬢ちゃんじゃないわ」
「おばあさんか?」
永琳はにこりと笑う。
「間違ってはいないけど、レディに対して言う言葉じゃないわね」
「失敬。俺はダブルオーセブンのようにスマートじゃないんだ」
「気障な男より、ワイルドな男の方が好みよ」
「用件は?」
先程までと同じく軽い口調。
しかし、その雰囲気は明らかに違う。
イザナミの思惑が分からずに? 神々をどうやって出し抜くかを考えて?
否。
それは目の前の自動販売機に対するものだった。
「ツチノコって……おいしいのかしら」
何千年と生きる彼女も、ツチノコを食べたことはない。
興味はある。興味はあるが、……買いづらい。
なにせ、他のものと比べて段違いな程に高いのだ。散財はしたくない。
悩む永琳。しかしそんな彼女にまったく頓着せず、ツチノコのボタンを押した男がいた。
ガタンと音がし、自動販売機の中から串に刺さったツチノコを取り出す。
「食わないのか?」
「……それ、おいしいの?」
「味は保証する」
にやりと男は笑った。
がぶりと一口。
しかし、様子がおかしい。何か飲みこみづらそうにもごもごと口を動かしている。
ようやく飲みこみ、男は一言呟いた。
「……腐ってる」
……買うのは止めておこう。
永琳は適当に保存食を選び、自販機から取り出した。
「マルクがお世話になってるわね」
「あいつをどうにかできないのか? 休憩中も仕事中も付き纏われて、正直困ってる。いつの間にか俺の膝の上に座ってるんだ」
クスリと永琳は笑う。
「あなたに懐いているのよ」
「子供に懐かれたのは初めてだ」
「女性に口説かれたことは?」
「何度か。手痛いしっぺ返しをくらうのがほとんどだったが」
そう言って、男は苦笑する。
「今回は違うわよ」
男は黙ってツチノコを口に頬張る。
腐っていたのではなかったか。そんな疑問を、永琳は呑みこんだ。
「俺はお前を信用してない。俺の相棒もな」
「私は信用してるわ。あなただけだけど」
「そりゃ光栄だ。嬢ちゃんにそうまで言われたら、さすがに下心が出てくる」
「存分に出しなさい。けど一つ訂正。私は嬢ちゃんじゃないわ」
「おばあさんか?」
永琳はにこりと笑う。
「間違ってはいないけど、レディに対して言う言葉じゃないわね」
「失敬。俺はダブルオーセブンのようにスマートじゃないんだ」
「気障な男より、ワイルドな男の方が好みよ」
「用件は?」
先程までと同じく軽い口調。
しかし、その雰囲気は明らかに違う。
「私を自由にしてほしい」
「……それはどういう意味だ?」
一気に、男の警戒心が上がる。
「そのままの意味よ。私はただ自由にしてほしいだけ。姫と私の自由を保証してくれるなら、私は神の意思に従うわ」
どう答えたものかと考え、男は彼女に合わせることにした。
「……俺の権限じゃどうもな」
「ゼロに進言して」
「あいつが俺の言う事を聞くと思うか?」
「聞くわ。あなたの言う事ならゼロは聞く。あなたを蘇らせたのは、ほとんどゼロの意思といってもいいのよ?」
一体誰がそんなことを頼んだと言うのだ。
そんな愚痴にも近い言葉を呑みこみ、男は黙ってツチノコを口に運ぶ。
「お願い。私達を救って。私がどれほどの危険を冒してこんなことを頼んでいるか、わかってくれるでしょう? 私達はただ、静かに暮らしたいだけなの。世界を作ろうが何をしようが私達は構わないわ。だから……」
「……泣き落としは止めてくれ」
ツチノコを平らげ、近くのゴミ箱にそれを放り捨てると、男はさっさとその場を去ろうとする。
先程までの様子から、呼び止められるかと思ったが何も言ってこない。
振り向くべきじゃない。そう思うが、結局ため息と共に振り向いていた。
「……それはどういう意味だ?」
一気に、男の警戒心が上がる。
「そのままの意味よ。私はただ自由にしてほしいだけ。姫と私の自由を保証してくれるなら、私は神の意思に従うわ」
どう答えたものかと考え、男は彼女に合わせることにした。
「……俺の権限じゃどうもな」
「ゼロに進言して」
「あいつが俺の言う事を聞くと思うか?」
「聞くわ。あなたの言う事ならゼロは聞く。あなたを蘇らせたのは、ほとんどゼロの意思といってもいいのよ?」
一体誰がそんなことを頼んだと言うのだ。
そんな愚痴にも近い言葉を呑みこみ、男は黙ってツチノコを口に運ぶ。
「お願い。私達を救って。私がどれほどの危険を冒してこんなことを頼んでいるか、わかってくれるでしょう? 私達はただ、静かに暮らしたいだけなの。世界を作ろうが何をしようが私達は構わないわ。だから……」
「……泣き落としは止めてくれ」
ツチノコを平らげ、近くのゴミ箱にそれを放り捨てると、男はさっさとその場を去ろうとする。
先程までの様子から、呼び止められるかと思ったが何も言ってこない。
振り向くべきじゃない。そう思うが、結局ため息と共に振り向いていた。
男は、すぐに永琳の異変に気付いた。
どこかあらぬ方向を向いている。しかし、その顔はあまり付き合いのない男でもわかるほどに蒼白だった。
「どうかした────」
突然、永琳の華奢な身体が男に縋りついてきた。
「だ、駄目。何もかも早過ぎる! お願いボス。私の一生のお願い! 叶えてくれたら何でもする。だから、だから姫を解放して! あなたに私の一生を捧げる。だから────」
「おい待て! いきなりどうしたんだ。少し落ち着け」
「私には姫しかいないの! 姫がいなくなったら私は……」
それ以上、言葉が紡がれることはなかった。
俯き、ただ黙って男に縋っていた。
「……おい。お前ひょっとして────」
「わー! お二人って仲が良かったんですねー。ヒューヒュー」
どこから湧いて出たのか、イザナミが腹立たしいほどにうまい口笛で捲くし立てた。
「二人の逢引をお邪魔するようで悪いんだけどぉ、そろそろお仕事に戻ってもらってもいいかな? 我ら中間管理職、やるべき仕事はたんまりあるんだよね、これが」
永琳は、先程までの取り乱しぶりが嘘のように、何も言わずにくるりとこちらに背を向けると、そのまま歩いて行ってしまった。
男は永琳のことが少し気になったが、けっきょく追いかけるようなことはしなかった。
何故かむしゃくしゃする。
男は葉巻を取り出して口にくわえた。
どこかあらぬ方向を向いている。しかし、その顔はあまり付き合いのない男でもわかるほどに蒼白だった。
「どうかした────」
突然、永琳の華奢な身体が男に縋りついてきた。
「だ、駄目。何もかも早過ぎる! お願いボス。私の一生のお願い! 叶えてくれたら何でもする。だから、だから姫を解放して! あなたに私の一生を捧げる。だから────」
「おい待て! いきなりどうしたんだ。少し落ち着け」
「私には姫しかいないの! 姫がいなくなったら私は……」
それ以上、言葉が紡がれることはなかった。
俯き、ただ黙って男に縋っていた。
「……おい。お前ひょっとして────」
「わー! お二人って仲が良かったんですねー。ヒューヒュー」
どこから湧いて出たのか、イザナミが腹立たしいほどにうまい口笛で捲くし立てた。
「二人の逢引をお邪魔するようで悪いんだけどぉ、そろそろお仕事に戻ってもらってもいいかな? 我ら中間管理職、やるべき仕事はたんまりあるんだよね、これが」
永琳は、先程までの取り乱しぶりが嘘のように、何も言わずにくるりとこちらに背を向けると、そのまま歩いて行ってしまった。
男は永琳のことが少し気になったが、けっきょく追いかけるようなことはしなかった。
何故かむしゃくしゃする。
男は葉巻を取り出して口にくわえた。
「神という奴は、随分と神出鬼没だな」
「人智を越えた存在だからね。それにしても安心したよ。古参同士でありながら、君と永琳は仲が悪かったからね。上司である俺からすればけっこう心配してたんだ」
「あの嬢ちゃん、妙なことを言っていたぞ。姫を解放しろとかどうとか。……お前、何か変な事を吹き込んだんじゃないだろうな」
「あっはっは! 一体何を吹き込むって言うんだよ。まるで俺が彼女を利用してるみたいじゃないか。俺とえーりんは、あんた以上にふか~い仲なんだぜ? なにせ俺達、チューまで済ましたくらいだからさ」
「…………」
捉えどころのない神だ。
そう心の中で毒づく。
「それよりさぁ。つい数時間前に俺が言ったことも忘れちゃったの? あんまり外に出るなって言ったじゃない。なんちゃって老人だからって、ボケた振りは止めて欲しいなぁ」
今の男の体は、全盛期と同じ肉体だった。
ビッグボスという名を冠されたあの時と同じ。
そのことにありがたいと思ったことは今のところない。元々、こういう最先端技術というやつはあまり好きではないのだ。
……いや、魔術というものだったか。どっちにせよ、胡散臭いことには変わりない。
「お前、嬢ちゃんを脅しているのか?」
男のその言葉に、イザナミはきょとんとし、それからすぐに高笑いした。
「いきなり何言ってんのさ。俺がどうやって彼女を脅すって言うんだよ。わかってる? 俺をここに閉じ込めてるのはあんたらなんだぜ?」
「マルクから聞いた。参加者から溢れた奴らの牢獄。あそこに嬢ちゃんの大切なお姫様がいるらしいじゃないか」
「だから? 俺ってば、お姫様には何も手出ししてないよ?」
無実を証明するように、手を広げてみせる。
「手を出さなくても、脅しの材料にはできる」
「おーい。そろそろ俺も怒るよ? 輝夜ちゃんを勝手に連れて来たのはあんたらじゃないか。それを無視して俺を悪者扱いかい? 酷い話だねぇ。俺は文句も言わずにあくせく働いてるってのにさ」
その静かな怒りは、確かに本物のように思える。だが、本物らしい演技ができる人間を、男は何人も知っていた。
「……仕事に戻る」
「それがよろしい」
男はイザナミに背を向け、監視部屋へと足を進める。
監視組という役職に割り振られた男は、仕事といってもモニターを見つめるだけだ。やる気など初めからない。
いつもならその不毛な仕事について考え憂鬱になるところだが、今回はまったく別のことを考えていた。
「人智を越えた存在だからね。それにしても安心したよ。古参同士でありながら、君と永琳は仲が悪かったからね。上司である俺からすればけっこう心配してたんだ」
「あの嬢ちゃん、妙なことを言っていたぞ。姫を解放しろとかどうとか。……お前、何か変な事を吹き込んだんじゃないだろうな」
「あっはっは! 一体何を吹き込むって言うんだよ。まるで俺が彼女を利用してるみたいじゃないか。俺とえーりんは、あんた以上にふか~い仲なんだぜ? なにせ俺達、チューまで済ましたくらいだからさ」
「…………」
捉えどころのない神だ。
そう心の中で毒づく。
「それよりさぁ。つい数時間前に俺が言ったことも忘れちゃったの? あんまり外に出るなって言ったじゃない。なんちゃって老人だからって、ボケた振りは止めて欲しいなぁ」
今の男の体は、全盛期と同じ肉体だった。
ビッグボスという名を冠されたあの時と同じ。
そのことにありがたいと思ったことは今のところない。元々、こういう最先端技術というやつはあまり好きではないのだ。
……いや、魔術というものだったか。どっちにせよ、胡散臭いことには変わりない。
「お前、嬢ちゃんを脅しているのか?」
男のその言葉に、イザナミはきょとんとし、それからすぐに高笑いした。
「いきなり何言ってんのさ。俺がどうやって彼女を脅すって言うんだよ。わかってる? 俺をここに閉じ込めてるのはあんたらなんだぜ?」
「マルクから聞いた。参加者から溢れた奴らの牢獄。あそこに嬢ちゃんの大切なお姫様がいるらしいじゃないか」
「だから? 俺ってば、お姫様には何も手出ししてないよ?」
無実を証明するように、手を広げてみせる。
「手を出さなくても、脅しの材料にはできる」
「おーい。そろそろ俺も怒るよ? 輝夜ちゃんを勝手に連れて来たのはあんたらじゃないか。それを無視して俺を悪者扱いかい? 酷い話だねぇ。俺は文句も言わずにあくせく働いてるってのにさ」
その静かな怒りは、確かに本物のように思える。だが、本物らしい演技ができる人間を、男は何人も知っていた。
「……仕事に戻る」
「それがよろしい」
男はイザナミに背を向け、監視部屋へと足を進める。
監視組という役職に割り振られた男は、仕事といってもモニターを見つめるだけだ。やる気など初めからない。
いつもならその不毛な仕事について考え憂鬱になるところだが、今回はまったく別のことを考えていた。
八意永琳。
先程の会話、最初は彼女の策略かと思った。しかし、それにしては真に迫るものがある。
彼女の言い方。あれはまるで、“円卓の神達が姫を人質に取っている”とでも言いたげだった。完全にこちらを敵と見做し、しかし自分では何もできないと考えている。そんな感じだった。
だがそれはおかしいのだ。何故なら神達は、八意永琳のことも、参加者から省かれた者達も、“何の拘束もしていない”のだから。
男は彼女を、“イザナミの腹心”だと考えていた。それが今、揺らぎつつある。
(嬢ちゃんとは、あとでゆっくり話し合う必要がある)
男はこの殺し合いが始まってから、ずっとここで働いていた。永琳もそうだ。しかし、男はずっと彼女を避けてきた。敵かもしれない相手と仲良くするほど男はお人好しじゃない。
(何かがおかしい。何かが噛み合わない)
そんな胸が悪くなるような奇妙な違和感を感じつつ、男は監視部屋へと入って行った。
先程の会話、最初は彼女の策略かと思った。しかし、それにしては真に迫るものがある。
彼女の言い方。あれはまるで、“円卓の神達が姫を人質に取っている”とでも言いたげだった。完全にこちらを敵と見做し、しかし自分では何もできないと考えている。そんな感じだった。
だがそれはおかしいのだ。何故なら神達は、八意永琳のことも、参加者から省かれた者達も、“何の拘束もしていない”のだから。
男は彼女を、“イザナミの腹心”だと考えていた。それが今、揺らぎつつある。
(嬢ちゃんとは、あとでゆっくり話し合う必要がある)
男はこの殺し合いが始まってから、ずっとここで働いていた。永琳もそうだ。しかし、男はずっと彼女を避けてきた。敵かもしれない相手と仲良くするほど男はお人好しじゃない。
(何かがおかしい。何かが噛み合わない)
そんな胸が悪くなるような奇妙な違和感を感じつつ、男は監視部屋へと入って行った。
◇◇◇
【殺し合い会場 D-4】
【殺し合い会場 D-4】
『はじめまして、と言うべきかしらね。瀬多総司』
「……それで合ってると思う。お前からすれば、知らない人間でもないかもしれないが」
『私は味方よ。安心してちょうだい』
瀬多の疑わしそうな口調を聞いて、電話の主は間髪いれずに声を紡いだ。
「根拠は?」
『ゲーム機を支給したのは私。そう言えばわかるかしら?』
ゲーム機のことを知っているのは、おそらくイザナミと助っ人の二人だけだろう。イザナミの目的は不明瞭だが、アスタルテの目的ははっきりしている。彼女がこれを見つければ、即刻これを破壊しにくるはずだ。
「もう一つ、俺達に希望を託したな?」
『ああ。マスターボールのことね。驚いた。そこまでわかってるの?』
あまり驚いてなさそうな口調で彼女は言った。
「全てに言える事だが、何故あんな回りくどい真似を?」
『あなたならわかるでしょ? アイテムを支給するには相応の建て前が必要だった。それに、すぐに手にされても困るのよ。あなた達がそれなりに戦力を充実させてからじゃないと、あまり意味を成さないから』
「参加者が何人も犠牲になっても、か?」
『……否定はしない。たとえ犠牲を出したとしても、確実なタイミングでカードを切る必要があった。それが主催者達を倒す唯一の方法だと私は信じてる』
主催者達。
断定はできないが、やはりイザナミだけでなくアスタルテも関わっているということだろう。
「……信じよう。疑っていてもきりがない」
『賢明ね。ちなみに、主催者側に盗聴する術はないわ。……いえ。する必要がない、と言った方がいいわね。そういうわけだから、そっちからの情報提供に関して慎重になる必要はないわ』
仮にも主催者側の人間がそう言っているのだ。首輪や会場にそういった機能がついていないのはまず間違いないだろう。
『それで? あなたはどこまで知ってるの?』
「そっちの情報をまず話せ。長々と交渉するほどこっちは暇じゃない」
『どうやら、信用はされていないようね』
「その通りだ。命の危険を冒してまで無償で俺達を助けようと考えるお人好しが、そうそういるとは思えない」
それは助っ人がいるだろうと推測した時から、変わらず瀬多の頭の中にあった考えだった。
『いるにはいるんだけど。……まぁ、そうね。確かに、少なくとも私じゃない。しかし利害は一致している』
弁解の一つでもするかと思ったが、電話の主は意外にもその事実を認めた。
ここでいらない時間を使いたくないのは向こうも同じということだろうか。
どちらにせよ、この女性に対し油断はできない。
彼女は、あくまでも他の目的を達成する足掛かりとして自分達を助けようとしている。それはつまり、こちらの命など鼻からどうでもよく、それ故にいつでも自分達を切り捨てることができるということだからだ。
「それはお前の判断だ。お前の目的を知らない俺達が、そう簡単に頷くとは思っていないだろ?」
『思っている。私の助けなしに、どうやってそこから抜け出すつもり?』
「ただの島だろ。首輪さえどうにかすれば、すぐにでも抜け出してやるさ」
「あれ? でもさっき────」
千枝が口を挟もうとするのを、咲夜が慌てて止める。
会話の相手が敵であろうと味方であろうと、こちらからそうやすやすと重要な情報を漏らすことはできない。
『……いいわ。いがみ合っていても仕方ない。そこは神が作り出した一つの世界よ』
「……それで合ってると思う。お前からすれば、知らない人間でもないかもしれないが」
『私は味方よ。安心してちょうだい』
瀬多の疑わしそうな口調を聞いて、電話の主は間髪いれずに声を紡いだ。
「根拠は?」
『ゲーム機を支給したのは私。そう言えばわかるかしら?』
ゲーム機のことを知っているのは、おそらくイザナミと助っ人の二人だけだろう。イザナミの目的は不明瞭だが、アスタルテの目的ははっきりしている。彼女がこれを見つければ、即刻これを破壊しにくるはずだ。
「もう一つ、俺達に希望を託したな?」
『ああ。マスターボールのことね。驚いた。そこまでわかってるの?』
あまり驚いてなさそうな口調で彼女は言った。
「全てに言える事だが、何故あんな回りくどい真似を?」
『あなたならわかるでしょ? アイテムを支給するには相応の建て前が必要だった。それに、すぐに手にされても困るのよ。あなた達がそれなりに戦力を充実させてからじゃないと、あまり意味を成さないから』
「参加者が何人も犠牲になっても、か?」
『……否定はしない。たとえ犠牲を出したとしても、確実なタイミングでカードを切る必要があった。それが主催者達を倒す唯一の方法だと私は信じてる』
主催者達。
断定はできないが、やはりイザナミだけでなくアスタルテも関わっているということだろう。
「……信じよう。疑っていてもきりがない」
『賢明ね。ちなみに、主催者側に盗聴する術はないわ。……いえ。する必要がない、と言った方がいいわね。そういうわけだから、そっちからの情報提供に関して慎重になる必要はないわ』
仮にも主催者側の人間がそう言っているのだ。首輪や会場にそういった機能がついていないのはまず間違いないだろう。
『それで? あなたはどこまで知ってるの?』
「そっちの情報をまず話せ。長々と交渉するほどこっちは暇じゃない」
『どうやら、信用はされていないようね』
「その通りだ。命の危険を冒してまで無償で俺達を助けようと考えるお人好しが、そうそういるとは思えない」
それは助っ人がいるだろうと推測した時から、変わらず瀬多の頭の中にあった考えだった。
『いるにはいるんだけど。……まぁ、そうね。確かに、少なくとも私じゃない。しかし利害は一致している』
弁解の一つでもするかと思ったが、電話の主は意外にもその事実を認めた。
ここでいらない時間を使いたくないのは向こうも同じということだろうか。
どちらにせよ、この女性に対し油断はできない。
彼女は、あくまでも他の目的を達成する足掛かりとして自分達を助けようとしている。それはつまり、こちらの命など鼻からどうでもよく、それ故にいつでも自分達を切り捨てることができるということだからだ。
「それはお前の判断だ。お前の目的を知らない俺達が、そう簡単に頷くとは思っていないだろ?」
『思っている。私の助けなしに、どうやってそこから抜け出すつもり?』
「ただの島だろ。首輪さえどうにかすれば、すぐにでも抜け出してやるさ」
「あれ? でもさっき────」
千枝が口を挟もうとするのを、咲夜が慌てて止める。
会話の相手が敵であろうと味方であろうと、こちらからそうやすやすと重要な情報を漏らすことはできない。
『……いいわ。いがみ合っていても仕方ない。そこは神が作り出した一つの世界よ』
電話の主が話す内容は、瀬多の話したものと大して変わらないものだった。これで瀬多の推理が間違っていなかったことが判明した。それだけでも情報を渋ったかいがある。
わざと妥協してくれたのか。そもそもこの妥協さえも芝居で、間違った仮説を真実だと思わせたいのか。それはわからないが。
「こっちの推測とだいたい同じだな。よかったよ。これで様々な仮説が現実味を帯びて来た」
これはこちらが相応の知能を持っていることをアピールするためのものだ。彼女は自分の目的が参加者を助けることでないことを明言している。この辺りで、こちらの価値を示しておく必要がある。
『……頭はそれなりに回るようね。安心したわ』
そう言って、彼女は小さく安堵のため息をついた。
どことなく焦燥している様子が窺える。
「……大丈夫か? こっちに連絡するだけでも、かなり大変だっただろ」
『仕方ないの。これも全て、私の詰めが甘かったせい』
どういうことか詳しく聞こうとした時、すでに彼女は喋り始めていた。
『私の名前は八意永琳。十六夜咲夜が近くにいるわね? 確認を取って頂戴。私が信用に足る者かどうか』
瀬多は電話を中断し、咲夜と向き合った。
「八意永琳という名前に心当たりは?」
「……やっぱり彼女が助っ人だったの?」
「気付いていたのか?」
「薄々ね。私の知人の中では一番の天才よ。あまり詳しくはないけど」
なるほど。幻想郷の住人だったわけか。
瀬多の知る数多の世界の中でもかなり異色な世界。そこの住人なら、世界創世の手伝いができる者がいてもおかしくない。
「信用に足る人間かどうか、咲夜に判断させろと言ってきている」
「……彼女の目的は私達を助けるためじゃないって断言した?」
「した」
瀬多は躊躇なく頷いた。
千枝やアドレーヌが少しだけ顔をこわばらせる。が、今は構っている暇はない。
「ならたぶん、彼女の目的はお姫様ね」
「お姫様?」
「蓬莱山輝夜。このお姫様のためなら、たぶん彼女は何だってするわ。自分の命に代えても守ろうとするでしょうね」
人質か。
永琳の立場を瞬時に理解し、瀬多は携帯に耳を当てた。
わざと妥協してくれたのか。そもそもこの妥協さえも芝居で、間違った仮説を真実だと思わせたいのか。それはわからないが。
「こっちの推測とだいたい同じだな。よかったよ。これで様々な仮説が現実味を帯びて来た」
これはこちらが相応の知能を持っていることをアピールするためのものだ。彼女は自分の目的が参加者を助けることでないことを明言している。この辺りで、こちらの価値を示しておく必要がある。
『……頭はそれなりに回るようね。安心したわ』
そう言って、彼女は小さく安堵のため息をついた。
どことなく焦燥している様子が窺える。
「……大丈夫か? こっちに連絡するだけでも、かなり大変だっただろ」
『仕方ないの。これも全て、私の詰めが甘かったせい』
どういうことか詳しく聞こうとした時、すでに彼女は喋り始めていた。
『私の名前は八意永琳。十六夜咲夜が近くにいるわね? 確認を取って頂戴。私が信用に足る者かどうか』
瀬多は電話を中断し、咲夜と向き合った。
「八意永琳という名前に心当たりは?」
「……やっぱり彼女が助っ人だったの?」
「気付いていたのか?」
「薄々ね。私の知人の中では一番の天才よ。あまり詳しくはないけど」
なるほど。幻想郷の住人だったわけか。
瀬多の知る数多の世界の中でもかなり異色な世界。そこの住人なら、世界創世の手伝いができる者がいてもおかしくない。
「信用に足る人間かどうか、咲夜に判断させろと言ってきている」
「……彼女の目的は私達を助けるためじゃないって断言した?」
「した」
瀬多は躊躇なく頷いた。
千枝やアドレーヌが少しだけ顔をこわばらせる。が、今は構っている暇はない。
「ならたぶん、彼女の目的はお姫様ね」
「お姫様?」
「蓬莱山輝夜。このお姫様のためなら、たぶん彼女は何だってするわ。自分の命に代えても守ろうとするでしょうね」
人質か。
永琳の立場を瞬時に理解し、瀬多は携帯に耳を当てた。
「信用する。余力があれば、そのお姫様を救う手助けもしよう」
『……ありがとう』
それは、彼女の心の底から発されたものだということが、瀬多にはわかった。
『私の目的は、姫と共にここから脱出すること。神達を抹殺すること。そのための刃が、あなた達』
「同じ土俵に立ったからといって、奴らを倒せるとは思えないが?」
『ユンヌの力を借りればいいわ。話は聞いているでしょう?』
神を倒すことができるのは神というわけではない。神の加護を受けた人間のみが、神にダメージを与えられる。
それは漆黒の騎士の話にもでてきたものだ。
「脱出の算段は?」
『……詳しくは言えない。博麗霊夢の持つipadを見つけなさい』
「ipad? それが脱出のカギか?」
『……その内の一つではある。かなり荒っぽいけど』
だんだんと読めてきた。
大っぴらにこれほどのキーをばら撒いたのは、おそらくブラフなのだ。ブラフを撒き散らし、そのどれもが充分に効力のあるもの故に主催者はそれらを無視できない。しかし、そのどれもが本命ではない。
瀬多は確信した。
彼女は、秘中の秘を持っている。
『……ありがとう』
それは、彼女の心の底から発されたものだということが、瀬多にはわかった。
『私の目的は、姫と共にここから脱出すること。神達を抹殺すること。そのための刃が、あなた達』
「同じ土俵に立ったからといって、奴らを倒せるとは思えないが?」
『ユンヌの力を借りればいいわ。話は聞いているでしょう?』
神を倒すことができるのは神というわけではない。神の加護を受けた人間のみが、神にダメージを与えられる。
それは漆黒の騎士の話にもでてきたものだ。
「脱出の算段は?」
『……詳しくは言えない。博麗霊夢の持つipadを見つけなさい』
「ipad? それが脱出のカギか?」
『……その内の一つではある。かなり荒っぽいけど』
だんだんと読めてきた。
大っぴらにこれほどのキーをばら撒いたのは、おそらくブラフなのだ。ブラフを撒き散らし、そのどれもが充分に効力のあるもの故に主催者はそれらを無視できない。しかし、そのどれもが本命ではない。
瀬多は確信した。
彼女は、秘中の秘を持っている。
「……本命を教えてはくれないのか?」
『ユンヌに頼りなさい。彼女なら勘付いてくれる。この連絡が終わったら、たぶん私は死ぬ。脱出については彼女の指示に従いなさい』
それは瀬多にとって、聞き捨てならない言葉だった。
「おいどういうことだ!? そっちで一体何があった!」
『いいから聞きなさい。イザナミはユンヌに関しては黙秘するつもりでいるらしいわ。だからゲーム機に勘付いても、難易度を上げるだけに留めた。けれど他のものは分からない。くれぐれも慎重に扱って』
あくまでも先程と同じく冷静な口調。
相手に詳しく喋るつもりはないらしい。いや、その時間がないのか。とにかく今は、問い詰めるよりも聞くべきことを聞く時だ。
「……このマスターボールは、一体何が入っているんだ?」
『神よ。そのボールは少し特殊でね。神の力を封印する効果を持っているの。だからこそ誰にもばれずにそっちに送ることができたんだけど、それも見破られた。
……どうやら、イザナミは困難をあなた達に与えたいようだわ。その困難を乗り越えた末の脱出なら黙認する。たぶん、そういう考え方』
電話を切られそうな気配。慌てて瀬多は言った。
「イザナミの目的は何なんだ! 何か知っているなら教えてくれ! 奴は俺達に何をさせたい!」
『あなた達が倒すべき神の数は四人。イザナミ、アスタルテ、ミュウツー、ゼロ。本当はゼムスという奴がいたけど、そいつはもう死んだわ』
「おい! いいから質問に────」
『あなたは絶対に死んでは駄目』
突然そんなことを言われ、瀬多は思わず黙った。
『あなたには役割がある。イザナギというペルソナを冠するあなたには。マヨナカテレビ事件と同じ、重要な何かがあるはず』
「……重要な、何か? それはイザナミが言っていたのか?」
『……わからない。私は嵌められたのか、それとも慢心していたのか。もしかしたら、マスターボールがいけなかったのかもしれない。参加者にとって何の困難もないアイテムの支給が、彼を怒らせたのかも。
……私には、もはやおぼろげな情報だろうと縋りつくしかないの』
あまりにも弱々しい声。彼女が衰弱し切っていることが電話越しにもわかった。
「……何が起きたのかはわからない。だが、俺達にはお前が必要なんだ。自棄にならないで、今は俺達がそっちに行くのを────」
『イザナミの目的が何か。あなた達は、決してそれを蔑ろにしてはいけない。思考を絶やしては駄目よ、瀬多総司。
真実は、いつも自分がじかに見て、考えて、自ら選んだ所にだけ現れるもの。あなたの行く先に、真実に繋がる道があることを信じなさい。そして、イザナミと対峙する前に、全ての者にとっての真実を突き止めなさい。じゃないと、あなた達に勝ち目はないわ』
そこで永琳からの電話はぶつりと切れた。
「お、おい!! 永琳!! 返事をしろ!!」
電話が切れているとわかっていながら、それでも瀬多は叫ばずにはいられなかった。
「……八意永琳がどうかしたの?」
「……わからない。だが、かなり追いつめられている様だった」
永琳の言葉がぐるぐると頭を回る。
彼女は、自分を重要人物だと言っていた。マヨナカテレビと同じ何らかの役割があると。
彼女がそう感じた根拠は結局提示されなかったが。彼女自身、半信半疑の情報ということだろうか。
『ユンヌに頼りなさい。彼女なら勘付いてくれる。この連絡が終わったら、たぶん私は死ぬ。脱出については彼女の指示に従いなさい』
それは瀬多にとって、聞き捨てならない言葉だった。
「おいどういうことだ!? そっちで一体何があった!」
『いいから聞きなさい。イザナミはユンヌに関しては黙秘するつもりでいるらしいわ。だからゲーム機に勘付いても、難易度を上げるだけに留めた。けれど他のものは分からない。くれぐれも慎重に扱って』
あくまでも先程と同じく冷静な口調。
相手に詳しく喋るつもりはないらしい。いや、その時間がないのか。とにかく今は、問い詰めるよりも聞くべきことを聞く時だ。
「……このマスターボールは、一体何が入っているんだ?」
『神よ。そのボールは少し特殊でね。神の力を封印する効果を持っているの。だからこそ誰にもばれずにそっちに送ることができたんだけど、それも見破られた。
……どうやら、イザナミは困難をあなた達に与えたいようだわ。その困難を乗り越えた末の脱出なら黙認する。たぶん、そういう考え方』
電話を切られそうな気配。慌てて瀬多は言った。
「イザナミの目的は何なんだ! 何か知っているなら教えてくれ! 奴は俺達に何をさせたい!」
『あなた達が倒すべき神の数は四人。イザナミ、アスタルテ、ミュウツー、ゼロ。本当はゼムスという奴がいたけど、そいつはもう死んだわ』
「おい! いいから質問に────」
『あなたは絶対に死んでは駄目』
突然そんなことを言われ、瀬多は思わず黙った。
『あなたには役割がある。イザナギというペルソナを冠するあなたには。マヨナカテレビ事件と同じ、重要な何かがあるはず』
「……重要な、何か? それはイザナミが言っていたのか?」
『……わからない。私は嵌められたのか、それとも慢心していたのか。もしかしたら、マスターボールがいけなかったのかもしれない。参加者にとって何の困難もないアイテムの支給が、彼を怒らせたのかも。
……私には、もはやおぼろげな情報だろうと縋りつくしかないの』
あまりにも弱々しい声。彼女が衰弱し切っていることが電話越しにもわかった。
「……何が起きたのかはわからない。だが、俺達にはお前が必要なんだ。自棄にならないで、今は俺達がそっちに行くのを────」
『イザナミの目的が何か。あなた達は、決してそれを蔑ろにしてはいけない。思考を絶やしては駄目よ、瀬多総司。
真実は、いつも自分がじかに見て、考えて、自ら選んだ所にだけ現れるもの。あなたの行く先に、真実に繋がる道があることを信じなさい。そして、イザナミと対峙する前に、全ての者にとっての真実を突き止めなさい。じゃないと、あなた達に勝ち目はないわ』
そこで永琳からの電話はぶつりと切れた。
「お、おい!! 永琳!! 返事をしろ!!」
電話が切れているとわかっていながら、それでも瀬多は叫ばずにはいられなかった。
「……八意永琳がどうかしたの?」
「……わからない。だが、かなり追いつめられている様だった」
永琳の言葉がぐるぐると頭を回る。
彼女は、自分を重要人物だと言っていた。マヨナカテレビと同じ何らかの役割があると。
彼女がそう感じた根拠は結局提示されなかったが。彼女自身、半信半疑の情報ということだろうか。
永琳がどう考えていたのかはわからない。しかし、自分がこの殺し合いのキーパーソンであるという仮説には、頷きづらい点があった。
あのメダリオンの騒動一つ取ってもそうだ。
あれは明らかにイザナミが仕組んだもの。そしてその騒動のさなか、瀬多は何度も死にかけた。一つ何かが間違っていれば、この世にいなかった。
もしも本当にキーパーソンなのだとしたら、そんな危険な真似を敢えてさせる必要などない。瀬多総司なら乗り越えられると信じていた、という考えなど論外。
瀬多は戦力的な意味だけでなく、精神的な意味でも仲間に頼っていたところがある。あの一連の騒動も、決して自分の力で乗り越えたとは思えない。
(やはりどう考えても、イザナミにとって俺が重要な人物だったとは思えない)
しかし、ただ一人だけ。自分を特別視しているような気がする人物はいる。
あのメダリオンの騒動一つ取ってもそうだ。
あれは明らかにイザナミが仕組んだもの。そしてその騒動のさなか、瀬多は何度も死にかけた。一つ何かが間違っていれば、この世にいなかった。
もしも本当にキーパーソンなのだとしたら、そんな危険な真似を敢えてさせる必要などない。瀬多総司なら乗り越えられると信じていた、という考えなど論外。
瀬多は戦力的な意味だけでなく、精神的な意味でも仲間に頼っていたところがある。あの一連の騒動も、決して自分の力で乗り越えたとは思えない。
(やはりどう考えても、イザナミにとって俺が重要な人物だったとは思えない)
しかし、ただ一人だけ。自分を特別視しているような気がする人物はいる。
イゴールだ。
瀬多の前にだけ現れ、自分を見つけさせるためにわざわざ『血の契約』までさせている。
それに、今回の神遊びの仮説だって、イゴールの言葉がなければ絶対に気付かなかった。
だがイザナミは、自分の言葉でヒントを与えたと言った。あれだけ丁寧にヒントを与えてくれていたのに、イゴールの存在は匂わせさえしなかった。
もしも。もしもイザナミにとって、イゴールの存在が計算外のものなのだとしたら。誰にも知られたくなかった存在なのだとしたら。
参加者に接触したことを知り、慌ててその参加者を消そうとしたのなら。それがメダリオン騒動と、アドレーヌのシャドウを出現させた本当の目的なのだとしたら。
……辻褄は合う気がする。少なくとも、イザナミが自分を特別視していると考えるよりずっと自然だ。
それに、今回の神遊びの仮説だって、イゴールの言葉がなければ絶対に気付かなかった。
だがイザナミは、自分の言葉でヒントを与えたと言った。あれだけ丁寧にヒントを与えてくれていたのに、イゴールの存在は匂わせさえしなかった。
もしも。もしもイザナミにとって、イゴールの存在が計算外のものなのだとしたら。誰にも知られたくなかった存在なのだとしたら。
参加者に接触したことを知り、慌ててその参加者を消そうとしたのなら。それがメダリオン騒動と、アドレーヌのシャドウを出現させた本当の目的なのだとしたら。
……辻褄は合う気がする。少なくとも、イザナミが自分を特別視していると考えるよりずっと自然だ。
永琳からしても、参加者である瀬多達からしても、イゴールは絶対に無視できない存在だ。なのに先程の会話では一切話題に上がらなかった。それは、永琳さえもその存在を詳しく知らされていなかったからではないか。
────私の役目は、お客人を助けることでございます────
あの言葉が真実なのだとしたら、イゴールは瀬多総司のために動いているということになる。
都合の良い考え方だろうか。しかし、そう考えられるだけの下地がある。
都合の良い考え方だろうか。しかし、そう考えられるだけの下地がある。
────再びこうして相対した時、真実をお教えしましょう────
────イザナミと対峙する前に、全ての者にとっての真実を突き止めなさい。じゃないと、あなた達に勝ち目はないわ────
イザナミの一番近くにいたであろう永琳が、真実の重要性を説き、イゴールがそれを教えてくれると言う。この符号の意味することは何なのか。
半信半疑だったものが、確信に変わっていく。
瀬多は、イゴールという存在の重要性を再認識した。
半信半疑だったものが、確信に変わっていく。
瀬多は、イゴールという存在の重要性を再認識した。