概要
現代4コマ空間は、2024年4月16日から同年4月21日まで愛知県清須市の清須市はるひ美術館オープン展示室にて開催された、現代4コマの展覧会である。正式名称は「いととと4コマ展 現代4コマ空間」。現代4コマの提唱者である概念作家・いととと(@itototo1010)が主催し、鑑賞は無料で行われた。本展は美術館での開催が決定したのが開催直前の時期であり、告知も開始2日前の2024年4月14日にX(旧Twitter)上で行われた。会期は6日間と短かったが、「美術館に現代4コマが出現する」という意表を突いた内容で注目を集めた。
開催の経緯
本展は、いとととが2024年3月に清須市はるひ美術館を訪れ、学芸員に現代4コマ作品の展示を持ちかけたことから急遽実現した経緯をもつ。美術館側から展示可能との回答を得てから開催までわずか半月ほどしかなく、準備は異例のスピードで進められた。本展以前に現代4コマの展示会は、銀座のギャラリー(2022年)や大学祭(2023年)で開催された例があるが、公共の美術館施設で行われるのは本展が初めての試みであった。
展示コンセプトと空間構成
「マンガにとらわれない4コマ、現代4コマ」を掲げた本展は、現代4コマという新たな表現形態を美術館という公共空間に実験的に持ち込むインスタレーション的試みであった。会場には通常の展示室ではなく館内の図書スペースを兼ねたオープン展示室が用いられ、図書館のように開放的で日常的な雰囲気の空間設計が採用された。これは「日常生活に溶け込む現代4コマ」というコンセプトを反映したものであり、白い壁面に作品だけを強調する従来型の展示とは異なり、作品と空間が一体化するレイアウトとなっている。展示空間内には美術館常設の書架やテーブル、椅子などが配置されており、それら日常的な環境の中に現代4コマ作品がさりげなく設置された。このように日常空間に作品を溶け込ませる展示手法によって、来場者にとって親しみやすい鑑賞環境が提供された。
展示作品
現代4コマは従来の漫画の4コマ枠にとらわれない自由な発想の表現であり、本展でも多様なアプローチの作品が展示された。作品は紙媒体を中心に、一部は額縁に入れて展示され、一部はコピー用紙の状態で直接壁面に貼られる形で展示された。会場内の書棚や机の上にも作品が展示された。また、関連資料として現代4コマのフリーペーパー『現四通信』や『週四現代』、4コマ図柄をあしらったトートバッグなども展示・配布され、自由に手に取って読むことができるようになっていた。
主な出展作品の例
- 純粋4コマ主義 – 会場入口に設置された象徴的な作品。来場者を無言で出迎える強烈な存在感を放った。
- チーズイン4コマ – 割られたコマからチーズが出てくるユーモラスな作品。親子連れの父母層に特にウケが良く、本展で人気を博した。
- 運命を思い付いた瞬間(ベートーヴェンの4コマ) – 作曲家ベートーヴェンが交響曲第5番「運命」のジャジャジャジャーンを思い付いた瞬間を題材にした作品。見る者が意味を考察して「ああ、そういうことか!」と得心するようなユーモアが込められており、来場者から好評を得た。
- 3分経った – カップ焼きそばの時間の経過をテーマに「3分が経過した」という事実だけを切り取ったシンプルな作品。最近の話題作であり、本展では初見の来場者にも比較的理解しやすい作品として展示された。
- こぼれ落ちるほどのイクラが乗ってる4コマ – 皿から零れ落ちる程にイクラが盛られた海鮮丼をモチーフにした作品。視覚的インパクトの強い作品で、子どもの来場者の心を掴んだ。
これらのほかにも日常物や音楽、食品、言葉遊びなど様々な題材を扱った現代4コマ作品が数十点展示された。全体としてシュールさやユーモア、意外性に富む作風が多く、一見すると意味が難解な作品も含まれていたが、会場には分かりやすい内容の作品も配置されており、現代4コマに初めて触れる鑑賞者にも楽しめるよう工夫が凝らされていた。
参加型の要素
来場者が参加できるインタラクティブな仕掛けは大規模には設けられていなかったものの、いくつかの参加型要素が見られた。会場内には美術館常設のアンケート記入コーナーが設置されており、本展に関しても複数の一般来場者が感想を記入して投函していた。主催者側でも現代4コマの認知度向上のため、来館者からのフィードバックを歓迎する姿勢が示された。また、展示期間中に来場した現代4コマ作家の一人・アワダ(@AwdMizki)は、館内の椅子4脚を即興的に組み合わせて「4コマ」を表現する作品を作り上げ、その様子がSNS上で共有された。この即興作品は正式な出展物ではないが、現代4コマのコンセプトが来場者にも浸透し、自発的な創作行為を誘発した例と言える。
来場者の反応
美術館という公共施設での開催とあって、来場者の層は現代4コマのコアなファンに留まらず、地元の親子連れや高齢者まで幅広く多様だった。幼い娘とその母親の来場者は、それぞれ「こぼれ落ちるほどのイクラが乗ってる4コマ」と「チーズイン4コマ」を特に気に入ったとされ、初見の男性は『運命を思いついた瞬間』を鑑賞して「そういうことか!」と膝を打つ場面もあった。一方で、高齢の来館者の中には作品の意図をすぐには汲み取れず戸惑った様子で展示を見つめる人もいたという。本展は初めて現代4コマに触れる人々にも様々な驚きや笑いを提供した。
SNS上でも、本展は開催前後に大きな話題を呼んだ。告知が直前だったこともあり、SNSでは驚きと期待の声が多数投稿された。現代4コマの愛好者や参加作家たちも自発的に会場を訪れ、展示の写真付きレポートや感想記事をNoteやブログに公開している。最終日には現代4コマXアカウントの運営メンバー有志が撤収作業を手伝うために駆け付けるなど、コミュニティ主導で本展を支える動きも見られた。
評価と意義
現代4コマ空間は、現代4コマ史における画期的な展覧会であると評価されている。本展は現代4コマが美術館という正式な文化空間に進出した初の事例であり、開催地である清須がいとととの地元であったことも相まって、地域の一般層へ現代4コマをアプローチする契機となった。実際、主催者のいとととは「現代4コマを知らない地域の人にアプローチができた」と手応えを語っている。本展により、現代4コマという概念に一定の正当性や箔が付いたとの指摘もある。
従来のギャラリー展示や漫画展では、白壁の空間を背景に作品自体が主役となる構成が一般的だが、本展では空間側にも主張があり、作品がその日常空間に「お邪魔している」ような独特の関係性が生まれていた。この展示手法について、現代4コマの支持者からは「受け入れられた現代4コマの姿を示している」との分析も出されている。すなわち、日常空間に溶け込む形で展示されたことで、現代4コマという文化自体が日常生活に馴染みうるもの、ひいては新たな芸術概念として社会に定着しつつあることを象徴するという見解である。こうした挑戦的なキュレーションと空間演出により、現代4コマ空間は現代4コマの可能性と今後の展開を示唆する展覧会となったと評価されている。