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ワイルド・マン(1)
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gensousyusyu
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ワイルド・マン/Wild Man/Wild Men/Wilder Mann
ヨーロッパの伝承・伝説に広くみられる怪人・森や山の妖精。
13世紀から16世紀までヨーロッパで広く知られ、特にイングランドやドイツ、スラヴなどに多く伝わる。
多くの場合は森の奥深くに棲む。人間に似ているが、巨大で毛深いか苔で覆われたような姿をしていて、頭頂部にシダの房が生えていることもある。緑の髪とされることもある。棍棒を持った姿や毛皮を着た姿で描かれることが多い。人語を解さず、怪力の持主だという。ワイルド・マンは熊と人間の女性の間に生まれ、超自然的力を持つといわれる。
人間の若い女を妻とするが、妻が逃げようとすると子供を引き裂いてしまう。食人種であるとされることもあり、特に、食用のため人間の子供を攫ったという。風と共に現れては猟場の番人・森の住民・木こりなどを怯えさせたり、木が倒れる音を真似たり、森の中を迷わせたり、ひどい悪戯をしたりする。鹿を狩り、森の中を駆け抜けながら悍ましい声をあげるという。
ワイルド・マン伝承は中世の人々に浸透していて、毛むくじゃらの体に腰に鹿の毛皮を巻いて棍棒を持った仮装をした人物が、宮廷での祝宴の席に突然現れて参加者を驚かす、といった遊びが流行していたらしい。1392年にフランスのシャルル6世は、貴族仲間と共に宮廷でワイルド・マンの扮装をした仮面劇を演じた。しかしその際、ワイルド・マンの衣装に松明の火がついて4人の貴族が焼死したという。中世の文化において、キリスト教到来以前の「野性」を象徴した。エドマンド・スペンサーは『妖精女王』に食人種の野人を登場させた。当時のヨーロッパは大冒険時代で、冒険した先の地域の話と野人のイメージが融合し、様々な逸話が誕生したと思われる。ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』のキャリバン、ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』のヤフーなどはこうした、ヨーロッパ人の新天地と野人とが結びついて創作された怪物だろう。こうして文学作品や美術作品に登場した野人だったが、やがて再び民話的立ち位置に戻っていった。
また、ヨーロッパで広く行われる祭には来訪神として登場する。冬至・春分・夏至・12夜、特に冬の仮面祭において、男性がワイルド・マンに扮する。動物の皮を纏い、仮面を付け、木の枝で作った杖もしくは棍棒を持ち、腰に大きな鈴をつける。仮面は老人・悪魔・老婆・魔女もしくは動物を象ったものが多い。仮面の代わりに顔を黒く塗ったり、藁帽子を被る場合もある。ヨーロッパのカーニバルでは熊・山羊・羊・鹿、オーストリア、北ヨーロッパ、アルプスでは春の神とされる熊、東ヨーロッパでは山羊が用いられる。民間信仰におけるワイルド・マンは、冬の死と自然の再生を象徴するものとされる。
紋章や寓意図にも多く取り入れられ、盾を支えて持つワイルド・マンのモチーフは「友軍」の寓意として用いられた。野人の女は英国の紋章のレパートリーに残っており、高貴な守護者として描かれている。
ワイルド・マンの伝承の由来は、アフリカやアジアの類人猿の話が曲解されたとか、キリスト教徒などの秩序から外れた人物への偏見が産んだ存在などと考えられる。
名は「野性の人」の意。フランス語でオム・ソヴァージュ、イタリア語でウォーモ・セルバティコ、ドイツ語でヴィルダー・マンと呼ばれる。
13世紀から16世紀までヨーロッパで広く知られ、特にイングランドやドイツ、スラヴなどに多く伝わる。
多くの場合は森の奥深くに棲む。人間に似ているが、巨大で毛深いか苔で覆われたような姿をしていて、頭頂部にシダの房が生えていることもある。緑の髪とされることもある。棍棒を持った姿や毛皮を着た姿で描かれることが多い。人語を解さず、怪力の持主だという。ワイルド・マンは熊と人間の女性の間に生まれ、超自然的力を持つといわれる。
人間の若い女を妻とするが、妻が逃げようとすると子供を引き裂いてしまう。食人種であるとされることもあり、特に、食用のため人間の子供を攫ったという。風と共に現れては猟場の番人・森の住民・木こりなどを怯えさせたり、木が倒れる音を真似たり、森の中を迷わせたり、ひどい悪戯をしたりする。鹿を狩り、森の中を駆け抜けながら悍ましい声をあげるという。
ワイルド・マン伝承は中世の人々に浸透していて、毛むくじゃらの体に腰に鹿の毛皮を巻いて棍棒を持った仮装をした人物が、宮廷での祝宴の席に突然現れて参加者を驚かす、といった遊びが流行していたらしい。1392年にフランスのシャルル6世は、貴族仲間と共に宮廷でワイルド・マンの扮装をした仮面劇を演じた。しかしその際、ワイルド・マンの衣装に松明の火がついて4人の貴族が焼死したという。中世の文化において、キリスト教到来以前の「野性」を象徴した。エドマンド・スペンサーは『妖精女王』に食人種の野人を登場させた。当時のヨーロッパは大冒険時代で、冒険した先の地域の話と野人のイメージが融合し、様々な逸話が誕生したと思われる。ウィリアム・シェイクスピア『テンペスト』のキャリバン、ジョナサン・スウィフト『ガリヴァー旅行記』のヤフーなどはこうした、ヨーロッパ人の新天地と野人とが結びついて創作された怪物だろう。こうして文学作品や美術作品に登場した野人だったが、やがて再び民話的立ち位置に戻っていった。
また、ヨーロッパで広く行われる祭には来訪神として登場する。冬至・春分・夏至・12夜、特に冬の仮面祭において、男性がワイルド・マンに扮する。動物の皮を纏い、仮面を付け、木の枝で作った杖もしくは棍棒を持ち、腰に大きな鈴をつける。仮面は老人・悪魔・老婆・魔女もしくは動物を象ったものが多い。仮面の代わりに顔を黒く塗ったり、藁帽子を被る場合もある。ヨーロッパのカーニバルでは熊・山羊・羊・鹿、オーストリア、北ヨーロッパ、アルプスでは春の神とされる熊、東ヨーロッパでは山羊が用いられる。民間信仰におけるワイルド・マンは、冬の死と自然の再生を象徴するものとされる。
紋章や寓意図にも多く取り入れられ、盾を支えて持つワイルド・マンのモチーフは「友軍」の寓意として用いられた。野人の女は英国の紋章のレパートリーに残っており、高貴な守護者として描かれている。
ワイルド・マンの伝承の由来は、アフリカやアジアの類人猿の話が曲解されたとか、キリスト教徒などの秩序から外れた人物への偏見が産んだ存在などと考えられる。
名は「野性の人」の意。フランス語でオム・ソヴァージュ、イタリア語でウォーモ・セルバティコ、ドイツ語でヴィルダー・マンと呼ばれる。
別名
参照
参考文献
- キャロル・ローズ著/松村一男監訳『世界の怪物・神獣事典』原書房
- アンナ・フランクリン著/井辻朱美訳『図説妖精百科事典』東洋書林
- 平辰彦著『来訪神事典』新紀元社
- 蔵持不三也監修/松平俊久著『図説ヨーロッパ怪物文化誌事典』原書房