ゴッサム・シティは犯罪の跋扈する街だ。
警察が見て見ぬ振りをする中、数々の犯罪組織が頭角を示していく。
麻薬売買、武器の密造などの犯罪を繰り返し自らの利益を獲得していく。
中には自治体に影響を及ぼす程の経済力を手に入れた組織も存在するという。
時に彼らは癒着という形で行政機関と繋がり、不当な利益を得ていく。
治安を守る筈の警察官と手を結び、更なる資金を稼ぐこともある。
正義は名ばかりのものとなり、悪党が街を牛耳る。
ゴッサム・シティはまさに、腐り切った衆愚の街だった。
だが、そんな街にも変化が齎され始めた。
自警団――――グラスホッパーの台頭だ。
彼らの存在はこの街に僅かながら、しかし確かな変化を与えた。
悪を掃討し、街を浄化せんとする彼らの活動は犯罪者に確かな影響を与えていたのだ。
下手な犯罪では、まず奴らに眼をつけられる。
気を抜いていれば、奴らに睨まれる。
犯罪者達は己の身を守るべく、様々な手段を講じたという。
ある者は身を潜めて犯罪の機を伺い。
ある者は犯罪組織の構造を建て替えることで尻尾を掴まれにくくし。
ある者は力で捩じ伏せるべく武装を固め。
グラスホッパーといった私刑人達の存在は、犯罪者をより狡猾に育て上げたのだ。
所詮はガキ共の自警団――――――誰もがグラスホッパーをそう考えていた。
◆◆◆◆
「痛い目見に来たかよ、バッタ共」
とあるギャング達のアジトにて、リーダー格であるギャングの男が銃器を取り出しながら言う。
彼に続く様に、他のギャング達も懐から銃器を取り出し構えた。
アジトである事務所の入り口に踏み込んできたのは警官の様な制服を身に纏った若者達。
彼らこそがグラスホッパー、その団員であった。
まさか堂々と正面から乗り込んでくるとは思わなかった。
余程自信があるのか、あるいは余程軽率なのか。
理由等どうでもいい。連中を此処で蜂の巣にすれば終わるのだから。
グラスホッパーの噂は既に聞いている。
何でも犯罪者を取り締まり、ゴッサム・シティの治安維持に貢献している自警団だという。
私刑行為を行う正体不明の赤い覆面男達とは違い、彼らの活動は比較的表立って行われている。
街の自主的な警備等も行っており、市民からの支持も厚い。
そういった精力的な活動、そしてリーダーである犬養の確固たるカリスマ性からその勢力を着々と伸ばしていた。
汚職と退廃が支配するこの街で正義を語った所で何になるのか。
理想を掲げる蝗達は悪党達にとって恐怖の対象であり、嫌悪の対象でもあった。
そんな連中におめおめと捩じ伏せられる訳にはいかない。
故に彼らもまた武装によって己の身を守る。
犯罪者達は武器を取り、正義を掲げる者達を力によって叩き潰す。
「自警団のガキ共が調子に乗ったのが運の尽きだ」
銃を構えるギャング達。
それを冷静沈着に見据えるグラスホッパーの団員達。
かたや数々の銃器で武装した犯罪者達。
かたや何の武器も携行していない自警団達。
状況はギャング達が圧倒的に有利だ。
連中を生きて返すつもりも無いし、ここで徹底的に仕留めるつもりだ。
有利な状況を前に、ギャングのリーダーは不敵な笑みを浮かべる。
大方、末端のチンピラから此処の情報を掴んだのだろう。
それを取り締まるべくたった数人の団員で乗り込んだと言った所か。
馬鹿馬鹿しい。自分達の力を過信し、驕ったのか。
グラスホッパー全員なら兎も角、あれだけの数のガキ共に何が出来る?
余程死にたいと見える。
「終わりだ、バッタ共―――――――」
ギャングのリーダーが、引き金に指をかけ。
続く様に部下達も発砲しようとした。
その直前だった。
《――――――マツボックリ!》
「…は?」
グラスホッパーの団員が取り出したのは果物に似た奇妙な物体。
奇怪な果実は腰に装着されたベルトに嵌められ、取り付けられた刀のような器具で両断される。
まるで玩具の様な音声を鳴らすそれをギャング達は呆気に取られながら見ていた。
気がついた頃には、他の団員達も同様の物体を握り締めており。
《――――――マツボックリ!》
《――――――マツボックリ!》
《――――――マツボックリ!》
《――――――マツボックリ!》
《――――――マツボックリ!》
《――――――マツボックリ!》
《――――――マツボックリ!》
「変身」
ベルトに装着された異界の果実が両断される。
カッティングブレードによってロックシードが断ち割られ、宙より奇怪な果実が降り注いできたのだ。
マツボックリ――――――――そう、巨大なマツボックリである。
幾つもの巨大なマツボックリが落下し、ベルトを装着した団員達の頭部を覆ったのだ。
そして、団員達の身体に黒き武装が纏われていく。
まるで影のような黒塗りの装甲が、足軽の甲冑の如く装着される。
「覚えておけ。我々グラスホッパーは、この街を浄化する」
淡々と、しかし確固たる理念を示す様に一人の団員が告げる。
そして団員達は次々と漆黒の槍兵へと変身。
果実の力を纒いし鎧の戦士達が顕現する。
その名はアーマードライダー黒影・トルーパーズ。
黒蝗《グラスホッパー》に投入されし新たな力だった。
咄嗟に引き金を引くギャング達。
それらの全てが握り締められた槍によって、装甲によって、いとも簡単に弾かれていく。
まるで人が虫螻を追い払うように呆気なく。
人の作りし圧倒的な暴力を、彼らは容易くあしらってみせたのだ。
恐れ戦くギャング達。彼らは次第に後ずさり、逃げ腰になっていく。
そんな彼らを追い詰める様に漆黒の影達はゆらりと蠢いた。
「―――――覚悟しろ、クズ共」
逃げ惑うは悪党達。
追い立てるは黒き蝗。
鎧を纏いし捕食者が、牙を剥く。
◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆
「グラスホッパーのガキ共が松毬の鎧を身に纏って殴り込んできた?」
12月21日、夜明けから間もない時刻。
廃ビルを利用したギャングの隠れ家で、一人の男が半信半疑の様子で呟く。
小奇麗なスーツを着こなし、無精髭を生やした男は本来ならば『正義』の立場にいる筈の存在だ。
ゴッサム・シティの麻薬事件を取り締まる捜査官である。
にも拘らず、彼はギャングとさも当たり前の様に接触している。
それもその筈、麻薬捜査官『
ノーマン・スタンスフィールド』は悪事に手を染める汚職捜査官なのだから。
麻薬売買に一枚噛んでいるギャングの連中との連絡が付かぬことを疑問に思ったスタンは、彼らの隠れ家へと赴いたのだ。
そこでスタンは「現場から逃げ延びた」というギャングの一人の話を聞くことになる。
麻薬を保管していたもう一つのアジトに自警団『グラスホッパー』が攻め込んできたというのだ。
曰く、それはつい先日のこと。
曰く、奴らは奇妙なベルトを身に付けていた。
曰く、奴らは松毬のような道具を使っていた。
曰く、奴らは空から降ってきた松毬を身に纏って変身した。
曰く、奴らは銃弾さえも弾く装甲や武器を使ってギャング達を叩き潰した。
「馬鹿馬鹿しい言い訳だな。アーカム精神病棟にでも入りたくなったか?」
「嘘なんかじゃない!俺はこの眼で見たんだ!奴らが、その…松毬を纏って変身する所を!!」
必死で伝えるギャングの男を、顔を近づけていたスタンはふんと鼻で笑いつつ見下ろす。
自警団の連中が突如宙から降ってきた果実を装甲の如く身に纏い、銃弾すらものともせずギャングを叩き潰した。
そんな冗談のような話等、普通ならば笑い飛ばされるか精神異常を疑われるだけだ。
もし以前のスタンがそれを聞いたならば、笑い話として軽くあしらっていただろう。
「冗談だよ、冗談。俺はお前の話を信用しているさ。
松毬だったか?嘘にしては無茶苦茶過ぎて、逆に真実味を帯びている。
それに、最近じゃそういった変な噂もよく耳にするからな」
だが、スタンは唐突に態度を変えてギャングの肩を叩く。
機嫌を良くした様に口元に笑みを浮かべ、彼の顔を覗き込みながら言う。
「貴重な情報提供、感謝の極みと言った所だな!
取引が駄目になったのは腹立たしいが、今の所はこれでチャラということにしてやろう!」
両手を広げ、どこか楽しげに高らかに言い放つスタン。
―――相変わらず調子が読めない。
―――一体こいつは何を考えているのか。
ほくそ笑む様なスタンの表情を見て、ギャングはそんなことを思っていた。
◆◆◆◆
『グラスホッパーか』
ギャングのアジトを後にし、煙草を吸いながら街中を歩いていたスタンの頭に声が響く。
霊体化した状態で傍に着いていた己のサーヴァント、アサシンが念話を用いて呟いたのだ。
『随分と、懐かしい名だ』
『…そういえば、お前は連中を知っているんだったな?』
『ああ。生前の依頼人にグラスホッパーの幹部がいた』
寡黙な男だと感じていたアサシンから発言したことに少し驚きつつも、スタンも念話を飛ばす。
以前話を聞いたのだが、アサシンはグラスホッパーを知っているというのだ。
何でも生前の雇い主に一人に連中の幹部がいたとのこと。
彼の知る限りでは、奴らは『日本の猫田市』で活動していたという。
その後グラスホッパーを母体とした新党・未来党を立ち上げ、リーダーの犬養は首相にまで上り詰めた。
―――――それがアサシンの語る『グラスホッパー』だった。
『連中は果実を身に纏って悪党を叩きのめすような組織だったか?』
『いいや、そもそも俺達の世界にそんな技術は無かった』
『だろうな。アメリカン・コミックの世界でも早々ないだろうさ』
即座に否定したアサシンに対し、そう呟くスタン。
『グラスホッパーの団員に果実の武装を行き渡らせて戦闘部隊化ね。
堂々と殴り込んできたという今回の件は性能テストか、あるいは力の誇示の為か、理由は解らんがな。
さて、アサシン。この件の黒幕は誰だと思う?』
『…順当に考えれば、
犬養舜二か』
グラスホッパーの総帥、犬養舜二。
オーバーテクノロジーと言える程の力を団員達に行き渡らせた者がいるとすれば、彼こそ最も疑わしき存在だ。
グラスホッパーを纏め上げ、統率する立場にある彼ならば団員にそのような武装を与えていても不思議ではない。
そもそもこのゴッサム・シティに“日本の地方都市で活動していた”自警団が居るという時点で奇妙なのだ。
それだけ聞けばゴッサムと日本の沢芽市の姉妹都市協定によるものだと考えられなくもないが、アサシンの話で疑惑は一気に膨れ上がった。
アサシンは生前に猫田市という都市で活動しているグラスホッパーと接触していたというのだ。
つまり彼ら“グラスホッパー”はアサシンのいた世界の組織である、ということになる。
グラスホッパーがこのゴッサム・シティに出現し、活動を行っている。
恐らく、メンバーの中にマスターが紛れ込んでいる可能性は非常に高い。
本来ならばいるはずのない組織が存在している以上、信憑性はかなり高いと言えるだろう。
その中でマスターである可能性が最も高いのは犬養舜二だ。
理由は至極単純、『彼がいるからこそグラスホッパーが存在する』と考えたからだ。
犬養という指導者がマスターとして召還されたからこそ、この街でグラスホッパーが結成された。
ゴッサム・シティにあるはずのないモノが存在しているならば、それは召還されたマスターに縁があるモノである可能性が高い。
アサシンによれば、この街の住人は数々の時空から呼び寄せられた人間が記憶を奪われ、ロールを演じているのだという、
普通ならばその中からゴッサムと関係のないものを探し出すのは困難だろう。
だが、今回はアサシンという『本来のグラスホッパーを知る証人』がいたことで簡単に割り出すことが出来た。
『さて、連中について調べ上げる必要が出てきたな。
お前に“依頼”するかどうかは、それからだ』
不敵に笑みを浮かべ、スタンはアサシンにそう告げる。
まずは情報収集だ。捜査官としての権限、裏のルート、あらゆる手段を用いて奴らに付いて調べ上げる。
もし犬養がマスターであるという確証が取れたか、あるいはその可能性が大きいとなれば。
その時はいよいよアサシン《自殺屋》の出番だ。
アサシンは気配遮断スキルと正体秘匿スキルによってサーヴァントとしての気配を隠蔽することが出来る。
例え町中で堂々と歩いていたとしても、彼をサーヴァントと認識出来る者は早々いないだろう。
しかし、気配遮断のランクそのものは極めて低いのだ。素のパラメーターも決して高いとは言えない。
偵察役を行える程の隠密性を備えておらず、ニンジャの如く素早く駆け回れる程の身体能力も備えていない。
諜報員として見れば間違い無く三流だ。
だが、そんな欠点を補って余り有る宝具をアサシンは備えている。
『自殺屋』。アサシン――――鯨という殺し屋を象徴する唯一の宝具。
アサシンの両目を見た者の負の感情を増幅させ、自殺させる能力。
ただ両目を見せるだけで標的を死に追いやれる。その上一切の凶器を必要としない。
『暗殺』という点においてはまさに完璧と言っても良い能力である。
この最強の矛によって確実に対象を葬る為にも、情報を調べ上げることは必要不可欠だ。
もしも犬養舜二がマスターだとすれば、自身の立場を脅かされる前に速やかに始末する必要がある。
奴らがが街を浄化せんと企む『正義の味方』ならば、尚更だ。
このまま自身と繋がるギャングやマフィアを潰され尻尾を掴まれでもしたら困る。
理想を語る“ガキ共”には、現実を知る“大人”が鉄槌を下さねばならない。
(遊びの時間は終わりだ、黒蝗のガキ共。そろそろお前らには現実を味わってもらう)
【MIDTOWN COLGATE HEIGHTS/1日目 午前】
【ノーマン・スタンスフィールド@レオン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]S&W M629(6/6)
[道具]拳銃の予備弾薬、カプセル状の麻薬複数
[所持金]現金数万程度、クレジットカード
[思考・状況]
基本:生還。聖杯の力で人生を取り戻す。
1.グラスホッパー、特に犬養舜二に関する情報を掻き集める。
2.麻薬捜査官としての立場、裏社会との繋がりは最大限利用する。
3.「果実の鎧」に極力警戒。
[備考]
※自身と繋がりを持つマフィアが何者かによって壊滅しています。
【アサシン(鯨)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康、霊体化中
[装備]眼帯
[道具]『罪と罰』
[思考・状況]
基本:マスターの『依頼』を完遂する。
1.マスターの指示が入り次第、暗殺を行う。
[備考]
※生前の記憶からグラスホッパーについて知っています。
※既に戦極ドライバーを用いたグラスホッパーの活動が始まっています。
ドライバーがどれほど量産されているのか、ロックシードをどの程度所持しているのかは不明です。
最終更新:2016年01月06日 15:04