1:
グラスホッパー。英語でバッタを意味する言葉である。
それ以上の意味など、通常ない。衆愚の街、ゴッサム以外であったならば。
この街においてグラスホッパーと言えば、最近になって彗星のように現れた自警団の事を指す。
自警団。そう、ゴッサムシティで、である。馬鹿馬鹿しい試みであるとしか、通常は思えない。
警察と言う国家組織の半数がマフィアやギャングに買収されているこの都市だ。
自分の身は自分で守れと言う心構えはこの街どころか合衆国では当たり前のスタンスであり、自警団じたいが、寧ろ何故今まで設立されていなかったのか、疑問に思うだろう。
簡単だ。この街では余りにもそう言った物を設立する事が、馬鹿らしいものと認識されて来たからだ。
ギャングもマフィアも、汚職に手を染める公務員達は根っこは同じだ。自分達の自由を侵害される土壌と、それを行いかねない組織の台頭を彼らは嫌う。
つまり、そう言った組織を彼らは良しとしない、潰しにかかるのである。ひょっとしたら、過去、ゴッサムでも自警団の芽が芽吹いた事も、あったのかも知れない。
そう言った存在がメジャーなものにならなかったのは結局のところ、司法や行政、アウトローが一体となって彼らを潰して来たと言う理由が大きい。
しかし、今回は事態が違った。
ゴッサムに現れた新興の自警組織、グラスホッパーは、ギャングやマフィアのみならず、司法の手にも屈さなかった。
グラスホッパーの団員の練度は驚く程高く、マフィアやギャング達を軽くあしらう程強いと言うのもあるが、それよりも驚くべきなのは、彼らの首魁、犬養の手腕だろう。
犬養舜二と言う名前のこの日本人は、驚く程の手練手管の持ち主だった。インテリと言う言葉がこれ以上となく相応しい切れ者で、話術に長ける。
それだけでなくルックスの方も、日本人とは思えない、西洋人の美形風のそれで若い男女にも非常にウケが良い。
何よりも恐ろしいのは、この犬養。自らのそう言った武器を総動員し、組織の運営に一役どころか、二役三役、いや、四役も五役も買っているのだ。
行政法や市条例を駆使し、グラスホッパーを潰乱させようとする行政部を、彼らの上を往く法知識で軽くあしらいその危機を脱させて来た回数は、数知れない。
グラスホッパーのカリスマ的指導者として犬養は、今やこのゴッサムにおいて一方ならぬ有名人。知らない者など、それこそマイノリティな程のメジャー人物だった。
若き美貌の持ち主の上に、カリスマ性に富み、インテリジェンスに溢れてて。
それでいて如何なる暴力にも屈さないヒロイン性と、汚らしい権力の魔の手を軽く払いのける程の場数も踏んでいる。
これで、人気が出ない筈もない。現にグラスホッパーの入団者の志望動機の殆どが、グラスホッパーの掲げる理念に賛同した、と言うよりも、犬養のカリスマ性による所が大きい。
此処最近のグラスホッパーの入団希望者は、日々増加の一歩を辿っている。
大学生や高校生が若さ故に、理念、或いは犬養のカリスマ性に当てられ、入団を希望してしまったケースもある。
ミーハーの女性が、犬養の美貌に惚れてしまい、入団を希望してしまった事もある。
ギャングやマフィアに暴力を振るわれて過ごして来た浮浪者達も、面接を希望した事もある。ただ暴れたいだけの無骨な乱暴者の数も、決して少なくはなかった。
グラスホッパーに集う者の理念は種々様々であるが、解る事は一つ。グラスホッパーの人気は、今が絶頂の最中にある、と言う事だった。
そう言った狂熱に、グラスホッパーと言うグループが包まれている為に、気付く者は少なかった。
彼らと対立している政治家や議員、ギャングやマフィアが次々と消えて行っていると言う事に。少し考えれば、おかしいと気付く事ではあろう。
しかし、こんな簡単な事実に気付かない人間の方が、マジョリティであった。今まで汚い事をやって来た、政治家達の自業自得であると思われている事の方が多かった。
今では、グラスホッパーに対して否定的な意見をぶつけてくる人間の方が、少なかった。
一ヶ月にも満たない期間で、グラスホッパーが築き上げた基盤の強固さを驚くべきなのか。
それとも、今まで彼らと敵対して来た権力者や暴力団が消えて行った、と言うツキのなさを驚くべきなのか。
――何れにせよ、解る事は一つだ。
今のゴッサムに、救世主として君臨するイナゴ達と、それを率いる王(アバドン)と敵対する存在は、最早絶無に等しいと言う事であった。
.
2:
「いやぁ、最近は良くもまぁまぁ、グラスホッパーの入団希望者が増えるじゃないか」
戯れ程度に犬養が置いて行った、数日前の、グラスホッパーの入団者の推移グラフを見て凌馬は面白そうにそう言った。
グラフは解りやすい棒グラフでデータを表しており、日を重ねるごとに、見事な階段状になっているのが見て取れる。
余程無学な者でも、日を追うごとにグラスホッパーに入りたいと言う気持ちの者が多くなって来ている、と言うのが解るだろう。
「解っているとは思うが、そのグラフに記されている希望者全員を入団させている訳ではないよ。信頼出来る人物にテストと面接で篩にかける事を任せているからね」
「希望者を面談なしに合格させても良いんだよ。その方が私としても、種々様々なデータを採れる」
「大量募集のアルバイトじゃないのだからそんな事はしないよ」
キャスターのクラスとして現界したサーヴァント、
戦極凌馬は、犬養と同郷出身の英霊で、しかも活躍した年代まで近いと来ている。
話は合うかと思えば……まぁ、何処となく噛み合わない。凌馬が時々こんな、冗談めいた事を口にするからである。
科学者としての手腕と、その見識については、間違いなく凌馬は一流であるが、天才には奇人が多いと言う言葉に、嘘偽りはなく。この男も、そんな類であった。
グラスホッパーの運動神経に優れる団員達に、戦極ドライバーなる不思議なベルトバックルを行き渡らせたのは、何日か前の事だった。
キャスターのサーヴァントが発明した代物であるからには、それ相応の品物なのだろうと犬養は思っていたが、まさかあれ程までとは、思ってもいなかった。
ヘルヘイムの果実と呼ばれる代物で拵えられた、ロックシードなるアイテムをバックルに嵌め込む事で、
その人物は果実を纏う――不思議な表現だが、犬養にはそうとしか言いようがないのだ――。ユニークな表現であるが、これが事実なのだ。
そして、その果実を纏った戦士は、人間の時よりも遥かに優れた運動能力を発揮する、だけでない。専用の武器まで用意され、それを振う事が出来る。
これを上手く利用すれば、グラスホッパーの自警活動が大幅にスムーズになる事は間違いがなかった。凌馬にしても、私兵代わりの者達が増えるのだ。メリットは大きい。
この上に、戦極シードやロックシードは、量産が出来る。このゴッサムに、ヘルヘイムの果実の成る地帯そのもの。
つまり、ヘルヘイムが浸食――これに関しては、凌馬は最初で最後とも言える程の驚きを示していた――しているからだ。
この侵食部分さえ発見出来れば、理論上はロックシードは、団員全員に配ってなおおつりが来る程作成出来る。兵力増強はまさに、抜かりなし、と言うものだ。
団員達の戦極ドライバーについての簡単な詳細と、その使い方。
それらを用いた訓練、と言う名の、アーマードライダーになった際の軽い運動テストが終わったのは、一昨日の事だ。
アーマードライダーになったグラスホッパーの実地テストは、先日行われた。実地……つまり、弱小~中堅規模のギャングやマフィアのテリトリーの事だ。
結果の程は、凌馬にとっては当然の結果、犬養にとっては想像を上回る結果、と言う所だ。アーマードライダーと化したグラスホッパーは、目覚ましい活躍を遂げたと言う訳だ。
幹部連中には、時期にゲネシスドライバーと言う、戦極ドライバーの上位互換も配られる予定である。但しこれは秘密裏にだ。
何れにせよ、グラスホッパーの戦力増強、及び、聖杯戦争を勝ち抜く為の駒配置は、着実に進んでいる、と見て間違いはなかった。
「ところで、マスター。例の件、確証は取れたのかな」
言われたその時、犬養はアタッシュケースから数枚の書類を取り出し、凌馬が座っているデスクの上に置き始めた。
二人は今、ゴッサム市内の超高級ホテルの階層一つを貸し切って、其処を拠点としていた。此処を自警活動の拠点の一つとして利用している。
凌馬の陣地作成スキルは大して高くない。規模の小さな工房しか作成しえないが、これは逆に言えば、直に工房を作成出来ると言う事も意味する。
グラスホッパーの拠点はこのホテルだけでなく、他にも秘密裏に様々な場所にアジトを隠している。当然其処にも秘密の工房が用意されている。
仮にここを攻撃されても、最も頑丈な拠点が一つ潰れるだけであった。
どれどれ、と口にして凌馬は、犬養が手渡した資料に目を通す。
「やっぱりいたか」、数秒程して、ウンザリしたような口調で凌馬は書類を全て、机の上に叩き付けるようにして乱暴に置きだした。
「その四名、大方の予想がつくが……」
「そうだねぇ、聖杯戦争の関係者、として睨んでおいた方が良い」
言って凌馬は、心底面倒そうな表情でかぶりを振るった。
犬養が手渡した書類――もとい、ある人物らの身辺を調べ上げた調査書は、四枚あった。
凌馬はこのゴッサムに呼び出され、ユグドラシルタワーと言う、日本の沢芽市に建てられていた筈の建物をその目にした時、本当に驚いたような顔をしていた。
何でもあの建物は、生前凌馬が研究をする為に利用していた施設であったらしく、このゴッサムにあの巨大なビルが再現されていたとは、思っても見なかったらしい。
と言う事は、あの建物には、凌馬もよく知る人物が最低でも『四人』はいる筈なのだ。凌馬は、グラスホッパーのメンバーが膨れ上がった事を契機に、
犬養にユグドラシルタワーと密接に関係しているある四人を、グラスホッパーのメンバーを監視役にして、調べ上げて欲しいと頼んだのだ。
その結果が、今犬養から手渡された書類だ。結果は、四人とも、このゴッサムに招かれていた。だから、ウンザリしていたのである。
調査書の人物は全て、生前の戦極凌馬と縁のあった者達だ。
『
呉島貴虎』。彼はゴッサムシティのユグドラシルタワーでも、研究主任と言う栄えある立場の住人だった。本社の前で瞠らせていれば、直に見つかった。
『シド』。元いた世界ではロシュオに殺されたそうだが、彼はこの世界ではユグドラシルの営業職として働いているらしい。
『湊耀子』。元の世界では凌馬の秘書であったが、彼女が此処で何をしているかは解らない。何れにせよ要警戒だ、生前は、凌馬を殺した相手に鞍替えした女性なのだから。
『
呉島光実』。貴虎の弟だ。これはゴッサムでも立場は変わらないらしい。彼はゴッサム内の高校に通っているグラスホッパーのメンバーに頼んだら見つかった。
この少年は特に要警戒だ。NPCになっても喰えない、或いは、油断のならない少年になっている可能性は十二分に認められる。
以上四名。再現されたNPCである、と言う可能性は、確かに認められる。
しかし凌馬はそうは思わない。もしかしたらその可能性はありうるだろうが、警戒をしておくに越した事はないのだから。
「彼らは君と同じような、戦極ドライバーや、ゲネシスドライバーと言う奴で戦う事が出来るのだろう? サーヴァントなのかい?」
犬養が訊ねて来た。ノンノンノン、と言いながら、凌馬は人差し指を左右に振った。
「サーヴァントだったらユグドラシルや学校に通うよりも私みたいにこう言う場所に閉じこもって居たり、霊体化していた方が得策だ。彼らは十中八九、君みたいなマスターだろう」
「――で、私がそんな彼らに対抗する為に制作したのが、これだ」、そう言って凌馬は、机の上においてあったリモコンを手に持って犬養に見せつけた。
「何だか解るかい、これが」
「何となくは、ね」
「ほう、当ててごらん」
「もしも僕が君のような技術力と発想力を持っていたら、アーマードライダーが牙をむいた時の為に、保険を用意するよ。
例えば、戦極ドライバーやゲネシスドライバーとか言う物を破壊する為の、ね。君の持っているリモコンは、そう言うものだろう」
「正解」
ニコッと笑って、凌馬は犬養のベルトのバックル辺りに指を指示した。
「これは通称、『キルプロセス』、って言ってね。早い話が君の言った通りだ。ゲネシスドライバーをピンポイントで破壊させて、アーマードライダーに変身させない為の装置だ」
「戦極ドライバーには必要ないのかい? その、キルプロセスは」
「必要がないよ。戦極ドライバーとゲネシスドライバーには天地ほどのスペック差があるからね」
「……いや」、そう言うや、少し悔しそうな顔で凌馬は訂正の準備にかかった。
「正確に言えば、先に上げた四人が持ち込んでいるであろう戦極ドライバーのキルプロセスは、作れないと言うべきか。自壊装置を組み込んでないからね。
私がキャスターとして呼ばれた時以降に作った戦極ドライバーには、全てキルプロセスを仕込んであるが、それ以前に……つまり、生前開発したドライバーには組み込んでいない」
「その口ぶりだと、戦極ドライバーのキルプロセスも、作りたかったみたいだね」
「それはそうさ。今回の戦いは聖杯戦争だからね。書類の四人の内、戦極ドライバーも保険で持っていると思しき人間は、呉島兄弟だ。これは問題ない、私が倒せる。
だが、この二名の内誰かが、『サーヴァントを従えていたら』。これが問題だ。そうなってしまうと私は『戦極ドライバーのアーマードライダーとサーヴァントの二人を』相手にしなければならなくなる。どうなるか解るだろう?」
「当然、サーヴァントの相手はサーヴァントがする事になるだろう。従って僕の方には、『戦極ドライバーで変身したアーマードライダーが向かって来る』。勝ち目がない」
「君は実に聡明だ、マスター。そう言った事態を防ぐ為に、戦極ドライバー用のキルプロセスも用意しておきたかったと、臍をかんでいるのさ」
理に叶っている。凌馬の言う通りだ。ゲネシスドライバーを装備したアーマードライダーならば、戦極ドライバーを装備した者に負ける道理はない。
ましてや今の凌馬はサーヴァントだ、なおの事だろう。しかしこれも彼の言う通り、戦極ドライバーの装備者がサーヴァントを従えていたら?
犬養は戦闘の素養が全くない。相手は必然的に、従えるサーヴァントを凌馬にぶつけ、自分は犬養に向かうと言う戦法を取るだろう。こうなったらアウトだ。
だからこその、戦極ドライバー用のキルプロセス。尤もらしい理由だった。
「……それと、もう一つ。これはあまり言いたくないんだが……」
凌馬は左手の中指を立てた。思い出すのも癪だ、とでも言いたそうな表情だ。
常に不敵な笑みを浮かべている彼にしては珍しく、苦虫でも噛み潰したような渋い顔を浮かべている。
「実は僕、生前、戦極ドライバーを装備して戦った者に殺されてね……」
「ん? ゲネシスドライバーは確か……」
「おっと勘違いしないで欲しい。其処の所は覆らない。何と言うべきか……相手が、私の予想を上回る……進化、と言うべき現象を起こしてね。それに敗れたんだ……」
腸の煮えくり返る様な表情、と言うのはきっと今の凌馬が浮かべている表情の事を指すのであろう。
歯を食いしばり、生前の事を思い出しているに違いない。犬養には、凌馬が何に腹を立てているのか解らない。
まさか知る訳もないだろう。彼が腹を立てているのが、生前自分が殺されてしまった事に対する悔しさではなく、自らを殺した駆紋戒斗が、自分の手がけたドライバーを経ずに新たなステージへと進んでしまったと言う事実に憤っているなど
一息、呼吸をしてから、凌馬はリラックス。その後、口を開いた。
「科学者である私がこんな事を言うのも馬鹿げているが、まぁ、不吉なんだよ。戦極ドライバーはね。憂いの要素は、潰して置きたかった」
腰を下ろしていたチェアの背もたれに、深々と寄りかかりながら、凌馬は口にする。
大分、腹腔に蟠っていた怒りやら不満やらが薄れて来たらしい。口調もいつも通りのものに戻っていた。
「キャスター、実は僕が聞いておきたいのはその戦極ドライバーの事でね」
「知識欲旺盛だねマスター、何だい?」
「団員全員に行き渡らせて良いのかい?」
「……と、言うと?」
凌馬の瞳に、怪訝の光が宿り始めた。敵と対峙した時のような鋭さが、その黒瞳で光っている。
「君の戦極ドライバーを見て思ったのだ。実際、あれは相当に素晴らしい発明だ。それは解る、だが、奪われた時が問題だろう」
「……あぁ、そう言う事か」
犬養の考える懸念を即座に理解した。ユグドラシルに在籍していた時も、そう言った問題提起は行われていた。
そしてその問題は、当の昔にクリアーされている。手抜かりはなかった。
「マスターは、ギャングやマフィア、敵対する聖杯戦争参加者に、私の研究成果が逆に利用されるのではないか、そう思っているね?」
「そう思うのが、普通だと思うのだが」
「君は正しい事を言っている。だがこれも問題はない。戦極ドライバーは、最初に装備した者にしか扱えない。転用は不可能だ」
「ゲネシスドライバーは、如何なんだい」
「元々は転用出来る物だったが、今回制作する奴は、転用が出来ないようにするつもりだ。手違いで参加者に流れてしまったら拙いからね」
犬養の憂いはさしあたっては問題ない、と言う所らしい。
「――だが」、と。不安にするような一言を凌馬は口にする。補足があるらしかった。
「例外は存在するかもしれない。例えば私のように、キャスタークラスが他に召喚されていた場合だ。
私の傑作とも言える戦極ドライバーやゲネシスドライバーを、何らかの手段で改造され、キルプロセスも抜かれ、転用して来るサーヴァントがいるかもしれない。
無論、セキュリティは私以外には理解出来ないブラックボックスにしたつもりだが……例外は何時だって存在する。そうなってしまえば流石にお手上げだ」
「それは、仕方がないのではないか?」
「そうだ、そう言うエラーは仕方がない。だが、なるべくなら排除しておきたい。解析されるにしても、精々戦極ドライバーまでだ。
それより上のゲネシスドライバーを逆に解析され、転用されてしまう事だけは避けたい事態だ。だからこそ――『君専用のゲネシスドライバー』が必要になるんだよ、マスター」
ニヤリ、と口の端を吊り上げて凌馬が言った。
飽くなき研究欲求だけが全ての衝動のような男だったが、よもやマスターまでも巻き込もうとするとは。呆れた男だと、犬養は思った。
「くどいようだが、何事も絶対はない。ある人物のつけていたゲネシスドライバーを奪い、これを利用して戦った少年を、私は知っているのだよ。
セキュリティは万全に整えるが、私の世紀の発明がマスターに牙を向く事だって、なくはないのさ。
それに、さっきも言ったが、私がゴッサムシティに私が呼び出される以前に開発した戦極ドライバー所持者がサーヴァントを従えていたら、これは非常に拙いんだ。だからマスターも、戦う準備はしておいて欲しい」
「僕すらも、戦闘データーの一つにする気かい? キャスター」
「当たり前だろう?」
大げさに手を広げて、凌馬が言った。全く悪びれもなく、隠し通さず。彼は当然のように言って退けた。
「私がそう言う人物だと言う事は、おおよそ解っていただろうマスター。とは言え、安心したまえ。私がマスターに退場して貰いたくないと言うのは真心だ」
「聖杯が欲しいから死んで貰うのは困る、では?」
「アッハ!! 鋭い鋭い、貴虎も君ぐらい私と言う人間を理解出来ていれば、馬鹿な目を見ずに済んだんだが……」
パンパンと手を打ち鳴らし、実に愉快そうな口ぶりで凌馬はいけしゃあしゃあと口にする。
解っていた事だが、食えない男だと犬養は改めて戦極凌馬を認識した。これは、目を離す事が出来ない。常に手綱を握っておかねば、拙い人物だと再認させて貰った。
「私の下心が如何あれ、君に死んで貰いたくないのは事実だ、マスター。君が死ねば私もその時点でデッド、だからね。
私が現状で作製出来る、最良のゲネシスドライバーとロックシードを約束しよう。とは言え、科学者と言うのは常に進歩し、新たな着想を得なければいけない人種。
特に特別な君に、いつも通りのドライバーとロックシードでは進歩がないだろう、と思ってね。其処で、君に意見を仰ぎたい」
「意見、かい? 何だいそれは」
「犬養舜二専用ゲネシスドライバー案さ、君に意見を求めるのは当然だ。作業は酷く難航していたんだが……以前、ゴッサムのテレビ局で放映していた番組を見て着想を得てね。
おっと、実は後三十秒程で始まるんだ。とっくりと見て行くと良い、マスター」
言って凌馬は、テレビリモコンで液晶テレビの電源をオン。
チャンネルを回し、その番組が放映されるチャンネルに合わせる。それと同時に、時刻が午前八時に変わった。
――このゴッサムには似ても似つかない様な小鼓の音が先ず、スィートルームにこだまする。
映画もダイナミックに見れるであろう大画面液晶テレビに相応しい、これまた大きなスピーカーから、その音は響き渡っていた。
見よ!! 毛穴は愚か、化粧の肌理すらクッキリと映る程の解像度の液晶内で、自らの身長程もある朱槍を振り回す、全身白一色に塗りたくった、江戸時代の大名――いや、殿様めいた姿の男を!!
キレのあるアクション!! 次々と薙ぎ倒される斬られ役!! 和風の楽器と洋風の楽器が奏でる、血肉湧き躍るようなオープニングテーマ!!
嗚呼!! 全てが全て絶妙なバランスで成り立つ、この特撮番組は何なのだろうか!!
「……キャスター、これはなんだね」
犬養は先ず、自らが引き当てたサーヴァントである、戦極凌馬に問を投げ掛けた。犬養は呆然としていたが、凌馬は食い入るように番組を見つめていた。
「大江戸戦士トノサマン」
即答した。
「日本の英都撮影所と言う所で考案された特撮らしい。日本での人気はうなぎのぼりで人気シリーズ化、今では海外でも時期遅れで放映されるに至ったらしい」
求めてもいないのに、補足まで加えて来た。
「……戦極ドライバーのテストの時も思ってたが、『一撃!! インザシャドウ!!』って言う掛け声や、ドライバー、アーマードライダーのデザイン、って……」
「私の趣味だ。素晴らしい美学だろう。生前も評判だったよ」
良い笑顔を犬養に向けながら、凌馬は当たり前の事を口にするみたいに返事をした。
液晶内でトノサマンとやらが、大立ち回りを繰り広げている光景を目の当たりにしながら、犬養は口を開く。
「……これと、僕のゲネシスドライバーとの関連性はあるのかな」
聞くのが怖いが、聞かないでは済ませられないだろう。
尤も……聡明な犬養には、これから凌馬が口にするだろう事柄を、何となく理解していたが。
「この特撮番組の監督は、顔は見た事ないが、私と同じ優れたセンスを持っているに違いない。私と同じようなセンスの持ち主……有体に言えば、天才だ。顔も知らないこの監督に敬意を払い、私は彼のアイデアを借り受けたい」
「つ・ま・り、だ」。此処で大江戸戦士トノサマンのOPが終わり、スポンサー紹介の場面に映った。
「君には私が開発した中で最も優れた性能を持ち、それでいて、私が過去手がけた中でも一番新しいデザインのアーマードライダーになれる権利があるんだよ。それこそが、この大江戸戦士トノサマンの――」
「キャスター、君が以前僕に話した、生前開発したエナジーロックシードと言う奴の種類を纏めた資料があったね。あの中から選んでも良いかな」
心底不機嫌そうな表情と態度で、戦極凌馬は手近な机をパーンと叩いた。机の上に乗っていたミネラルウォーターの入ったペットボトルがぐらぐらと揺れる。
CMが終わり、トノサマン本編が始まる。今日は十五話であるらしかった。
.
【MID TOWN WEST SIDE/1日目 午前】
【キャスター(戦極凌馬)@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[装備]ゲネシスドライバー
[道具]レモンエナジーアームズ
[所持金]マスターの犬養に依存
[思考・状況]
基本:聖杯が欲しい
1. ゲネシスドライバーの制作に取りかかってみるか
2. マスターには死んで貰っては困る。専用にチューンアップしたゲネシスドライバーを装備して貰う
[備考]
※キルプロセスの開発を終えています。召喚された時以降に制作した戦極ドライバーにもキルプロセスは仕込んでいますが、生前開発したものについては仕込まれていません
※犬養専用のゲネシスドライバーを制作しようとしています。性能はもしかしたら、斬月・真よりも上になるかもしれません
※ゴッサムシティに生前関わり合いの深かった人物四人(呉島兄弟、シド、湊)がいる事を認識しております。誰が聖杯戦争参加者なのかは解っていません
※召喚されて以降に開発した戦極・ゲネシスドライバー双方は、イニシャライズ機能がついており、転用が不可能になっています。もしかしたらキャスタークラスなら、逆に解析して転用が出来るようになるかも知れません
※主だったグラスホッパー団員達には既に戦極ドライバーが行き渡っています
※トノサマンモチーフのアーマードライダーが作れなくて残念そうです
【犬養舜二@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]スーツ
[道具]
[所持金]大量に有していると思われる
[思考・状況]
基本:聖杯戦争と言う試練を乗り越える
1. 解っていたが、凌馬は油断できない
2. あと、趣味が悪いのかも知れない
[備考]
※凌馬からゲネシスドライバーを制作して貰う予定です。これについては、異論はないです
※原作に登場したエナジーロックシードから選ばれるかもしれません。何が選ばれるかは、後続の書き手様に一任します
※もしかしたら、自分達が聖杯戦争参加者であると睨まれているのが解っているかもしれません
※凌馬が提起した、凌馬と生前かかわりのあった四人を警戒する予定です
※キルプロセスについての知識を得ました
最終更新:2015年09月21日 14:59