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彼らに伝えられたのは、凶報だった。
UPTOWNに派遣したウォーターメロンの部隊が壊滅したとのことだった。
部隊との連絡がつかず、他の団員が現場へと赴いた所、人としての原型を留めていない団員の凄惨な死体が発見されたという。
おまけに戦闘による被害か、ロックシードやドライバーも破壊されていた。
改良したウォーターメロンロックシードをこの短時間で失ってしまったのだ。
尤も、キャスターは「所詮は量産向けにデチューンしたものに過ぎない」として然程その損失を気にしてはいなかったが。


「ウォーターメロンの部隊を壊滅に追いやるインベス、か。
 特別に強力なインベスがいるとは聞いていたが、まさかそれほどの力を備えているとはな。
 …あるいは、イレギュラーかもしれないがね」


拠点の一つであるホテルの一室にて。
犬養から凶報を聞いたキャスターは、静かにそう呟く。


「イレギュラー…インベスではなく、サーヴァントだったという場合かい?」
「それも有り得る。先の通達で伝えられた『殺人鬼のサーヴァント』である可能性もある。
 尤も、私はそうではないと考えているがね。最近の猟奇殺人事件のことは君も覚えているだろう?」


犬養はそう言われ、昨今のゴッサムを騒がせる殺人事件のことを思い出す。
数々の市民が惨殺された連続殺人事件だ。
発見された死体は皆等しく損壊が激しく、中には人の原形を保っていないものもあったという。
グラスホッパーのメンバーも何人かが犠牲になっている為、調査の対象となっていた。
曰く、現場の共通点として『黒いコールタール状の物体』が残されていたとのことだ。
犬養はこの犯人が通達で伝えられたサーヴァントであると考えていた。

ウォーターメロンの部隊が殺害された件に関しても、殺人鬼のサーヴァントをインベスと誤認した可能性を考えていた。
だが、報告によれば現場からはコールタール状の物体は一切発見されなかった。
それどころか団員達の遺体には刃物の様な物で斬られた痕跡があったという。
手口の残忍さこそ例の殺人鬼と近いものの、負傷の痕は異なっている。
思考を行い、犬養はキャスターの意見の通りこの件に殺人鬼は関与していないと考えた。


「だが、犯人がサーヴァントである可能性は高いと僕は考えている。
 ウォーターメロン部隊の壊滅後、同様の存在と見られるインベスによる被害が全く報告されていないからだ」


同時に犬養はそう付け加える。
インベスに理性は無い。彼らは野生動物の様に行動する。
この件がインベスの仕業だとすれば、強力なインベスが未だに野放しにされているということになる。
だというのに、現場の近辺でインベスによる被害は報告されていないのだ。
本能のままに暴れるインベスが忽然と姿を消す等、普通ならば有り得ないことだ。
だが、霊体化を行えるサーヴァントならば姿を眩ましたとしても不思議ではない。


「確かにサーヴァントならばウォーターメロン部隊が敵わないのも頷ける。
 だが……私には、もう一つ心当たりがある」


そう呟きつつ、キャスターはもう一つの可能性を語る。
先の通達で、この聖杯戦争にDJサガラが一枚絡んでいることが発覚した。
一時は自分達と手を組んでいた存在であり、同時にヘルヘイムの使者だった男。
否――――使者というよりは、ヘルヘイムそのものと言うべき存在か。
ヘルヘイムの植物が街に生息している時点で存在を予想はしていたが、まさか聖杯戦争の進行役となっているとは思ってもみなかった。
奴はあらゆる組織が尻尾さえ掴めていない殺人鬼のサーヴァントの情報を掴んでいた。
つまりこの会場はヘルヘイムの監視下にあり、奴はこの街を支配していると言っても過言ではないと言うことだ。

もしも『ヘルヘイムの森』と同時に――――オーバーロードインベスも存在するとしたら。
それらが特別強力なインベスとして報告されたとすれば。


「オーバーロードインベス…」
「あくまで可能性の話だがね。現段階では断定は出来ない。
 それにしても、件のキャスター、殺人鬼のサーヴァント…そして今回の『強力なインベス』。
 いやはや、問題が山積みで困った物だね」


やれやれと困った様な素振りでキャスターは言う。
実際、現状の問題は決して少なくない。
果実を容易く強奪してみせた魔術師のキャスター。
神出鬼没の殺人鬼のサーヴァント。
正体不明のインベス、あるいはサーヴァント。
数々の問題を抱えているが、現時点ではどうしようもない件ばかりだ。
魔術師のキャスターに大して行える対策はドライバーに転用防止機能を付加することのみであり、後は他主従との同盟に賭けるしかない。
神出鬼没の殺人鬼や正体不明の敵に関しては尻尾もつかめておらず、今は団員の調査報告を待つしかない。
あるいは倉庫の果実を餌に使った時の様に、何らかの策を使って誘き寄せるか――――いずれにせよ確実な手段は無い。


僅かな沈黙が空間を支配した直後。
ふと、犬養は携帯電話に入ったメールに目を通す。
短い時間の閲覧の後、犬養はキャスターの方へと目を向ける。


「もう少しゆっくり話し合いをしたい所だが、申し訳ない。
 これから少しばかり予定が入っているんだ」
「予定?」
シェリル・ノームのライブ会場に赴くのさ。
 団員達の視察もあるけど、客人としても招かれているからね」


一息を吐き、犬養はそう告げる。
犬養を待つのは何も聖杯戦争での戦いだけではない。
自警団のリーダーとしての活動や接待も必要となる時が在るのだ。


「そういえば…君は彼女のライブに警備員として団員を貸したんだったかな。
 この調子だとグラスホッパーで警備会社でも作れるんじゃあないかな?」
「この街は治安が悪いからね。時にはこういった仕事を引き受けるのも悪くはないのさ」


シェリル・ノームのライブの企画側は警備員としてグラスホッパーを起用したのだ。
本職の警備会社ではなく、アマチュアの自警団を採用する。
通常ならば極めて異例の事態だろうが、この街に於いては事情が違う。
グラスホッパーは犯罪の抑止力として確固たる存在感を示していた。
彼らの活動である程度犯罪が抑止されているのは事実であり、それ故に市民からの人気も厚かった。
グラスホッパーに仕事が依頼されたのも、市民からの支持と犯罪取締の実績という『信頼』を備えているからこそだ。
純粋な利益を求める警備会社が軽視される程に、彼らは人気と信頼を集めていたのだ。


「それにしても、君が人気歌手のライブに出発とはね。随分と意外な展開だよ」
「向こうもグラスホッパーの能力を正当に評価しているからこそのお誘いさ。断るつもりはないよ。
 尤も、のんびりとしているのは確かに性に合わなくもないけどね」


抽選で選ばれた者しか入れないライブに犬養が『来賓』として招待されたのも、そんなグラスホッパーのリーダーだからこそだ。
団員を正当な報酬の下に警備員として起用し、リーダーである犬養を客人として席に招く。
これらは企画側がグラスホッパーという組織を評価している証でもあった。
ゴッサムが誇る歌姫の警備員として、客人として相応しいと判断したからこその事だった。
そして犬養にとっては来賓としての訪問であると同時に、現地の団員の視察としての役目も兼ねている。


「グラスホッパーの名と影響力はこの社会に確実に広まっている。
 それは他の主従に対するアピールにも繋がる。
 場合によっては、同盟を望む参加者と接触する機会を得られるだろう」


顔を上げ、犬養はそう言う。
この聖杯戦争の難点は『開始時点で敵に関する情報が一切解らない』という所だ。
敵はどのような人間なのか。敵はどのようなサーヴァントなのか。どの地域に存在しているのか。
解ることは自分達も含めて23組の参加者が存在する、ということのみ。
広大なゴッサム・シティの中から手探りで参加者を探り当てなければならないのだ。
それ故に序盤は必然的に情報収集に徹さざるを得なくなる。

そういう点において、グラスホッパーを率いる犬養はある程度優位な立場に立てていると言える。
町中をパトロールする数多くの団員の存在はそれだけで情報収集の手足となる。
ドライバーという異能の武装を用いて積極的に活動することで他の主従に対する存在のアピールにもなる。
そうして参加者を引き寄せ、交渉の機会を得ることが出来るかもしれない。
ドライバーを奪われ利用される危険性も考慮していたが、イニシャライズ機能等の対策によって一定の安全性は確保出来ている。
対キャスターの為の同盟を結びたい犬養達にとって、他主従との接触は必要不可欠な物だ。
周囲に自分達の存在を示すことは一定の価値がある。

とはいえ存在をアピールすることはリスクにも繋がる。
敵マスターが犬養の情報を捕捉し、ライブ会場に襲撃を仕掛ける可能性も否定は出来ない。
少なくとも自分達が果実を掻き集めていることは件のキャスターには知られている。
リーダーである犬養をマスターと断定し、何らかの罠を張るかもしれない。
ドライバーに関しても、現時点で行える対策はイニシャライズ機能とキルプロセスのみ。
以前に警戒した様に、ドライバーを奪われた際に万が一魔術等の手段によって解析される危険性もあるのだ。
可能ならば今すぐにでも彼らと対抗出来る主従と組みたい所だが、交渉の余地がある相手を未だ捕捉出来ていないのが現状だ。

他には、隠密性に長けるアサシンの襲撃。
誰にも気付かれず、強かにマスターを攻撃する暗殺者に狙われれば非常に厄介だ。
故に最大限の警戒は行うべきだろうと犬養は考える。


「キャスター、専用のドライバーの製造は?」
「まだ少々時間が掛かる。君の出発までには間に合わないが…」
「では戦極ドライバーはあるかい?」
「ふむ…一応スペアの物なら用意出来るよ。特別な存在である君にこれを使わせるのは少々気が引けるがね…。
 現在製作中のドライバーの性能には劣るが、Aランクのロックシード…そしてゲネシスコアさえ用いれば一定以上の戦力は期待出来る」


そう言ってキャスターはドライバーと二つのロックシードを近くのテーブルの上へと置く。
量産型戦極ドライバー。グラスホッパーの団員に支給したものと同様のドライバーだ。
それ故にイニシャライズ機能とキルプロセスも取り付けられている。
そしてドライバーには、犬養専用ゲネシスドライバーに取り付けられる予定であるゲネシスコアも装着されていた。
今後完成させる予定のゲネシスドライバーと比べれば性能は幾らか落ちる。
しかし、それでも黒影など比較にならない戦闘力を発揮出来る代物だ。

キャスターが用意したロックシードはオレンジ、そしてレモンエナジー。
かつて彼と敵対していた青年が用いたロックシードだ。

急ごしらえとはいえ、これで犬養も戦闘力を保有することができる。
あくまでライブ会場の警護に過ぎない以上余程のことが無ければ戦闘にはならないと思われるが、
やはりイレギュラーの存在を考慮すれば一定の武装は持たせるべきだと考えるのが妥当だ。


「言っておくがマスター、未だ問題は山積みだ。
 その戦極ドライバーもあくまで君に相応しくない急ごしらえの武装に過ぎない。
 窮地に陥った際には迷わず私を呼べ。場合によっては令呪の使用も構わない。
 とにかく自分の命を最優先にしてくれ。私とて、君に死なれては困るからね」


キャスターの忠告に、犬養は静かに頷く。
イレギュラーは何時発生するか解らない。
ゴッサム・シティは聖杯戦争の会場であり、戦場そのものなのだ。
例え一時の外出と言えど、決して警戒を怠るつもりは無い。


付けっぱなしのラジオから、ニュースの報道が流れる。
夕方のトップニュースはFORT CLINTONの喫茶店で巻き起こった凄惨な事件だった。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



突然の出動要請も、この街ではそう珍しいものではない。
此処は数々の犯罪者が跳梁し、無数の犯罪組織が跋扈する犯罪都市。
華やかな装飾の裏で退廃と堕落が支配する悪意の街。
白昼堂々事件が発生し、現場に駆り出されることも日常のようなものだ。

この街は記憶を失っている。
本来いるはずのヒーローやヴィランは存在しない。
それでも、ゴッサム・シティの本質は変わりはしない。
どれだけ変わり果てようと、此処は汚職と悪徳に支配されている衆愚の街なのだ。

最近では『コールタールの殺人鬼』の件もあり、特に出動が多かった。
先の通達によれば、聖杯戦争によるセオリーを無視して暴れ回っているサーヴァントがいるという。
恐らく、件の殺人鬼こそがそのサーヴァントなのだろう。
警察にさえ解明できぬ怪奇現象による殺人など、それこそ魔術や超能力が無ければ行えない。
そして、この街にそんなものは存在しない。
あるとすれば―――――サーヴァント等の超常的な存在が引き起こしているものだ。

殺人鬼に関する情報を咀嚼していたディックは、出動要請が出た現場へと辿り着く。



「お疲れ様です、警部補」
「ああ、来てくれたかディック」


MIDTOWN FORT CLINTON―――――喫茶店。
それが凄惨な事件の現場だった。

現場に到着したディック・グレイソンは上司に当たる警部補に一礼をする。
初老の警部補はディックへの礼を返し、再び現場へと目を向ける。

彼の名はジェームズ・ゴードン。
ゴッサム・シティにおける数少ない『潔白の警官』。
そして、闇の騎士――――バットマンと接触していた貴重な存在。

尤も、それは元いた世界での話だ。
この世界では『バットマン』というヒーローは存在しない。
ティム・ドレイクも、バーバラ・ゴードンも、ハービー・ブロックスも、バットマンのことを知らなかった。
無論、ゴードン警部補も同様だ。
バットマンを知るディックにとって、まるでバットマンが存在しない未来を辿ったパラレルワールドに放り込まれた様な感覚だった。
この街が記憶を失っている中で、自分だけが真の姿を知ってしまっているような感情に陥っていた。


「私も様々な事件を目にしてきたが…今回の奴は飛び抜けてイカレている。
 何せ喫茶店にいる人間が全員『笑い死に』しているんだからな…」


顔を顰めながら、ゴードン警部補はそう呟く。
現場に残されているのは複数人の死体。
老若男女問わず、喫茶店の中で糸の切れた人形の様に転がっている。
それらは等しく『笑顔』で事切れていた。

死屍累々の店内。散乱した食事やコップ。
床に残された引っ掻き傷。地面でのたうち回ったと見られる死体。
人々が必死にもがいた痕跡。
まさしく狂気の犯行と言わざるを得ない、壮絶な事件現場だった。



ゾクリと、ディックの内心で胸騒ぎが起こる。



その感情はグロテスクな事件現場への嫌悪感や恐怖から来るモノではない。
こんな犯行に『見覚えがあった』からだ。
この狂った凶行に既視感を覚えていたのだ。
まるで見知った悪党の犯行を再び目の当たりにした様な感覚に囚われた。
彼の疑念は、続くゴードンの言葉によって次第に膨れ上がっていく。


「事件直前の目撃情報は一つ…『白い顔の男』が喫茶店に入る現場を見たという証言だけ」
「白い顔の男…?」
「ああ、まるでピエロのような気味の悪い白面の男だったそうだ。
 容疑者としてそいつに目星をつけているが、付近でそれらしき男は未だに見つからず…だ」


ゴードンは渋い表情を浮かべ、検証が行われている現場の惨状を見渡す。
容疑者らしき男の目撃情報はあるが、その行方は解らず。
現場に残された証拠は『一枚のカード』のみ。
証拠品袋に収められたカードをディックに見せた。

ディックが心中で驚愕したのは、その時だ。
ゴードンが見せた証拠品、一枚のカードを目の当たりにしたのだ。
それは誰もが知っているトランプのカード。
あらゆる序列を引っくり返す最強/最凶の手札。
そして、『あの男』の犯行を意味する証拠品。



(『JOKER』の、カード)



JOKER――――――道化師。


奴の名は風の噂にも聞かなかった。
裏社会で犯罪界の道化王子とさえ称される奴のことを、誰も知らなかった。
故にディックはバットマン同様、この世界に奴は存在しないのだと考えていた。


だが、この悪趣味な手口は。
現場に残されたJOKERのカードは。
間違い無く、あの道化師のものだ。
こんなことをするのは、奴だけだ。


(――――――ジョーカー


最悪のヴィラン、ジョーカー。
ゴッサム・シティに救う犯罪者の中でも、とびきりの異常者だ。

ディックは半ばジョーカーの存在を確信していた。
本来のゴッサム・シティを知る男だからこそ、本物のヴィランを知るヒーローだからこそ、確信していた。

『喫茶店にいた人間を一人残らず笑気ガスで笑い死なせる』。
『現場にJOKERのカードを残す』。

余りにも無意味で馬鹿馬鹿しく、そして悪趣味で挑発的な犯行。
自分の狂気と存在を誇示するかの様な凶行。
ヤク中だろうと相当のバカだろうと、こんな犯行は行わない。
やるとしたならば、余程の狂人だけ。
そう、ジョーカーだけだ。
白い面の男の目撃情報も、その確信を確固たるものとしていた。



(どうして、この期に及んでジョーカーが…?)



何故今になって奴が現れたのか。
今まで影も形も無かったゴッサムのヴィランが突如出現したのだ。
奴程の存在ならば、警察へのタレコミや裏社会の噂などで情報が流れていてもおかしくはない。
あるいは、ナイトウィングとしての活動で情報を掴むことだって有り得た。
だと言うのに、これまでに奴と思わしき犯罪者の情報は一切見受けられなかったのだ。


そこに存在していなかった筈の男が、突如現れた。
そして『本来のゴッサム・シティでの役割と同じロールを行った』。
ヴィランの存在しないゴッサムに奴は現れ、まるでこの街に失われたピースを補うかの様に犯行を行った。


それはある意味で、自身と近かった。
本来ならばこの街に『ナイトウィング』は存在していなかっただろう。
しかし、本来のゴッサムを知る自分がマスターとして架空のゴッサムに召還されたのだ。
その結果、この偽りのゴッサムにもヒーロー『ナイトウィング』が生まれた。


(ジョーカーが、マスターだとすれば――――)


偽りのゴッサムにジョーカーが存在していなかったとすれば。
偽りのゴッサムに『本来のゴッサムを知るジョーカー』が召還されたとすれば。
――――――偽りのゴッサムにも、狂気の道化師『ジョーカー』が生まれるだろう。


ディックは己の中で半ば確信にも近い推測を立てる。
ジョーカーは、この聖杯戦争のマスターとして召還されているのではないかと。


(奴はこうしてJOKERのカードを現場に残した。
 まるで自身の存在を示し、他者を挑発するかのように。
 ………そう、誰を挑発する為に?)


ジョーカーがこのような犯行に至ったのは、挑発の為だろう。
そうでなければ、こんな無計画な犯行を行う筈が無い。
では、誰を挑発するというのか。
社会か。警察か。あるいは―――――宿敵か。
『彼』のサイドキックだったディックには、理解出来る。


ジョーカーが今まで誰を挑発してきたのかを。
ジョーカーが今まで誰を好敵手として見続けてきたのかを。
奴の犯行は、常に『彼』を挑発する為のものだった。



(まさか、ブルース……)



もし、奴が本当に『バットマン』を挑発しているのだとすれば。
それはつまり、この街にブルース・ウェインが――――バットマンが存在すると言うことになるのではないか。
この街には、赤い覆面の男―――レッドフード/ジェイソンらしき男が居る。
この街には、悪趣味な道化師―――ジョーカーが存在する。
この街には、闇の騎士の元相棒――――僕“ディック・グレイソン”が存在する。
欠けていた幾つものピースが、僅かだが存在している。
ならば、バットマンが存在していたとしても可笑しくは無いのではないか。
聖杯戦争の参加者として、この街に現れていたとしても不思議ではないのではないか。


そして、もし噂に聞く『赤い覆面の男』がジェイソンだとすれば。
今回の事件を耳にして動き出すかもしれない。
ジョーカーを誰よりも憎む彼ならば、ジョーカーの犯行を見逃す筈が無い。
そうなれば、いずれ彼とも出会うことになるだろう。


もしもジェイソンと対面した場合――――自分は、どうする。
彼がマスターだった場合、自分は何をすればいいのか。



「ディック?」
「……すみません、少し考え事をしていて」


ゴードンに話し掛けられ、ディックは意識を彼の方へと向けた。
考え込んでいたせいか、少しばかり周囲を憚らず立ち尽くしてしまっていたらしい。
ディックはゴードンに謝罪をしつつ、彼と共に現場検証へと加わる。
赤い覆面の男。ジョーカー。そして、闇の騎士。
幾つもの疑念や推測を頭の中で纏めながら、ディックは職務の遂行に当たった。



規制線の外側では何人もの野次馬が事件現場を見物していた。
彼らの隙間を擦り抜けるようにその場を去っていく『男』にディックが気付いていたかは、定かではない。



◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆ ◆◆◆◆



サーヴァントによる連続殺人事件。
喫茶店での目的不明の笑い殺し事件。
全く、この街はイカレている。
野次馬を横柄に退けながら男はその場を後にする。


(ま、こんな街だからこそビジネスもやり易いというのもあるがな)


麻薬捜査官、ノーマン・スタンスフィールドはちらりと事件現場の喫茶店を振り返りながら思う。
傍には霊体化したアサシンを伴わせている。

この街での暮らしは快適な面もある。
汚職や犯罪が横行するゴッサムでは私服を蓄え易く、悪事もある程度堂々と行える。
中でも裏社会との癒着を行い易いというのは特に大きい。
聖杯戦争においても裏社会や犯罪組織の人間を人手や情報源として利用することが出来るのだから。
尤も、こんな箱庭の街で生涯を終えるつもりなど毛頭無い。
それ故に彼は勝たねばならない。あらゆる手段を使って生き残らねばならない。


(それにしても、笑い死にの事件に殺人鬼のサーヴァントね。
 物騒な話ばかりだ。デトロイトでも此処まで治安は悪くないだろうさ)


取り出した煙草に火をつけ、ノーマンは思考する。
つい先程起こったばかりの笑い死にの事件に関する情報は掴めてない。
しかし、殺人鬼のサーヴァントに関しては心当たりがある。
麻薬捜査局の中でも有名になる程の飛び切りの猟奇犯罪の噂を聞いていた。
何でも人間が破裂死していたとか、超人的な力で引き千切られれていたとか。
そんな異様な話を何度も聞いていた。
そして現場には黒いコールタールのようなものが必ず残されていると言う話も。

十中八九、その犯人が殺人鬼のサーヴァントなのだろう。
余りにも堂々とした犯行故にすぐに目星は付けられた。
セオリーを抜け出してまで犯行を繰り返す辺り、犯人は余程の狂人らしい。
汚職に手を染めているスタンにはそれがどれほど厄介なのか理解出来る。
悪人であったとしても、外道であったとしても、交渉の余地があれば何らかの形で利用出来る。
だが、それすらも出来ない「きちがい」が相手ならば話は別だ。
損得勘定の解らない相手にはどれだけ利益をちらつかせても意味が無い。
ハナからそんな物を求めておらず、ただ刹那的に動くだけなのだから。
場合によっては予想も出来ぬ動きによって状況をとことん掻き回す可能性さえある。
つまるところ、どうしようもない存在と言うことだ。


(他の連中がとっとと始末してくれたら嬉しいんだがな)


出来ることならば、そんな相手は早い内に死んでほしい。
しかしスタンのサーヴァント―――アサシンは決して強力な存在ではない。
直接戦闘力が低く、隠密性も決して高くないアサシンを下手に動かすのは避けたい。
奴を動かす時は、標的を確実に仕留められると判断した時のみだ。


(殺人鬼のサーヴァントはまあ今はいいとしよう。
 もう一つの問題は…あのバッタのガキだ)


そう言って思い浮かべたのは、グラスホッパーのリーダー―――犬養。
午前中にマフィアの生き残りと接触した後、スタンは自身の裏社会の人脈を用いた情報収集を行った。
得られた情報よれば、今日の午後18時に犬養はBAY SIDEのコンサート用ホールに赴くらしい。
現場にはグラスホッパーの団員の姿も既に見られると言う。
大方、警備員紛いの仕事でも任されたのだろう。


(以前に推測した通り、あのガキが果実の鎧とやらを団員に手配しているのは確実だろう。
 それに裏社会との繋がりを武器にする以上、奴らの様な自警団は潰しておいて損じゃない)


スタンは犬養らグラスホッパーの存在を危険視していた。
奴らの登場で犯罪組織が潰されているのは事実だ。
現にスタンとの繋がりを持つ組織も壊滅させられている。
あのような理想主義者の群れが勢いを付けることは、裏社会との癒着を武器にするスタンにとっては痛手だった。
それに、鯨と共に推測した様に犬養は聖杯戦争のマスターである可能性は高い。

奴の情報はこちらが一方的に得ている。
上手く仕掛ければ、犬養を抹殺することも不可能では無いだろう。
とはいえ、奴を仕留められると言う確証はない。
会場に赴く犬養を追い込み、サーヴァントによって暗殺出来る機会を掴む必要があるのだから。
アサシンは非常にピーキーな性能だ。失敗すれば少なくない痛手を被るだろう。
しかし、犬養さえ抹殺出来れば非常に大きな益となる。



(さて――――どうする?)


【MIDTOWN FORT CLINTON(ジョーカーが襲撃した喫茶店付近)/1日目 午後】

【ディック・グレイソン@バットマン】
[状態]精神的披露(小)
[令呪]残り3画
[装備]警官としての装備
[道具]なし
[所持金]5千円程度
[思考・状況]
基本:街の治安を守る
1.ジョーカーの存在を半ば確信。彼の行方を追う
2.昼は警官としての職務をこなし、夜はナイトウィングとして自警活動を行う
3.赤いマスクの怪人に強い興味。ジョーカーを追えば彼とも自ずと出会うことになるかもしれない
4.元のゴッサムシティには存在しなかった企業・団体等を調査して聖杯戦争の参加者を割り出す
5.街や知人にバットマンに関する記憶、痕跡が一切ない状況に困惑と動揺
[備考]
ロールシャッハの噂(コートとマスクの怪人)から彼がクエスチョン@DCコミックスである可能性を考慮しています
※レッドフードの噂(赤いマスクの怪人)から彼がジェイソン・トッドである可能性を考察しています
※令呪は右手の甲に存在します
※ジョーカーがマスターとしてこの街に存在すると半ば確信しています
※ジョーカーの活動から、バットマンも存在している可能性を考慮しています


【ノーマン・スタンスフィールド@レオン】
[状態]健康
[令呪]残り3画
[装備]S&W M629(6/6)
[道具]拳銃の予備弾薬、カプセル状の麻薬複数
[所持金]現金数万程度、クレジットカード
[思考・状況]
基本:生還。聖杯の力で人生を取り戻す。
1.さて、どうするか…
2.グラスホッパー、特に犬養舜二に関する情報を掻き集める。
3.麻薬捜査官としての立場、裏社会との繋がりは最大限利用する。
4.「果実の鎧」「サーヴァントの殺人鬼」に極力警戒。
[備考]
※自身と繋がりを持つマフィアが何者かによって壊滅しています。
※BAY SIDEでのライブに犬養が赴くことを知っています。

【アサシン(鯨)@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康、霊体化中
[装備]眼帯
[道具]『罪と罰』
[思考・状況]
基本:マスターの『依頼』を完遂する。
1.マスターの指示が入り次第、暗殺を行う。
[備考]
※生前の記憶からグラスホッパーについて知っています。


【MID TOWN COLGATE/1日目 午後】
【キャスター(戦極凌馬)@仮面ライダー鎧武】
[状態]健康
[装備]ゲネシスドライバー
[道具]レモンエナジーアームズ、携帯電話
[所持金]マスターの犬養に依存
[思考・状況]
基本:聖杯が欲しい
0 キャスターには早々に退場してもらおう
1 ゲネシスドライバーの制作を急ぐ
2 マスターには死んで貰っては困る。今は戦極ドライバーで妥協するが、いずれは専用にチューンアップしたゲネシスドライバーを装備して貰う
[備考]
※キルプロセスの開発を終えています。召喚された時以降に制作した戦極ドライバーにもキルプロセスは仕込んでいますが、生前開発したものについては仕込まれていません
※犬養専用のゲネシスドライバーを制作しようとしています。性能はもしかしたら、斬月・真よりも上になるかもしれません
※ゴッサムシティに生前関わり合いの深かった人物四人(呉島兄弟、シド、湊)がいる事を認識しております。誰が聖杯戦争参加者なのかは解っていません
※召喚されて以降に開発した戦極・ゲネシスドライバー双方は、イニシャライズ機能がついており、転用が不可能になっています。もしかしたらキャスタークラスなら、逆に解析して転用が出来るようになるかも知れません
※主だったグラスホッパー団員達には既に戦極ドライバーが行き渡っています
※トノサマンモチーフのアーマードライダーが作れなくて残念そうです
※ウォーターメロンロックシード(改良型)を製作しました

【犬養舜二@魔王 JUVENILE REMIX】
[状態]健康
[令呪]残り三画
[装備]スーツ、戦極ドライバー+ゲネシスコア
[道具]携帯電話、オレンジロックシード、レモンエナジーロックシード
[所持金]大量に有していると思われる
[思考・状況]
基本:聖杯戦争と言う試練を乗り越える
1 UPTOWN BAY SIDEのコンサート用ホールへ赴く。
2 敵主従や犯罪者、強力なインベスの襲撃には極力警戒
3 解っていたが、凌馬は油断できない
4 あと、趣味が悪いのかも知れない
5 魔術を操るキャスターに対抗できるマスターと同盟を組みたい
6 殺人鬼のサーヴァントに警戒
[備考]
※凌馬からゲネシスドライバーを制作して貰う予定です。これについては、異論はないです
※原作に登場したエナジーロックシードから選ばれるかもしれません。何が選ばれるかは、後続の書き手様に一任します
※もしかしたら、自分達が聖杯戦争参加者であると睨まれているのが解っているかもしれません
※凌馬が提起した、凌馬と生前かかわりのあった四人を警戒する予定です
※キルプロセスについての知識を得ました
※倉庫を襲ったキャスター(メディア)の手口を女性的だと考えています
※現在グラスホッパーの主力ロックシードはマツボックリです。
時間経過に従ってオレンジ、バナナ、ブドウ等といったクラスAのロックシードに更新する予定です
またパインやマンゴー、ウォーターメロン等のロックシードも少数配備する予定です
※UPTOWN BAY SIDEでのシェリルのライブに警備員としてグラスホッパーの団員を派遣しています。
 犬養もまた来賓として招かれてます。



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025:Heart to Heart 投下順 027:Coppélia
時系列順

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017:魔術師と科学者 犬養舜二 035:Black Onslaught
キャスター(戦極凌馬)
019:Difference ディック・グレイソン 040:BLACK LAGOON
009:BLACK ONYX ノーマン・スタンスフィールド 035:Black Onslaught
アサシン(鯨)

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最終更新:2016年07月18日 12:23