『らぁめん再遊記 前日譚』



[登場人物]  アンズ小泉さん







深夜放送を聴きながらすする、しょっぱいキミが好きだ────。







 ラーメン。



──アンズが初めてその味をすすった時、彼女は特攻服を着ていた。


  『ズル……ッ。…ふ~~ん。味は結構いけるわね』

  『メニューも豊富だし、次からこの店で食い逃げしようかしら』
……



──アンズがその店で働き始めた時、彼女はホームレス上がりだった。


  『…ラーメン半チャーハンセット一つに、青椒肉絲定食…ね! 少々お待ち下さい!』

  『って…』

  『サブ!! ここはラーメンがメインの店なんだから、せめて醤油ラーメンくらい頼みなさいよ!! もうっ!!』


  「え? え?? …え?」


  「ちょっとアンズちゃん…、ダメよ。お客さんにそんなこと言っちゃ」

  『あっ…おばさん……、ごめんなさい……』

  「いいんだいいんだ。気にすんなアンズ。そのラーメンがとっておきだから食わしたかったんだろ? 気にすんなよ」

  『…に、新田……』

  「…ったく……。アンズめ……。…おい! くっちゃべる暇あったら料理を運んでくれ!!」

  『あっ!! はい!! おじさん』

 スタ、タタタタタ…


  「もう、アンズちゃんったら。うふふ…!」

  「フッ、馴れない環境だろうに…。……うちのヒナと違って、頑張ってやがんな。あいつは……」

  「いやつーか、醤油ラーメン一杯900円押し売りするってエグくねぇっスか? あにぃ」
……



──そして、アンズがその店の味を受け継ぐ時。おじさんは泣いていた。


  『へいらっしゃい!』


  『って……、おじさん?! おばさんまで!!』

  『な、なんで?? もう絶縁ってあんなに言ってたのに……』


  「うるせぇや。腹減ったもんでフラリ入ってみたらこの屋台だっただけだ」

  「もうっ…、あなたったら素直じゃないんだから…」

  「うっせえ…! …おい店長…、早く作ってくれ。大二つでいいからよ」


  『おじさん………っ!』


    ジャッ

       ジャッ


   ドン──────。


  『お待ち!! アンズラーメン大人サイズ二つよ!!』


  「まぁ!」

  「…けっ。食うか」


  ほわぁん…


  フー、フーー

    ズルズルズルズル…ズルズル…ハフッ……!




  ──カタン…ッ。


  『えっ…。お、おじさん?!』

  『どっ、どうして………、……………………泣いてるの…?』


  「ぐうっ………………!」

  「あ、あなた…………」


  「まんま…じゃねぇか………っ。うぐ…………」

  『え…?』


  「俺の味、まんま受け継ぎやがって…………っ!」




  「…成長……したな…………………。ぐっ………ぅ……………。────アンズ…………!」



  『…おじさんっ……………っ────!!』


……



「──おじさん……! 私、絶対に生きて帰るから………!! 心配しないでねっ……」


 今宵。
渋谷の河川敷にて、アンズはハチマキをぎゅっと締め、天を睨む。


「バトル・ロワイアル…? ふざけんじゃないわよっ……! …許せないっ、許せないわっ!!」


 バトル・ロワイアル、すなわち死。
そして、アンズにとって『死』とは、来々軒の受け継いだ味が途絶えることを意味する。
その絶望を回避するためには現状、殺し合いに乗り優勝すること以外手段がないのだが。
だが、だ。
彼女は主催者の思惑通り、見知らぬ人達と殺し沙汰をする気は全くこれっぽっちも無かった。
自分が持つ凄まじい『超能力』を駆使すれば、一般人まみれのこのゲームなど赤子の頚椎を捻るように簡単なはずだが、アンズは絶対にゲームに乗らない。乗りたくない。

────粗暴で法を遵守する気などないあのときの自分を、来々軒の優しい夫婦が更生してくれたのだから。
裏切るマネなど絶対にできなかった。


「…おじさん………………………っ!」



 ならば、だ。
彼女はこの殺し合いにてどうすべきと考えているのだろうか。
──答えは明瞭だった。いわば『レボリューション』である。


「…よしっ! 早速やるわよっ…!! 私!」

 立ち上がったアンズが向かう先、それはホームセンター。
そこに一時間ほど入店したのち、出てきたかと思えば次は業務用スーパーへ直行だ。
スーパーでも二時間ほど用を足す。──律儀にも無人のレジにお代を置いて食料品を買い込むアンズ。
彼女は一体何を始めようというのか。
今はそれが定かではないが、とにかくアンズはテキパキテキパキと物資搬入を続けていった。

ガシャン、ガション…と大きな『寸胴鍋』の音が商店街に響く…──。


 しばらく歩いて道中、真っ暗な高架下にて。
防護ネットの向こうで山手線が輝かしく走る人気のない道路で、アンズは思いがけない『物』を拾った。


「えっ…?! うそっ!! なんでこんな場所に落ちてるの!!」


 それは『物』というには大き過ぎる。
『車』というには車道を走れず、『店』というにはちとボロすぎる。



「……捨てられたのかしら……。『屋台』…」


 アンズは、道の路肩にて朽ち果てていた『屋台車』を見つけた。
茶色く濁った木に、ところどころ錆びたこの屋台は、ボロボロ…と「おでん」の暖簾を風に吹かされている。
夢破れて、やむを得ず店主に手放されたのであろう。哀愁の感じる大型不法投棄車。
この屋台とアンズが出会ったのはどういう運命か。
──彼女にとってこれは『嬉しいハプニング』であった。


「…………!」


「…ちょうどいいわ! 『空き店』を探す手間が省けたわね!!」

思わず頬が緩んだアンズは、寸胴からタオルを取り出すと、さっそくボロ屋台の清掃/修繕にかかるのであった…。






 ────負のスパイラル、という言葉がある。
嫌なことが起きる→態度が悪くなる→その酷い態度を見られ、叱られるor悪口をヒソヒソ言われる→余計嫌な気分になる→態度が悪くなるx∞…といった具合で負の連鎖が止まらない現象を指す。

 以上を踏まえて、ならば全く逆の『ポジのスパイラル』も存在しうると言えよう。
例えば、人に優しくされたら誰だって嬉しい。
嬉しくなれば、自分もまた誰かを同じような気持ちにさせてあげたくなる。
それがまるで感染するように、人から人へどんどんみんなが幸福をばら撒いていけば、必然的に起こる世界平和。
──すなわちは、闘いの終戦。



 アンズはゲーム開始早々考えた。


────私たちは今『首輪』に命を握られている…。

────同じく、私たちの命を握っているものは……、『空腹』…、『食事』……!



 そして、閃いた。


────つまり参加者全員に美味しいものを食べさせれば、みんな幸せになって殺し合いなんか起きなくなるじゃない…っ!!


────…………やる価値は、あるわねっ…。




 題するなら、『幸腹理論』。
アンズはこの理論を武器に、完全無欠であろうバトル・ロワイアルのルールへ穴をつけようというのだ。
そのために、彼女は先ほどからガンガンガンッ、と下準備をしているのだが、一体『どんな料理』で皆の幸せを満たそうとしているのだろうか。

────いや、もはや言う迄も無い。


 ボロボロだった屋台は修理され、灯りがポッと照らされる。
厨房からはグツグツと煮え立つ寸胴。
中にはトリガラが数十羽分、そして、ネギの頭とにんにく、人参などが熱く熱く煮込まれる。
トン、トントンッとアンズが中華包丁を握るは何やら黄色い生地。
そいつを一定の長さに切り、製麺機にかけると、長さの揃ったキレイな縮れ麺が伸びてきた。

 この寒空のもと、屋根に掛けられた赤い暖簾は風に尋ねられなびき続ける。
その暖簾にて、字は稚拙ながらもはっきりとこの店名が書かれていた。


「…よしっ! 仕込み完了ね!!」



『とんずらーめん』──、営業開始だ。









 暖簾からモヤモヤと立ち昇る湯気。
その湯気が、薄水色の空にどこまでも上ってそして消えてゆく。
時刻は四時半。定時死亡者放送までもう一息という時間。


「らあーめーーーーん屋!!♪ すごくおいしーーーー!!!♪」


屋台からガラガラのラッパと歌声が響き渡る。


「おいしいよーーーーー!!!!♫ ………………」



それが、あまりにも虚しく、渋谷の街で響くだけ。

車輪を擦る音を添えて。




「…なんで………………、」


「……………なんでっ!!!!!」


 とんずらーめんは、ガラッガラの閑古鳥が鳴く状態だった。
──こんな鳥なんてスープにぶち込みたいくらいだというのに、悔しさで袖を濡らし続けるアンズ。
割とスタートダッシュは好調と予測していただけに、このガラガラっぷりが効いて効いて仕方なかったのだ。


「理由がわかんないわよっ!! …なんで、なんで誰も来ないわけ……………?」

「こんなに匂いを飛ばしているのにっ……! たくさん工夫して時短で作ったというのにっ…………!!!!」


「なんでよっ!!!!」



 むしろ、襲撃されず死んでいないだけマシだと考えられるのだが、彼女は客足が無い理由を全く理解できなかった。


 ただ、彼女がこの誤算を想定すらしていなかったことは無理もないと言える。
アンズのラーメン屋『二代目・来々軒』は、常に客席が埋まる人気店だった。
顔ぶれは、週三で食べに来るエース・新田を初め、ヒナやマオ、三島瞳にホームレス時代の先輩達…など。
よく見れば内輪なメンツばかりであったが、それはともかく常時売れ行きが良く大繁盛。
そのため、『どうしたら客を増やせるか』や『客の常連化の為になにをすべきか』など、ビジネス的戦略は必然的に怠っており、挫折なんて知りもしなかった。

 今考えれば、おじさんの来々軒の手伝いをしていた頃。
理由は不明だが、まったく客が来ず、暇で退屈していた日がなんだかあった、とアンズ。
あの時、おじさんは頭を抱えてすごい考え事をしていたが、もしあそこで何が原因か、聞き出せていれば……と。


「うぐっ…………ひぐ……えっ………………うっ…………………」


どうすればいいのか分からず、体育座りになって泣き続けるしか無かった。


そのため────、



「…これ、罠のつもりなんですか?」





「…え…………?」



「いや罠のつもりなら失礼ながら馬鹿すぎると思いますが…、──」

「──ラーメン、作ってくれるんですよね?」




 客が一人──金髪のロングウェーブで、制服を着た女性客が座っていることに気づけずにいた。



「…あ………、──」

「──…も、もちろんよ!! 今作るから注文してちょうだい!!」



 奇跡とは如何に。
この殺し合いの舞台でも、ラーメン店は一応ニーズには応えていたようだった。








「サイズが『大』と『小』しかないんですが……。両極端ですねぇ。『中』とか段階は踏まないんですか?」


「『ちゅう』…? 何よそれ」

「えっ……………………」
「…失礼ながら、『聖徳太子』ってご存知ですか?」

「…………………知ってるわよ? あの、有名人でしょ?? 北海道で…、有名な逸話残した……」
「ていうかそんなのはどうでもいいわよ!! 注文は?」


「………じゃあ、大で…」

「はいかしこまりっ!!」


 「大/小」と書かれた黄ばんだ紙がなびく中、朝焼けが差し込む。その折に、麺を茹で始めた。
バトル・ロワイアル初めての客ではあるがアンズは特に緊張感はなく、平常心で湯に箸を掻き混ぜていく。
眼の前の女性客も同様に緊張感はないといった無表情で、ゆったり調理風景を眺めていた。
整った顔にきれいな肌、中太縮れ麺のようなふわっとした髪。──モデルさんと勘違いするほど美人な客だが、アンズとほぼ同じ身長な点、普通の女子高生なのかもしれない。
その顔はずっと変わらず無表情ではあるがどこか青白く、「早くラーメンを作って」と言いたげな顔つきと思える。


「……………………………」


じぃっ────────────────っと…。


 客は、一言も発さず見続け。

それが、内心アンズにとって、邪魔な視線であった。



(……こう見られちゃ集中できないわよ……っ! まぁ、いいけども………)


 もはや嫌な顔を隠さず、ジロジロ客を睨みながらも、アンズは仕込んだタレをどんぶりに入れる。
お湯で暖めたどんぶりに、醤油タレがジワッ…と入り、後を追うように鶏ガラスープを並々、適量まで注いでいく。



「……………………………」


じぃ────────────────っ…。



 三分経過して、麺もそろそろ茹で上がった頃合い。
ザルで掬い上げ、ザッザッザッと湯水を切ると、ラーメンへ、ドバーーンッと豪快に投入した。

「えっ、熱っ…。…客席まで汁飛んできますが」


 仕上げにメンマ、チャーシュー、ナルト、海苔を添える。
──この四種の神器。
どれも自家製で以前から何時間も漬けておいたものだ。味が染みていることは間違いない。


「よしっ、と!」


 白い器に広がる優しい味の茶色い大海原に、ちぢれた極細麺。
そして、チャーシューがなにより存在感をアピールする具材たち。
浮き立つ油と、身体温まる胡椒の香りがなにより食欲が湧いてくる。


「へいお待ちよっ! 『とんずラーメン・大』!! 960円!! たーんと食べてね!」



 ドンッ、と。
その品を客の前に置き、アンズは見事に記念すべき一杯目を作り上げた。

女性客は、アンズのラーメンを前にして声を上げざるを得ない。


「…店名からして豚骨系かと思いましたが、一般的醤油ラーメンなんですね…」

「? 店名?? 『とんでもなく美味しいアンズラーメン』だから『とんず』よ。私、名前アンズだから」

「とんず………………。とにかく、いただきます」


 なにか言いたげの様子な客だが、それはともかくの様子だった。
ポケットからシュシュを取り出した客は、その長い髪を束ねると、卓上の割り箸に手を伸ばす。
そして、調味料は何もかけず、素の味のまま、熱々のうちに啜っていくのだった。


ズズズズーッ、ズルズル……ズルズル

 ズズズズーーッ、ズルズルズル……


 口に頬張られていく、麺。麺麺麺麺。
そして、チャーシュー。
肉厚な焼き豚は噛んだ瞬間、グニュグニュとその弾力ある食感をアピールし、豚感が溢れんばかりに口いっぱいに広がる。
その弾力ゆえに、飲み込むことを苦戦した様子の客だが、落ち着きを取り戻し、すぐさま麺。麺麺麺麺麺、麺とすすっていく。
ナルトにメンマ、脇役ながらこれらの存在も不可欠だ。
どちらも噛むと甘みが溢れて、アクセントが効いている。
客は、それらがまだ口に含んだ状態で今度はスープの味を堪能した。
丼を持ち上げ、ごくりごくり…と。そのさまは正に鯨飲。
そのスープを飲んだら、次はまた麺麺メン…。

止まらぬスピードで、勢いそのままに大盛りを平らげていく。
その食べっぷりは、作ったアンズも目を丸くするほどだが、内心、アンズは嬉しい気持ちでいっぱいだった。


(…ふふっ! やっぱり自分の料理を「美味しい美味しい」ってがっつかれると嬉しいわね……!)



ズズズズーッ、ズルズル……ズルズル

 ズズズズーーッ、ズルズルズル……


 無言。
だが、彼女は黙々食べ進めていき。
ラーメン提供からちょっとしない内に、三分の三まで食べることに成功…──。


「ぷはっ………!」

「ごちそうさま、です」


──つまり、完食していた。


「え? 早っ! 早すぎるわよっ!!」


 ほとばしる汗をシーブリーズで拭き取る女性客。と、同時にポニーテールにしていた髪も解き始める。
──その火照る頬はなんとも満足げに紅潮していた。

 後は、爪楊枝で歯を手入れするか、お代を払うかくらいしか彼女にやる選択肢は残っていないのだが、ここで客は店主に向けて。
寡黙だった口を開くのであった。


「あの、お尋ねしたいのですが…」

「あ、えと。なによ?」

「今、殺し合い中…ですよね」

「…それがどうかしたっていうの?」


「…さっき私、『罠ですか?』って聞きましたけどその通りで、最初このラーメンに毒が入っていて、そいつで無差別殺人を計画してるのかな、って邪推していたんです。…バカな殺害方法だなぁ、って」


「…は? はぁぁあぁぁぁ???! そんなわけないじゃないっ!!!」
「現にアンタ死んでいないでしょうが!!! ラーメンに毒なんか入れな…、」

「そう、死んでいません。だから尚更、疑問なんです」



「……………………疑問…?」


 割り箸をコツン、と卓上に置き、話を遮られポカンとしてるアンズに向かって、客は疑問を投げ掛けた。


「なら、どうして。今、この事態で、ラーメン屋台なんかやっているんですか…?」
「言っては難ですが、普通の人ではない発想・行動ですよ。貴女…」


 当然の疑問だ。
殺す、逃げる、助けを待つ、の三つくらいしか行動パターンがない殺し合いで、こんな的外れたことをアンズがしているのだから。
説明を聞かないと到底趣旨なんて考察すらできない。


 アンズは暫くの間黙った。黙りこけた。

回答する義務を暫し放棄したため、屋台は、辺りは、寸胴のグツグツ煮える音以外まったくの無音となる。
俯きながら何も言わなくなったアンズに、呆れた様子で察してか。
女性客は、


「……………では」


と、席を立ち上がろうとした。
太陽がビルとビルの間からじわじわと湧き出て、朝の匂いが漂ってくる。
客が青色のカバンを肩にかけたその時、アンズはやっと口を開いた。



「──食で、みんなを救えると思ったから……」


「…………なんと…?」




「美味しいラーメンをみんなが食べれば、みんな幸せになって誰も人を殺す気がなくなるでしょっ…!!!」

「…私は…そんなエンディングを迎えたいし、作りたい…!!! 誰も死なずに済むバトル・ロワイアルで終わらせたいのっ!!!」


「美味しい食べ物にはそれができる力があるって…、私信じてるからぁっ!!!! だからこの店を始めたのよっ!!! 今っ!!!!!」




「……………………………」


 アンズが涙ながらに言い放った『幸腹理論』。
その力説は、立ち去ろうとしていた女性客を引き止めるエナジーがあった。
客もこの有事にわざわざラーメン店に足を運んでしまうほど食好きな為か、心に響くものがあったのかもしれない。


「…だから、…だからぁっ!!!!」


 そんな女性客に向けて、アンズが差し伸ばしたのは、自身の掌。


「…一緒に、このラーメンを布教して抗ってくれない、かしら……!」


 ところどころ傷跡や火傷痕が見えるその白い手は、ラーメン作りに対する並々ならぬ熱意を感じさせられる。
この手を握り返すことはつまり、即、アンズのラーメン道の仲間入りとなる。


アンズはスカウトをした。
名前も素性も知らぬ女性客ではあるが、自身のラーメンを完食したことがなによりの『信頼の証』であると、信じて。



「この美味しいアンズラーメンで闘いましょうよ…! 私と、一緒に!!」


アンズは客の目をガッチリ見つめながら、口説き文句を言い終えた。


 胃も心もずっしり満たされた女性客。
──彼女はアンズを前に何をするか。それは、もはや言う迄も無い。

アンズなら、このラーメンなら。もしかして殺し合いを終わらせられるかも…。と。
馬鹿馬鹿しい考えであると自認しているが、彼女は差し出された手に向けて、ゆっくり顔を向けた……────。





「嫌です」



「………………え?」


「味は普通でした。ごちそうさまです。では、」


『夕陽のガンマン』のように朝日に曝されながら颯爽と後ろ姿を見せる客。
彼女は食堂みたいな味のこんなラーメンに革命的革新があるわけない、と。あっさりそっぽを向いてしまった。


「ちょ…、え……? え…? えっ????」

「ま、ま待ちなさいよおーっ!!! いやなんで!! なんで拒否すんのよっ!!! ちょっと待ちなさいって!!!!」



アンズの叫びをノイズキャンセリングするが如く、ワイヤレスイヤホンを耳にはめる彼女。
マイペースでリアリストな彼女の名前は──、


 らら~ら~

 ら~めん、だいすき、

 こいずみさ~ん♪





【1日目/F5/屋台『とんずラーメン』前/AM.03:47】
【アンズ@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】中華包丁
【道具】寸胴鍋
【思考】基本:【対主催】
1:私のラーメンが…普通………?
2:ラーメンの力で殺し合いを終わらせる

【小泉さん@ラーメン大好き小泉さん】
【状態】満腹
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:どこかへ移動


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012:『ターミネーター3 013:『Chase the Light!
アンズ 035:『らぁめん再遊記 第一話~ツルツルさん登場!~
小泉さん 050:『意味が分かると怖いダガシ
最終更新:2025年03月09日 13:42