『Chase the Light!』
『裏ゼルダ』──というモードがある。
ゲーム『ゼルダの伝説 時のオカリナ』にて、受けるダメージが通常より激増したり、全体的に難易度が倍増するモード──いわば、『ハードモード』のことを指す。
この殺し合いにて、利根川は裏ゼルダモードで闘わざるを得なくなっていた。
しかも、一人だけ……。
他の参加者は全員ノーマルモードな中、利根川一人だけハードモードの状態となっている………………!!
「クズがっ………。ふざけたモンにワシを巻き込みやがって………。…クズがっ………!!」
彼のみが、バトル・ロワイアルで圧倒的に生還率が低くなっている理由────。
これは一体どういう陰謀なのか、
主催者役の男が、何故か自分そっくりの影武者だから、だ。
あのバス内にて、意気揚々とデスゲームの開催宣言。ならびに、首輪で縛り付けたことを説明し、自分がこの場を支配しているのをいいことに参加者を愚弄しきったあの主催者。
もし、そいつが会場内でウロチョロしているのを、参加者たちが見かけたら。彼らはどう思うか。
言うまでもない。
誰もが、フルボッコの一択しか行動に移さないだろう。
【マーダー】、【対主催】…問わず。極めて懸命な者を除いて、皆襲い掛かるに決まってるのだ。
説明不要、問答無用で襲いかかる暴力の嵐…。
(ぐっ………)
(こんなモンのせいで……、霧散……、水泡……………っ!!)
「ちっ!!」
まるでグンタイアリの群れに放り込まれたイモムシ。
もはや疑心暗鬼も糞もない。
言うなれば、全員が全員敵の状態…──オリエント急行の殺人………!!
(今日予定していたゴルフが……………、パァ…………っ!!!)
今回は、そんな不幸な運命を背負わされた中間管理職の話。
利根川幸雄の葛藤と困悩の物語である。
◆
時刻は、長針と短針がちょうど重なった時──午前零時、お釣り無し。
ピピピピピ────ッ
ピピピピピ────ッ
…と、鋭い電子音が、利根川の耳元でうるさく鳴り響いた。
何の音かと、噴水の水面を鏡代わりに自分の顔を様子見る利根川。
──どうやら首に纏わりつく金属からの発音であった。
ピピピ……、と鳴り止むと同時に、その首輪の液晶画面からは赤い数字が表示される。
「48:00:00:00」──そのカウントダウンが刻々と減りだしていく。
成程。
さっきの音はゲーム開始のアラームなのか、と。
なんだか何処かで既視感のあるスタート合図に一瞬戸惑う利根川だったが、とりあえず。
噴水の縁にて、ポケットから箱と可燃物を取り出し一旦の落ち着きを計らうこととした。
──タバコの吸煙だ。
銀色のライターで、赤く照り付けられた先から、白霧が上へ上へと満月へ昇ってゆく。
「……フゥ…………………………」
「チッ………! 初めてだ…! ここまで美味く感じない……喫煙タイム…………………!」
毒を吐き散らした分、また煙を肺へ一吸い流し込む。
それにしても、さすがは帝愛No.2候補まで戦い抜いた男といえようか。
殺し合いという人生最大の危機に瀕する場面でも、落ち着いてまず一服を取れるとは、利根川が只者ではない証明を表していた。
普通の人間ならば、アラームが鳴った時点でここまでのんびりはしていられないだろう。
大抵はカウントダウンの魔に刈られて、わひざかな時間も無駄にしたくないと慌てふためき。
──そして行く末は、自分をも見失い破滅へと堕ちていくのがオーソドックス。
「………フゥ…………………」
それなのに、一切の慌てぶりを見せようともしないのだから、その圧倒的貫禄が映えていた。
これまで数々の修羅に直面しながらも、策を練って乗り切り、今日ここまで生き残ってきた男だ。
やはり、他の参加者とは一上も二上も『格』が違っているのだ。
利根川という男は…────。
「フぅっ…………んんっ、と…」
「…にしても、ワシのいわば支給武器とやら…………。──…『ピストル』か…っ。こんな小さな……………」
「………ッ、舐めるなっ…! クズ主催者めがっ! 小さめでありがたいのは………、揚げ物くらい………! ワシにはっ…………!」
他の人間とは違う──といえば、彼だけ他の参加者に比べてバトル・ロワイアルの難易度が圧倒的上がっていることも、また違っている面だろう…。
彼は今や出会う者全てが敵と化した『一人無双状態』。
しかも、使用武器は西部開拓時代のしょぼい回転式拳銃一つという超縛りプレイだ。
「あいつはクローンで、ワシは別人…」と説得にかかろうがほぼほぼ無意味。
──というか、場合によってはそんな台詞を言うまでもなく瞬殺されるだろう。
つまりは、利根川のカリスマや貫禄なんか簡単に消し飛ぶくらい、この『マイナス面な他者との違い』は物凄く強い力があった。
…そんな、現状下だった……っ。
「…ちっ……!!」
「ちっ…ちっ……!! クズ、ゴミ以下のカスっ……………!!」
「虫けら以下のゴキブリ主催奴がっ…………!!!!!」
「何の生産性もないカスの分際が、このワシを弄び……、嘲笑い…っ!!! 社会的地位は間違いなく下層な癖に…ワシを今見下ろしとる………っ」
「このクズめっ…! クズめがぁああぁぁっ…!!!!」
苛立ちからか、いつもよりも早く吸い終えてしまった利根川。
八つ当たりのごとく、吸い殻をネジネジネジネジッと靴底で擦り潰し、──その怒りの表情は背後の和やかな噴水と対比して、妙なコントラストを生み出していた。
目をかっ開き、歯ぎしりが止まらない利根川。
──イライラが収まらない中ではあるが、彼は分かっていた。
自分がこの殺し合いで選ぶことのできる行動。
それが『二つ』しかないこと、に。
一つ目は、優勝狙いで殺しまくること………──と、これは無理に等しい。
自分の口八丁手八丁を駆使し、参加者同士の潰し合いへ発展させることは可能であるものの、…忘れてはいけないのが『外見』で物凄いハンデを背負わされていること。
主催者そっくりの中年に、まず耳を貸す者などいやしないので、【ステルスマーダー】に就くことさえもできなかった。
ならば、実質これしか選択肢がないのだが、それは────とにかくワンチャン狙って逃げ隠れまくること、だ。
例えスーツを泥だらけにしても、例え出くわしたのがチンケな幼女であっても、逃避し続け『来たる時』を待つ。
これまでの人生バイタリティを存分に活かした本気の隠れんぼ──。
もはや、それしかこの不運な男は成すことのできない現状であったのだが…。
「だが、だっ……!!」
「……何故……、何故このワシが怯えなくちゃいかんのだ…………っ」
「主催者もクズだが…、ワシ以外の参加者共も有象無象のカスばかり…………!」
「…許せん…許せん……っ! それが何とも許せんっ………!!」
「屈辱だろうがっ………!! カス共にワシが逃げ隠れ続けなきゃならんとはっ…………!!!」
そんなもの、自尊心の塊である利根川ができる筈なかった。
…じゃあ、どうすべきか。どうすればいい。
こんなにエリアはだだっ広いというのに、利根川に与えられた自由なんかあまりにも狭過ぎる。
主催者は利根川幸雄という一介のサラリーマンへ何の恨みがあるというのか。
このバトル・ロワイヤルという名の『人生』はあまりに理不尽で、巨大すぎる壁だった。
本当に、利根川は何をすべきが最適解なのか…──。
「ぐうっ……! ワシは………!!」
彼が頭を抱えうなだれた、その時。
──コツリッ、と。自分のすぐ横で金属音がした。
何かが『置かれる』音だ。
「……………っ!!!」
わざわざ首を向けなくても分かる。
そうこうせぬ間に『参加者』の誰かに遭遇してしまったのだ。
利根川は一瞬だけ息を呑んだが、その『一瞬の間』で脳を高速回転させる。──回転スピードは、一般人の十倍近い速さ。
頭を超速で働かせ、いざ対峙となる数秒後、一体どう行動し、──そして相手はどう行動に移るか、速攻で考える。
長年のバイタリティから、そして自身の支給武器やゲームスタート後取った行動を下に。相手が何を思考しているか先読み……考察…っ。
そのコンマ秒な熟考の末、利根川が導き出した『自分が次の瞬間やるべき行動』…。
────それは、一旦振り向くことだった。
「…………………」
ピストルを若干隠しながら、スムーズにまず音のした方へ首を向ける。
タイル張りな噴水の縁に置かれていたのは──ブラックコーヒー缶。
「………あー……っ?」
油断したら滲み出そうな冷や汗を堪えながら、次は気配のする隣へと首を上げる。
とうとう出くわしてしまった一人の参加者。
その容姿は、特注であろう気品高いスーツに、青いネクタイ、そして高級腕時計をはめて直立している。
恐らく、利根川と同じ【成功者】の男であろう、そいつは偉く『普通の中年』といった顔つきだったが、それがかえって大物感を醸し出していた。
そいつは、喜怒哀楽の『喜』な表情で利根川を見下ろし続ける。
──殺し合い中だというのに、不相応過ぎる余裕フェイス。
「…………がっ!?」
──そいつがファーストコンタクトだったのは、追い込まれた利根川にとって圧倒的『幸』だったかもしれない。
何故なら。
利根川は、その参加者を『知っていた』のだから……。
「ぐっ?! くっ………、『黒崎』……!!??」
「いやあー、利根川さん! …お会いできて実に光栄です」
「……あ? ………ば、バカがっ!! 『光栄』ではないだろっ……!! こんなモンに巻き込まれ…、それで出会って……、光栄などではっ!!」
「ははっ! それはたしかに」
この黒崎という男────。
彼もまた、帝愛NO.2候補の中間管理職。
利根川にとっては、目の上のたんこぶのような、そんな『盟友』ではあったのだ。
黒崎は開口一番がごとく、利根川へ話し始めた。
「…まぁ、早速なんですけども」
「………な、なんだ……?」
「実は…。利根川さんに折り言って頼みがありまして……、」
◆
夜空が煌めかしい。
噴水をバックに、中年二人が並んで腰を据える。
「…黒崎……、正直言ってワシはお前のことが嫌いだ……。苦手なんだよっ……」
「んぐっんぐ……。ぷはぁー──、」
「──…おっ! さすがは利根川さん、今日も毒舌が冴えますね! いやぁー、利根川さんの毒はコーヒーの苦みよりも五臓六腑染み渡りますよー」
「…チッ!! そういうところなんだよ…っ!! …確かに貴様は優秀で…、そして何をしてもあの会長に気に入られて……、ワシは嫉みの情を抱いている……。嫉妬している面もあるのだ……っ、わずかだが貴様に……っ」
「いやいや!! 利根川さん貴方は自分を卑下なされすぎている…! 私なんかよりも会長のご愛顧じゃあないですか!」
「黙れっ!! 会長からの好かれ具合で話を広げるつもりはないっ…!!」
「…いいかっ。それよりもワシはな…。黒崎、貴様のマイページ過ぎるところが気に入らんのだっ…………!! …その自己ペースが大嫌いだったんだ……、ワシは…!!」
「はぁ。…と、おっしゃいますと…?」
「ふざけやがって……。なんなんだ貴様は……? いきなり現れたかと思ったら…、その……──、」
「…あの~~~、えっ~と。『黒崎さん』……。お知り合いなん…ですか?? その、白髪のおじ様と……」
「Shut Up!! ──貴様は黙っていろっ…!!! 小娘がっ!」
「ひっ!!! す、すみません!!!」
中年二人組。
──すぐそばに、『少女』一人を添えて。
「何が『このお嬢の付き添いを頼みたいのですがー』…だっ…!!! 意味わからんぞ…!! 黒崎!!」
「はは! さっきも言いましたが、私では役不足……というか、無理なんです」
「……え~と…。えと…。…どうしよ~……」
…話は、黒崎が説明を終えた十分前まで遡るとしよう。
利根川の前に現れた彼は、実に穏やかな表情で『頼み事』を持ち掛けてきた。
その頼み、というのが…、
…
……
────ほら、三嶋のお嬢さん。こっちに来なさい……!
──…く、黒崎さん。……いや、なんでさっきからわたしの言う事に耳を貸してくれないんですか…! もう…さっきから──…、
────利根川さんー、知ってますかね? 彼女は、ほら。前ニュースになった、あの経歴詐称『合法ロリ社長』のー。
『…知らんっ! …そいつがなんだっ? 娘か?! 貴様の………』
──い、いや違いますよ!!! てか、黒崎さん私に協力を──……、
────いやー、彼女がね。『皆で協力して、不殺でゲームを崩壊させたい。だから黒崎さん、行動しましょう』って持ちかけてきたのですが……。
『あ? だからなんだっ……』
────残念ながら私は到底そんなことできないんですよ。だから、私の代役として、彼女と協力してもらえないかな、と。
────んぐんぐっ……ぷはぁ。利根川さん、引き受けてもらえないでしょうかね。
──…いやだから意味わからないですよ!!
『…同感! 意味が分からんっ! 何故、できないんだ!! 貴様に頼んだのだから、貴様が引き受けるのが筋だろ……っ!!!』
────すみません。できないものはできないんです。なにせ、私……、
────…殺し合いに乗る気でいるものですから。
……
…
とどのつまり、『自分は【マーダー】だから【対主催】とは思考が相反する。そのため、【対主催】であろう利根川に彼女を任せたい』。と。
黒崎はそう殺人狂に染まった思考回路の元、利根川に頼んできたのだ。
──このぴーちくぱーちく平和ボケした小娘のお守りをしろ、とニュアンスがあろう。
殺し合いに乗る、と宣言したとき、利根川と『三嶋のお嬢さん』──改め、三嶋瞳が揃って、あんぐり開口したのはなんたるシンクロっぷりだ。
「んぐっ…ごきゅごきゅ…っ……ぷはぁーー!!────、」
「──虫の鳴き声が心地良い。今日はいい月だな……」
「なごむなっ!!! 貴様っ!!!」
「……もうっ~~。黒崎さん………。なんなのこの人……」
激情に流されるまま、つっこみ続ける利根川。
かたや、外道に堕ちることを決意した人間とは思えないマイペースさを見せる黒崎…。
同じ帝愛NO.2とはいえ、ここまで思考、温度に差があるとは。──利根川は頭が痛くなりそうでキリキリしていた。
「このガキの面倒を見るかはさておき、だ……──」
「──…思い直せ!! …貴様が殺し合いに乗る必要はないだろうがっ!! アホか貴様は…っ?!」
「いやありますよ!! 第一に会長が参加させられてるんですし、」
「……あ…? 会長……………も…………っ?」
予想だにせぬ回答だったためか。
利根川は一瞬凍りついたかのように黙り込んだ。
「まぁそれは置いとくとして、私…夢だったんですよ。『コマンドー』のシュワちゃんみたいな。アクション映画俳優が……っ!」
「いや置いとくなァっ!!! 会長のことは…!」
「…てか、黒崎さん。映画スターになりたいのと殺し合いに乗ることの因果関係は…?」
夢だった──と、少年のように目を輝かせた黒崎は、二人を無視してデイバッグへ。
ゴソゴソ…と。
両手を使ってまで何を取り出したかと思えば…、
ガチャリッッッ
パっと見はまさに土管…丸太のそれ。
自身の支給武器である大きな大きな『ロケットランチャー』の銃口を、利根川に向けて構えだした。
「ぐいぎぎっ…!!!!???」
ざわっ……。
顔を簡単に埋め尽くす巨大な穴に、利根川はもちろんのこと戦慄させられた。
──右手に隠す小さな小さなピストルがなんとも、萎えていく…。
「なーんちゃって!! ……わかりますか? これでひと暴れしてみたいなっていう…──」
「──男のロマンですよ! 利根川さん! それを叶える絶好の場がこのバトロワなんですよ!」
「…あっ、ところで利根川さんは午後ローで好きな映画あったりしますか? はははっは」
「「………」」
黒崎の愉快な笑い声──。
彼が、「はっはっ」を発する度に反比例してこの場がどんどん冷え切っていく。
(…………………こいつっ…!)
利根川は思った。
思い返せば、先程銃口を向けられた時。
必要以上なくらいに戦慄させられたが、それはまさに『こいつなら流れなど関係なく撃ち込んでくるだろう』という恐怖の予見がしたからだ。
黒崎、この男は間違いなくバトロワを舐め切っている。
厄介なことに、このバトロワが生死に関わる恐怖のゲームと理解した上で、舐めきっているのだ。
遊び感覚でこいつは人の命を弄んでいる。
(……いわば、ガチの異常者………!! 人格破綻者………っ!!!)
(こいつはマイペースとかそんなんじゃない……………っ!! 悪魔、悪魔だっ……!)
共感性の欠如。
反社会的な衝動。
他人からの搾取、道徳観の欠如と自己中心的な欺瞞。
人間が持ってはいけないといわれる心の特性──とどのつまり、『サイコパス』。
ハナから思考が常人ではないため、そんなイカれきった理念で殺し役を担い出すのも必然っちゃ必然…。
──よく見れば、黒崎のその目は妙にギラついており、目を死んだくらいに淀んでいた。
「く、黒崎さん…!! いっ、言っておきますが、犯罪ですからねー…? 殺人って…。やっちゃだめなんですよ…!! そもそも…」
「…………」
思えば、さっきから黒崎にスルーされ続けている三嶋瞳であるが、「絶対のさばらせてはいけない」と辛抱強く説得を始めた。
マジモンのサイコパシー相手に、内心震えて仕方ない瞳だったが、…黒崎は何をきっかけに彼女へ関心が向いたか。
ドスドスドスっ……と、無言で歩み寄ると、
「ヒィッ!!!」
幼顔を、ゴツゴツした手でがっちり掴み、ギラついた死んだ目を合わせ始めた。
「お嬢さん。気にすることは、ないっ……!!!」
「ひいいっ~~!!」
「緊急事態となったら、人を殺すことだって許される………っ!! 大体、この現状がもはや犯罪的………っ!!!──」
「──治外法権地帯じゃ、殺人犯はむしろ『被害者サイド』……!!!」
「ひっ……!! ……あががが…がっ……」
────説得が通じる相手ではなかった。
「…黒崎……、ワシに言えるのは一つだけだ……」
「あっ、なんですか。利根川さん」
「考え直せっ…! ……そもそも、考えてみろ……。ランチャーなんか、貴様撃てる見込みはあるのか……? 撃ち方を知ってるのか……? 貴様っ……!」
「いやー、大丈夫ですよ。その点は履修済み……。『アタックアニマル学園』で……!」
「…………あーっ?? あ、あたっく………………?」
「…いや影響受けた作品コアすぎない?」
────説得が通じる相手ではなかった。
利根川、瞳なんかじゃ、黒崎は。
「あー楽しみだなぁ。わしは一体何人の命をー…。はははっ!! ……それじゃあ、利根川さん。私はここらへんで」
至極真っ当な二人を狂言で論破しきった黒崎は、腰を上げて軽い足取りで革靴音を鳴らしていく。──映画さながらに大砲を担ぎながら。
事実、利根川らはドン引きしただ黒崎を見つめる以外の何もできず。
言い負かされていたのだ。『狂気』で。
元々普通じゃない男だとは、と一目置いていたが、まさかここまで正常な判断を捨て去ったやつだなんて…。と、利根川。
もはや、カカシのようにただ彼の背中を見守るしか、できなくなっていた…。
遠ざかっていく黒崎の背中。
噴水の水飛沫が煩わしい中、コツコツ…と徐々に小さくなる革靴音だけが響いていく。
「……ぐっ………………………!!」
(……………………)
(……………ざけろっ…………)
(ふざけろっ………………………)
────いや、ただ黒崎を見送るだなんて。
あの男はしなかった。
(ほざけっ………………。冗談は………)
──そして、男はさせなかった。
コツコツ…と革靴音のソロ演奏を。
ふつふつ怒りが煮えたぎる中、男は、──いや、利根川は『音』を鳴らした。
(ふざけるんじゃないっ……………!!!! 黒崎ィイっ!!!!)
パァンッ─────
と。
夜空に向かって空砲を一発。
利根川は威嚇射撃を撃ち込む。
「…え?」
「行くなアァアっ!!! 黒崎ィっっ!!!!」
「……………………………………」
────消炎が立ち昇る。
利根川に『殺意』は一ミリもない。
だが、その強張り睨みを利かせきった迫真の顔を、そしてピストルを黒崎の背中へ向けるのだった。
ギリリッ…。奥歯が軋り鳴く。
発砲音から、黒崎は軽かったその足取りを完全停止した。
銃が怖かったから、というわけではないだろう。
利根川の本気の思いが、心が無いモンスターを一時的に射止めたのだ。
無論、『一時的に』、ではあるのだが。
「………………………ィっ!!」
「………………………………」
「………………………っ!!!」
革靴音が止まり、そして、両者無言のシンパシーが続き。
故に珍しい静寂が訪れたこの場ではあったが。
黒崎。
彼は、背中を向けながらではあるものの、口を開いた。
「…私だって自分が最悪な事をしようとしてるくらい分かっていますよ」
「…ッ……………………………ならっ……」
「でも、私が行うのはあくまで優勝してゲームを終わらせるという──『プランB』ですから」
「優勝せずして…、人を殺さずしてゲームを終わらせる──『プランA』を。三嶋お嬢さんとともに──、」
「────任せましたよ。利根川さん」
「それではまた。どこかで」
気がついた時、黒崎義裕は、もうすでに噴水公園から立ち去りきっていた。
「またどこかで」──と、長いお別れを最後に。
(…黒崎………)
──利根川さん、
(やれ、と………。頼む、だと……………………?)
──頼みましたよ。
(ワシ…にっ………………………)
──誰も死なない…。ゲームをグッドエンドで終わらせる。
──殺し合いを終わらせるプランを。あなた方が……。
「ぐっ!!」
ただ、虚しく。
ピストルを下げ、立ち尽くす…利根川幸雄。
彼は決して、カカシのようにボーっと立っているわけではない。
言うなれば、自分に委託されし『運命』とやらを。
深く深く噛み締め、そして心中葛藤していたのだ。
ダークサイドに落ちた盟友からの委託──を。
────Q&A。
Q' 『こんな自分が、参加者を協力させまとめあげ、殺し合いを終わらせられる、か?』
──答えはノゥ。不可能だ。
(主催者そっくりのワシについてく者など、おるまいっ……!!)
Q' 『そもそも首輪が厄介すぎる。これの始末方法はあるか?』
──答えはノゥ。不可能。
(外そうとしたらオシャカ……っ!!! 優勝せん限り纏わり続ける…!!)
Q' 『したがって、【対主催】がバトル・ロワイアルを終わらせる確率は何パーセントだ?』
──答えは0。無理。絶対に不可能ゥッ。
(託されたところで、絵空事は現実にならんのだっ……!)
(不可能なんだっ……。ワシには絶対に……………)
(……『プランA』は…………っ!)
そう。
彼の思うとおり、利根川が、チームを率いて主催者を倒すことなど不可能なのだ。
『無理難題』────であるのだ。
「…え? えっと…利根川…さん……?」
────だがそれは言い換えるなら、『無理難題』であるからこそ。
利根川にしか任せられないのだ。
「………………………………クク」
「…クッククク…………………っ!!」
利根川の不敵な笑いが響く。
それは、日々。
ブラック帝愛・兵藤会長の無茶振り、無理難題に悪戦苦闘しながらも…絶えず……。
部下がトラブルを起こしたり、もはや社会的死しか待っていない状況に陥っても…諦めず……っ。
邁進……、挑戦し続けた……。
最後の最後の最後まで、サラリーマンで有り続け、働き通した男…………──。
「…おいっ! お嬢……三嶋とか言ったな?」
「え? あ、はい!」
────利根川幸雄になら。
彼なら絶対に成し遂げられるプランだろうと………。
利根川をよく知る黒崎から託されたのだ…………!
自分の暴走を止められなくなった【ダーク】から、【光】への委託案件。
それが……、『プランA』………………っ!!
「ククク………っ!」
────────Chase the light……!
「…え?」
「Chase the light……! ついて来い…っ!! 『プランA責任者』である………ワシにっ………!!!」
「…っ!! と、利根川さんっ…!」
…そう。
諦めず行動さえすれば…。
一見それがどんな結末……、バッドエンド……、ハードの極み『裏ゼルダ』に見えたとしても……。
途中経過……………っ!
不運な余生を背負わされた男は、その腐りきった運命を打破する為。
殺し合いの終焉──『成功』をする為。
「見たいか……っ? お嬢…」
「…見せたいもの、とは……?」
悪魔的な彼らしくはないが、たまには良いだろう…。
「クズゲームの無様な崩壊っぷり……、そしてクズの主催者の………、泣き面っ!!」
「…!! は、はいっ!!!」
光を、追い駆けろ─────っ。
利根川は、バトル・ロワイアルを終わらせる『途中の一歩』を歩み始めるのだった…。
(……それにしても…さぁ~……)
(別にいいんだけども…、お嬢とか小娘とか……呼び方やめてくんないかなぁ? 私、もう十六なんですけどっ!)
ただ、そんな利根川よりもよっぽど『不幸な目』に遭う者が、ロリ社長の知人で一人。
この渋谷のどこかにいることは、このとき誰も知る由はない…。
【1日目/F7/渋谷公園/AM.00:59】
【利根川幸雄@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】回転式拳銃
【道具】タバコ
【思考】基本:【対主催】
1:自身指揮の元、ゲームを終わらせる
2:瞳をお守り
3:黒崎っ……
4:会長が少し気がかり
【三嶋瞳@ヒナまつり】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:仲間を集ってゲームを終わらせる
2:利根川さんと行動
【黒崎義裕@中間管理録トネガワ】
【状態】健康
【装備】グレネードランチャー
【道具】???
【思考】基本:【マーダー】
1:バトル・ロワイヤルを楽しむ
2:会長が心配だけど一旦置いておく
※三嶋瞳の参戦時期は高校生編以降です。そのため容姿はメガネにOL服装です。
※この小説はフィクションです。実在の場所や場所、場所などとは関係ありません。
最終更新:2025年02月25日 21:03