『The Foreigner / 復讐者』



[登場人物]  鴨ノ目武鰐戸三蔵伊井野ミコ





 この日本には生きてちゃいけない人間がうじゃうじゃいる。
強姦殺人を犯したにも関わらずシャバに解き放たれた未成年、いじめで人を自死に追いやったチンピラ、女子高生を拷問殺害したうえ事件を金で揉み消したドラ息子……。
そういう人間に限り、無駄にのうのうと長生きし、幸せに過ごす。──ゴキブリのように。

司法では裁けなくなったクズ共へ、『終止符』を打つ稼業。
それが鴨ノ目武。──サングラス身に付く彼の〝復讐屋〟だった。



「本日は皆様に殺し合いをしてもらいます」


その言葉をカモは、どう捉えたか。
無論、彼に罪のない参加者たちを殺める気は一切生じない。
ただし、殺す対象は一人定めている。


(…あぁ。ちゃーんと、殺すつもりだよ。俺は)




(『クズ野郎』だけをねぇ………!)


彼が激憎の目で見据えていたのは、眼の主催者、トネガワただ一人のみ。
過去、カモに目をつけられた『復讐対象たち』は皆必ず凄惨な殺され方をしたものだ。
彼が重視するのは結果よりも過程……────屑達は皆とてつもない拷問を限界まで経されて死に至っている。
仮定として、ここにいる六十九人が全員死亡した場合、その人数分の『痛み』を鴨ノ目は味あわせるつもりだ。


(クズは絶対に許さないよ。絶対にねえ……)


 騒がしさが増しに増すバス内。
対照的に、腕を組んで今はまだ黙座を貫くカモだったが。
一瞬の閃光、そして暗転の後。
目を覚ましたカモの前にいたのは────…、





「…グッ……。…もう……、始まったのかい……………ッ」


少女の亡骸だった。





 周囲に散らばる重たそうな本。
冷たいアスファルトで横たわるはおさげの少女だった。
パッと見では、疲れ果て周囲の目も気にせず眠りこけた様子なのかもしれない。
──髪の毛散らばるおさげ同様、乱雑にペイントされた真っ赤な血だまりがなければ……。


 ゴロンッ


「………………………クソがッ…」


 息は、もう既に確認できない。
寝顔をそっと傾けると、後頭部はベッタリ血で塗り固められ、茶髪がどす黒く染まっている。
鈍器で出会い頭一発叩き割られたのだろう。
成人男性、それも硬い物を軽々振り上げ頭を簡単にぶち割るような筋肉質────被害者の状態を見るだけでも、ここまで犯人を推察できる。



(…………確かに気が動転するのも理解はできるよ…。有事に正常な判断なんて難しいからねえ……………)


カモは、震えていた。



(……だが、俺が『理解できる』のは『一般人』の気持ちだけだ)


悲しみ、恐怖、不安、陰々滅々…。
そのどれ一つさえ混じらない感情で、カモは震える。



「…これをやったのが屑野郎だとしたら……。………………殺すッ、絶対に殺すよ……ッ」


死体を目前にカモは、持て余す怒りを前にただただ震え続けた。
『武者震い』──という言葉があるがあれに近いイメージだ。
殺し合いに早々乗った屑を相手にカモはひたすら震え、また兼ねて、そいつをどう『制裁』しようか拷問を想像し、震えに震えまくった。

殺し合いに紛れし社会のゴミクズも殺処分してやるッ……────。




「…………すまない。…俺が救ってやれた世界線もあった筈だからねぇ………」


「……本当に、申し訳ない」


 サングラス越しの目には涙が生まれていない。
ただ、号泣した際体が震えるのと一緒で、カモは小さく背中を振動しながら、少女へ黙祷を捧げた。
膝を折り、手を合わせて、以降何も言わずに一礼。
カモは未練残りし少女に向かい、ゆっくりゆっくり静かに。
慰霊を祈った。




────背後から忍び寄る影。


────カモの坊主頭目掛けて、パイプレンチが振り落とされる『音』に気づかずに。






ズッガァァアアアッ──



叩き付けられる音が一発、響いた────。














「ぐっぎゃぁあぁあぁあぁあぁあっあぁあぁあぁあぁあぁあぁっ!!!!!!」





「……正当防衛ってあるよねえ? 自分で言うのもあれだけど…、もしアンタが『一般人』だとしたら悪いけどそれで勘弁してくれないかな…」




 ────カモが襲撃者を殴り倒した音のみが、一発。
パイプレンチが風を切よう直前、気付かないフリをしていたカモは背後に向かって拳を突き抜く。
バトル・ロワイアル…こういう非日常には百戦錬磨なカモの拳だ。狙い通り、相手の顔面鼻付近に直撃。
襲撃者は勢いよくゴロゴロと…、武器とポケットから数枚の写真を撒き散らし倒れていった。

そのパンチ力は如何なるものか、「ぎ…ぎいっ……」と拳を受けた数秒後も怯む襲撃者であったが。
カモは、彼へと一歩ずつ近寄り、こう問いかけた。


「…ところで一つ。一応、野暮な質問だろうけどさ……」

「あァッ!!!? …デ、テメェ…………………」


距離が縮まるごとに、明るみとなる襲撃者の容姿。──周囲にはヤツの物だろう、防止とマスクが散らばる。
彼を直視したときカモは思わず「…っ」と唸った。
見た目差別は基より嫌っていたカモであるが、そんな彼でさえ言葉をと切ってしまう程、ヤツは異様な姿をしている。
ツルっとしたスキンヘッドには、パックリ割れたスイカを縫い合わしたかのような手術跡…。
ケモノのような睨み目、血を垂れ流す鼻を過ぎて、吐息を荒く漏らすその口には、『唇』が全くなかった。
故に、剥き出しの歯がズラリと威嚇してくる。


「……本当に、あんたからしたら野暮な質問だろうねえ……」

「ハァ、ハァハァ……! 何が言いてェんだ………ッ!!! ゴラァアッ!!!! ハァハァ………!」


敵の目に見えた異様さに難色を示しつつも、それよりカモの目を引いたのは『散らばった写真たち』だった。
ふと、足元に落ちていたので拾ってみるカモ。
奴にジャンバー内で携帯するくらいだからよほど大切な写真なのだろう。
その一枚の長方形紙を目に通す。
暗い背景…、恐らく自室で撮られたであろうそこには、


顔中『根性焼き』でブツブツだらけの半裸男が映し出されていた。
──よく見れば「初めての体験。あなたに……♡」と書かれた付箋が写真に貼り付く。




「……ハァ、ハァ、ハァ……………………。ハハ……、」





「ブッハハハハハハハハハハハはははははハハハハハハハ…!!!!! ギャッハハハハハハハハハハははははははハハハハハ………ッ!!!!!!!」




 カモは、絶句した。
よく見れば他の写真たちも似たような『構図』。
これまで幾度となく犯罪者共と出会ってきたカモではあるが、ここまで言葉を失うのは久々の感覚であった。
スキンヘッド男の狂った笑い声に飲まれそうになる中、奴は一言カモに返した。


「いいだろ? 俺の最高傑作の一枚がそれだぜ。ぎゃはははははははははハハハハハハハハ!!!!!」


「ぎゃーっはははははははハハハハハハ…! ぎゃーははははっはっはァッ!!!!!」


奴を殴ったことで多少解消された怒りがまた沸々と支配してくる。
スキンヘッドの男──鰐戸三蔵の狂笑を受け取ったカモ。
彼もまた、一言ヤツに対して『野暮な質問』を返す。

寡黙なカモゆえ、表情には出さずとも、目の奥のギラギラ燃える黒炎だけは揺らぎを止まらせなかった。


「…一つ聞くよ?」


「ハハハははは……。…あァー…?」



「お前さん、────『屑』だよね?」




 一枚目。
縛り付けられ、口にはコカ・コーラを突っ込まされた小太りの男。
そいつは全裸の状態で、『ブラジャー、パンツ』を表すがごとく無数の根性焼きがされていた。


「そいつの名は豚塚くんッ!! 俺の兄ちゃん達にカマを掘らせたお礼で、『一生物の下着』をプレゼントしてやったッ!!!──」

「──…風の噂じゃ、豚塚はベッドインでも自分だけ着衣プレイしてるという……。ぶっ!!! ぶははははハハハハハっ!!!!」


「…………」



 二枚目。
同じく縛られた男。
彼の体には、見覚えのあるアニメキャラが描かれており乳首部分がちょうど両目になっていた。
──無論、根性焼きアートで。

「こいつァ山中ひろしッ!! …そして、これぞ『ど根性焼き』ッ!!! ぴょん吉を描いてあげたから話し相手に困らねェだろうぜッ!!!! イヒヒヒッ…!!!!」


「………………………」



 極めつけは、三枚目だった。
カモが最初に拾った、顔中根性焼きだらけの男の写真だ。
その数たるやいなや、もはや蓮の実を思い出す悲惨さだった。

「それでこいつが村上くんだぜッ! ニキビに困っていた彼を、Dr.三蔵は救いたかった……──」

「──そこで編み出したのがこの熱治療ッ!!!! にきび痕問わず全~部潰してやったぜッ!!!! 整形してかっこよくなった村上くんはセックス三昧間違いなしッ!!!──」


「──ギャハ! ギャハハハ! …ははははははははッ!!!!!! あーはっはっはっハハハハハハハハハ!!!!!!!」



 バサッ、バサバサバサ……

カモの手から写真たちが零れ落ちていく。
想像を絶する鬼畜さに、もはや握る力さえなかった。
そんなカモの肩に、ちょんっ、と乗っかるは三蔵の武器──パイプレンチ。
鼻血跡をこすった『鬼』は、マスクを締め直すとこう宣った。


「────…で、記念すべき十枚目に映るのはテメェって話だ」


「……………………」



「だが、俺もそこまで鬼じゃねェ。テメェの罪状はへなちょこパンチ一つと軽いからなァ?」


鼻をすすり、三蔵は続ける。


「チンコ出して土下座したら根性焼きは勘弁してやる。…あァッ~? やるのかやらねェーのか、どうすべきかは分かるよなァ~~??」


目を背けたくなるような睨みを前にして、カモは一切動じることはなかった。
俗に、メンチの切り合い……────共に『悪』同士の男のみ発生する緊張の瞬間だ。

そして同時に、カモは胸が痛かった。
写真の男たち…、名前も知らない彼らであるが、果たしてここまでされるような行いはしただろうか。
カモ自身も人を始末する復讐屋ではあったが、それゆえに悲惨な写真を見て激情を覚えた。
自分は仕事をこなすとき、常に依頼者の辛さ、無念を背負って。
それでいて、加害者を始末する罪悪感をも背中に抱えて、心中重たい物でギッシリな中、復讐をする。
彼には彼なりの、復讐に対する熱意──…いや、覚悟があるのだ。

そんなカモとは、対象的にまるで虫で遊ぶ感覚で人を痛めつけ、最後は『生かして』帰すこの男。
拷問に美学を語るつもりはないが、三蔵の悪意には吐き気を催すほどだった。

パイプレンチを強く握り返したカモは、沈黙の後、三蔵にアンサーを向ける。


「…十分、分かったよ」


「ぶはッ!!!! あ?! じゃあ今からチンコ出すの?! ウケる────…、」



「お前が生きてはいけない存在だってことがねえ…………ッ」


「…………あ?」



 それまではまだ一触即発で留まっていた。
カモの怒りの言葉を機に、ピラニアの大群に牛一頭が落とされたかのような、今。
カモは拳を──。
三蔵はレンチを軽く振り上げ──。


「長く苦しむ覚悟はしてほしいねえ──────…ッ」


「あ? テメェはもっと大変な目に遭うけどな? 追加で『一生物のサングラス』決定ェェ~~──────…ッ!!!」



互いに熟練の復讐者。


プロによる本物の『殺し合い』が今始まった────。










「…なにしてるんですかァ────!!!! やめなさいっ!!!」


バシンッ


「いでェッ??!!!!」








「…………え?」
「あ…………?」



 …始まるかもだった。
この『少女』がいなければ…。
ピ──────────────ッとホイッスルが吹かれる。


「【決闘罪】とは、憲法第四十五条。決闘をするために2人以上の者が凶器を持って集まった場合は、凶器準備集合罪が成立します!! 刑罰は2年以下の懲役または30万円以下の罰金です!!」


三蔵の頭をはたき、矢継ぎ早に早口で理由のわからぬことを言う少女。
彼女の顔は二本の流血跡が残り、決闘罪云々~と講釈どころではなさそうだったが、妙にイキイキと憤慨している様子だ。


「…………あ、………………」


カモ。
彼は少女を知っている。
ゲーム早々出会った、撲殺体の少女……。
息をしていないと見たのは誤認だったか、死んだはずの彼女が痛みも気にせず立っていたのだ。
…おさげをプンプンと揺らしながら。


「言うまでもありません。…このバトロワも憲法第八条【殺人罪】に違反しています。…そこで! 貴方がた違反予備軍が法に準基するよう、私──伊井野ミコが監視しますので、覚悟してくださいっ!!!」


「「………………………」」


「もうっ!! 殺し合いは違反なんですよ!! かっこいいお二人だというのに、殺人に手を染めるなんてもったいないですっ!!!!」


 くわっ、と、激おこの少女・ミコはそう言うと固まりきった坊主二人組のうち、一人の方に歩み寄る。
スタスタスタ…と近寄る先は大胆にも鰐戸三蔵。
突然の来訪者に困惑しきった三蔵の頭へ、サスサスと…。
縫い目にも怖じけず撫で回すミコは、


「特にあなた……。この坊主頭が……、んっ…、すっごく格好良くて…素敵です……!」


うっとりし始めた。

電車で隣に変な人が乗ってきた場合を想定しよう。
まるでその時のように、三蔵カモ、二人そろって「ゾッ…」とさせられた瞬間だった。


「……………………どうすんの?」


「…………どうするって……。テメェなァ……………」


違うベクトルで異常なミコを前に、成すすべがない両者だったが、先に動いたのはやはり三蔵だった。
一見中学生かそこらな幼い見た目のミコであるが、よく見ると胸はふっくら盛り上がるほどにある。
ふくよかなDカップを右手で鷲掴んだ三蔵は、ミコを強引に連れ回すと、沈黙を貫きつつ街裏まで動き始めた。


「…ちょ?! な、なにするんですかっ!! い、痛いです……。やめてくださいっ!!!」


…何をし出そうかは説明は不要だろう。


「…まぁ、腹が減っては戦が云々っていうしなッ。処女なら百点、経験者は八十点~♫」

「正しくは、『腹が減っては戦はできぬ』。北条氏綱の言葉です!」

「一々うっせェンだよッ!!!」


 ただ、予見できる惨事を前に。
何もせず突っ立っているほど、カモは善意乏しい男ではない。


「……やめなさい………」

「…あーーッ? 大丈夫だ兄弟分。ちゃんとテメェの分を考えてクリームパイにゃしねェからよ」

「いいからやめろと言ってるんだ…」


少女の前だからか。
割と穏便な態度で、三蔵へと対応を始めた。
よく見れば、三蔵もまたカモに対して比較的穏やかな口ぶり……。


ミコによって鎮火された一つの小さな殺し合いではあるが、(あくまで一旦。)
果たして、今現在渋谷を巻き込む『大火事』の消火は、彼女がキーとなっていくだろうか。
…今は不透明色である。




「…クリームパイ…って……。もしかして、中☆しの隠語ですかァー?!! な、なにを言ってるんですか??!!! 不純異性行為…!! 殺し合いの風紀を乱す下劣発言!!! ひ、ひ、卑猥です…ぅ……っ!」


「…いや確かにご明察ではあるけどねえ…」
「このおんなバカか?」


…ミコの頭内に限ってはピンク色であるが。
あぁそれと、赤色。




【1日目/A6/街裏/AM.0:17】
【伊井野ミコ@かぐや様は告らせたい~天才たちの恋愛頭脳戦~】
【状態】頭部打撲(軽?)、血がベッタリ
【装備】???
【道具】ホイッスル
【思考】基本:【対主催】
1:殺し合いの風紀を正す。
2:そのために、坊主二人組を監視。

【鴨ノ目武@善悪の屑】
【状態】健康
【装備】???
【道具】???
【思考】基本:【対主催】
1:クズは殺す、一般人は守り抜く。
2:クズ(三蔵)を要警戒。殺害対象。
3:一般人(ミコ)には引きつつも保護。

【鰐戸三蔵@闇金ウシジマくん】
【状態】鼻骨骨折(軽)
【装備】パイプレンチ@ウシジマ
【道具】処した男達の写真@ウシジマ
【思考】基本:【マーダー】
1:皆殺し。
2:ひとまず巨乳女(ミコ)をヤる。
3:カモには殺意を抱きつつも、受け入れてる様子……?


※ミコの参戦時期は選挙後~文化祭以前のどこか、カモの参戦時期は『外道の歌』最終章以前のどこか、三蔵は成人後~カウカウを襲撃する前のどこかです。


前回 キャラ 次回
015:『食うため。 017:『ミステリアスな先輩の雰囲気
ミコ 060:『TOKYO 卍 REVENGERS
カモ 060:『TOKYO 卍 REVENGERS
三蔵 060:『TOKYO 卍 REVENGERS
最終更新:2025年04月14日 20:25