『悪魔のいけにえ(爻ノ篇)』







 突然便所に入って来たのは愚鈍な三四郎、そいつ本人。
……思い返せば、野郎は『会長』を殺したいだか何だかで…、一瞬あたしと気が合った仲ではありますが、……奴の標的は割とあっさり見つかったわけか。
ヘルペスピストルを、その『会長』御本人に向けて、目を血走らせるのでした……。


「…へ?! お、おい三四郎!! な、何を………」

「あぁ、勘違いしてほしくないんだがね…メムメム。…僕は別に会長へ恨みを持っていたりとか………、そういう怨恨、復讐心はないのさ………………」

「は?」


「…ちぃっ………!! とどのつまり……貴様は特に意味もなく……王へ反逆精神………っ!! 造反をするというのか……………っ! 気の触れた……救いようのないゴミめがっ……──…、」

「…いや。…大義名分は薄いにしろ僕だってありますよ。…貴方を殺す、意味がねっ………!」

「あぁ………!?」


「…いいですか。日本は極めて平和な国です……。汚職政治家に、権力を盾に暗躍する犯罪者、捕まらないバカ息子…………、そしてブラック企業経営者……っ。ソイツらは日本国民何千万人から何度も殺されています……──」

「──ただし、それはあくまで空想の中でのみ…………っ」


「あ?」 「…あくまで? 悪魔??」


「その空想は…決して現実化しない……っ。空想と現実の垣根は意外に高いのですよ………っ。頭の中だけで完結する殺人なんです…………──」




「──ただ、ある日突然…自分の目の前に銃が湧いたら………──」


 カチャリッ



「──そして同時に、今住んでいるこの場所が…法もクソもない無秩序………っ。治外法権地帯になったら………………っ──」


 にじりっ…


「──権力も何も通用しない………、そんな自由を限界突破した世の中で、人々はどう生きるか………っ──」




「──…一線っていうのはですね、……こういう奇跡の積み重ねで簡単に超えられちゃうんですよ………っ──」


「────なにせ、殺人っていうのは誰でも簡単にやれるんですから……っ! やろうと思えば…誰でも………っ!!」



「…あぁ? …貴様………」 「…なんすか急に…三四郎………?!」




「あ、言い忘れてましたね。…僕が会長を殺す理由。それは、貴方が悪評高い経営者だからです………。貴方の命日は貴方の誕生日よりも祝われる……。喜ぶ人はたくさんいるんだ……………っ──」

「──理由はそれだけです………──」





「────終わらせましょう、何もかも………………っ!!」





「ぃっ…………」

「………」


 人も百人殺せば英雄になる、だか。
放たれた弾丸、命中するが悪ならば即ち無罪、だか……。
要するに、この三四郎野郎は、英雄気取りでジジィを襲ってるみたいっすね。
…コイツを同じパワハラ被害者無能《仲間》だと思ってたあたしが酷く惨めっす…。
結局は独りよがりな考えで殺意を抱いてたんすから…もう同情もできないっすわ、コイツには……。

まぁコイツがどーゆー動機でジジィを襲おうがあたしとしては、どうでもイーグルす。

 …ふふふっ。
……この時はまだワナワナ震えていたあたしですが、…実は心の奥底では踊り狂ってたんすよ。…あたし……!!
え? 何でって?? 言うまでもない!!! 念願の魂ゲッツの時到来なんすから!!

三四郎が弾丸を放ったその時、その瞬間…、
……こんな老いぼれがヴァージン破りとは何となく不服ではありますが……、とにかく魂を手に入れれるんすよ!!
魂を!!!

レース先輩に褒められるだろな〜♪
周りのみんなは悔し涙でハンカチを噛みしめるだろな〜♫
所長からお菓子(ご褒美)たくさん貰えるだろな〜〜♪
あたしは人生最大の転機を前に、妄想が膨らんで仕方なかったんすから!!
フィーバーっすよ!!!



 ──……まぁ、ただ。



「……クククっ…………!」

「……な……?」

「カカカ……っ……、キキキ…!!! クゥ、クゥクゥ…!!!」

「何が…何がおかしいんですかっ………!!! 会長っ……………!!!」



「思い出した…………。貴様はたしか…、…利根川グループの…、何やらいけ好かぬ…小僧じゃな…………?」

「……………っ。王の最期の言葉にしては随分締まらないですね…………っ」

「カァーーっ!!! キキキキキっ!!! かぁーカッカッカッカッカカッカカッカッカッカッカ!!!!!、ぐききき……っ!!!」

「………だから、何がそんなに笑えるというのですかっ………!! 貴方は死ぬんだ……、殺されるんだよ──…、」



 ──多分〜…。魂が飛び出る相手は…。



「キキキ………っ。おい小僧、震えてるぞ…………? 手が……!!」


「…!! ぃッ…………………!!! ………」


「その手で撃てる自信があるというのなら、大した腕前じゃないか…………!? あぁ〜? 小僧…っ!」

「…くっ、…ならお望みどお──…、」



「本日をもって利根川グループ社員は全員地下行き確定………っ!!!! ────やれ、『小娘』がっ………」




 ──『三四郎』の方になるんすがね…………。



 バシッ────


「がぁっ………!!!?──」



「──……………えっ…?」



 シュルシュル〜…と勢いよく伸びていって…ばしんっ!!!
三四郎の右手目掛けて飛んできたプラスチック製の球は、奴の持つヘルペス銃をはたき落とし……。
紅脹して痛む右手を抑えながら、三四郎は後ろを振り返って、…………絶句。



「……ごめん」



「え………。…………え?」




「…ごめんなさい。佐衛門……さん……………っ」



「………え」






「くぅっ!! きぃーっききききき!!!! かかかかかかかーかっかっかっかっかっかっかァ─────っ!!!! ききききききききっ!!!!!」






「さ、サヤ…………さん…………………?」


「………………」




 ……印象的だったすよ。
『兵藤和尊』名義のバカみたいな桁が書かれた手形を片手に、何とも言えない表情をするヨーヨー娘は。
…そして、まさかの裏切りを前にして、腫れたかのように目をまんまるとした三四郎の顔は……。



「……サヤ、さ……………」


「…本当にごめんなさい。…ねえ、これでいいよね…。──」



「──兵藤様……………」




……本当に三四郎の表情は記憶に残るくらいだったっす。


アイツの『絶望』を一瞬で理解したっていう…その顔は、ものすごい異色放っていたっすから………。





「かーーっかっかっかっかっ!!!! ききききかかかかかかっ……!!!!──」


「──これでいいか、じゃと………?! バカがっ…!! 足りんわ……!! ききききっ……………」







 満月。
そう、満月。
狂犬病に感染した生物は月光を浴びると、カミソリの如く激しい痛みに悶えるらしい。
──月はまさしく悪魔の眼光でした…。



 バシィン────ッ

   バシィン────ッ


「ぐぅっ…………!! がぁっ………!!!」

「制裁っ……!! 制裁、制裁、制裁っ…………!! この塵芥……ゴミ……っ…ゴミ以下のカスがっ……!!──」


「──制裁っ…!!!」



 バシン────ッッ


「がぁっ……………!!!」


 公衆トイレ外にて、響く嫌な打音。そしてうめき声……。
……まるで調教っすよ。
出来の悪いウマを鞭でビシバシ叩きのめして………、ウマはウマでデカい図体してるのに調教師には反撃すらもできずただ叩かれ続ける…………。
ヨーヨーガール曰く、ジジィ改め兵藤のヤローは『人間競馬』っていう…全く想像もつかない遊びをするのが好きらしいんすが。

サングラスを弾き飛ばされ、杖で好き放題背中を叩かれ続けるウマ──三四郎と…。
そのウマを一切人間扱いせず、涎を垂らしながら怒り殴る調教師──兵藤のジジィ………。

…今あたしが見てるこの光景こそが『人間競馬』みたいなモンでしたわ……。



 バシィン────ッ

   バシィン────ッ


「ぐぅっ……………!!」

「分を弁えろ……っ!! たかが黒服が…っ!! たかが黒服がぁっ……!!! 制裁…!! 制裁…!!」


「あ、ぁ、わ…………。ひ、ひ……ひゃっ…………」


……正直ね。めちゃくちゃ震えまくって、もう金縛りって感じだったすよ。
…この時のあたしは………。



「…ちょっと………っ。……お、おじいちゃん…もう……やめてよっっ!!!!」

「あ〜……っ?!」


「……さ、サヤ………さ…ん…………………」


…あっ。
言っときますけど別にあたしは兵藤のヤローに…び、ビビり倒して震えてたんじゃないすからね?! …こ、こんな耄碌、全〜然怖くないし何も思ってないすよ……!!
…この時あたしがいた場所は、ヨーヨーガールのえっろい胸の中……。
──つまりこの女に抱かれ持たれてる感じだったんすから!!
ほら、あたしってオッパイ恐怖症じゃないすか!! それが原因でビビリまくってたんすからね!!! こ、こんなジジィの制裁なんか余裕だったんすから!!!


「お願いだからもうやめてって!!! ねえおじいちゃん……っ!!!!」

「あんじゃ小娘がっ………!! 女の癖に……しゃしゃり出るなマヌケ………っ!!」

「いやふざけないでって!!! …もう十分でしょうが…………」

「…ぁあ〜〜〜〜〜〜っ??!! あぁ〜〜〜〜????」


「ひ、ひ〜ひぃ………。あ…ぁ……ぁ……!!」



……へ? なんだって??

──『そのヨーヨーガールは胸がペッタンコなんだろ?』
──『だからお前が彼女にビビるのはおかしいじゃねぇか』…って………………?

…………。
……まぁそんな細かい話はさておき…。
さておきっすよ。もうっ!!


 …『叩けば直る』だなんて、まるでのび太ン家のテレビかっ!! てぐらい、三四郎をボコボコにするジジィ…。
そんなヤローの邪智暴虐っぷりには、流石のヨーヨーガールも黙っていられなかったのでしょう……。
若干涙ぐみながら、コイツは静止に駆け付けて来ました。

一方で、当のジジィといったら、…まぁ孫の年ほど離れた娘に「もうやめて」と言われたわけっすからね。

『チッ』──…

って、舌打ちを飛ばした後、思う事があったのか。
物凄く嫌な目つきをしながらも、杖を振るうのを停止しだしました。


「………クソっ……。……………虫けらにも劣る…奴隷………っ。自由を知らない、ボウフラ同然の奴隷如きがっ……………。王であるワシに……楯突くとは………………」


「ぐうっ…………………。がぁ……あっ………………………」




さっきね、三四郎が公衆トイレ内からほっぽり出された時、ジジィが「向こうの自販機からなんか買ってこい」って小娘に命令したこともあって、
ヨーヨーガールとジジィとの距離は今、まぁまぁに離れてはいたんすけども。


小娘が泣きながら(──あとあたしを抱えながら──)ジジィの元へと近づいていく間。

三四郎の胸ぐらをシワクチャな手で掴んだジジィは、


「おい……っ!! どのくらいじゃっ………!! 貴様の……視力は………っ!」

「ぐぅうっ……。……な、何故…今………その話を………」

「あぁ?! バカがっ……!! 淀み…濁り…腐りきり……っ!! 貴様の目はあまりにも酷すぎるっ……。──」

「──高価な品……本当に価値のある一級品………。普通の人間には…素晴らしき品を見定める彗眼が備わっとるものじゃが…………。…圧倒的価値…巨万の富である王……このワシを襲うとは………。貴様には見る目がなさすぎるわいっ……!! ──」


「──これを見ろ……っ!!! ゴミっ…!!」

「…え………?」


懐から、折り目一つない新札のお金。
…どこの国のお金かは分かんないっすが、それを一枚取り出し、三四郎に見せつけると、


「おいっ……!! 分かるか……この貨幣の価値がっ………!! 一体コイツは何円じゃっ…!! 答えろ…、答えろゴミ……っ!!!」

「え。………い、一万………ペリカ…………。…地下で通用する……お金の──…、」

「ちぃぃっ…!! 黙れっ……!! …やはり…貴様はゴミ………!!──」



三四郎の右目を無理やり開かせて、



「────…刮目せよっ………!! クズめがっ……!!」






貨幣の切れ目を、眼球に、────シュッ────────。




「ひッ」

「ぁ」



「がぁッ────」




──今夜は満月。

真っ白でまんまるなお月様へ、一筋の黒い雲が横切っていました────。




「ぎい゙ぃぃぃいがぁ゙あ゙あぁぁッ…!!!!!!! ぐがぁ゙ああああぁぁぁあああぁぁあああぁああああああああああああああああああ────────ッッッ!!!!!!!!」



「ぐうっききき! きききぃっ……!!」




「…ぁっ………左衛門……さ………………………」




「あ゙がぁあああ゙ぁぁぁああぁぁぁあぁぁああぁあぁぁあぁぁあぁぁぁあああぁぁあああああぁぁぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッッッッッ」






「カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!! クゥクゥクゥーカッカッかっかっかっかカッカッカァーー!!!!」




…異常な光景を前に、ヨーヨー娘は絶句しきって。
…あたしだってもう魂が抜けたんじゃないかってくらい頭が空っぽになって。
……三四郎は我を忘れて地面を転がり狂う…。


──あの場にいた四人の中で、楽しかったのは兵藤和尊。奴だけでした。



 ────奴だけだったんす。

 ────人間のフリをした………『真の悪魔』は……………。





「カァ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカ!!!!!! カ────ッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカッカァ───────ッ!!!!!」





…………
………
(ぽわんぽわん、めむめむ〜)
(回想終了〜)
……



「…以上が事のあらましっす!!」


「…」「…う、うげぇ…」


「いやぁ〜思えば長旅だったすわ…。アホの千花にデカ外国人、それに三四郎とヨーヨーガール……何人もの使えない参加者達に出会い続け…三時間近く!! 誰一人とて魂回収に協力してくれない中……、やっとあたしの努力が報われたんですよ……!!──」

「──今はお休み中の兵藤様ですが…奴こそが!! 奴こそが最強の悪魔であり、あたしのナイスバーディ!!! 勿論奴とは手形で契約したのでね!! 奴を以ってして、取れぬ魂はないときたもんすわ!!!──」

「──うふふ…♫ あたしもついに一流の悪魔の仲間入り!! もう讃美歌をカラオケしたい気分っすね♪ ふふ…!!──」



「──というのに…っすよ」

「お、お前ぇ…………………」



………はぁっ……。


「なんで兵藤のヤローを部屋から追い出したんすかぁああぁぁぁああっ??!!! 寝てる隙にポイ〜って………!!!!!! 酷いじゃないすか〜あんまりすよ、バヒョぉおおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」

「バカヤローっ!!!! なんて回想をオレらに見せつけるんだっ??!!! そんな危険思想なじーさん連れてくるなぁあああ!!!! どこまでバカなんだお前はぁあああああああ!!!!!!」

「せっかく魂をゲットできるチャンスだったのにぃいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!」


「…とりあえず一つ。メムちゃんは淫欲(?)な方法で魂を集めるのが仕事なんでしょ?」

「あぁぁああっ???!!! なんすか高木んんんん〜〜〜っ!!!!」

「…本当に殺しちゃう手段取ったらさ、そのレースさんに…逆に凄い怒られると私思うんだけども」


「え…………………」



………………………。



「と、とにかくジジィを連れ戻しますよっ!!!!? あたしはヤツの財源と力が必要なんすからぁあああああああ〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!」

「あっ!!! ま、待て!!! やめろメムメムぅ───────っっ!!!!!!」




 ジタバタジタバタ…


「もがぁあああぁああ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!!!!!」



 ……東●ホテル、十一階・2106号室。

……超後悔っすよ。マジ。
…高木とバヒョの奴にあたしの回想を見せてなきゃ……、魂集め計画はオジャンにならなかったんすからね……………。


…はぁ。
こっちの気も知らずに、ジジィは時間帯が時間帯なだけあって、廊下のどっかでむにゃむにゃ呑気に睡眠中っすわ。



もう、ちくしょぉめぇえ~~…………っ。



「こくりこくり……。あぁ〜〜〜………。むにゃむにゃ…」



【1日目/F6/東●ホテル/11F/2106号室/AM.04:30】
【メムメム@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】???、兵藤からの手形百万円
【思考】基本:【奉仕型マーダー→魂集め】
1:アホそうな参加者をマーダーに誘導して、魂を集める。
2:……というわけで、ベストプロフェッサー・兵藤様を連れてきたというのにぃ~…。作戦失敗だチクショー!!
3:どっかに魂、落ちてないすかね………。

【高木さん@からかい上手の高木さん】
【状態】健康
【装備】自転車@高木さん
【道具】限定じゃんけんカード@トネガワ
【思考】基本:【静観】
1:兵藤さんに警戒。
2:メムちゃん、小日向くんと行動。
3:西片が心配。

【小日向ひょう太@悪魔のメムメムちゃん】
【状態】健康、人間(←→サキュバス)
【装備】ドッキリ用電流棒@トネガワ
【道具】???
【思考】基本:【静観】
1:兵藤に警戒。
2:高木さん、メムメムととりあえずは行動。
3:…メムメムと関わったばかりに、あのサングラスの人の人生はメチャクチャ……。

※ひょう太は水をかけられると男、温かい水なら女(淫魔)になります


【1日目/F6/東●ホテル/11F/廊下/AM.04:30】
【兵藤和尊@中間管理録トネガワ】
【状態】睡眠
【装備】杖
【道具】???、懐にはウォンだのドルだのユーロだの山ほど
【思考】基本:【観戦】
1:こくり、こくり……。
2:展望台の頂上から愚民共の潰し合いを眺める。
3:王に逆らう者は制裁っ………!!





 …佐衛門さんの崇拝する、利根川センセって人曰く。
『金は命より重い』────とのことらしいけど…。


…冗談じゃないッ………。


金が全てなわけがあるかッ…………。
この世の全ての物に金がかかるだけで、あんな紙切れが何よりも大事な訳が無い………ッ。


…決別の意として、兵藤の手形をビリビリに破いた時。
……アタシは後悔なんか一ミリも湧かなかった…………────。



「……はぁ、はぁはぁ……。ぐうッ………。はぁ……」

「…さ、佐衛門さん…大丈夫……なの…!?」

「はぁ、はぁ…………。大丈夫にッ………見えるのか…………ッ?」

「あ…い、いやごめん。そういう事じゃなくてさ……──」



「──ソレ、…『違法』な奴……だよね………?」

「………ノープロブレム………っ。コイツは『医療用』と銘打ってるんだから………脱法ドラッグだよ…………ッ。……吸わなきゃ、痛みでやってられないさ……………ッ──」


「──スゥ…ハァッ………。…フゥ………ハァアァッ…、ッ………。」

「……………………ほ、程々にね………」


 サングラス越しで眼帯を付ける彼。
唯一露わになっている彼の左目は、…もう鬼ってぐらいに怒りで血走っていた。
…真っ暗な病院にて、お目当ての『ソイツ』を探り出した彼は、一心不乱に袋の中身を吸い続ける。
………さっきまでの優しくて、比較的まともだった佐衛門さんはもういない。……そんな気がして堪らなかった。



「…………ハァハァッ…………──」



「──…申し訳ないね。……サヤさん」

「えっ…。い、いや…!」


「………もう痛みはだいぶ……和らいできたとは思うからさ……………っ。……そろそろ、行こうか………」

「……え…。だ、大丈夫なの……?」

「…そりゃ、大丈夫…ではないさ………っ。…ただ、君こそ大丈夫なのかい………。こんな不気味な病院で……長居するのは………」


「…………うぅっ…! …そ、それは確かにだけども…」

「……よし、なら出ようか……。…ねっ………!」

「…うん………分かった」



…金なんか要らなかった。
恐怖も、絶望も、文字通り『こんな目に』遭うのももう嫌だった。

金なんかよりも……、たった十円ぽっちで大分満足できる……平和であまい菓子の方が何倍もいい。
……もう二度と金に惑わされてたまるか、って…ッ。



「…ねえ、…………ごめんなさい。私の方こそ」

「………」

「……あの時、佐衛門さんにヨーヨーぶつけなきゃ…………裏切っていなきゃ………ッ。貴方は今頃──…、」

「……ははっ………。僕が謝ったものだからゴメンナサイ返しか………………。いいよ気にしなくて。罪悪感なんて最も非生産的な感情だ…っ。もうよしてくれ…。──」



「──…ありがとうね、サヤさん…」



……
………
────“金さえあればなんでもできると思うなッ……!! ジジイッ……!!”

────“……。行くよ、佐衛門さん…”
………
……



「──…あの時……、こんな僕を庇ってくれてさ………っ」

「…………うん」



 …アタシには兄貴がいる。

頭が悪くて、ダメダメで、スケベ心だけはいっちょ前の愚兄だけども、…それでも大切な。

──『サングラス』がトレードマークの兄がいた。



佐衛門さんの肩を支えながら、アタシらは病院を後にする。




……一応補足。
アタシアタシ〜って一人称だから勘違いしちゃったかもだけど、アタシはメムちゃんじゃない。
…そしてヨーヨーガールぺったんこって名前でもない………。

アタシは、──────遠藤サヤだ。



【1日目/D6/東京ミッ●タウン周辺街/AM.04:31】
【遠藤サヤ@だがしかし】
【状態】健康
【装備】あやみのヨーヨー@古見さん
【道具】フエラムネ10個入x50
【思考】基本:【静観】
1:佐衛門さんと行動、そして互いに助け合う。
2:ジジイ(兵藤)を絶対許さない…っ。
3:ほたるちゃんを探したい。

【佐衛門三郎二朗@中間管理録トネガワ】
【状態】右眼球切創、背中打撲(軽)
【装備】ヘルペスの改造銃@善悪の屑(外道の歌)
【道具】???、医療用●麻x5
【思考】基本:【静観】
1:サヤさんを守る。
2:会長に激しい憎悪。
3:……メムメム、アイツについていって大丈夫だろうか………っ。



前回 キャラ 次回
061:『らぁめん再遊記 第二話~情報なんてウソ食らえ!~ 063:『Pulp Fiction<三文小説・第一集>
022:『徘徊老人かな? サヤ 069:『【Plan A】 - from Kaguya's Requiem
032:『菓子 佐衛門 069:『【Plan A】 - from Kaguya's Requiem
052:『Darling,Darling,心の扉を メムメム 074:『やりなおしカナブン
052:『Darling,Darling,心の扉を ひょう太 074:『やりなおしカナブン
052:『Darling,Darling,心の扉を 高木さん 074:『やりなおしカナブン
052:『Darling,Darling,心の扉を 兵藤会長 064:『支給品:『アシストフィギュア』について
最終更新:2025年08月17日 12:38