Avenger ◆F3/75Tw8mw



「涼邑……一つ、確認したい事がある」


結城丈二涼邑零
二人はタカヤ達三人が警察署を後にした後、目的地を目指し―――正確には零が向かう先に結城が着いていっているだけだが―――歩みを進めていた。


──「冴島邸」──


零にとっては最大の仇敵、冴島鋼牙の邸宅。
それを模した何かがここにある以上、彼にとってそこへ向かうのは必然であった。
その行動に、一切の迷いはなく……故に。
同行者は、気づくことができた。


「君の憎む相手……倒そうと思うべき相手は、冴島鋼牙か?」


涼邑零を復讐に走らせた、その男の名に。


「……そうだよ、それがどうかしたかい?」


零には別段、それを指摘されたからといってどうという事はない。
自分の向かう先と地図とを照らし合わせ、且つ名簿に一通り目を配らせていたならば、当然導ける答えだ。
気付かれるだろう事は承知の上……寧ろ、気付かれない方がおかしいだろう。


「まさか、あいつを殺すのは止めてくれ……とでも?」


口調は飄々としたまま、しかし確かな殺意を孕ませ、零は結城に問い返す。
この男は、復讐に走る自分を放っておけないなどと口にした。
ならば、その阻止に回るのは十分ありえる事であり、零からすれば絶対に許せない行為だ。
もし、そうだとするなら……邪魔はさせられない、させるわけにはいかない。


返答の如何によっては、抜刀も辞さない。
そんな思いのまま、零は結城の次なる声を待つ。


「……その答えは、まだ返せないな」

「何だって?」


しかし、返ってきたのは意外すぎる言葉だった。
彼は、復讐を良しとしないと言っておきながら、それを止める意思も見せなかったのだ。
これには零も面食らい、唖然とした表情をしてしまう。

それはどういう意味だ。
ややあって、そう問いかけようと口を開こうとするが、それを察してか、結城は先に言葉を紡いだ。


「私は、冴島鋼牙がどういう人間なのかを知らない。
 何せ出会ってもいない、話に聞いたことも無い相手だからな」


答えは簡単だった。
結城は、零が憎む冴島鋼牙がどの様な男であるかを、知らないのだ。
人物像がまるで分からぬ相手を相手に、打倒すべきか否かの判断など、付けられる筈が無い。


「そして……涼邑零という男が何者なのかもまた、私は知らない」

「…………!」


そして何より、結城はまだ涼邑零という男の事を殆ど把握していないのだ。


「もし、冴島鋼牙が力なき人々の為にその牙を振るえる戦士であり、君が血を好む悪鬼羅刹であるならば、私は君を止めねばならない。
 逆もまた然りだ……冴島鋼牙が悪と断じられる存在であるならば、確実に討たねばならない。
 無論、復讐心に駆られる事を良しとするつもりは無いがな」


確かに結城は、零の復讐心を咎める発言はした。
だが、その相手を「倒すな」ともまた、口にはしていないのである。
何故ならば、例えばバダンの様な人に害成す存在が仇だったならば、それは倒さねばならぬ敵だからだ。
復讐する事と討つべき敵を討つ事とは、また別問題だと、結城はそうはっきりと区別をつけているのである。


「……なるほど、ね」

聞き終わると同時に、零は殺意を収めた。
自分を非道の類と例えられた事は癪だが、彼の言うことは正論に違いない。
つまり彼は、己と冴島鋼牙がどんな男であるかを、その目で見極めるつもりなのだ。


「あいつを殺す事、止められるかと思ったけど……案外、話が分かるじゃないか」


零は僅かながらではあるが、結城への評価を改めた。
冴島鋼牙の殺害を止めるというなら、容赦をするつもりは無かったが……
彼は、それが倒すべき悪だというなら止めるつもりは無いと言いきった。
ならば簡単な話だ。
冴島鋼牙は決して、正義と呼べる存在ではない……罪無き命を、大切な人々を殺めた男が、正義であってたまるものか。


「結城さん……だったね。
 心配は要らないよ、奴はどうしようもない悪党だ……魔戒騎士の恥曝しだよ。
 ま、あんたが俺を大嘘付きの悪人だって思ったりしてたら、話は別だけどさ」


勿論これは、結城が自分を信用していればの話だ。
出会って間もない間柄、素直に受け入れてもらえるとも思ってはいない。
しばらくは彼がどういう判断を下すか、様子見と言うところだが……
そんな零の何気ない一言に、結城は苦笑しながら答えたのだった。



「さて……少なくとも今の時点じゃ、君自身が悪だとは思ってはいないがね」


零の行動には思うところこそあれど、悪人だとは思っていないと。


「……へぇ、どうしてだい?」

「何、簡単な話さ。
 君は京水を斬ろうとした……それが判断材料だよ」


根拠は、彼が京水を斬り捨てようとした事。
『人にとって有害』な存在と断じ、動いた事にあった。
それにより、零自身が人の為に動く人間である……少なくともそう言える一面があると、一応の証明はされたのだ。


「尤も……あの行動自体は、決して褒められたものではない」


とは言うものの、結城はその行動を肯定するつもりは毛頭なかった。
それは、零の刃を自ら止めに入った事からも明白だ。
目的の為ならば、例え何者―――それが善であろうとも、立ち塞がる全てを切り捨てる……それは決して、正義と呼べる行いではない。


「分かっているだろうが、もしもまた同じ事を繰り返すつもりならば、私もまたお前を止めよう……例え力ずくでもだ」


だからこそ、それを正す為にこうして自分は側にいる。
かつての自分と、同じレールを歩もうとしているこの哀しき男を、止める為に。


「……いいさ、勝手にしなよ。
 ただし……俺も状況次第じゃ、容赦するつもりはないよ?」


揺らぎなき強き決意を秘めた結城の視線に、零もまた真っ直ぐに言葉を返す。
止めたいのなら好きにすればいい、しかしその時はこちらも力ずくだ、と。
彼にもまた、譲れぬ一線はあるのだ。




◇◆◇




「……ところで涼邑、冴島鋼牙以外の知り合いはこの殺し合いには参加していないのか?」


しばしして、歩みを再開しようとした後。
不意に結城は、それまでとはまるで違う話題を零へと振ってきた。
随分と唐突な質問だが、どうしたのだろうか。
零としては、あまり根掘り葉掘り己の事を探られるのは、好ましくない。


「また質問かい?
 確かにあいつの事は少し話してしまったけど、俺はあんたに気を許した訳じゃ……」

「頼む、答えてくれ。
 これは重要な問題なんだ」


しかし。
断りを入れようとした零に対して、結城は極めて真剣な様子で懇願してきた。
流石にこうなると、零も何事かと気にせざるを得ない。
怪訝そうな面持ちで、結城へと振り返る。


「…………!」


直後、零はその理由を察した


視線の先では、結城があるものを指差していたからだ。
それは、己の首にもまた嵌められている爆弾。
参加者に等しく与えられた、『首輪』だ。


「……悪いけど、期待する様な答えは持ってない」

「そうか……」


しかし残念ながら、結城が求める様な人材―――この首輪を外しうる知識のある人物を、零は知らなかった。
その返答に結城は残念そうな様子をするが、無理もあるまい。
確かにこの首輪は、参加者の大半がどうにかしたいと考えている代物だ。


(こいつを外さない限り、殺し合いを止めるも何も無い……か)


こればかりは流石の零も、情報を惜しもうとは考えなかった。
殺し合いを止める為には、まずこの首輪を外すのは第一条件になる。
いや、それ以前に……首に爆弾を巻きつけたまま戦う事自体が、危険すぎる。
例えば冴島鋼牙が、戦闘中にこの首輪を狙い仕掛けてきたらどうなる?
切っ先が掠めた程度であったとしても、爆発して命を奪われるかもしれないのだ。
そんなリスクは御免被る。


「俺にそれを聞くって事は、あんたにも宛はないのか?」


もし解除する宛があるなら、こんな事を聞いたりはしないだろう。
故に返事は分かっているものの、念の為に零は結城へと尋ねてみた。
それに対して結城は、やはり首を縦にふり、静かに答える。


「ああ、残念ながらな。
 私ではどうにかする事は出来ない……お手上げだ」


口から出たのも、予想通りに諦めの言葉だった。
零は小さく溜め息をつき、肩をすくめる……が。



「……ん?」


直後、彼はすぐに気がついた。
結城は言葉を返しつつ、デイパックから取り出したメモ帳へと、何かを書いている事に。
何よりその言葉とは裏腹に、彼自身からはまるで諦めの様子が感じられない事に。

そして……しばしした後。
彼から手渡されたメモを見た事で、その真意が分かった。


『ここから先、重要な話は筆談で行いたい。
 参加者の会話は、ほぼ確実に盗聴されていると見た方がいい』


結城は主催者を欺く為に、敢えて諦めの言葉を口にしたのだと。


「…………!!」


零はハッとした表情で、己の首元に手を伸ばした。
言われてみれば、それはもっともだ。
参加者として殺し合いに放り込んだ以上、運営にはその行動を監視する必要がある。
そして、その為に最も適した道具は……この首輪に他ならないではないか。


『分かったよ、忠告してくれて感謝する。
 それで、本当のところはどうなんだ?』


零も同様にメモ帳を取りだし、筆談を開始する。
結城が何かを掴んでいるならば、情報を逃す訳にはいかない。


『もしこの首輪が私の知る範囲の技術で作られている物ならば、解除は私でも可能だろう。
 それなりの設備を発見した上で、首輪の構造さえ分かれば、恐らくどうにかできる』


まず結城の考えだが、首輪が己の技術の範囲内であるならば、解除出来るというものだった。
その為には首輪の構造をまずは解析し、解体用の設備を発見する必要がある。
後者に関しては、オペレーションアームだけでは完全な解除が難しいだろうと予測を立てているが為の判断だ。



『しかし、それはまずありえない。
 先程京水達の話を聞いて確信したが、この首輪には私が知らぬ未知の技術が使われているからだ』


だが、それはあくまで『結城の知る技術』のみで首輪が構成されているという事が大前提だ。
そして京水達との会合で、参加者が全く異なる世界・或いは時代から集められているという事実が分かった以上、この前提は脆くも崩れ去った。
十中八九、この首輪には結城の知らぬ道の技術が用いられている……そう断言できる。
そうでなくば、解除があまりにも簡単に出来てしまうからだ。


『だったら、その技術を知ってる人を探せばいいのか?』

『ああ、理想は私と同じ技術者と会う事だ。
 それと出来れば、時間操作を行えるという人物とも接触したい』


故に結城が考えたのは、その未知を埋められる人物と。
そして、時間操作の術を持つ参加者との接触だ。
加藤はこの首輪を、時間操作の影響を受けずに作動する代物だと言った。
ならば、構造を把握する鍵はそこにあるのではないだろうか。


「……時間が経ってしまったな。
 とりあえずはこのまま、君の望み通りに冴島邸へ向かおう。
 冴島鋼牙がいるいないに関わらず、ここは会場の中心点だ。
 この施設には、人が集まる可能性がある」


筆談を止め、結城は今後の行動について口を開く。
どうやら筆談をしている内に、少しばかり時間が経ってしまったらしい。
そろそろ動かねば怪しまれる頃だろうと、彼は零に行動を促す。
目的地は依然、冴島邸だ。


「ああ、分かっているさ」


二人は歩みを再会する。
一人は復讐の為に。
一人は復讐を止め、その仇を見定める為に。
そして両者共に、殺し合いを打破する鍵を得る為に。


……ちなみに、だが。
もしこの二人が筆談を交わす事無く冴島邸に向かっていたならば、冴島鋼牙とは邸宅内で鉢合わせをしていた可能性は極めて高かった。
皮肉にも、主催者を打ち倒したいという二人の想いが、彼等に時間を使わせてしまったのである。
尤も、まだ冴島鋼牙もその近辺にいる以上、どうなるかは分からない。

果たしてこの展開は、彼等にとって幸か不幸か……




【1日目/早朝 F-8 山道】


【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:零と共に冴島邸へ向かう。
3:本郷、一文字、沖、村雨と合流する
4:加頭についての情報を集める
5:首輪を解除する手掛かりを探す。
  その為に、異世界の技術を持つ技術者と時間操作の術を持つ人物に接触したい。
6:三影は見つけ次第倒す。
7:タカヤたちとはまた合流したい。
[備考]
※参戦時期は12巻~13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
 何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※零の狙う仇が冴島鋼牙である事を知りました。
 彼が復讐心に捉われる様ならばそれを力ずくでも止めるつもりです。
 ただし、鋼牙を討つ事そのものに関しては全否定をしておらず、もし彼が倒すべき悪であったならば倒すべきだと考えています。
※首輪には確実に良世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。


【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止める。
1:牙狼を見つけ出し、この手で仇をとる。
2:鋼牙が向かう可能性があるため、冴島邸に向かう
3:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
4:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
 その為、鋼牙が恋人と師の仇であると誤認しています。
※魔導輪シルヴァは没収されています。
 他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。
※もしも結城が自分の復讐を邪魔するつもりならば、容赦はしないつもりでいます。
※首輪には確実に異世界の技術が使われている・首輪からは盗聴が行われていると判断しています。


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最終更新:2013年03月14日 23:03