復讐の戦鬼 ◆gry038wOvE



 涼邑零はグロンギの遺跡にあった柩に手をかける。
 柩にあるとめどない量の模様は、おそらく文字であるというのはわかった。
 横並びに書かれ、規則性もなく、そして同じようなものが複数書かれている。何かを伝えようと、古人が遺したメッセージというのは、なんとなく感じることはできた。
 単純な模様とも思えないし、古代の壁画には文字と思しきものがよくのこっているのである。
 だが、日本語でも、魔戒語でもない文字が書かれているが、零には短期間に独力でそれを解読するなど不可能である。言語学者でもこの場ですぐに、というのは不可能だろう。


「妙な場所だな……やっぱり」


 これは単純な勘だが、この場からはホラーのように古からの「魔」を感じ取ることができる。
 長い歴史の裏にある、ごく一部の人間しか知らないものの鼓音が、この場所から聞こえたような気がした。
 怪物。そう、ホラーと同じ怪物だ。
 どの程度ホラーと近い存在かはわからないが、ともかくここには怪異の歴史がある。
 だが、これがホラーだとしても、ホラーでないとしても、零は自分自身が感じた「魔」の気配を気のせいと思おうとしていた。元々確証のない話でもある。

 薄々と、それが気のせいでないことも、怪物がホラーでないことはわかってきた。
 ここに来る前の零なら、人間の天敵となり、人知れず生きうる怪物はホラーのみ────それ以外の存在があるならば、少なくとも魔戒騎士はそれを知らないはずがないと思えただろう。
 だが、「NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆、ドーパント」という、加藤の教えた謎の言葉は、魔戒騎士やホラーのように人間離れした能力の持主だとは加頭の口ぶりから解釈できたし、広間ではホラーに近い怪物の姿も見えた。大多数が常人にしか見えないことから、余計に彼らの姿は目立っていたし、見間違いということもないだろう。
 少なくともあの怪物たちはホラーではない。あの場で翳した魔導火はそれを物語っていた。ホラーならばあの場ですぐに斬っただろうが、違うのならばそれは魔戒騎士の仕事ではない。
 鋼牙も同じ考えだっただろう。


(なら、この中にはホラーでない魔物のヒントがあるのか……)


 零は、一度柩の中を開こうとしたが、思いとどまる。
 これを調べれば確かに「魔」の存在についてのヒントは得られるかもしれない。
 だが、本来、これは死者の眠る場所だ。
 善人だろうが悪人だろうが、零にとって死者は皆同じだ。眠り、目覚めることのない存在である。
 それを丁重に葬り、二度と目覚めることのないよう祈るのは死者への礼儀だ。
 それに、この柩にはもしかすれば、その存在が封印されているという可能性もある。
 好奇心は猫をも殺す──迂闊に好奇心に身を任せて余計な詮索をして後悔することもあるかもしれない。
 加頭がここに零を連れてきた理由が、この柩に眠るものを呼び覚ますためという可能性も考えられる。


 どうあれ、警戒すべき場所にあるものを迂闊に動かしてはいけないだろう。


(これ以上、ここにいても仕方がなさそうだな……)


 零はそう考えた。
 用心し続ける必要がある場所に、いつまでもいるわけにはいかない。

 まずは他の参加者との接触をしたい。
 零としても、何名か気になる参加者はいたのだ。
 何も零が見た参加者は鋼牙だけではない。あの広間では名前を明かした参加者もいる。

 仮面ライダー1号、本郷猛。仮面ライダー2号、一文字隼人
 仮面ライダーとは何なのかはわからない。見たところ、彼らは仮面をしていなかった。ライダーが、バイクに乗る人の意ならば、あの場にバイクはないから確認しようもない。
 新手の暴走族か? それにしては年季もあり、落ち着いて見えたが。

 涼村。孤門一輝
 二人はあの場で言葉を口にしたから名前を呼ばれただけで、彼らは特別気にかかる言葉を発したわけではない。
 スズムラという名前の男は少し気になったが、零の「涼邑」という名前はあくまで偽名だ。
 本当の名前は銀牙という。同じ名前であることに因果を感じることもなかった。

 怪物たち。
 参加者に紛れている怪物たちの存在も気になった。
 言語が通じるならば、剣を翳して彼らに直接聞いてみるのもいいだろう。
 とにかく、彼らの存在を知りたかった。


(周囲は森みたいだな………………ん? 向こうに街があるな)


 遺跡を出た零は、高い山の頂上から下界を見下ろす。
 周囲が木々に囲まれたこの場所でも、巨大な風車のタワーがある街がなんとか見えた。
 まだ暗闇が地上を覆っているが、魔戒騎士の目は鋭い。


(行ってみるか……他にも人がいるかもしれないしね)


 零はそう考えると、常人離れしたスピードで山を駆け下り始めた。
 まだ地図はおろか、デイパックの中身すらちゃんと確認していない零は、この地形上に仇の家があることさえ知らない。


★ ★ ★ ★ ★


「キタキタキタァッッ!! イケメンの匂いがすると思って走って来てみたらやっぱりいたー! 嫌いじゃないわ!」


 未確認生命体対策本部の一室にて、結城丈二が最初に接触した参加者は、厳ついマッチョであった。
 この場で未確認生命体なるものの資料を探ろうとしていた結城に、思考の停止を与えた。
 まさか、時間の停止とはこの事ではあるまいな。


「………………あなたは?」


 結城は突如として現われたこの男(?)に落ち着いて聞いた。
 彼がいきなり危害を加えるわけではなかったが、風貌はプロレスラーのような体格で、結城もやや戦慄した。
 京水が質問に答えようと口を開こうとしたところで、更にその近くの廊下から声が聞こえてきた。


「京水さん、待ってください! …………え? あなたは?」


 続いてやってきた少女は、結城の姿を見て、結城の質問と同じ問いをした。
 まあ、結城が質問していたのは聞こえなかったのだろう。
 仲間がいるせいか、警戒を強める様子はなく、なにやら唖然とした様子だった。
 すると更に続いて、若い青年もやって来た。どうやら、彼らは一緒に行動していたらしい。
 結城はおそらく彼が最後だろうと睨んで、自己紹介を始めた。


「私は結城丈二。君たちは?」

「私は泉京水。気軽にダーリン♪って呼んでいいわよ~」

「こいつは無視してくれ。俺はDボゥイ。名簿には相羽タカヤの名で載っている」

「私は東せつなです」


 結城はすぐに彼らの名を覚えた。名簿に載っている名前は一通り暗記していたので、元々容姿と名前を一致させるというだけの単純な作業だった。
 京水なる人物に抱いたイメージは、名簿で見たときと大きく違っている。
 出会い頭で少し戦慄したが、結城はSPIRITSという部隊にこんな人間がいるという情報を受けている。
 まあ、珍しいタイプだが彼のような人物を認めることも、これからの時代には大事だ。ほどよく相手にしていこった。
 それよりも、結城には名前を聞いただけで、質問が増えていく。


「相羽タカヤくんか。……そうだ、いきなりすまないが、君はもしかして、兄弟がここに連れてこられてるんじゃないか? 名簿には相羽シンヤ相羽ミユキという名前があった」


 タカヤとシンヤ。苗字だけでなく、名前も似ている。兄弟に似た名前をつけるというのは珍しくない。
 結城も知り合いが呼ばれている手前、三っつの名前がただの他人とは思えなかった。
 親子でないと思った理由は、結城も広間でタカヤの姿を二人分広間で見ており、「双子がいる」と妙に印象に残ったからである。
 相羽ミユキは男性だか女性だかも曖昧な名前である。この名前に関しては説明を必要だと思った。


「ああ。その通りだ。シンヤは俺の双子の弟、ミユキは俺の妹だ」


 おおよそ、結城の予想通りであった。
 予想が当たったからといって喜ぶほど結城は子供でもないし、不謹慎でもない。
 この状況下に兄弟姉妹をつれてこられた彼の心情を察する。
 強固で心配の不要な仲間を連れてこられた結城とは違うのだ。


「それは気の毒に……。だが、安心してくれ。この戦いに巻き込まれた人間は私やその仲間が保護してみせるつもりだ」


 結城の覚悟はホンモノだ。たとえ腕一本だけが頼りであっても、彼は折れることなく参加者を守るつもりである。
 目の前の彼らもその対象である。善悪はまだわからないし、出会い頭だったが、それは彼の目的のうえでは関係ない。少なくとも、彼らは三人で行動していて、今のところ危害を加えてはこない。
 だが、その結城の重いとは裏腹に、タカヤには重過ぎる宿命がのしかかっていた。
 彼が結城の言葉に即答したのは、もしかすれば、自分の弟の身を案じてくれる彼の気持ちを、一瞬でも早く打ち切りたかったからかもしれない。


「いや、その必要はない。ミユキは俺が守るし、シンヤは俺が倒す! それだけだ」

「何!?」


 結城はタカヤの発言に驚愕する。タカヤは予想した答えを返してはくれなかった。
 いくら兄弟仲が悪くても、この状況下でこんなことがいえるだろうか。
 タカヤの目は本気であり、結城でさえ凍りつくほどの何かに囚われていた。

 いや────

 結城の記憶から、広間での光景が再生された。
 そうだ。
 アキほど言ったように、結城は彼と、そして彼と瓜二つの人物を広間で確認している。
 相羽シンヤとは彼の双子の弟なのだろう。

 それから、あの場において三人の人物が首輪によって命を絶ったときの記憶でも彼らはでてきた。
 ここにいる三人のうちの二人──京水と、タカヤはあの光景を見て動揺を見せていた。それは当然のことだろうが、彼らの場合はまた違った動揺だ。
 そう、まるであの場での犠牲者と顔見知りであったかのような……親しい人物が死んだような姿を見せていた。

 本郷、一文字、沖、村雨の姿を確認したときとは違う。身構えて顔だけが怒りを見せているような姿ではない。
 女性の参加者たちの恐れた顔でも、一部の参加者の何か言いたげな顔でも、三影の奇妙な口元のゆがみでもない。
 タカヤと京水は、死んだ者たちの名前を叫ぼうとしていたのだ。 


「広間で加頭が言っていた、テッカマンという言葉を覚えているか?」


 タカヤが口を開いた時、結城は「やはり」と思った。
 加頭の死んだうちの一人はおそらくテッカマンだ。彼はあの三人のうち、テッカマンなる者と知り合いだったのだろう。


「ああ。NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆、ソウルジェム──不可解な言葉は全て記憶している」

「あっ、それっ! NEVER! それは私よっ!」


 これを聞いても「やはり」と思ったが、話には優先順位というものがある。
 こちらの話も聞きたいが、話の重みから考えても、テッカマンの話を優先すべきだ。


「君の話は後で聞かせてほしい。まずはタカヤくん、君の話を聞かせてもらいたい。君はテッカマンなる者を知っているんだろう?」

「ああ、知っている──というより寧ろ、俺がテッカマンだ」

「……そうか。よければ、テッカマンというものについて教えてほしい」


 タカヤはテッカマンについて語り始めた。
 成り立ちや宿命、親しい人物の洗脳、これまでの戦い────辛く厳しい戦いの話であった。
 相羽シンヤ、相羽ミユキ、モロトフ、フリッツ・フォン・ブラウン。この場につれてこられた者は、死んだ者も含めて皆その関係やテッカマンとしての別名を教えられた。


 ここで結城は違和感を覚える。
 オービタルリングもラダムも、結城の知らない言葉であった。
 いや、正確にいえばオービタルリングの話は沖が一度、目を輝かせて語っていたため、聞いたことはある。
 だが、現実にまだそんなものは存在しない。
 それをタカヤは、さも存在して当然であるように語っていた。
 とはいえ、急に話題を逸らすのも問題だろう。


「……なるほど。家族と戦う道を択んだのも、君なりの考えがあってのことというわけか」

「ああ」


 結城はまず、感じた違和感を脇に置いて、話の発端となった部分に蹴りをつける。
 タカヤの考えを聞いたうえで、結城は宿命の戦士たちのことを思い出した。

 テッカマンの境遇は仮面ライダーに似ていたのである。
 仮面ライダーは、自分と同じ改造人間となった者と戦う宿命を背負っているのだ。
 言ってみるなら、同族殺しである。

 本郷猛──彼は親友であった早瀬という男と戦い、そして倒した。ショッカー軍団のサソリ男となった早瀬の裏切りに、彼はどれほど辛い思いをしただろう。
 風見志郎──結城の最も親しい戦友である彼は、高木という親友との戦いを強いられた。彼はデストロンのガルマジロンであり、一度風見をデストロンに勧誘した。もしあの頃の結城が風見と親友なら、高木と同じことをしただろう。


 それでも彼らは、人類の自由と平和のために同族殺しを続けなければならない。


「相羽タカヤ、いやテッカマンブレード。私は君を止めはしない。いざという時は私も助けになろう。テッカマンエビルを、テッカマンランスを、倒すために」

「結城さんっ!?」


 せつなは、そして京水も彼の対応には驚いているようだった。
 一見すると冷酷に見えたのであろう。彼の宿命を聞いて何も感じていないように思われてもおかしくはない。
 だが、結城こそ最も、彼の辛さを知りえる人物であった。


「どんなに辛くても、その手段を使わなければ多くの人間の命が奪われるときがある。そのためには、戦わなければならない」

「その通りだ。そして、これは俺自身の選んだ道だ。誰にも止めさせはしない」


 タカヤの口調には、随分前から捻じ曲がらない決意の音がふくまれていた。
 結城は無論、止めはしないが、せつなはかなり戸惑っているようだった。
 だが、タカヤ自身が話し慣れたせいか辛気臭そうではなかったので、結城は話題を差し替える。


「これでテッカマンについてはわかった。京水、君のNEVERについても聞かせてもらおう」

「そうそう。私も話さなきゃね。私たちは──」


 と、彼が口を開いた時、またまた誰かが警察署の一室に入ってきた。
 黒いコートに身を包んだ長髪の美少年である。
 どうやら結城たちが此処にいると気づいたうえで来たようであり、自分以外の人間がいることに驚くことも、警戒することもなさそうだった。

 逆に結城たちはほぼ同時に悪寒を感じた。

 ──彼が端麗な容姿の男性であったからである。


「何何何ぃっ!? とってもイケメン! 嫌いじゃないわっ!」

「……そうかな? とっても嬉しいよ。でもゴメン、俺は変なオッサンには興味ないんだ」

「そうそう変なオッサン……変なオッサン?」


 余裕しゃくしゃくと、男は笑顔で返したが、対する京水は一気に不機嫌になった。
 人を殺さないばかりの気迫で、ようやく少しだけ女に見えかけていた顔は完全に男に戻っている。


「ムッキィィィィ!! いくらイケメンでも乙女に対してそんなこと言っちゃうなんて、心はドブスよ! ド・ブ・ス!! …………あっ、でもやっぱり男前だから許しちゃう~!! タカヤちゃんと同じツンデレなのね~!」


 だが、その気迫も一瞬だった。零の甘いマスクは、一瞬手前に起きた自分に対する最大の侮辱さえ忘れさせたのである。
 零は薄ら笑いとでも言うべき笑顔のまま、話を続ける。


「俺は別に話せる人なら誰でもいい。この人以外で誰か、俺と話をしてくれないかな。──あ。どうせなら君がいいな」


 せつなの肩に手をかけて、彼は言う。氷のように冷たい手であった。
 見知らぬ男に突然こんなことをされたせつなは、パニックになって、思わずその手をはらいのける。
 零としてもこの年代の少女に興味があったわけではないが、ただ単純に女性だからという理由で彼女を選んだのだろう。だから、この行為に別段傷ついたりはしなかった。
 そんな零の軽い気持ちは知らず、せつなは素直に自分の行為を謝罪する。


「あの……っ、すみません! あなたは一体……?」

「俺は涼邑零。ちょっと情報が欲しくてはるばる山奥からやって来たんだ」

「え?」

「それに、こうして机があるところのほうが道具が広げやすそうだしね」


 と、零は自分自身のデイパックを広げ始めた。
 中からは地図などの全員共通の支給品も出てくる。
 殺傷に利用できそうなものはなかったが、結城たちは警戒の様子を見せた。妙に余裕があるような様子のうえに、何を考えているのかわからなかったのである。
 突然ここに押しかけたまではいいが、まるで結城たちが居ることを意に介さないように、一人で行動をしている。何故、こうして結城たちの目の前に現われたのか。


「へぇ……こんなのまで支給されてるんだ」


 零が掴んだのは武器などでなく、スーパーヒーローマニュアルと書かれた冊子であった。
 昔のテレビのヒーローのお約束を纏めたような本である。出版されたものではなく、そもそも紙の束を留めたようなものだった。
 この本に記されたヒーローの姿を真似るためか、テンガロンハットやウエスタン風の服、トランペットも付属している。
 言ってみれば不要物だ。


「これは何かな?」


 妙にグロテスクな色をした三味線を手にとって、零は首をかしげる。だが、どちらにせよ意味のあるものとは思えず、零はすぐに興味を失ったようにそれをデイパックに戻してしまった。
 結城たちの方を気にする様子は無いのだが、彼がどうしても気になってしまう結城たちは話も続けられず、迷惑でしかない。
 名簿を見始めた零は、一つの名前を見て一瞬顔をしかめたが、すぐに名簿をしまった。
 次に地図を開く。


「へぇ、あいつが来そうな場所が用意されてるんだ……」


 零は今まで広げなかったこのマップの、ある施設の存在に目を向けたのである。

 ──「冴島邸」──

 冴島鋼牙もここに向かうのではないだろうか。
 はっきりと自分の名前がマップに記されており、「志葉屋敷」のように参加者の名前と合致した施設がある以上、彼は自分の屋敷、またはその複製がここに存在すると考えるのではないか。
 どちらにせよ、彼はきっと確認のためにここに現われる。

 まあ、仇である黄金騎士を討てば、もうこれ以上殺し合いをする必要はないのだから、なるべく早くこの場所に向かいたい。
 そして、自分自身の殺し合いを終わらせたい。


「……まあいいや。まずは君たちの話を聞かせて欲しいな」

「それはこちらの台詞だ」

「私も零ちゃんの全部を知りたいわ~!」

「お前は少し黙ってろ!!」


 ようやくまともな会話をする機会が出たか、と結城らは思った。
 零という男の目的はまったく見えないが、殺し合いに乗っている様子はおそらくない。
 だが、態度はあまり好ましいものではない。


「零。私の名前は結城丈二、彼は相羽タカヤ、彼女が東せつな、か──────のじょが泉京水だ」


 結城は全員を代表して紹介を始めた。
 自分も先ほど知合ったばかりだが、零からしてみれば四人の集団に見えるだろう。
 まとめて自己紹介しても問題はないだろう。


「君が来る時、私たちは話の途中だった。その続きからでいいか?」

「構わないよ。でも、できれば俺に伝わるようにね」

「ああ。泉さんはNEVERなんだったな」

「そうよ! 私NEVERなのよぉ~!! NEVERっていうのは私が所属してる部隊の名前で、実はみんな一度死んでるのよ!」


 と、京水は明らかに異質としか思えない内容を平然と語り出した。
 一度聞いたせつなやタカヤはともかく、結城や零が淡々としているのは、二人には不思議に思えただろう。
 結城や零は、何かしらの形で死者の複製や、冥界に精通していたのである。
 まあ、それらもNEVERの概念とはまったく違うものだが。


「君のいた部隊とは?」

「それよ! 克己ちゃんのいた部隊!」


 それから京水が語った話は少なくとも結城には理解し難いものである。
 大道克己、堂本剛三、加頭順、左翔太郎照井竜など、この殺し合いに関連する人物たちの情報を得ることができたのは有難いが、彼らNEVERの活動を結城が認めるはずもない。
 そして、翔太郎と照井という二人の「知らない仮面ライダー」の存在も気にかかった。


「仮面ライダー……あの広間にいた本郷猛と一文字隼人のことは知っているかな?」

「知らないわ。でも、あの人たちも仮面ライダーなのよね。強い男の人は大好きよ! キュンキュンしちゃうわ~、キュンキュンしちゃうわ~!!」


 この口調だと、左翔太郎と照井竜の説明の時に、広間で聞いた言葉を借りたわけではないらしい。
 ならば、彼はここに来る前から「仮面ライダー」という言葉を知っていたということだ。

 オービタルリング、ラダム、テッカマン、NEVER、もうひとつの仮面ライダー、風都。

 いずれも、知らない言葉である。
 だが、知らない言葉だからこそ、結城の中で一つの仮説を作り出すのに充分な単語であった。


「────やはり、我々はまったく違う時代、または別の世界から連れてこられた可能性が高いな」

「やはり、そういうことか」


 結城はひととおりの話を聞き終え、「参加者同士は別の時空の人間であると考えられる」という結論に行き着いたのである。
 少なくとも結城の知る地球の外側にオービタルリングなど形成されてはいない。
 そして、仮面ライダーにしてもWやアクセルなどという仮面ライダーは結城も知らない。


「私のいたところにも仮面ライダーはいた。本郷猛や一文字隼人も私の知り合いだ。だが、Wやアクセルなどという仮面ライダーは聞いたこともない」

「えっ! 丈二ちゃんも仮面ライダーを知ってるの!?」

「ああ。────そして、私自身も仮面ライダーの一人だ」


 結城は隠していたわけではないが、今まで言わなかった事実を告げる。
 京水とタカヤとせつなもこれには驚きを隠せないようだった。零は相変わらず淡々としている。彼はまだ仮面ライダーの概念を知らないのだ。


「なら、丈二ちゃんも克己ちゃんたちと協力して加頭を倒してくれる!? イケメンで強い上下3色に分かれた仮面ライダーが言っていたわ! 『ライダーは助け合いでしょ』! おっしゃる通りだわー!」

「……その仮面ライダーが何者かはわからないが、その申し出は断らせてもらう。少なくとも、私たちは大道克己と協力する気はない。……正直に言えば君の扱いも難しいところだ」


「なんで!? どうしてよー!?」

「君の話を聞いていると、君たちNEVERは危険な集団としか思えない。『ライダーは助け合い』──その言葉には賛同するが、それは『仮面ライダー』同士ならの話だ。私はエターナル、大道克己を仮面ライダーとは決して認めない」


 結城の知る仮面ライダーの概念と、悪の戦士エターナルはまったく別物であり、頭の中で結びつきはしなかった。
 志さえあれば、滝やSPIRITSのメンバーでも仮面ライダーと認めることはできるだろう。だが、BADANと同じように平和を乱す者を仮面ライダーとは認められない。
 結城丈二──ライダーマンは命をなげうって初めて、仮面ライダーの称号を得た戦士であった。


「──そう、君たちのやっている事を認めることはできない。君たちの行動は明らかに悪だ」

「……そうね、確かに私たちのやっている事は正しくないかもしれない。……けど、私たちだって加頭を倒したいと思ってる。だから、せめて加頭を倒すまでは、克己ちゃんも丈二ちゃんもタカヤちゃんも側にいてほしいわ!」

「……確かに、君たちの力が必要になるかもしれない。京水、君には大事な情報を包み隠さず伝えてくれた恩もある。だが、私は加頭からだけでなく、君たちからも人を護らなければならない」


 ──と、結城が言ったところで、黙り続けていた零の声が聞こえた。


「めんどくさいなぁ、そういう考え方。まどろっこしくて好きじゃない。コイツは人にとって有害で、とっくの昔に死んでる……なら、どうすればいいかは簡単だろ?」


 零は二つの剣を取り出し、それを京水に向けた。
 流石の京水も背筋を凍らせ、周囲もまたその威圧に固まった。


「──斬ればいい、だろ?」


 死人がいつまでも生きていていいわけがない。ましてや、そいつが人間にとって邪魔なものならば。
 魔戒騎士の彼は人間の敵となるホラーを狩り続けてきた。
 そんな彼にしてみれば、人間の敵を一人斬ることなど、大したことではない。


「やめろっ!! ヤァッ!」


 零が本気で前進していくのを見て、結城は慌てて止めにかかった。
 ライダーマンのヘルメットを装着した彼は、パワーアームでその剣が京水へと届くのを防いでいる。
 一瞬にしてまったく別の姿へと変わった結城を見て、慣れてるとはいえせつなとは驚いていた。
 つい先ほどまで人間だと思っていた者が見知らぬ者へと変身すると、流石に驚くものである。


「結城さん……っ!?」

「へえ、なんだか中途半端な姿だね」


 せつなの驚き、タカヤと零の冷静、京水の恐怖。
 時が止まる。
 その時を戻すため、結城は言葉を放つ。


「我々は……あまり一緒に行動しない方が良さそうだな……」

「同感かな。……まあ、そのオッサンを殺すのは俺の仕事じゃないから、別にやらなくてもいいんだけど」

「それで君はもう危害は加えないと保証できるか?」

「いや、もし何かあれば勿論斬る」


 結城も、零も、京水も、タカヤも、せつなも、それぞれ考え方が少し違っていたのである。
 だから、この大人数が集まることで、互いが衝突して自滅することもある。
 今回は偶然、結城の経験ゆえ、高い反射神経があったためにその犠牲が出なかっただけだ。
 零は後退し、積極的な攻撃をやめたが、剣を離す様子はないようだった。それは言葉の通り、何かがあれば斬るということを表しているのだろう。


「──穏やかにはいきそうにない。タカヤ、京水、せつな、君たちとの話は終わりだ」

「わかった。京水のことは安心しろ。俺が監視する」

「それって愛の告白!? 君だけをずっと見つめてるよって言ってるの!?」


 京水のハイテンションにつっこみを入れる者はいない。
 凍りついた空気がどうなるということもなかった。彼らは京水の言葉を無視したまま、緊張した空気を保っていた。


 それからすぐにタカヤ、京水、せつながこの一室から去ると、寂しさが残った。
 彼らと再び会うことはあるだろうか──話を聞けなかったせつなや、途中になってしまった参加者たちの時空の問題。悔いは多いが、今は目の前にいる男をどうにかしたかった。


「涼邑零。お前は何者だ?」


 ライダーマンの変身を解いた結城が問う。


「さあね。俺はもう知りたいことは知ってしまったから、これ以上君たちと話すこともないよ」


 一方の零は、自分の説明など無駄なことに時間を使いたくは無かった。
 だから、彼は既に冴島邸に向かう準備をしていた。準備といっても、デイパックを肩にかけただけであるが。


「……人の情報だけ得て、自分は謎のままか……」

「そういうこと。それに、俺だって全員分の話は聞けてない。仮面ライダーやパラレルワールドの話くらいしか、利益のある話はなかったかな。俺はもう行くことにするよ」

「待て。私にはまだ話したいことがある」


 結城はそう言って引き止めるも、零は一瞬しか足を止めなかった。
 無視する意図で歩き出す零を見ながら、聞こえればいいとばかりに結城は話し始めた。


「君の目を見ていると、かつての自分を鏡で見たような気分になる。飄々としているように見えるが、私にはわかった。誰かを憎んでいて、そいつに復讐することを生きがいにしたような目だ。そのためには周りのことも気にはしない。そして、自分に与えられた使命さえおざなりにしてしまう」

「……」

「君を放ってはいけない。俺も君に着いて行こう」

「……あんたの力はわかった。着いて来ようが俺は一向に構わないよ。けど、俺はあんたを庇いはしない」

「無論だ。自分の身は自分で守る」


 結城は自らの右腕と、その手のひらが掴んだヘルメットを高く掲げる。
 それだけでは確かに戦っていくには弱いだろうが、何よりその心は強い力で満ち溢れている。


 かつて復讐に生きた戦鬼と、復讐を目的とする魔戒騎士。
 復讐を止める者と、復讐を求める者──彼の復讐は果たされるのだろうか。


【一日目/黎明】
【F-9/警察署前】
【相羽タカヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:健康
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、メモリーキューブ@仮面ライダーSPIRITS、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:主催者を倒す。
1:他の参加者を捜す。
2:俺はいつまでコイツ(京水)と付き合わなければならないんだ……
3:シンヤ、モロトフを倒す。ミユキと再会した時は今度こそ守る。
4:克己、ノーザ、冴子、霧彦を警戒。
5:記憶……か。
[備考]
※参戦時期は第42話バルザックとの会話直後、その為ブラスター化が可能です。
※ブラスター化完了後なので肉体崩壊する事はありませんが、ブラスター化する度に記憶障害は進行していきます。なお、現状はまだそのことを明確に自覚したわけではありません。
※参加者同士が時間軸、または世界の違う人間であると考えています。

【泉京水@仮面ライダーW】
[状態]:健康
[装備]:T-2ルナメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、細胞維持酵素×4@仮面ライダーW、克己のハーモニカ@仮面ライダーW、ランダム支給品0~1
[思考]
基本:剛三ちゃんの仇を取るために財団Xの連中を潰す。
1:タカヤちゃんが気になる! 後、シンヤちゃんやモロトフちゃんとも会ってみたい! 東せつなには負けない!
2:克己ちゃんと合流したい。克己ちゃんのスタンスがどうあれ彼の為に全てを捧げる!
[備考]
※参戦時期は仮面ライダーオーズに倒された直後です。

【東せつな@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康、困惑
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、伝説の道着@らんま1/2、ランダム支給品0~2
基本:殺し合いには乗らない。
1:友達みんなを捜したい。
2:ノーザを警戒。
3:可能ならシンヤを助けたいが……
[備考]
※参戦時期は第43話終了後以降です。


【1日目/黎明 F-9 警察署】

【結城丈二@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:ライダーマンヘルメット、カセットアーム
[道具]:支給品一式、カセットアーム用アタッチメント六本(パワーアーム、マシンガンアーム、ロープアーム、オペレーションアーム、ドリルアーム、ネットアーム)
[思考]
基本:この殺し合いを止め、加頭を倒す。
1:殺し合いに乗っていない者を保護する
2:零の向かう先についていく。
3:本郷、一文字、沖、村雨と合流する
4:加頭についての情報を集める
5:首輪を解除する手掛かりを探す
6:三影は見つけ次第倒す。
7:タカヤたちとはまた合流したい。
[備考]
※参戦時期は12巻~13巻の間、風見の救援に高地へ向かっている最中になります。
※この殺し合いには、バダンが絡んでいる可能性もあると見ています。
※加頭の発言から、この会場には「時間を止める能力者」をはじめとする、人知を超えた能力の持ち主が複数人いると考えています。
※NEVER、砂漠の使徒、テッカマン、外道衆は、何らかの称号・部隊名だと推測しています。
※ソウルジェムは、ライダーでいうベルトの様なものではないかと推測しています。
※首輪を解除するには、オペレーションアームだけでは不十分と判断しています。
 何か他の道具か、または条件かを揃える事で、解体が可能になると考えています。
※カセットアームの全アタッチメントが支給されている代わりに、ランダム支給品は持っていません。
 また、硬化ムース弾は没収されています。
※NEVERやテッカマンの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。



【涼邑零@牙狼─GARO─】
[状態]:健康
[装備]:魔戒剣、魔導火のライター
[道具]:支給品一式、スーパーヒーローセット(ヒーローマニュアル、30話での暁の服装セット)@超光戦士シャンゼリオン、薄皮太夫の三味線@侍戦隊シンケンジャー
[思考]
基本:加頭を倒して殺し合いを止める。
1:牙狼を見つけ出し、この手で仇をとる。
2:鋼牙が向かう可能性があるため、冴島邸に向かう
3:殺し合いに乗っている者は倒し、そうじゃない者は保護する。
4:会場内にあるだろう、ホラーに関係する何かを見つけ出す。
[備考]
※参戦時期は一期十八話、三神官より鋼牙が仇であると教えられた直後になります。
 その為、鋼牙が恋人と師の仇であると誤認しています。
※魔導輪シルヴァは没収されています。
 他の参加者の支給品になっているか、加頭が所持していると思われます。
※シルヴァが没収されたことから、ホラーに関係する何かが会場内にはあり、加頭はそれを隠したいのではないかと推察しています。
 実際にそうなのかどうかは、現時点では不明です。
※NEVER、仮面ライダーの情報を得ました。また、それによって時間軸、世界観の違いに気づいています。

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最終更新:2013年03月14日 22:34