白と黒の黙示録(暁の決戦) ◆7pf62HiyTE



危機 Crisis time.

「いたたたた……」
「ぐぐっ……」

 いつの間にかほむらの姿が元の魔法少女の姿に戻っている。今の攻撃の衝撃でドライバーが外れたらしく地面の上に落ちている。

「この程度だなんて……使えないわね……」
「とか言いながら回収してんじゃねぇ」

 そう言いながらロストドライバーとメモリを回収するほむらにツッコミを入れる暁――

「暁……貴方……」
「わっ、まさか今の衝撃で……」

 度重なる攻撃によるダメージが蓄積し先の一撃が決めてとなりシャンゼリオンの燦然が解除され元の姿に戻ったのだろうか――

「やはりこの程度か……お前は違う様だ……」

 それを余所にメタル・ドーパントが口を開きつつゆっくりと近づいていく。

「さっきから何をワケのわからない事を……」
「それよりどうする、そうだ。川にわざと落ちて逃げ……」

 そう口走る暁を制するかの様に川を指さすほむら、その先には、

「パンスト野郎……」

 川の上にはパンスト野郎が舞っていた。川に落ちた所でそのまま攻撃する用意はあるという事だ。

「何か他に武器は?」
「そうだ、俺のデイパックにライフルがあったんだ、こいつを使えば……」
「それがあるならもっと早く出しなさい!」

 と、デイパックの中を探ろうとしたが。

「あれ? 見当たらないぞ? 何処だ?」
「探し物はアレのことか?」

 メタル・ドーパントが裏正でパンスト怪物の方を示す。
 その手にはウィンチェスターライフルが握られていた。そして、

「ぐふっ」

 パンスト怪物は力尽くでライフルを折り曲げ使用不能にしそのまま川へと投げ捨てた。

「ちょっとー! いつの間に……」

 先程ロストドライバーとメモリを投げ渡す際にライフルも一緒に飛び出してしまっていたのだ。それをパンスト怪物が回収したという話だ。
 パンスト怪物にとって敵が使うと厄介ではあるが自身ではいまいち扱いにくい道具、それ故に早々に破壊して処分したという話である。

「一体何度言わせるの、どこまで貴方はバカなの」
「バカって……」
「そのライフルの方をもっと早く私に渡してくれれば良かったのに……こんな事になるんだったらさっきこっそり回収すれば……」

 そうこう言っている間にメタル・ドーパントが迫る。

「こうなったら仕方ないわね……暁、私を……」
「了解♪」

 そう言いながら暁はほむらをお姫様だっこで抱える。

「何のつもりだ?」

 と、次の瞬間、後ろを振り向き暁は走り出した。

「!!」

 暁の謎の行動に動揺しつつメタル・ドーパントは追撃を始める。普通に考えるならばメタル・ドーパントに女子中学生を抱きかかえた普通の人間が逃げ切れるわけがない。だが――

「くっ……」

 次の瞬間には暁の姿が数メートル離れた場所まで移動している。折角差を詰めてもこれでは意味が無い。

「大丈夫かほむら?」



 最早語るまでもないが、ほむらと彼女に触れている暁の時間を止める事でメタル・ドーパントの追撃を逃れていた。
 だがほむらにかかる負担を軽減する為一度に2,3秒程度しか止めていない。それでもほむらの表情は苦しそうである。

「気遣う暇があるなら足を動かしなさい、早くあそこに……」
「それが狙いか!」

 メタル・ドーパントも暁達の目的地に気が付いた。彼等の目的地はディバイドランチャーの落下地点。ほむら自身の武器を取り戻す事でこの状況を打開しようというのだろう。

「もう遅いわ」

 そして再び時が停止する。
 暁の身体に触れたまま暁の身体から降りてディバイドランチャーを回収、そのままメタルドーパントの両手へと発射する。無論、殆どダメージを与えられない事は理解している。
 だが、衝撃を与えて一瞬でも麻痺してくれれば良い。その僅かな一瞬の間に。

「どりゃ!」

 暁が裏正、そしてかぎ爪に蹴りを入れて落とそうとする。しかし落ちたのはかぎ爪だけで裏正は堅く握られたままだ。

「ほむら!」
「そっちの方だけ回収して、もう時間が……」

 かくして時は動き出す。
 メタル・ドーパントの眼前にはかぎ爪を握りしめた暁、そしてディバイドランチャーを構えているほむらの姿があった。

「どうだ」

 勝ち誇る暁であったが、

「俺には刀一降りあれば十分だ」

 一方のメタル・ドーパントは表情を崩していない。再び3者が間合いを取ろうとする――
 その時だった、一陣の風が飛び込んできたのは――

「なんだ……?」

 別段暁の身体に異常は無く、眼前のメタル・ドーパントにも変わった様子は見られない。ならば――
 空を見上げる、そこにはパンスト怪物に首筋を捕まえられたほむらの姿があった。

「ぐっ……まさか……」

 あの状況でずっと仕掛ける隙をうかがっていたのだろうか? パンスト怪物がほむらを確保し高く飛び上がったのだ。

「ほむら!!」
「俺の事を忘れるな」

 ほむらの事を気遣おうともそんな余裕などメタル・ドーパントが与えてくれるわけもない。メタル・ドーパントは裏正を構え暁へと仕掛けていく。

「させるか!」

 そう言いながら暁はかぎ爪を盾代わりにして振り回し裏正の斬撃を弾こうとする。だが、何とか防げたものの暁の腕にかかる衝撃は大きい。

「ぐっ……」
「変身しないで俺に勝てると思うな」

 暁は全力で後ろを振り向き走り出す。だが逃がすつもりの無いメタル・ドーパントは一気に間を詰めて裏正を一降りする。

「ハズレ♪」

 しかし命中はしなかった故に余裕の表情を浮かべる暁であったが、
 ――次の瞬間、一本の木が倒れ出す。裏正の斬撃は暁のすぐ側の木を斬っていたのだ。斬られた木はそのまま断面にそって滑り落ち――倒れていくだけだ。

「なっ……アンタ何やってんの?」
「運が良いな、だが次は……」
「冗談じゃ無い、こんな奴まともに相手にしていられるかっつーの」





磔刑 XX is crucifixion.


 その一方、パンスト怪物に捕まったままのほむらは何とか身体を振り回し、抜け出そうとするが。
 元々魔法少女の中でもそこまで力が強くなく、それでなくても度重なるダメージで疲弊した今のほむらにパンスト怪物の拘束を脱する事は厳しい。
 時を止めるわけにはいかない。パンスト怪物に捕まっている状態ではパンスト怪物も動ける事になり何の意味も無い。
 しかし逆を言えばこういう事だ、パンスト怪物の拘束を抜け出しさえすれば時を止め至近距離からの攻撃が可能だと。
 地面に激突するリスクもあるが、上手く木の上、あるいは川の上に落下すればダメージは最小限に抑えられる。
 後はなんとかしてパンスト怪物が自分を手放させるだけだ。
 そう考えほむらはパンスト怪物に見えない様にディバイドランチャーを弄りハンドガン形態にする。
 ディバイドランチャーはパーツを組み替える事でハンドガン形態、マシンガン形態、そしてビーム砲形態といった状況に合わせて使い分ける事が出来るのだ。
 そしてハンドガン形態となったディバイドランチャーを自らの首筋に当てる。そこはパンスト怪物が自身を掴んでいる箇所でもある。

「私を只の人間と同じと考えた、それが貴方の敗因よ」

 そして引き金を引くという事だ。パンスト怪物が手放さなければ至近距離からのビーム砲によりパンスト怪物の手は焼かれ自身を手放し、それを避けるならばやはりそのまま手放す事になる。
 もう片方の腕の動きには十分気を払っており、下手な動きを見せるなら一発当てれば良い。
 パンスト怪物の身体から離れる事が出来れば後は時を止めてほむらのペースに持っていける。

 かくしてほむらは引き金を――
 だが、次の瞬間ほむらの視界が真っ黒に染まった。

「何……」

 何が起こったのだろうか? 今一瞬、パンスト怪物の手から何かが発射された様な気がした。
 だが、同時に首筋にかけられていたパンスト怪物の拘束が解かれた。状況はわからないがこれならば時を止められる。
 迷う事無くほむらは時を止めた。身体を振り向かせパンスト怪物の方へと向き直りディバイドランチャーを可能な限り連射する。
 視界は回復してはいないがこの至近距離だ、外す事などまずありえない。

「これで……」

 だが、次の瞬間、ほむらの身体に強い衝撃が奔った。何者かの一撃がほむらに直撃したのだ。
 同時に視界が僅かに回復する。そして最初に見えたものを見てほむらは驚愕する。

「何故……何故動いているの……?」

 眼前では平然と動いているパンスト怪物の姿があった。

「あり得ないわ……あの瞬間、確かに拘束から抜け出せ……」

 と、足下を見る。

「なっ……これは……」

 ほむらは見た。靴の先端部にタコの足の様なものが巻き付いているのを――それはパンスト怪物の背中から生えていた。

「まさか……そういう事だというの……」

 読者諸兄には今更語るまでも無いだろうが今一度説明しておこう。
 ここまでパンスト怪物と呼称していた者の正体はパンスト太郎だ。
 パンスト太郎は生後間もなく産湯という形で呪泉郷の水を浴び、牛の頭部に雪男の身体、鶴の羽根に鰻の尻尾を持った怪物へと変身する特異体質となった。
 もっとも丈瑠に語ったとおり、パンスト太郎自身その身体自体はその強さ故に気に入っている。だが、産湯を浴びせたのが八宝斉であった事が彼にとっての大きな悲劇の引き金となっている。
 とはいえ、この事についてはこの場ではあまり関係無い為これ以上は省略させてもらう。
 さて、パンスト太郎は丈瑠にはあえて語らなかった事がある。別に語る事に抵抗があったわけではないが、手の内を全て曝す義理も無い故に伏せていた程度のレベルの話だ。
 実はパンスト太郎はさらなる力を得る為ある呪泉郷の水に浸かった。それにより更に背中にタコの足が生える様になり、手からはタコ墨を吐く事が可能となったのだ。

「ぐふっ」

 つまり、拘束を抜け出そうとタコ墨でほむらの視界を封じると共に密かに背後のたこ足をほむらの靴の先端部に巻き付かせ密着させる。
 そうすることによりほむらが拘束から抜け出せたとしてもたこ足が密着している事に気付かないままなので、時を止められても一緒に動く事が可能となる寸法だ。そうして攻撃を仕掛けようとした瞬間を狙って一撃を入れたという事だ。



「という事は……この怪物は私の力、そしてその弱点に気付いている……」

 ほむらは安易に自身の力を語ったりはしない。だが連続で使った事により遭遇した参加者の殆どがほむらの能力の正体に気付いている。
 ダグバ、暁、丈瑠、そしてパンスト太郎、彼等にはその能力と弱点が割れてしまったと考えて良い。
 割れていないのは最初に遭遇した山吹祈里ぐらいなものだろう(なお、ほむら自身気付いていないが実は乱馬もほむらの存在に気付いているが彼も現状ではほむらの能力には気付いていない)
 とはいえ、それを今悔やんでも仕方が無い。例え能力が割れた所で発動さえ出来れば回避が難しい事に違いは無い。
 どちらにせよ、何とかして拘束から抜け出し反撃の一手を打たなければならない。そう考えながらディバイドランチャーを元のビーム砲形態に戻す。

 その最中、

「わぁー!」

 暁がバカの一つ覚えの様にメタル・ドーパントの猛攻から逃げ続ける。

「少しは真面目に戦え!」
「バカ言ってんじゃないの! 生身でそんな剣受けたら真っ二つになるっつーの」
「当たり前な事を言うな」

 そう言って、メタル・ドーパントは裏正を暁へと振り落とす。暁はかぎ爪で何とか防ぐがその衝撃に耐えきれずかぎ爪を落としてしまう。

「しまった!」

 回収する余裕は無い。ならばこのまま距離を取って逃げるしかない。

「問題はほむらは……ん?」

 ふと上空のほむらの様子を見る。見るとほむらがディバイドランチャーをパンスト太郎に向けたままだ。

「おいおい、何考えているんだほむらの奴……もしあのパンスト野郎が手放したら地面に……」

 だがほむらの真下は丁度川となっている。それを見て。

「なるほど、そういうこと。だったら……」

 暁はほむらの狙いを察し走り出す。恐らく至近距離で狙いを定めたままパンスト太郎からほむらを手放させるという寸法だろう。
 手放したならばその直後に時を止めディバイドランチャーを連射すれば良い。手放さなければ川の真上に来たタイミングで連射し手放させるという寸法だ。無論、下手な動きを見せればその場で連射するだけの話だ。
 至近距離からの連射を受ければさすがのパンスト太郎も只では済まない。後は落ちてくるほむらを助けるべく川へと向かえば良い。メタル・ドーパントへの対応はその後で考えれば良い。

 一方のほむらはディバイドランチャーを構えたままパンスト太郎を見据える。

「(さぁ、パンストの変質者……貴方はどちらかしら……?)」

 パンスト太郎が相当の手練れという事は理解している。だが、ほむらとて長き戦いの中で重火器の扱いについて数多の経験を積んでいる。
 抜き打ちでの対決ならば負けるつもりは全く無い。
 暁がこちらの動きを察して動いている様だが当てにするつもりは全く無い。地面に激突するリスクはあるがこのままの状況でいても好転しない以上大きな違いは無い。
 ここがある種の正念場――


 そしてその瞬間は訪れる――


 手放したのはパンスト太郎の方――


 奴の身体が自身から離れたのを確認したほむらは時を止める。


 ほむらだけの時間が始まればほむら以外の者は誰も手を出す事が出来ない。


 ディバイドランチャーを連射すれば全てが――




 だが――


 次の瞬間、ほむらは自身の左胸に強い違和感を覚えた――


 見ると、刀の切っ先が深々と生えているではないか――


「え――」


 ほむらの思考が止まる――


 何故、自身が刺されているのだ?


 時を止まった自身が敵の攻撃を受けているのだ?


 疑問符だけが彼女の頭を埋め尽くす――


 ディバイドランチャーの引き金を引こうとも腕に力が入らない――


 ダメだ、意識が遠のいていくのを感じる。心臓と肺を潰されたのだろう。頭に血液が回らなくなっていく――


 そして何も出来ぬままほむらだけの時間は――終わりを迎えた。


 強い激突音が響いた――


「なんだ、今のは……」


 上空を見上げるがそこには誰もいない事がわかる。


「だとしたら……」


 暁は地面の方を見る。しかし川にも地面の上にもほむらが落ちた様子はない。


「じゃあ今のはなんだったんだ……」


 暁は周囲を見回す――そして、


「なっ……なんで……なんでほむらが……」


 ほむらはそこにいた――


 左胸を裏正で貫かれたまま木の幹に磔となった形で――


 その傍らにはパンスト太郎が平然とした姿で立ち尽くしている。


「まさか……そういうことか……銀ピカ野郎にパンスト野郎……お前ら組んでいたって事か……!」





対策 Trend and step.

 時間はパンスト太郎がほむら達を見つけた事を丈瑠を伝えた時に遡る。

「で、どうする?」

 丈瑠にとっては先程逃した相手である。聞いたところ川辺で休んでいるらしく、急いで行けばそう時間はかからず十分に追いつける範囲だ。
 だが、丈瑠はどうするべきか迷う――いや、すぐさま迷いを振り払った。このまま躊躇してはそれこそ何も出来ずに終わってしまう。そんな中途半端な者など何も残せぬまま終わるだけだろう。
 むしろ、自身の迷いを断ち斬る為にも今度こそあの2人を仕留めねばならない。
 それに、丈瑠の精神的な問題を別にしてもあの2人――いや正確にはほむらを放置するわけにはいかないと感じていた。

「あの戦いをずっと見ていたんだったな」
「ああ」

 丈瑠はパンスト太郎に、先の戦いを見ていた事について今一度確認した。

「だったらあの少女……暁美ほむらが何をやっていたかわかるか?」

 丈瑠が気にしたのはほむらの行動についてだ。ほむらはこちらが反応する間もなく、ディバイドランチャーの光線を当ててきたのだ。
 いや、正確に言うならば当たったという結果だけを突きつけられていたのだ。
 わかりきった事だが、いかなる早撃ちといえども全くのノータイムで銃弾を当てる事など不可能。
 銃を構え、狙いを定め、引き金を引き、銃弾を放ち、命中させる、一連の動作を限界まで短くしてもその時間を0にする事など誰にも出来やしない。
 僅かでも時間がある、銃口の方向さえ分かれば丈瑠ならば十分に対応が可能だ。しかしそれすらもさせてもらえない、それが丈瑠には奇妙だったのだ。

「限りなく短い時間で銃弾を当てた、そんな所だろう」
「やはりお前もそう思うか……」
「そういやあの時、加頭の野郎が言っていたな。この首輪は時間操作の影響を受けないとな……」
「!! つまりそれは……」
「おそらくあの女はその時間操作が出来る……いや、時間を止める力を持っているんだろう」
「そいつは厄介だな……」

 時間を止める能力、それは使い方次第で無敵の力を発揮する。時さえ止められれば誰も認知する事無く暗殺を行う事が出来る。
 その気になればどんな強敵でも倒す事ができるだろう。

「それともう1点気になった事がある。あの女――首輪をしていなかった」
「それは本当か!?」

 丈瑠は精神的に迷いがあった為かほむらの首輪にまで意識を回す事ができなかった。とはいえ、全員が首輪をしているという先入観を持ってしまえば、首輪の無い人物がいてもそれに気付かないでいる事はよくある話だ。

「実はもう1人首輪をしていない女を見た」

 パンスト太郎は丈瑠達の戦いに遭遇する前に、2人の少女が1人のカブトムシ野郎と戦っている現場を見た事を話す。
 その2人の少女の内の赤髪の少女が首輪をしていなかったのだ。
 そして何より重要なのは――

「あの女、身体に大穴を開けられても平然と生きていやがった」
「何……外道衆の様に命を2つ持っている様なものか……?」

 それを踏まえて考えるならば、ほむらもその赤髪の少女と似たタイプと考えて良い。だとするならば、生半可なダメージでは倒し切る事は出来ないと考えて良い。
 丈瑠が遭遇した時点では疲弊しきっていた様だったが回復してしまえばその能力と生命力で一方的な勝負にもっていかされてしまう。
 故に、疲弊したこの状況こそほむらを仕留める為の好機と言えよう。

「お前……俺が彼女を仕留める事に反対するつもりはないか?」
「何故反対する必要がある? お前がやらないなら俺がやるつもりだ」

 パンスト太郎も仕留めるつもりで考えている。何しろ強敵と言える相手が今にも倒れそうなぐらい疲弊しているのだ。ここで潰さない理由など何処にもなかろう。

 だが問題はほむらの持つ時間停止能力だ。その対策は考えねばならない。
 わかっている事としては止められる時間は僅か、そして一度時間を止めた場合一呼吸置かないと再び時間を止める事が出来ない事だ。

「後は……あの女が触れているものはその対象外……といった所だな」
「難しいか……」

 これは厄介な相手だろう。何しろ基本の武器が遠距離攻撃である以上、近づくという愚行を犯すわけも無い。
 かといって無策で接近しても時を止められそのまま返り討ちに遭うだけでしかない。
 また何とかチャンスを作ったとしても時を止めて逃げられれば全く意味が無い。
 それ以前に時を止められればどんな防御も対策も無意味だ。


「ぐふっ……ならあの女の方が自分から斬られる様に仕向ければ良い」

 と、パンスト太郎がそう呟く。
 元々パンスト太郎は変身後の実力だけではなく、相手を罠に嵌める事にかけても得意分野だった。
 最初に乱馬達と交戦した時は水の砦という地形で罠に嵌め、自身が変身する前に乱馬やその仲間達に水を浴びせ乱馬以外を無力化させた事があった。(注.とはいえ、罠だけが原因というわけではない。)

「何か手があるのか?」

 と、パンスト太郎がその策を説明する。

「……!」

 丈瑠は難しい顔をしていた。確かにパンスト太郎の行動が全て行くならば後は自身の行動さえ上手くいけば何の問題も無い。
 だが、それを実行しきる事ができるであろうか? それは侍としては許されざる事項もある。
 しかし、迷いを振り切る為にもやりとげねばならない。故に、

「1つだけ頼みがある……もし、俺が一瞬でも迷い策が失敗に終わるならば……迷わず逃げてくれ」
「いいだろう」


 かくして両名は暁達に仕掛ける事となった。
 まず丈瑠が2人の元へ行き交戦開始、まずはメタル・ドーパントとなった丈瑠1人だけで相手をするという事だ。
 その間にパンスト太郎は様子を伺いながら水を被り変身してその時を待つ。
 その後頃合いを見計らい3人が戦う戦場へ乱入する。
 この時、丈瑠と組んでいる事を悟らせない為、無差別に参加者を襲撃する怪物を装う必要があり、丈瑠にも仕掛けておく。
 当然、応戦する丈瑠も手加減無しで本気で対応する。この辺りは両名が互いの実力をある程度信頼した上での行動だ。
 そして混戦で疲弊して生じた隙を突き、パンスト太郎がほむらを確保し上空に。
 こうする事でパンスト太郎と密着状態となり時止めを封じる事が出来る。
 なお、一方で丈瑠は暁に対応しつつほむらとある程度の距離を取る。

 最後に――パンスト太郎への対応に夢中になり距離の離れた丈瑠へのマークが甘くなったほむらの隙を突き――
 丈瑠が裏正をほむらの真下へと投擲し、タイミングを計りパンスト太郎もほむらを解放。
 ここでほむらの性格を考えてみよう。至近距離で確実に仕留められる相手がいるならば――時を止めて仕掛けるのは容易に推測できる。
 また、相手が空中戦を得意としているならば解放しても追撃を仕掛けてくる可能性が高く、それに対応する為にも時止めは有効だ。
 つまり、限りなく高い確率で時を止めてくると読んだのだ。
 だが、このタイミングで時を止めた場合どうなる?
 時止めの対象外となるのはほむら自身とそれに触れている物体のみ。
 まず、ほむら自身は重力に刃向かう事が出来ない故にそのまま落下する。
 一方真下にある裏正は時間停止により止まった状態だ。
 その結果――ほむらは真下にある裏正の上に落ちてしまいその刃をそのまま受けてしまう事となったのだ。

 ちなみにパンスト太郎はそこまでややこしい説明はせず、要するに『時間停止により空中で停止した裏正の上にほむらを落とせば良い』という風に説明した。
 とはいえ、これは丈瑠とパンスト太郎が連携できていなければ成立しないが、連携していればこの策が読まれる可能性が高い。それ故に一見は組んでいない様に見せる必要があったという事だ。

 とはいえパンスト太郎の猛攻はここでは終わらない。
 ほむらを落とした後、成功するにせよ失敗するにせよ、地面へと落下する事は確実。
 故に落とした直後高速飛行で移動し地面に向かう。
 その後、裏正が刺さったまま地面に激突したほむらを捕まえそのまま運び――
 近くの木へと叩き付けたという事だ――丁度裏正が木に刺さる形――

 さながら、木に磔となった罪人の姿の様に――






激昂 Frenzied rage.


「ぐふっ」

 暁の声に応える事無く、パンスト太郎はほむらへと刺さった裏正を乱暴に抜きメタル・ドーパントへと投げ返す。

「言った筈だ……謝りはしないと……恨め、外道の俺を……」

 そう言いながら裏正を掴むメタル・ドーパント、侍としては手放すつもりはなかった刀だが、その拘りと甘さで何も出来なければ意味は無い。
 故に、パンスト太郎の策に乗ったのだ。

「ほむら……」

 暁はメタル・ドーパントの返答を待つ事無く地面に倒れ込むほむらへと駆け寄ろうとするが、

「!?」

 暁は見た、心臓を潰されている筈のほむらが手を伸ばし何かを掴もうとしているのを――その近くにはディバイドランチャーがある。

「そうかそうか、まだ諦めてないんだな……」

 だが、次の瞬間、パンスト太郎の足が振り下ろされる。
 まずはディバイドランチャーを踏みつぶして粉砕――
 次に伸ばされたほむらの手を踏みつぶす――
 そして無造作に蹴り飛ばす――
 その身体は血を流しながら地面を転がり、それきり動かなくなった――

「ぐっ」

 その時、暁は突然振り返り、パンスト太郎とメタル・ドーパントに背を向ける。

「逃がすと思うか?」

 そう口にするメタル・ドーパント、一方のパンスト太郎も一丁あがりとばかりにほむらに向けていた視線を外し暁へと向ける。

「俺の……俺の怒った顔を見られたくないんだ!!」

 それは何時ものお調子者で脳天気な男のものではない――その拳は硬く握られている。


 暁とほむらの仲は決して良好といえるものではない。
 また、暁自身ほむらの人を寄せ付けない言動に憤りを多少なりとも感じていた。
 しかし、切欠こそ可愛い女の子だったからという不純なものではあったが暁が彼女の身を案じていた事に違いは無い。
 これまた不純な動機(ほむらの友人なら可愛い女の子に間違いない)ではあったが彼女の人捜しにも付き合おうと思っていた。
 だが、切欠はどうあれほむらがキュウべぇという悪徳業者に騙されながらも同じ様に騙されている『あの子』を助けようと必死になっている事はなんとなく把握している。
 そんな一生懸命な彼女を大の大人2人(パンスト太郎もそうだと考えている)がよってたかっていたぶりその想いを踏みにじり自らを外道と言って悪びれもしないのを見て暁の中で何かが弾けた。


「やってくれたなお前ら……乙女の想いを踏みにじりやがって……!! 絶対に許さねぇ!!」
「許しを請うつもりはな……」


 そう向き直った暁の表情は真剣そのものだ。それ故にメタル・ドーパントも思わず言葉を詰まらせる。


「燦然!! シャンバイザー!!」


 その言葉と共にシャンバイザーを出現させ装着する――


『燦然――それは涼村暁がクリスタルパワーを発現させ超光戦士シャンゼリオンとなる現象である』


 そこにいるのは脳天気探偵涼村暁ではなく――超光戦士シャンゼリオン――


「かかってこい、雑魚共が!!」


 最初に動いたのはメタル・ドーパント、メタル・ドーパントは間合いを詰め裏正を振るうが、

「シャイニングブレード!」

 胸部から出現させたシャイニングブレードでそれを受け止める。だがメタル・ドーパントは構わずかぎ爪で突こうとするが、

「シャイニングクロー!」

 再びシャイニングクローを装着しかぎ爪をはじき返す。

「何……このパワーは……」

 驚愕したのはメタル・ドーパント、先程と違い明らかにパワーも反応速度も上がっているのだ。

「ぐふっ」

 そんな中、背後からパンスト太郎が迫り背中にその拳を振るう。拳は確かにシャンゼリオンの背中に入った――だが、シャンゼリオンは僅かに動いただけでそれを耐えきり、

「はぁっ!」

 と、振り向きパンスト太郎の頬に拳を叩き込む。パンスト太郎はよろめきながらもシャンゼリオンから距離を取る。その間にもメタル・ドーパントがシャンゼリオンへと迫るが、仕掛ける前にシャイニングブレードを振るい裏正による斬撃を受け止める。

「ガンレーザー! ディスク装填」

 再びガンレーザーを出現させディスクを装填した上で銃口をパンスト太郎へと向け連射する。
 パンスト太郎はその砲撃を的確に回避しつつタコ墨を発射しシャンゼリオンの視界を封じようとするが、

「はぁっ!」

 シャイニングクローを盾代わりにそれを防ぎパンスト太郎へと間合いを詰め、

「だりゃ!」

 高く飛び上がりパンスト太郎の背中に飛び乗る。

「ぐふっ……」

 対するパンスト太郎は何とかシャンゼリオンを振り落とそうと高速飛行しつつ振り回す。

「はぁっ!」

 シャンゼリオンはなんとかバランスを取りつつ背中に一撃を入れる。打たれ強いパンスト太郎といえどもこの一撃は効いている様だ。

「奴の怒りか……奴の怒りが強化をもたらしたというのか……」

 そう呟くメタル・ドーパント、先程までのとは違い今のシャンゼリオンはまさしく強敵と言えよう。仕掛けようにもパンスト太郎と共に空中を飛び回っている以上手出しは出来ない。
 だが、パンスト太郎も只やられるつもりはない。パンスト太郎は全身を振り回し遂にシャンゼリオンを振り落とす。
 しかし一方のシャンゼリオンはシャイニングブレードとガンレーザーを接続し

「スクラムブレイザー!」

 2つを合体させる事で完成する光線銃スクラムブレイザーをパンスト太郎へと構える。この射程ならばある程度のダメージは――
 だが、パンスト太郎はパンストをスクラムブレイザーの銃身へと絡みつかせる。このまま武器を奪うという算段だ。

「ぐっ……」

 しかしシャンゼリオンはスクラムブレイザーを手放さない。だが、パンスト太郎のパワーで振り回されスクラムブレイザーを放つ事が出来ないでいる。
 そして振り回されたシャンゼリオンは巨木へと叩き付けられそうに――

「だりゃ!」

 計算があったわけじゃない。シャンゼリオンは何とか体勢を整え、木の幹に何とか着地する。そして投げつけられた時のパワーの反動を利用してそのまま跳び――

 パンスト太郎へとドロップキックを決めた――
 そのままパンスト太郎は脳震盪を起こし川へと落下――

 かつてパンスト太郎が乱馬と戦った際、パンストが絡みついた乱馬を岩壁へと叩き付けようとした。
 しかしそれこそが乱馬の狙い、岩壁に上手く着地しそのまま跳ね跳び、パンストの伸縮による反動でパワーとスピードを強化した蹴り、パンスト流星脚をパンスト太郎に叩き込みノックアウトしたのだ。

 そう、奇しくも今シャンゼリオンが決めた蹴りはそれとよく似ていたのだ。
 その時よりも絡みついたパンストが短い故、反動による強化は弱いがその分シャンゼリオンにはパワーがあり、何より距離も短い。
 パンスト太郎をノックアウトするには十分と言えよう――

「はぁ……はぁ……どうする、残ったのはお前だけだぞ」

 流れゆくパンスト太郎から視線を外しメタル・ドーパントへと向き直る。

「聞くまでもないだろう、参る!」


 裏正とかぎ爪を構えメタル・ドーパントが迫る。シャンゼリオンもまたシャイニングブレードとシャイニングクローを構え迎え撃つ。
 振るわれる裏正――シャイニングクローで受け止める――
 対しシャイニングブレードが振り下ろされる――かぎ爪で弾かれる――
 そのままかぎ爪による突きが――シャイニングクローで防ぐが双方のパワーで両者の武器が外れ宙を舞う――
 それでもシャイニングブレードを横薙ぎに――裏正の縦の動きで防がれる――

 つばぜり合う2本の剣――それは両者が互角である事を意味するのか――

 否――互角では無い、メタル・ドーパントの裏正がシャンゼリオンのシャイニングブレードをはね除け返す刀で次の一撃を――
 何とか防ごうとするもすぐさま次の一撃が――
 僅かな隙を突きシャンゼリオンが一撃を入れようとも即座に裏正で防がれカウンターの一撃が――

 メタル・ドーパントの指摘通り確かに怒りによってシャンゼリオンはパワーアップしたと言えよう。
 その結果、単純なパワーと反応速度が上がったといっても良い。
 それだけではなく、今のシャンゼリオンこと暁はほむらを過剰なまでにいたぶった丈瑠達を倒すべく集中している。それ故に従来よりも動きが良くなっているといっても良い。
 更に言えば、熟達した丈瑠やパンスト太郎、そしてほむらとの命のやり取りは知らず知らずの内にシャンゼリオンになったばかりである素人の暁に大きな経験を与えた。
 つまり、比喩でも錯覚でも妄想でもなんでもなく、暁は知らず知らずの内にパワーアップしていたという事だ。そしてそれは現在進行形で進んでいるとも言える。

 だが――それでも届かない――

 長年外道衆と戦い続け、影武者とはいえシンケンジャーの長である殿を演じ続けていた丈瑠と渡り合うには足りない――
 幾ら成長し、気持ちの上でパワーアップしたとはいえそれだけで勝てる程甘い相手ではない――
 丈瑠とて長年戦い続けてきたのだ、少しばかりパワーアップされた程度で崩れるわけもなかろう。
 むしろ、強化されたからこそ丈瑠は気を引き締めているとも言える。慢心を捨ててかからねば足下をすくわれかねないと――
 そう思わせた以上、なおの事倒せる道理もないだろう。

 故に状況はシャンゼリオンが防戦一方という状態に陥っていく――
 何とか防げてはいるが、少しずつメタル・ドーパントの攻撃がシャンゼリオンにも届いていく――
 現状は装甲を僅かにかする程度で防げてはいるが何れは限界が訪れる――


 一人では決してシャンゼリオンは勝てないであろう――


 そう、一人では――


 ならば――


 その時、不意に強風が吹き込んだ――


 シャンゼリオンもメタル・ドーパントも思わず風が吹いた方向に視線を移す――


「何……」
「え……」


 2人は信じられない様な声を挙げる――それもその筈、そこに立っていたのは――


 心臓を貫かれ致命傷を負い地に伏せられまず生きていないであろう――


 暁美ほむら、その人だったのだ――



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最終更新:2013年03月14日 23:04