白と黒の黙示録(円環の理) ◆7pf62HiyTE


円環 Philosophy of annulus ring.

 身体が動かない――
 当然だ、それでなくても回復させる事も無く酷使し続けてボロボロな上に心臓を貫かれたのだ。未だマトモな方がどうかしている。
 いや、心臓だけでは無い。骨も筋肉も血管も神経もズタズタでこれで僅かでも動かせるというのが奇跡というレベルだ。
 確かに魔法少女の魂は元の身体から離れソウルジェムに変化している。
 それ故元の身体なんぞPCにおける外付けのハードウェアの如く幾らでも修理が利くだろう。
 だが、PCにしてもそのハードウェアが故障していてはマトモに使う事など出来ないやしない。
 実際問題、『修理すればまた動く』と言われてもその修理が出来なければ動かし様が無い。

 そう、僅かに残った魔力で何とか表面上の傷だけは塞いではいる。だが抜け落ちた血が戻るわけじゃないし、内部は殆ど回復していない。
 繋いだ所でほんの少しの衝撃ですぐに切れるか折れる程頼りないというレベルでは片付けられない程無意味なレベルだ。

 故に――状況は既にチェックメイトがかけられたとしか言い様が無い。
 いや、もうとっくの昔にそれはかかっていたのかもしれない。それを認められず足掻いていただけだったのだろう――

 これ以上の回復は不可能、時間を止める事ももう無理、戻す事だって出来やしない。
 都合良くグリーフシードがあれば良いだろうがここまで酷いと1個や2個じゃ最早焼け石に水レベルだ。
 なるほど、八方ふさがりとはまさしくこのことだ。

 いっそ全てを諦めて魔女――怪物になって世界全てを滅茶苦茶にしてしまおうか?
 嫌な事も悲しい事も無かった事に出来るぐらいに壊して壊して――
 もう、その条件はクリアしているんだ――

 どうせ、自分の行動は全て裏目裏目に出て望まぬ結果になってしまうのだ――
 そういう結果しか突きつけない世界なんていっそのこと――ブッコワレッタッテカマワナイダロウ――


 なのに――


 それなのに――


 何故この魂は未だに『暁美ほむら』のままで在り続けるの――


 何故魔女へと変貌しないの――


 まだ希望があると思っているの――


 それとも――


「◇◇◇◇◇ん」

 声が聞こえた気がした――


「◇◇◇ちゃん」


 いや、違う――気がしたんじゃない――


「ほむらちゃん」


 確かに聞こえた――聞き間違えるわけがない――この声は――


「まさか……その声……」


 すぐ側にいたのは桃色の魔法少女服に身を包んだ少女――
 永遠に時を繰り返してでも救おうとした少女――
 鹿目まどかではないか――

 彼女が魔法少女の姿でいることについては不思議にも思わず疑問すら感じなかった――
 何しろ、理屈など関係無しに一目見ただけで理解してしまったのだ、
 今目の前にいる彼女はあの日約束をした彼女――
 自身の手で彼女のソウルジェムを砕いた彼女であると――

 わかっている、今自身がいるのは現実ではない――
 夢か幻かあるいは走馬燈の変種バージョンかもしくは全く別の――
 気が付けば今までいた森とは違う不思議な空間にいる――
 都合の良い幻想だったのかも知れない――
 とはいえ、そんな事は些細な事だ――

 口を開こうとも声にならない――
 肺が潰れているから? 違う、これが現実で無いならばそれは全く理由にはなりえない。
 そうだ、何を言えばいいのかわからないのだ。何か言おうとしても何処かでブレーキがかかって声として出せないでいるのだ。

 いや、言うべき事は既に決まっている。
 そう、目の前にいるまどかがあの日約束をしたまどかならばまず言わなければならない事がある。
 あの日、キュウべぇに騙される前のまどかを助ける――つまり魔法少女にさせる事無く救う事――それを必ず果たすと約束したのだ。
 だが、結局その約束は果たされなかった――いや、それだけで済むレベルの話じゃ無い。
 何度となく時間遡行を繰り返したお陰でまどかの潜在的な力が増大し、キュウべぇにとっても是が非でも契約すべき対象となり、想定外のイレギュラーすらも呼び込む事ともなった。
 何より、魔女化した時の強さが最初とは比較にならない程強大化してしまい、余計にまどかの望まない状態にしてしまったのだ。
 つまり――自身の行動の結果、まどかを余計に苦しめる結果になってしまったのだ。
 諦めずに足掻けば足掻くほど状況は更に悪くなる――あまりにも救いようがなさ過ぎるだろう。



 そして、結局自身の見極めの甘さで勝手に力尽き、後に残ったのは最強最悪な結末だけをまどかに突きつけた結果だけ――
 あまりにも酷くお粗末な道化人形劇ではなかろうか。

 別に許されたいとか救われたいとは思わないしそんな資格などそもそもないであろう。
 だが、そんな事問題では無いのだ。
 至極単純な理由、自身の過ちで取り返しのつかない迷惑をかけた事を――

「ご……ごめ……」

 だが、

「ごめんね、ほむらちゃん――こんなになるまで苦しめちゃって……」

 何故だ? 何故彼女の方が謝っているのだ、どう考えたって謝るのは逆だろうが、

「どうして貴方が謝るの!? 約束を守れていないのは私の方なのよ! それだけじゃない……私の所為で貴方が余計に苦しむ事になったのよ! それなのにどうしてまどかの方が謝るわけ……」

 いや、そんな理由なんてわかっている――彼女は優しい子だ。誰かが苦しんでいたらその苦しみを背負おうとする様な子だ。
 自身の為に傷つく人がいたならば、それに責任を感じるのは推測するまでも無い話だ。
 だが、そんな事など耐えられない――

「それにわかっているの!? 私のした事のお陰でまどかが余計に苦しむ事になったのよ!? 私のやった事が全部無駄だったのよ!?
 過去に戻れる、歴史を変えられるなんて甘い希望を持たせたばっかりに余計に絶望させる事になって……
 そんなこともうとっくの昔にわかっていた筈なのに……
 いつの間にか貴方が魔女になっても何も感じず見切りをつけて過去に戻って繰り返す様になって……
 どうせ信じてもらえないから最初から誰も信じず誰にも頼らずに自分一人だけで戦って……
 希望なんて何処にも無いなんて本当は最初からわかっていたのよ……それを認められなかっただけ……
 全部無駄で……無意味だったのよ……」

 そんな言葉で諦めたくなんか無い。だが、全ては自身の過ちなのだ。
 最初から全部無駄だったら、出過ぎた真似はせず自身が魔法少女にならなければ良かったのだ。

「無理だったのよ……何も出来ない……人に迷惑ばかりかけて恥かいて……ずっと変われなかったのよ……
 最初に出会った貴方が死んだ時に守られる私じゃなく守る私になりたくて魔法少女になりたかったのに……
 こんな事になるんだったらいっそ最初から魔法少女にならなきゃ良かったのよ!!」

 自分でも何を言っているのか正直わかっていない。だが、吐き出さなければ今にも押しつぶされそうな気がしたのだ――

「無駄なんかじゃないよ……ほむらちゃんのやってきた事は……」
「え……?」
「ほむらちゃんが信じて走り続けてきた事はきっと何処かの私に届いているよ……それに気付いた何処かの私がほむらちゃんを……
 ううん、それだけじゃなくさやかちゃんも杏子ちゃんもマミさんも救ってくれる筈だよ……」
「そんな……そんな奇跡起こるわけが……」


 いや、1つだけ方法がある。


「ほむらちゃんがここまで頑張らなかったら誰も救えなかったと思う――」


 自身が繰り返し続けた事で究極的に因果が集ったまどかの力ならば――
 インキュベーターが当初想定すらしていなかった程の力――
 全ての絶望をひっくり返せる程の奇跡を起こせるだろう――
 だがそれは結局の所――


「ダメよそんなの!! それじゃ結局はまどかが……」


 しかし、それ以上言葉にはならずうつむいてしまう――
 わかりきっている事じゃないか。まどかの性格を考えれば全てを救おうとする事ぐらい――
 自分を犠牲にしてでも他人を救う――それが鹿目まどかであろう。

『私ね、あなたと友達になれて嬉しかった。あなたが魔女に襲われた時間に合って、今でもそれが自慢なの。だから魔法少女になって本当に良かったって』

 自身が魔法少女となる直前に彼女に言われた言葉だ。魔法少女の真実を知らないが故の愚かな発言だったかも知れないが、それ自体は混じりっけのない本心からの言葉に違いない。
 いや、例え愚かな発言だとしてもその言葉を否定したくなんてない。

「私が貴方をそんな運命から助け出したかったのに……」

 勿論、納得なんてしてない。
 だが、最早この身体は限界を超えている。
 いつ世界を呪うだけの存在とも言うべき魔女になるのかもわからないのだ。


 が――ここまで考えて気が付いた――何故魔女にならないでいられるのか――
 勿論、全てを諦めて魔女になればそれこそまどかを救えなくなる、それが主な理由だろう。
 だが、壊すだけの存在になる事をまどかが望むのだろうか?
 悲しみをもたらすだけの存在になる事をまどかが望むだろうか?
 まどかが守りたかった世界を壊す事をまどかが望むだろうか?

 わかりきっているでは無いか、そんな事絶対に望まない――

『嫌な事も悲しい事もあったけど守りたいものだってたくさん……この世界にはあったから……』

 まどかが守ろうとした場所を壊すなんて事、絶対に出来るわけがない。
 そんなまどかに対する最大級の裏切りなど出来るわけがない。


「……!」


 うつむいたままだったほむらは振り向きまどかへと背を向ける。


「何処に行くの?」
「私が自分の名前を変だって言った時、すごく格好良いって言ってくれた女の子がいたの……」
「それって……」
「名前負けしているって応えたらその子なんて言ったと思う……折角素敵な名前なんだから格好良くなっちゃえば良いって言ってくれたのよ……」


 そしてゆっくりと歩き出す。


「その彼女の為にも……もう一度だけ燃え上がってくるわ……あの日、魔女に襲われた時の私を助けた時に彼女が口にしていた言葉と全く同じ言葉で私を助けに入ったバカな男を助ける為に……
 あんなバカでも貴方だって助けられるなら助けられるでしょ?」


 返答なんてわかりきっている。

「うん!」


 気が付けば元の場所に立っていた。未だ戦いは続いている――
 両手は自身の髪を編んでいた。両サイドを三つ編みにすべく――


『ほむらが魔法少女になったのってその子の為なのか?』


 魔法少女になった時の最初の気持ちを思い出せ――
 無論、それは彼女を守る為だ。そして魔法少女になった時どう思った?
 これで彼女を守れると思っていただろう、一緒に彼女と戦えると考えただろう、彼女と一緒にまどかの守ろうとしたものを守れると喜んでいただろう。
 結局はキュウべぇに騙されただけだったが、それでもその時思った気持ちだけは嘘なんかじゃない。

 だからもう一度だけあの時の気持ちを思い出すのだ――眼鏡はなくてもあの時の髪型にしてその気持ちを――

 どの時間のまどかであってもみんなを守る為に戦い続けているのはわかりきっている。
 だったら、遠く離れていても気持ちだけは一緒に頑張ろうと――

 髪を編み終わった時、不意に風が吹くのを感じた――それが何を意味しているのかはわからない――
 こうやって動くだけでも全身が軋むのを感じる。表面上の傷は防げても回復には全然足りていないのだ。当然、時を止める事など不可能――
 だが、戦う術はある――


 ――Skull――


 ガイアメモリを作動させ音声を響かせる――


「変身……」


 そう口にして無意識下で巻いていたベルトのスロットにメモリを挿入し斜めに倒す――


 ――Skull――


 その音声と共に自身の身体に先程同様漆黒の粒子が纏わり付く様に変容させる――
 先程と同様にスカルへと変貌しているのだろう――
 いや、1点だけ違う――
 額が熱い――何かが刻まれている様だ――

 いや、この際そんな事はもうどうだって良い。
 風が巻き起こる――
 今ならばわかる、先程とは比べものにならないぐらいの力を発揮する事を――


「救い様の無い世界だとしても……あの子が守ろうとする世界を傷つける事は……私が許さない……」






焔上 Flame burning.


「まさか……あれだけの傷で……」
「よそ見をしてんじゃないの!」

 ほむらの復活、そしてスカルへの変身に気を取られ。横から来るシャイニングブレードへの反応が一瞬遅れる。
 それでもメタル・ドーパントはその斬撃を難なく弾く。
 だが、すぐさまスカルが間合いを詰め突きを繰り出し当てていく。

「ぐっ……」

 先程のスカルと違いパワーが上がっている。高い防御力故に殆どダメージは通らないがそのパワーで僅かながらも身体が押される。

「はぁっ!」

 かけ声と共にシャイニングブレードが振り下ろされる。防御が間に合わず思わず後方へと後ずさる。
 無論、そんな隙を逃すわけも無くシャンゼリオンは間合いを詰めていく。
 応戦しようとするメタル・ドーパントだったがスカルがスカルマグナムを連射しメタル・ドーパントだけを撃っていく。
 銃器の扱いはほむらにとっての十八番、シャンゼリオンに当てずにメタル・ドーパントだけに当てる事など造作も無い。

「はっ!」

 無論、メタル・ドーパントとて只撃たれるつもりはない。放たれた銃弾を裏正を振るうだけで薙ぎ払っていく。それ故、スカルの銃撃によるダメージは殆ど無い。
 だが、迫り来るシャンゼリオンへの対応を同時にやらなければならない。
 スカルの銃弾を防いでばかりでシャンゼリオンへの斬撃への対処が遅れるわけにも、
 シャンゼリオンへの斬撃に注意しすぎるあまりスカルの銃弾を受けるわけにもいかない。

 無論、シャンゼリオンとてこの好機を逃すわけもない。スカルが銃弾に対処している間に間合いを詰め次の一撃、次の一撃を繰り出していく。
 スカルとてただ動かない砲台でいるつもりはない。動きながら狙いを定め、できうる限りメタル・ドーパントが対応しにくい銃弾を繰り出していく。

 一方で、メタル・ドーパントは驚愕していた――明らかに先程よりも強化されたスカルの力にだ。
 シャンゼリオンが強化されたのは怒りによるもの、それはわかっている。
 だが、スカルはどういう理由で強化されたのだろうか? 先程は無かった『S』は何を意味しているのだろうか?

「……お前は……仮面ライダーだとでもいうのか……」


 風都には街を泣かせるドーパント等から人々を守る為にガイアメモリを使って変身するダブル(W)とアクセル(A)、2人の仮面ライダーがいる。
 だが、Wが現れる前にも仮面ライダーがいた――
 それがスカルである。その変身者はWの変身者の片割れ左翔太郎の探偵としての師とも言うべき鳴海荘吉だ。
 しかし、荘吉とて最初から仮面ライダーであったわけではない。いや正確にいえばスカルの力を出し切れていたわけではない。

 ドーパントの事件が起こり始めた段階で、荘吉は幼馴染みである文音――シュラウドから対抗するには荘吉自身もメモリを使うしか無いと言われていた。
 しかし荘吉自身は自身の拘りから自らガイアメモリを使う事を拒否していた。言ってしまえば戦いの決断が鈍っていた状態である。
 それでもドーパントに追い詰められそれを助けるべくシュラウドが変身させたのが最初のスカル――だがそれは不完全な状態、それ故全力が発揮できない状態である。
 不完全な状態とはいえ荘吉自身の素の戦闘力が高い故にある程度は戦えていたが、本来の力を発揮できない事に違いは無くドーパントを撃破するには至らなかった。
 だが、それ故に決して取り返しのつかない被害を出す事となったのだ――街に大きく泣かせた事は言うに及ばず荘吉自身、正確には自身とその娘にとってとても大きな――
 そして遂に荘吉は決断し真のスカルとなったのだ――

 さて、以上の事を踏まえてもスカルのその真の力を引き出す決め手は使用者の心理状態である事はおわかりであろう。

 これを踏まえ使用者であるほむらの心理状態を振り返っていこう。



 ほむらはその経緯から魔法少女の力を忌むべきものだと考えていた。
 いや、それだけではなくダグバにクウガなら対抗できると言われても、そのクウガもダグバと同等であると考えそれを実力を別としても信頼する事は出来なかった。
 そんなほむらが怪物とも言うべきドーパントへと変貌させるガイアメモリの力を信用できるわけなどないだろう?
 また、度重なる時間遡行の影響か、失敗してもまた繰り返しやり直せばと冷め切っていた節がある。まどかが魔女になった時点で見切りをつけた所からもそれは明らかであろう。
 そしてこの地においてもこの殺し合いの行く末がどうあれ脱出後にやり直せば良いと心の何処かで思っていたのかもしれない。

 甘い考え――とは言わないが、そういう考えでいてガイアメモリの――スカルの力を十二分に引き出せる道理も無いだろう。

 だが、今のほむらは違う。
 やり直しがきかなくなる程負傷したお陰で、崖っぷちまで追い込まれている。逆をいえばもう一度きりしかないという事だ。
 そして、魔法少女になった時の気持ちを思い返し、今一度まどかが守ろうとするであろうものを守る、その為に戦う事を決めたのだ。
 魔法少女の力があればまどかを守れる――今にして思えば愚かながらであっても喜んだあの日の気持ちで――

 だからこそ今スカルはほむらにその真の力を与えたと言っても良いだろう。
 スカル――骸骨の記憶故に肉体は動ける状態だ。十二分に戦える、ほむらの願い通り今ならば守る為に戦えるだろう――


 スカルの銃撃、シャンゼリオンの斬撃、その波状攻撃によって徐々にだがメタル・ドーパントが押されていく。
 メタル・ドーパントこと丈瑠とて歴戦の戦士、そうそう簡単に倒されるつもりはない。

「くっ……俺は……」


 だが、その脳裏にはある男の事が浮かんでいた――

 それは影武者、シンケンレッドとして戦っていた頃――何時もの様に外道衆を倒し何時もの様に源太の一本締めで締める所であったのに何故か締めている暇無いと足早に去って行った事があった。
 その時点では謎ではあったが今にして思えば既に事は起こっていたのだろう。
 その直後、突如として現れた謎の男に

『この世界は侵食されている、ライダーに、ディケイドに、ディケイドは世界を破壊する、排除しなければ』

 そう一方的に丈瑠に伝えオーロラに消えていった。いや、それだけではなく黒子の1人――妙な動きを見せていたから何かあると思い問いただしたが黒子見習いとはぐらかしたあの男が――

『シンケンジャーか、確かにこの世界では仮面ライダーは必要無いらしいな』

 そう言って黒子の服を脱ぎ捨てた男――通りすがりの仮面ライダーが現れた。

 どうやら源太の折神がもう1人の仮面ライダーに盗まれ、その仮面ライダーもアヤカシに何か盗られたものがありアヤカシに異変が発生したらしい。
 世界が破壊される――その言葉に踊らされ仲間達がパニックに陥る中、丈瑠自身は何を思っていたのだろうか――

『そんなにダメですか、仮面ライダーがいたら。ディケイドが……士君がいたらダメなんですか? 何処の世界にいってもこんな風なら……じゃあ士君は何処に行けば……』

 その男は何処の世界でも拒絶され続けていたのだろう。しかし危機に陥った時駆けつけたあの男はこう言った。

『ライダーは必要なくても、この俺門矢士は世界に必要だからな』

 そう言い切ったのだ。そして自身に、

『殿様、ここは勝って帰らないとジイさんが泣くぞ。多少の無理はさせてやれ、ジイさんなりの戦いなんだろ、お前らの帰る場所守ってんだからな』

 あの時、腰を痛めながらも無理をし続ける日下部彦馬に対し戦いに関わらせないと言い放った事がある。無論、気遣ってのものだが感情的になり言い過ぎた事は理解している。
 この辺りの事情を何故あの男が知っているのかは知らないが、気遣ったあの男が謎はあっても気遣いの出来るある意味では優しい男だという事は理解できた。



『士、俺はお前が破壊者だとは思っていない』
『根拠は?』
『無い………………強いて言えば侍の勘だ。世界は知らないが俺達はお前を追い出す気はない』

 果たしてそれは侍の勘だったのだろうか? 俺『達』の言葉だったのだろうか?
 心の何処かで重ねていたのではなかろうか? 影武者故に侍の世界にいられなくなる自分自身と、何処にも自分の世界が無く果てなく通りすがり続けるあの男の姿を――

 あの男は今も仮面ライダーのいる世界を通りすがり続けているのだろうか?
 様々な世界で戦い続ける仮面ライダーに時には拒絶されながらも助けに入っているのだろうか?

 スカルのいる世界にもあの男は現れたのだろうか――?

 目の前の仮面ライダーを見てそんな男を思い出したのだ。
 今の自分をあの男が見たらどうするのだろうか? あの時助けに入った時の様に、外道に墜ちようとする自分を止める為に助けに入るのだろうか?
 いや、きっと助けに入るだろう。あの男はああいう男なのだから――

 だが、もう引く事は出来ない――例え全ての世界を通りすがり続ける仮面ライダーであってももう止められない。

「俺は……もう退くつもりは無い!!」

 だからこそ裏正を振るい続けるのだ――
 あの男が自分の世界を探し続ける様に――
 自分もまた剣士としての自分のまま生き続けるのだ――
 誰に拒絶されようとも、決して止まったりはしない――


 いつの間にか川岸まで追い詰められていた。
 未だにシャンゼリオンとスカルの波状攻撃は続いていく。
 この状況を打ち破る手段は1つ――捨て身の覚悟で挑む事だ。
 振り落とされるシャイニングブレードに対し――

「はぁっ!!」

 渾身の力を込めてそれを裏正で跳ね返す。文字通りの全力でシャンゼリオンを飛ばし腰を地に着けさせる。
 勿論、スカルマグナムによる銃弾に対処できず数発受ける事になるがまだ立っていられる。
 シャンゼリオンが立ち上がり体勢を整える前にスカルを仕留めるのだ。

 一気に間合いを詰め裏正で袈裟切りに――
 だが、スカルは逃げるどころか一気に踏み込み――その腕で裏正を持った腕を押さえたのだ。

「ぐっ……」

 それ故にこれ以上動けないでいる。これがスカルの――いや、仮面ライダーの強さなのだろうか?
 だがまだだ、このまま押し切れば――

 その時突如スカルの胸部から紫色の髑髏のエネルギー体が出現した。その衝撃を受け拘束が外れ数メートル後方の川岸へと追い詰められる。出現したエネルギー体は上へと――
 それでもまだ戦え――

「はぁっ!」

 体勢を整え直したシャンゼリオンがシャイニングブレード構え仕掛けてきた。
 剣士として剣の勝負には負けるわけにはいかない、裏正を全力で――

「一降り!!」

 宙を舞ったのは――

 ――裏正だ。裏正は程なく川へと落ちる――
 スカルに手を全力で押さえられていたが為にその時の痺れがまだ残っていたのか――握りが若干甘くなりシャンゼリオンの全力の一撃に耐えきれず手放してしまったのか――
 それとも全く別の要因があるのだろうか――


 いや、理由はどうあれ真実はたった1つ――裏正をはじき飛ばされた時点で剣士として自分は敗北したという事だ。


「こいつでトドメだ」


 そう言いながらシャンゼリオンが構える。一方のスカルもメモリを横のスロットに移し高く飛び上がる――


「シャイニングアタック!」
――Skull maximum drive――


 シャンゼリオンの胸部から自身を模したエネルギー体が放たれる――
 一方、スカルがメモリを作動させそのまま先程生み出したエネルギー体を蹴り飛ばす――


 放たれた2つのエネルギー体は真っ直ぐにメタル・ドーパントの元へと――


 白く輝く戦士シャンゼリオン――
 漆黒に煌めく戦士スカル――

 白と黒の戦士が織りなす2つの一撃は――

 銀――いや、白にも黒にもなれないくすんだ灰色の愚者の元へと――

 2つのエネルギーは同時に炸裂し川が大きな水しぶきを上げた――






終焔 Her flame comes to a close.


 メタル・ドーパントの姿は何処にも無い。シャンゼリオンとスカルの必殺技を同時に受けて身体すら残らず消滅したのだろうか?
 だが、1つだけ確かな事がある。今この場に立っているのはシャンゼリオンとスカルの2人だけ、襲撃者は撃退した事になる。
 つまり、紛れもなく暁とほむらの完全勝利と言っても良い。

「決まった……」

 いつの間にやらシャンゼリオンこと暁の中の怒りは消え失せていた。それもその筈だ、無残に嬲られ殺されたと思ったほむらが無事で戦ってくれたのだ。
 怒るべき理由など最早何処にも無い。
 嬉しそうに身体を一回転させて――


「俺達って……超決まりすぎだぜ!!」


 そうポーズを決めた――


 だが、その時。何か倒れる音がした――


「!? ほむら!?」


 それに気付き振り向くと――スカルへの変身が解除されたほむらが倒れているではないか。


『私、鹿目まどか。まどかって呼んで』
『えっ……そんな……』


 元々筋肉も神経も骨も血管もボロボロの状態だったのだ。幾らスカルの力で強化できたからといってそんな状態が身体に良いわけがない。
 それにドライバーを介しているとはいえガイアメモリのエネルギーは非常に強大だ。
 通常の状態ならいざ知らず全身がボロボロのほむらにかかる負担は無視できないレベルだ。当然負荷が大きいマキシマムドライブを使うなど言語道断だ。
 精神力だけでずっと戦い続けていたが、マキシマムドライブ使用直後、つまりメタル・ドーパントを撃破した時点で遂に緊張の糸が切れ変身が解けたのだ。
 ガイアメモリによるダメージは普通の医学では治療が出来ない――魔法少女である彼女にはあまり関係無い事ではあるが、何度も語った通り最早ほむらの力は完全に枯渇状態だ。
 故に――既にほむらの身体は指一本マトモに動かす事が出来ない状態である。痛覚だけはカット出来る為、痛みを最小限に抑える事が出来るのはある意味では幸運といえ不運とも言えるだろう――


『良いって、だから私もほむらちゃんって呼んで良いかな?』


「ぁ……ぁ……」

 声が出せない――肺が潰れて声になっていないのだろう。それでも、残された僅かの力を振り絞れ――

「おいほむら、大丈夫か? ってなんじゃこりゃ、こんな状態で戦っていたのかよ」

 燦然を解いた暁が抱きかかえながら口にする。暁から見てもほむらの状態はあまりにも酷いのだ。

「……ょ……ぃ……」
「そうかそうか、もう喋るな、すぐに病院に行こうな」

 やはり声にすらならない――だが、

(暁……聞こえるかしら……)

 ふと暁の頭の中にほむらの声が届いたのだ。

「ほむら!? なんだこりゃ!?」
(念話よ……)
「魔法少女ってこんなすげぇ事も……って、それ使える状態じゃ無いだろ!」
(だったら黙って聞きなさい……)

 ほむらとて今の状態で魔法少女の力の1つである念話を使う事がどれだけマズイのかは理解している。だが、まともに話す事しか出来ない以上、こうするしか手段が無いのだ。

(助ける方法が1つだけあるわ……私だけじゃなく、暁も助ける方法が……)
「俺ぇ? 何言ってんだ?」
(魔法少女の力が呪われた力という事は話したわね……)
「ああ、確かにそんな事も言っていたな」
(その理由を話すわ……服の中を探ってもらえるかしら……)
「服の中……」
(……この状況で変な所触らないでくれる? ちょ、そこは違う、もっと上、いやもっと下)
「おい、何処にあるんだ?」


 そして、ほむらの懐から汚れきった宝石の様なものを取り出す。

「なんだこりゃ? 随分汚い宝石じゃないか」
(私達が魔法を使う度に、その宝石が穢れていくわ……そして穢れきった時に魔女……貴方の知るダークザイドと同じ様なものだと考えて良いわ……それに姿を変えるわ)
「魔女? 魔法少女の親戚か?」
(ええ、魔法少女が祈りを叶えた分と同じだけ呪いを与える存在となるのが魔女……)
「……もっとわかりやすく言ってくれない?」
(つまり、私達魔法少女はただ壊すだけの怪物になってしまうのよ)
「よし、わかった。つまり、コイツをこのままにしたらほむらが怪物になるって事だな。で、コイツをどうすれば良いんだ?」
(簡単よ……それを砕けば私が魔女になる事は無いわ……)

 その言葉を聞いた暁は、

「なんだ、そんな簡単な事で良いのか、だったらもっと早く説明しろって……」

 と、嬉々としてその宝石を地面に置き、今一度燦然しシャンゼリオンとなりシャイニングクローを構える。が、

「……? まさか……」

 何か引っかかりを感じる。だが、

(早くして……早くしないと……あの子の為にも……)
「わかったわかった、後であの子の事についても話してくれよ? 探さなきゃならないのに名前すら知らなきゃ捜しようがないからな」
(ええ……それが終わったら……)

 そう言いながらゆっくりとシャイニングクローを振り上げ降ろそうとする――


 その動きはあまりにもスローに感じられた――


『私……その……あんまり名前で呼ばれた事ってなくて……すごく変な名前だし……』
『えーそんな事ないよー、何かさ燃え上がれーって感じで格好良いと思うなー』


 そう間もなくほむらのソウルジェムは砕け散ると共にグリーフシードへと変貌し魔女へと姿を変えるだろう。
 そうなれば、目の前にいる暁は無論の事、この地にいる他の参加者を呪うだけの存在となる。
 いや、実の所それだけなら大した問題じゃ無い。
 それをまどかが望む事では無いという事が問題なのだ――だからこそ、ほむらは魔女へと変貌する前にソウルジェムを砕く事を暁に頼んだのだ――
 ソウルジェムの名前等一部の事柄については意図的に伏せておいた。正直キュウべぇのやり口に近いのが気に入らないが全てを説明したら事に及んでくれないだろうと思い、敢えてそうした。
 だが、自分でも感じていたが他人とのコミュニケーションが不得意分野だったが為、説明が甘く、暁に気付かれた様に思えた。
 あのバカなら気付かないと思っていたが流石にそこは自称探偵というだけの事はあるらしい。
 それでも暁はそこまで疑いはせず従ってくれた。その事については正直感謝している。
 何にせよ後はその瞬間を待つだけである――



 結局の所、まどかはあの時何故ほむらにキュウべぇに騙される前の自分を助けてと最後のグリーフシードを託したのだろうか?
 勿論、それは言葉通り自身が魔女になりたくないという事もあるのだろう。
 しかし同時にそれ以上に、魔女になる事よりも魔女となって世界を滅茶苦茶にする事の方が嫌だったのだろう。どんなに悲しい世界であっても守りたいものもある世界なのだから――
 そして何より――まどかはほむらを助けたかったのではなかろうか?
 あの時、ほむらは半ば自暴自棄になり全てを忘れ一緒に魔女になって世界を滅茶苦茶にしようかと口にしていた。
 だが、これも無理からぬ話だろう。純粋な祈りから魔法少女になり過去に戻ったのにその結果最悪にして残酷な真実。
 そしてそれを伝える為に戻ろうとも誰にも理解される事無く、事が起こってからその事実を突きつけられ結局惨劇が繰り広げられる現実。
 そして何も救えず最悪な結末を迎えるのだ、これで希望を持てというのは無茶ではなかろうか? 自身の力に何の意味も無ければ絶望するしかないであろう。
 まどかはそんなほむらを助けたかったのだろう――ほむら自身が助けたいと願うまどかを助けるという目的を与え、それを希望にすると――

 勿論、真相は誰にもわからない。だが、真相がどうあれ、まどかが自分を犠牲にしてでもほむらや世界を救いたいと願っている事だけは間違いない。

 本音を言えば、こんな結末など欠片も満足していない。
 結局まどかを救う事が出来なかったのだから、彼女に何度となく助けられた命をこんな形で終わらせてしまうのだから、彼女との約束を破ってしまったのだから、

 だが、魔女となって呪いを振りまくだけの存在となる事も彼女は望まないだろう。だからこそ自らの命をここで終わらせる事にしたのだ。
 暁には多少は迷惑をかけたと思わなくもないが、今までの分を考えればそこまで良心の呵責はない。
 正直な所、違う形で出会っていればもう少し違う印象もあったのだろうが――今更考えても仕方のない事だ。

 何にせよ自業自得と言えばそれまでだ。もう少し違う立ち回りをすればもっと違う結末もあったであろう――


『………………名前負けしてます……』


 空を仰ぐ――


『そんなの勿体ないよ、折角素敵な名前なんだからほむらちゃんも格好よくなっちゃえば良いんだよ』


 既に朝日は昇り明るい空が広がっている――


「ねぇ……」


 それは念話ではなく最後の力を振り絞っての肉声――


 伝える相手は遠い遠い先にいる彼女――


「私……名前負けせずに……格好良くなれたかしら……?」



 ――――パリーン――――



「ん、何か言ったか?」


 丁度宝石を砕き終わったシャンゼリオンが元の姿に戻りほむらの方へと振り向く。
 しかし、ほむらはピクリとも動かず、最早念話も聞こえてこない――


「ほむら……」


 暁はすぐさまほむらへと駆け寄る。いつの間にかほむらの服が魔法少女のものから何処かの制服に変化している。


「ほむら……」


 全く予想していなかったわけではない――それでも驚愕は隠せないでいる。


「ほむら!」


 どんなに呼びかけてももう彼女が応える事は無い――その魂は砕けてしまったのだから――


 だが――


 顔だけは何処か穏やかで笑みを浮かべている様に見えた――


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ 死亡確認】
【残り50人】




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最終更新:2013年03月14日 23:06