激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア!(後編) ◆gry038wOvE
「……どうやら、地獄への切符は渡し損ねたようだな」
その焦げる匂いと僅かな煙の中から聞こえたその声は、女性のものである。
即ち、
ダークプリキュアはエターナルのマキシマムドライブから生存し、そこに立っていたということであった。
一方のエターナルは、この場に姿がない。
あの爆発の中に消えたということなのだろうか?
「……まあいい。プリキュアの種は貰っていくぞ」
ゴシックロリータ風の衣装に身を包んだ、人形のような少女が歩いていく。
何故、自分はこうまでしてあれを取りに行こうとするのだろうか。
結果的に一人、参加者を潰したようではあるが、わざわざ戦いを挑む相手だっただろうか。
キュアムーンライトが変身不能になることは、かつてもあった。それはパートナーの妖精の死によるもので、それを引き起こしたのはダークプリキュアその人だった。
かつては、それに何の感慨も抱かなかった。
しかし、今他人の手によって彼女の変身が阻害されることには、不快感さえ湧いた。
つまり────彼女は、こう理解した。
「……私の望む本当の決着はこれからだ……キュアムーンライト!」
自分が、思った以上に几帳面で、しっかりとした決闘による勝利を目指しているのだと。
本来なら、この状況を乗り切るキュアムーンライトと戦いたかったのだが、ゆりと大道が別方向に向かった時点で、彼女はゆりでなく、大道を追っていた。
二人が離れ離れになったということは、ゆりは暫く変身を諦めたということ。
即ち、キュアムーンライトとはまた長時間戦うことができなくなるわけだ。
目的のものがある大道の支給品が詰まれている道路へと、彼女は歩いていく。
焦ることもなく、ただ、音さえ立てずに。
だんだん距離は近付いていく。
ダークプリキュアは、そこにある支給品に手をかけた────
──────が
「はっ!」
そんなダークプリキュアの右腕へと、一本の短刀が突き刺さった。
本来、この短刀は魔戒騎士しか使えず────そして、常人ならばどこに刺さっても急死するという、とてつもない威力を持つ剣である。
無論、それは制限されていたし、どうであれダークプリキュアは常人ではなかったので、それは致命傷にはならない、ただの痛みでしかなかった。
「……だ、誰だっ!」
振り返ったダークプリキュアが見たのは、先ほどの白い戦士────仮面ライダーエターナルである。
ダークプリキュアと同じく、立ち上がるだけの力を残しており、回収していた武器を投げたのだ。
「……貴様、生きていたのか!」
彼女は、左腕でその短刀を引き抜き、野に捨てた。
もう一本の腕で右腕を押さえる彼女は、鋭い眼光でエターナルを睨む。
それは強敵への怨みつらみと、一瞬でも抜かった自分の甘さを悔いていた。
「……お前もキュアムーンライトと同じ所を狙ってくると思って、今の戦いは様子を見ていた。
が、その点じゃあ期待外れだ。やっぱり、姉妹だから狙いが同じっていうのは考えすぎだったな」
キュアムーンライトとの戦いにおいて、エターナルはドライバーを狙われ、変身解除に追い込まれた。
実際、そうした行動をされたところで大きな問題はない。エターナルメモリは、どうあっても自分を選ぶだろうという確信が彼にはあった。そう、先ほどのように。
だが、それが破壊という形で叶えられるようならば、また別だ。ゆりが甘かった点は、エターナルメモリを破壊しようとしなかったことである。
彼は一度、エターナルのメモリが破壊されたのを経験している。
あの時は試供品だったし、今のT2のメモリならばある程度は耐えられるだろうとは睨んでいた。が、念には念を押したのである。
キュアムーンライトの行動が多少、エターナルの行動に影響していたのだろう。
「……それから勿論、キュアムーンライトのデイパックは既にこちらで回収させてもらった」
彼はあの時、本気でぶつからずに回避行動を取っていた。
が、相手がロストドライバーやメモリに手出しする様子がなかったため、後方に撤退したのである。
そして、爆煙に隠れ、デイパックを一つ回収した。ダークプリキュアは遠目では「デイパックの山」としか認識しなかったから、何の違和感もなくそこに近付くだろう。
其処へ攻撃を仕掛けるのだ。
無論、回収するのは
月影ゆりの支給品とココロポット。あれは駆け引き材料として使わねばなるまい。適当なデイパックに入れたのだが、駆け引き材料として使うための特別なデイパックとして、印象付いていた。
偶然にも、彼女の支給品である破邪の剣もそこに入っていたから、それをダークプリキュアに投擲したのである。
「クッ……」
「奴のがしっかりしてそうだ。お前は妹っていうところだろうな」
「何度でも言う…………奴と私は貴様らの言う姉妹ではない!」
「俺ももう一度だけ言ってやる。お前ら二人が実際どういう関係だろうが、俺には興味は無い」
再び仮面ライダーとプリキュアが対峙する。
本来、正義の戦士であるはずの「仮面ライダー」の称号、「プリキュア」の称号。それを悪用する者、騙る者同士の戦いであった。
双方が闇の存在であるが、光の存在のように協力し合うということもない。
闇と闇は衝突するのみだ。
「……時間がねえんだよ。お前の強さは充分わかった。あとは、それを越える強さで叩き潰すだけだ」
エターナルは、右腕を負傷するダークプリキュアにも容赦はしない。
エターナルエッジを構えたまま、真っ直ぐ前に走っていく。
ダークプリキュアはそれを見て、回避行動に移る準備をしていた。
彼女はまだ、エターナルの足元に落ちていたデイパックと、この道の上に落ちているデイパックのどちらが本物なのかは見当をつけていない。
おそらくは、彼が回収した方だろうが、ランダムに回収して武器を投げた可能性だって考えられなくはないだろう。
ゆえに、戦って両方奪うしかないと考えていた。それが最も手っ取り早く、冴えたやり方であるように彼女は思ったのだ。
「……何を急いでいるのかは知らないが、私はそう易々と倒されたりなどしない!
奴の変身道具もこの手で奪ってみせる!」
ダークプリキュアは向かってくるエターナルの右腕を傷ついた両腕で掴み、エターナルエッジを自らの体の後ろ側へと通り過ぎさせてしまう。
そのまま、軟体を活かしエターナルの顔へとキックを叩き込む。
ダークプリキュアは、相手が急いているのを利用しようと考えたのだ。
相手の攻撃を着実に防いだうえでの攻撃を繰り出す。
彼女は、エターナルが急いている理由を考えた。
──────エターナルは持久戦をされると厄介なのではないか?
と。まさかトイレに行きたいわけでもあるまいし……。
実際は、彼らNEVERはスタミナにおいて無尽蔵で、おそらく戦闘中にそれが切れることはない。ただ、酵素が無ければ肉体が崩壊するし、非常に危険な状態になるわけだから、戦闘が長引くと厄介なのは確かだった。
何より、彼は月影ゆりを一刻も早く追いたいのだ。
「大した虚栄心だ。易々と地獄に送ってやるよ」
エターナルは強く腕を引き、エターナルエッジを対象を通過した無辺世界から、自分の胸元まで寄せた。
後ろから背中を刺すのも一手だが、ナイフの使い方としてはこちらの方がやりやすい。
何度も突き、何度も刺す。
そのような手で行くのが簡単であるように思えた。
「うおおぁっ!」
……が、一方のダークプリキュアは一発目の突きを避けながら、右腕に赤い光を溜める。
彼女の手に一瞬で溜まったエネルギー弾は、前へと突き出されて、エターナルの顔へと当たる。
距離が近かったがゆえ、クリーンヒットである。
彼の体は地面に足をつけたまま後方へと飛ばされ、地面にはスキーのシュプールのような二つの線が残されていた。
その先にある彼の姿は腕で顔の周囲を固めるような形であり、剛健には見えないものの、ダメージの薄さを感じさせた。
「……時間稼ぎのつもりか。残念だが、考えが甘い。……プリキュアとやらよりもNEVERはタフだぜ!」
そこから更にダークプリキュアの想像を超える連撃が始まる。
ダークプリキュアの方へと駆け抜けかねない速度で跳ぶと、何度とない拳や足の攻撃が開始した。
負けじとダークプリキュアもスピードを活かして前へ前へと拳を送り、足を送る。
双方の攻撃はほぼ当たらない。……が、右腕を破邪の剣で突き刺されたダークプリキュアの拳のスピードは、エターナルに比べて極めて遅かった。
更に、疲労の状態もエターナルに比べて際どい。死にたくない、負けたくない、攻撃を受けたくないという気持ちが拳を止ませないだけなのかもしれない。
彼女でさえ手足が棒になるほどの持久戦だった。
(…………なんなんだ、こいつの持久力は…………)
ダークプリキュアは思う。
持久力に何らかの欠陥があるのだと睨んだ自分の推測は大ハズレだったらしく、エターナルの連撃は常にダークプリキュア以上の速度を保ち続ける。
疲労というものを知らないのか、異常なまでの持久力であった。
だが、その理由や打開策を推測する暇さえ許されず、ただ余計な事を考えれば拳が顔に当たるだろうと思われた。
このまま、この持久戦を終えるための切欠も得られずに戦いを続ければ自分は負けるだろうとダークプリキュアは本能的に思った。
キュアムーンライトが敗れるほどの相手であるのは確かであるとさえ思う。
無論、それでもこの持久戦を終える切欠が芽生えない以上は続けるしかない。
ダークプリキュアの突きは減速していく。
エターナルの拳を見切るほどの頭の回転も無くして行った。疲労により集中力がとだえ始めていたのである。
こうなるともう末期だ。
そして、隙を感じたエターナルがダークプリキュアの顎を砕くアッパーを見舞った。
「……あ、あがっ……!」
ダークプリキュアの体が上方に吹き飛ぶ。
ダークプリキュアが弱かったのではない。エターナルが強すぎたのだ。
まして、装甲のようなものを持たない彼女と、装甲に身を包んだ戦士の戦いである。
彼女はやや、不利な状況にあったのかもしれない。確かに彼女は打たれ強いのだが、それだけでは勝つことはできないのだ。
しかし、そうして地面へと落ちたダークプリキュアに、エターナルからの止めが飛んで来ることはなかった。
何故か─────
それは、彼女が地面に落下しながらも、地面に倒れることがなかったからである。
ダークプリキュアは、落ちた勢いを利用し、その細い左腕で跳躍したのだ。本来、そんなことができたとして、それは足で行う動作だろう。
常人ではありえない腕力や軟体によるものであった。
戦うために生まれてきたような存在だから、こういう際の受身もできるのは当然である。
攻撃を受けることによってただ落下などしない。
戦うために生まれた者として、倒れることを許さない意地が、其処にはあったのである。
その勢いのままに、彼女の蹴りが今度はエターナルの顎に当たる。
「……ぐっ!」
「……この程度で負けるわけにはいかないっ!」
エターナルの体も後退した。
バランスを軽く崩した程度で、大きく体が倒れたり宙に浮いたりはしない。
しかし、それでも効き目は充分だった。少なくとも、自分の劣勢を消し去るには。
「はぁぁぁぁっ!!!」
ダークプリキュアはエターナルの体へと、パンチやキックを何度も何度も、高速で繰り出した。
肉眼で見たところで、それが何発かは通常わからないだろう。
この場には、その回数をカウントできる人間は何人もいたので、エターナルはしっかり数えきった。百を越える数字を正確に。
しかし、この状況でカウントができるのは明らかに余裕の表れだった。
元々、この技は一撃一撃が弱い。確かに強いが、一撃一撃が次の攻撃への布石や囮であるため、どうしても力が入りにくいのだ。
威力よりもスピード勝負な部分も否めない。
「はぁっ!!」
更に再び、ダークプリキュアは赤いエネルギー弾をエターナルの顔面へとぶつけた。
この戦いで何度目か、再び小さな爆発が起きる。
「……はぁ………………はぁ……………………」
流石のダークプリキュアも消耗する。
既にシンケンゴールド、キュアムーンライト、キュアマリン、キュアサンシャインとかなりの数の戦士と戦っていた彼女が、休みを挟んだとはいえ、エターナルを相手にここまで戦っていたのは、ある種の奇跡だ。
「言ったはずだ。プリキュアなんかより、NEVERはタフだってな」
エターナルローブというマントによって自身の体を保護できる彼は、そんな攻撃も大した事ではなかった。
そのうえ、NEVERは確かに疲労度が低い。
第一、ダークプリキュアは先ほどから消耗の激しい技ばかりをしていたのだ。
人造人間とはいえ、体力が無尽蔵なわけではない。
「…………まだか…………それなら…………」
と、ダークプリキュアは必死に構える。
目の前の敵を倒し、その先でキュアムーンライトと戦うために。
彼女の眼光は鋭く、それだけで脆弱な精神力の持主ならば泣いて逃げるほど。
神経の図太い克己は剛として立っているし、負けることを一切考えていないから真っ直ぐにダークプリキュアの前に歩いていく。
「キュアムーンライトみたいに撤退するのが一番利口だぜ、ダークプリキュア」
「黙れ!」
そういいつつも、己の強さを信じていたダークプリキュアは、初めて目の前の敵を恐ろしいとさえ思った。
彼に死を送りつけることは如何に難易か。
だが、絶対に撤退だけはしたくなかった。
キュアムーンライトがそうしてこの場を凌いだのが、胸の奥に残り続けていたから。
それが、なんだか異常なほど自分を苛立たせるから。
「……なるほど。この場で死にたいっていうわけか。なら、一足先に死神の前夜祭だ」
エターナルは容赦などしない。前に前に、突き進みながら、戯曲のように大袈裟に言った。
当人はいつも通り喋っていたのに、そう聞こえただけかもしれない。
ダークプリキュアの中に恐怖があったから、錯覚したということもある。
だが、彼女ははっと思った。
このまま死ぬには忍びない。そう、自分が立っている理由は何か。
それを忘れていた。
いま、まさに恐怖が自分の脳の大半を占めていた。
戦う理由を思い出せ。
そうだ、自分が戦う目的は────
キュアムーンライトとの決着。
それまでは絶対に死ぬわけにはいかない。
厳密には決着が目的ではない。
その戦いでも絶対に負けるわけにも、死ぬわけにもいかない。
勝たなければならないのだ。
キュアムーンライトへの勝利。
そして、自分は──────
サバーク様に認められなければならない。
(……最後の賭けだ! あれを使う!)
ダークプリキュアはそのまま、自らのデイパックをエターナルの方に放り投げた。
そして、最後の力を振り絞って赤い光を放つ────。
あの中にはパラシュートや様々な支給品が入っている。名簿や禁止エリアをメモした地図もあの中だ。
だが、もう一つの支給品が、彼女の記憶の中にあった。
「トチ狂ったか!」
エターナルの罵声にさえ気を向けない。彼は、きっとそれを死に際の人間が錯乱して行った、無意味な攻撃としか思っていないのだろう。手近なものを投げ始めるのは最終手段だ。
だが、ダークプリキュアの脳裏にあったのは、支給品の確認をした際、もう一つ気になっていた、「いかにも胡散臭い」支給品のことだ。
実際、それを使ったところで、効果があるかはわからない。
しかし、今は懸けてみる。
そして、賭けの結果として────
爆破したデイパックから、パラシュートの破片が、はじけたペットボトルの水が、金色の粉末が舞う。
美しい雨ではあるが、この場にその光景を綺麗と思う心の持主はいなかった。
ダークプリキュア自身は一つの奇策として、エターナルは不自然な現象として、感情とは別のところで考えるのみだ。
しかし、疑問に思う心はあったので、エターナルは咄嗟に疑問を抱いた。
この金色の雨は何なのだ? と。
止めを刺そうと歩いていたエターナルの興味はそちらに向いてしまい、戦いへの興が一気にそがれた。
だが、ダークプリキュアの目的は決してそんなことではない。
「…………どうやら、この賭けは成功だったようだな」
再び戦いを取り戻したエターナルがダークプリキュアの方を見ると、彼女の様子が明らかに変だった。
既に彼女の体つきが「華奢」ではなくなっているのだ。
其処に在ったのは、「女の格好をした男」と見まごう如き異常な絵姿。
ダークプリキュアはボディビルダーのような筋肉質の体格に変身していたのだ。
ダークプリキュアが使った道具は、「筋肉強化剤」という薬だった。
その名のとおり人間の筋肉を強化する某所の新薬であり、それを使うことによってボディビルダーの如きマッスルボディーとなる────
「……はぁぁぁっ!!」
疲労感は残っているが、それでもみなぎる力が止められない。
ただでさえ彼女は人間離れした身体能力の持主だったので、前方へと跳んだ彼女のスピードと、そこから繰り出されるパンチはエターナルの顔に強烈なダメージを与えた。
「何っ!?」
それはエターナルがいまだかつて味わったことのない、異常な痛みであった。
そのうえ、脚力まで強化されている彼女のスピードは、エターナルでさえ観測できるかが危ういレベルなのである。
女らしからぬ姿ではあるが、彼女は気にも留めない。
(この効果は一時的な物だ…………切れるまでに決着をつける!)
エターナルの腹が、頭が、足が、次々と、彼女の腕力と脚力を前に麻痺されていく。
変身能力者でさえ痛ましく思うほどの連撃は、NEVERにさえ効いた。
「はあぁぁぁぁぁっ!!!」
そして─────
ダークプリキュアの力と筋肉強化剤の力で相乗された彼女の圧倒的な腕力を前に、仮面ライダーエターナルの変身が解ける。
ロストドライバーにも何度か攻撃が当たったからだろうか。
幸いにも、それは後方へ吹き飛ばされて連撃が止まっていた瞬間だった。
いや、幸いなどではない。
変身が解けた瞬間が攻撃を受けなかっただけで、それから先は問題だ。
NEVERである彼が高い身体能力を有していようが、エターナルの時点で敵わない相手と戦えるわけがない。
いよいよ、形勢逆転だ。
「だぁっ!!!」
変身能力を失った彼の腹を、強すぎる一撃が襲った。
彼の腹筋や、地と繋がる足のバランスは、その攻撃を耐えなかった
そして────
克己の体が、宙をもがき、木の幹へとぶち当たった。
そこから先、彼の意識は無くなる。
「…………フンッ。終わりか。余計な体力を使いすぎたな」
最早彼女は克己などに興味はない。
克己の傍らに置いてある、キュアムーンライトのデイパックを回収した彼女は、彼以上に急いた。
余計な時間と体力を使いすぎたゆえ、既にキュアムーンライトが何処にいるのかも不正確な状況だ。歩き方によっては、彼女と再会することはできない可能性もある。
だから、克己の体は放置だ。
キュアムーンライトの支給品以外も、既に興味対象外。道に転がっているデイパックの山にも、わき目も振らない。彼女の支給品は克己が回収した物だとわかっているのだ。
それ以外のデイパックは、誰に拾われようと知ったことではない。
ボディビルダー体型のダークプリキュアはそのまま、驚異的な歩幅で森を走り始めた。
★ ★ ★ ★ ★
「……姉妹揃ってやってくれたな! プリキュアぁっ!」
克己が起き上がるのに、そう時間は費やされなかった。
元々、睡眠のようなものは必要のない体。気を失いかけることはあっても、それはそう長い時間ではない。
そして、そう簡単に死にもしないわけだ。
「だが、ベルトとメモリを奪っていかないのがお前の甘さだ」
少なくとも、彼の耐久力からしてみれば問題はなかったようで、生存には問題がない。そのうえ、ロストドライバーやエターナルメモリも手元に健在。細胞維持酵素が無い点を除けば、今の彼に致命的な装備の欠陥はない。
ただ、背中と腹部には未だに痛覚は残留していて、立ち上がるのも一苦労といったところだ。
しかし、それでもまだ死ぬわけではない。制限されているとはいえ、高い再生能力もある。
この程度のダメージはNEVERにはまだ許容範囲。変身前で何度も連撃を受ければ難しかったが。
(まあ、俺も少し遊びすぎたか……)
何度も言うように、克己は何もダークプリキュアと戦う必要はなかった。荷物がある時点で逃げればよかったのを、殺し合いという状況で格下の相手を前にしたから、相手をすることにデメリットはないと思ったから戦った。
だが、思ったよりも時間を取られたうえに、大事な駆け引きの材料さえ彼女は奪った。
慎重に行動する気はないし、ダークプリキュアは、あの謎の支給品さえなければエターナルの克己には敵わなかっただろう。
何にせよ、細胞維持酵素は奪還しなければならない。
克己の手元にあったはずのデイパックはないが、見てみれば前方の道にはデイパックや腕から引き抜いた破邪の剣が転がっている。なるほど、あちらのデイパックや道具に興味はないわけだ。
よく見れば、通常の人間ならば生命線となる水、食料にすら手がつけられていない。そのうえ、彼女は自分のデイパックですら躊躇いなく破壊している。
(もしや……あいつらは水や食料がいらねえのか?)
そう思うほどの違和感だったが、ダークプリキュアが自分と同じくキュアムーンライトの元へ急いでいた可能性もある。
彼女のキュアムーンライトへの固執は異常とも言える域だったし、考えられなくも無い。
それに彼女だって一応ゆりのデイパックを奪っていたし、あの分量で充分と思った可能性だって否めない。だから、その辺りの考察はかなり曖昧だ。
(何だろうが……奴らは潰すしかねえ)
キュアムーンライトが力を取り戻したこと、そしてダークプリキュアが強化されたこと、二人が合流するかもしれないこと、それははっきり言ってどうでもいい。
永遠であるためには勝つしかない。
相手が己より強かろうが、弱かろうが関係はないだろう。
ただ、目の前の障害を叩き潰して永遠に自分の存在を刻み続ける────。
【1日目/朝】
【B-8/森】
※同エリア上にある道の付近(平原)に、破裂したパラシュートやデイパックの残骸があります。
【
大道克己@仮面ライダーW】
[状態]:疲労(中)、腹と背中を中心とするダメージ(中)
[装備]:ロストドライバー@仮面ライダーW+エターナルメモリ、エターナルエッジ、昇竜抜山刀@侍戦隊シンケンジャー
[道具]:支給品一式×2、プリキュアの種&ココロパフューム@ハートキャッチプリキュア!、破邪の剣@牙浪―GARO―、ランダム支給品1~5(十臓0~2、えりか1~3)
[思考]
基本:優勝し、自分の存在を世界に刻む。
1:ムーンライト(ゆり)を追撃し酵素及びガイアメモリを奪還する。
2:T2ガイアメモリを集める。
3:京水と会ったら使ってやる。もしくはメモリを奪う。
4:ダークプリキュアも厄介。ムーンライトと共に叩き潰したい。
[備考]
※参戦時期はマリア殺害後です。
※良牙を呪泉郷出身者だと思ってます。
※細胞維持酵素を失いました。数時間以内に摂取しなければ身体を維持する事が出来なくなります。
※プリキュアは食事、水分の摂取を必要としない可能性を考えています。ダークプリキュアの一件から、プリキュアはただの人間だと考えていない可能性もあります。
★ ★ ★ ★ ★
一方のダークプリキュアの筋肉強化剤の効果は既に切れていた。
だが、関係はない。あの筋肉強化剤は人知を超える力をもたらすための物であり、既に人外であるダークプリキュアは、あの効果がなくなったところで何でもないのだ。
自分にはキュアムーンライトと戦うだけの力があればいい。
確かに、もし勝てないならばあれが欲しいとは思うだろう。……感情の無い彼女には、全身筋肉と化した自分の容姿に悩む乙女心もないわけだ。
────しかし、本当に感情が無い、のだろうか……?
その辺りは、彼女の姿を描きながらも、疑問に思う一点だった。
キュアムーンライトに固執するのも、父の愛情を欲するのも、明らかに感情の作用。
サバーク博士が作り上げたのは、少なくとも感情がない兵器とは違うだろう。
(──────キュアムーンライト、お前も何か知っているのか? 「未来」とやらについて……)
長い足が前へ前へと進んでいく。まるで地に定期的に足をつけながら滑空しているかのような、見事な走りをしながら、彼女は様々なことを考えた。
NEVERの男との戦いの直前の会話で、一度キュアムーンライトと自分の関係について考え直したことがあった。
そう、彼はキュアムーンライトとダークプリキュアを「姉妹」と表現したし、その直前にもキュアムーンライトとの邂逅を果たしていた。即ち、姉妹云々はキュアムーンライトから聞いた情報である可能性が高い。
ならば、キュアムーンライトも、キュアサンシャインと同じく未来の存在なのではないか?
彼女らの戯言を耳に通す気はないが、事実キュアサンシャインの言葉は気にかかる。
彼女たちが現在知らないはずの情報を、ダークプリキュアに向けたわけだし、もしかすれば本当に時間軸に差異があるという可能性も考えうる。
キュアムーンライトは少し前、ダークプリキュアの行動について「どうして自分を狙うのか」と訊いたことがあったし、少なくともダークプリキュアの時間軸においてはサバーク博士との事について詳しくは知らないだろう。
だのに、そんなキュアムーンライトとダークプリキュアを見て、克己は「姉妹」と表現した。
(決着をつける前に、全て教えて貰う────
何故貴様が殺し合いに乗ったのか、
誰を生き返らせるために戦うのか、
キュアマリンを葬ったのは正真正銘キュアムーンライトなのか、
お前は私より未来の存在なのか、
─────────私たちは、未来で「姉妹」と呼ぶべき関係になっているのか)
彼女の中で、疑問は耐えなかった。
そして、戦いよりも先にそれを答えて欲しいとさえ、彼女は思っていた。
その思いが、彼女の体を無理やりにでも動かしていた。
【1日目/朝】
【C-7/森】
【ダークプリキュア@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、右腕に刺し傷、キュアムーンライトに対し強い憤り
[装備]:無し
[道具]:ゆりの支給品一式、プリキュアの種&ココロポット@ハートキャッチプリキュア!、ランダムアイテム0~2個(ゆり)
[思考]
基本:キュアムーンライトを倒し、優勝してサバーク博士のもとへ帰る
0:キュアムーンライトに全てを訊きたい。そのためにキュアムーンライトを捜す。
1:キュアムーンライトに変身道具を渡し、次こそ倒す。
2:キュアサンシャインの言葉が気にかかる。
3:キュアムーンライト以外の参加者については現状能動的に襲撃するつもりはない。
[備考]
※参戦時期は46話終了時です
※いつきの「少し未来から来た」という発言や「ゆりの妹」などのキーワードに少なからず動揺しています
※ゆりと克己(ダープリは彼の名前を知らない)の会話で、ゆりが殺し合いに乗っていることやNEVERの特性についてある程度知りました
※キュアムーンライトもキュアサンシャインと同じく、自分より未来の時間軸から来ている可能性を考えています
※筋肉強化剤を服用しました
【支給品解説】
【筋肉強化剤@超光戦士シャンゼリオン】
ダークプリキュアに支給。
第35話「呪う女と
救いの女」に登場。
飲んだ人間の筋力を一時的に人外レベルまで上昇させる即効性の新薬。
飲用でなく、その粉末を浴びるだけでもマッスルボディになれる。
暁のガールフレンド軍団が使用し、大勢でザファイアと格闘した。
効果が一時的であることは作中では説明されていないが、作中の描写を見る限りでは、効果はすぐに切れる模様(戦闘終了時には切れているように見える)。
【追記】
※但し、作中では筋肉を自由に出したり引っ込めたりできるようにも見える。
実は暁たちにコレの効果を見せた研究員はその場で服用したわけではないので、もしかしたら自由に筋肉を出せた方が自然かもしれない。
…というわけで、詳しい事はは後続の書き手さんに任せます。
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最終更新:2013年03月15日 00:17