激突!仮面ライダーエターナルVSダークプリキュア!(前編) ◆gry038wOvE





 ダークプリキュアが進み続けた森は、彼女には似つかわしくない────飲み込み消したいほどの「光」が差し込んでいた。
 しかし、全身が黒尽くめの彼女の姿はその大量の光を浴びることによって初めて、その存在が証明される。闇と微量の光だけに染まれば、彼女の姿が浮かび上がることは決してないからだ。
 光が僅かであれば、人はダークプリキュアの存在にさえ気づかれず、其処にただ漆黒があるのだという認識しか受けない。
 ────無論、この状況下では夜間に闇に紛れた方が色々とやりやすいし、彼女は光を好ましく思わない。この際、己の存在などは関係ないだろう。


 ……が、逆に敵の姿を捕捉しにくくなるというデメリットも確かに存在する。
 ゆえに、彼女としては源太らと交戦した時間帯よりもむしろ、キュアサンシャインらと交戦して間もない今現在の方が遥かに動きやすいと思っていた。
 実際、夜も昼も変わらない。自分はどうあっても勝ち進むだけだ。それでも、やはり聴覚のみで戦うよりか、視覚に頼り行動した方が効率は上がる。
 そして、彼女の視覚は今この瞬間、標的の少女を見つけ出した。



(あれは……キュアムーンライト……)



 ────しかし、時として視覚がまた厄介な存在となるのだ。
 聴覚だけで得た情報はまだ絶対なものではない。耳から入る情報の中には、嘘も大いに含まれる。その人が受けた情報を、口で説明しているのだから、絶対に確定的な情報というわけではない。
 無論、内容や状況や相手によれば、それでも充分な真実味はあるが、そこに視覚が加わってこそ、真実味が増していく。
 人間が本当に信じていいのは、この目で確かに見たものだけだ。


 ────目的地にたどり着いた、今の彼女はその情報が確実なものであることがわかったのが、悔しいとさえ思った。


 聴覚と視覚の二つの感覚が、彼女に全てを伝え、唖然とさせる。
 だから、彼女は思わず、それを現実の光景だと受け入れることさえ拒んで思った。



(何を、バカな……)



 ────衝撃の事実を伝えるのが、聴覚。
 ────そして、それが真実だと教えてくれるのが、視覚。



(これが…………キュアムーンライトの────)



 己が執着し続けた対象の少女が、誰かも知らぬ男と戦いを繰り広げる悪夢が、彼女の行く手にはあった。
 対峙というには、あまりに一方的に敗北する姿。言ってみれば、危機的な状況に在る。
 彼女が本当にあのキュアムーンライトであるというのなら、この手で決着をつけねばならないのだから、この手を足を翼を、この戦いに介入させたろう。
 しかし、彼女は視覚と聴覚を通してその光景を見たというのに、まだ半信半疑であったから、ただ呆然と眺めるだけで戦いに介入しなかった。
 これが夜でなく朝の出来事だから、余計にはっきりと見えてしまう。



『え……そんな……』

『大体、あんた自身が俺が人間である事を疑問視していただろう、それが証拠だ。誰を生き返らせたいのか知らないが、感情や過去の記憶を失っていく奴を取り戻した所で意味なんてあるのか?』



 ──己の推測が一分の狂いも無かったことを証明する会話のシーンを、彼女は金色の両目に焼き付けてしまったのであった。
 男が白色の戦士に変身し、ゆりを追い詰める際の会話が、その前の話の流れを知らずとも、彼女が殺し合いに乗っていたということを教えた。
 男は言う。



『ああ、そうだ狂っているな。だが、過去に囚われ殺し合いに乗った悪魔が言えた事じゃねぇ。俺に言わせりゃ、人間は皆悪魔だ』



 ダークプリキュアは、その言葉でその少女が自ら進んで殺し合いに乗っていたということを知る。そして、何度も女子高生の姿を見つめなおした。


 其処にあるのは、ダークプリキュアの存在が近くにあることさえ気づかず、ただ目の前の敵に対し足掻こうとする無様な人間────きっと、普段ならダークプリキュアは気にも留めないであろう一般人が、そこにいた。
 唯一、その女子高生が人間離れしているのは、この状況にあっても決して諦めようとも挫けようともせず、足掻いて生き続けようとすることであろうか。


 しかし、それでもダークプリキュアならばきっと、一瞬で彼女を吹き飛ばせてしまえるだろう。
 ここからファークフォルテウェーブを放てば、きっと彼女は消滅する。
 ダークプリキュアの望む『勝利』が、そこで手に入るのだ。
 だが、それで勝ったと、そう言えるのだろうか────?


 仮に正々堂々と勝負したとして、今の彼女に負けるものだろうか。
 ましてや、キュアマリンという明らかに利用し甲斐のある仲間を喪い、これからも殺し合いを続けていこうという彼女には。



(どういうことだ……! キュアムーンライト……!!)



 結局、ダークプリキュアはそれ以後も戦いに顔を出すことなく二人の様子を見続けた。
 その二人の戦いは、キュアムーンライトの機転で、二人の戦いは誰も死なないままに終わった。
 それは、劣勢だったキュアムーンライトが辛うじて生き延びたというのみで、鼻から大道克己が死ぬという結末は在り得ない事象だったのかもしれない。


 ともかく、二人の戦いは終わり、ダークプリキュアの周囲は静かになった。
 だが、彼女は先ほどの騒音と静寂の落差にさえ気づかないほど、深く考え込んでいたので、実際既に聴覚の情報はどうでも良いのかもしれない。
 彼女が考えているのは一点だった。



(奴は一体、誰を生き返らせようとしたのだ……?)



 そう、彼女は誰かを生き返らせるために戦っている。
 それはわかった。認めたくは無いが、これは真実だ。
 しかし、結局、その会話の中でその「生き返らせたい相手」については、一切触れられなかった。これが殺人事件であったのなら、「動機」にあたる部分だ。
 もしや、加頭という男の戯言を鵜呑みにして、参加者全員を蘇生しようという短絡的な考えの元生まれた行為でもあるまい。
 彼女の性格について、そこまで詳しくは知らないのだが、そんな事をする人間とも思えなかった。



(キュアマリン、いや────)



 一人のプリキュアの名前を浮かべたが、それはきっと、目的の一貫だ。おそらくは、キュアマリンはキュアムーンライトの手で葬られた。誤って殺してしまったというわけでもないだろう。おそらく、それより先に明確な目的が存在したからだ。
 先ほどまでの推理は、推という字を入れるのさえ躊躇われるほど現実感の高いものだった。
 彼女が殺し合いに乗ったのは事実、そして彼女と行動していたキュアマリンが死亡したのも事実。
 それはあの場だけでも充分に確信であったし、その結果として在り得ないことも充分わかる。


 そして、もう一つの確信の持てなかった情報が、不意にその瞬間、頭を過ぎった────



『私は、知ってる……! あなたがゆりさんの『妹』だっていうことも!
 あなたのお父さんがあなたを愛していたことも知ってる! だから、あなたを救う手助けができる!』



 ムーンライトらの会話で、出て来た「母親」というキーワードが連想させた、「親」「家族」の概念。その言葉を聞いた時の既視感が、いま再び舞い降りた。
 キュアサンシャインから聞いたあの言葉を、ダークプリキュアはキュアムーンライトの行動と照らし合わせて考察する。




 お父さん────?
 母親────?
 妹────?


 その愛を知らず、人形として生きてきたダークプリキュアが知るはずも無い。
 幸せや愛の定義など、彼女にはわからないし、感じていたとしてもそれが愛なのだと気づかない。求めてはいても、知ってなどいない。
 ゆえに、その言葉を聞いても何の重みもない。……が、この時に限れば別であった。


 キュアムーンライトは殺し合いに乗っているというのに、大道が母親への愛情を失ったと聞いたとき、異常と言ってもいいほど動揺した(この時、ダークプリキュアも自分でも気づかぬほど小さな動揺を見せていた)。
 キュアムーンライトは、『仲間』は殺したというのに、『家族』というものに強く反応した。
 おそらく、彼女が求めたのはそれであると、ダークプリキュアは思った。
 いずれも、仲間や家族は、人間や動物ならば誰にでもあるはずのものだ。


 ダークプリキュアに二つの言葉は、重く圧し掛かる。


 ダークプリキュアが殺し合う目的は、サバーク様の下へと帰る為────言うならば、彼女の家族はサバークただ一人。
 だから、そこで妙な共感さえ生まれかけていた。
 だが、その共感こそが敵であり、在ってはならない物なのだと、彼女は思った。



(────奴は仲間の為ではなく、私と同じ目的で戦っているのか?)



 大事なもの二つを天秤にかけ、その結果、片方を選び片方を切った。
 家族のために、仲間を殺した。
 ダークプリキュアはこの場には敵対相手しかいなかったし、唯一同勢力といえるクモジャキーはオープニングでは言葉をかける暇すら与えられずに散った。
 しかし、それに一切動揺はしていないし、むしろそこで死んでしまった彼に対しては余計冷淡になったといえる。
 今のキュアムーンライトは、そんなダークプリキュアと同じだった。



(…………意味がない。あんなキュアムーンライトと戦うことに、意味はない!!!)



 ダークプリキュアは密かに激昂する。


 キュアムーンライトの絶望?
 ダークプリキュアとしてはそれは大いに結構。
 もし、ダークプリキュアの策略や行動によって、悪に堕ちるというのなら大歓迎である。──────しかし、それはあくまでダークプリキュアの手によって、だったらばの話だ。
 他人の手で悪に堕ち、他人の甘言に乗せられ、他人の変身能力を奪われたキュアムーンライトなど────意味のない、相手だ。


 彼女の中に刻み付けられた人間は、皆特異だった。
 プリキュアたちは皆、当然ただの無力な人間ではない。ダークプリキュアに比べれば格下の相手で眼中にない相手だが、少なくとも認識はされている。
 ドーパントなどという得体の知れない怪物に変身して、何もせずに撤退した彼女はそれと同等────或いは、それ以下。


 彼女は変身能力を奪われ、のこのこ逃げた(その場にいた克己が気づかなかったくらいなので、ダークプリキュアの目にもバード・ドーパントがデイパックを奪った映像や彼のデイパックの数は映っていなかったため、彼女はただ一撃浴びせて逃げたとしか思われていなかった)。
 何と落ちぶれた姿だろう。
 それでも、ダークプリキュアはあくまで、『キュアムーンライト』との勝負に拘る。





 ダークプリキュアは今、ココロポットとプリキュアの種を持っているであろう男・大道克己の姿を追っていた。
 月影ゆりがバード・ドーパントに変身して戦ったとして、それは何かが違う。
 彼女が固執するのは月影ゆりである以前に、キュアムーンライトとして戦う彼女だ。だから、彼女は変身のできない頃の彼女に変身後ほどの強い執着はしてこなかったし、プリキュアの名を貶める為にダークプリキュアを名乗ったりもした。
 ならば────



(私の手で取り戻し、私の手で決着をつけさせてやる────)



 そうだ、奴の力を取り戻すのだ。
 もし、奪う時は、自分の力で奪ってみせる。
 一度はダークプリキュアはキュアムーンライトの変身能力を奪った。
 その時とは正反対の行動でありながら、同じ目的を持ちながら、ダークプリキュアは歩く。
 彼女は引きつった目で、喜怒哀楽の一つを表現していた。
 それが、喜と楽は絶対にありえない。それは彼女を知る者なら、わかるだろう。
 しかし、怒か哀かは、誰の目にも見せなかったから、どちらかはわからないままだった。




★ ★ ★ ★ ★





「闇の力よ集え……ダークタクト!」



 ダークタクトを生成したダークプリキュアの目線の先にあるのは、先ほどキュアムーンライトと対決していた大道克己である。
 彼の外見は若いようにも見えれば、ある程度年をとっているようにも見える。だが、険しく感情を映さない姿は、善良にも見えないし、笑顔さえ似合いそうになかった。
 ダークプリキュアが持つ情報といえば、少なくとも彼は何らかの変身者であり、ネクロオーバー・NEVERなる特異な存在だということ。
 NEVERにしろ何にせよ、一番厄介なのは変身能力だ。
 あのエターナルの姿になる前────変身前に奇襲した方が確実であり、絶対である。

 故に────



「ダークフォルテウェイブ!」



 ────こちらに気づく前に、一瞬で解き放ち、吹き飛ばす。


 まるでこちらに気づいていない生身の相手を攻撃することに躊躇はない。
 彼女が執着するのはキュアムーンライトだけであり、それ以外は取るに足らない脇役でしかないのだ。
 だから、この行為さえ蟻を踏むのと同じで、後ろめたく思ったりしない。
 彼女はゆっくりと地を踏み、ココロポットの回収へ向かっていたのである。





「死んだか……? まあいい……」



 てくてくてく。


 土ぼこりが舞い、少し視界が悪い。
 デイパックは無事だろうか。何にせよ、あれがそう簡単に壊れるとは思えない。
 人体が吹き飛ぶ程度の威力は使ったはずだ。デイパックの中身も大半が吹き飛んでいるだろう。


 ─────が、



「次から次へと、死にたいヤツが多いらしいな」



 眼前の土ぼこりの山から、爆煙を踏み越えていると錯覚させる跳躍力で、白い戦士────仮面ライダーエターナルが現れ、ダークプリキュアに言う。
 彼女はそれに動じなかった。とはいえ、やはり厄介には思っただろう。
 顔をもう少し上げて、彼を見ながらダークプリキュアが口を開いた。



「NEVER……やはり、そう簡単には消えてはくれないか」



 身長を見れば大きな差があったが、ダークプリキュアは敵の大きさには屈しない。
 まあ、場合によれば彼は変身して奇襲を回避するだろうと当たりをつけていたために、すぐ彼女はダークタクトを構えた。
 だが、シュタッと音をたてて地に舞い降りる彼は、構えることさえしない。
 ただ堂々と、眼前のダークプリキュアを見下しているかのように、楽な姿勢で立って睨みつけている。
 積極的な攻撃よりも、敵が来るのを待って迎撃す……今はそういう怠惰な格闘タイプであった。何も普段からそういうわけではない。ただの気まぐれであった。
 彼はダークプリキュアの華奢で若々しい少女の姿を見て、呆れたように吐き捨てる。



「……なんだ、また女か」

「キュアムーンライト……奴の変身道具を渡してもらおう」



 ダークプリキュアには性別など関係ない。強く意識したこともない。
 だから、彼の台詞は無視するし、苛立ちもしない。感情が動かないのだ。
 それよりも、真先に本題となる要求を始めた。
 彼女の目的は単純。彼女の武器を────せめてココロポットと欠けたプリキュアの種を得ようというのだ。
 これが殺し合いであるから、奇襲ついでに得ようとしたのみで、手に入るのならばどういう形でもいい。ここで明け渡してもらえるならそれでいい。





「ほう。キュアムーンライトの知り合いか? っていうことは、お前がダークプリキュアっていう奴みたいだな。
 確かあのキュアムーンライトとかいう奴の『姉妹』だったか……」



 ダークプリキュアは眉を顰めた。
 エターナルに変身する大道克己の曖昧な記憶は、先ほどの会話での月影ゆりの反応をそう認識させていたのだ。無論、彼とて、確信があって言ったわけじゃない。
 ただ、そこに間違いがあったところで、彼には恥でも何でもない。第一、この言い方そのものが曖昧だ。
 とにかく、そんなうろ覚えの言葉だったが、ダークプリキュアには多少効き目があった。



「何を言うかと思えば…………やはり、この場には余計な記憶違いをしている人間が溢れているようだな。
 私は確かにダークプリキュアだ。しかし、キュアムーンライトの姉妹などではない!」



 そう口にしてはいるものの、彼女は内心動揺していたのである。
 何故、こんな風なことを口にする者が、この場にはこんなにいるのか。
 彼女は何も知らなかったし、彼女はそこから確信を得ていくこともない。
 ただ、もやもやとした疑念が頭の中を渦巻く。



(まさか、キュアムーンライトが言ったのか……?)



 そう、ダークプリキュアという名前を名簿で知ったにしても何にしても、そこからキュアムーンライトの姉妹という発想が生まれるには、何らかの理論を通す必要がある。
 少ない手がかりでそれを得ることは、おそらく彼には不可能だろう。
 接触したキュアムーンライトの口から、何かを聞いた可能性が高い────。
 実際、大道は彼女に揺さぶりをかけて、その反応から姉妹という情報を得たのだから、ダークプリキュアの推論もあながち間違いではなかったといえる。



(だとすれば、何故奴はそんなことを……? まさか、私とキュアムーンライトは本当に────)



 キュアサンシャインといい、キュアムーンライトといい、この眼前の白き怪人といい、不思議な勘違いをする人間が多すぎた。
 サバーク博士に作られたダークプリキュア、そして月影博士の子・キュアムーンライト。
 それが姉妹という言葉には直結しない。二人は敵対する存在であり、決して交わらない光と影なのであった。





「まあ、そんなことは俺にはどうでもいいし興味は無い……。
 女だろうが、あいつの姉妹だろうが、武器を向けたからには、戦うしかあるまい?
 ……しかし、残念ながら向けた相手が悪かったみたいだな!」



 と、エターナルの言葉でダークプリキュアは我に返る。



「なるほど……。欲しくば戦って奪えということか!」

「そういうことだ!」



 何も言わずに問答無用で攻撃を受けていれば、ダークプリキュアには只ならぬダメージが襲い掛かっていたことだろう。
 そんな隙を作っていたことを悔いながら、しかし実際に何も起こっていないのなら戦えるという新たな覚悟で、ダークプリキュアは敵を睨んだ。
 戦いの火蓋は切られた。



「悪いが時間がねえ。すぐに地獄に送ってやる!」



 エターナルの主要武器・エターナルエッジが抜かれ、ダークプリキュアへと駆けていく。
 人知を遥かに超え、韋駄天さえも目を見開き驚愕するような一秒間が、二人の距離を一瞬で零へと変える。



(何っ……!?)



 瞬きさえ許されないであろう高速で寄って来たエターナルに、ダークプリキュアは咄嗟にダークタクトを翳す。
 支給品を十メートルほど遠くへ置いたままにしているエターナルだが、その中には既に彼にとってめぼしいものはない。横から誰に取られようが、もうどうでもいいし、実際そんなことをする相手がいるのなら首をかき切るだけである。
 エターナルエッジと、ダークタクトがぶつかりあう。
 攻として、防として……二つの武器が、今にも砕けそうな距離で放たれあった。



「……クッ。見くびることができる相手ではないらしいな……NEVERというものは!」

「お前もやるじゃねえか。闇のプリキュア……!」



 エターナルは、この一瞬で勝負が決まると、どこか高をくくっていたらしい。
 それもダークプリキュアの反射神経は、武器を翳すという形で防いでしまった。
 エターナルエッジが、その武器に1ミリたりとも食い込んでいないことから、それが易々と砕けない性質のものであるのは理解できた。
 が、それでも攻撃はやめない。


 宙を舞う、エターナルの横一回転の蹴り。
 頭が地を、足が天を向く、この独特の蹴りには、ダークプリキュアの顔が狙われる。
 しかし、それもまた両腕が防ぎ、彼の体制が元に戻るまでの一瞬で一歩後退する。





「ハッ!」


 そして、そこからまた前方へと跳びながら、無数の拳をダークプリキュアは繰り出した。
 一秒の間に何発、いや何十発繰り出されたのだろうか。見ているものの眩暈さえ誘いかねない強烈な連打であった。
 それが十秒間。エターナルはその間、一度たりとも攻撃はしていなかった。


 …………が、はっきり言えばダークプリキュアも攻撃らしい攻撃はしていない。
 何故なら、その全てをエターナルは交わす、あるいは受け流すという形で手ごたえのないものにしていた。
 確かに何度かはエターナルの体や顔に当たっている。しかし、受け流すような動作が原因で全ては「当たる」だけで、ダメージという形では届いていない。
 彼が浴びるのは、その拳圧によって沸き起こる風だけだ。



「クッ……!」

「さっきのヤツよりは『アタリ』だな。速さも充分だ。俺が急いてるからチャッチャと片付けようとしたっていうなら感謝もしてやる」



 エターナルは、そう言って真正面にエターナルエッジを繰り出した。
 眉間か眼球へと突き刺すためか何かはわからないが、とにかく全てを飲み込む速さを帯びた一撃を。
 顔に当たりかけたその攻撃は、ダークプリキュアの腕が真横から叩き落としたのだが、エターナルはダークプリキュアの足元のバランスを崩すように、地面に足をくっつけたまま半円を描く蹴りをかました。



「……うがっ!」



 ダークプリキュアが地面へと倒れる。
 立っている者と、倒れ伏す者────どちらが優位かは手に取るようにわかるだろう。



「……だが、状況が状況だ。命は捕らせてもらう」



 地面というフィールドからを這い出ようとする上半身をエターナルは真横から蹴り、ダークプリキュアの体を転がした。
 翼があるため、人間の体のように綺麗には転がらず、彼女の翼は彼女の体を包み込もうと必死になった。
 それはあまりに弱弱しい姿であるように見えた。



「地獄行きの切符だ……受け取りな!」



 エターナルがメモリをエターナルエッジに差し込んでいる隙に、ダークプリキュアは立ち上がる。
 幸いにも、大きな技は喰らっていないので、翼が大きな負傷を抱えた程度で、すぐに立ち上がることができた。
 だが、そんな彼女が立ち上がるタイミング丁度を狙っていたのだろう。
 立ち上がるタイミングそのものを狙い────





『エターナル!マキシマムドライヴ!』



 ─────しかし、一方のダークプリキュアも、エターナルの目測より一瞬早く立ち上がっていた。



「ダークパワーフォルテッシモ!」



 エターナルが向かってくる前に、赤い気柱がダークプリキュアの周囲を覆う。
 太陽に照らされる朝方の平原を、赤黒い闇が包んだ。
 だが、何も構うことなく、力に導かれるまま、彼は突き進む。
 それは、キュアムーンライトとの戦いの時と同じだった。



 ドゴォォォォン



 そう、結果として二つの力が相殺し切れずに爆発する点まで、同じなのだ。



 ────二つの戦いは、まるで姉妹のように同じ展開を見せたのである。



 そして、その戦いの当事者のうち一人だけがそこに立っていた。




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最終更新:2013年03月15日 00:16