希望 ◆LuuKRM2PEg



 午前6時を過ぎてから行われた放送を聞いて、沖一也の中では様々な感情が湧き上がっていた。
 尊敬する大先輩である本郷猛をはじめとした18人もの死に対する悲しみと憤り、放送を行ったサラマンダー男爵という男やノーザの死に対する疑問、残された者に対する罪悪感。
 様々な思いが一也の胸を駆け巡るが、まず思い浮かんだのは主催者達の思い通りになっていることに対する悔しさだった。あの時、猛は命を捨ててまで自分達を逃がしてくれたのに、肝心の自分は猛の遺志をちっとも受け継いでいない。
 一体、自分は何をやっているのか。人類の未来を守らなければならないのに、その使命をまるで果たせていない。これでは先輩ライダーの一文字隼人や結城丈二、更に村雨良という男と同じ『仮面ライダー』を名乗る資格がなかった。

(本郷さん……申し訳ありません。俺が無力なせいで、こんなことになってしまい……ですが、それでも俺はあなたの分まで戦い続けます。仮面ライダースーパー1として)

 それでも、一也は決して挫けない。
 木漏れ日の光を見上げながら、彼は本郷猛の言葉を思い出す。どれだけボロボロになろうとも、こんな自分を希望だと信じてくれた。
 長い間、人々の希望を守ろうとたった一人で地獄を味わってきた彼の矜持を無駄にしない為に、自分がその遺志を継いで戦うとあの時誓ったはず。これから歩く先にどんな悪夢が待ち構えていようとも、全ての命を守るまでは決して死ぬわけにいかなかった。

(あのノーザという魔女が呼ばれたという事は、やはり本郷さんは最後まで戦い抜いた……いや、アクマロという怪人が裏切ったのか? どちらにしても、今は真相を確かめる為だけにホテルへ戻るわけにもいかないな……)

 放送では忘れ難いあの悲劇を生み出したノーザの名も呼ばれている。つまり、自分達が撤退してからあの場で何かがあった可能性が高いが、ここでそれを考えた所で何の意味もない。わざわざホテルに戻って確認しようとしても、恐らくアクマロとスバルはもういないだろうし、何よりも猛から託された彼女達を危険に晒すなど以ての外だった。

「あ、あ、あ、あ、あ……!」

 そして今、一也の耳に震えるような少女の声が届いて、振り向く。
 あの凄惨な戦いの中で、ようやく助けることができたアインハルト・ストラトスの表情は放送が終わってからずっと、失意と絶望に染まっていた。
 無理もない。一也は現場にいなかったから知らないが、高町なのはと鹿目まどかはアインハルトを守ろうとして惨殺されたといつきから聞いている。加えて、あの放送ではアインハルトにとって尊敬する人物であるフェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの名前も呼ばれた。
 頼れる人物が立て続けに死んだという事実を一方的に突き付けられて、それを受け入れるなどこんな子どもには無理に決まっている。

「なのはさんやまどかさんだけじゃなく、フェイトさんやユーノさんまで……それにマミさんやほむらさんも……!」
「アインハルト、落ち着いて!」

 宝石のような瞳から涙を流すアインハルトの肩を、明堂院いつきが支えた。その声は悲痛に満ちていて、表情もとても辛そうに見える。
 いつきもあの放送で来海えりかという名前が呼ばれてから、強いショックを受けているように見えた。しかしそれでも、悲しみを堪えて気丈に振舞おうとしているのだろうが、そんな彼女の心構えに一也は後ろめたさを覚える。
 守ろうと誓ったのに、逆に無理をさせてしまっては意味がなかった。

「私が、私がいたから……私なんかと関わったせいで、たくさんの人が死んだ……なのはさんもまどかさんも本郷さんも流ノ介さんも……みんなが……!」
「アインハルトちゃん、それは違う!」

 だから一也は、そこから紡がれるアインハルトの言葉を無理矢理遮るように叫ぶ。

「本郷さん達が死んでしまったのは、君が悪いわけじゃない!」
「えっ……? でも、なのはさんとまどかさんは私なんかを庇ったせいで……!」

「彼女達の死は元を辿れば、そうなるきっかけを作ったノーザ達や、こんな馬鹿げた殺し合いを仕組んだ加頭が原因だ! だから、君が悪いわけがない!」
 アインハルトがここまで追い込まれるきっかけとなった場面を見ていないのに、こんなことを言っても何の慰めにもならないかもしれない。だがそれでも、少しでも可能性があるならばそれに賭けるしかなかった。

「たった六時間で、これだけの犠牲を出してしまったのは俺が無力だったからだ……」
「でも、なのはさん達は私が……!」
「いや、あの戦いだって本当なら俺はもっと早くに駆けつけなければいれば、犠牲が出なかったかもしれないし、君達二人にこんな辛い思いを背負わせることもなかった……だから、責任を感じることなんてない」

 こんなのはただの気休めでしかないが、それでもアインハルトにいつまでも自責の念を背負わせるわけにはいかない。誰の笑顔も生まない殺し合いを強いた主催者たちがのうのうとしていて、こんな少女が落ち込んだままでいるのはおかしいからだ。

「優しいんですね、沖さんは……」

 しかしアインハルトの口から出てきたのは、蚊の鳴くような声だった。
 俯いた表情からは、ようやく登り始めた太陽の輝きを呆気なく塗り潰してしまいそうなくらい、濃い闇が宿っているように見える。

「こんな私を助けてくれただけじゃなく、そこまで言ってくれるなんて……なんてお礼を言ったらいいか……」
「違う、そういう意味じゃ……!」
「でも、さっきも言ったみたいに私と関わった人達がみんな死んでしまうんです……私は、疫病神でしかないのですよ」
「何を言っているんだ、そんな訳ないだろう!」
「このままだと、いつか二人も……身勝手なのはわかりますが、ティオの事をよろしくお願いします……武装形態」

 そう言いながらアインハルトはいつきから離れて、悲しげな表情でアスティオンを一瞥すると、その小さな体躯から眩い光が放たれた。その眩さを前に、一也は思わず目を閉じてしまう。
 しかしそれからすぐに瞼を開くと、目の前に立っていたアインハルトの姿が大きく変わっていた。小学生程度の外見だったが、まるで魔法でも使ったかのように大人のような姿に変身している。
 仮面ライダーとはまた違うやり方の変身を前に、一也は思わず瞠目した。

「……さようなら」
「待つんだ!」

 悲痛に満ちた言葉を耳にした一也は危機感を覚えて腕を伸ばそうとするが、その直後にアインハルトは背を向けて、逃げるように走り出していった。
 放送まで求刑していたのに加えて、変身した影響もあるのかその足取りは先程より軽くなっていて、すぐに見えなくなる。

「アインハルトちゃん、待ってくれ!」
「一也さん、すぐに追いましょう!」

 そう語るいつきの表情からは、辛さを無理矢理抑えつけているような雰囲気が感じられた。
 プリキュアという戦士も、仮面ライダーと同じで人類の平和を守る為の存在で、いつまでも悲しみに溺れているのは許されないのはわかる。しかし、まだ中学生でしかない彼女にそこまでの強さが必要とは、一也は思えなかった。

「いつきちゃん、どうか無理をしないで欲しい……確かに、悲しみは乗り越えなくてはいけないが、無理にやろうとしても何の意味もない」
「……ありがとうございます。でも、僕だっていつまでも悲しんでいるわけにもいきませんから。そうじゃないと、えりかが怒るに決まってるでしょうし。それに今は僕の事よりも、アインハルトを止めないと……サラマンダー男爵の事も、その後に話します」
「そうか……よろしく頼む」

 強くあろうとするいつきの姿に一也は胸を痛めるが、それを振り払ってアインハルトを追う為に走り出した。




「嘘でしょ……えりかって、まさか……!?」

 朝日が孤島を照らす中、放送で十八人もの人間が死んでしまったという事実は蒼乃美希に強い動揺を与えていた。
 宿敵ノーザがこんなにも早く死んでしまうという驚きも混ざっていたが、プリキュアでありながら人を守れなかったという自責の思いがそれを上回っている。
 そして、放送で呼ばれてしまった人間の中に、あの来海えりかが含まれていたことが、美希に大きなショックを与えていた。
 ラビリンスとは違う地球を危機に陥れてきた組織、さばくの使徒と戦ってきたプリキュア・キュアマリンに変身していた彼女とは、そこまで長い付き合いではないが確かな絆が芽生えていた。

「美希ちゃん、えりかってまさか……!?」
「……きっと、あの子の事だと思います。あたしやラブ達の友達の……来海えりかで、間違いないです」
「そんな……っ!」

 美希は弱々しく頷くと、孤門一輝は悔しそうに拳を握り締める。
 その気持ちは、美希も同じだった。命を玩具のように扱う悪辣な殺し合いを全く止められず、無様に震えていたせいでえりか達が犠牲になってしまう。彼女達を殺した者への憤りが、美希の中で燃え上がり始めた。
 ラブやつぼみ達が無事だったが、だからといって救いにはならない。彼女達もえりかの死には悲しむだろうし、何よりもサラマンダー男爵が加頭順に協力しているという事実はショックなはず。
 美希は詳しい事情を知らないが、つぼみ達は男爵を改心させてオリヴィエという少年との平和な日々を取り戻させたらしい。そんな彼がまた悪事に手を染めたなんて、つぼみ達にはあまりにも残酷な話だ。
 プリキュアのみんなで集まって、ショッピングモールでえりか達のファッションショーを楽しく見ていた最中だったのに、どうしていきなりこんな闘いを強いられなければならないのか。本当なら今頃、つぼみ達のショーにいきなり乱入してきた見知らぬ少女も一緒に連れて、楽しく遊んでいたかもしれないのに。

「美希ちゃん、僕は……」
「孤門さん、行きましょう」

 えりかがいる日常が、もう二度と戻ってこない事に寂寥感を覚えるものの、美希はそれを振り払って一輝に力強い表情を向けた。
 決して希望を捨ててはいけない事を思い出させてくれた彼を、少しでも心配させないために。

「えりかの為にも、いつまでも悲しんでるわけにはいきませんから……こうしている間に、これ以上誰かが死ぬなんてことがあったら、それこそえりかは怒るでしょうし」
「……その気持ちは確かに必要だけど、無理をするのは駄目だ! 誰かを守るのは必要だけど、それで君が無理をしなければいい理由にはならない」
「ありがとうございます……でも、あたしは戦わないといけないんです。他のみんなだって、今もどこかで頑張ってるはずですから」
「でも……?」

 一輝の言葉は、そこで唐突に止まる。見ると、彼の視線は美希の背後に集中しているようだった。
 それを怪訝に思った美希も、一輝のように後ろを振り向く。すると、一人の少女が森の中から飛び出してくるのが見えた。美希より少し年上に見える彼女は緑色の長髪を棚引かせて、何かから逃げるように走っている。
 何があったのか。一瞬だけそう思った直後、少女が駆け抜ける先が砂浜であるのを見て、美希の全身が警鐘を鳴らす。
 彼女は自殺しようとしているという最悪の可能性が、美希の思考を一瞬で満たした。

「あの子……まさか!?」
「待ちなさい!」

 同じ不安を抱いたのか、走り出した一輝の後を追うように美希も飛び出す。だが少女の足取りはおぼつかないが、それでも早くてこのままでは追いつけそうにない。
 だから美希は懐から取り出したリンクルンの上部に、クローバーキーを差し込んだ。

「チェンジ、プリキュア! ビート・アーップ!」

 その叫びと共に彼女の全身は青い光に包まれて、一瞬で希望のプリキュア・キュアベリーへの変身を果たす。
 名乗る暇なんて今はない。プリキュアの脚力を用いて先を進んでいる一輝を追い越して、自殺を図ろうとしている少女に追いついて、その背中にしがみついた。

「やめなさい! あなた、何をしようとしているの!?」
「放してください! 私は……私は生きていてはいけないんです!」

 振り解こうと暴れる少女の言葉で、ベリーは確信する。やはり、彼女は自殺をしようとしていたと。

「生きていちゃいけないって……何てことを言ってるの!?」
「私のせいで……私なんかを守ろうとしたせいで、みんなが死んでしまったんです! なのはさんやまどかさん、それにフェイトさんにユーノさんだって……私みたいな厄病神のせいでみんなが死ぬなら、代わりに私が死ねば……!」
「馬鹿なことを言わないで!」

 ベリーは少女の言葉を遮るかのように叫び、顔を合わせるかのようにその身体を無理矢理動かす。
 そのまま少女の頬に平手打ちをして、辺りに乾いた音を響かせた。

「あたしはあなたに何があったのかは知らない! でも、もしもあなたが死んだらあなたを守った人達の思いはどうなるの!?」
「えっ……?」
「その人達は、あなたを守ろうと頑張ったはずでしょ! でも、あなたが簡単に命を捨てたら、その人達の思いはどうなるの!? 何にもならないわ!」

 今にも壊れてしまいそうな少女の心を取り戻すため、ベリーは必死に腹の底から叫ぶ。
 彼女の言っていたなのはやまどか、それにフェイトとユーノとは放送でサラマンダー男爵が告げた、たった六時間で死んでしまった人達のことかもしれない。言葉から察するに、きっと四人は少女を庇った結果、その命を奪われたのだろう。
 罪悪感のあまりにパニックとなって、自殺という安易な逃避を選んだ。確かにまともな人間ならば、もしも自分のせいで誰かが死んでしまうという状況に陥ったら、発狂してもおかしくない。
 けれど、だからといって親から貰った大切な命を粗末にしていい理由にはならなかった。

「彼女の言う通りだ」

 そして、ようやくこちらに追いついてきた一輝もまた、少女を諭す。

「僕達は君の事や、君がどんな辛い目に遭ったのかは全くわからない……でも、だからこそ君の事を知りたい。君を支える為にも」
「でも、私なんかがいたら今度はあなた達が……あの時みたいに、あなた達二人が死んでしまったら……!」
「いいや、僕達は決して倒れるつもりはない! こんな馬鹿げた殺し合いを止めるまでは、絶対に諦めたりもしないよ。それに、君みたいな子を一人でも多く助けたい……だから、死ぬなんて言わないでくれ」

 一輝の語る一語一句を、ベリーは心の底から同意した。
 不意に彼女は、おもちゃの国でトイマジンの真実を知った際に戦えなくなったキュアピーチを、プリキュアのみんなで立ち上がらせた時のことを思い出す。この少女はかつてのピーチと同じで、責任のあまりに何もできなくなっていた。
 だから、自分達が彼女に生きる力を与えなければならないと、ベリーは考える。
 次の瞬間、ガサガサと植物が揺れるような音が響いたので、彼女は反射的に振り向いた。突然の来訪者にほんの少しだけ警戒心を抱くも、森の中から現れた少女の顔を見て、それは瞬時に消える。

「君はまさか……ベリー!?」
「えっ……もしかして、いつき!?」

 見知らぬ男と共に現れたのは、死んでしまった来海えりかの友達であり同じプリキュアである少女、明堂院いつきだった。

「よかった……あなたは無事だったのね!」
「ベリーこそ、無事でいてくれて本当によかった……!」

 ベリーもいつきも顔を合わせたことで、その表情が一気に晴れていく。
 会いたかった友達と出会えたことで、この時ばかりは流石の彼女も張り詰めていた神経をようやく解すことができた。
 しかしいつきの顔を見て、ベリーはすぐに思い出す。友達を失ったばかりの彼女の前で喜ぶことなんて、出来る訳がなかった。
 自分と違って彼女は、友達を失ったばかり。その気持ちを察することができなかったベリーは、思わず心を痛めてしまった。




 放送で呼ばれてしまった本郷猛の後輩で、仮面ライダーの一人でもある沖一也という男から聞いた話は、孤門一輝に衝撃を与えるのに充分な威力を持っていた。
 美希達プリキュアと戦っていたノーザという魔女が、洗脳したスバル・ナカジマという少女や筋殻アクマロという怪人と共にいつきやアインハルトの仲間達を殺し続けたらしい。しかも、その場所はこれから向かおうとした市街地とは正反対の位置にあるホテルだった。
 反対方面の市街地を目指してよかったなどと、思える訳がない。自分一人がいれば犠牲者が出なかったなどと自惚れるつもりはないが、可能性はゼロではなかったかもしれなかった。それにアインハルト・ストラトスという少女だって、ここまで追い詰められることはなかったかもしれない。
 だが今は、亡くなった四人の為にも戦わなければならなかった。ノーザは死んでしまったが、まだアクマロとスバルがいる。恐らく、もうホテルから離れているだろうから、少しでもその危険性を多くの参加者に伝える必要があった。

「孤門さん、ありがとうございます……美希ちゃんと一緒に、アインハルトちゃんを止めてくれて」
「いえ、僕は何もしていませんよ。彼女を支えてくれたのは主に美希ちゃんですから」
「それでも俺は、あなたにもお礼を言わなければいけません。不甲斐ない俺の代わりに、彼女を支えてくれたのですから」
「……そうですか」

 微笑みながら一也は感謝の言葉を告げてくるが、一輝は素直に喜べない。
 二人の少女を守りながら戦いを乗り越えてきた一也に対して、自分は何もしていなかった。アインハルトの自殺だって、もしも美希がキュアベリーに変身していなかったら止められなかったかもしれない。
 同じ大人でありながら、力がないのが悔しかった。

「それにしてもBADANにアンノウンハンド、そしてブラックホールか……やはり、この殺し合いを仕組んでいる奴らは、一筋縄ではいきそうにないですね」

 そんな一也の言葉を耳にして、一輝は胸の中に広がりつつある慚愧の念を一旦振り払う。

「確か、一文字隼人さんはこの殺し合いを開くために、多くの人を別々の時間から集めたって……」
「はい。あの人が言うには、俺が経験した事件は数ヶ月程前の出来事だったらしいです。ですがみんなの話を聞いていると、主催者達は時間だけでなくそれぞれの世界すらも越えている可能性も、確実な気がします」
「成程……」

 アインハルトを止めてから、一輝達は数時間後には禁止エリアになるはずのD-9エリアで休息を兼ねた情報交換を行っている。
 まず、あの加頭順やサラマンダー男爵と言う男の背後にいる黒幕の正体が、時間と世界を超越する程に強大な存在である可能性を立てた。
 その証拠に一也の先輩である一文字隼人という男は、一也が生きる数ヶ月先の未来から連れて来られたらしい。加えて美希といつきも互いの認識に齟齬があったことから、美希はいつきの生きる世界よりも少し過去から来た説があると、一也は立てる。
 その推測を絵空事と斬り捨てるのは、一輝には到底できなかった。アンノウンハンドのような未知の存在であればそれくらいのことはできるかもしれないし、何よりもこの状況で起こる出来事に対して「有り得ない」などと言うのは以ての外。
 自分達の敵は、ウルトラマンやTLTの手に負えるかどうかもわからないという認識も必要だった。

(そんな連中が、未来ある子ども達に殺し合いを強いている……)

 不意に一輝はアインハルトを慰めている、美希といつきの方に振り向く。
 アインハルトは先程と比べるとまだ落ち着いているように見えるが、やはり不安定な事に変わりはなかった。尤も、目の前で仲間が殺されるなんて大人でもトラウマが残りかねない出来事を、あんな少女が簡単に乗り越えるなんてできるわけもない。
 本当なら一也達と一緒にいつきやアインハルトを立ち直らせたかったが、彼女達だけに拘るわけにもいかなかった。西条凪達だって心配だし、まだ生きている人達のことも救わなければいけない。

(情けないな、僕は……)

 その直後、一輝はまるで二人を切り捨てているような感覚に陥ってしまう。
 いつきも一見すると悲しみを乗り越えたように見えるが、本当はまだ辛いはずだった。確証は出来ないが、彼女や美希の仲間である月影ゆりという少女は死んでしまった家族や妹のダークプリキュアのため、殺し合いに乗った可能性があるらしい。
 頼りになる先輩が人の命を奪うような事実なんて、誰だって認めたくないだろう。そんな状態の彼女達を一也だけに押し付けるのはやはり心苦しいが、本当に彼のためを思うなら美希を守らなければいけなかった。

「それと……孤門さん、本当に二人だけで大丈夫なのですか? いくらノーザが死んだとはいえ、この島にはまだ危険人物がたくさんいるかもしれませんよ」
「それはそうですけど、僕一人があなたの負担になるわけにもいきません」

 ここに集まった五人の目的地は偶然にも一致している。しかし一也達の方は戦いの疲れがまだ完全に癒えていないのだから、本当ならもっと休息が必要だった。
 だから一輝と美希は先に市街地へ行き、一也達は休憩後に移動してから午後12時辺りに中学校に落ち合うこととなっている。それほど疲労していない二人が、いつまでも休むわけにもいかなかったからだ。

「いつきちゃんとアインハルトちゃんのこと、どうかよろしくお願いします」
「わかりました……孤門さん達も、どうか気を付けてください」

 そう言葉を交わした後、美希はこちらに振り向いてくる。
 そして、彼女はもう一度だけアインハルトと目を合わせた。

「アインハルト、確かに辛かったかもしれないけど……どうか悲しみに溺れないで。あなたにはいつきと沖さんがついているから」
「いつきさんと、沖さんが……?」
「そう、あなたは支えてくれる人がここにいるの。それにあたし達だって、離れていてもあなたの事を思ってるの……だから簡単に諦めないで。あたし達は、あなたに生きていて欲しいと願ってるから」

 そう言い残した美希はデイバッグを手に取った後、いつきに顔を向ける。

「アインハルトのこと、任せたからね。いつきもどうか、無事でいて……ゆりさんと出会ったら、止めてみせるから」
「わかってるよ……美希の方こそ、気をつけて」
「ありがとう」

 ようやく出会えた友達同士を離れ離れにさせるのは心苦しいが、情けない事に一輝はここにいる者達の中で一番弱い。だから、美希の助けが必要だった。
 美希はこの提案に賛同してくれたが、それでも胸が痛む。しかしだからこそ、自分は弱音を吐かずにまだ若い美希の支えになる必要があった。

「二人とも、どうかご無事で」
「沖さん達も、気を付けてください」

 一也達の無事を祈りながら、美希を連れた一輝は市街地に向かう。
 ここから先、自分が生きて力になれるのかはわからないが、諦めるわけにはいかなかった。どんな時でも絶望だけはしていけないと美希に言ったのだから、自分だってそうしなければならない。
 そうすることで、これまで何度も危機を乗り越えてきたのだから。


【1日目・朝】
【D-9】

【共通備考】
※五人の間で情報交換をしました。
※沖一也、明堂院いつき、アインハルト・ストラトスは少し休んでから市街地に向かう予定です。

【蒼乃美希@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:リンクルン@フレッシュプリキュア!
[道具]:支給品一式、シンヤのマイクロレコーダー@宇宙の騎士テッカマンブレード、ランダム支給品1~2
[思考]
基本:こんな馬鹿げた戦いに乗るつもりはない。
1:今は孤門と市街地に向かい、みんなを捜す。
2:プリキュアのみんな(特にラブが) やアインハルトが心配。
3:相羽タカヤ、相羽シンヤ、相羽ミユキと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX3冒頭で、ファッションショーを見ているシーンからの参戦です。
※その為、ブラックホールに関する出来事は知りませんが、いつきから聞きました。
※午後12時までに中学校で沖一也達と合流する予定です。


【孤門一輝@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康、ナイトレイダーの制服を着ている
[装備]:ディバイトランチャー@ウルトラマンネクサス
[道具]:支給品一式、ランダム支給品0~2
[思考]
基本:殺し合いには乗らない
1:美希ちゃんを何としてでも保護し、この島から脱出する。
2:姫矢さん、副隊長、石堀さん、美希ちゃんの友達と一刻も早く合流したい。
3:溝呂木眞也やゆりちゃんが殺し合いに乗っていたのなら、何としてでも止める。
4:相羽タカヤ、相羽シンヤと出会えたらマイクロレコーダーを渡す。
5:沖さん達が少しだけ心配。
[備考]
※溝呂木が死亡した後からの参戦です(石堀の正体がダークザギであることは知りません)。
※パラレルワールドの存在を聞いたことで、溝呂木がまだダークメフィストであった頃の世界から来ていると推測しています。
※午後12時までに中学校で沖一也達と合流する予定です。


【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(小)、強い決意
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
0:今はここで少しでも身体を休めて、その後に孤門さん達と合流するために行動する。
1:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
2:この命に代えてもいつきとアインハルトを守り、スバルを絶対に助けてみせる。
3:先輩ライダーを捜す
4:鎧の男(バラゴ)は許さない。だが生存しているのか…?
5:仮面ライダーZXか…
6:アクマロは何としてでも倒す。
7:ダークプリキュアをどうするべきか…
[備考]
※参戦時期は第1部最終話終了直後です
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時までに市街地エリアに向かう予定です。
※村エリアから東の道を進む予定です。(途中、どのルートを進むかは後続の書き手さんにお任せします)
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。


【明堂院いつき@ハートキャッチプリキュア!】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中)、罪悪感と決意
[装備]:プリキュアの種&シャイニーパフューム@ハートキャッチプリキュア!
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1
[思考]
基本:殺し合いを止め、皆で助かる方法を探す
0:今は身体を休めながら、アインハルトを慰める。
1:沖一也、アインハルトと共に行動して、今度こそみんなを守り抜く。
2:仲間を捜す
3:ゆりが殺し合いに乗っている場合、何とかして彼女を止める。
4:スバルさんをアクマロの手から何としてでも助けたい。
5:ダークプリキュアを説得し、救ってあげたい
[備考]
※参戦時期は砂漠の使徒との決戦終了後、エピローグ前。但しDX3の出来事は経験しています。
※主催陣にブラックホールあるいはそれに匹敵・凌駕する存在がいると考えています。
※OP会場でゆりの姿を確認しその様子から彼女が殺し合いに乗っている可能性に気付いています。
※参加者の時間軸の際に気付いています。
※えりかの死地で何かを感じました。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。


【アインハルト・ストラトス@魔法少女リリカルなのはシリーズ】
[状態]:魔力消費(大)、ダメージ(大)、疲労(極大)、背中に怪我、極度のショック状態、激しい自責
[装備]:アスティオン@魔法少女リリカルなのはシリーズ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3個(確認済み)
[思考]
基本:???????????
1:私は……どうすれば?
[備考]
※スバルが何者かに操られている可能性に気づいています。
※高町なのはと鹿目まどかの死を見たことで、精神が不安定となっています。
※午後12時までに中学校で孤門一輝達と合流する予定です。
※フェイト・テスタロッサとユーノ・スクライアの死の原因は、自分自身にあると思い込んでいます。


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最終更新:2014年05月20日 21:29