解放されしライジングドラゴン◆gry038wOvE



 ダグバの全身の傷はひりひりと痛んでいた。
 回復は進んでいるものの、海水が傷口になだれ込むようだった。口の中にも海水の味が広がり、それは彼にとって敗北の味として刻まれるようになった。
 しかし、それさえも彼にとっては悦びだった。
 強い敵がたくさんいる。そう、ダグバが戦いを楽しめる相手が幾らでもいる。たとえどんなに弱く見える相手でも、同じだ。
 強い悦びを感じながら、彼は波に揺られた。

「────そろそろ、泳いだ方がいいかな」

 ダグバは、呟く。
 そう、このまま街の方向へ揺られていけば、ダグバは禁止エリア──【H-9エリア】を横切る可能性があったのだ。
 禁止エリアというのはダグバにとっても非常に厄介なシステムである。
 13時という言い方がまたダグバには厄介で、九進法で考えているダグバにはわかりにくく、そのうえ、時計が12時までしかないゆえにその意味がよくわからなかった。
 とにかくわかるのは、近寄ってはいけないエリアが近くにあるという事。
 リントには、「8」と「10」の間に、「9」という不思議な数字があるのだ。その「9」が今回の禁止エリア。ダグバの言葉なら、バギンに値する部分である。
 マス目が10×10というのも、彼にとっては中途半端だったし、それをまた「10」としているのが非常に厄介である。ダグバの頭も混乱しそうだ。
 とにかく、そのあたりは文化の違いとしか言いようがないだろうか。

「……ふう」

 空を見上げていたダグバは、少し息を吐いた後、うつ伏せの体形に向きなおす。
 海の色は暗い。既に太陽も東から西へと沈む準備をしているようだ。南東に位置するこの海は、太陽の光をあまり綺麗には映さない。
 向き直って思ったのは、やはり衣服というのが邪魔臭いという事だろう。衣服は水を吸い、完全な重りと化している。シャツが身体にしがみついてきて、ダグバの身体を鎮めようとして来るのだ。
仰向けならば、ズボンの中にシャツの袖を入れてベルトを締めれば、そこに空気が溜まり、辛うじて浮いている事はできるし、両腕に持っている四つのデイパックが浮かせてくれるのだが、このまま禁止エリアに向かってしまう可能性があるとなれば、このまま漂うわけにもいかない。
 だいたい、岸まで数キロあるというのだから、このまま漂っていては本当に日が暮れてしまう。こんな場所に敵はいないので、早々に上陸したいのである。
 そして、ある程度待ったところで、ダグバは決断する。

「……仕方ないな」

 ダグバは、己の身体に絡みつく真っ白な衣服を強力な力で引きちぎった。脱ぐよりも手っ取り早いのは、この異質そのものとしか言いようがない方法だ。上半身はただでさえダメージを負っていた事もあって、あっさり脱ぐ事に成功する。もう着る事もないだろうし、邪魔なのでそれはそのまま近くに投げ捨てた。

 次はそう、────下半身だ。

 戦闘民族グロンギも、普段は衣服を着ている。上半身を着ていない奴も結構いるが、基本的に衣服は来ていて当然の代物である。
 羞恥はない。だが、やはり常識はずれな行動には違いない。少なくとも、人間社会の裏を歩いていくうちにも、それは当然の事として認識され始めていた。

「でもまあ、戦いには変えられないか」

 ダグバがベルトを下ろすと、ズボンはダグバの身体に執拗に絡みつくのをやめ、遂にダグバの身体から離れる。ダグバは海中にあるズボンをとりあえず捕まえて、先ほど引きちぎった上半身の衣服と共に海上に捨て去った。
 革靴も水に沈みやすく、先ほどから非常に邪魔だった。靴下もそうだ。それらもあっさりと海に捨て去る。
 とりあえず、それは不要物と判定される。



 ──さて、問題は次だ。

 ダグバには、そう、───


 ────あと一枚、リントの言葉でいうところの“パンツ”が残っていた。


 ブリーフなのか、トランクスなのか、はたまたボクサーパンツなのか。
 現代に甦ったグロンギの王のセンスは想像に任せるとして、果たして、彼はそれを脱ぐのか。
 その一点だけが、この状況において問題だった。
 もし、ダグバに向けて誰かが声をかけられるならば、誰かが必死に止めなければならないだろう。

 ──グロンギの王・ダグバよ、そこに残っているは最後の希望だ。それを脱いでしまっては、君の股間が海とザギバスゲゲルを始めてしまうではないか。

 かつて、リントが栄えた時代よりももっと以前、人は確かに全裸だった。服を着る文化はなかった。パンツ自体、人類の歴史から見ても、そんなに昔からあったものではない。
 ……しかし、現代は違うのだ。
 既にダグバはパンツ一丁だというのに、それまで脱いでしまったら、良識あるリントによって通報され、リントの戦士(ガドルが言ってたような意味で)が集まってくるかもしれない。
 ……いや、殺し合いが行われているこの場所にはリントの戦士(要するにおまわりさん的な意味で)はいないかもしれない。
 いるといえば少しいるけど、そんなにたくさんはいないし、逮捕もできない。
 守るべき治安はない無法地帯──それが過酷なバトルロワイアルだ。


 ……だが、女性の参加者はたくさんいる。


 それも、結構な数いる。
 そのうえ、それを見せちゃいけない純真無垢な年齢の子がたくさんいる。というか、ほとんどの女性参加者が純真無垢な年齢の女の子なのである。18歳というのが一つのセーフラインであるなら、そのラインを超えてない少女がめちゃ多いのだ。
 その子たちに見せるのはヤバい。どれくらいヤバいかというと超ヤバい。ヤバいドヤバいではなく、ヤバいグヤバい。
 なんかヤバいところからヤバい電話が来るかもしれないくらいヤバい。たぶん来ないが、来る可能性を軽く上げてくるくらいヤバい。全国でダグバの真似をするお友達が流行したら、それこそ超ヤバい。さて、ここまで何回ヤバいと言ったでしょうか? 今のヤバいとこのヤバいはヤバいに含みません。正解はバギンドドググ回です。
 ちなみに、ヤバい部分はそれだけじゃない。

 ──一番ヤバいのは、外見は男性だが、心が乙女な人の存在だ。

 あの人なら、きっと、ダグバの持つライジングドラゴンロッドを見てときめくだろう。
 前か後ろが危険だと思わなければ、この先、本当にザギバルゲゲルが始まってしまう可能性があるのだ。ダグバがそれを「面白いね」と答えた日には、正真正銘の「究極の闇」が始まってしまう。
 ヤバいところからヤバい電話が来るどころか、主催者がドン引きして殺し合いを中止してしまうくらいにヤバいかもしれない。













 さあ、どうするダグバ……。


 決断の時は刻一刻と迫っている。


 パンツを脱ぐのか──!?


 脱がないのか──!?
















「……いや、流石にコレは残しておこうかな」





 脱がなかった。






 四つのデイパックを腕にかけ、バタ足で泳ぐというのが、この状況におけるパンツ一丁のダグバの泳ぎ方だった。
 デイパックは極力手元に残しておきたい。デイパックのベルトをきつく締め、腕に絡めると、デイパックは浮き上がった。ある程度の重みはあるものの、中身の量がどうあれ、重さはほぼ一定だ。
 だからこそ、幾つものデイパックを持って歩く事が出来るし、こうして水の中でも肌身離さず持っている事ができた。とても、中で幾つものペットボトルが揺れているとは思えない。
 おそらく、何らかの特殊な仕様もあるのだろう。でなければ、どう考えてもデイパックから出てこないようなものがよく出てくるので、おそらく何かあるのだろう。
 パンツ一丁のダグバ含め、この殺し合いの参加者はこれまでそんなに深く考えなかったが、とにかく、こういう時も水泳で腕につける小さい浮き輪のようにして使う事ができる優れものである。
 ズボン代わりにならないのが残念だ。
 ズボンは先ほど、上陸後の事を深く考えもせずに捨ててしまったのである。
 仮に、ズボンを残しておけば、上陸後も上半身裸の割と軽度な変態で済む。若干古いセンスのロックシンガーか、カンフーも達人とかそういう系統の人か、江≪ピーッ≫2:50と勘違いされる程度だろう。それならまだいい。──あ、やっぱりエ≪ピーッ≫ちゃんは駄目かもしれない。
 だが、ズボンがあるか否かで随分と印象は変わる。ズボンを履かない上半身裸は変態だ。ズボンを履いてたらまだ避けられる程度だろうが、ズボンを脱いでいたら即通報だ。……というと、小島≪ピーッ≫しおに失礼かもしれないが、やっぱり江頭2:≪ピーッ≫も駄目だと言ったし、お笑い芸人はそういうお仕事なので、とりあえず失礼とかは承知の上で、まあここで言うところの「変態」としておく。

 パンツ一丁──言うなればそれは変態仮面である。ン・ダグバ・ゼバはン・オイナ・リサに改名した方がいい。「ン・オイナ・リサ」を早口で何度も何度も、繰り返し繰り返し読んでみると、「おいなりさん」になるのだ。つまり、おいなりさんとは、要するにアレのことである。詳しい説明は省く。
 残念ながら、現状パンツ一丁のオイナは、……じゃなくて、現状パンツ一丁のダグバは、ズボンを海の藻屑にしてしまった。後先考えて行動すればこんな事にはならなかったのだが、全裸のダグバ……じゃなくて、パンツ一丁のダグバは後の事など考えていなかったに違いない。
 考えてみれば、デイパックを常備しているのだから、その中にズボンを入れればいいだけの話ではないだろうか。それを、パンツ一丁のダグバは一切考えなかったのだ。
 あのズボンを捨てた事が、まさか今になってパンツ一丁のダグバに致命傷を与える事になるとは思うまい。ゆくゆくはこの判断がダグバの命を奪う結果になるかもしれないという事である。

 たとえば、ここでズボンを失った事で、パンツ一丁のダグバが上陸するとしよう。
 すると、そこに、良識ある参加者が現れ、ズボンを貸してくれる。その人の温かい心と温かいズボンに心を打たれたダグバは人というものの優しさに触れ、改心して自らもみんなを笑顔にする心優しい戦士になる。
 やがて、軽く殺し合いの主催者をブッ殺したダグバはみんなと一緒に脱出し、元の世界でその人と親しくなり、結婚する。
 しかし、グロンギの文化とその人の文化の違いは大きく、やがて生活に摩擦が起きる。
 そのうえ、戸籍もないうえに三万人殺害と放火の前科があるダグバを雇ってくれる企業はどこにもなかった。アルバイトさえもできないまま、家計はだんだん厳しくなっていく。
 そんな折、遂に二人の間に子供が生まれてしまう。だというのにダグバには収入がない。
 そして、遂に堪忍袋の緒が切れた嫁(つぼみじゃないよ!)がパチンコ漬けになり、浮気を始め、ダグバと離婚。金持ちな浮気相手と結婚する事になり、ダグバは親権も奪われ、慰謝料を請求され、裁判で敗訴。
 莫大な借金を背負ったダグバは、遂に家も、家族も、衣服も奪われ、パンツ一丁となって夜の街を彷徨い、あの時のズボンの温かさをもう一度感じたいと思いながら、同時に涙を流しながら遂に富士の樹海で首を吊る────。
 という結末になったら、それこそダグバは「ズボンを笑う者はズボンに泣く」という感じで因果応報な死に様を辿るのではないだろうか。
 みんなもズボンは大切にしよう。


 そして、気づけば話題が完全に反れてた。

「……もうすぐ着くかな」

 パンツ一丁のダグバの泳ぎは早かった。
 泳いでいる間、特にサメに襲われる事などはなかったし、サメに襲われたとしてもズボンがない事に比べればどうでもいい話なので、とりあえず岸が見えてきたあたりまで飛ぶ。
 時刻は夕方だ。16時~18時ごろだろう。午後4時~午後6時。バギンドゲズン時~バギングドググ時(グロンギ語とかマジイミフ)。そのくらい時間も飛ぶ。
 マップ上では、「主要道路」とか「砂浜」とか線の説明が書いてあるような部分を泳いできたのだから、これでも相当早いのではないだろうか。禁止エリアを回避して泳いだ結果、それくらい時間がかかったのだ。
 ちなみに、その「主要道路」とか書いてあった部分は特に何もなかった。超デカい白い板が浮いてるとか、そういう勘繰りをした人もいたのではないだろうか。そんなもんねーよバーカ!! ……じゃなくて、ご期待に添えず申し訳ありませんが、そんなものはありませんでした。
 とにかく、そんな場所を横切ってまで泳いできたとすると、軽く十キロ以上は泳いできたんじゃないだろうか。ぶっちゃけバケモノである。波が時にパンツ一丁のダグバの背中を押してくれたとはいえ、相当なものだ。


「……やっと着いた」


 流石のパンツ一丁魔人──別名ダグバも疲労困憊という様子である。
 歩くよりも、全身運動の水泳のほうが百倍疲れるのはおわかりだろうか?
 パンツ一丁のダグバも人間体なので、流石に危険なくらい疲れていた。身体中の傷がピンク色のぷにぷにになっている。リントの諸君は、子供の頃、プールとかで作った傷がピンク色のぷにぷににならなかっただろうか。剥がしてもそんなに痛くないけど、妙にグロいあのぷにぷにだ。あれが身体の色んな傷にできていた。
 このくらいユルい表現描写が通るなら今後も超ウルトラハイパーメガトン級に楽だが、たぶん、この一回限りだろう。


「……あれ?」


 と、パンツ一丁のダグバは大変な事に気づく。
 そう、────これは非常に大変な事であった。


「……なくなってる?」


 I-7の砂浜に降り立ったパンツ一丁のダグバの下半身から、いつの間にか──────パンツが消えていた。つまり、先ほどからパンツ一丁のダグバと形容され続けていたダグバは、パンツすら履いてないダグバだったのだ。


『男はいつ死ぬか分からない。パンツだけは一張羅を履いておけ』


 ──誰かがそう言っていたが、その男はパンツすら履いていなかった。
 おそらく、泳いでいるうちに、パンツはダグバの身体から離れてしまったのだろう。ダグバの泳ぎが早いだけに、水の抵抗は大きかった。
 子供の頃、プールの壁を蹴って勢いをつけて泳ぐ時、海パンが脱げた事がなかっただろうか。アレと同じ感じである。いい年なのにこれをやらかす人も珍しくはない。
 パンツは必死でダグバの腰に掴まったかもしれない。海パンのようにユルユルな紐で繋がっているわけではないのだ。ダグバのパンツのゴムはおそらく、かなり頑張った部類ではないだろうか。

(ご主人様……もう限界です……。私は……パンツは、あなたのもとを……離れるしか……ああっ……!)

 と、おそらくこんな想いがパンツにもあったと思う。
 しかし、パンツのゴムが耐えられなくなるほど、水の抵抗は強く、ダグバの泳ぎは早かった。だいたい、両手が塞がってるダグバに、パンツを腰に上げながら泳ぐ余裕などない。
 そして、今はパンツもない。

(──ご主人様に履いていただいて幸せです♪)

 パンツが、無いのだ。

(──グロンギって普段、洗濯とかどうしてるんですか? えっ!? わわっ……聞いちゃダメだったかな……どうしよう……)

 そう、

(──もっとご主人様を笑顔にできるように頑張ります♪)

 パンツが、


(────私、ずっと……ご主人様と一緒にいられたらなって、えへっ♪ 何でもありませーんっ♪♪♪)


 ──無いのだ。

 変な台詞のせいで、地の文を読めなかった人のために、もう一度まとめて言おう。



 そう、パンツが、──無いのだ。


「まさか……泳いでる時に……?」


 ダグバは海を見返す。その広大な海は、暗く淀んでいる。たとえ、この広大な海に、ゴミが浮かんでいたところで、誰も気づかないだろう。パンツとか。
 要するに、ダグバは、何も着ていなかった。
 何度も言うが、ダグバはパンツや靴下や靴を含め、何も着ていなかった。
 そうだ、デイパックさえあれば支給品として何かの衣服があるかもしれない……と思ってデイパックを開けて中を見てみたが衣類がなかったので、やっぱり何も着ていなかった(コイツに小太刀のレオタードが支給されなくて良かった)。
 なんかDボゥイのクリスタルとかも主催者の計らいか何かで変身後に服着せるようになっているっぽいというのに、彼は何も着ていなかった。
 え? 変身後も何も着てないように見える? ……たぶんそれは気のせいだ。あれは服をモーフィングパワー(棒切れをドラゴンロッドに変形させるクウガとかガドルとかの変な力)で皮膚と一体化させているのだろう。公式な情報はないので不明だが、おそらくそうだろう。
 ダグバは、全裸だった。

 ……ところで、急に話題が変わるが、頭を切り替えて思い出してほしい。

 先ほど、ダグバの描写で

『残念ながら、現状パンツ一丁のオイナは、……じゃなくて、現状パンツ一丁のダグバは、ズボンを海の藻屑にしてしまった。後先考えて行動すればこんな事にはならなかったのだが、全裸のダグバ……じゃなくて、パンツ一丁のダグバは後の事など考えていなかったに違いない』

 という部分があった。

 ────この文章をよく見てみろ(見てください)。

『全裸のダグバ……じゃなくて、パンツ一丁のダグバは後の事など考えていなかったに違いない』

『全裸のダグバ……じゃなくて』

『全裸のダグバ』

『全裸の』

『全裸』

 そう、なな……なんと、これは伏線だ!!
 ここには、みんなが大好きな“伏線”が、あまりにも大胆に横たわっていたのである(擬人法)。

 つまり、この段階で実は既にダグバのパンツは脱げていた……。こういう伏線は二回三回読んで気づいて面白いんだろうけど、気づかれなかったら寂しいので言っておく。超察しが良く、もはやエスパーとかそういう次元に入っている人ならわかっただろうが、あのあたりで既にダグバはパンツを履いていなかったのである。
 この段階とかあのあたりと言われても、ダグバがその時、どの辺を泳いでいたのかは曖昧な話で、結局どこで脱げてようがよく伝わらないだろう。とにかく、結構早い段階でダグバは全裸だった。

 と、コロコロと話題を変えてみたものの、はっきり言って、それはどうでもいい話である。ここまでの経路は、かなり長い文章だが、特に道中変わった事はなかった。ズボンとパンツが脱げたくらいだろうか。本当にどうでもいい話だ。
 むしろ、ものすごくわかりにくい話になっていくだけである。それでもいい。

 ダグバは長い水との格闘の果てに、遂に砂浜にたどり着いた。その途上で波に巻き込まれたか、ダグバの下着は水に流されていた。しかし、ダグバは憮然と砂浜に立っていた。──と、文部省推薦のクソ真面目な小説風な書き方をしてしまうのもアリである。普段はだいたいそんな感じで話が進んでいる。

 これは、「ダグバが全裸上陸した」──と言えば、一瞬で終わる話である。仮にこれがネット小説だったとして、その容量でいうところの云十KBかかるような話ではないだろう。たったこれだけの事実を、ネット小説で云十KBに仕立て上げたら、それは水増しの達人として表彰でもしたらどうか。いっそ神と崇めたらどうか。
 だが、ダグバの体感した苦労は小説ではない。「は?」じゃねえよ、事実なんだよコレは。子供の夢を壊すなよ。


 ──これはこの殺し合いにおける現実である。


 しかし、ダグバの全裸上陸──それは多くの参加者にとって、そして、その参加者に共感する人々にとって、途方もない絶望と恐怖に満ちた事実だ。──こんなに怖い事があるだろうか? これを丁寧に描写すれば、その事実を知った人間の半径五キロメートルから小動物や虫たちが逃げ、暗雲が空に広がり、すぐに雷と嵐が起こり、街にモヒカンの暴徒が侵入し、トイレットペーパーが買い占められ、あらゆるカップルが破局し、郵便局の全ての手紙の内容が悪口に書き換えられ、掲示板とSNSのサーバーが落ち、一瞬で心臓麻痺の死体の山が構築されるほどの衝撃的事実である。
 その絶望感をあんまり深刻に受け止めてほしくなかったので、明るく楽しく元気よく、そしてごくたま~に……全体の3パーセントくらいだけ下ネタを交えながら、「たまにはいいよね」って気分でお茶目な感じに話が進んでいっただけである。

 決して、真面目に書くのが面倒になってきたわけではない。
 午前1時57分のテンションで書いたわけではない。
 なんかとにかく話題になる事をやってみたかったわけではない。
 酔っ払ってイカレてるわけでも、田代≪ピーッ≫さしや、のり≪ピーッ≫のように、薬を使ってラリってるわけでもない。


 ……ダグバが全裸で上陸した。
 もう一度だけ、刺激のないようにソフトに言う。
 ダグバが上陸したのである、“全裸で”。(反復法&倒置法)
 一体、何度繰り返せば気が済むのだろうか。さっきから同じ事をテイストを変えて文章の水増しをやってるわけではない。ここまで何回全裸と言ったでしょうか。カウントしてる人いますか?
 ……そう、ダグバは全裸なのだ。全裸とは何も着てない事なのだ。それは大変な事なのだ。反対の賛成なのだ。バカボンのパパなのだ。
 ダグバはどんな男か。
 ──普段から自然と笑みをこぼし、どう見ても青年なのに子供言葉で喋り、不完全体がどう見ても毛むくじゃらの変態で、他人に「僕を笑顔にしてよ」と声をかける事案を発生させる究極のHENTAIが、それに輪をかけて──全裸なのだ。
 それが真面目に描写したら、色んな意味で、怖い事この上ないだろう。既に力を失いつつあるダグバの一番怖いところは、仮に力を失ったとしてもダグバが変態であるという事だ。
 やはり、全裸であるという一点が最上級に怖いのである。そこは否定すべきではない。



 ……ダグバは、こんな時も案の定、笑っていた。
 これまでどんな攻撃を受けても笑っていたこの男は、たとえ己の全てを無くしても笑っていた。
 生まれたままの姿で、強い潮風を浴びながら、笑っていた。
 夏休みを迎えたバカな男子大学生たちのように、笑っていた。
 常人なら泣きたくなってもおかしくないような状況で、彼は笑っていた。
 傍から見たらいかに変態であっても、彼は笑っていた。


「……ふふふふ」


 ──ダグバは果たして、あっちの方も「ン」なのか、それとも「ズ」なのか。それは、想像に任せる。


「……はははははははは!!」


 ──ダグバは果たして、あっちの方も「究極の闇」なのか、それとも「不完全体」なのか。それもまた、想像に任せる。


「ははははははははははははっ!! まあいいや、このくらい」


 重要なのは、ダグバのあっちの方の話ではない。あっちの方の話が気になるとしても、原作で描写されてない以上、捏造レベルになってしまうので、描写できない。
 さらっと、勝手に一瞬だけ擬人化されたパンツの想いを無視して、パンツがなくてもいいやと割り切ってるダグバの非情さが垣間見えたが、それもまた重要ではない。
 重要なのは──

──ダグバが上陸したという事。

──究極の闇を齎す者が、この夕方に砂浜へと降り立った事。

──彼が海の藻屑と消えなかった事(衣服は全部海の藻屑だが──)。


──ダグバは、変身できなくとも次の力を何とか得ようとするであろう事。


 そして、

「……次は誰が僕を笑顔にしてくれるのかな?」



 パンツが無くても気にする様子がない彼は、全裸でも尚、ニヤニヤしながら近寄ってくる事─────────ではなくて、



「そうだ、プリキュアとかがいいかな? そんなに強くなさそうだし」



 変身能力が使えない彼は、何らかの戦闘能力を奪うため、この恰好で、プリキュアに凸ろうとしている事だ。



【※よいこのおやくそく】
  • 服を着たまま水場で溺れてしまった場合は、服を脱ぐよりも、シャツをズボンの中に入れて仰向けになり、極力動かず助けを待ちましょう。焦って服を脱ぐよりはマシです。
  • 立ち泳ぎは浮力を失ってしまう上に、体力の消耗が激しいため、極力避けましょう。
  • ただし、溺れている人を助ける時は服を脱いでから助けに向かいましょう。詳しい救助方法は調べてください。近くに専門家がいる場合は、ライフセーバーなどに任せましょう。
  • 重い物を持ちながら泳ぐのはとても危険です。もし中に殺し合いの道具が入ってるとしても、浮き輪代わりにならない場合は捨てましょう。
  • スニーカーなどのゴムを使用した靴は浮力を保りますが、革靴やハイヒールは沈みやすいので、溺れた際はすぐに脱いでください。
  • 危機的状況でもない限りは、海で全裸になるのはなるべくやめましょう。
  • 海やプール、川などで遊ぶ際は事前にいろいろ調べてから、安全面での対策をよく行ってから行きましょう。
  • ダグバにできても、リントにはできない事・犯罪となる事があります。ダグバの真似はしないでください。
  • 水場でのいろいろについて知ってる方、このおやくそくが間違ってたら修正してください。間違ってるのに信じて実行する人いたら怖いんで。
  • この話に苦情を入れないでください。



【1日目 夕方】
【I-7/砂浜】
※ダグバの衣服や靴はすべて広大な海のどこかにあります。たぶんもう見つかりません。

【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
[状態]:全身に極大のダメージ、胸部に大規模な裂傷と刺傷(回復中、但しその速度は大幅に低下)、ベルトの装飾品を破壊(それにより完全体への変身不可を含めた変身機能等に致命的な障害発生)、疲労(大)、強い電気を浴びたことによる身体強化、全身びしょ濡れ、全裸
[装備]:正真正銘なし
[道具]:支給品一式×4(ダグバ、ほむら、祈里(食料と水はほむらの方に)、霧彦)、グリーフシード@魔法少女まどか☆マギカ、スタンガン、ランダム支給品(ほむら1~2(武器・衣類ではない)、祈里0~1(衣類はない))
[思考]
基本:この状況を楽しむ。
0:プリキュアを探し、戦闘能力を得る。変身できないから誰かから上手く奪いたい。
1:モロトフには必ずお礼をする。勿論クウガにも。
2:リント達を探す。
3:強い変身能力者たちに期待
4:そういえば……どうして思い出の場所(グロンギ遺跡)が?
5:衣服が欲しいかもしれない。
[備考]
※参戦時期はクウガアルティメットフォームとの戦闘前です
※発火能力の威力は下がっています。少なくとも一撃で人間を焼き尽くすほどの威力はありません。空中から電撃を落とす能力も同様です。
※ベルトのバックル部を破壊されたため、中間体にしか変身できなくなりました。またランスとの激闘と電撃態の使い過ぎによりバックルの破損が進行しました。
 その為、一時的かどうかも含め変身不能な状態に陥っている可能性があります。また仮に変身出来ても突然変身が解除される可能性があります。
 同時に、中間体への変身であってもバックルの破損を進行させる状態となったので変身機能等の機能は低下する事になります。最悪変身不能に陥る可能性があります。
※スーパー1のエレキ光線によって、パワーが強化されました。完全体にはなれませんが、電撃体には変身可能です(但し、上述の通り、バックルの破損を加速度的に進行させることになります)。
第二回放送ニードルのなぞなぞを全く理解していません(地図記号について知らず、グロンギの算法もリントと異なるため)。
※服を着ていません。



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Back:Uに一人だけの/COSMO BLAZER ン・ダグバ・ゼバ Next:ひかりのまち(前編)

※この話のタイトルは一般公募で選ばれました。
 他のタイトル案として、本スレに挙げられたものは以下のとおり。

『全裸』
『君と過ごした思い出を海に残して、僕は、僕は全裸になる』
『No Wear No Pants 着ている物は何もない』
『こんな話を書くなんてやっぱホモなんすねぇ~(言い掛かり)』
『凄まじき戦士』
『藻屑』
『進撃の悪魔』


最終更新:2014年03月03日 16:56