金の心を持つ男 ◆gry038wOvE




 ここは風都の名を冠した巨大なタワーの名が在った、風都ではない街。そのタワーさえも今や消え、もはや風都の面影はほとんど無くなりつつあった。
 ────その街の何処かで立ち止まった仮面ライダースーパー1・沖一也は、少しの間だけ頭を動かした。
 さて、どうする。
 スーパー1は周囲から狙われたら対応しきれないほど無防備に立ち止まった姿をしっかり正して、決断する。

(……向かうべきは警察署だ。これ以上寄り道はできない……)

 スーパー1がこれから調べるべきは、当然警察署である。
 仮に其処に誰もいなかったとしても、沖はそこで誰かがいた痕跡を調べに行く必要があるのだ。
 これは合理性を考えるなら当然の判断であったが、やはりスーパー1は感情の面で少し割り切るのが厳しかった。
 しかし、やはりまず真っ先に向かうべきは、警察署である事んは間違いなかった。

 仮面ライダースーパー1は、風都タワーのあった場所に背を向ける。風都タワーを破壊するだけの力を持つ敵にスーパー1が対応できる方法は、今の彼にはまるで無いのだ。能力が封じられ、変身機能自体が怪しくなりつつある今、赤心少林拳だけでは心細い。今すべきは、警察署を第二の風都タワーにしないために走る事だ。
 もしかすれば、警察署には何人か、力なき人たちが残っているかもしれない。残っていないとしても、移動したならばそのための痕跡があるはずだ。あそこでは本来、主催に敵対心を向ける者たちで会議をする予定があったのだから、後から来る人のために何かを残している可能性が高い。警察署に真っ先に向かうのは堅実な判断のはずである。

 しかし、背を向けながらも、若干の後ろめたさがスーパー1の中にあった。
 風都タワーでも何かがあった事は間違いない。
 風都タワーは巨大な建物だが、それが倒壊するだけのエネルギーというのは相当である。
 仮に其処に誰かがいたとして、それだけのエネルギーを使い切ってまで、無意味にタワーを倒壊させる必要があるだろうか。おそらく、あの風都タワーの崩壊は戦闘の結果と考えるのが自然である。
 周囲への被害も半端なものではなく、そこに倒れている人がどれだけいるかも、今はわからない。
 だから、そこに背を向けて走っていく必要があるというのは、沖としても心が痛むものであった。

(……願わくは、一文字さんや、正義の魂を持つ人が風都タワーの近くにいる可能性だ)

 一文字隼人が風都タワーの方向から風都タワーに向かい、そこにいる人たちの救出にあたっている可能性や、プリキュアやシンケンジャーなどの他の戦士たちの活躍を、願いながら、スーパー1は遂に走り出す。
 風都タワー付近にいる人たちを助けるのは、この街エリアにいるほかの戦士たちが共通して出来る事。
 しかし、警察署に向かうのは、警察署に危険が起こっている事も、そこに誰かがいるかもしれない可能性がある事も知っている沖の役目だ。仮に一文字がこの街に来ていたとしても、彼は警察署での約束を知らない。
 だから、沖やいつき、美希など、数少ない人々にしか警察署に向かうなどという事はできないのである。



 スーパー1は走る。
 見知らぬ街を走る。
 わき目も振れず、無人の街を走り続ける。
 やはり、この街の姿は異常であった。──本来、どこまで活気づいてもおかしくない街が、この殺し合いのためにゴーストタウンと化している。
 いや、最初からそこに人など住んでいないのかもしれない。
 誰かがそこに住んだ事など、今の今までなかったかもしれない。
 だが、この街が壊され、それによってこの殺し合いに招かれた人々が傷つくのなら、模造の街であっても仮面ライダーは守らなければならない。
 それが仮面ライダーの使命だ。

 何百メートル、何キロ。それをスーパー1はヒトではあり得ないスピードで駆け抜けていく。だが、その中でも彼は見落としはしなかった。
 そう、周囲に感覚を研ぎ澄ませながら走ると言う、人間離れした行動により、彼には周囲全体──その全てが見えていた。
 ここにある全ての商店やビルの名前を言える程度には、彼の脳内は活動されていた。
 そして、その感覚が一つの見覚えのあるマシンを発見させた。


「…………待て!」


 猛スピードで駆け抜ける己自身に、仮面ライダースーパー1は喝を入れるかのように叫んだ。あまりにも唐突な出来事だったので、彼は自分自身の身体をすぐに止める事はできなかった。
 己の身体にブレーキを踏み、緩い駆け足で先ほど「それ」があった場所へと戻る。
 スーパー1自身が自分の身体に制止を訴えかけたのか。
 そう、其処には────


「チェックマシン……!!」


 あまりにも豪快に、街中に設置されたチェックマシンがあった。
 先ほど美希やいつきと歩く事がなかったG-9沿岸の道端に、何度もスーパー1の身体を直してくれたチェックマシンの姿があったのである。
 それは、変身機能の衰退が起きていたスーパー1にとっては、神の恵みに等しいものだった。
 どうやら、殺し合いの主催者側は、ちゃんとチェックマシンを設備の一つとしてマップ内に設置していたのである。確かにチェックマシンは機械的で先進的なシステムではあったが、街中に置いてあれば少しは違和感のある代物だった。
 しかし、安心はできない。
 殺し合いの主催者がチェックマシンをよく模造した全く別のシステムを用意し、スーパー1に対する攻撃を行おうとしているのかもしれない。

 まず、スーパー1はチェックマシンの外観をよく調べた。
 元々が高い知能を持った科学者であるうえ、体内にあらゆるシステムが組み込まれている沖一也である。そのうえチェックマシンには愛着があり、少しでも外観が違おうものならば、彼はそれに気づく事ができるのだ。
 機械工学には当然詳しく、チェックマシンにプログラムされているデータを見直す事もできる。

(軽く見たところでは、これは本物のチェックマシンだ……)

 時間がないので、さっと必要な箇所だけ見てみたが、やはりチェックマシンは間違いなく沖がよく知るチェックマシンだった。
 チェックマシンは、多少苦労すれば秘密基地からも運び出せるシステムである。
 そのため、ここにあってもおかしくはない。だが、何故主催者はこんなにも丁寧にこのチェックマシンをここへ運び出したのか。

(……この殺し合いの主催者は妙に親切だな)

 彼は思う。
 仮面ライダースーパー1が主催者に協力的になる事も、殺し合いを積極的に行う事もない。本郷猛、一文字隼人、結城丈二……彼らもそうだ。仮面ライダーが敵に寝返る事は無いと沖は断言しよう。ここに来てからも、多くの良識ある人々や戦士たちを見てきた。ならば何故招かれたのだろうか。
 ……主催者の目的はそうした者の排除にはないのだ。排除のためでなく、もっと幅広い立場の者たちを集めているのではないか。

 いや、おそらく──

(『変身』する者の代表を集めているのか……? 主催者はそんな風にさえ見て取れる。その意図はわからないが……)

 本郷猛、一文字隼人、結城丈二に村雨良など、沖の知る者(村雨は知らないが)たちは全て仮面ライダーへの変身能力を持っている。
 それに加えて、いつき、アインハルト、ダグバなど、ここにいるほとんどの戦士が変身している。暗黒騎士キバやアクマロのような相手も、よもすれば変身後の姿である可能性だって否めない。
 孤門はそうではないようだが、彼自身が気づいていないだけで、何らかの力や素養を持っている可能性もあるだろう。
 そう、少なくとも一般人はいない。ごく普通の人間というのは、この場で一度もあった事がない。戦闘能力を有する者同士が殺し合いをしている。それだけは明らかだ。
 ならば、主催者側はむしろ、ここで沖が変身機能を取り戻す事を望んでいるのではないか? 沖が仮面ライダーでなくなる事を、主催者側は望んでいないから、こうしてチェックマシンを島内に配置しているのではないか?

「……わかった。そうまで言うなら、俺は……やるしかない」

 主催者側にどんな目的があるのかはわからない。もしかすれば、変身させて戦う事で何か特別な儀式を遂行しているのかもしれない。ならば、仮面ライダースーパー1の変身能力を再び完全な物にするのは主催者の思惑通りの行動でしかない。
 だが、今は──彼らの思惑通り行動するしかないだろう。このままでは、仮面ライダースーパー1としての変身機能も解除され、悪魔たちと戦う手段がなくなってしまうではないか。それでは、力無き者たちを守る事さえ、できなくなってしまう。

 仮面ライダースーパー1は、意を決してチェックマシンへと入る。

(大丈夫か……?)

 修復光線が向いた時、少し心臓に悪いと思ったが、そのレーザーは何事もなくファイブハンドを修理し、変身機能を修復していく。どうやら、破壊光線などに切り替える姑息な手は使っていないらしい。
 だが、何故か、沖の身体に行われた「修理」はそれだけだった。全てを終えた電子音は何パーセントのメンテナンスを行ったかも告げず、修理を中止する。
 チェックマシンから出た仮面ライダースーパー1の身体は、殆どがボロボロのままであり、戦いの傷を残していた。
 レーザーシャワーによる全身のダメージの修復は行われなかったのである。

「……そうか、戦闘による傷は回復しない……そういう仕掛けか」

 仕掛けの中ではマシな方である。
 修復光線が攻撃をしてこないかヒヤヒヤしたものだが、そんな気配はなく、ファイブハンドはほぼ正常に修復されたようである。
 ただ、やはり変身機能とファイブハンドの修理だけというのは、物足りなかった。スーパー1の外見は傷ついており、到底チェックマシンが見逃すはずのないほどのダメージを受けている。
 しかし、それでも変身機能が回復するだけでも随分と心強いには違いなかった。

(普通なら、そう簡単に身体の傷は治らない。そんな苦痛を抱えている人もたくさんいる。……それに比べれば、俺なんてずっと良いか)

 ──この殺し合いで傷ついた人たちは、チェックマシンでは治らない。その事を沖は頭に入れる。
 そんな人たちを守るべき沖が、そんな高望みをしてどうするのか。


 彼は、チェックマシンから出るとまた、すぐに自分を制し、気合を入れ直す。
 先ほどから気づいていたが、チェックマシンの隣にはコンビニがあった。別にコンビニ感覚でメンテナンスを受けたわけではないが、実際それと同じようなものだったので、何となく沖は妙な気分になる。入れすぎた肩の力は少し抜けた。
 それで丁度良いくらいに意気高揚した仮面ライダースーパー1は走る準備をする。


 銀色の戦士は、再びこの街を走り出した。



【1日目/午後】
【G-9/街エリア(警察署側)】

【沖一也@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(大)、強い決意、仮面ライダースーパー1に変身中
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3、首輪(祈里)
[思考]
基本:殺し合いを防ぎ、加頭を倒す
1:ダグバより先に警察署に向かい、そこにいる人たちを助ける。
2:その後、風都タワー跡地へ向かう。
3:本郷猛の遺志を継いで、仮面ライダーとして人類を護る。
4:後で孤門やアインハルトと警察署で落ち合い、情報交換会議をする。また首輪の解析も行う。
5:この命に代えてもいつきとアインハルトを守る。
6:先輩ライダーを捜す。一文字との合流の事も考えておく。
7:鎧の男(バラゴ)は許さない。だが生存しているのか…?
8:仮面ライダーZXか…
9:ダークプリキュアについてはいつきに任せる。
[備考]
※参戦時期は第1部最終話(3巻終了後)終了直後です。
※一文字からBADANや村雨についての説明を簡単に聞きました
※参加者の時間軸が異なる可能性があることに気付きました
※18時に市街地で一文字と合流する話になっています。
※ノーザが死んだ理由は本郷猛と相打ちになったかアクマロが裏切ったか、そのどちらかの可能性を推測しています。
※第二回放送のニードルのなぞなぞを解きました。そのため、警察署が危険であることを理解しています。

【チェックマシン@仮面ライダーSPIRITS】
G-9エリアに配置。初出は「仮面ライダースーパー1」。
仮面ライダースーパー1がメンテナンスを行うための機械。スーパー1の身体を透視して異常を確かめるための八角形の装置で、故障した箇所やダメージを受けた部分をレーザービームやレーザーシャワーで修理する。
普段は谷モーターショップがある町の秘密基地に設置されているが、「新・仮面ライダーSPIRITS」では、山奥に運び込まれたので、移動も可能。
今回は、スーパー1の変身機能とファイブハンドの機能など、戦闘機能に関する修復は可能であるものの、ダメージの回復は不可能であるように制限されている。


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最終更新:2013年09月10日 01:30