ゲゲル ゾ ザジレス ◆HdMcKJJiLs


五代雄介は、あまり憎しみの感情を表にしない男だ。
元来の能天気でおっとりとしたテンションに加え、人と争うことを好まず、誰とでも仲良くなろうとする性格。
子供の頃、いじめっ子らと一人で相対した際でも、決して拳を振るうことはなかった。自ら引くこともまたなかったのだが。
今も、無差別な殺戮を繰り返す未確認生命体・グロンギとの戦いの中、彼らの凶行に激しい怒りを覚えることはあれど、彼が戦う理由はあ

くまで人々の笑顔のためであり、憎悪に任せて暴力を振るうことはない。
殆ど、ない。

故に、雄介には加頭順という男への憎しみはない。
単に、悲しみ、悔やみ、戸惑っていた。
何の理由もなく3人の男達の命が奪われたことを悲しんでいた。
首輪に繋がれただけで手も足も出ず、理不尽な殺し合いに多くの人が巻き込まれていくのを止められなかったことを悔やんでいた。
そして、加頭がなんの躊躇いもなく、まるで壊れた家電を処理するかのように、淡々と人の命を奪ったことに戸惑いを憶えていた。
加頭は、人間の筈だ。
クウガや未確認生命体とは異なり、外部の因子、ガイアメモリと言っていただろうか、を用いて人外の怪物へと変身をしていた。
未確認とは、人の笑顔を奪うことで自分だけ笑顔になろうとするバケモノとは、違う。
違う、筈だ。
人の死に涙する普通の人間ではなく。
人の死に喜びを感じる未確認生命でもない。
まるで機械の様に、人を殺め、殺し合いを強要する。
加頭順は、何者なんだ。

五代雄介は知らない。
加頭順は生来の特徴として、感情が表情に出ないだけで全くの無感情ではないこと。
それ以上に、目的のためならば多くの人々を実験台として使い捨てることに何の躊躇いも憶えない、非情な人物であること。
ガイアメモリ以外にも、超能力兵士、死者蘇生兵士の技術を注ぎ込まれた超人兵士であり、人間の範疇からは逸脱しつつあることも。
五代雄介にはわからない。

「動くな」

唐突に投げかけられる鋭い声。
ここ最近図らずも聞くことの多い撃鉄が上がる金属音。
胸中に複雑な感情が渦巻き、思考が混乱していたとは言え、周囲にはそれなりに気を配っていた筈。
緊張の度合いを一気に高めながら、雄介はゆっくりと振り返る。
紺色の軍服の様なユニフォームに身を包んだ見知らぬ女が、リボルバータイプの拳銃をこちらに向けていた。
襟元から覗く首輪を見る所、彼女も"参加者"なのは間違いない。
加頭の言葉に従い、最後の一人になるべく殺し合いを受け入れてしまったのだろうか。
何とか説得しようと口を開きかけた五代を制し、女が再び鋭い声を投げかける。

「私は民間人を殺す心算はない。けれど、刃向うならば容赦はしないわ。
穏便に事を済ませたければ、今から訊く質問に余計な事は言わず、簡潔に答えなさい」

高圧的な言葉の内容そのものより、声音同様ナイフの如く鋭い眼光に僅かに気圧されるが、五代は柔和な笑顔で歩み寄ろうとする。

「落ち着いてください、俺は殺し合いに乗るつもりなんて……」
「動くなと言った筈よ」

何時も通り、まずは名刺交換からと目論んだものの、指呼の間に入る前に動きを封じられてしまう。
名刺を取り出すためにポケットに手を入れた瞬間、撃たれる。
揺るぎもしない銃口がそう語っていた。

「貴方は――――貴方も、人ならざるものへ"変身"する能力を持っているのね」


人ならざるもの。
そう、五代雄介はグロンギに対抗するための人ならざる力を持っている。
その事実を別段隠すつもりはない。

「……はい」

要求通りの簡潔な応えに、女の殺意が鋭度を増す。

「けれど」

五代は言葉を続ける。

「俺はこの力を、人の笑顔を守る為にしか使うつもりはありません。
人間と違う力を持っていても、人間の心を捨てる気はありません。
だって俺、クウガだから」
「……クウガ?」

耳慣れぬ言葉に女が怪訝な声を上げる。

「それはスペースビーストの別称なの?」
「いいえ、クウガです」
「……まさかウルトラマンの力を引き継いだのは」
「だから、クウガですって」

噛みあわない会話に、五代はこっそりと溜息をついた。
一般人には判らない呼称を用いたこちらにも非はあるだろう。

「……巷では、未確認生命体第4号って呼ばれてます」
「未確認……?」

尚も訝しげな女の様子。

「答えなさい。未確認生命体とは何?」
「えっ……? 知らないんですか。
新聞でもTVでもずっと前から報道されてるのに?
千人以上犠牲になってるんですよ?」
「知らないわ」

今度は五代が疑問に思う番だ。

「お名前、聞いていいですか。俺は五代雄介って言います」
「西条凪、よ」
「……ひょっとして西条さん、外国の人? 凄い田舎に住んでるとか」
「貴方にとっての外国の定義は知らないけれど、ここ最近はずっと日本にいるわ。
一応東京圏に住んでいて、毎日ニュースくらいはチェックしている」

訳が判らなかった。
未確認生命体の脅威は、一時的に沈静化した時期もあるものの、日々脅威を増している。
今では彼らの動向は速報で報じられ、外出禁止令じみたものまで発令されている。
関東圏で彼らの存在を知らないというのはほぼありえない話だ。
女、西条凪の方は何か思う所があるのか、銃を構えたままじっと考え込んでいる。

「貴方、怪物バンニップって聞いたことがある? 近頃チェーンメール等で噂になっているらしいけど」
「? オーストラリアかどっかで発見されたって言うUMAにそんなのがいたような気がしますけど」
「……噂話じゃ駄目ね。もっと具体的な出来事……。
そうね、5年前の新宿で隕石が落下した事故について憶えていないかしら。
沢山の人が犠牲になった筈だけれど」
「新宿に隕石!? ……そんな、知りませんよ。
その時日本にいなかったかもしれませんけど、そんな大事故があったら憶えてないはずありません」

女は溜息をついた。
話が全く噛みあっていない。

「……どう言うことでしょうか」
「幾つか、仮説ならあるわ」

西条は自嘲気味に笑いながら考えを述べる。


「一つは、貴方か私のどちらか、もしくは両方に連中が記憶処理を施した可能性」
「記憶処理? 人間の記憶を操るって事ですか?
そんな事が……」
「私も特定の記憶を消去した例しか聞いた事が無いけど、ひょっとしたら記憶を捻じ曲げる事も出来るようになったのかも知れない。
いずれにせよその類の技術があるのは間違いない」

捻じ曲げられた記憶。
それが本当だと仮定すると、自分がクウガとして戦って来たことも偽りになるのだろうか。
もし未確認の連中によって多くの人々が殺されたことも嘘になるのなら、そっちの方が良いような気もする。
しかし、遺された人たちの悲しみや涙、それらを見てきたことが現実でなかったはずがないと五代の直感は訴えていた。

「もう一つは、私と貴方が全く別世界の人間であると言う可能性」
「別世界? パラレルワールドとか、そう言うことですか?」
「馬鹿げた話だとは思うけれどね」

確かに、荒唐無稽な話ではあったが、五代にはむしろこちらの方がしっくり来た。
有り得ない話ではない、とまたも直感が訴える。

「……ちなみに、そう考えた根拠とか聞いていいですか?」
「加頭と言う男の話だと、時間操作を行う参加者もいるんでしょう」
「あ、なるほど」

パラレルワールドの概念は、時間の逆行に伴うタイムパラドクスを矛盾なく説明するためのものだ。

「他にも、私には耳慣れない単語を幾つも列挙していたわ」
「俺も、ネバーとか砂漠のなんとかとかチャッカマンとか、仮面ライダーだとか、聞いたことないです」
「あと、これもね」

西条は懐から、金属の端子が付いた細長い筐体を取り出した。
側面には象形文字に似たイニシャルが描かれている。

「それって……」
「ガイアメモリ、と奴は呼んでいたわね。
私には、貴方達の様に人外へと変身する能力はない。
だから、代わりにこれを使え、と言う事なのでしょうね」

銃を構えたまま、西条はガイアメモリを再び懐に仕舞った。

「あれ? 使わないんですか?
あのドーパントって奴、拳銃より余程強力そうでしたけど」
「気は乗らないわね」

西条はガイアメモリの代わりに折り畳んだA4サイズ程度の紙を取り出して、五代の足元に投げた。
拾い上げて見ると、何らかの説明書のようだ。

「なになに…………。
"この度はガイアメモリのお買い上げ誠に有難う御座います――――"」
「その下、注意事項」

地球の記憶云々の記述が気になったが、言われたとおり最後の方に付いていた見落してしまいそうな程の小さな注意書きを目で追う。

「ええと、
"警告:製品の使用に伴い、人体に有害毒素が侵食いたします。
   大変高い確率で中毒症状を引き起こしますので、用法を守って正しくご使用下さい。
   他にも副作用として、感情の不安定化、攻撃性の増大、躁転、痙攣、錯乱、発狂、人格崩壊などに見舞われる場合がございます。
   また、適切な範囲を超える頻度で使用した場合死に至る場合もございますが、いずれの場合も当ミュージアムは一切の責任を持ちま

せん"……」

読み上げながら、五代は説明書を握る手を徐々に震わせた。


「まんまドラッグじゃないですかこれ!」
「そうね」
「絶対使ったら駄目ですよ、そんなもの。
直ぐ壊しますから貸して下さい」
「動くなと何度言わせれば――――」
『バイオレンス』
詰め寄る五代を拳銃で制する西条。
二人の間を割って、突如低い電子音が響き渡った。
思わず西条の懐に目を向けるが、音源はそちらではない。
五代は右に、西条は左の方に首を向ける。
20mほど離れた岩場の上に、怪人が立っていた。
筋肉と鉄とが複雑に絡み合い、攻撃性を凝縮した、まさに"暴力"を体現したかのような化物。

「さっきの音って……」
「加頭の使った物と似ていたわね」
「じゃあ、あれがドーパント……!」

怪物:バイオレント・ドーパントは徐に左腕を掲げると、何の警告もなく五代らに向けて鎖鉄球を発射した。

「危ない!」

西条ともども倒れこんだ頭上を、鉄球が凄まじいスピードで通過する。
鉄球はその射線上に立っていた木々をマッチ棒の如く次々と薙ぎ倒す。
最後に5メートル四方程の岩盤に巨大なクレーターを穿ってようやくその動きを止めた。
シャレにならない威力に戦慄するが、五代の顔に恐怖は微塵も浮かばない。

「西条さん」

応戦しようと銃を怪物に向ける西条を制し、五代はドーパントを見据え立ち上がった。

「さっきも言った通り、俺、人間とは違う力を持ってます。
そしてその力を、皆の笑顔を守るために使う。今からそれを証明します。
だから見てて下さい、俺の――――」

五代の腹部に突如ベルトの様な装身具、アークルが出現する。
その中央には火の如く紅い霊石・アマダムが輝く。
五代は力強く右手を目の前に掲げた。

「――――変身!」

左脇に両手を構えると、アマダムの輝きが溢れ出す。
脛、脚、腕、体、そして頭が次々と赤い甲冑に覆われて行く。

――――邪悪なる者あらば、希望の霊石を身に付け、炎の如く邪悪を打ち倒す戦士あり――――

次の瞬間には、クウガ・マイティフォームとなった五代が、そこに超然と佇んでいた。
クウガは眼前の敵に構えを取ると、一直線に立ち向かって行く。

「あれが、クウガ……」

その後姿に、西条が厳しい視線を向けていた。


「おおりゃぁ――――!!」

クウガは跳躍力を拳に集中させて、ドーパントに殴りかかった。
ドーパントは意外にも俊敏な動きでそれを避けると、着地の隙を突いてクウガに鉄球を振り下ろす。
クウガも着地の衝撃を生かし、前転してそれを避ける。
クウガが着地したばかりの地面に鉄球がめりこんだ。

(――――何て威力だ!)

以前対峙したこともある、カメに似た未確認生命体・第39号の鉄球を思い出す。
あれには散々苦しめられた。
だが、

(あっちの鉄球は沢山あったけど、こっちは単発だ!)

地面から鉄球を引き抜いている間に、クウガは再び肉薄し、敵のボディに拳を打ち込む。
だが、ドーパントは特に怯んだ様子もない。
逆に、思わぬ反動で手首に痛みが走る。
防御力の方も第39号に匹敵するかもしれない。
振り下ろされる右腕を受け止め、そのまま力比べの格好に。
パワーは五分と五分。今の所は互角だ。
クウガは一瞬金の力:電気の力で自身を強化することを考える。
雷のパワーで繰り出す技の威力は、通常のそれの比ではない。
そして、以前第39号を打ち破る為には、金の赤の力:ライジングマイティキックを繰り出す必要があった。

(けれどこんな所で金の力を使ったら、西条さんたちが……!)

ライジングパワーはクウガに強力な力を与える一方、繰り出す技に伴う爆発の威力も凄まじい。
これは上位の未確認生命体が末期に開放するエネルギーを含めてのことではあるが、ライジングマイティキックの引き起こす爆発は、半径

3kmの建造物を吹き飛ばす。
迷うクウガの耳元に、微かな呻き声が届いた。

『タス……』
「何ッ!」
『タス……ケテ……』

一瞬クウガの動きが止まる。
その瞬間、ドーパントは素早い動きで拘束から抜け出すと、脚払いでクウガの姿勢を崩す。
宙に浮くクウガの背中に、左腕の鉄球が振り下ろされた。
クウガは思わず悲鳴を上げながら地面に転がる。
仰向けに倒れたクウガに、ドーパントは次々と追い討ちをかける。
鉄球が振り下ろされるたび、胸部を保護するブロッカーが凹んで行く。
最後に、一際勢いを付けて鉄球を叩きつけた後、そのまま肺を上から圧迫してくる。
呻き声を上げながらも、何とか抜け出そうとするクウガ。
しかし敵の拘束は固く、下から拳を叩きつけても身揺るぎもしない。
ギリギリと、胸部に押し込まれて行く鉄球。
その圧力に、装甲の裂け目から鮮血が吹き出る。

「このままじゃ……!」

突如、響き渡る轟音。
頭部に銃弾を2発撃ち込まれ、ドーパントの体が揺らいだ。
その脇腹にキックを打ち込んで拘束から脱すると、クウガは背後を振り返った。

「一条さん!?」

このシチュエーション、そして耳慣れた357マグナム弾の銃声。
この島のどこかにいるはずの、生真面目な刑事を思い起こすのも無理はない。
しかし、ドーパントに銃を向けているのは、さっき出会ったばかりの西条だった。
ドーパントは直ぐに起き上がると、彼女に鉄球を向ける。

「危ない!」

クウガが叫ぶ。が、杞憂であった。
西条は即座に横っ跳びで鉄球を避けると、地面に方膝を付いて拳銃を敵へ向け、引き金を引く。
銃弾は次々と命中し、ドーパントは僅かによろめく。


「よし!」

その隙にクウガは立ち上がって、再び構えを取った。
アマダムの色が変わり、装甲の形状が変形して行く。

「超変身!!」

次の瞬間には銀の装甲に紫のライン、大地の力を身に纏ったクウガ・タイタンフォームが出現していた。
本来、タイタンフォームには専用の剣・タイタンソードがセットになるのだが、今は剣の媒体として使えるものが手元にないため、素手のままだ。
だが、そのパワーと防御力は十分頼りになる。
クウガはゆっくりとどドーパントに歩み寄って行く。
ドーパントはその隙だらけの姿に鉄球を撃ち込む。
鉄球が胸部に直撃するが、クウガは僅かにたたらを踏むだけでその歩みを止めない。
鉄球を2発3発と引き戻しては投げ付けるドーパント。
しかし最早それはクウガに然したるダメージを与えていないようだ。
クウガは敵の眼前まで歩み寄ると、ただパンチを繰り出した。
マイティフォームの時より大幅に強化された腕力によって、ドーパントは紙の様に吹っ飛ばされる。
ダウンしたドーパントに、再装填を終えた西条が銃撃。
2発腹部に着弾した後、断続的な爆発がドーパントの内部で発生した。
ドーパントは腹部を押さえて蹲る。
その特徴的な効果に、五代は見覚えがあった。

「まさか、神経断裂弾!?」

神経断裂弾は対未確認生命体用としてつい最近開発された特殊弾頭で、着弾すると体内に留まって一定の周期で爆発を引き起こす。
腹部に神経組織を持つ未確認生命体、クウガを含め、には致命的な威力を発揮する。
普通の人体やドーパントにそれを用いた場合どんな事態を引き起こすのか、想像もつかない。
反撃も出来ない様子を見て効果があると見た西条は、再び銃口をドーパントに向ける。
思わずクウガはその射線上に立ち塞がっていた。

「どきなさい!」
「待ってください! その人は普通の人間かもしれません!」

西条は眉間に皺をよせる。
クウガごと撃つべきか、回り込むべきか、逡巡した一瞬の間に、ドーパントは立ち上がり、体を変形させる。
左手以外の手足が縮まり、ボール状になったドーパントは、ゴム鞠のように跳び跳ねながら、凄いスピードで逃げ去って行く。

「待て!」

クウガも即座に青い装甲を備えた俊敏性に優れる形態・ドラゴンフォームに変化すると、その後を追う。
が、岩場と木々に阻まれ直ぐに敵の姿を見失ってしまった。
ドーパントの姿を探し、辺りを見回していると、後を追って西条が近付いて来る。
敵は十分離れてしまったと感じたクウガは、変身を解いた。

「すみません。あいつ、取り逃がしちゃいまし……た?」

取り敢えずの危機は脱したはずだが、西条は未だ刺すような目線と銃口を五代に向けている。
一応共闘した仲なのになぜそんな敵意を向けるのかと、五代はたじろぐ。

「何故邪魔をしたの」
「え?」
「何故奴に止めを刺す邪魔をしたの!」

西条は相当頭に来ているようだ。
だが、五代もこの件について譲るつもりはない。

「あのドーパント、言ってたんです。助けてって」
「……それで」
「説明書にも書いてあったじゃないですか。
ガイアメモリの副作用で精神に悪影響を及ぼすって。
錯乱して周り全てが敵に見えてるだけなのかもしれない」

西条は五代に悪意があった訳ではないことだけは理解したのか、銃口を下げる。
だが、射殺すような目は相変わらずだ。


「仮にそうだとしても、あの化物は暴走を続けて他の参加者を殺すかもしれないのよ」
「その前に止めます」
「出来ると思ってるの?」
「確かに難しいと思います。
でも、人間はだれも死なせずに、皆でこの島を脱出するのが一番じゃないですか」
「奇麗事ね」
「奇麗事だからこそ、現実にしたいんです。
だって本当は、奇麗事が一番いいじゃないですか」
「ふざけないで」

西条は怒気を込めて言い放った。

「貴方は力を持っているんでしょう。
最善に拘る余り、力を振るう事を躊躇すれば、守るべき全てを失うかも知れない。
非現実的な最善より、確実な次善三善を選択するべきよ」

西条の言いたいことは五代にも判る。
未確認生命体との戦いでも、五代達は何度となく苦しい決断を迫られることがあった。
何が最善かなんて、実際に起きてみないと判らない。
でも、だからと言って最善を求めることを止めてしまったら、何も変えられない。
五代は西条の視線を正面から見返す。

「責任があるってことは理解してます。
けど、最善を諦めることだけはしたくない。
だから俺、いざという時は迷いません。
倒すべき相手だったら躊躇しないけど、助けるべきと決めた相手を見捨てることは絶対にしない。
中途半端はしないって、決めてるんです」

西条は暫く五代と睨み合っていたが、不意に視線を外すと拳銃の弾倉を振り出すと、銃弾の交換を始める。
ようやく鋭い視線から開放されて、五代は肩を下ろした。

「あ、そう言えば……。西条さん、例のガイアメモリ、どうするんですか」
「ああ」

西条は懐から取り出したメモリを再びしまった。

「使いたくはないけれど、状況的に四の五の言ってられないかもね」
「そんな……」
「もし私が毒素とやらで狂ったら、貴方が私を殺しなさい。
笑顔を奪う怪物を殺すのが貴方の役目なんでしょう。
その代わり――――」

西条は装填を終えた拳銃を腰のホルスターに収めると、再び五代を睨み付けた。

「貴方の存在が人間の害になるなら、私が貴方を殺す。
私は一切躊躇しないわよ。
人間と敵対する存在は全て殺す」

西条の言葉に込められた感情に、五代は一瞬目をしかめる。
『殺してやりたい』と呟いた少女の姿が脳裏に浮かんだ。
だが、五代は直ぐ笑顔に戻った。

「じゃあ、一緒に行きましょう。西条さん。
一人より二人の方が安全だし、沢山の人が集まった方がこの島から脱出する方法も早く出てくると思うんです」

西条は小さく頷くと、五代に背を向けて歩き出した。

「まずは、あのドーパントを追うわよ」
「それに人捜しですね。首輪の解除が出来る人がいれば良いんですけど」
「それなら、部下の石堀が役に立つかも知れないわ。
彼は情報処理と物理現象の解析に通じている」
「本当ですか! 凄いじゃないですか」
「そう上手く行くとも思えないけれどね」
「あと、俺の知り合いも殺し合いに巻き込まれてるんです。
一条さんといって……」

お互いの情報を交換しながら、五代と西条は山道を歩き始めた。





ごつごつとした地面を踏みしめつつ、西条は横目で知っている事を洗いざらい話している五代を眺めた。
彼は彼で思う所もあるのだろうが、基本的には西条を味方として認識しているのが判る。
銃を突き付けていた西条を簡単に信用し、目の前で変身を解除した事にもそれが現れている。
そんな五代を、西条は主に二つの意味で危険だと感じた。

先の戦闘でクウガの戦いを見ながら、西条は青いウルトラマンの戦い方を思い浮かべた。
両者の戦法はある部分で似ている。
どちらも全く退く事を選ばない。
青いウルトラマンの捨て身の戦い程極端でないものの、クウガも防御の頻度は低く、敵の攻撃を真正面から受けることが多い。
攻撃を横や上に避ける事はしても、屈み込んだり後ろに下がることはない。
最短の経路で敵に向かい、最速で戦闘を終わらせようとする。
だが、話を聞く限り、五代には自殺願望があるわけでも、自分の命を軽く見ているわけでもない。
ただ、他人の命の価値が、五代雄介にとってはとてつもなく重い。
だから必死になって戦っている。自分の命を顧みることなく。
そんな五代のことを、周囲の人間は放って置けないに違いない。
きっと多くの人の援助と信頼によって、五代の戦いは成り立っている。

しかし、この島での殺し合いで同じ戦い方が通用するとは思えない。
恐怖や優勝の褒章に屈した人間は、他人を騙し、裏切るだろう。
戦う度に傷付き、体を安心して休める場所もなく、信用しようとした人々に裏切られ、救おうとした人々を目の前で殺され。
絶望の寸前に追い込まれた場合、五代がどうなってしまうのか、今の西条には判断できない。

西条の脳裏に、クウガの後姿に一瞬被って見えた影が焼きついている。
闇の巨人にも似た、漆黒のクウガの姿。
只の幻と笑って済ませることの出来ない脅威を、西条は感じていた。
あれはクウガが絶望の闇に囚われた姿なのではないか――――。

(……皆の笑顔の為と言いながら、自分の笑顔の為には戦わないのかしらね)

柄にもない心配をしてしまった自分に、西条は軽く自嘲した。
危険なのは自分も同じだ。
最後の戦いの中、共に光の中に消えた筈の姫矢と溝呂木のことも懸念材料の一つだったが、それ以外にも判らない事が多すぎる。
TLTとの交信も出来ない。本来の隊長である和倉もいない。
パルスブレイガーを始めとする装備も奪われ、首輪によって命の綱を握られた正に絶望的な状況。
自分と、隊員である石堀と孤門の3人だけで、ナイトレイダーとしての使命を果たす事ができるのか。
そして懐に忍ばせたガイアメモリの存在。
これを使って、憎んでいた筈の化け物へ変貌して、自分は自己を保っていられるのか――――。
西条はガイアメモリを握り締めて、毅然と前を見据えた。

(どんな恐怖であろうと、絶望の闇の中であろうと、私は変わらない。
人類に仇成すビーストを、一匹残らず、この地上から抹殺する。
この、憎しみを力にして――――)


※※※※


――――最高だぜ、凪――――

痺れの残る腹部を押さえながら、溝呂木眞也は本当に嬉しそうに哂っていた。
その手には、人間の腕を模した"V"のイニシャルが描かれたガイアメモリが。
先程、ドーパントの状態で"助けて"等と言ったのは、勿論彼の狂言である。
基本的に相手を見下すくせに、やり口が一々姑息なのが溝呂木眞也と言う男なのだ。

絶えず不規則に移動する敵に確実に弾を当てる射撃の腕。
当たれば致命的な攻撃に対し、恐怖に流されず、冷静に最適な方向へ回避する克己心。
そして、何より、普通の人間かもしれない相手に躊躇なく止めを刺す冷酷さが良い。
やはり西条凪は自分と同じ道を歩むべき存在だ。
力のみを追い求めるもの。
弱肉強食のこの世界では、より強きものが弱きものを食らう。彼女はそれを良く判ってる。
それに引き換え、あの赤い戦士になった男、五代雄介と言ったか、はその事実を全く理解できていない。
少し人間性を匂わせる言葉を聞かせただけで、拳に込める力が鈍ってしまう。
姫矢と同じ、正義の味方気取りの愚かな連中。
あれでは力の持ち腐れだ。
だが、彼は彼で、その奥に深い闇を抱えている、そんな予感がある。
ダークメフィストの力で一気にケリを付けてしまおうとも考えたが、もっと面白いやり方を思い付いた。

腹部の痺れも収まって来た所で、溝呂木はゆっくりと立ち上がる。
常人を超えた感覚で五代と西条の様子を探るが、もう既に距離が離れてしまっていた。
魔人は酷薄な笑みを浮かべたまま、彼らとは別の方向へ悠然と脚を進める。

――――まずは、姫矢だ。
折角終焉の地で儀式の段取りまで整えてやったのに、全く予想もしない形で水を指されてしまった。
本来ならゆっくりと時間を掛けて処刑してやりたかったのだが、こうなっては仕方が無い。一気にウルトラマンの力を奪ってしまうとしよう。
他にも、ガイアメモリを始めとして、利用できる力があれば全て自分のものにする。
より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至る為に。
そして孤門の様な、何の力も持たない弱い存在を見かけたら、操り人形として利用しても良いだろう。
言葉で不信と恐怖を煽り、幻覚でそれを暴走させてやれば、ただの人間など容易く操れる。
そしてガイアメモリなどを使って強化し、姫矢たちの様な正義の味方を真似る連中にぶつける。
守ってやるなどと嘯いていたその相手を手にかけ、悲嘆に暮れる様を眺めるのも良いし、結果的に敗れて死んでくれるなら最高だ。
どちらにしても損はない。
それに、上手く行けば、あの五代と言う男の闇を引き出すことも出来るかもしれない。
首輪に繋がれ、命を握られているのは気に入らないが、それ以外は面白いことばかりだ。
楽しい。ここは本当に心地が良い。
さあ――――

「始めようか、デスゲームを」


【F-5/山間部】
【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[状態]:疲労(小)、胸部を中心として打撲多数
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3個(確認済)
[思考]
基本:出来るだけ多くの人を助け、皆でゲームを脱出する。
1:西条凪と情報交換。
2:西条凪と共に協力者を集める。
3:バイオレンスドーパントを止める。
4:人間を守る。その為なら敵を倒すことを躊躇しない。
[備考]
※参戦時期は第46話、ゴ・ガドル・バに敗れた後電気ショックを受けている最中


【西条凪@ウルトラマンネクサス】
[状態]:健康
[装備]:コルトパイソン+執行実包(6/6)、T2ガイアメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ガイアメモリ説明書、.357マグナム弾(執行実包×18、神経断裂弾@仮面ライダークウガ×8)
[思考]
基本:人に害を成す人外の存在を全滅させる。
1:五代雄介と情報交換。
2:バイオレンスドーパントを倒す。
3:孤門、石堀と合流する。
4:相手が人間であろうと向かってくる相手には容赦しない。
5:五代の事を危険な存在と判断したら殺す。
[備考]
※参戦時期はEpisode.31の後で、Episode.32の前
※所持しているメモリの種類は後続の書き手の方にお任せします。


【溝呂木眞也@ウルトラマンネクサス】
[状態]:腹部にダメージ(小)
[装備]:ダークエボルバー@ウルトラマンネクサス、T2バイオレンスメモリ@仮面ライダーW
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~2個(確認済)
[思考]
基本:より高きもの、より強きもの、より完璧なるものに至り、世界を思うままに操る。
1:姫矢准からウルトラマンの力を奪う。
2:その他にも利用できる力があれば何でも手に入れる。
3:弱い人間を操り人形にして正義の味方と戦わせる。
4:西条凪を仲間にする。
[備考]
※参戦時期は姫矢編後半、Episode.23以前。





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投下順で読む



五代雄介 Next:魔法、魔人、悪魔
西条凪 Next:魔法、魔人、悪魔
溝呂木眞也 Next:魔法、魔人、悪魔



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最終更新:2013年03月14日 22:15