紅色の涙 ◆7pf62HiyTE
『彼』には『兄』がいる。
元は1つだった瓜二つの双子の『兄』が――
『彼』はずっと『兄』の背中を追って生きていた。
『彼』は『兄』を越える為ならばどんな努力も惜しまなかった。
勝った事が無いわけではない。
だが、その時敗者であった筈の『兄』の表情は敗者のそれではなく晴れやかなものでむしろ日々の努力を惜しまなかった『彼』の努力を称えた。
言うなれば勝負自体は勝ったが、本当の意味では負けていたのだ。
そしてある時――自然の脅威を目の当たりにした時もそうだった。
絶望した『彼』に対し『兄』は最後まで諦めず『彼』を励まし続けた。
そう、完膚無きまでに強靱な精神を『彼』に見せつけたのだ。
それだけではない、その時『父』に助け出されたが、『彼』は『父』が先に助けるのは『兄』の方だと思っていた。
しかし『父』は『彼』の方を助けようとし、『兄』に対しては自力で這い上がれると檄を入れた。
つまり――『父』は『彼』には助けがいる一方、『兄』は逆境も一人で乗り越えられると判断したのだ。
『彼』にとって『兄』は絶対的な目標だったのだ、決して越える事の出来ない――
その最中『兄』が進化し絶対的な力を手に入れた。だが、それは代償として自らの滅びを招く両刃の剣だった。
本来ならば捨て置いても何の問題もない、だが『彼』にはそれを容認する事が出来なかった。
生きている間に『兄』を越えなければ『彼』にとっては何の意味も無いのだから。
故に『彼』もまた『兄』と戦い打ち倒す為に進化しようとした。
例えその可能性が僅かであっても、その代償として寿命を大幅に削る事になっても――
結果だけ言うならば進化自体は成功した。
だが、既に言及されていた通り、代償として肉体は限界を迎える事となった。
『兄』のいる所に向かう事すら出来ず――
だからこそ、『彼』は決着を着けるべく『兄』へと呼びかけ。
『兄』を待ち受けようとした――全ての決着を着ける為に――
その矢先だった――この殺し合いに巻き込まれたのは。
見せしめの中に死んだ筈の男がいようが関係ない、
同じ様に死んだ筈の『妹』が生きてこの場にいても関係ない、
『彼』にとってはもう長くない状況で『兄』共々下らない殺し合いに巻き込まれた事が許せなかった。
彼は嘆く。何故、『兄』と決着を着けさせてくれないのだと――
進化した力があれば並の相手に負ける事はない、その確信はある。
だが『兄』と決着を着ける前にこの身体が限界を迎えては駄目なのだ。
これは『彼』だけの問題ではない、『兄』もまた『彼』との決着前に限界を迎えては駄目なのだ。
『彼』と違い『兄』の方はそれなりに動ける様だがそれでもそう長くはないだろう。
だからこそ、『彼』は願う。
今『彼』自身がいる場所に『兄』が来てくれる事を――
※※※※
1人の男が森の中を行く。
真面目な話、加頭と名乗る地球人如きに従う道理など無いが、その一方他者を守る義理も無い。
完璧な存在である自身ならば他の参加者、主催者共々皆殺しにする事など造作もないだろう。
だが、何かが引っかかる――
そう、見せしめで殺された者の中に既に死んでいた筈の小物がいた事よりも、
既に死んだ筈の裏切り者が自身と同じく参加者にいた事よりも、
自身の身に起こった事が何より引っかかっていたのだ――
モロトフはテッカマンである。
この殺し合いに巻き込まれたテッカマンは5人、
テッカマンダガー、フリッツ・フォン・ブラウン
テッカマンレイピア、
相羽ミユキ
テッカマンブレード、
相羽タカヤ
テッカマンエビル、
相羽シンヤ
そして自身であるテッカマンランス、モロトフ
だが、ダガーは見せしめとして殺されている為、この場に残っているのは後4人、
残る4人が皆味方というわけではない。
レイピアとブレードはラダムの裏切り者である不完全なテッカマン、故に敵として排除しても何の問題もない。
エビルはランスから見れば一応味方だが別段助けてやる義理はない、
向こうに残っているオメガやソードには多少は悪いとは思わないでもないが有能な自身だけが生き残れば事足りる。
それでも裏切り者であるブレードとレイピアはともかく、いきなりエビルと潰し合う事もないだろう。向こうがその気ならばその限りではないが――
「近くか」
その最中、モロトフは近くにテッカマンの気配を感じていた。
テッカマンは自らの力で互いの存在を察知、場合によっては意志を伝え合う事が出来るのだ。
この小さな島程度の範囲なら3人全員察知する事も造作もない事だが、どういうわけだが1つしか感じられない。
真相は不明。だが、すぐ近くにテッカマンが1人いる事は確実だ。
「レイピアかエビルか――それとも」
レイピアならば早々に仕留め、エビルならば二つ三つ話をすれば良い。
「ブレードか?」
ブレードならばレイピア同様早々に仕留め――
――られるのか?
そんな脳裏をよぎる疑問を余所に大きな屋敷を見つける。
地図が正しいならばE-5にある冴島邸と呼ばれる所だろう。
テッカマンの気配はそこからだ。つまり、あの中にテッカマンがいるという事だろう。
モロトフは臆する事無く屋敷の中へと入り――テーブルについている1人の男を見つけた。
「ブレード……いや、エビルか」
それはブレードこと相羽タカヤと同じ顔をした男――
「なんだ、モロトフ……ランスか。タカヤ兄さん……ブレードだと思いきや」
相羽シンヤ、テッカマンエビルである。
シンヤの妙に落胆した態度――ブレードに執着していた事は知ってはいたものの――
それがどうにもかんに障った。
だが、それよりも何か違和感を覚えた。
記憶している限り、シンヤは激闘のダメージを回復させる為母艦の方に戻っていた筈だ。
しかし今のシンヤはその割には――
「まぁいいさ、ランス……お前に頼みがある」
「頼みだと? 何故私がお前の頼みを聞かねばならん?」
突っぱねようとするモロトフの返しに構うことなく、シンヤは言葉を続ける。
「なに、難しい事じゃない。ブレードに伝えてくれ『エビルが島の中央で待っている』……とね、それだけで良い」
今現在2人のいる場所が丁度この殺し合いの舞台となる島のほぼ真ん中となっている。
拡大解釈するならば、ブレードにこの場所あるいはこの近くまで来る様に言えという事だ。
「聞いてなかったのか? 何故私がお前の頼みを聞いてやらねばならん。大体、わざわざ私に頼まんでも自分で探せば良いだろうが」
「そう言うと思ってた。俺だって出来るならばそうするつもりだった……」
言われてみれば確かにその通りだ。
あれだけブレードに執着していたシンヤが自力で動かずわざわざ自分にメッセンジャーを頼む真似をするだろうか?
が、真意はどうあれシンヤが動かないつもりならばそれでも構わない。奴の事情など関係ない、好きにやらせてもらう。
「お前が動かないのならば私がブレードを倒す。エビル、お前の出番はない、ブレードは私が倒す、必ず――」
そう言い放とうとするモロトフではあったが、
「ふっ……」
シンヤは静かに笑みを浮かべる。
「何がおかしい?」
「ランス……お前じゃ今のブレードには勝てない……覚えていないのか? ブラスター化したブレードに為す術無く倒された事を――」
その言葉により、モロトフの脳裏にあの瞬間がフラッシュバックする。
あの時、シンヤの到着を待たず単身ブレードの始末を着けに向かった。
無論、完璧なテッカマンたる自身にとってそれは容易い事の筈だった。
しかし、あの時現れたブレードは人間達によれば進化、ブラスター化していたらしい。
確かに外見が変化したのはわかるが、自分達以上の完全体がいる筈などないとその時のランスは侮っていた。
が、結果はどうだろうか?
ランス自身の攻撃は一切ブレードには通用せず、
圧倒的なパワーとスピードで簡単に押し切られ、
至近距離からのボルテッカを直撃させても全くダメージを与えられず、
ブレードの放ったボルテッカの強大なパワーによって――
「ああ、そうだった……確かに私はあの時……」
「何故、死んだ筈のお前やダガー、それにレイピアが生きているのかが気にならないでもないが、正直そんなのはどうだって良い……俺にとってはね」
少なくともモロトフ自身も何故かフリッツやミユキが生きていた事に関しては割とどうでもよい。
だが、ブレードの圧倒的な力によって倒された、あるいは倒されようとしていた自身が五体万全でここにいるのはどうでも良いで片づけて良いものでもない。
その一方、モロトフの全身から冷や汗が溢れ出ているのを感じていた。
認めたくはないがブレードの圧倒的な力に完全敗北した事は純然たる事実だろう。
シンヤが語ったとおり、今ブレードに挑んでも返り討ちに遭うのがオチだ。しかし、
「……だがエビル、私に及ばないお前がブレードに挑んでも同じ結果になると思うが?」
「別に俺はランスに劣っていると思ってはいないが……まぁ実際その通りだったさ、俺もブラスター化したブレードに破れた、お前と違って生きて戻れたが同じ事さ」
その言葉を聞いてモロトフは不思議に思う。
そこまで解っていて何故シンヤは冷静でいられそれでもなおブレードに挑もうとするのだろうか?
別にシンヤが勝ち目の無い戦いに挑んで自滅しようが別段構わない。
しかし、ブラスター化したテッカマンの圧倒的な力を目の当たりにしてあのシンヤがそこまで冷静でいられるだろうか?
いや、シンヤの性格を考えるならば――
「エビル、何をした?」
「何をって?」
「とぼけるな、あれだけブレードを倒す事に躍起になっていたお前があの力を見せつけられて黙っているわけもないだろう。もしや――」
シンヤ自身もブレードに挑むべくブラスター化を行ったのではなかろうか?
モロトフの問いにシンヤは無言で頷いた。
「くっ……馬鹿な、お前も進化したというのか!? 完璧なテッカマンたる私をも超越したというのか!?
だがそれならば尚のことお前一人で探せばいいだろう、わざわざ私をメッセンジャーにする必要もない!
大体圧倒的な力があるならさっさとその力で人間共を皆殺しにしてブレードを誘き寄せれば済むだろうが!
答えろエビル!!」
思わず声を荒げてしまうモロトフに対しエビルは未だ落ち着いた表情のまま、むしろ笑みさえ浮かべている。
「完璧なテッカマンという意味ならランス、お前の方がずっと完璧だ」
「冗談は顔だけにしろ、それだけの力を得て完璧じゃないというのか!?」
「ああ、ランスに言わせれば不完全なテッカマンになったって言ってもいいさ。ブラスター化の副作用で俺はもう長くない、数回戦ったぐらいで限界を迎え……死ぬだろうな」
ゆっくりと語るシンヤに対しモロトフは更に質問をぶつける。
「ちょっと待て、それが事実ならばブレードも副作用で長くない筈だ」
「ああ、だからこそ俺は……」
「そうではない、俺が見た所ブレードの奴も地球人共の力を借りて進化を行っていた様だった」
あの時、ブレードはすぐに現れず、地球人共が無謀にもランス自身に立ちふさがっていた。
その時はそこまで気にとめなかったが、今にして思えば恐らくは進化の為の時間稼ぎをしていたのだろう。
更に言えば、自分達が知らなかった事を踏まえてテッカマンの進化の可能性にブレード自身が気付いていたとは到底思えない。
つまり、進化には他者の協力が必須条件の筈だ。ブレードは地球人共の協力を得て進化を果たしたのだろう。
そこまでは良い、重要なのはここからだ。エビルが進化する為にも当然、誰かの協力が必要だ。しかし、
「幾ら莫大な力を得られるとはいえ、寿命を縮める進化をオメガ様が施すとは到底思えん」
そう、自分達の司令官ともいうべきテッカマンオメガがシンヤの要望に応じ進化を施すとは考えられない。
進化出来ると解っているなら自分達が知らないわけもない。にも関わらず知らないという事は知る必要の無い事なのだろう。
だが、それでも万一の時の為最低でもオメガだけは知っていても不思議ではない。そのメリットとデメリットを――
それが解っているのなら、オメガはブレードを捨て置き自滅を待つのは想像に難くない。わざわざ進化させ戦力を落とす必要は皆無だ。
「オメガ……ケンゴ兄さんにも反対されたさ」
「ならば出来る訳が……」
「フォン……ソードがやってくれた、ケンゴ兄さんが基地と一体化して眠りについている間にね」
「何!? それこそあり得ん! ソードがオメガ様に逆らうなど……」
「あの時、命を捨てても必ずブレードを倒すならという話だったからな……恐らく、ケンゴ兄さんを守る為だろう、それがケンゴ兄さんの意に背く事であってもね」
「むぅ……」
微妙に納得のいかない表情を浮かべるモロトフであった。
「ともかくそういうわけさ。俺は何としてでも俺自身の手で兄さんを倒さなくてはならないんだ、だから……」
「何度も言わせるな、お前の言葉に従う義理は無い。弱点がわかった以上、次こそはこの私がブレ……」
その時、今まで穏やかな表情だったシンヤの目つきが鋭くなり、
「ランス! 別に俺の願いを聞いてもらえるとは端から思っていない……だが、それ以上口にしてみろ……俺とタカヤとの戦いを邪魔するならば……この場でお前を殺す!」
激情を込めた上でモロトフに言い放つ。
前述の通り、ブラスター化の副作用によりシンヤの寿命は大幅に縮まった。
恐らく後僅か、悪ければ次、良くて数回テックセットすれば限界を迎えると考えてよく、それどころか普通に動く事すら辛い状態である。
それ故に、シンヤ自身はよほどの事が無い限りは基本戦わず、自身のスタート地点である冴島邸及びその周囲でブレードを待つつもりだった。
だが、モロトフがこのままブレードとの戦いを妨害するつもりならばテックセットしてランスを仕留める事も辞さなかった。
「言っておくが俺は本気だ。何なら試してやろうか?」
そういって、クリスタルを構える。
「ぐっ……」
何時ものモロトフであるならば、シンヤがどう言おうが頑として聞き入れなかっただろう。
だが、ブラスター化したブレードに一方的に倒された記憶をもつ今のモロトフはそうではない。
全身から冷や汗が吹き出してくる。まだテックセットしていないにも関わらず強大なプレッシャーを感じたという事だ。
この場で戦いになればランス自身逃げの一手に回らざるを得ない。
だが、先のブレードとの戦いを踏まえても解る通り、そのスピードはランスの比ではなく撤退自体容易ではない。
更に言えばあの時も何とか逃げようとした所でボルテッカの直撃を叩き込まれたのだ。
故に、倒す事はおろか逃げる事すら厳しいという事だ。
「頼む……俺からタカヤを取らないでくれ……ランス」
クリスタルを構えたままモロトフに対し頭を下げる。
シンヤの言い分はわからないでもないが、半ば脅しに近い懇願を受け入れる事に抵抗はある。
だが、ブラスター化の脅威は身を以て知っている以上、ここでエビルと事を構えるのは愚行でしかない。
少なくとも一応は味方同士、潰し遭う必要は全くない。
同時にランス自身ブラスター化したブレードに勝てる確証も皆無、忌々しいもののエビルに任せるのが一番確実な手段とも言える。
そこまで考えてモロトフは、
「わかった、私からは手を出さないでやる。但し、ブレードの方から仕掛けて来た時までは知らんぞ、それで良いな」
最大限の譲歩としてあくまでも自分からは手を出さない事を明言した。
「ランス……礼を言う……そうだ、コイツを持っていってくれ」
と、デイパックからあるものを取り出しモロトフに投げ渡す。
「これは……」
「もしタカヤに俺の声が届かなかった時はコイツを使って直接呼びかけるつもりだった……だがランスが来てくれた以上その必要も無くなった」
それはメガホン型の道具、そう拡声器である。
その名の通り広範囲――確実に自身の居るエリア、条件が良ければ周囲8エリアまで自身の声を届ける事が出来る代物だ。
故に、他の参加者に自身の居場所を伝える事が出来る。
当然、敵味方問わない為、味方はともかく敵まで招き寄せるリスクを伴う。
自身の居場所をタカヤに伝わらなかった場合、シンヤは拡声器を使い自らの声でタカヤに呼びかけようと考えていた。
だが、それ以外の敵が邪魔しにくる可能性もあったし、有効範囲外にタカヤが居た場合はそもそも無駄に終わってしまう。
無駄な戦いを避けねばならない関係上、使う事に関しては正直迷っていた。
しかし、モロトフが来てくれた事から、近くまで来てくれれば十分伝わる事が判明。拡声器を使う必要性は無くなった。
「ランス、コイツは好きに使ってくれ」
確かに自分から探しに行く手間を省くという意味で拡声器はありがたい道具だ。
だが、一方的に借りを作るのも癪にさわる。そう考え、モロトフもデイパックから何かを出しシンヤに投げ渡す。
「これは?」
「私には必要の無いものだ。持っていても構わないが、持てる量に限りがある以上、使える道具は選びたい」
それはクワガタを模した携帯電話型のメモリガジェットスタッグフォン、
スタッグメモリを挿入する事で、昆虫型に変形し護身に使う事が出来る代物だ。
とはいえ、この場では携帯電話つまりは通信機としての機能は使えず、昆虫型なら護身に使えるといってもテッカマンとしての強大な力を持つ自分達にとってはあまりにも無力なもの。
故に必要ないと判断しシンヤに押しつける形で渡したのだ。
「いいのか?」
「必要無いと言った筈だ。それにエビル、お前に借りを作りたくはない」
そう言ってモロトフは出ていこうとする。
幾ら同じラダムのテッカマンといえど、共に往く趣味は無い。早々に他の参加者を片付けに向かいたい所だ。
と、ドアに手をかけた段階で、ある事に気づき足を止める。
「ランス?」
「……お前がここに来たのはブレードがブラスター化を果たしてから随分経った時だな?」
「ああ、それがどうした?」
「私がここに来たのは奴がブラスター化を果たした直後、恐らくレイピア、ダガーが来たのも奴が死んだ時と考えて良い」
「何が言いたい?」
「私達の間で時間に開きがある……だとしたらブレードがブラスター化している状態で来ているとは限らないのではないのか?」
「……!」
モロトフとシンヤ、互いの状況から両者の間には時間の開きが見受けられる。
もし、参加者間の時間軸に差があるとするならば、シンヤとタカヤの間でも同じ事が言えるだろう。
ブレードがブラスター化を果たす前から来ている可能性も十分あるという事だ。
「もしそうなら今のエビルとならば戦いにすらならないだろう。だが寿命を縮めてまでブラスター化したにも関わらず、そのようなあまりにもお粗末な結果に終わっても構わないのか?」
その問いに対し暫し静寂が包み込み、
「……関係無いさ。仮にそうならタカヤ兄さんにとっては絶望的な状況だ。
だが、土壇場の底力の強さは俺が一番よく知っている……そうそう簡単に倒せる相手じゃない事に変わりはないさ。
出来るなら、対等の条件で戦いたい所だが……」
穏やかな表情のまま返した。その返答に対し、
「……やれやれだ、勝手にしろ」
そう応えモロトフは部屋を出てそのまま冴島邸を後にした。
何にせよ、ブラスター化したブレードに対抗出来るのは同じくブラスター化したエビルしかいない。
とはいえ、他の連中はテッカマンである自分の敵では無い事に変わりはない。
ならば当面は他の参加者を排除すべきだろう。エビルとブレードに関してはその後考えればよい。
幸い、シンヤから渡された拡声器を使えば参加者を集める事はそう難しくはない。
後はタイミングを見て使うだけ、モロトフはそう考えていた。
そして最終的には――
「有能なる私を巻き込んだ事を後悔するが良い……加頭、お前は私が倒す。必ず倒す」
そんなモロトフの様子を1匹のコウモリが見つめていた――
【一日目・未明】
【E-5/森】
【モロトフ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:健康
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、拡声器、ランダム支給品0~2個(確認済)
[思考]
基本:参加者及び主催者全て倒す。
1:適当な所に移動し拡声器を使い、集った参加者達を排除。
2:ブレード(タカヤ)とはとりあえず戦わない。
[備考]
※参戦時期は死亡後(第39話)です。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
「とりあえず、周囲にはランスしかいないか」
そう良いながらシンヤはスタッグフォンに転送されている映像を見ていた。
先のコウモリの正体はシンヤの支給品の1つ、スタッグフォンと同じくメモリガジェットの1つバットショット。
基本デジタルカメラ型をしておりバットメモリを挿入する事でコウモリ型に変形し追跡や監視を行う事が出来るのだ。
なお、バットショットが撮影した写真や動画はパソコンやスタッグフォンにリアルタイムで転送する事が可能である。
奇しくもモロトフが不要と断じシンヤに渡したスタッグフォンによって、バットショットが撮影した映像をリアルタイムで把握する事が可能となったのだ。
少なくとも力を温存しておきたい今のシンヤにとって居ながらにして周囲の状況を把握出来るのはありがたい。
「ぐっ……」
だが、その間にもシンヤの身体に激痛が奔る。
ブラスター化の副作用は現在進行形でシンヤの身体を蝕んでいるのだ。
「兄さん……タカヤ兄さん……この声が届くならば聞いてくれ……決着を着けたいんだ……」
それでもシンヤはこの島の何処かにいるであろうタカヤへと呼びかける。
この声が届けばタカヤは必ずここに来る。その確信をもって呼びかけ続ける。
だが、タカヤからの反応は未だ無い――それでもシンヤは呼びかけを止めない。
「だから早く来てくれ……俺は待っているから……」
何故、シンヤはそこまでタカヤとの決着に拘るのだろうか?
タカヤが人間側、シンヤがラダム側だからなのか?
いや、それは違う、それだけが理由ならば寿命を縮めてまでブラスター化せずタカヤの自滅を待てば済む話だ。
「きっとだよ……兄さん……」
その理由は――それが相羽シンヤだからなのだろう。
過酷な運命から『彼』と『兄』は互いに憎しみ戦う関係となった。
だが、『彼』にしてみれば例え過酷な運命に遭わなくても結局は同じ、『兄』と戦う事になっただろうと考えていた。
『兄』と戦い続ける事でしか『彼』自身の存在、つまりは生きている事を証明出来ないから――
そもそも、『彼』と『兄』は互いに憎んでいたのだろうか?
いや、憎んでいたと言うよりはむしろ愛していたのだろう――血の宿命と言っても良い。
それは過酷な運命に遭おうが遭うまいが関係ない、元々一つだったものが惹かれ合い元に戻ろうとする戦いでしか無いのだ――
例え枯れ行く運命だとしても、『彼』はひたすらに声を届けようとする――
愛すべき『兄』の元へと――
【E-5/冴島邸】
【相羽シンヤ@宇宙の騎士テッカマンブレード】
[状態]:ブラスター化の副作用による肉体崩壊
[装備]:テッククリスタル@宇宙の騎士テッカマンブレード
[道具]:支給品一式、バットショット&バットメモリ@仮面ライダーW、スタッグフォン&スタッグメモリ@仮面ライダーW、ランダム支給品0~1個(確認済)
[思考]
基本:タカヤ(ブレード)と決着を着ける。
1:冴島邸に留まり、バットショットで周囲の様子を探りつつタカヤに呼びかけ続けタカヤが来るのを待つ。
2:タカヤと戦う時以外は出来るだけ戦いを避ける。
[備考]
※参戦時期はブラスター化完了後~ブレードとの決戦前(第47話)です。
※ブラスター化の副作用により肉体限界が近いです。戦い続ければ命に関わります。
※参加者の時間軸が異なる可能性に気付きました。
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最終更新:2013年03月14日 22:17