現れた魔女! その名はノーザ!! ◆LuuKRM2PEg
「やってくれるわね、あの加頭とかいう男……」
生い茂った木々によって一切の光が差し込まない森の中を、一人の女性が歩いていた。腰まで届くロングヘアーと長身を包むドレスは闇色に染まり、その肌は雪のように白い。細く鋭い目線も相まって、その外見は見る者全てに魔女というイメージを与えるかもしれなかった。
しかしそれは、人間の生きる世界に潜伏するために取った北那由他という仮初の姿。その正体は管理国家ラビリンスが植物のDNAを元に生み出したノーザと呼ばれる人工生命体。
普通の人間ならばまともに進むことが出来ない闇の中だろうと、ラビリンスによって発達した視覚を持つ彼女ならばどうという事もない。ノーザが目指すのは森の奥より聞こえてくる激しい物音。耳をすませると、何かが破壊されるような爆音まで聞こえてくる。
これが意味するのはすぐ近くで戦闘が起こっている。すなわち、手駒に出来る参加者を見つけられるかもしれなかった。
ノーザ自身、ラビリンスの科学力によって圧倒的な戦闘力を持っている。しかしこの孤島にはプリキュアと同等、あるいはそれを凌駕するような存在もいるかもしれなかった。加頭が始まりのホールで『仮面ライダー』や『テッカマン』など様々な名称がその証拠。まともに戦った所で不意を付かれる可能性があった。
だが逆にチャンスでもある。そんな連中を思いのままに操れれば殺し合いに勝ち残る事は不可能ではない。この手には、いつも使い慣れているソレワターセの実が紛れ込んでいた。
しかし今回は数に限りがあるので、無闇に使うことは出来ない。その辺の物をソレワターセにしてもプリキュアみたいな奴らがいる以上、倒されてしまうかもしれない。ならば参加者を ソレワターセにすれば手駒にできるだけでなく情報を引き出したり、その知人とぶつければ動揺させることも出来るはずだ。
「いいわ、貴方の働きに答えてあげる……この戦いに勝ち残り、冷たくて暗い暗黒の世界を生み出すために」
恐らくここを見ているであろう加頭に向けるように、ノーザは冷たく微笑む。
彼女は改めて名簿を見直した。やはりそこには裏切り者のイースとその仲間達までもがいる。桃園ラブ、蒼乃美希、山吹祈里の三人。更には深海の闇ボトムによって再び命を手に入れてから存在を知った新たなプリキュアの二人、花咲つぼみと来海えりかまでいる。
誰一人であろうと、ここから逃すつもりはなかった。勝手に戦って自滅してくれればいいが、そこまで簡単な相手でもない。
ならば、利用できる参加者を見つけたときにこの六人に対する悪評も広める必要もあった。勝手に同士討ちしてくれれば構わない。
「あらあら、早速やってるわね……感心するわ」
やがてノーザは、闇に覆われた森の中で戦いを繰り広げている二人の少女を見つけた。
一人は露出の多い衣装を纏って右手にで出来た篭手を装着していて、もう一人は中国で流通しているチャイナ服で身を包んでいる。
彼女達は互いを敵とみなし、勢いよく拳を振るっていた。時に放たれる蹴りは周りの木々を容赦なく砕く。
一本、また一本と倒れるたびに地面が大きく揺れるのを感じながら、ノーザは笑った。
体術から動きのキレを見て、ソレワターセを宿らせる人材としては合格ライン。それに片方は奇妙な力を持っているようだった。ならば後は宿り主に投げつければいい。
戦いを見守るノーザの選定はすぐに終わる。彼女は懐からソレワターセの実を取り出し、勢いよく投げつけた。
「ソレワターセ、姿を現せ!」
ノーザの呼びかけにより、ソレワターセは空中で花が咲くように広がって球状から人型に変わる。
毒々しい緑色が濃くなって行く木の実は、魔女の悪意を乗せながら戦場に飛び込んで行った。
◆
「死ねえぇぇぇぇぇぇぇ!」
チャイナ服を纏った少女は弾丸のような勢いで突貫し、スバル・ナカジマを目がけて跳び蹴りを放つ。しかし、スバルは背後に跳躍してその一撃を避けた。
轟音と共に地面が陥没する中、少女はすぐに足元を蹴って腰を回す。
二発目が来ると反射的に確信したスバルは横に飛んで右ストレートを避けた。続けざまに迫るハイキックも、右腕を掲げてガードする。
蹴りの衝撃でスバルは表情を歪ませる一方、少女は距離を取った。
何事かと思う暇もなく、彼女は傍らに立つ一本の木に拳を叩き込む。すると鈍い衝撃音と共に、大木がスバルを目掛けて倒れこんできた。
「ッ!?」
スバルはすぐに飛んで、迫り来る重量の塊を避ける。
その直後、横から殺意を感じて振り向こうとしたが、方向転換をする暇もなくスバルは吹き飛ばされる。
「キャアッ!」
悲鳴と共に地面に叩きつけられ、そのまま数回バウンドした。
しかし瞬時に体制を立て直しながら少女に振り向く。そしてスバルは迫り来る相手に右手を向けて、一瞬で魔力を集中させた。
『Protection』
相棒であるマッハキャリバーが力強く宣言する。
すると、スバルの目前に現れた障壁によって、少女の拳が止められた。相手は突然の出来事に戸惑うような表情を見せるも、無理矢理にでも破壊しようとする。
防御魔法であるプロテクションはそう簡単に敗れる代物ではなかったが、少女の一撃の重さも異常だった。少しでも油断をすれば、貫かれてもおかしくない。
「お願いだから、あたしの話を聞いて! こんな事を続けていたって、無意味だよ!」
「黙るねっ!」
スバルは説得し続けるが、少女の攻撃は止まらなかった。分かりきっていたが、自分の不甲斐無さに憤りを感じてしまう。
もしも恩師である高町なのはさんなら、彼女をもっと早い段階で説得して落ち着かせていられたはず。
子どもの頃から憧れたあの人みたいなヒーローになると誓ったのに、これではいけない。
だが今は何としてでも、彼女を修羅の道から戻さなければならなかった。
腕づくで止める事が良くないのは分かっているが、ここで彼女を放置してしまっては犠牲者が出る恐れがある。
改めてスバルはそう決意を固めながら、プロテクションの向こう側にいる少女に空いた左拳を放った。
その一撃は彼女にとって想定外だったのか、右肩に打ち込む事に成功する。
スバルの攻撃によって少女の身体は宙を浮かぶが、そこから一回転して地面に着地した。
数メートルほどの距離が開いた両者の視線が交錯する。スバルの悲しげな瞳と少女の殺意に満ちた瞳。
それぞれが真っ直ぐ突き進んでいた。
「あなた、さっき言ってたよね!? 乱馬って人を守るって!」
「それがどうしたね!」
「その人はあなたがこんな事をするのを本当に望んでいるの!?」
「うるさいっ! 黙って殺されるがよろしっ!」
そして、少女は激情に任せたまま再び突貫してくる。
彼女は一瞬で目前にまで迫って回し蹴りを繰り出すが、スバルはバックステップを取っていとも簡単に避けた。これだけ何度も拳を交わしていれば、太刀筋を見極めるのは造作もない。
だが、あまり戦いを長引かせる事も出来なかった。いくら戦法が読めてもスバル自身に蓄積されたダメージが、動きを鈍らせている。
だがスバルは激痛に耐えながら、続けざまに放たれる拳を横に飛ぶ事で避けた。
彼女の死角に回り込みながらリボルバーナックルを向け、支給品として配られていたカードリッジをリロードする。
すると歯車が大きく回転し、少量の煙が噴出して、魔力が凝縮された衝撃波が少女を吹き飛ばした。
彼女が地面に叩きつけられるのを見て、スバルの中に微かな罪悪感が芽生える。
リボルバーシュートの一撃に非殺傷設定を付けているものの、相手にダメージを与えるのに変わりない。守るための力で誰かを傷つけているのがどうしようもなく辛かった。
そんなスバルの思いを他所に、少女は殺意の視線を向けたままゆっくりと立ち上がってくる。チャイナ服は所々が破けていて、痛々しい大量の生傷も見えた。
その原因が自分自身にあるという事実に胸が張り裂けそうになるが、スバルは決して目を背けたりはしない。
「やってくれるね……!」
「もう止めようよ……これ以上戦ったって何にもならないし、誰も喜ばないよ!」
「あんたなんかに何がわかるね! 私は何が何でも助けると決めた!」
「それでも、こんなやり方は間違ってるよ! 他のみんなを殺して助けたってその人は悲しむだけだって!」
「勝手なことを言うのは止めるね!」
何だろうと犠牲にさせてしまう程、彼女の中で乱馬という存在は大きいのだろう。
出会ってまだ間もないが、それだけは確信できた。最愛の人が殺されてしまうと思えば、冷静さを失っても当たり前。
しかしその果てにあるのは六十五人もの命を犠牲にしたという重圧。そんなのを背負わされた上で望みを叶えても、まともな人間ならば本当の幸せを感じることなど出来ない。
「分かったよ……あなたがその気なら、あたしも全力であなたを止めてみせる」
そして、スバルは構えを取った。誰かを守れるようになりたいという揺ぎ無い信念が存在する勇気の証。忘れないあの日から憧れた正義の味方が抱くような、不屈の魂がそこにあった。
一つでも多くの悲しみを無くすためにスバルは前に踏み出す。
「――――ッ!?」
しかし一歩踏み出した直後、突然全身に凄まじい違和感を感じてエメラルド色の瞳が勢いよく見開かれた。痛みや倦怠感とはまた違う、まるで身体の中を大量の虫が走り出すかのような感触。
ナニかがあたしの中に入り込んだ――彼女がそう思い至った頃、体内でナニかが大きく広がった。
◆
「あ……あ、がっ」
たった今まで戦っていた白い鉢巻を巻いた女の動きが止まるのをシャンプーは見る。構えの後に踏み込もうとしたから、更なる一撃が来るのかと思った。
「あ、あ、あ、あ、あ」
しかし実際はその逆で、何の前触れもなく蹲ってしまう。予想外の出来事にシャンプーは戸惑うが、これは逆にチャンスでもあった。
もしも今までのダメージで動きが止まったのなら、そこを付いて奴を殺すことが出来る。
愛する早乙女乱馬との幸せな未来を掴むために、邪魔者を皆殺しにする。シャンプーは女の頭蓋を砕くため、前に出ようとした。
「あああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「なっ!?」
その直後、女が両手で頭を抱えながら叫びだす。
「ああああああああああぎいぃぃぃやあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
まるで人間が発するとは思えないほど凄まじい断末魔の叫びを聞いて、シャンプーの体に悪寒が走った。その直後、背中の肉がボコボコと吐き気を催すような音を立てながら膨張していく。
「ご、が、あああああぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!」
白目が剥き出しとなり、大量の涎と共に口から漏れ出す女の絶叫を前に、シャンプーは思わず後ずさった。明らかに異常が起こっていることは一目瞭然。
だが、何故こうなったのかが理解できなかった。いくら戦いでダメージを与えたからといって、そこまで致命傷ではなかったはず。かといって打ち所が悪かったと言われても、それはそれで納得が出来ない。
「あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――」
困惑が芽生えたシャンプーの前で続く女の叫びは、唐突に始まったように唐突に終わる。そのまま彼女は糸が切れた人形のように首を俯かせた。
「な、何ね……ただのこけおどしね」
そこから動く気配を見せない女を前に、シャンプーは不敵に笑う。いくら強がっていても、やはり体力に限界が来ていたのだ。
もうそんな奴に付き合っている理由などない。シャンプーは全身に殺意を込めて跳躍し、今度こそ拳を放った。
これまで数え切れないほどの修羅場を乗り越えて、多くの敵を打ち破ってきた必殺の一撃。乱馬の邪魔者をようやく殺せるとシャンプーは確信する。
しかし頭部を潰そうとした瞬間、彼女のパンチはあっさりと受け止められてしまった。俯いたままだった女の右手によって。
「なっ!?」
「……」
流石のシャンプーも現状を理解するのに数秒の時間を要した。しかし、この拳が止められた事に納得は出来ていない。
シャンプーは必死に振りほどこうとするが、まるで金縛りにあったかのようにビクともしなかった。その事実に彼女の怒りはさらに増していく。
ならば、殺してでも外させるだけ。誇り高き女傑族が余所者に負けるなどあってはならない。もう一秒たりともこの女を生かしておけなかった。
この距離ならば抵抗する間もなく殺せる。シャンプーはもう片方の手を掲げようとした。
「死にぞこないが、さっさと――」
ぶちゅりと、肉が潰れるような鈍い音によって彼女の言葉は遮られる。いや、最後まで紡がれることがなくなった。
何の音なのか。シャンプーがそう思った頃、頬に水滴が跳ねたような違和感を覚える。しかし水にしては生暖かくて鉄臭い。まるで血のようだった。
それが思い浮かんだ瞬間、彼女はようやく気づく。自分の手が握り潰されてしまったことを。
「あ、あ……ああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
途端に襲い掛かる激痛。そして手首からは大量の血液がまるで噴水のように噴出してくる。
先程耳にしたような悲鳴を今度はシャンプーが発した。血が流れ出す手首をもう片方の手で反射的に押さえながら、よろよろと後退する。
凄まじい痛みによって意識が落ちそうになるが、彼女は強靭な精神力で何とか覚醒させた。その瞬間に勢いよく腹部を殴りつけられて、声にならない悲鳴と共に口から血液を吐き出しながら吹き飛ばされた。
今度は受身を取ることが出来ず、無様に地面を転がり落ちる。木にぶつかったことで回転は止まるが、立ち上がることが出来ない。
それでもシャンプーは顔を上げて、片手を奪った張本人を睨みつける。
女は自分を見下していた。さっきまでの甘さが嘘のように無表情となって、緑色だったはずの瞳が金色に染まっている。
それだけでなく姿も大きく変貌していた。身体の至る所に木の根っ子が触手のように張り巡らされていて、鼓動を鳴らしている。
「お前は……お前は一体……!?」
何とかして吠えようとするが痛みに邪魔されてまともな言葉が出せない。それでも女は沈黙を貫いていた。
そこに侮蔑といった感情は感じられず、あるのは純粋で無機質な殺意だけ。殺戮兵器と呼ばれても、まるでおかしくなかった。
動揺するシャンプーの前で変貌した女、スバル・ナカジマは血に濡れた手甲で握り拳を作る。シャンプーはそれが顔の前まで迫るのを見ていることしか出来なかった。
そして、彼女の顔面が容赦なく貫かれるまでに、それほど長い時間はかからなかった。
◆
スバルは拳に付着した鮮血が地面に滴り落ちるのをぼんやりと見つめている。人間味に溢れた情熱は殺され、まるで人形のように生気を感じさせなかった。
人を殺した。もしも普段の彼女なら、その結果を受け入れたら罪悪感で押し潰されていたかもしれない。しかし今の彼女は自責の念どころか、一切の感情が消え去っていた。
金色に輝く瞳は、スバル自身が疎んでいた戦闘機人タイプゼロ・セカンドとしての姿。身体から溢れる魔力は留まる事を知らず、大気を震撼させていた。
その光はいつもと違って、辺りの闇よりも更にどす黒い輝きに満ちている。数刻前に異様な盛り上がりを見せた背中に植え付けられた、ソレワターセによって。
「どうやら力は押さえられてるみたいだけど上出来ね……お疲れ様」
闇の向こうから聞こえてくるのはスバルを称賛するような声。振り向いた先にいたのは黒いドレスを纏った主人だった。
背中にいるソレワターセが教えてくれる。自分はこのお方に絶対の忠誠を誓わなければならないと。
「ノーザ……様」
「そう、私はノーザ……そしてあなたは?」
「我が名はスバル・ナカジマ……戦闘機人タイプゼロ・セカンドにして、ラビリンス最高幹部ノーザ様がしもべ」
スバルは淡々とした口調で答えながらノーザの前に跪く。すると細い五本の指であごを持ち上げられて、膝を落とすノーザと目線があった。
「フフッ、わかってるじゃない……今のあなたは私のしもべ。私の意のままに動く戦闘マシーンよ」
「私は……ノーザ様の戦闘マシーン」
「ええ、あなたは私のためだけに働く優秀なマシーンよ……光栄に思いなさい」
吹雪のように冷たいノーザの言葉がスバルの中に染み込んでいく。スバルはそれが聞き逃してはいけない神の言葉に思えた。
偉大なるノーザ様のためだけに働き、邪魔者を全て消し去るマシーンとなる。それが自分の存在意義であるとソレワターセは頭の中で強く訴えた。
それがどんなに名誉なことなのか、どんなに幸せなことなのか。あらゆる平行世界(パラレルワールド)を探しても並べられる物はないし、超えられる物もなかった。
それを噛み締めるために戦わなければならない。
「それじゃあ、そこに倒れている『ゴミ』を掃除しなさい……もしも見つかると面倒になるでしょうから」
ノーザが指差すのはスバルが殺した少女の遺体。結局、止めることも名前を知ることも出来なかったが、今となってはどうでもよかった。だってもう、彼女に残った全てを飲み込むのだから。
「全ては、ノーザ様のために……」
左腕を向けると、ソレワターセの触手が幾重にも飛び出していき、頭をなくした少女に絡みつく。一瞬のうちに全身を飲み込むと、ソレワターセは勢いよく締め付けた。
全ての皮膚を裂き、全身の骨を砕いて、あらゆる臓器を磨り潰し、豪快な音を響かせながら血肉を啜る。
その際に、ソレワターセは採取したDNAから少女についての膨大なデータを読み取った。中国に存在する女傑族という部族で生まれ育ち、名前はシャンプーというらしい。
その他にも、シャンプーの経歴や知人に関する情報が次々と流れて行く。常人ならば発狂しかねないが、ソレワターセは伝達速度をコントロールしているのでパニックに陥ることはなかった。
全ての採取が完了した頃、触手はスバルの腕に戻って行く。シャンプーが倒れていた場所には血痕一つたりとも残っていない。
「ガアァァァ!!!」
その直後だった。森の奥から大きな悲鳴が響いたのは。続くように地面が微かに揺れるのも感じる。
この近くで戦いが起こっていると、スバルはぼんやりと考えた。
「行きなさいスバル……あなたの力をもっと私に見せてちょうだい。それがあなたにとっての幸せなのだから」
「幸せ……」
「そう、あなたのおかげであなたも私も幸せになれるのよ……それだけは間違いないわ」
ノーザの笑顔を目にした彼女は立ち上がり、言われるままにマッハキャリバーで木々の間を疾走する。その速度はソレワターセによって爆発的に上昇していた。
夜の冷たい大気が一斉に突き刺さる中、スバルはぼんやりと考えている。この戦いに集められた参加者達を殺し、ノーザ様の敵を減らすことが幸せに繋がると。それはわかっているし、疑うつもりもない。
ただ心の何処かに引っかかりがあった。幸せになれるとわかっているのに、何かがそれを否定している気がする。
『背が伸びたね、スバル』
脳裏に思い浮かぶ言葉。そしてそれを言ってくれる女性の顔。
一体誰だったのか。思い出すことは出来ないけど、この人と出会ったことがある気がする。そして自分はあの人に何か特別な感情を抱いていた気がする。
それがいつで、どうして抱くようになったのかは覚えていない。ただ、その人のことは決して忘れてはいけないような気がした。
新たなる戦場を求めながらスバルは考えるが、明確な答えを得ることは出来ない。それでもハッキリとしていることが一つだけあった。
もしもあの人が今の自分を知ったら、絶対に悲しむと。
◆
「なるほど、戦える分には問題ないみたいね」
木々の奥を走り進むスバルの背中が見えなくなった頃、ノーザは放置されたデイバッグを回収した。
ソレワターセをスバルに投げつけた理由は戦闘スペックが上だったため。純粋な格闘能力だけでなく、バリアなどの超能力も使っていた。この時点でノーザはスバルにソレワターセを植え付け、思いのままに動く人形にさせる。
しかし腑に落ちない部分があった。いつもなら巨大化していたはずのソレワターセが、人間のサイズを保ったままだった。だがあり得ない話ではない。ソレワターセはラビリンスが生み出した魔獣の中でも特に高い戦闘力を誇る上に、周囲の物質を無差別に飲み込むことが出来る。それを認めてしまってはバランスなどないに等しい。
だからこそ慎重に使わなければならなかった。恐らくスバルを洗脳した効果も通常より薄い可能性もある。もっとも裏切るような事態になれば制裁を加えるか、自害するように命令すればいいだけの話だが。
あまり頼っていられなくなったこの状況に、ノーザは軽い溜息を吐く。この分だと、ソレワターセを首輪に取り付かせて解体させようとしても、その瞬間に爆発する危険性が高い。無論、帰還しようというのなら優勝を目指せばいいだけの話だが。
「頑張ることね、私の望む世界を作るために……」
全ては一切の夢も希望もない暗黒の世界を生み出すための生贄。プリキュア達も、スバルを含めた全ての参加者達も、加頭を含めた主催者達も。
微笑むノーザが夢見る理想郷は、血に濡れきっていた。
◆
『C-6』エリアで繰り広げられていた戦闘で、アインハルト・ストラトスがズ・ゴオマ・グを打ち抜いた覇王断空拳の振動に気づいた者は他にもいた。『B-6』エリアに広がる森林の中を進む本郷猛と鹿目まどかの二人も轟音を耳にしたことで、立ち止まっている。
「本郷さん、今の音は……」
「ああ、近いな」
不安げな表情を浮かべるまどかの肩を本郷は強く支えた。改造人間のパワーで押し潰さないよう、精一杯の手加減をして。
轟音が意味するのは、この付近で戦闘が起こっていることだった。仮面ライダーの仲間かもしれないし、全くの別人である可能性もある。
(まずいな……このまま放置しておくわけにもいかないが、かといって無闇に突っ込むわけにもいかない)
本郷は悩んだ。
もしも戦闘が繰り広げられている場所に、まどかの友人やまどかみたいな力のない人間がいたなら放置するわけにもいかない。しかし戦いが繰り広げられているということは、三影英介のような危険人物がいる可能性だってある。
そんな場所にまどかを連れて行けるわけがないし、彼女を置いていったらその間に危険に晒されてしまう。
だからといってここで殺し合いに乗った輩を放置しては、罪のない命が犠牲にする恐れもあった。
こうして考える間にも時間が無意味に刻まれていく。
「本郷さん、行ってください」
しかしそんな本郷の思考を打ち消すような言葉が、まどかの口より発せられた。
「まどかちゃん……?」
「わたしなら大丈夫です! だから、戦いを止めてください!」
「……いや、君を巻き込むわけにはいかない」
本郷は首を横に振る。
もしも滝やSPIRITに所属するメンバーのような頼れる人間ならば幾許の不安は消えるが、まどかは人間だ。戦いの場に放り込むなどあってはならない。
「お願いですから行ってください! わたし、本郷さんが後悔する姿なんて見たくないんです! こんな馬鹿げたことで犠牲になる人だって!」
「まどかちゃん……その頼みは」
「お願いしますっ!」
まどかの真摯な叫びによって、本郷の言葉は止められた。
そこには確かな勇気と人を助けたいという決意が感じられるが、安易に受け入れるわけにはいかない。気持ち自体は素晴らしいがそれに甘えては取り返しのつかないことになる。
だがまどかの言い分ももっともだったし、ここでいくら言い聞かせようとしても彼女は納得しない。何よりも弱気になってはいかなかった。
ショッカーによって与えられた忌むべきこの力は一人でも多くを救うための力。まどかも、加頭やキュウべぇの陰謀に巻き込まれたたくさんの人も。
「わかった、俺は行こう……君のような罪のない人々を救う為に」
「本郷さん……ありがとうございます!」
「だが、もしも戦いになったら俺がいいと言うまで決して出てこない……それを約束してくれ」
「わかりました!」
まどかの明るい笑顔で感謝を告げるので、本郷はそれに返すように穏やかな笑みを向ける。そして彼は音の響いた方角に顔を向けて、足を進めた。
心優しい少女の願いを叶える為に。
【1日目/未明】
【C-5/森】
【ノーザ@フレッシュプリキュア!】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式×2、ランダム支給品1~2個、シャンプーの不明支給品1~3個、水とお湯の入ったポット一つずつ、ソレワターセの実(一個)@フレッシュプリキュア!
[思考]
基本:この殺し合いに優勝し、一切の希望がない世界を作る。
1:まずはスバルの戦闘力のテストをするために、轟音が聞こえた方に向かう。
2:利用出来る参加者と出会えたら、プリキュアの悪評を出来る限りで広める。
3:ソレワターセの使用は出来るだけ慎重にする。
4:プリキュア達はここで始末する。
[備考]
※プリキュアオールスターズDX2でボトムによって復活させられた後からの参戦です。
※花咲つぼみと来海えりかの存在は知っていますが、明堂院いつきと月影ゆりとダークプリキュアに関しては知りません。
※アインハルトが放った覇王断空拳の音を聞きました。
※ソレワターセはある程度力が押さえられている上に、もしも首輪に憑依させたらその瞬間に爆発するかもしれないと考えています。
※DX2からの参戦なのでソレワターセの実を食べなくても怪物の姿になれます。
【スバル・ナカジマ@魔法少女リリカルなのは】
[状態]:疲労(中)、ダメージ(中) 、ソレワターセによる精神支配、シャンプーの肉体を吸収
[装備]:マッハキャリバー、リボルバーナックル@魔法少女リリカルなのは、カートリッジの弾薬セット(残り14発)@魔法少女リリカルなのは
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~2個
[思考]
基本:ノーザ様のしもべとして動き、参加者を皆殺しにする。
1:手始めに轟音が聞こえた方に向かい、参加者がいたら殺す。
2:あの女の人(高町なのは)は……誰?
[備考]
※参戦時期はstrikers18話から20話の作戦開始前までのどこかです。
※シャンプーの姿を前回の任務の自分(strikers17話)と重ねています。
※『高町ヴィヴィオ』は一応ヴィヴィオ本人だと認識しています。
また、彼女がいることからこの殺し合いにジェイル・スカリエッティが関わっているのではないかと考えています。
※ソレワターセに憑依されたことで大幅にパワーアップしました。
※シャンプーの遺体を吸収し、彼女に関する情報を入手しました。(首輪も含まれています)
※アインハルトが放った覇王断空拳の音を聞きました。
【1日目/未明 B-6 森】
【本郷猛@仮面ライダーSPIRITS】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:この殺し合いを終わらせる
0:轟音の聞こえた方向に向かう。
1:まどかを保護する、彼女を絶対に魔法少女にはさせない
2:一文字、結城、沖の三人と合流する
3:他の魔法少女を探す
4:村雨がもし復讐に走るようならば見つけ次第止める、三影は見つけ次第必ず倒す
[備考]
※参戦時期は7巻最終話、村雨と共にライダー車輪を行った後~JUDO出現前までの間です。
※他のライダー達とは通信ができません。
これは、加頭が会場に何かしらの妨害装置を置いているためではないかと判断しています。
※まどかの話から、魔法少女や魔女、キュウべぇについての知識を得ました。
※加頭の背後にはキュウべぇがいて、まどかを追い詰め魔法少女にする事が殺し合いの目的の一つではないかと考えています。
※死んだ筈の魔法少女達が生きている事は、まだまどかには話していません。
これもキュウべぇや加頭の仕業ではないかと睨んでいます。
※アインハルトが放った覇王断空拳の音を聞きました。
【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康
[装備]:不明
[道具]:支給品一式、ランダム支給品1~3
[思考]
基本:この殺し合いから脱出する。
0:轟音の聞こえた方向に向かう。
1:本郷と一緒に行動する。
2:他の仮面ライダー達を探す。
3:キュウべぇの思い通りにはならない
[備考]
※参戦時期は11話、ワルプルギス襲来前になります。
※本郷の話から、仮面ライダーや改造人間、ショッカーをはじめとする悪の組織についての知識を得ました。
※加頭の背後にはキュウべぇがいて、自分を追い詰め魔法少女にする事が殺し合いの目的の一つではないかと考えています。
※まだ名簿は確認していません。
※アインハルトが放った覇王断空拳の音を聞きました。
【支給品解説】
【ソレワターセの実@フレッシュプリキュア!】
フレッシュプリキュア! 第36話『新たな敵!その名はノーザ!!』より登場したラビリンスが使役する怪物の元。
これを埋め込まれた物は巨大怪物、ソレワターセへと変貌して埋め込んだ者の意のままに動きます。
更に周囲の物を取り込んでパワーアップし、身体を巨大化することも出来ます。
ただし参加者に植え付けた場合のみ、制限によって巨大化をすることは出来ません。また、何かに憑依せずに単体で行動することも出来ません。
【シャンプー@らんま1/2 死亡確認】
【残り65人】
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最終更新:2014年06月14日 18:05