嵐の前(?)の… ◆gry038wOvE




 暁はスカルのメモリを手で弄びながら道を散策する。
 あてどなくうろうろしているだけだ。基本的に行き当たりばったりで、これといって先のことなど考えてないのは彼の問題点のひとつである。
 だから、自分があの広間にいた「可愛い少女たち」と戦えるかどうかなど考えていない──。

 自らがどこまで冷徹になれるかなど知らない。ダークザイドという生物の一人を殺しても、人殺しなどという大それたことはしたことがないからだ。
 彼を知る者も、彼が狂った殺人鬼になった姿など想像できようはずも……………………できようはずも……………………………………できようはずも…………………………………多分、ない。

 彼の場合、自分の為に他人を犠牲にする。それには躊躇いはないかもしれない。
 たとえば、カルネアデスの板のような状況。
 一人しか乗れないような小さな板切れだけが浮かぶ大海原で、波に身を投げ出された絶対の危機。その時、彼は自分が助かることだけを考えてその板に掴まり、自分と同じく流されたその他大勢を放り出すこともやってのけるだろう。
 確かにその際、暁のせいで相手の命は奪われる。
 しかし、暁が直接殺したわけじゃない。

 いま求められているのは、暁が直接相手の命を奪うこと。ナイフ、拳銃、刀、シャンゼリオン、仮面ライダー──あらゆる武器を使って。


「パラダイス♪ パラダイス♪ 優勝すればパラダイス♪」


 そんな加頭の期待に対し、いま彼の頭を支配するものは────金、女、権力。それらが形勢するパラダイス。
 この世に金より大切なものなんてない。女と遊ぶことより楽しいことなんてない。オマケに権力があって人を支配できたらなんと素晴らしいことだろう。
 夢はでっかく世界征服だ。

 ……まあ、要するに、殺し合いという特殊環境が求めているものと、彼の考えていることはまるで違う。
 そこらの食い違いが、彼の「パラダイス」という大きな目的を妨害しているのだ。
 確かに自分勝手な性格で、ある種の社交性はあるが協調性があるとも言えず、グータラで能天気でバカでマヌケで貧乏でヘタレで甲斐性なしで頭も悪い人間のクズだが、結局冷酷ではない。
 人に生まれたからには持っているものも、少しくらいは持ち合わせている…………と思う。そうじゃないかな。たぶん。


「…………ん? あの娘…………」


 暁は、ふと何かに気がついたように足を止める。
 彼の視線の先には長い黒髪を揺らめかせる中学生ほどの女の子がいる。
 そういえば、あの広間にあの娘はいたかもしれない。暁との年の差は随分と開いている。流石に恋愛対象ではあるまい。
 真剣な眼差しで見つめているからには、きっと何かある……。


「年の割りにはなかなか美人!? 少なくとも朱美なんかよりずっといいぜ!」


 何もなかった。


★ ★ ★ ★ ★



「ねぇねぇ、君君! 怖くない!?」

「は!?」


 突然登場した怪しげな長髪野郎に、暁美ほむらは戦慄する。
 体の芯から、謎の恐怖とともに軽蔑の意思を感じた。何故だか、殺し合いとは別の形で警戒せねばならない異性であると感じたのだ。
 この殺し合いという状況下、妙に軽い男に声をかけられる。────わけがわからない。


「いやさ、突然変な根暗野郎にこんなところに連れて来られて『殺し合いをしろ』だなんて言われたら普通怖いでしょ? 特に君みたいに若くて可愛い女の子なら」

「…………」

「そこで、俺が二人きりで一緒にいてあげようと……」

「……間に合ってるわ」


 ほむらは呆れ果てた。
 自分が真剣にまどかを捜している最中、こんな軟派男に声をかけられることになるとは。
 一応この状況を理解しているようだが、何故か自分が死ぬかもしれないということを全く考えていない男であるように感じられた。
 勝ち残る自信でもあるのだろうか……?

 魔法少女やドーパント。それに順ずる力の持主と考えられなくもない。
 この場において、かなり多くの人間が変身できるらしいというのは察している。
 まどか──彼女のように現在力を持たない者もいるのは確かだが。

 しかし、ほむらが考察を深めるには、目の前の男はうるさすぎた。
 すぐに思考を遮断するように暁は話しかけてくる。


「おいおい、そりゃないでしょ! せめて名前くらい教えてよ! ねぇねぇ!」

「あなたから先に名乗り出るべきよ」


 この男の名前は少し気になる。
 といっても、使うとするなら死神のノートに名前を書くくらいか。
 ともかく、ほむらは何故かこの男を知っているような気がしてならなかった。
 ごく最近、どこかでこの男を見たような……。
 せめて名前さえわかれば何かわかるかもしれない、と思った。


「俺? ああ、俺は涼村暁。探偵さ」

「────思い出したわ。広間にいたわね」


 下の名前は初めて知ったが、殺し合いの原点となったあの広間では、「涼村」という名前の男がバカ丸出しでドッキリ企画と勘違いしていた記憶がある。ほむらが思い出そうとしていたのはそれだったのだ。
 あまりにもくだらないやり取りだったため、無意識のうちに記憶から抹消しようとしていたのである。
 名簿にはスズムラと読む名前は二つあったが、「暁」という名前のほうだったか。
 自分の苗字と同じ字が使われていたため、名簿に目を通しているときも妙に印象に残ったのだが、こんな男だと思うと絶望する。早く改名してほしい。

 それにしても、こいつが探偵? 浮気調査をしたら逆に自分が浮気を始めそうな男に見えるが。
 というか、一応職に就いているのか? プータローにしか見えないが。
 探偵というのは格好付けるための嘘か? そうとしか思えないが。


「で、君の名前は?」

「…………暁美ほむらよ」

「アケミ……?」


 暁はほむらの名前を聞いて、何かを思い出したように虚空を見つめる。
 この男、まさか以前ほむらとどこかで会ったことないだろうな? ……などと考える。
 が、記憶にない。こんなバカは少なくとも。
 知り合いと同じ名前とか、そんな程度の話だろう。深くは考えず、ほむらは隙を見てこの男を観察する。


 彼を顔から見ていこう。
 さして似合うとも思えない長髪に服装。
 探偵というからには、自営業のイメージがあるが、それにしても仕事人らしさの欠片もない軽すぎる外見。
 いやらしい薄ら笑い。
 …………なんだ、ただのバカか。
 この男について考えるのはやめよう。考察するのもばかばかしい。


 暁はまたいやらしい笑顔とともに、ほむらに話しかける。


「それでほむらちゃん? こんな状況で何だけど、あそこに見えるタワーでデートしない?」


 イラ。
 もう話しかけないでほしい。まともな用ならば話は別だが、この程度の用ならばスルーだ。


「…………人を捜してるから、そんな暇はないわ」

「待った! 人捜しと聞いたら探偵の俺が……」


 イライラ。
 探偵という名目で自分に付きまとおうなど百年早い。
 男女二人きりという状況で、何かやらかそうというんじゃあるまいな?


「一人で捜すわ」

「そんなこと言わないの! ほら、捜してる人の名前教えてよ」


 ドカン。


「もう、うるさい!」


 ほむらは遂に苛立ちとともに、銃を抜く。今はこんなバカと話をしてる場合じゃない。できる限り一人で行動したいのに、それを察することもできずに付きまとう男……本当に面倒だ。
 銃を向ければ黙るだろう。もし黙らなければ…………手段は選ばない。

 ベレッタの銃口を向けられた暁はコンマ一秒とかけずに、情けなく両手を挙げた。本気の恐怖を感じつつも、相手をたしなめるように薄ら笑いを浮かべていた。
 武器が支給されているような状況下で、あんな風に他人をイラつかせる行動に出る。それは命取りになる。
 だから、これに懲りたら少しは自重しろ…………そう思っていた。


「ちょっと落ち着こう、な? な?」

「失せなさい。そうすれば引鉄は引かないわ」

「はいっ!」


 暁がほむらに背を向けてダッシュするまで、一秒とかからなかった。
 そのあまりの滑稽な姿に、ほむらは呆れることさえ面倒に思った。
 あの男は何だったのか。
 ただのナンパだとするなら、この状況下でどこまでも哀れな男であると思う。
 もはや死のうが苦しもうが何も思わない相手だ……。


(気を取り直して、まどかを捜しましょう……)


 ほむらは再び、自分の目的のために歩き出す。



★ ★ ★ ★ ★



「あんの女~~~~!!!」


 暁は尻尾を巻いて逃げた先で怒りに拳を振るわせた。
 これは嫉妬か? 銃を携帯して暁を蔑むような目で見つめ、失せろという命令とともに暁を拒絶した女に、暁はどうしようもない怒りを覚えた。
 色んな意味でどうしようもないといえる。

 アケミという名前。
 暁の秘書・橘朱美と同じ名前。可愛げの無さも全く同じだ。
 とにかくそういった事象が暁を苛立たせる。


「頭きた! 痛い目見せてやる! 燦然!」


 暁は苛立ちに任せてシャンバイザーを出現させるポーズを取り、燦然する。


──燦然、それは涼村暁がクリスタルパワーを発現させ、超光戦士シャンゼリオンとなる現象である。──


 美しい光が暁の体を包み、クリスタルの輝きが暗闇に生える。
 超光戦士シャンゼリオン。
 なぜこんな男にこの力が与えられてしまったのか。神の悪戯というには性質が悪すぎた。
 ダークザイドという怪物たちと戦う。その使命を金や女の次くらいに考え、放り投げる男だ。
 ヒーローと呼ぶには、あまりに能天気すぎた。
 とにかく、輝く異形は再び、来た道を戻るように走っていく。

 ほむらを殺す気があるかといえば、それほどではない。
 ただ、腹が立ったからこの姿で悪戯をしてやろうという下品な考えから燦然しただけである。


 シャンゼリオンの力は、おそらく今泣いているだろう。



【1日目/未明 G-8 中学校付近】


【涼村暁@超光戦士シャンゼリオン】
[状態]:健康、どうしようもない怒り、シャンゼリオンに変身中
[装備]:シャンバイザー@超光戦士シャンゼリオン、スカルメモリ&ロストドライバー@仮面ライダーW、ウィンチェスターライフル(14/14)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本:願いを叶えるために優勝する。
1:シャンゼリオンの力でほむらに復讐する。
2:可愛い女の子を見つけたらまずはナンパ。
[備考]
※第2話「ノーテンキラキラ」途中(橘朱美と喧嘩になる前)からの参戦です。
 つまりまだ黒岩省吾とは面識がありません(リクシンキ、ホウジンキ、クウレツキのことも知らない)


【暁美ほむら@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:健康、苛立ち、魔法少女に変身中
[装備]:ベレッタM92FS(9mmx19・15発)、ディバイトランチャー(シューター・ガンナー)
[道具]:支給品一式(食料と水は二人分)、ランダム支給品1~2(武器ではない)
[思考]
基本:鹿目まどかを守る。
1:鹿目まどかを発見する。
2:他の参加者から情報を集める。
3:鹿目まどかを守る目的以外の争いは避ける。
4:馬鹿は相手にしない。
[備考]
※参戦時期は未定です。後続の書き手にお任せします。
※プリキュアに関しては話半分に聞いていますが、「特別な力を持つ存在」だとは解かりました。




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最終更新:2014年06月14日 18:02