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第2部終章-第一幕- マキナ戦役事後処理(前編)






デウス=エクス=マキナとの死闘を終えた勇者軍主力部隊は、
虚しくも散っていった宿敵、ネイチャー・ファンダメンタルの幹部達を
強敵と認め、手厚く埋葬し、そして各々の生活へと戻っていった。
失われた平和を少しでも享受しようとでもするかのように――

ゼクウは、故郷であるバイオレット・ヴィレッジの崖に佇む。
そこでジッと滝を見つめ、物思いに耽っているようにも見えた。
「……」
びしゅっ!!
すると、ゼクウの居場所へ棒手裏剣が叩き込まれる。
勿論、そんな粗雑な攻撃に当たるゼクウではない。
「……!」
手裏剣の飛んできた方向へ、逆に手裏剣を叩き込む。
「……む!」
その刺客と思しき人物も、また巧みに、しかしゼクウよりは
いくらか余裕をもって、全部回避してみせる。
「……ゼクウ……腕を上げたな……?」
戸籍上は彼の祖父、しかし実質彼の親も同然である
ラング=ユウキ元補佐官である。帰って早々腕試しなのだ。
「愚」
愚問であり、論ずるに及ばず、というところだろう。
「……そのまま……育て……次代は……貴様が担う。
 そして……あの少年は……お前の事を当てにする……」
「了」
ゼクウはそれだけ言うと、あっという間にかき消えた。
ラングも、用事は済んだとばかりにかき消えた。
そしてその場には滝の音だけが遠くから静かに響く。

リュミエルもまた、バイオレット・ヴィレッジで
再度修行に入っていた。テディと同じ修行場で
修行していた彼女だったが、
本格的なスレインメイデンの修行はここでしか出来ない上に、
そもそも修行場は昨年のスプレッダー戦役で破壊されていて、
未だに修理が出来ていないのだから仕方が無い。
実はゼクウ達が上でやり合っている間にも、
滝行で水に打たれっぱなしなのだが、
リュミエルは極度の集中状態にあったのか、
ゼクウとラングの出来事は気にも留めなかった。
「…………ぷはっ!」
そして十数分後、彼女は精神集中を止めた。
人間がいくら進化したところで、集中力など十五分程度しか
もたないのが世の常である。所詮どこまでも人間なのだから。
「………………ん?」
リュミエルがふと横を見やると、何故か同じ姿勢で
座禅を組んでいる奇怪極まる生物を見つけた。
人間の子供のようにも見えるが、人間としては
異常にデフォルメの効きすぎた体型が特徴的だ。
「あなた、誰?」
(あ、おかまいなくー。知ってる香りと似た香りを感じただけなので)
リュミエルの問いに、そう言いたげな態度で返す変な生物。
「……これって、あの有名な稀少生物、座敷わらし?」
すると座敷わらしはぴょこん、と飛び跳ねて消えていく。
「あっ、待って!」
しかし既に姿は見えない。
軽く追ってはみたものの、もう追跡は不可能だろう。
「わあ……」
だが、そこに見えたのは座敷わらしではなく、
原っぱ一面に広がる、つつじの花畑であった。
完全に自生しているものらしい。
その花の蜜を吸い、蜜蜂か何かになったような気分で呟く。
「しあわせぇ……」
ちょっとした幸せが、リュミエルに与えられた
ご褒美のようでもあり、
何か因果めいたものを感じなくもない日向ぼっこ日和であった。

「ただいまっ!」
元気良く家に帰ったフローベールであった。
「おかえりなさい、フローベール……バスクは?」
そう訊いたのは、彼女の母親、
ユーフェミア=エルデナントだった。
「ん、ヴィッセルと一緒に寄り道みたい。
 なんかアーム城のお姫様に気に入られてるっぽくて」
「ふうん、まあ年も近いし、
 いいんじゃないかな? 友達とか」
と、ひょっこり出てきたのは
父親のエルウィン=ランドルフである。
「……私も同じ年なんですけど?」
「おっと、こりゃ失礼」
と、エルウィンはおどけてみせる。
「ベアトリスも疲れたでしょう?
 一緒に外でお食事にしましょう?
 ……と、忘れちゃいけない、ネオ・インタープレット!」
ユーフェミアは得意とする翻訳魔法をかける。
これで結構長時間の間、ベアトリスと意思の疎通が出来るはずだ。
「ふう……言葉が通じるのは楽よね。お久しぶり、二人とも。
 後で聞いてあげてね。フローベール、すごく強くなってる。
 あるいは、ユーフェミアに負けてないかもしれないわ」
「へえ、そりゃ楽しみだ」
「へへー」
身内に囲まれ、ようやく余裕が出てきたのか、
フローベールは年相応の子供っぽい笑顔を浮かべた。
次の戦いの英気は、ここで養う事になるのだ。
フローベールは自分自身でそれを感じているのであった。

ギースは、後処理に大忙しになっていた。
一度は自宅へ帰ったものの、
ネイチャー・ファンダメンタルの残党から
尋問で聞き出した情報から、組織の残された拠点の存在が
いくらか発覚したのだ。そのセキュリティをこじ開けるために
召集され、ロクに休む暇も与えてはもらえなかった。
シーフとしての面目躍如というところであろうか。
「まあ自分も本来こういう裏方仕事が主任務だし、
 のんびり休むってガラでもないからいいのだがな。
 けど、あとニ、三日だけ待ってもらえれば良かったのに。
 まだ筋肉痛やら何やらで身体が軋むったらないぞ」
と、ボヤきながらもまた一つセキュリティをこじ開けるギース。
「すみません、曹長殿。情報部から緊急に、という事らしくて」
情報部及び人事部所属の予備役部隊の兵士達が
申し訳無さそうに言う。
「悪いけど、この任務が終わったら本格休暇をもらうし、
 特別給与も出してもらうって伝えておいて欲しい」
「はい、そりゃもう!」
そんなやり取りの間にもまた一つセキュリティを突破。
あらかたの鍵の類は全て開錠し終わったと言っていい。
「おし、証拠品になりそうなものを持っていけ、野郎共!
 研究部に持ち込めば何か解析出来るものがあるかもしれん!」
「おーっ!」
つい盗賊全開のノリで号令を出すギースに、
兵士達が一斉に機材へと殺到する。
「俺には感傷も似合いやしない、ならばこれでいいのだろう。
 少なくとも誰かが感傷に浸る暇を
 作る程度の成果があればいいがな」
と、またもシニカルに皮肉めいた笑みを漏らすギースであった。

ルシアはとりあえず今回の任務で発生したストレスを発散すべく、
ちょっとした小旅行へと出かけていた。
たっぷりと買い物を済ませ、優雅な気分に浸っていた。
とはいえ、大事な任務の報告も忘れない。
というのも、極端に忙しいか、あるいはその気さえ無いかの
極端な人間ばかりなので、大体こういう作戦報告書作成などの
貧乏くじのような仕事は、ルシアに回ってくるのである。
「ネイチャー・ファンダメンタルとデウス=エクス=マキナとの
 直接対決は極力死者を出さないように配慮したものであるが、
 敵部隊内の仲間割れによって敵幹部四名が死亡。
 その後の鎮圧作戦によってやむなくマキナを殺害。
 残り二名の敵幹部に関しては、戦意を失っていること、
 また隊長ジルベルト等が極端に接触を拒否していること、
 以上の二点を理由として拘束はせず、放逐処分とする、と……」
ふう、とため息をついてからジュースをひとすすり。
入力キーを押して情報本部へと報告書の清書を送信する。
もう面倒になったので残ったジュースを一気飲み――
「ぼふぅッ!!」
しようとして、ルシアは盛大にジュースを吹き出した。
何故か本作戦に参加していなかったはずの
ジルベルトの妹、シエル=ラネージュが現れたのだ。
無論それ自体は偶然とはいえ起こりうる出来事だが、
異常なのはその相方であるジーク=ルーンヴィッツァーが
両足にギプスをはめ、松葉杖で歩いている事だった。
しかしそれでも何故か移動はスムーズであり、
腕力馬鹿っぷりを遺憾なく本領発揮しているジークであった。
そしてそのまま通り過ぎようとする二人――
「って、ちょっと待ちなさい二人共! どうしたの!?」
慌てて追いかける、落ち着けないルシアであった――

ちなみにジークの怪我の理由は、不運な事に
雪原移動中に雪崩に飲み込まれたからなのだが、
これはまあ余談である。

コンラッドは旗艦であるレッド・ワイズマンMk-Ⅱへと戻った。
そこには一人の男児がいる。勿論コンラッドの子なのだが、
何の因果か拾い子だ。前の戦役の終わり頃に偶然拾ったのだが、
なんとも面倒見のいい事に、船の全員で可愛がっていた。
「エルリック、元気してたか!?」
「だぁ~」
にっこにこと近寄ってくる拾い子改め、エルリック=ワイズマン。
恐らく、この子が次代のワイズマン家当主となるのだろう。
まだ物心どころか、歩く事も出来ない赤子であるが、
懐いてもらうと存外可愛いのはまあ親となってみれば同じである。
「おうよしよし、長い間いなくてすまなかったな。
 またしばらくは落ち着いて一緒にいようなー」
「あーぶぶ」
揺さぶられてちょっと苦しそうなエルリック。
まだ勇者軍に公表してはいないのだが、そろそろ頃合か。
次代のワイズマン家当主が決まったとなれば、皆喜ぶだろう。
そう思ってコンラッドもにこにこしていたのだが……
「コンラッド……君……?」
遊びに来たメイベルが現れたりした。
「メイ……ベル……? よお、五日ぶり……」
コンラッドの中で凄い速度で頭脳が回転する。
若い自分。女友達。自分の胸には赤子。自分は未婚。即ち――
不潔、どうして、相手は誰――
そんな責めるような言葉と嫌な予感ばかりが脳裏を満たす。
「結婚もしていないのに……不潔ですっ!
 どうしてですか……相手は誰なんですか……!?」
涙目で詰め寄るメイベル。
「って予想通りのリアクションするなよお前よ!?」
「もういいです……人事部に報告して
 然る後、厳罰処分を下してもらいますから……!」
するとメイベルは素早く出て行く。
スカーレット・アーマーを脱いだ彼女は思いの外俊足だった。
「って違うから! 拾い子だから! メイベルって!!
 聞いてるか!? 聞こえてるか!? おーい待てー!!
 誤解だ、頼む、俺の話を聞けぇ! 五分だけでもいいー!」
非常に蛇足ながら、勇者軍での未婚出産は降格処分である。
本気で降格される危機に、
コンラッドはエルリックを抱いて走り出す。
何とか降格だけは勘弁してもらうために――

ヴァジェスはというと、あらかたマキナの供養を終えて、
ようやく帰途につこうとしていた、
すると、その眼前に人間の女性が姿を現す。
いや、人間ではない。ドラグーン形態によって
人型と竜の翼を併せ持つ女性である、という方が正確だ。
「乙姫様……」
竜王ナーガ=バハムートの妻である女性だった。
名をセレーネ=ランドグリーズといい、
普段は竜王の居城『竜宮城』に住む。
竜王の妻は慣例的に『乙姫』という尊称で呼ぶのが礼儀であった。
「セレーネとかランドグリーズって呼んでくれていいわ。
 あなたは先代のご子息だし、昔からの顔見知りですもの」
「竜王の奥方に対してそのように無礼な真似は……」
そのヴァジェスの言いようにくすりと乙姫は笑う。
「今更礼儀のどうこうを言うの?
 散々人の旦那と喧嘩しておいて。
 しかも私の旦那、私よりずっと偉い立場なのよ?
 遠慮なんてしなくていいわ。その方が私も助かるもの」
「……マキナの事を聞いて来たのか?」
「ええ、全長700メートル、
 重量8000トンクラスと聞いてね。
 竜族の常識から言えば……失礼、生命の常識から言っても
 まず考えられない生物ね。とんでもないわ。でもヴァジェス、
 貴方はこれを倒したのでしょう? あなたもとんでもないわね。
 やっぱりウチの旦那より、竜王が似合うんじゃない?」
「倒したのは俺じゃない。ジルベルト=ストレンジャーだ。
 それに彼だけでも勝てはしなかっただろう。
 これは俺達勇者軍全員の勝利だ。間違い無い」
「勇者軍ね……確かに貴方がここまで誘いを袖にして
 居座る理由も分かるけど、あなたのお父様は少し違ったわよ。
 勇者軍への助力も、竜王としての仕事も兼務してみせていたわ」
「その親父と同化したから知っているんだ。
 人の上に立つという事はとんでもない責任を背負うものだ。
 少なくとも今の俺ではそれに値する者になったとは言えん。
 ……というか結局俺を擁立する腹積もりか。だったら帰れ」
「はいはい。強情なのだけは父親と変わらないのよね。
 ま、気が変わったら私かナーガに
 連絡ちょうだいね。バイバイ」
と、セレーネ=ランドグリーズは去っていった。



<第2部終章-第二幕-へと続く>
最終更新:2011年02月21日 01:06