第三十章-第五幕- ザ・ツインヒーローズ





ロバートはアルファの、イノは魔神王の力を借りて、
遂にイグジステンスサッカーと真っ向から向き合う力を得た。
下手を打てば命すら危ういこの決断には本当の勇気が必要だった。
だが、ロバートの勇気と、イノの義が最大限に高まっている今、
何をも恐れることはない。ロバートは大人しく身を委ねていた。
「ウォーミングアップだ」
ロバート、いやアルファが剣を軽く振るい、そして未だ動けぬ
イグジステンスサッカーの結界を軽く叩いてみせる。

ばんッ!

凄まじい勢いで弾き返されるが、これは予想の内というところだ。
「流石に勇者軍を苦戦させるだけの化け物というところか。
 だが、その程度ならば児戯に等しい……惑星両断剣
何の構えも無しに、無造作にロバートを遥かに凌ぐ一撃。
いや、比較にもならない。既に数千倍の威力を持っている。

ばきぃぃぃぃぃん!!

貫通とはいかないものの、たった一撃でものの見事に結界を破壊。
その圧倒的過ぎる力に恐怖すら感じたような気がした敵は、
再度慌てて結界を再展開する。より強力な魔法
ギガリフレクト』と呼ばれる種類のものだ。
「遊びすぎるな、アルファ。可能な限り静観を、と思っていたが
 こうして二人揃って出てきている以上、それなりの責任を
 生命連合とやらに対して見せてやらねば、面目が立たない」
イノの顔と声でつらつらと恐ろしい事を言う魔神王
「ならばそろそろ本気といくか。ただし、二人共同でだ」
「お前があの大きいのを、私が小型のをだな。分相応だ」
今度はアルファもきちんと構え、フルパワーを搾り出す。
魔神王もこの惑星アースに存在する全ての敵に狙いを絞る。
「惑星! 両断剣ッッ!!」
虚ろい易き神と魔の器……全開だ!」
アルファは結界ごと、凄まじい衝撃波をもち、
文字通り惑星もろとも両断するエネルギーをもって結界を撃ち貫き、
驚異的なスピードでイグジステンスサッカーを真っ二つに切り裂いた。
魔神王は二の三十二乗、つまり正確に言えば理論上、
四十二億九千四百九十六万七千二百九十六もの敵を
同時に精密攻撃出来る魔力弾をもって、
擬態、原型全てを問わず、また余剰分の魔力弾を全て残らず
散りかけのイグジステンスサッカーに叩き込み、
原子レベルで分解した。

「やった……のか……!?」
あまりの出来事に目を見開くしか出来ないレイビー。
しかし、その時戦艦から、カイトの報告が入る。
『いけない……宇宙からまたブラック・レインの反応だ。
 つい先程、発生源をようやく特定したとの情報が入ったが、
 この惑星からでは手の打ちようが……無い』
艦の中で歯噛みするカイトの姿が見えるようだった。
だが、アルファはふっ、と笑う。
スターリィフィールド家の」
「なんじゃ?」
いきなりアンリ姫に話を振る。
「ミームと艦のシステムと、俺の思考を共有させろ。
 ここから狙い撃つ。俺のこの剣でな……!!」
「わ、分かったのじゃ!」
ミームの力によって、再度戦場全体が思考共有する。
「お前だけでは不足だ。ならば私が手を貸そう」
「ユニゾンアタックだと?」
「そういう事だ。お前の惑星両断剣を増幅、量産し、
 それを次元の狭間に叩き込み、その存在ごと斬り飛ばす」
「魔力の練り上げと照準に集中しろってんだな。分かったぜ!
 最後のおいしい所は譲ってやる。持って行け、ロバート!」
「タイミングは任せるぞ、イノ」
両者の意識は潜在へと沈み、身体のコントロールだけに使われる。

「ようし、あれ行くぞ、イノ!」
「今だけね」
そう言いながらイノの心中は喜び猛っている。
「先祖と子孫の一致団結! 猛る両雄この身に秘めて!」
ロバートがまず叫ぶ。
「何人たりとも敵う事無く! 反逆の毒を叩き込む!!」
そして二人は気合を最大限に高めて吼える。
「究極反逆ストレンジャー! 最後に勝つのは俺達だ!」
「至高反逆ヘレティック! 本気を出させたら終わりよ……!」
二人のオーラもシンクロし、更に力が高まる。
勇者軍特務戦技教導隊指導要項13番<一撃必殺>!!」
ロバートの台詞でタイミングを取る。
封神封魔流無手勝流最終究極絶対反逆奥技!!」
「惑星! 両! 断! 剣!!」
「無量大数斬!!」
二人の、いや四人の力が完全にシンクロし、
マッハ880000の衝撃波とも何ともつかない剣圧が、
地上から宇宙の次元の歪みにダイレクトに叩き込まれる。
それも一発ではない。数えていれば確実に気が狂う数である。
先程を軽く上回る破壊力の塊が、
次元の塊を丸ごと両断してなお余りある。
寸断などという生易しいレベルではない。微塵切りに成り果て、
エネルギーを失った歪みは、途上にあったイグジスターごと消滅する。

「何が……起こっているんだ……!?」
もはや理解の範疇外となった戦いを見て、
もう呆然と呟くしかなかったエリックの元に、
全てを終え、悠然と降り立つロバートとイノ。
「役目は終わったようだな。また休むとしよう」
「同感だ」
「う……おっさん……」
「ロブ!?」
解放されたロバートは昏倒して、エリックに抱えられた。
だが、かろうじてイノは立っていた。
最後に質問するだけの執念である。魔神王を呼び止めた。
「待ちなさい、魔神王。帰る前に、質問に答えなさい……
 私達元魔神王教団は、あなたを崇め、
 あなたの顕現を待っていた。だというのにその時現れず、
 今になって現れたのはどういう事なの?」
「なら逆に訊こう。何故どこの誰とも知れぬ者の声に呼ばれて
 いちいち出てきてやらねばならんのだ。
 とっくに復活などしていた。だが、あんな些事のために
 出てきてやる理由は無い。分かったか?」
「……そうね。あなたにとってはそれが自然なのでしょう。
 結局、エッセ=ギーゼンが愚かだっただけの事なのね」
「だがお前はそれに縛られなかった。イノ=ヘレティック
 私の独断で、お前とお前の仲間の体組織を
 勝手に書き換えさせてもらった。
 私を受け入れる器になるなら、その因子があった方が容易い」
「……どういう事?」
「お前に眠っているのはアルファ=ストレンジャーの因子だ。
 だからそれを私の因子に書き換えただけの事だ。
 人間としての生態にも機能にも、何一つ影響は無い。
 お前には、血液型の違い以下の影響しか及ぼさないだろう。
 だがある意味お前達魔神軍は、私の眷族に等しい存在になった」
「……喜んでいいのかしら?」
「アルファの子孫共のカウンターになるなどと言うから
 わざわざ与えてやった因子だ。簡単に滅んでくれるなよ」
「……そのつもりはない。絶対に滅びるつもりはないから」
「結構だ」
魔神王はアルファに遅れ、去って行く。

「ロバートさん、しっかりして下さい!」
エナが何とか担ぎ上げようとするが、彼女もまた骨折中だ。
「こら、無理しちゃ駄目だよエナ。めっ」
ずん、ずん、ずん、ずん……
場違いに明るい声でやたら巨大な猫と共に現れたのは、
ロバートの母親、ネイと弟ジョゼフ、あと愛猫のジャンボである。
傍にはエリックの妻フォルテシアと二人の子供もいる。
「フォルテ!」
「あなた!!」
再会を喜ぶ二人プラス二人(子供)。
ネイはそれを放置して気絶したロバートをジャンボの上に乗せた。
「よいしょっと」
「総帥、無事だったんですか?」
ウォルフ王子が質問するとあっけらかんと笑うネイ。
「いやあ、ずっと追いかけられてて危なかったんだけど、
 何故かイグジスターが変な方向に動き出したから、
 様子を見に行こうかと思ったらこれだもん。危なかったよぉ」
「いや、この状況で生き残れるだけ流石ですよ……」
半ば呆れて言うウォルフ王子だった。

イノもまた質問の後倒れて、あり合わせの担架で運ばれていた。
運んでいるのはラケルとゲイルの二人である。
「やれやれ、ウチのリーダー
 とんでもない化け物になっちまったZE」
「されど、それでこそ勇者軍のカウンターに
 相応しいでござろうかな」
ノーラは自分に寄越された謎のアイテムを手に取り、
「どうやって使いこなすんですかね、これ?」
と懊悩していた。概ねの説明は受けたが、
実際使ってみないとよく分からない事だらけである。
「さあな。実戦で使ってみるか、あるいは訓練するか……
 まあ、しばらく戦いは面倒でご免だがな」
レイビーはあくまで冷静に応対する。
「まったくッスよ! ナノ・マシンもちゃんと効かない
 化け物ばっかりになったら困るッスからね!」
レオナは自分の特技が役に立たず、少々おかんむりだ。
「とにかく撤退するッスよ。これにて生命連合は解散ッス!」

レオナの号令で、各自各々の住むべき場所へ戻っていく。
人類の七割以上を犠牲にし、生き残った者達も
心の傷や哀しみを抱き、ようやく生還に成功した。
それでも人々には充実した気持ちが残っていた。
これは確実に、生命を否定する存在に対しての勝利なのだから……



終章-第一幕- へ続く>
最終更新:2020年02月10日 21:49