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牙をむく猛獣 ◆aWSXUOcrjU




 まどかが死んだ。

 守りたかったはずの少女が、またしても目の前で命を落とした。

 あと一歩で上手くいくはずだったのに、最後の最後で覆された。

 手が届くはずだった命は、またしても、この手をすり抜けていった。


「……最悪ね」
 最悪のタイミングでの別離から、もう何日経っただろうか。
 最悪の気分でいたところへ、最悪の状況に巻き込まれた。それこそ最悪もいいところだ。
 思いっきり不愉快な顔を作り、暁美ほむらはそうぼやいた。
 彼女が最初に飛ばされたのは、静まり返った遊園地だ。
 色とりどりのアトラクションを見ても、いまいち心が踊らないのは、照明が灯っていないせいではない。
 数日前に、最愛の友人――鹿目まどかを、目の前で殺されたことが原因だった。
(今回の時間軸も、失敗だった)
 苦虫を噛み潰したような顔を作る。
 時間遡行の魔法を使い、彼女を救うための戦いを、何度となく繰り返してきた。
 それでも、何度試しても、彼女を救うことはできなかった。
 一番いいところまで行った今回も、美国織莉子の最期の一撃が、その命を無慈悲に奪い取った。
 とっくの昔に、ほむらの心は、疲弊しきっていたのかもしれない。
(それでも、まだ私は生きている)
 未だ身体が動くのであれば、立ち止まっているわけにはいかない。
 たとえ心が悲鳴を上げても、肉体が動き続ける限り、立ち止まることは許されない。
 でなければ、まどかを救いたいと願った、己の奇跡に反することになる。
 これまで辿ってきた道程の全てが、それこそ水泡に帰してしまう。
(まずはここを脱出し、見滝原に戻らなくては)
 失意に沈んだ自身の心を、ほむらは無理やりに叩き起こした。
 あれほど手こずったワルプルギスの夜は、よく分からない金ぴかの男に、一撃で打ち滅ぼされてしまった。
 それでも、本来ワルプルギスの夜が攻めてくる日は、今日よりももっと先のはずだ。
 時間遡行を行えるようになるまでは、まだまだ数日の時間を要する。
 このゲームが何日続くかは知れないが、魔法による脱出は、あまり期待しない方がよさそうだろう。
(となるとゲーム終了まで、どうにかやり過ごすしかなさそうね)
 足元のデイパックを拾い上げ、手頃なベンチへと向かった。
 鞄の口を開け、支給されたアイテムを確認する。
 ひとしきり見終えると、左手のソウルジェムを光らせ、武器として使えそうなものを格納した。
(……さて)
 最終的に、手元に取り出したまま残ったのは、地図、ランタン、コンパスの3つだ。
 明かりをつけ、地図を両手で広げ、現在の位置を確認する。
 現在ほむらがいる場所は、D-5というエリアに相当するようだ。
 大きな市街地エリアとも近い。こちらに渡れば、多くの物資を確保することができるだろう。
 であれば、当面の目標は、この遊園地を出て、南の街へと向かうことだ。
 コンパスで方位を確認し、3つのアイテムをデイパックにしまう。
 そのまま立ち上がり、目的地へ移動しようとした瞬間、
「――よう」
 不意に、背後から、しゃがれた男の声が響いた。
「………」
 見つかったか。
 露骨に嫌な顔を作り、来訪者へと無言で向き直る。
 せっかく出発しようとしたというのに、こんなところで邪魔が入るとは。己の運のなさを呪った。
「へっ、何だよ。随分とつれねぇじゃねえか」
 ハスキーボイスで笑うのは、左目が潰れた大男だ。
 痛ましい傷跡の残る隻眼の男が、不敵な笑みを浮かべていた。
「……貴方は誰?」
「俺は牡牛座(タウラス)のハービンジャー。力と破壊を司る黄金聖闘士だ。
 ……といっても、今は聖衣がねぇから、いまいちカッコがつかねぇけどよ」
「セイント……? クロス?」
 自慢げに名乗る男の口からは、聞き覚えのない単語が飛び出した。
 少なくとも、魔法少女関連の範疇には、そのような用語は存在しない。
(といっても、ハッタリではなさそうだわ)
 ハービンジャーなるその男が、全身から放つ気配は本物だ。
 そのセイントだとかいう称号――あるいはそこに付随する力への、絶対の自信が感じられる。
 であれば、油断はできない。
 身構えながら、ほむらは改めて、この大男の姿を見定めた。
 クロスとやらを持たないというハービンジャーは、服装だけを見れば普通の男だ。
 紺色の半袖シャツにジーンズという、ラフな衣服を身にまとっている。
 問題はむしろ、その下で盛り上がっている筋肉だ。それだけでも、普通の人間にとっては脅威となろう。
 浅黒い肌に野性的な顔つきをした、筋骨隆々の大男――何から何まで、ほむらとは対照的な人物だった。
「ふぅん……なるほど。骨のなさそうな見た目のくせして、ちっとは心得てるようじゃねえか」
 にやり、と。
 ハービンジャーの口元が、白い三日月の形に歪む。
 瞳にぎらぎらと浮かぶのは、野良魔法少女・佐倉杏子のそれを、何倍にも増幅したような殺意だ。
「!」
 思わず、びくり、と肩を震わせた。
 こいつは殺る気だ。
 恐らくは、値踏みするこちらの視線を、相手に気取られたのだろう。
 それで闘争心を刺激され、それならばと戦う気になった――見た目通りの喧嘩屋ということか。
「面白ぇ。どの程度やれるかは知らねぇが――ひとつ楽しませてもらうぜ」
 だが、その気迫の何としたこと。
 まるで殺気そのものが、そのまま攻撃として襲いかかってくるような心地だ。
 全身をナイフで貫かれるような。
 傷口を絶対零度で凍結されるような。
 ちりちりと肌を突き刺して、じわじわと体温を奪い尽くす、凶悪無比なプレッシャー。
「……っ!」
 何だか分からないが、こいつはまずい。
 ほむらは左手の中指に嵌められた、紫の水晶を輝かせる。
 ソウルジェムから展開されるのは、奇跡と共に手にした魔力だ。
「そいつがお前の聖衣かッ!」
 叫びと共に、暴風が荒れる。
 一個の竜巻と化したかのような、ハービンジャーの突撃が迫る。
 生身の人間を遥かに超えた、猛烈な加速と共に突き出された拳は、
「か……はッ――!」
 魔法少女への変身と同時に、ほむらの腹部に叩きつけられていた。
 めりめり、と肉に衝撃が沈む。
 五体が連鎖式に軋み、痛みの中心が灼熱に燃える。
「ぬぅぅぅりゃァッ!!」
 気合一声。
 轟――と炸裂。
 いっそうの力を込めたハービンジャーの拳が、ほむらの身体を吹き飛ばした。
 魔法少女となって強化されたはずの五体が、まるでゴム毬のように弾かれて、無様に大地を転がった。
「く、う……ぅぅっ」
 胃の中をかき混ぜられた心地だ。
 耐えきれず、ほむらは身を起こすよりも早く嘔吐した。
 吐しゃ物の酸味を吐き捨てながら、うつ伏せの身体を立ち上がらせる。
「んん~……? 妙だな、小宇宙の気配が感じられねぇ……」
 前方のハービンジャーは、何か違和感でも覚えたのか、訝しがり首を傾げている。
 今の拳の一撃で、5メートルほどは吹っ飛ばされたか。全く、何という怪力だ。
 それに今の加速力もある。あの男がその気になれば、この距離も一瞬にして詰められかねない。
(最初から全力で行く……!)
 未だふらつく身体に、力を込めた。
 左手のシールドを開放し、赤き砂時計を停止させた。
 瞬間、時の流れは止まる。
 暁美ほむらの視界の中の、全ての物体が静止する。
 時間停止――願いの果てに得た奇跡の技。何人たりとも動くことのない、静寂に包まれたほむらの世界だ。
 己の固有魔法の発動を認知した瞬間、ほむらは迷うことなく疾駆した。
 盾の内側に手を突っ込む。先ほど格納したばかりの、鈍色の拳銃を取り出す。
 シグ・ザウエルP226――イギリス陸軍などで採用されている銃だ。
 常人を超えているとはいえ、ほむらの戦闘ステータスは、ほぼ全てが固有魔法に割かれている。
 歴戦のキャリアを有しながら、身体能力のスペックは、新人魔法少女にも並ぶほどに低い。
 ろくな攻撃もままならぬ彼女は、こうして現行兵器を用いる他ないのだ。
(ここだ!)
 すれ違いざまに、銃を構える。
 トリガーを素早く引き、3連射。
 どん、どん、どん――という裂音を伴い、鉛弾が虚空に姿を現す。
 ほむらの手を離れた弾丸は、せいぜい手元まで飛ぶのが限度だ。
 そのかわり時間停止が解除されれば、それらが一斉に運動を再開し、ハービンジャーの懐へ襲いかかる。
 このまま4撃目を撃ち込もうと、指先に力を込めた瞬間だ。
「――何っ!?」
 突如としてハービンジャーの口から、驚愕の声が上がったのは。
「!?」
 むしろこれに驚かされたのは、他ならぬほむらの方だった。
 どういうことだ。たっぷり8発は撃ち込んで、そのまま敵後方に回り込むつもりだったはずだ。
 それが何故、たった10秒ほどで、時間停止が解除されている。
「このっ……!」
 びゅん――と顔面を風圧が襲う。
 その衝撃で我に返り、ほむらは前方へとステップを踏む。
 目論見通りの着地点だ。しかしそこまでの計算は、何から何までが狂っていた。
 それは何も、時間停止が、予期せぬ中断を迎えたことだけではない。
 恐るべきことにこの大男は、腕のたった一振りで、銃弾を払い落したのだ。
 こうなるともはや、同じ人類として考えるのも、馬鹿馬鹿しく思えてくるほどだった。
 牡牛座のハービンジャー――荒れ狂う隻眼の猛牛は、さながら神話の怪物のようだ。
「今のは面白かったぜ、嬢ちゃん。ちゃちな分身よりは驚かされた」
 振り返る男の顔に宿るのは、牙を剥く獣の獰猛な笑みだ。
 ほむらにはそれほどの余裕はない。未だ痛む腹を押さえ、冷や汗と共に男を睨む。
 どうやら防御能力に関しても、油断のできない相手らしい。
 少なくともこの拳銃程度では、あれを殺すことは難しいと見ていい。
(一瞬でも気を許せば死ぬ)
 どういうからくりかは知らないが、相手は走攻守全てにおいて、こちらよりも遥かに格上だ。
 これ以上は一撃も食らわず、確実に殺しきる覚悟でなければ、あれを倒すことなど不可能だ。
 こいつは同じ人間でありながら、あの美国織莉子とも次元が違う。
 上位の魔女と同等――否、それ以上の怪物と見なさなければ、こいつの強さは語れない。
「どれ、ひとつテストしてやるか」
 言いながら、ハービンジャーが跳び退った。
 バックステップの着地点は、コーヒーカップのスペースだ。
 電源が落ちている今、無数に並ぶ巨大なカップは、いずれも回ることなく静止している。
「ふん!」
 そのうち1つに、手が添えられた。
 力こぶが脈動し、勢いよくその腕が振り上げられた。
 何ということか――このハービンジャーという怪物は、片手でコーヒーカップを引っこ抜いたのだ。
 ぎゅうぎゅうに詰めれば、4人は座れるであろう遊具が、1人の人間によって持ち上げられている。
 右手1本で支えられながら、それでも大質量のカップは、微塵の揺らぎも見せることはない。
「俺を本気にさせたけりゃ、こいつをその妙な技でかわしてみな!」
 左手を次のカップに向けながら、猛牛は嬉々として唸りを上げる。
 瞬間、ハービンジャーの右腕が、勢いよくカップを投げつけてきた。
「チッ……!」
 奴の本気になど興味はないが、これを乗り切らなければ確実に死ぬ。
 再び時間停止を発動し、速やかに射線上から回避した。
 左側に回避しながら、敢えてハービンジャーの懐へと走る。
 その間に盾の裏をまさぐり、次なる武器を用意する。
 「これ」の破壊力も相当なものだが、単独で使うのは心もとない。
 狙うのは、もう1つの支給品とのコンボ攻撃だ。危険な賭けだが、やるしかない。
「ぉおおおおりゃぁあああぁぁぁッ!!」
 制限を超え、時が動く。
 妙な表現ではあるが、今の時間停止で止められる期間は、せいぜい10秒が限度らしい。
 唸りを上げるハービンジャーが、次なるカップを投げつけてきた。
 更に後方へと下がり、そのまた次のカップを投げる。
 1つ、2つ、続けて3つ――悪夢のような光景だ。
「!」
 初撃が地面へと落ちて、盛大な爆音を上げると同時に、再び時間を停止させる。
 合計3つのコーヒーカップが、空中で音もなく停止する。
 ほむらはかわすべきそれらを、敢えて足場として使った。
 盾から取り出した新たな武器――対戦車兵器・RPG-7を構える。
 そのままかつんと跳躍し、2撃目のカップの側面に着地。
 その場でトリガーを素早く引いて、先端の弾頭を発射する。
 淀みない動作でカップを蹴り、再び空中へと躍り出る。
 かつん、かつんと足場を蹴って、ハービンジャーの頭上へ到達したのが、きっかり10秒経過の瞬間だ。
「!?」
 瞬間、鼓膜を突き破るような爆音が響いた。
 いきなりロケット弾が目の前に現れ、猛烈な音と共に突っ込んできた――ハービンジャー視点からすれば、そんな風に見えるだろう。
 常人ならこれだけでも即死ものだ。しかし、ほむらはこの怪物に対して、更なる追撃を用意していた。
(これで……!)
 左手の盾を、眼下に突き出す。
 正面を向けたわけではなく、盾と腕の隙間を向けてだ。
 瞬間、そこから落下したのは銀色。
 ほむらの身の丈をも凌ぐ、長大な鋼のサーベルが、重力に従い降り注いだ。
 前方のロケット、上方の剣。2方向からの同時攻撃が、ほむらの打った作戦だった。
「ぬぅおおおおおおっ!」
 それでも、猛牛はひるまない。
 右手は目の前のRPGに、左手は頭上のサーベルに。
 まるで目が頭上にもあるかのように、双方同時に手を突き出す。
 瞬間、両の手のひらに、雷のような光が見えた。
「!」
 ほむらが着地すると同時に、RPGの弾頭が爆ぜた。
 どうっ――と響き渡る音が、衝撃波を伴って襲いかかる。
 間違いなく命中したはずだ。それでもハービンジャーは、あの弾頭を前にして「何か」した。
 であれば、見過ごすわけにはいかない。
 ほむらは吹き荒れる爆煙目掛けて、シグ・ザウエルを3連射する。
「――でぇぇぇやっ!」
 驚くべきことに、全くの無傷だ。
 生身でロケット弾と大剣を向けられ、更に追撃の弾丸さえ浴びながら、男は無傷でこれを切り抜けた。
 銃弾を明後日の方向に弾き飛ばしながら、黒煙と炎熱を切り裂いて、ハービンジャーが真っ直ぐ突進してきた。
(時間停止を――!)
「さァせるかァァァッ!」
 今度はほむらの魔法よりも、猛牛の突進の方が速かった。
 丸太のような腕が伸び、ほむらの右腕が掴まれる。
 空を歩む右足が、地面に着地して踏み込まれる。
「おぉりゃあっ!」
 身体にブレーキをかけると同時に、ハービンジャーの剛腕が空を切った。
 腕を掴まれたほむらの身体が、遥か斜め上方へ投げ飛ばされたのだ。
 見る間にほむらの視界は遠のき、地上から虚空へと離れていく。
(せめて方向転換を……!)
 時間停止の能力も、己の身体には作用しない。
 投げ飛ばされた状態で時を止めても、時の止まった空間で、結局飛ばされたまま落ちるのが関の山だ。
 何とか着地だけでもと、懸命に己が身をよじる。
「合格だ。俺に小宇宙を撃たせるとはな」
 彼方から聞こえる声と共に、何とか地面へと降り立った。
 ほむらが見上げる先に立つのは、両腕を組んだハービンジャーの姿だ。
 不敵に笑うまま、微動だにしない。一瞬で距離を詰められるはずなのに、そこから一歩も歩こうとしない。
「約束通りお前には、俺のこの技を見せてやるぜ……!」
 だが、この嫌な予感はなんだ。
 背筋をぞわりと舐めるような、この不快な気配は何だ。
 何かが来る。
 これまでの攻撃とは桁が違う、とてつもない何かが襲いかかってくる。
「グレェェェートォ――」
 強大な力が湧き上がるのを感じた。
 牡牛座のハービンジャーの五体から、未知の何かが込み上げるのを感じた。
 あれはまずい。
 このままでは大変なことになる。
 これから襲いかかる何かだけは、絶対に食らってはいけない。
 反射的にほむらの右手が、左腕の盾に向かった瞬間。
「――ホォォォォォーンッ!!!」
 雄叫びと共に、猛烈な光と衝撃が、ハービンジャーの身体から解き放たれた。


 グレートホーン。
 200年以上昔の聖戦の時より、牡牛座の黄金聖闘士の必殺技として、脈々と受け継がれてきた奥義である。
 光速を誇るとされる黄金聖闘士の拳――その拳圧を最大限に高め、前面に衝撃波として放つ技だ。
 相手が瞬間移動の技を使って、攻撃をかわしてくるのなら、そもそも動き出す前に、攻撃をぶつけてやればいい。
 ハービンジャーがほむら相手に、わざわざ奥義を放ったのは、そうした意図があっての判断だった。


 もうもうと闇夜に立ち込めるのは、痛ましい破壊の跡を物語る粉塵だ。
 灰色の霧の晴れた先には、見るも無惨な廃墟が見える。
 ちょうどほむらが立っていた箇所の、すぐ真後ろに位置する建物――お化け屋敷のなれの果てだった。
 必殺のグレートホーンの一撃は、建物1つをも、まるまる粉砕してのけたのだった。
「妙な手ごたえだな……いまいち本調子が出ねぇ」
 煙の向こうに立つハービンジャーの顔は、それでもやや不満げだ。
 腕を組む姿勢を解いて、何かを確かめるように、右手首をぶんぶんと振っている。
 最後の瞬間のグレートホーンは、万に一つでも避けられないよう、全力で放ったはずだった。
 それでも、何故か身体には、そこまでの力が入らなかったのだ。
 結果として光速拳の速度は大きく落ち、威力も平時よりダウンしてしまった。
 本力であれば今の一撃は、あのお化け屋敷程度なら、「破壊」だけでなく「貫通」していたはずなのだ。
「まぁいい。あの小娘の姿が見えねぇようなら、さっさと移動するだけだ」
 言いながら、ハービンジャーは歩みを進めた。
 拳の速度が落ちた以上、今の一撃が当たったかどうか、少し怪しくなってくる。
 そのため、とりあえずの形として、周囲を確認しようと思ったのだ。
 跡形もなく消し飛んだなら、それはそれで構わない。
 かわしてどこかに潜んでいるなら、そのまま戦いを仕切り直せばよし。
 あるいは、かわして逃げ出したのなら、その程度の女と割り切るまでだ。
「まぁ、面白ぇ相手だったのは確かだ……なかなかどうして、折り甲斐のあるゲームになりそうだぜ」
 くつくつ、と隻眼の猛牛は笑う。
 ハービンジャーが最も好むのは、人の心身を折り砕く音だ。
 より強い相手と相対し、その骨を――ひいてはその闘志を砕いた瞬間、えも言われぬ快感を覚える。
 このゲームの主催者連中は、死んだとばかり聞いていた、射手座の聖闘士を倒した奴らだ。
 その上最初に会った相手は、小宇宙とは異なる力を使い、妙な技で驚かせてきた。
 きっとこの先に会う連中にも、まだまだ楽しめそうな奴がいるに違いない。
(だが、ペガサスの小僧は駄目だ。あいつをこの場で倒すのは惜しい)
 ただひとつ引っかかることがあるとするなら、最初の部屋でちらと見かけた、ペガサス座の光牙のことだ。
 未だ未熟な青銅聖闘士だが、奴には底知れぬ闘志がある。
 この先の戦いを勝ち残り、底知れぬ強さを身につけるだけの見込みがある。
 であれば、今はまだ生かすべきだ。
 あの小僧との再戦は、もっと先であるべきだ。
 極限まで鍛え上げられたその時こそ、最も充実した戦いの中で、最高の音色を聞くことができる。
(あとは黄金聖衣だな……なくしたままじゃ、イオニアの爺さんにどやされる)
 とりあえず当面の目的は、強い敵と戦うことだ。
 そしてその中で、没収された黄金聖衣を捜索する。ついでに光牙は倒さずに放置する。
 これだけの条件を満たしておけば、あとはどうにかなるだろう。
 元々ゲームの勝利条件は、ただ1人の生存者になることだ。他の参加者と戦い、倒し続ければそれでいい。
 万一光牙が成長する前に、2人きりになってしまった時のことも、その時に考えればいいことだ。
「せいぜい楽しませてもらうぜ」
 獰猛な笑みを浮かべながら、ハービンジャーは無人の遊園地に呟いた。


【1日目・深夜/D-5 遊園地】

【ハービンジャー@聖闘士星矢Ω】
【状態】疲労(小)
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3
【思考】
基本:強い奴と戦って勝利する
1:しばらくその辺をうろつき回り、特に何もなければ移動する
2:光牙とはまだ戦わない。成長するのを待つ
3:牡牛座の黄金聖衣を探す
【備考】
※第32話「真の恐怖!巨蟹宮に漂う妖気!」終了直後からの参戦です
※服装は第30話「脅威の実力!金牛宮の聖闘士!」回想シーンでの、マルスと謁見した際の私服です
※身体の制限に気付きました


(ふざけんじゃねえぞ、畜生……ッ!)
 雪音クリスは焦っていた。
 先ほどまで見ていた光景に、言い知れぬ焦りを覚えていた。
(何なんだよあの化け物は……ギアも纏わずに、めちゃくちゃやりやがって)
 街中で思い返すのは、遊園地での戦闘だ。
 紫髪の大男と、黒髪の少女が戦っている光景を、クリスはすぐ傍で目撃していたのだ。
 女の方はどうでもいい。
 変身と瞬間移動以外は、取り立てて騒ぐほどでもない。むしろ変身くらいなら、自分達だってやっている。
 問題は変身も何もなしに、あれだけの大立ち回りを演じた大男の方だ。
(あのオッサンじゃあるまいし……)
 思い返すのは、特異災害対策機動部二課司令・風鳴弦十郎の存在だ。
 あれもあれで、ノイズ相手に立ち回る、大概な存在ではあった。
 あんな人間が2人もいるなどと、そんなことは考えたくもない。
 どころか、最後に放った大技の威力を考えれば、奴は弦十郎以上の実力者かもしれない。
(くそッ! こっちの心も決まってねぇってのに)
 忌々しげに舌打ちした。
 実のところ、フィーネと離れた今の彼女には、具体的なプランが何一つない。
 もちろん、殺し合いになど乗りたくはないが、この状況をどうこうできるとも思えない。
 そんな状況で、あの惨状だ。とてもじゃないが、まともに頭が回るような状態ではなかった。
 これからどうするか。
 勢いで遊園地を抜け出してきたが、この次はどう動くべきか。
 やはり何をするにせよ、奪われたイチイバルの回収が、一番の優先事項だろうか。
「――ふぅ……」
 そう考えていた、その時だった。
 不意に自分の横合いから、何者かの吐息が聞こえたのは。
 思わずそちらを振りかえると、
「……あ」
 驚くべきことに、先ほど大技を食らったはずの、あの黒髪の少女がいた。
「………」
 こうして、グレートホーンの発動寸前、
 何とか時間停止を発動して逃げ延びた少女――暁美ほむらは、傍観者・雪音クリスと鉢合わせたのだった。


【1日目・深夜/E-5 北側の市街地】

【暁美ほむら@魔法少女おりこ☆マギカ】
【状態】腹部にダメージ(大・回復中)、疲労(小)、ソウルジェムの穢れ(1割)
【装備】ソウルジェム
【道具】支給品一式、シグ・ザウエルP226@現実(10/16)、RPG-7@現実(弾頭なし)
【思考】
基本:生き残ることを考える。そのための障害は排除する
1:目の前の女に対処する
2:南下して市街地に向かいたい
3:ハービンジャーを警戒
【備考】
※原作終了から、時間遡行するまでの間の時期からの参戦です
※鹿目まどかが参加していることに気付いていません
※時間停止の制限に気付きました

【雪音クリス@戦姫絶唱シンフォギア】
【状態】健康
【装備】なし
【道具】支給品一式、ランダム支給品1~3(イチイバルはない)
【思考】
基本:どうしたらいいか分からない。とりあえず、あまり殺し合いには乗りたくない
1:目の前の女に対処する
2:イチイバルを探す
3:ハービンジャーを警戒
【備考】
※第8話「陽だまりに翳りなく」終了直後からの参戦です

※D-4遊園地のコーヒーカップとお化け屋敷が破壊されました。
 また、D-4遊園地のコーヒーカップ跡近くに、破壊されたソフィータの剣@キャシャーン Sinsが落ちています。

【シグ・ザウエルP226@現実】
アメリカのドラマ「24」などで有名な拳銃。装弾数は15+1発。
耐久性に優れた高級な銃で、主に、資金に余裕のある特殊部隊で用いられている。

【RPG-7@現実】
ソ連の開発した対戦車兵器。ロケット弾頭を発射する無反動砲である。
安価で取り回しが効くため途上国の軍隊やゲリラなどに好まれている。
「魔法少女まどか☆マギカ」では、ほむらもワルプルギスの夜との戦いで使用していた。

【ソフィータの剣@キャシャーン Sins】
「滅びの天使」と呼ばれる辻斬りロボット・ソフィータが用いていたサーベル。
通常のサーベルよりも遥かに長大で、ソフィータの身長と、ほぼ同等の長さの刀身を持つ。

Back:諦めない先にだけ未来がある! 時系列順で読む Next:舐めてんじゃねえよ
Back:諦めない先にだけ未来がある! 投下順で読む Next:舐めてんじゃねえよ
GAME START 暁美ほむら Next:彷徨の果てに
GAME START ハービンジャー Next:悠然たる金牛
GAME START 雪音クリス Next:彷徨の果てに


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最終更新:2013年02月22日 16:36