この聖杯戦争において峰津院財閥の力は著しく低下している。当然、他のマスターやロールと比較すれば圧倒的に有利だが、私……
峰津院大和からすれば大いに不満だ。
圧倒的権力を持つ支配者に対して、三食をお子様ランチまたは離乳食だけで過ごすことを強制するに等しい。
もはや、冒涜の域に達する。
NPCに探偵を行わせて、他マスターの拠点を調べさせることもできるが、リソースには限りがあった。
中央区に向かわせた探偵が一人しか生き残らなかったことを考えると、23区の各地に派遣させてはあっという間に人材が尽きる。敵がどこに潜んでいるのかわからない以上、時間と人材を浪費することは得策ではない。
無論、未だに万単位の人材を自由自在に動かせることに変わらないが、私は召喚したことを踏まえると……
ベルゼバブと匹敵する実力を持つサーヴァントも何体か召喚されてもおかしくない。
敵の能力が未知数であることを考えると、私自身のロールに胡坐をかけなかった。出し惜しみをするつもりもないが、あずかり知らぬ所で百または千単位で人材を消される可能性もゼロではない。
状況次第では、私自身が足を動かして調査に出向く必要もあった。この私が小間使いの働きをするなど、実に腹立たしいが……
私は財団が所有するとある緑地に出向いている。新宿御縁の緑地だ。
真琴には「管理者との面談」と話しており、表向きにはビジネスだ。
しかし、実際はガムテープの連中を捕まえること。東京に糸を張り巡らせる蜘蛛の存在も気がかりだが、まずは峰津院財団に歯向かった愚者への報復が先だ。
車を走らせれば難なく到着する。当然だが、運転手を巻き込まないためにも、目的地から離れた場所で待機させた。
私の権限で、構成員に指示して森林のエリアには人が入らないように設定している。そのため、この場に私以外が現れることは……普通ではありえない。
無警戒にも、私一人が護衛も連れずに人気のない森林に入り込んだように見せつけた。
だが、奴らは現れない。
いくら警備の目があっても、侵入する隙はいくらでもある。いや、意図的に作らせるため、この緑地を選んだのだ。
しかし、奴らはクズではあるものの、愚かではなかったということ。
『羽虫と言えど、阿呆ではなかったことだ』
フン、と
ベルゼバブは零す。
私としても、流石に軽視しすぎていた。先程、連中をケルベロスの餌にしてやったが、せめて一人くらいは尋問用に残すべきだったか。
不愉快だが、あのクズどもは構成員を仕留めるほどの実力を持っている。故に、私でなければ手に負えないと判断したが、もう現れることはない。
相応の情報ネットワークは持っていることだろう。
『だが、文化を穢す羽虫とて、余を不快にさせない当然の気配りはあるのだろう』
さも当然のように、
ベルゼバブは緑地を堪能していた。圧倒的な巨体からは相変わらずオーラを放っているが、その手に持つスナック菓子のせいでどうも締まらない。
『余はまだ文化を堪能しておらぬからな。余の目に叶うのであれば、残してやることも吝かではない……だが、余の目を穢す羽虫など我慢ならん』
…………それが、
ベルゼバブの本音だ。
そもそも、この男が緑地に同行したのも、ガムテープの連中よりも異文化に興味を示したからだ。
チェスと読書を平行しながら、プロテイン割りのレッドブルを堪能していたこの男だ。人間を羽虫と見下しながら、その文化に対しては興味津々といった様子だ。
私たちがここに来るまでに乗ったリムジンや、窓の外から見える景色にも興味を示している。
しかも、新宿御縁に訪れるまで、自販機の飲み物を指差して『あれは何だ?』と念話で聞いたり、何かを訴えるような意味ありげな視線を向けていた。鬱陶しいことこの上ない。
…………仕方がないから、構成員に各地の自販機やコンビニへ向かってもらい、大量のジュースやスナック菓子を購入させた。レッドブルなどのエナジードリンクも忘れていない。
彼らからは怪訝な表情を向けられたが、特に何も聞かれていない。いや、私が「何も聞くな」と命令した。
そして、
ベルゼバブにスナック菓子や飲み物を少しだけ与えると、一応は黙るようになった。残るは車に積んでいる。
ポイ捨てをしていないことは、せめてもの救いだろうか?
既に緑地への立ち入り禁止は解除した。
クズが現れない以上、長居は無用だった。
連中の正確な人数までは不明だが、膨大な人材と資金力を誇ることは確かだ。
また、クズどもと交戦して、情報を得た主従もいるはず。
例の蜘蛛がクズどもの情報を手に入れている保証はないが、少なくとも存在だけ認知しているはず。
「失礼します」
私がリムジンに乗り込もうとした直前、構成員の一人が現れる。
その手には、青年の顔写真が握られていた。
「何者だ、この男は」
「新宿区の皮下医院にて、院長を勤める
皮下真です。この男の経営する皮下医院を調査した構成員によると、この病院にて発生する死者数が不自然との報告を受けました」
「……やはりな。詳しい情報は?」
「ここ数週間にて、患者の死亡者数が異様なまでに上昇し、更には遺族までもが原因不明の死亡または失踪例が増えています。病院内の調査に乗り出した構成員も、行方をくらましてしまい……病院スタッフ曰く、既にお帰りになられたとのことですが……」
「……そうか。なら、お前は調査を続けろ」
そう命令すると、構成員はこの場を去っていく。
私は舌打ちした。皮下医院とやらにも、何かがあると察したからだ。もう、構成員は殺されているだろう。
ここからそう遠くに離れていないため、私自らが乗り込むこともできるが……敵の胃袋に飛び込むなど愚策でしかない。
だが、皮下医院にも潜む敵を放置しては、いずれは足元を掬われる。出る杭は早々に潰すべきだろうか。
(私たちの顔に泥を塗ったクズどもは早急に排除しなければならないが、奴らだけに意識を向けてはいられない。
我々を影であざ笑う蜘蛛も、私の前に引きずり出さねば気が済まん。
だが、私たちの敵は奴らだけとも限らん。さて、どうするか……)
目的を果たして、私たちは車に戻って移動する。
クズどものリーダーを探し、叩き潰すか?
我々をあざ笑う蜘蛛の居所を探り、容赦なく踏みつぶすか?
皮下医院とやらの秘密を暴き、院長を社会的に抹殺するか?
それとも、奴らとはまた違う敵の手がかりを探すか?
選択肢は数多くある中、私はリムジンに乗り込んだ。
『……む? おい、余の手元に出たこの『レアカード』とは何だ!?』
隣では、スナック菓子の付録に驚く
ベルゼバブがいるが、私は無視した。
【新宿区・新宿緑地/一日目・午後】
【
峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器をいくつか
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
1:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員
NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
2:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
3:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
4:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
5:クズども(”割れた子供達(グラスチルドレン)”)を探るか、峰津院財団を探る蜘蛛を探るか、皮下医院を探るか、それとも別の敵について探るかは後続の書き手さんに任せます。
【備考】
※皮下医院には何かがあると推測しています。
【ランサー(
ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】
[状態]:健康
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング
[道具]:コンビニで買った大量のスナック菓子・ジュース・レッドブル(消費中)、スナック菓子付録のレアカード
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです。また、東京の景色やリムジンにも興味津々です。
2:狡知を弄する者は殺す
【備考】
※
◆
俺……
田中一は震えていた。
ふと、SNSを覗いてみると……ある男の顔写真が目に飛び込む。
この男は
峰津院大和で、いかにもエリートと呼ぶにふさわしい風貌の男だ。幼い頃より何の苦労もせずに、育ちや人間関係に恵まれ、挫折を知らないまま高い地位を手に入れているはずだ。
クラスのヒエラルキーどころではない。社会のヒエラルキーの頂点に立ち、全てを思うがままに動かしながら生きている。
もはや、チートを使っていると思わせるほど、輝いていて……俺には何よりも不快だった。
「気取りやがって……気に入らねえ。あぁ、気に入らねえ……!」
この男は俺みたいな奴を見下していると、一目見ただけでわかった。
いや、見下しているどころではなく、存在すら認知していない。甘い汁を吸っている裏で、俺のように辛酸を舐めさせられ続けている奴らのことなど、まるで気付こうともしない。
仮に対面などしようものなら、俺のことを徹底的に罵倒し、ゴミクズのように捨てようとするはずだ。それも、あの男自身ではなく、奴を慕うであろう多くの人間の手によって。
そして、明日にでも……いいや、一時間も経たずに俺のことなど忘れてしまう。まるで、初めから存在しなかったかのように。
許せない……許せるはずがない。チートを使い、
ルール無用のプレイをし続けた奴など、この俺の手で殺してやらなければ、気が済まなかった。
『ま、待て! まさか、その男を狙うのか!? いくらなんでも相手が悪すぎるぞ!?』
写真のおやじ……名前は確か吉良吉廣だったか?
俺が大和とかいう男の写真を見た瞬間、珍しくうろたえている。
確かに、この男はお偉いさんだし、政治家や実業家にも有力なコネを持つエリート中のエリートだ。普通なら、これほどの男を狙おうとは思わないだろう。
『あぁ……当たり前だろう? 俺の『田中革命』を真に成功させるため、最もふさわしいターゲットを見つけたのさ!』
だからこそ、俺の手でこの男を殺さなければいけなかった。
俺の『田中革命』を完成させるにふさわしい相手がこの街にいた。
『何をバカなことを言ってる!? 我々の目的は”透明な手”を持つ女と、白瀬咲耶の周囲を調査することのはずだ!? それを忘れたのか!?』
『わかってるよ! でもよぉ……そんなよくわからねえ女どもより、こっちの方が断然レベルが上だろ? この男を殺せば……イヒヒヒッ!』
既に俺は笑みを堪えることができなかった。
顔もわからない女はもちろん、白瀬咲耶を始めとするアイドルなどとは比較にならない程の上物だ。
あの女どもをメタルスライムと例えるなら、
峰津院大和ははぐれメタルやメタルキング、あるいはプラチナキングレベル……いいや、ゲームの世界だけではない、現実の世界を根本からひっくり返せる程の相手だ。
これほどの男を殺すことで、俺は変わることができる。アルコールの後押しもあって、俺の中で強い確信を得たのだ。
『な、ならん! ならんぞ!? 『わが息子』が望むのは“真の平穏”……それを知った上で、このような男を狙えというのか!?』
『何が悪いんだ? こいつもひょっとしたら、マスターかもしれないだろ? それに、おやじだって言った……『聖杯を手に入れる為に戦え!! どこまでもハングリーになって欲望を追い求めろ』ってな!』
『ぐっ!? た、確かにそうだが……この男がマスターという確証はない!』
『んなこと言ったら、アサシンが狙ってるよくわからねえ女も、マスターかどうかわからねえだろ? なら、同じだ!』
『話を聞け! 下手に突っ込んでいっても、返り討ちに遭うだけだ!? この男……
峰津院大和が保有する人材と財力もケタ外れだとわからんかっ!?』
『そこはアサシンの出番だろ? この男の隙を狙って、俺が令呪でも宝具でも、なんでも使えば……イチコロだぜ? チートにはチートだ!』
俺のアサシンは気配遮断のスキルに優れている。それを上手く使えば、大魔王クッパや魔神ダークドレアムレベルのラスボスでも瞬殺可能だ。
もちろん、あの男の居場所はわからないが、スマホを使えばいくらでも手がかりを得られる。
かつての俺ならビビっただろうが、今の俺にはサーヴァントがいる。
大和という男を殺すためなら、どんなに地道な作業でも積み重ねてやる。例え、聖杯戦争のマスターでなくとも、この東京が大混乱を起こすことは避けられない。
既に俺は殺しの経験を充分に積んだため、レベルが上がっている。あとは装備を整えるだけ。
例え、ピンチになろうともチャンスに繋がるので、気取った面を吹き飛ばしてやれるだろう。
天国から地獄の底に突き落とされた時、あの大和という男はどんな絶望を味わうのか? 醜く泣き喚いた面を拝んだ時、どんな快楽を味わうことができるのか?
『ま、待つんだ! この男だけはっ! この男だけは、手を出してはならん! この男だけは……やめろおおおおおぉぉぉぉぉっ!』
写真のおやじが何か文句を言ってくるが、その程度で俺の興奮を抑えることはできない。
何故なら、俺の『田中革命』を完成できる相手を見つけた喜びは、何物にも勝るからだ。
いつの間にか、俺の足に込められた力はどんどん強くなり、体も軽やかになるのを感じていた。
【杉並区/1日目・午後】
【
田中一@オッドタクシー】
[状態]:健康、ほろ酔い、興奮状態
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:スマートフォン(私用)、ナイフ、拳銃(6発、予備弾薬なし)
[所持金]:数千円程度
[思考・状況]
基本方針:『田中革命』。
0:大きな刺激を見つけた。
峰津院大和を殺す手段を考える。
1:敵は皆殺し。どんな手段も厭わない。
2:SNSは随時チェック。地道だけど、気の遠くなるような作業には慣れてる。
3:
峰津院大和は俺の手で絶対に殺す。いざとなったら令呪を全部使ってでも殺す。
[備考]
※界聖杯東京の境界を認識しました。景色は変わらずに続いているものの、どれだけ進もうと永遠に「23区外へと辿り着けない」ようになっています。
【吉良吉廣(写真のおやじ)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:気配遮断、ストレス
[装備]:
田中一のスマートフォン(仕事用)、出刃包丁
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:愛する息子『
吉良吉影』に聖杯を捧げる。
0:
峰津院大和にだけは手を出すなああぁぁぁぁぁぁぁぁ!
1:『透明な手を持つ女(
仁科鳥子)』および『白瀬咲耶の周辺』を調査する。
2:田中と息子が勝ち残るべく立ち回る。必要があればスマートフォンも活用する。
3:当分は田中をマスターとして受け入れるが、より『適正』なマスターへと確実に乗り換えられる算段が付いた場合はその限りではない。
[備考]
※スマートフォンの使い方を田中から教わりました。
※アサシン(
吉良吉影)のスキル「追跡者」の効果により、
仁科鳥子の座標や気配を探知しやすくなっています。
時系列順
投下順
最終更新:2021年10月11日 10:06