アサシンからの用件は、まったく大したことではなかった。
というか、しっかり彼女らのディベートに耳を傾けながらの伝言なので、『真乃たちとどういう話をしたのか』の要点と、『それを踏まえて後で電話をしてほしい』の二点に尽きた。
曰く、彼女たちの背中を押してあげたいが、それはそれとして他人を警戒することにはいくらか注意をしたい。
なので、最終的には彼女たちを落ち込ませるかもしれないから、良かったらその後に電話で慰めてもらえないか。
『それ、逆でいきましょう』
即答していた。
『真乃たちを注意するのは、私が電話でやります。付き合い長いから、上手い事言えますのでー』
こういう時、即決で決めてしまうと大人はすぐにたじろいでしまう。
いつのことだったか。
前にも
プロデューサーと遣り取りした時に、『そんなすぐ決めて大丈夫か』とか何とか言われたことがあったような気がした。
なので、反論されたらこのように言い返す。
『……アサシンさん、子どもの頃に『こんなすぐ答えを言うなんておかしい。ちゃんと考えたのか』って言われたことありませんでした?』
相手も身に覚えがありすぎたらしい。
この人を言い負かせたのは、たぶんけっこうレア体験だ。いえーい。
しかし、うん。
まず自分が『叱る役目』をこなし、しかるのちに摩美々に『慰める役目』を割り振ろうとした理由なら、何となく分かってしまう。
この人は、結局のところ、『誰かが損を引き受けるなら、それは自分であるべきだ』が頭にあるっぽい。
もし組まされたのが三峰とかだったら、眉を逆ハの字にしてたちまちに『そういうとこだぞ』と怒り出しそうだ。
そう思ったので、念話で次はないとばかりに三連弾で言い切った。
『別に、険悪にするつもりはないですよー。真乃を泣かせたりしたら、あとで灯織に何言われるか分かりませんからぁ』
『アサシンさんは犯罪卿なのかもしれませんけど、283プロの悪い子はまみみなのでー』
『言うことは言うので、アサシンさんは安心して優しくなってください』
◆
情報が漏洩していないかどうかの確認や、緊急連絡のやり方などは受け売りだったけれど、言ったことはだいたいアドリブだった。
相手に『危ないところだった。次からは気を付けよう』と思ってもらうなら、ドッキリを仕掛けるのが一番。
『いたずら』ではなく『いじわる』だと受け取られたら傷つけてしまうので、撤回するのは早々に、困らせるのはほどほどに。
こちらからも謝罪はきちんと、きっぱりと。
本当なら、危なっかしい後輩はそばにいて守ってあげなくちゃというお節介の発揮しどころなのかもしれなかったけれど。
それは無理だろうなぁとも分かる。
ライブステージを何度か経験してきたアイドルとして予想するなら、明日の合同ライブに真乃はそのまま出場する。
283プロとしての営業は事務所が壊れてしまった以上回らないだろうけど、合同ライブともなれば急なキャンセルは共演者の迷惑にも関わるからだ。
283プロダクションの進退がどうであろうと、天井社長のことだから真乃を送り出す結論を出すだろう。
そんな真乃を相手に前日からついていって、『なんでアンティーカの摩美々ちゃんが一緒に来ているんだろう』と見えてしまうのは怪しすぎる。
それに、そもそもこっちは『咲耶を殺した連中からどうにかして仇を撃とう』だとか話し合ったりしてる。
それに『聖杯を獲る以外の方法で帰るために、凶悪な聖杯狙いは排除しよう』という方針になってるのがもう一つの理由。
そんな物騒な話に、真乃みたいな『良い子』(相方のサーヴァントも同じぐらい良い子らしい)を乗せられるかというと、できないだろうなーという結論になる。
摩美々だって後者については、正直なところ迷いはある。
誰もかれもが、ガムテープ集団のように分かりやすい『悪』ではないはずだと、真乃も言っていた。
それでも後者に際して異論を出さないのは、283プロダクションを維持するにあたって予選期間からずっとアサシンの働きぶりを見ていたからだ。
もしもサーヴァントに過労死が有り得るなら、アサシンはとっくにそうなってもおかしくないほど頑張ってくれている。
この上で、更に守るべきもの、死なせるべきでない人を過積載するのはきつすぎると理解できるぐらい、摩美々はひねくれていた。
その上で、積載しない一線を引くなら、それは摩美々にとって『聖杯を獲るためなら咲耶や霧子や真乃、にちか達を殺してしまおうとする人達』になる。
それはきっと、真乃のような正しい優しさは無いことだとも思う。
けど、お前達だって人を見捨てているじゃないかと言われたら『人を殺すこと前提でここに来たその人達が、それ言うなんてずるい』が先に来る。
だから、アサシン――モリアーティの、『界聖杯はおかしいと言ってくれる悪』を摩美々は支持する。
そもそも、彼のおかげで生きていられる時点で支持しないも何もないのだけど。
彼の方が『正しい』なんて評することは、彼も望んでないだろうけど。
少なくとも彼は、『何も悪い事をしていない摩美々の友達が死ななきゃいけないのはおかしい』と認めてくれた。
それとも、やっぱりおかしいのかなと首をかしげたりもする。
さすがに命が懸っているともなれば、真面目に勉強するつもりになって、シャーロック・ホームズの物語ぐらいは読んだ。
当時のロンドンの、悪事の半分の黒幕。
抹殺されれば、確実に公共の利益になった男。
皆に危害を加えるなーと怒るために、たくさんの人に危害を加えた暗殺者(アサシン)のやり方に任せるのは、矛盾だった。
その矛盾の答えは、『どういうわけか、この人に悪印象は持てないんだよね』になる。
まあ、そのへんにどうにも理屈がないのは仕方ない。
アイドルになった理由が、『あんなに叱ってくれる人は初めてでしたしー』ぐらいに、ふわっとしていたのと同じだ。
だから、真乃ならどう答えるのか、知りたかったのは本当のこと。
まったく頼まれてなかったことまで尋ねたのは、ずるいとか、許せないと語ったのも本音。
でも、そんな風に敵と味方で考えたから、バチが当たったのかもしれない。
――もし、聖杯を欲しくて勝ち残ろうとしてる人に会ったら、真乃はどう思う?
だけどそれは、本当に、不特定多数の『勝ち残ろうとしてる人』に対しての質問だっただろうか。
私はその『許せない』人達のなかに、『あの人』が加わることを予想して、構えていたんじゃないか。
――例えば、
プロデューサーさんがはづきさんや、にちかちゃんの為に、聖杯でやり直したいって思うことだってあったのかもしれない。
その言葉で、『あっ』と思った。
言葉そのものに驚いたのではない。
言葉を聞いた瞬間に、『ぱちん』と頭の中で、パズルのピースがハマる音がした。
そのピースが空いたままになっていたからこそ、自覚せずにいられたというのに。
◆
うん、言うべきことは言った。
アサシンに見栄を切っただけの仕事は、果たした。
『悪い子』は、偉かった。
……なんぜ、真乃との電話が終わるまでは、動揺を気取られないようにできた。
すっかり打ち解けたアンティーカのメンバーならば、途中から摩美々の様子が変わったと感づかれたかもしれないけれど。
ユニットの異なる友人なら……イルミネの真乃ならば、ごまかせる程度を維持できたはずだ。
まずはやれた、偉かったと己を褒めて、そのままずるずると壁に背中を預ける。
あー、そういえば、喫茶店を出て廃ビルにいたんだっけ。
通話を切ってから、どれほどぼーっとしていたのか。
カバンから汗拭きをとりだし、徐々に青みを失いつつある空を見ていた。
さすがに学生の夏休み真っ最中の渋谷の喫茶店で、あれ以上居座るわけにはいかず。
日陰で、アスファルトの地面はなくて、最高気温時間帯は過ぎていたとはいえ、かなり暑かったけれど。
本当に、エアコンのないスポットで電話するなんて避けて通りたかったけれど。
まだ咲耶の炎上がなくなったわけではない以上、長電話で目立ちたくないのが一番ではあったので。
『偉大』とかいう少年との密会に使われていたらしく、逆に言えばガムテープ集団の方針が変わってくるであろう今の時間は誰も来ないそこが、合流場所に選ばれた。
「お、お疲れ様でしたー……って、どうかしたんですか!? 摩美々さん」
代替え機の処分を済ませて戻ってきたにちかが、声をかけるなりぎょっとしたトーンに変わる。
それほど今の摩美々は、沈んだように見える顔だったらしい。
「あ。はづきさんから、全体告知が来てるよ……283は『強盗が入って事務所は明日から営業見合わせ』。皆は無事なまま、いったん解散になるっぽい」
チェインで届いたお知らせを、ディスプレイから見せる。
元より自転車操業だった283プロジェクトにとって、ここに来ての事務所半壊と、備品の全壊は致命的だ。
この後に来るのは、おそらく営業規模縮小をそのまま拡大させた、これから組まれるはずだった仕事のキャンセル。
『強盗に入られた事による営業停止』と銘打たれてはいるが、それは追々と『もう芸能事務所として稼働させることはできないので無期限休業します』に変わっていくことだろう。
金看板のアンティーカも、咲耶がいなくなってしまったし。
「いや、それも大事ですけど! 熱中症ですか? それとも櫻木さんと喧嘩したとか?」
「いや、喧嘩とかは無かったよー」
ただ、たとえ話で、『もし
プロデューサーさんが聖杯を狙ってたとしても』って……言われただけ。
真乃は知らないんだよね。
そうこぼすと、にちかとアーチャーが黙ってしまった。
「言えなかったよねー…………本当に
プロデューサーがそうなったっぽい、なんて」
現実の283プロダクションが営業停止に見舞われた時、アイドル達の反応は二通りだった。
また変わらずすぐに活動できる様になる。
その約束を、信じた者と、信じたふりをした者だ。
まっすぐな真乃は、約束を信じていた。
プロダクションがなくなって、不慣れなソロ活動をしなければならない苦境に陥りながらも、がんばり続けると宣言した。
摩美々は、そうではなかった。
一時的なソロ活動ならまだしも、プロダクションが無い以上、アンティーカという名義が名乗れない。
『アンティーカのまみみ』でなくなったまま活動することを、アンティーカをよりどころとする彼女自身が良しとしなかったこともある。
けれど、きっと理由はそれだけではなかった。
「そんな……悲しいこと、言えなくても仕方ないですよ」
「ううん。悲しくは、ないよー。少なくとも私は、悲しくない」
プロデューサーを支えられなかったのは、真乃だけでなく、摩美々だってそうだ。
それを察していながら、理解を追いつかせず、信じた振りをするしかなかった。
いつもそうだ。
踏み込んだら余計なお世話ではないかと、かえって負担になるのではないかと遠慮して。
恋鐘のように、ぐいぐいと踏み込めたら解決できたのかもしれない機を逃して。
聞くべきことを聴けず、言うべきことを言えないまま見送ってしまう。
――私の運命はあの人だったけど、あの人はもう、私じゃない運命を見つけた。
いや、嫉妬してたりは無いけどね。
少なくとも、恋愛的な意味であの人を好きだったことは無かったはずだ。
私服のはづきさんと不動産屋さんに出入りしたのを見かけた時も、そういう感情は皆無だったし。
でも、摩美々の
プロデューサーとして末永くお付き合いすることは、叶わなくなってしまった。
たった一人のプロデュース失敗と、それによって壊れてしまったものが、あの人を変えてしまった。
そんな、しっかりと彼のことを理解していればもっと早くに気付きそうな事実を、なかなか飲み込めないまま、物分かりのいい振りをした。
だから
田中摩美々は、悲しくなんかない。
ないったら、ない。
そうでなきゃ、あの優しくて、誠実で、暑苦しいほど人を思いやれる人が、人を殺して聖杯を獲ろうなんて考えつくはずがない。
あの人がそういう人だということは、分かっているつもりだから。
元の世界での摩美々が力不足で、踏み込み不足で、あの人を支えるに足らないほど無力だったとしても。
彼のプロデュースを受けたアイドルとして、そこだけは分かってなきゃいけないから。
ああ、でも。
「憂鬱、なのかもしれないなぁ……」
283プロダクションは、家庭でも寂しさを見出すことがある彼女にとって、初めてできた居場所で、世界で。
その世界の真ん中にいた、本当にきれいな星が、いなくなってしまった。
田中摩美々は、情熱の赤色にも、憂鬱の青色にも、染まってやらないはずだったのに。
今の彼女は、世界を『憂う』ようになった。
「アサシンさん、いっぱい頑張ってくれたのに……私が無理なお願いをしちゃった」
悪いことは悪いと、叱ってもらえる世界に帰りたい。
でもあの人はきっともう、聖杯を獲っても獲らなくても、迷ったアイドルを叱って、見つけ出してくれる
プロデューサーさんじゃない。
『いつか283プロは再開する』という空手形で約束した時から、きっとそうだった。
わがままな子どもの摩美々が、認めきれていなかっただけ。
(よく、あの人は「特別な人と敵味方になる」ことに耐えられたなぁ)
(実際に、『別陣営なんだ』って、もう会いたくても簡単に会えるものじゃないんだって、意識するとキツイと思うよ、これ)
(なんで私がこっち側で、あの人はあっち側なんだろうって)
(苦しくてたまらないんじゃないかなぁ、こういう時は)
田中摩美々の場合は……さっき食べたマルゲリータピザとパフェが、お腹の中から『リバースしたい』ってぐるぐるしている。
飲み干したメロンソーダが『こんな事を知るぐらいなら、味わわなきゃ良かっただろ』と嘲笑ってくる。
どれもこれも好きだったのに、苦くて苦くてたまらない味になってしまった。
世界ぜんぶの優しかった大きな何かから見捨てられたみたいな、全てを吐き出したくなる味。
それとも、今の
プロデューサーのことをもっとよく分かっていたら、互いの理解者になれていたらまた違ったのか。
「まみみのお願い、叶わなくなっちゃった……」
心臓が、ねじれそうだ。
「真乃も霧子も、それから咲耶も、すごいなー。自立してるってゆーか……」
彼女らも、感情の種類は少しずつ違っているなりに、同じく
プロデューサーを慕っていた。信頼していた。
けど、帰りたいというわがままにしがみついていた摩美々と違って、彼女らはみんな、この世界でできることを見出していた。
『でも、自分がどれ程危険で困難な道を選んだかは理解しているつもりです。』
『わたしはそれを……見つけてあげたくて……摩美々ちゃんやみんなに……伝えてあげたいから……』
『そんな大切な思いがあるなら、私は、そういうのを分かり合おうとしてからにしたい』
「ごめん。にちかだって、大変な思いをしてきたのに……」
すごいと言えば、ここにいる七草にちかだってすごい。
二人暮らししていた姉を亡くしたらしいのに、ああもまっすぐ立っていられるのだから。
こっちは、それまでの『当たり前』がいなくなると考えただけでも、どんな明日になるのか想像もつかないというのに。
(これじゃ、私ひとりだけ、親離れできてないみたいじゃん……)
お前の目標は何だとか考えだすとドツボにはまるのは、WINGの三次選考やGRADの時を経て自覚していたから、さすがに繰り返したくはないけど。
「言いたいことはあるし、咲耶の手紙は届けたいけど……でも、『こんな手紙が届いたからには、敵はアンティーカの誰かだ』ってなったらどうしようとか、考えちゃう自分がやだなー」
いや、そうなったら真っ先にマスターを疑われるのは、いつも手に包帯を巻いている霧子になってしまうから、摩美々ひとりだけの都合では済まされないのだけど。
そう、一個だけ、どうすべきか分かっていることがある。
「でも、霧子や真乃には、言えないからー」
真乃にも霧子にも、教えない。知らなくていい。
プロデューサーは、まさに『自分を責めちゃうかも』と言った有り様になっているなんて。
プロデューサーは、最後にお別れした時に輪をかけて、あなた達のことを見ていないなんて。
そんな最悪な運命を、あの子達みたいな『良い子』たちにまで背負わせるなんて、できない。
こんな最悪なことを抱えるのは、『悪い子』だけで充分だ。
「わ、私が、ぶん殴りますよ!」
空元気と気合のこもった、裂帛の声がにちかから飛び出した。
「あの野郎、もう一人の私のことを気にしてたから! 私がもう一人の私を探してたら、会うかもしれない!
ぶん殴って、バカなことを考えるなって、反省させます!!」
両の拳を握りしめて、怒り心頭の表明をする。
『アサシンさん早く来てー、あなたのマスターがすごい顔してます!』という弱音を捻じ伏せるように、にちかは拳を握った。
「『優しい人達がたくさん心配してるのに何やってんだ』って、殴ります!
あ、もちろん摩美々さんの名前が割れないようにはしますけど! だって、こんな……」
あの男から見たら、今の七草にちかは『自分を見つけられている』子で、もう一人の自分はそれができてない可哀そうな子らしい。
だけど、それはそれとして。
七草にちかに、家族はもういない。
この世界にいる七草はづきだって、おそらく『もう一人のにちか』の為に用意された姉だ。
この世界で生活保護を受給しながら、つつましやかにカロリーメイトを食べて糊口をしのいでいた女の子の姉ではない。
一か月一緒にいてくれた不器用な同居人だって、にちかが死のうが生き残ろうが、最後には『英霊の座』とやらに帰ってしまう。
それなのに、あのP野郎はどうだ。
こんなに心配してくれるアイドル達が、あと二十数人もいたのに。
よくも、こんなに優しい人達を放っといて、殺し合いの世界なんかにやって来られたなとムカムカした怒りを顔と声に表す。
「何それ。向こうにもサーヴァントいるんだから、止められるでしょ……」
でも、ありがとー。
そうお礼を言った時の顔は。
よくもそんな顔で『悪い子』を名乗れたなと、にちかがそう言ってやりたくなるようなものだった。
◆
サーヴァントの過去夢とやらを、摩美々が見ていた期間はそう長くない。
どうにも、彼は過去によほど見せるとまずいものでもあったか、あるいは見られると恥ずかしいものでもあったのか。
ある程度、マスターとサーヴァントのチャンネルを切ることを覚えてからは、夜間の間は自覚的に繋がりを切るようにしていたようだったので。
でも、その長くない期間に見ていた夢は、走馬灯のようだった。
いや、実際の走馬灯だったのかはともかく。
繰り返し、巻き戻り、回が帰する思い出の群れだった。
かつての、その人の視界から見えていた光景。
在りし日の、忘れられない、精密に焼き付いた記憶の繰り返し。
緋色に染まってべとべとになった両手の幻覚と、交互だったけど。
血に染まった両手が、思い出している間だけは忘却されるかのように。
あるいは、思い出そうととするときに、返り血がフラッシュバックして、その資格がないと囁きかけるかのように。
断片の数々だったから、全体のあらすじまでは分からない。
だがしかし、どんな風に見えたのかという話をするなら。
たった一人を見る時だけ、視界の彩度がはっきりと違っていた。
その人の姿をとらえた時だけ、世界がうるさいほどに眩しかった。
――この人、『彼』のことがめちゃめちゃ好きじゃん。
頭を使って読み解くまでもない。
たとえ人間観察の力がこの二人からすれば児戯にもならないほど劣っていたからといって、目線が違えば分からされる。
当人が客席から見ている手品を、舞台袖のタネが丸見えになる裏手から見ていれば、理解力に差が生まれるのは当然だった。
その手の漫画などを感情移入してノリノリに食い入る凛世や智代子などが見たら、相手の男に向かって手に汗にぎり、『気付いて、気付いて!』と必死になっていたこと請け合いだろう。
すれ違って様子見しただけなのに、鹿撃ち帽にインバネスコートの有名な恰好で記者会見させられている姿を、短時間の間に何度も視線を往復させて。
テストの採点をする片手間に話をしているだけなのに、答案用紙ではなく彼の表情にばかり視線を走らせて。
それも、彼にじろじろ見ていると思われないよう、彼がふと視線を外したタイミングを見計らって視線を注ぐという小細工までやらかして。
彼に渡す手紙を書いては消し、書いては消し、最終的に『読まれる手紙』と『読まれなくてもいい告白の手紙』に文章を分けて書きなぐり。
『他人の視界を借りる』という斜めに引いたラインから覗いているだけで、分かる。
その人はロンドンを震撼させた化け物でもなければ犯罪の悪魔でもない。
どうしようもなく『人』だった。
むしろ情緒が幼過ぎやしないかと、拍子抜けするぐらいに。
だから摩美々は、一度も『どうして、あなたは犯罪に手を染めなきゃいけなかったんですか』とは尋ねていない。
なぜって。あんなに想ってる相手と、敵味方に分かれてまでやらなきゃいけなかったことなら。
そういう風にしか生きられなかったんだなー、としか思えない。
もしかして、この感想もおかしいのだろうか。
どんな理由があっても殺されたのを許せないと思いながら。
それでもなお、この人はそういう生き方をしたんだなーと思ってしまう。
ああ、でも、だからこそ。
もう会えないことを承知で。
永遠の関係など無いと、分かたれたままで。
それでも奇跡にすがって会いに行くことを選ばずにここにいて。
運命の人からもらった想いを胸に抱いたまま、一人でがんばっているその人に。
私はどうしても悪印象を持てないのかもしれない。
ならば。
光っているその星に、手を伸ばしている、その人に。
その星が綺麗なことを誰よりも理解っていて、魅せられていて。
いつかまた、星が落ちてこないかなと、祈るように待っている人に。
その人が本当に辛い選択を、己を切り刻んで、泣かせるような選択をしたその時には。
背中を叩いて、アサシンさんでも、モリアーティさんでも、まして犯罪卿でもない、彼だけがその人に名付けた『あの名前』で呼んで。
そして、『会いたいと思ってるなら、悲しませるようなことをしちゃだめだよ』って教えられたらいい。
[全体備考]
※283プロダクションは2日目以降、営業停止に入ります。
※
櫻木真乃と
星野アイが出場する合同ライブは二日目に予定通り開催されます。時間帯などの詳細は後続に任せます
※上記について、書き手は現実の芸能事務所の手続きや周知速度等については不勉強ですが、『時間帯が夕方に突入する時点ではもう決まっている』ものとして扱っていただいて構いません。
【渋谷区・代々木近辺の廃ビル/一日目・夕方】
【
田中摩美々@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:健康、赤い怒りと青い憂欝
[装備]:なし
[道具]:白瀬咲耶の遺言(コピー)
[所持金]:現代の東京を散策しても不自由しない程度(拠出金:田中家の財力)
[思考・状況]基本方針:叶わなくなっちゃった
0:
プロデューサーといい、霧子といい、今日は振られてばっかり……。
1:霧子、
プロデューサーさんと改めて話がしたい。
2:アサシンさんの方針を支持する。
3:咲耶を殺した奴を絶対に許さない。
[備考]
プロデューサー@アイドルマスターシャイニーカラーズ と同じ世界から参戦しています
【
七草にちか(弓)@アイドルマスター シャイニーカラーズ】
[状態]:健康、いろいろな苛立ち
[令呪]:残り三画(顔の下半分)
[装備]:不織布マスク
[道具]:予備のマスク
[所持金]:数万円(生活保護を受給)
[思考・状況]基本方針:生き残る。界聖杯はいらない。
1:WING準決勝までを闘った"七草にちか"に会いに行く。あれは、どうして、そんなにも。
2:"七草にちか"に会いに行くのは落ち着いてから。
3:あの野郎(
プロデューサー)はいっぺん殴る。
4:お姉ちゃん……よかったあ〜〜〜。
[備考]※
七草にちか(騎)のWING準決勝敗退時のオーディションの録画放送を見ました。
【アーチャー(メロウリンク・アリティ)@機甲猟兵メロウリンク】
[状態]:健康
[装備]:対ATライフル(パイルバンカーカスタム)、照準スコープなど周辺装備
[道具]:圧力鍋爆弾(数個)、火炎瓶(数個)、ワイヤー、スモーク花火、工具
[所持金]:なし
[思考・状況]基本方針:マスターの意志を尊重しつつ、生き残らせる。
0:俺よりひどい女の泣かせ方をする男がいるとは……
1:にちかと摩美々の身辺を警護。
2:『自分の命も等しく駒にする』ってところは、あの軍の連中と違うな……
3:武装が心もとない。手榴弾や対AT地雷が欲しい。
[備考]※圧力鍋爆弾、火炎瓶などは現地のホームセンターなどで入手できる材料を使用したものですが、
アーチャーのスキル『機甲猟兵』により、サーヴァントにも普通の人間と同様に通用します。
また、アーチャーが持ち運ぶことができる分量に限り、霊体化で隠すことができます。
時系列順
投下順
最終更新:2023年02月20日 23:43