「嫌あっ!? 離して、離してください!」
「な、何なのあなた!? 私たちから離れなさい!」
「…………」
皮下真の指令を受けたクロサワは二人の少女を拉致しようとしていた。
ターゲットは小宮果穂と有栖川夏葉。283プロダクションに所属するアイドルで、放課後クライマックスガールズのメンバーだ。
初めは皮下医院から自力での移動を考えたが、それでは気付かれると皮下から止められる。故に、「山ちゃん」と呼ばれた男が運転する車で、移動することになる。
そして「山ちゃん」を別所に待機させ、クロサワ一人で探索していたら……渋谷区の鍋島松濤公園にてアイドルたちを見つけた。
「やめてくださいー! やめてくださいよー!」
「あなたっ! 果穂を傷付けるつもりなら、私は絶対に許さないわ!」
この手で捕えた少女たちはわめいているが、クロサワにとって何の障害でもない。
だが、このまま騒ぎ続けるなら、二人を気絶させるべきか。「山ちゃん」と連絡を取って、迎えに来させればいいだけ。
幸いにも、周囲に監視カメラも設置されていないので、迅速に行動すれば済む。
「やめてよ! 果穂ちゃんとなっちゃんに何するのさ!? 二人に酷いことをするなんて、三峰は許さないからね!」
すると、もう一人だけ少女が現れる。
アンティーカに所属するアイドルの三峰結華だ。彼女は標的ではない。
果穂と夏葉を捕えた瞬間、偶然にも結華が現れたのだ。たまたま通りかかったのか、あるいは何かの都合で少しだけ二人から離れていたのか。
その疑問を他所に、結華は木の枝でクロサワに攻撃してくる。その程度、完全適合者となったクロサワにとって、蚊に刺される程度の痛みすら感じない。
だが、流石に鬱陶しいので軽く蹴飛ばす。
「わあっ!?」
急所を外したものの、結華の華奢な体躯は吹き飛んだ。
皮下からの命令があるため、殺さない程度には手加減をしている。だが、ただの少女には重く、痛みでうずくまっていた。
「結華さん!」
「結華っ!?」
クロサワに捕らわれた少女たちは、結華に手を伸ばす。
「か、果穂、ちゃん……なっ、ちゃん…………!」
一方、結華も必死に腕を伸ばそうとするも、クロサワの一撃を受けて立ち上がれるわけがない。
即死していないだけでも奇跡だった。
しかし、顔を見られたからには消すべきか? 皮下の命令には背くが、中途半端に生かした所でマイナスになる。
「……………………」
少女たちの抵抗を見てもクロサワは何も感じない。
彼の本名は黒田善正。元死刑囚にして、15歳より殺人を重ね続けた異常者だ。
自他に関係なく死に対する恐怖心と関心が欠如し、『クロサワ』の名を得るまでに猟奇的な手術を数多く受けても……何の反応も示さなかった。
故に、少女たちの痛みと涙を前にした所で、「つまらない」という考えすら芽生えない。
「……だ、誰か……誰か、果穂ちゃんとなっちゃんを……助けて……!」
結華は必死に願うが、それを耳にする人間などいる訳がない。
一方、両腕では少女たちが暴れているが、流石に騒がれては面倒だ。
ここは、手足を引きちぎり、無理矢理にでも黙らせよう。死亡する危険もあるが、口封じで彼女たちを殺すしかなかったと皮下には言い訳すればいい。
クロサワはそう思案した瞬間……
「…………させるかあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
「……!?」
どこからともなく、大気を振るわせるほどの声が響く。
クロサワが振り向くも、一瞬で巨体が吹き飛ばされた。反射的に果穂と夏葉を離しながらも、クロサワは起き上がる。
すると、目前には猛牛や熊を連想させる肉体の大男が立ちはだかっていた。
「か弱き女子供を狙う変態野郎が! このおれが相手になってやる!」
感情をなくしたクロサワですらも驚愕させるほど、その大男は叫んだ。
◆
女侍のサーヴァントとの一騎打ちを済ませてから、おれはあてもなく街を歩いていた。
あの女はマジですげえ奴だった。
光月おでんの名に恥じないよう、おれも相当鍛えたはずだったが……やっぱりこの世は広いな!
おれのサーヴァント・継国緑壱もそうだが、白吉っちゃんやロジャーの船でも充分にやっていける程の腕だ。きっと、この界聖杯にはそんな奴がゴロゴロいるんだろうな。
それはそれとして、おれはこれからのことを考えないといけねえ。
その日の金は充分に稼いだし、飯や風呂も悪くねえ。でも、そんな呑気な暮らしじゃねえ……この界聖杯のことだ。
あの女侍は界聖杯そのものを破壊する方法があるといった。それ自体は文句ねえけどよ、あさひ坊みたいな奴はどうすりゃいいんだ?
おれとしては、あさひ坊の気持ちを無下にしたくねえ。かといって、界聖杯を望まない奴らの願いを否定するのも違う気がする。
頭を悩ませていた時だ。おれの耳に悲鳴が聞こえたのは。
何事かと思い、駆けつけてみたら……上半身裸の変態野郎が女子供を誘拐しようとしていた! しかも、その友達と思われる嬢ちゃんを蹴飛ばしてやがる。
どっからどう見ても、ただ事じゃねえ。だから、おれは変態野郎に特大の蹴りをお見舞いしてやったのさ。
「……………………」
けどよ、変態野郎は何事もなかったように立ち上がる。
おれは手加減をしてねえけど、この変態野郎は只者じゃねえと一目で察した。
屈強な体つきに加えて、皮膚も鋼のように固い。何よりも、変態野郎の目つき……ありゃ、人を平気で殺すような目だ。
「おい、この変態野郎が! だんまりかよ!?」
「……………………」
「どういうつもりかと聞きてえが、答える気はなさそうだな! 上等だ!」
言葉が通じてない訳じゃなさそうだが、おれの叫びに変態野郎は何も答えない。
それどころか、ニィと笑いやがった。
「結華さん、しっかりしてください!」
「結華! 大丈夫!?」
「……う、うん……三峰なら、大丈夫……! 果穂ちゃんと、なっちゃんの二人が……無事で、三峰は嬉しいよ……」
後ろから聞こえた声に、おれは振り向いちまう。
変態野郎に捕まっていた二人の嬢ちゃんが、蹴飛ばされた眼鏡の嬢ちゃんを心配そうに見つめていた。眼鏡の嬢ちゃんは笑っているけどよ、どう見たって大丈夫じゃねえ。
それにも関わらずして、あの変態野郎は笑いやがった。こんなの、許してたまるかよ。
「おい、嬢ちゃんたち! あの変態野郎はおれに任せろ!」
そう叫んだ後、おれは刀を抜いて変態野郎に飛びかかる。
おれは勢いよく斬り下ろしをするが、なんとあの変態野郎は腕だけで受け止めやがった。
激突の衝撃で風がピリピリ震えるけどよ、おれは手加減をしねえ。ここで手を抜いたら、この変態野郎は嬢ちゃんたちに何をするかわからねえからな。
だから、おれは力を込めて、変態野郎の腕をぶった切ってやった!
「……………………」
すると、変態野郎は腕を見つめている。
ざまあみやがれ。これで、嬢ちゃんたちの痛みは少しでも理解できたはずだ。
だが、何か様子がおかしい。腕は粉々に砕け散ったが、あの野郎は特に動揺していない。
それもそのはず。おれがまばたきをする間もなく、なんとたたっ切った腕が復活しやがった!
しかも、武器に変わっていやがる。
「何!? てめえ、能力者か!」
「……………………」
相変わらず、変態野郎は黙り込んだままだが、薄気味悪ィ笑みが答えのようだ。
こいつはどれだけ斬られても、すぐに復活できる。例え斬首の刑にしても、1秒もせずに再生するはずだ。
だが、おれも負けるつもりはねえ。この変態野郎をぶちのめさない限り、嬢ちゃんたちは安心して寝られねえからな。
「…………」
この変態野郎がマスターとサーヴァントのどちらかはわからねえ。
あるいは、
NPCって住民かもしれねえけどよ、だとするとこいつはかなり厄介だ。
嬢ちゃんたちを襲ったこいつは、下手な主従程度だったら軽く蹴散らせる程の実力を持っている。
事実、こいつはおれの右肩を狙って攻撃をしてきやがる。もちろん、おれも二刀で防ぎ、そこから反撃するけどよ、すぐに再生しちまう。
しかも、背中からは鞭のようにしなる棘を突き出して、おれの傷を少しずつ広げてやがる。痛いったらありゃしねえ!
「手加減無用だ!」
おれは変態野郎の胸を突き刺してやった。
どんな人間やサーヴァントでも、胸を破壊されたらひとたまりもない。
そのはずだったが……即死するどころか、ニヤリと笑いやがった!
気に食わない笑みにただならぬ気配を感じて、おれは反射的に後退する。信じられないことに、おれが与えてやった傷はすぐにふさがった。
「なんて化け物だ……信じられねえ!」
流石のおれでも目を疑った。
もちろん、白吉っちゃんやロジャーの船に乗って航海した頃には、おれの知らねえ面妖な力を持った奴がウヨウヨいたさ。けどよぉ、致命傷の傷を自力でふさぐなんて、いくらなんでもありえねえよな!
っと、ぼやいてもしょうがねえ。ケンカの途中で愚痴るなんてみっともねえマネができるか!
「………………」
すると、変態野郎は腕を掲げる。
だが、標的はおれじゃない。あいつの腕の先にいるのは、あの嬢ちゃんたちだ!
まずい! 誘拐できないなら、口封じをするつもりか!?
眼鏡の嬢ちゃんは怪我をしたのか、うずくまったままだ!
「やめろおおおぉぉっ!」
おれの叫びも空しく、変態野郎の腕から無数のトゲが飛び出す。
呆然とした嬢ちゃんたちが、どす黒いトゲに貫かれようとした瞬間だ。
どこからともなく吹いた一陣の風が、嬢ちゃんたちを狙ったトゲを切り裂いたのは。
「…………!?」
驚くのは変態野郎。
一方で、おれはホッと胸をなで下ろす。何故なら、嬢ちゃんたちを守るように、頼れる仲間が駆けつけてくれたからな。
「お、お侍さん……ですか!?」
「あなた、私たちを守ってくれたの?」
「……三峰たち、助かった?」
当然ながら、嬢ちゃんたちは驚いた。
何しろ、この東京じゃ珍しい風変わりな侍がいきなり現れたんだからな。
「来てくれたのか、相棒!」
だから、おれは叫ぶ。
この男は味方であることを嬢ちゃんたちに伝えるために。
あまり意味はねえけど……サーヴァントであることはちゃんと隠さねえとな。
「彼女たちは私が守ろう。お前は、奴に集中しろ」
「おうともよ! 任せろ!」
そう。
セイバーのサーヴァント……
継国縁壱が駆けつけてくれたのさ。
鬼とやらを探すため、緑壱は一旦別行動を取っていた。だが、おれの異変にはちゃんと駆けつけてくれるから、やっぱり頼りになる相棒だぜ。
緑壱の助けがありゃ、もうおれの不安は何もねえ! これで思う存分、あの変態野郎をぶちのめしてやれる!
「……………………」
一方で、あの変態野郎の両腕は形を変えていく。
刃物やトゲじゃねえ。なんと、バカでかいドリルになりやがった!
こいつの力、どれだけでたらめなんだよ!? 全身武器人間だから、なんでも用意できるってのか!
「へっ! おれたちの体で穴掘りをしようってのか? かかってきやがれ!」
変態野郎のドリルは人間の背丈ほど長いが、おれはビビらねえ。
カイドウの軍勢と比べれば、たかが武器の一つや二つなど恐れるに足りねえ。
おれが啖呵を切る一方、変態野郎はドリルを地面に突き刺して、とんでもない勢いで穴を掘り始めた。
ドドドドドドドドドドド! と、おれたちの耳をかき回す轟音と共に、視界が土煙で遮られちまう。
何のつもりかわからねえが、おれは構える。不意打ち上等、奴がどんなせこい行動を仕掛けてこようが、おれは負けるつもりはない。
すぐに視界は晴れて、あの野郎を刀の錆にするつもりだったが……
「……何!? 穴を掘って逃げやがったのか!」
おれの前にあるのは大きな穴だけ。
攻撃ではなく、尻尾を巻いて逃げるためにドリルを出したのだろう。
おれと緑壱を同時に相手にするのは分が悪いと考えたのか。白昼堂々と誘拐に及ぶ割に、引き際を見誤らない奴だったとは。
このまま追いかけてもいいが、流石に穴の中じゃおれも刀を構えられねぇ。追いついても、殴り合いで相討ちになったら元も子もねえからな。
だが、このまま野放しにしていい奴じゃねえ。どうしたものかと考えた瞬間……
「あの、助けてくれてありがとうございました!」
おれを呼ぶ声が聞こえた。
振り向くと、あの果穂って嬢ちゃんがキラキラとした目でおれを見上げている。
特にケガはなさそうだ。
「嬢ちゃんたち、大丈夫か?」
だから、おれは嬢ちゃんたちに声をかける。
果穂と夏葉、そして結華って嬢ちゃんは……みんな無事みたいだ。
結華の嬢ちゃんも、顔をしかめながらもようやく立ち上がってくれた。
改めて、おれは胸をなで下ろす。
「はい! 危ないところを、どうもありがとうございます!」
「……あら? もしかして、あなたは義侠の風来坊かしら。最近、噂には聞いてるわ」
「ん? あぁ……そういえば、どうやらおれはそんな風に呼ばれているみたいだな! いかにも! おれは光月おでん……助けを呼ぶ声があれば、どこにでも駆けつける風来坊さ!」
果穂と夏葉の嬢ちゃんに、おれは胸を張って答えた。
おれは別に正義の味方じゃねえけど、人さらいを見逃すろくでなしのつもりはない。
「はぁ〜! 本当、一時はどうなるかと思ったよ! せっかく、三峰たちはユニットを越えた楽しいピクニックの最中だったのに……」
「災難だったな、結華の嬢ちゃん。また、何かあったら大声でおれの名前を呼べよ! いつだっておれは飛んでくるからな!」
「了解、風来坊さん! 三峰は風来坊さんを頼りにしてるよ~!」
結華の嬢ちゃんを安心させるため、おれはニッと笑う。
果穂と夏葉、結華の嬢ちゃんはみんな暖かい笑顔を見せあった。
この嬢ちゃんたちは界聖杯によって生み出された模倣だ。でも、嬢ちゃんたちの間にある友情や信頼は嘘なんかじゃない。
それでも、聖杯戦争の決着がついてしまえば消えてしまう。その運命はおれでも変えることができない。
「嬢ちゃんたち! 例え、この世界が終わる日が来ても……絶対に、みんなで仲良く笑っていてくれ! 嬢ちゃんたちの絆は、紛れもない本物だからな!」
だから、おれは嬢ちゃんたちを励ます。
絆はもちろん、笑顔と思い出だってまがい物なんかじゃねえ。もしも、笑う奴がいたらこのおれが叩き潰してやるとも。
「当たり前ですよ! あたし、みんなのことが大好きですから!」
「えぇ! おでんさんに言われるまでもなく……私はみんなのことを大事にするわよ?」
「果穂ちゃんとなっちゃんに同じく! 三峰はみんなを笑顔にするからね!」
おれの気持ちが届いて、三人ともまぶしい答えを返してくれた。
モモの助や日和も大きくなったら、この嬢ちゃんたちみたいな素敵なダチができるかもな。
父親として、あいつらを見守ってやれねぇのは心残りだが……でも、モモの助と日和なら大丈夫だ! 何せ、光月おでんの血を受け継いだ息子と娘だからな。
おれに負けないくらいデカくなるだろ!
「……ただ、お出かけはしばらくやめようか。さくやんのことも心配だし、何よりも……
神戸あさひって人の炎上も怖いもん!」
と、結華の嬢ちゃんから出てきた名前に、おれは耳を疑う。
神戸あさひ……あさひ坊のことか?
それに、炎上って何のことだ? 特に火の気はねえけどよ……
「なあ、結華の嬢ちゃん。いったい何の話をしているんだ? どこか、火事にでもなっていやがるのか?」
「……風来坊さん、こんな時に新手のギャグ?」
「おれは真面目に聞いてるんだ! 炎上ってのは、何のことだよ!? それに、あさひ坊と何か関係があるのか!」
「えっ? あさひ坊、って……風来坊さんの知り合いなの?」
「あぁ! 一食を共にしただけの仲だが……あさひ坊に何かあったのか!?」
「う~ん……説明するより、見た方が早いよ。はい、これ!」
そうして、結華の嬢ちゃんは懐から四角い小さな箱を取り出す。
名前は、確か……すまほ? だったか? この街の人間のほとんどが持っていやがるけど、おれにとってはちんぷんかんぷんな代物だ。
要するに電伝虫の一種ようだが……おれにはとても手を出せねえ。緑壱も同じだと思うぜ。
それはさておき、結華の嬢ちゃんが指ですまほ? とやらを動かしてくれるが……
「……な、なんだこりゃあ!? これはいったい、どういうことだ!?」
書かれていた内容におれは叫ぶ。
結華の嬢ちゃんが指さす先には、あさひ坊に対する罵詈雑言が山ほど書かれていた。不審者だの、通り魔だの、暴力少年だの……挙げりゃキリがねえ。
もちろん、あさひ坊の顔だって派手に載っていやがる。
何が何だかわからなくて、体がわなわなと震えるのをおれは自覚した。
「三峰たちも、状況がよくわからないの! ついさっき、このあさひさんって人に対する悪口がたくさん書かれて、凄い勢いでかく……えっと、周りに広がって……」
「誰だ!? どこのどいつの仕業だ!? こんな根も葉もねえデマをまき散らすのは!」
「そんなの知らないよ!」
「……ッ!? す、すまねえ……!」
おれとしたことが、結華の嬢ちゃんに当たっちまった。
だが、この胸の中で湧きあがる怒りは止まらない。東京のことに詳しくないおれでも、あさひ坊に危機が迫っていることがわかった。
確かに、あさひ坊は聖杯戦争に優勝しようと戦うマスターで、おれを倒そうとしている。でも、あいつは譲れない願いがあるから聖杯を求めているのであって、悪口を言われるような奴じゃない。
おれへのお礼を忘れないから、良い奴だってことは一目でわかった。
「……ま、まさか……あさひ坊は……誰かにハメられたのか!?」
脳裏に浮かぶのは、おれの故郷・ワノ国を地獄に変えようとした連中の顔だ。
オロチの側近のババアが”マネマネの実”で我が父上・スキヤキに化けて、大名やワノ国のみんなを騙しやがった。
同じように、誰かがあさひ坊をハメるために、その姿に化けた上にくだらねえデマを流したのか!?
「な、なあ……嬢ちゃんたち! 聞いてくれないか!? あさひ坊は誰かにハメられようとしているんだ!」
「もしかして、あたしたちに見せられているこれって……ウソなんですか!?」
「……おれはあいつのことをほとんど知らねえ。けど、あいつは無意味に誰かを傷付ける奴じゃねえんだ! これだけは信じてくれ! この通りだ!」
おれとあさひ坊は同じ飯を食っただけの仲だ。
だから、あいつのことを何でも知っているなんて、口が裂けても言えねえ。
ただ、あさひ坊はとても強い奴だった。その目はとても真っ直ぐで、悪い奴じゃねえってことが伝わった。
叶えたい願いがあって、もう奇跡にでもすがらなければいけないほどに追い詰められていた。
もちろん、それは他の奴だって同じ。あさひ坊だけを特別扱いするのは違う。
だが、こんな卑怯な方法であさひ坊を追い詰められるなんて、おれにはどうしても我慢ならなかった。
「……わかりました! あたしはおでんさんの言葉を信じます! 神戸あさひさんは、おでんさんのお友達なんですね!」
「彼のことは何も知らないけど……正直、この炎上は出所がわからなくて胡散臭いから、私としても簡単に信じられないわ」
「まぁ、どこの誰が拡散しているのかもわからないから、三峰たちからしても疑問だからね……了解だよ、風来坊さん!」
「嬢ちゃんたち……! かたじけない!」
嬢ちゃんたちの気遣いに、おれは頭を深々と下げる。
『情けは人の為ならず』って言葉があるけどよ……まさにその通りだな!
この嬢ちゃんたちは本当に良い子だ。出会って間もないおれの言葉をちゃんと聞いて、しかもあさひ坊を助けてくれるからな。
あとは、このおれが嬢ちゃんたちの気持ちに応えるだけだ。
「それじゃあ、嬢ちゃんたち! おれたちはもう行くぜ! 気を付けて帰るんだぞ! 行くぞ、相棒!」
「ああ」
おれは嬢ちゃんたちに別れを告げて、緑壱と共に突っ走る。
本当なら嬢ちゃんたちを家まで送り届けてやりてえし、あの変態野郎だってぶちのめさないといけねえ。
だが、それ以上に……あさひ坊を助けてやりたいって気持ちが、おれの中を満たしていた。
「待ってろよ、あさひ坊! おれが駆けつけてやるから、絶対に死ぬなよ!」
◆
「結華さん、夏葉さん……あたしたちで、このあさひさんって人を助けられませんかね?」
「気持ちはわかるけど、下手に口を出すのは危険よ。一歩間違えたら、283プロにも飛び火しちゃうわ」
「あうっ……ご、ごめんなさい……」
「……果穂ちゃんになっちゃん。なんだか、大変な事件がいっぱい起きちゃってるよね……事務所が休業になった中で、変なニュースもいっぱい出て……しかも、さくやんも行方不明になってるみたいだし……」
「あたしも心配です……咲耶さん、大丈夫でしょうか?」
「……咲耶のことも心配だけど、私たちはしばらく283プロに近付かない方がよさそうね……」
「……果穂ちゃん、なっちゃん。とりあえず、今はまっすぐ帰ろう? 風来坊さんも、三峰たちを心配してくれているしさ」
「そうね。せっかくのお休みに、3人のピクニックを台無しにされたけど……今は、私たちの身の安全が大事ですもの」
「……わかりました。今は、おでんさんとあさひさんの無事を、祈るしかないですね。ヒーローアイドルとして、あたしはおでんさんのことを応援します!」
【渋谷区・鍋島松濤公園付近/一日目・夕方】
【光月おでん@ONE PIECE】
[状態]:疲労(小)、右肩に刀傷(行動及び戦闘に支障なし)
[令呪]:残り3画
[装備]:なし
[道具]:二刀『天羽々斬』『閻魔』(いずれも布で包んで隠している)
[所持金]:数万円程度(手伝いや日雇いを繰り返してそれなりに稼いでいる)
[思考・状況]
基本方針:界聖杯―――その全貌、見極めさせてもらう。
0:あさひ坊を助けるために走る!
1:他の主従と接触し、その在り方を確かめたい。戦う意思を持つ相手ならば応じる。
2:界聖杯へと辿り着く術を探す。が――
3:何なんだあのセイバー(武蔵)! とんでもねェ女だな!!
4:あの変態野郎(クロサワ)は今度会った時にぶちのめしてやる!
[備考]
※
古手梨花&セイバー(宮本武蔵)の主従から、ライダー(
アシュレイ・ホライゾン)の計画について軽く聞きました。
【セイバー(継国縁壱)@鬼滅の刃】
[状態]:疲労(小)
[装備]:日輪刀
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:為すべきことを為す。
1:光月おでんに従う。
2:他の主従と対峙し、その在り方を見極める。
3:もしもこの直感が錯覚でないのなら。その時は。
[備考]
※鬼、ひいては
鬼舞辻無惨の存在を微弱ながら感じています。
気配を辿るようなことは出来ません。現状、単なる直感です。
◆
ボゴッ! という音を鳴らしながら、クロサワは地中から飛び出す。
スマホの地図アプリで場所を調べながら穴掘りをしていたため、人の気配が少ない場所に到着している。
別の場所に待機させた山ちゃんには連絡して、迎えに来させる。それまでは一ヶ所に隠れなければいけない。
「…………」
ただ、クロサワは危惧していた。
あと一歩で邪魔に現れた巨漢の男。奴は噂に聞く義侠の風来坊だ。
奴は聖杯戦争のマスターであり、完全適合者となったクロサワを圧倒する程の実力を持っていた。
途中で現れた侍は風来坊のサーヴァントだろう。二対一は分が悪く、これ以上戦闘を続けては皮下の任務を果たせない。
だからこそ、あの場は逃走するしかなかった。
「…………」
クロサワはメッセージアプリで皮下に連絡する。
義侠の風来坊と、彼が従えるサーヴァントには警戒するべきだと。
完全適合者となったクロサワですらも撤退を余儀なくされる実力だ。「虹花」のメンバーを全員ぶつけても、数の不利をひっくり返すだろう。
その情報を得ただけでも、大きな収穫と考えるしかない。
【備考】
※クロサワ@夜桜さんちの大作戦はドリルで穴を掘って逃走しました。どこに辿り着いたは不明です。
※クロサワは山ちゃん@夜桜さんちの大作戦に通話アプリで連絡を取っている最中です。
時系列順
投下順
最終更新:2021年10月08日 08:58