それは、人の皮を被った何者か共の戦いだった。
新宿御苑である。普段は絶えず人の往来が活発で、平日祝日と問わず、多くの人々の憩いの場となっているこの公園は今や、
夕の光を一身に浴びながら、己が怪物性を発揮する人間共の危険な戦場と化していた。
皮下の左手から延長する、黒光りする金属質の槍――黒陰石で構成されたそれが、凄い速度で大和へと殺到する。
槍の伸びる軌道上に、鋼色の獣毛を持った巨獣、ケルベロスが立ちはだかる。金属性質として比類ない剛性を秘めている筈のそれが、
ケルベロスの獣毛に触れた瞬間、まるで初めから脆い性質を授かった金属でもあるかの如く、ポッキリと圧し折れてしまった。
ケルベロスの頭上を、今まさに飛び越えようとする黒い影があった。
夜の闇を切り取った様なブラックのロングコートを着流す、銀髪の青年。
峰津院大和が、ケルベロスの背を蹴り、跳躍。
二十m程離れた皮下の下へと矢のようなスピードで向かって行き、メギドの魔力を纏わせた、胴回し回転蹴りを見舞おうとするも、
皮下は地面に対して腹這いになる事でこれを回避する。空中での回転蹴りを避けられ、今着地しようとしている大和。
この、隙となる瞬間を狙おうとする皮下だが、それが出来ない事を知った。真正面から、ダンプみたいな速度で此方に向かってくるケルベロスの姿を見たからだ。
グッと、両手を地面に合わせて、力を勢いよく込めて、跳躍。
腕の力だけで数m程の高さまで跳躍して、ケルベロスの吶喊を皮下は飛び越えた。
アオヌマの力を、宙を舞いながら皮下は開放。夏の夕闇が齎す、粘ついた湿り気を帯びた蒸し暑さ。それが、ゼロカンマ一秒経つごとに、信じられない速度で低下して行く。
33度、28度、21度、15度、8度、1度、-8度、-15度。気温の変化の速度が、自然界に存在するバランスを著しく無視している。
夏の気温から春の気温になったかと思いきや、一気に秋に下がり、冬になる。マウスのホイールで、適当にスクロールダウンして行って、
その数値が都度世界の気温になっているかのような、出鱈目な下がり幅だった。余りに急激に冷やされたせいか、地面には霜柱が生じ始め、御苑内部の池がスケートリンクの様に凍り始めていた。
今や気温は-40度。
瞳を開けていれば角膜が凍り付き、下手に呼吸すれば肺の中がシャーベットになる。
うっかり金属に触ろうものなら、皮膚とそれがくっついてしまい、皮膚がべろりと剥がれるのを覚悟しなければ離れられない事態になる位、過酷な環境だ。
その中にあって、大和も、勿論ケルベロスも、当然と言わんばかりにピンピンしていた。
大和の場合は、身体能力を向上させる強化魔術(カジャ)によって、身体機能を著しく向上させているからであり、ケルベロスの場合は、そもそもこの程度の気温では運動能力が損なわれすらしない。素で、平気なのである。
握っていた青いロングソード、
ベルゼバブの居た世界に於いて、『フェイトレス』と言う銘を与えられたその一振りを、空に浮かぶ皮下目掛けて振るう。
すると、如何なる不思議の業か。フェイトレスの剣身と寸分の狂いのない長さと大きさをした、剣状の鋭い氷塊が、皮下目掛けて弾丸に倍する速度で飛来していく。
表皮と筋肉を、黒陰石とさせ、その上で、腕を交差させて放たれた氷剣を防御。踏ん張りの効かない空中での防御だ、皮下の身体が、ピンボールの弾の様に素っ飛んでいく。
「逃がさん」
空中を吹っ飛んでいる皮下目掛けて、大和が追走を始めた。
ケルベロスも、主に追随する。空中を無力に舞いながら、彼らのスピードをザっと計算する。おおよそ、ケルベロスの方は時速200㎞程。
大和の方は時速120㎞程か。本気でのスピードかは知らないが、十分過ぎる程の速さだし、皮下の目から見ても、バケモノ染みたスピードだった。
「冗談じゃねぇっての」
皮下はアカイの持つ能力を発動。
人体など一瞬の内に黒焦げにさせるレベルの火炎を放出する能力だが、今回はその応用。
足元から炎を勢いよく噴出させ、これをスラスターの様に用い、空中を滑るように、素早く移動をする。
とは言え、かなり無茶な使い方なのか、姿勢の制御がかなり安定しない。それでも十分だ。迫る大和から距離をとりつつも、何とか地面に着地。
両手を地面に付き、四つん這いの体勢と言う、かなり無様で隙だらけなポーズ。ケルベロスが、この着地の隙を縫って猛速で皮下へと迫りくる。
皮下の周りを取り囲むように、直径にして十数m以上もある、巨大な炎の渦が蜷局を巻いた。
アカイの能力の、本来的な使い方だ。敵味方の区別なく、容赦なく相手を焼き尽くす、火力の面で言えば虹花の面々でも最強の力だ。
摂氏にして、千度を超すこの火炎の中を、ケルベロスは、一切怯む事無く突き進んできた。獣毛に、焦げなし。敵意だけが、昂るだけの結果に終わっただけだった。
「うっはマジかよコイツら、少しは強さに慎みって奴を持てっての!!」
こちとらアル中を超えたアル中の機嫌取りつつセコセコ戦力整えてんのに、どうなってんだよ峰津院財閥はよ~~~~~!!!!!!
と、ブチ切れの気持ちと、最早笑うしかない気持ちが同居して、色々と皮下はハイになって来る。
サーヴァントもバケモノならマスターもバケモノ、その上従えてるサーヴァントじゃない生き物もチート生物と来た!! 笑うっきゃねぇだろこんなの!!
やけっぱちになりながらも、皮下の頭は冴えていた。
右前脚を振りかぶったケルベロスを見て、サイドステップを刻み、距離をとる。石臼の様な大きさの前足が、地面と衝突する。
直径にして三十mを超えるすり鉢状の浅いクレーターが、草ごと焼け焦がさせた地面に刻まれた。攻撃の凄絶な威力に、新宿御苑の地面が、緩い振動と言う形で反応した。直撃していれば、黒陰石で強度を底上げした身体でも、粉々だった可能性もある。
サイドステップを終えたその場所に、今度は大和が迫って来た。
手にした氷の長剣、フェイトレスの間合いに入るや、直ぐにそれを肩と腕だけの力で、コンパクトに横薙ぎにして来た。狙いは、胴体。
これを皮下は受けない。スウェーバックの要領で回避する。大和が武器として信頼している以上、その切れ味は間違いなく、
夜桜の所の次男坊が開発している武器に迫るか、上回っていると見て良い。再生能力が皮下には備わっているとは言え、この剣は冷気を操る。細胞の活動を停止する程の冷気を纏わせて真っ二つにされてしまえば、流石の皮下も死ぬしかない。受ける選択肢は、あり得なかった。
――勝てねぇ~――
皮下は勝負を既に捨てていた。
アカイの能力もアオヌマの能力も効いている様子はなく、クロサワの能力も通用するかは怪しい。
アイの能力を駆使して身体能力を上げてはいるものの、簡単に追随されている。ミズキの毒なら通用するかもしれないが、攻撃に当たってくれないし、
そもそもケルベロスに毒が通用するかどうかも解らない。ギリシャ神話に於いて、トリカブトの花はヘラクレスによって冥府から地上に引きずり出された、ケルベロスの唾液が大地に滴った事を起源としている。あの犬には毒も信用出来ない。
確かにこの勝負、峰津院大和を殺す、と言う形での決着は、今の時点では殆ど不可能に近い。
得体の知れない力を振るう大和もそうだが、彼にしてもケルベロスにしても、余力を相当残している。底が知れない。
総合的に判断して、今の段階では大和達を相手に、苦い勝利は勿論の事、痛み分けに持ち込む事すら出来そうにない。
「考えている事は手に取るように解るぞ」
鋭い目線を皮下に投げ掛けながら、大和は言葉を言い放った。
「大方、私との勝負を避け、御苑を派手に破壊する攻撃を行って、
NPCの耳目を引くつもりなのだろう」
冴えてるな~こいつ、と皮下は感心する。
峰津院大和と言う参加者の最大の弱点は、峰津院財閥の当主と言う立場からくるその知名度だ。
元々、うら若き当主だとか言われていて注目度も高い上に、加えて隙の無いこの美形ぶりである。
イケメン当主だとか言って若年層からも持て囃されているし、良い意味でも悪い意味でも、大和の知名度はこの界聖杯内に於いて群を抜いている。
そのレベルでの超有名人、しかも各界にコネと権力を持つ大和が、今から無惨に破壊される新宿御苑の内部に一人でいたら、どうなるのか。
必然、NPCは勿論、聖杯戦争の参加者達の注目をも搔き集める事になる。下手をすれば、巷をお騒がせしている、神戸何某の一件を容易く上回るスキャンダルだ。
尤も大和の性格だ、NPCや他の有象無象の参加者が幾ら吠え立てた所で何の痛痒もなかろうし、情報の拡散にもメディアを操作して封殺してしまえる事だろう。
だが、時間は奪える。峰津院大和が、聖杯戦争に備えるための貴重な時間。それを、割く事が出来る。この点で、御苑を破壊するのは有用な作戦なのだ。
NPCが集まってしまえば、自動的に戦闘は中断せざるを得なくなる。……NPCが集まってるのにお構いなしに、彼らを巻き込んで破壊を行う手合いだった場合、いよいよデッドエンドになる訳だが、これはもう賭けなのだ。迷っている暇はない。
――……アレも気になるしよ~…………――
皮下には、この戦いを意地でも中断させたい理由があった。
新宿の夕空、炉の中にいるかのような橙色の空が広がる中で、ただ一点の空域だけ――魔界の空でも切り取って張り付けてみせたような、地獄の様相を見せているのである。
その空域だけ空の色は鳩の血の様に鮮やかに赤く染まっており、雲一つない夕空の中に在って其処だけに何故か積乱雲が立ち込めていて、稲妻を閃かせているのだ。
アレを初めて見た時、背中を嫌な汗がそれはもう伝ったものである。何せ位置相関的に言えば、あの空域の下には、皮下医院がある筈なのだ。
確実に、
カイドウとベルゼバブが、何かを仕出かしていると見るのが正しい。元々界聖杯の東京に気まぐれに現れては、時に地区すら破壊する勢いで戦う程、
カイドウと言うサーヴァントには常識が通用しない。そんな事をやらかしても、大目に見ていた――見るしかない、の方が正しい――が、今回ばかりは話が違う。
何せ今カイドウと戦っているのは、アレに勝るとも劣らない強さを誇る、規格外のサーヴァントなのだ。
あのレベルの強さのサーヴァントを、東京都に現出させて、戦わせれば如何なる。
地獄と言う言葉が意味するものが、成就するに決まっている。この再現された東京が滅ぼうが別に知った事ではないが、この段階で悪目立ちし、
全ての主従に一斉に叩かれると言う事態は流石に避けたい。大和並に強いマスターの存在を否定出来ない以上、全てが敵に回った時本当に危険なのはカイドウではなく皮下だ。
何はともあれ、この場から退散し、大和を撒きつつ、病院の無事を確認した後、別のアジトに避難する必要がある。難度は高いが、やるしか道は残されていなかった。
こういう時、頼りになるのはアカイの力である。
心を昂らせると、彼女自身ですら制御出来ないレベルの猛炎を発生させてしまい、敵味方の区別なく焼き尽くしてしまうピーキーな力だが、
周りに一切味方がおらず、誰も気に留める事無く破壊を振り撒いて良いとなると、これ程便利な力もない。
アカイの力を利用して、新宿御苑の一切を、灰だけが降り積もる、憩いの場とは無縁の地へと変えてやる。そう思い、力を発露させようとしたその時であった。
――――――――天地が逆しまになり、遥かな天蓋から巨山の一つでも地上に落下して来たような、激震と轟音が世界中に轟いたのは。
「何ッ……」
此処に来て初めて、大和の鉄面皮に驚愕の色が浮かび上がった。
皮下の視界には、あの大物に驚きの念を隠し得させなかった現象の正体が見えなかった。大和の目線の先、つまり、皮下の背後でその現象は起こっているのだろう。
今がチャンス、俺ってラッキー☆ ……そんな事を思う皮下ではなかった。そう言う気持ちも、確かにある。5%位の割合で。
残りの95%は、自分の背後で何が起こったのか、確認するのを心底厭う、ゲンナリとした気持ちであった。
「畜生、あのアル中総督がよぉ!! お恵み感謝するぜクソッタレが!!」
殆ど、ヤケクソそのものの勢いでアカイの能力を発動。
燃焼と言うよりは、最早爆発とも言うべき紅蓮の華が、御苑全体を包み込んだ。
――皮下本人の思惑とは裏腹に、NPC達の目はこの爆発よりも、それ以前に起こった激震と轟音の方に向いていた事に気づくのは、果たして、何時の事になるのやら。
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それを出した、と言う事は、然るべき実力の者が見た場合、カイドウは間違いなく本気を出していたという事が一目で分かる。
百万人に一人、授かって産まれるか否かと言う天性の才覚、可視化されるカリスマ――覇王色の覇気。
その時代に於いて突出した傑物である事の証明である、この覇気を扱える者達ですら、生涯通して、覇王色の覇気を『身体に纏える』事を知らなかったと言う事例は珍しくない。
そして、知っていてもこれを実践出来る者は、もっと少ない。覇王色を扱えるようになる事すら、努力や気持ちでは如何にもならない、才能の領分であると言うのに、これを纏えるようになるには其処から更にそれ以上の才能と、経験が必要になるのだ。単純には覇王色を扱えると言っても、此処までの格差が厳然として存在する。
覇王色の覇気を纏わせた金棒を、鋼の翼で迎撃した瞬間、ベルゼバブは斜め上方向に、サッカーボールで蹴り上げたような勢いで吹っ飛ばされた。
インパクトの瞬間に、力負けないように踏ん張ったが、そんな努力を一笑するようなレベルで、一方的に、ベルゼバブの巨体は跳ね飛ばされたのだ。
その速度は、音。音速で吹っ飛ばされているにもかかわらず、大気摩擦にも、掛かる重力にも、ベルゼバブは平然としている。
音速移動に耐え得る身体を誇りながら――カイドウの一撃には、ダメージを強く受けていた。直撃した訳じゃないのに、この威力。
衝撃は胴体を強く打ち叩き、骨と内臓に強く鋭く響いた。衝撃が届く前に身体を微妙に半身にして、威力をある程度損なっていなければ、骨にひびが入っていた可能性が高かった。
ベルゼバブが1000m程上空まで吹っ飛ばされたその時、凄まじい速度で何かが此方に向かって来ているのを、彼は直接目視した。
それを見た時ベルゼバブは、巨大な青い長城が迫ってきている風に見えた。或いは、紺碧の津波が押し寄せて来るようにも、見えた。
――それが、全長にして数百mもあろうかと言う、青い鱗を隈なくビッシリと生え揃えさせた、巨龍であった事を。ベルゼバブが理解したのは、間もなく直ぐの事であった。
そしてその青き龍が、タブレットで見た動画に映っていた、東京都に甚大な破壊を齎していた存在と同一の者である事も、合わせて理解した。
「丁度良い、探す手間が省けた」
元よりあの青龍は、殺す対象としてマークしていた。
理由は単純明快。学術的な興味によるものだ。ドラゴンの身体には、不思議な力が宿っていて、その力の恩恵に与った様々なものが存在し、語り継がれている。
龍の血を浴び無類無敵、一国の軍隊をたった一人で退ける戦士がいる。炙って喰らえば、魚獣禽鳥の言葉を聞き分けられると言う竜の心臓の存在が伝説として口伝されている。
そして、龍の骨や腱などを用いて作られる、神すら恐れ戦く魔性の武具。その武器は時に世界に災禍を齎す呪具扱いされ、時には平和の福音を約束する神器としても語られる。
目の前のドラゴンを殺した暁には、何が得られるのか。単純に興味があったのだ。
その肉を喰らえば、今よりも強くなれるのか。骨や牙から作られる武器は、己の振るう鋼の翼に近い働きを見せてくれるのか。興味は尽きない。
殺してみる、価値はある。ベルゼバブは、カイドウの事をそういう目でみていたのである。
吹っ飛びながら、一瞬だけ身体を屈ませたベルゼバブ。
グッと身体を伸ばし、その動作と同時に鋼の翼を羽ばたかせた、瞬間。爆発的な速度で、ベルゼバブは一気に上空へと飛翔する。マッハ、3。これを超える速度だった。
その速度で飛翔するベルゼバブを見たカイドウは、翔駆する為に用いている、身体に纏わせた嵐。
この嵐を爆発させるように吹き荒ばせ、その力を推進力にしてロケットの様に移動させている訳だが、その力を更に高めさせた。
速度が上がる。時速700㎞が、一気に1400㎞にまで跳ね上がった。異常な程の加速力だった。
物理的な制約の下で生きてゆかねばならない生き物が、生身で出せる遥か限界の速度での移動。
そして、有質量が数十㎏を越すもの達が、音速を超えるスピードで動いた結果、鬼ヶ島の象徴である髑髏のドームにまで、その衝撃波が届いた。
鬼の頭蓋骨を模した岩のドーム、その頭頂部の実に8割近くが、ソニックブームを叩き付けられて瞬時に崩壊。その瓦礫が、千mを容易く超える高高度まで巻き上がった。
大地に類する部分にまでその衝撃波は及び、まるで研がれたナイフで上等な肉に切れ目でも入れるような容易さで、大地に亀裂を無数に生じさせる。
『それだけで』済んだのであれば、どれだけ良かったか。
鬼ヶ島、と言う宝具は、幾度も説明されている通り、今この時点では『完成形』ではない。
この宝具が真に完成と呼べる段階に至る瞬間とは、潤沢な魔力を確保した上で、現実世界にその存在を流出させた時に他ならない。
今この瞬間、つまり、異次元に格納している段階の鬼ヶ島とは、島の耐久度の面ではともかくとして、現実世界に影響を及ぼせるか、と言う『概念的な実存力』については脆弱なのである。
結論から言えば、ベルゼバブとカイドウの度重なる、時空にすら影響を与える戦いの規模に、とうとう、鬼ヶ島を隠蔽する異次元の方が限界を迎えた。
何処までも飛翔しようとしていたベルゼバブとカイドウ、その進路上に巨大な空間の裂け目が生じた。いや、現れたのはその一点だけじゃない。
鬼ヶ島の在る異空間の空、その至る所に裂け目が生じたのだ。裂け目の大きさや形も様々なら、それ自体が生じている高度も一様ではない。バラバラだった。
裂け目の数は加速的に生じて行き、遂には、断裂と断裂の間にまた断裂が生じて、それらが繋がり合って一つの巨大な『孔』となってしまった場所もあるぐらいだった。
これがそのまま、鬼ヶ島全体に広がってしまえば、この場にいる全ての面々は、異空間だとか、虚数空間だとか呼ばれる、とにかく、
数学的に限りなく『無』に近い場所に放逐され数十万分の一秒の時間で消滅する所であったが――その危機は、当面、回避される運びとなった。
ベルゼバブと、龍体になったカイドウが裂け目に突っ込み、鬼ヶ島から姿を消した瞬間。
まるで揺り戻しの様に、あらゆる裂け目が消えて行ったからであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
――202■年8月1日午後0■時■7分35秒、東京都新宿区新宿3-24-3、新宿アルタ前に鋼翼のランサー出現。
以下、その挙動記録。
202■年8月1日午後0■時■7分35秒、都道430号線の交差点、その道路中央に、物理的に大地に生じている物ではない、トリックアートのように見える断裂が出現。
断裂からランサー、マッハ2.8で飛翔。断裂の出現地点を中心とした直径300m圏内に、音速の移動による衝撃波発生。
同範囲内において活動していた市民、衝撃波の被災を確認。
以下当該衝撃波による死者。
趙 磊 依田雄二 堀口昇 嶋秋江 谷口恵梨香 瀬谷弘 高橋伊和理 木野村英子 湯淺悠子 須々木かなめ 永瀬奈美恵 小澤宗一郎
冨田栄作 菊池旭希 石橋茜 竹本妙 吉井玄乃介 柏野紫鶴 米田定家 木原篤郎 岩崎慎斗 田行陽大 金籠亮太郎 菅屋悠燈
倉堂花音 杉本友子 津留田友貴子 神代伊佐那 武藤祥太郎 今泉ちなみ 妹尾香乃 金山小鳥 興田正三 上之郷雄一 矢島美奈
北埋川大地 溝口敬治郎 森本愛澄 シギスマンド・ブランドン サラ・ティリャード ブラッド・ピット 磯村健児 相良育子
江添二一 田淵里栄子 若原希久子 刘红梅 コーディー・キャルヴィン・ボルコフ 土山竜太 堅井律 赤峯五郎 大極朝葵
青山一弘 野方藤吾郎 石間佐織 フォスティンヌ・シェロン アレクサンドル・マリヴォー 三星太陽 マルセリーノ・エスパルサ・グリン
杉浦佑佳子 木村健誠 入福百 安野雲 千葉央 木村健誠 李 豪 柿本智恵子 松島千咲 公由喜一郎 周 建文
以上70名、『死体が確認出来かつ身元が特定出来ている者』。この条件に当てはまらない場合の死亡者数、身元の判別の為のあらゆる方法が通用しない程の死に方の為、測定不能。
また、断裂から直径150m圏内に建造されていた建造物及び鉄道路線、都道を走行中の車両、同衝撃波に直撃、被災。
建造物の倒壊及び、新宿駅に停車及び同地点を通過しようとしていた各路線の車両並びに都道430号線を走行していた車両の破壊及び爆発に巻き込まれた死者及び死傷者数、■千名超。
202■年8月1日午後0■時■7分36秒、東京都新宿区新宿7-27、都道305号線と都道433号線の合流地点の交差点に、龍人のライダー出現。
以下、その挙動記録。
202■年8月1日午後0■時■7分36秒、都道430号線の交差点、その道路中央に、物理的に大地に生じている物ではない、トリックアートのように見える断裂が出現。
断裂から、ライダー。マッハ1.3の速度で上昇。断裂の出現地点を中心とした直径400m圏内に、音速の移動による衝撃波発生。
同範囲内において活動していた市民、衝撃波の被災及びライダーの長大な巨躯との衝突確認。
以下当該衝撃波、衝突事故による死者。
浅田周三 パク・ドンウク キム・ジュンムン 東出誠児 木久真悟 鷲見かおり 吉澤敏子 高 云龙 吴 正南 チョン・ソンフン
小野田円 永谷桜花 松藤諒成 九条榛士 九条御先 加古佳和 石村もとみ 光崎猪助 片山准子 パク・メイスン クインシー・J・メイヤー
秋丸康成 石郷岡秋斗 和泉綴 チャ・ビョンチャン ジョン・バロン・ホロウェイ 秋江譲 久米五鈴 赤尾ゆう子 浦川香里 中込千冬
キム・ヘジン 周 佩君 畑純一 青山浩伸 金川真穂 白木孝秀 本多美幸 丹後康弘 丹後奈美恵 小幡銀二 杉田卓 ハンス・フォン・カールス
キム・ミヌ ユ・ヨンファ バーディ・ウォンイル 外山佳和 小早川敏宏 福永萩之助 亀井文恵 立和名小雪 ジョナサン・J・ブレイズ
以上52名、『死体が確認出来かつ身元が特定出来ている者』。この条件に当てはまらない場合の死亡者数、身元の判別の為のあらゆる方法が通用しない程の死に方の為、測定不能。
また、断裂から直径200m圏内に建造されていた建造物及び鉄道路線、都道を走行中の車両、同衝撃波に直撃、被災。
建造物の倒壊及び、新大久保周辺の商店街の破壊及び爆発に巻き込まれた死者及び死傷者数、■千名超。
202■年8月1日午後0■時■7分37秒。
ライダー、新宿区上空1762m地点に到達。高度2088m上空を浮遊していたランサー、ライダーの存在を確認。
以降の挙動、両名を包み込むように発生した、直径2㎞を超えるスーパーセルにより、解析不能。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
カイドウにとっての急務とは、ベルゼバブをとにかく、鬼ヶ島から追い出す事にあった。
自分の宝具の事だ、良く分かっている。鬼ヶ島のあちらこちらで空間の裂け目が生じた瞬間、放っておけば本当に鬼ヶ島は虚数空間に還る。
その事を認識したカイドウは、先ず、覇王色の覇気を纏わせた一撃でベルゼバブを弾き飛ばし、外界に叩き出そうとしたが、その時、カイドウが鬼ヶ島に籠っていたままでは、
このランサーは再び、その奇天烈な力を用いて鬼ヶ島内界に討ち入りに来るであろう事は容易に想像出来た。
ために、カイドウは、吹っ飛ばされたベルゼバブを追跡する方向を採用した。即ち、悪魔の実の中では突出して珍しい、自発的に空を飛べるウオウオの実モデル青龍。
その力を解放して自らを長大な龍の姿に変じさせ、飛翔、ベルゼバブに追撃を仕掛けるのと同時に、彼の興味を鬼ヶ島から、巨龍に変身した自分に移させたのだ。
概ね、カイドウの狙いは達成された事になるが、いくつかの大きな誤算があった。
一つ目は、カイドウやベルゼバブが外界に出るに至ったあの空間の裂け目は、言うまでもなくカイドウが自発的に生じさせたポータルではない。
この両名の、想像を絶する規模のぶつかり合いによって生じた、時空間と因果律の断末魔のような現象であり、鬼ヶ島の崩壊一歩手前を知らせるサインであった事。
二つ目は、二名が登場した場所。そもそも皮下病院がある場所自体、新宿区と言う日本どころかアジア全体を見渡しても屈指の歓楽街だ。
人のいない、目立たない場所など存在するべくもないのだが、それでも、カイドウとしては自身が戦いやすいよう、多少人の少ない場所を選んだつもりなのだ。
その結果は、見ての通り、ベルゼバブは新宿アルタ前、カイドウの方は新大久保周辺と、見事なまでに人も建物も密集している地域である。結果として、彼らの登場、それによって生じたソニックブームや、音速越えの速度で移動する彼ら自身との衝突によって、実に1万を超す都民が死亡する事になった。
そして何よりも最大の誤算は――この空である。
誰もが心の内で思っている、地獄と言う概念の類型、雛形。地獄とはこうなのだろう、こんな場所なのだろう。
そのような、不変無意識のうちに蟠っていたイメージの一つが点と線を結び、遂に、この世に成就してしまったのかとカイドウは思った。
まだ星々の王である所の太陽の威光が、夕の残光となって世界に橙の色を落としている、その時間に在って、天の神の流した血がそのまま反映されているような、この赤い空は、何事だ。
怪異の存在、悪魔の名残が絶えて久しいこの現代。空がこれでは、悪魔が徒党を組み妖怪共が百鬼夜行の列を作りながら、今にも往来を闊歩しそうな終末的な光景であった。
この空が、異常なものである事はカイドウにだって解る。
時間的に言えば今は夕方に相当する時である為、空が赤いのは、確かにそれは正しい。問題は――赤すぎる、と言う事であった。
夕焼け空の橙色では最早なく、人の血をそのままぶちまけた様に空の色が赤く、その上に、雷雨を孕んだ分厚い山脈のような積乱雲が無数に横たわっていた。
その積乱雲にしても、白とか黒とか灰色とかの常識的な色ではなく、鮮やかな赤色をした、自然界ではありえない色味の雲山であった。
極めつけに、その空が『何処までも広がっていない』と言う事実こそが、この事態の異常性を如実に物語る重大な要素だった。
カイドウを中心として、おおよそ直径3㎞の空『のみ』が、今言ったような異常事態に見舞われているのであって、その範囲外。
つまり、その3㎞を超えたその先の空は、『いつも通りの有り触れた東京の夕空』なのだ。
空を一枚の巨大な布としてとらえた場合、まるでこの異常な空の様子は、一点のシミのようだった。橙色の夕焼け色の中に在って、一点だけ赤い絵の具を溶いた色水でも落としたかのように、おかしさが浮き彫りになった空だった。
四皇と言う、世界中に於いて比類なきレベルの実力者の覇気は、自らの身体のみに影響を及ぼす、と言う次元を超える。
つまりは、自らの意志力と体内に溜められた活力を放出すれば、外界に影響が出てくるのだ。とは言え、それ自体は珍しい事ではない。
覇王色の覇気を会得した者であれば、その覇気に当てられた者は、意志力に秀でて居なければ気を失い、意識を持っていかれる、と言う事は実力者の間ではよく知られている事だ。
四皇の場合は、別格。外部に影響を与える、と言う事象の極地。天候すら玩具の様に変えて行ってしまう程なのだ。
生前に於いても、四皇レベルの実力者同士の衝突は、比喩を抜きに空を割り、海を逆巻かせ、嵐を渦巻かせる規模の異常気象を見舞わせてしまい、このせいで、人知れぬ場所で戦うと言う事が最早困難になってしまうほどだった。
だが、如何な四皇、或いはそのレベルの強さを持った猛者とのぶつかり合いとは言え、カイドウを以てしても、
まるで何処かのカルトの終末論が説いているようなこの異常気象については、前例の覚えがない程であった。
むべなるかな、これは世界に影響を齎す程の四皇の覇気と、世界の因果にエラーを生じさせるベルゼバブの『特異点』スキルがぶつかり合った結果の故だった。
世界が世界として成立する為に必要な諸々の要素。それこそ、物理的な事柄は勿論、概念・形而上学的な観念に至るまでの、言わば理(ことわり)。
これに狂いを生じさせるベルゼバブの特異性は、まさに世界に於けるバグそのものと言っても過言ではない、まさに歪みの体現者とすらも言える。
特異点とはとどのつまりは、存在するだけでこの世の流れ、とも言うべきものを良い方にも悪い方にも加速させる、『ハイエンド/エラー』。
人間世界の行く末を決めるコンパスの磁針を狂わせる磁石であり、天外から落ちて来た隕石のようなものである。
この意味では、規格外の覇気、即ち意志の力を持つカイドウは、特異点とも換言して良い存在に近いのだろう。彼の存在は生前、人、もの、国、あらゆるものの歴史を歪めさせてきたのだから。
故に、ベルゼバブもカイドウも、読めない。自分らがぶつかり合えばどうなってしまうのか。
特異点そのものと言うべきベルゼバブと、それに限りなく近い意志と肉体的な力を持つカイドウが衝突してしまえば、どうなるのか?
その結果が、これになる。空はあるべき色を失い、悲鳴を上げているかのような色に転じて行き、空に浮かぶ赤い雲はまるで腸がゾロリと暖簾の如く垂れさがっているようだ。
電波の類は散逸し携帯電話は役に立たず、計器(メーター)の類はあるべき値を示さない。ある場所の水たまり突如として沸騰を初め、100度を超えても気体にならず、
300度の超高温になってもなお真水の状態を維持。またある場所の水道の水は雪国の極低温に晒されたように凍結してしまい、水道管を破裂させてしまう。
まるでこの世ならざる、語る事すら憚られる恐るべき神格の来臨めいたこの光景が、ベルゼバブとカイドウが鬼ヶ島の異空間で戦っていた、
その余波で引き起こされていた事を、カイドウは察した。だが、この光景の範囲が、『二人が現世に登場した瞬間爆発的に広がった』事までは、流石に知らなかった。
皮下医院が立てられていたエリアだけの影響に、元々は過ぎなかったのである。元から、これだけの範囲で引き起こされていたのだとカイドウは思っていた。
実態は全く違う。二つの特異点が正真正銘、現実世界にやって来たのだ。異次元にいてなお現世に影響を及ぼす化物が、現世そのものに出てくれば、その範囲も、異常の密度も深刻さも跳ね上がる。当たり前の話なのだ、これは。
「ウォロロロロ……!! 良いじゃねぇか、こういう演出は悪くねぇぞ」
カイドウは、この空を気に入った。
青空の下での大戦争、と言うのも乙なものだ。空高く、雲一つなく、あるのはただ、青い敷板でも敷いたような蒼天の中にポッカリと空いた白い光の穴のような、太陽のみ。
庶民であれば、洗濯日和、買い物日和、釣り日和。ハイキングにもうってつけかも知れない。そんな空の下で、人の命など羽毛一枚ほどの重みもない戦争を行うのだ。
そのアンビバレンツさ。カイドウはそう言った点に、美学と言う物を感じ取る男でもあった。
だが、この空模様も悪くない。
冥府・魔界の類が成就したようなこの空の下で、次々と命を刈り取って行くのもまた、雰囲気が良い。
この空の下で人を殺せば、人の魂は何処に逝くのか? 元より地獄か、死後の世界か、その一端が成就したような空の色である。此処で死ねば人の魂は、現世に残るのかも知れない。
どちらにしても、この混沌の度合いは、良いものだ。……出来ればこの空の下で、十全の鬼ヶ島が展開出来ていれば、なおよかったのだが……。
「大悪党が死ぬには、何とも良い感じで、映えるんじゃねぇか? えぇ、ランサー」
其処まで言うや、カイドウは己の青龍としての能力を発動させ、己の周りを取り囲むように、分厚い鉛色の雲の渦を形成させる。
俗に、スーパーセルと呼ばれる極めて強い嵐の大塊だ。青龍状態であればこのようなもの幾らでも創れるし、これを地上に顕現させようものなら、
鉄筋コンクリートのビルであろうとも、粉々に粉砕され、基礎一つ残らないであろう。そのレベルの強風と稲妻、そして雹とが、内部で荒れ狂っていて、地上にも、これをおまけと言わんばかりに降り注がせていた。稲妻が地上目掛けて閃く。車両のルーフに落雷し、そのまま車が、爆発した。
「羽虫にくれてやるには惜しい空だ」
鳥は勿論、猛禽、果てはVTOLの類ですら姿勢の制御など不可能な嵐の中に在って、ベルゼバブは腕を組みながら、泰然自若。
全てを見下すような目つきでカイドウを睨めつけ、驕り高ぶりも甚だしい語気と態度で言って退ける。カマイタチ、稲妻、雹に大雨。それらが混然となって渦巻き、人の声など蚊の鳴く音以下にしか聞こえないこの嵐の中で、この二名如何にして声を届かせているのか。
「最後の最後まで口の減らねぇ野郎よ」
カイドウはその口腔をめいいっぱい押し広げさせ、其処に、膨大な熱量を収束させて行く。
大口を開けたカイドウの口内。その中に、まるで恒星のような焔の塊が鎮座し始めた。この嵐の中、何処にこれだけの熱源を生み出すだけのエネルギーが、存在すると言うのか。
それを受けてベルゼバブは、右腕を高々と掲げ初める。上に向けた掌に、数万分の一秒以下の速度で、ボーリング球程の大きさの、紅色の球体が現れ始めた。
大きさは、カイドウが溜めているその熱源よりも大分小さい。カイドウが溜めている、熱源、即ち、熱息(ボロブレス)の卵の、一千分の一程に過ぎなかろう。
だが――エネルギー量は互角。カイドウは、ベルゼバブが溜めている魔力が炸裂した時の威力は、今の熱息と同じ威力。
しかも、彼の場合はそのエネルギーの上昇に終わりを見せない。際限なく上がり続けていた。つまり、まだこの技のチャージ段階は途中に過ぎないと言う事。
今この段階の収束段階ですら、地上でこの魔力塊を叩きつければ、新宿一区程度の範囲は忽ち草一本と残らないだろう。
――だからこそカイドウは、ベルゼバブの放つ技が完成を迎えるそれまでに、不意を打ったのだ。
「熱息!!」
火を吹く龍、と言うのは普遍的なイメージであろうが、カイドウの吐く炎は、最早巨大なレーザー。
レーザーの射線上に存在する、雹や雨粒、雲に稲妻は、カイドウの放った熱息に触れた瞬間現象としての形を保てず、蒸発、消滅してしまった。
これが、人間の身体に触れようものなら、齎される結末は死以外の何物でもない。この技が放たれれば、只人は死ぬ。直撃する必要性すらない。
掠っただけで身体は灰すら残らず瞬時に消え失せるであろうし、余りの高温の為周囲の気温も爆発的に上昇、レーザーに触れてなくとも皮膚や筋肉が沸騰するように泡を立ててしまい、苦悶の内に死に至る。
これをベルゼバブは、冷静に、迎え撃った。地図を書き換える必要すら生じる程の一撃に対し、迎え撃つのは、腕一本。
「ケイオス・レギオン!!」
叫びながら、腕を振るってエネルギー球を叩きつけるベルゼバブ。両名が具象化させたエネルギーがぶつかり合った。
――激発。爆轟。熱波。轟音。衝撃波。猛風。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「馬鹿め……派手に目立ちおって」
ベルゼバブとカイドウらが戦っている所から、二千m以上離れているにもかかわらず、十m以内の距離でダイナマイトでも炸裂させたかのような轟音を、大和は聞いた。
そしてその後に、ロングコートをはためかせる程の突風が、大和の身体に叩き付けられる。姿勢が、崩れない。常人ならば立っていられない風速であったにも関わらず。
青い龍王の姿を大和が認識したその後には、既にベルゼバブもカイドウも、スーパーセルの内部に呑まれてしまい、全く姿が見えなくなっていた。
二人の戦いの行く末はもう確認しようがないが、それでもわかる事は一つ。彼らの出現によって、甚大な被害が新宿に齎されてしまった、と言う事。
最早確認しないでも解る。カイドウらが戦っている所とは別の場所、その至る所で建造物の崩落音と、ガス爆発のような爆音が聞こえて来るからだ。
その、スーパーセルが既に消えていた。
あの嵐の中でカイドウとベルゼバブが、如何なるやり取りをしていたのか、大和には解らない。
ただ、あれだけの規模の大嵐が、まるで突風に払われる霧か煙の様に、雲散霧消。跡形もなく、消滅してしまった。
派手にやってくれたな、と歯噛みする一方で、これも仕方のない経費であると割り切ってもいた。
あのライダーは……カイドウは、強い。恐らくこの聖杯戦争中、あのライダー以上に強い存在など、存在すらしなかろう、と言う確信すらある。
あれなるは、此度の聖杯戦争に於いての最強のサーヴァント。ハイエンド中のハイエンドであり、トップメタとして君臨する覇王であろう。
アレを殺せるのなら、聖杯戦争も大分楽になる。NPC1万人程度の犠牲で、カイドウを殺せるなら、破格の取引である。
そうと思ったからこそ大和は、新宿御苑と言う霊地一つを破却、一つの巨大な魔力リソースとして、パスを通じてベルゼバブにくれてやったのだ。
霊地、と言うのは魔力のプールする土地であり、新しい魔力を生み出す為のシステムそのもの。大和はこの東京中に、幾つもその霊地を生み出し、
峰津院財閥に何かしらの名目を以てその土地を管理させていた。この一つを、大和は完全に消費した。
即ち、新宿御苑に溜められた魔力と、『魔力を生み出すと言う霊地としての機能をもひっくるめて魔力に変換』させ、ベルゼバブがカイドウを倒す助けとして与えたのだ。
これにより、新宿御苑は最早霊地としての機能を一切見込めなくなった。魔力の搾りかす一つ、残っていない。逆さに振っても何も出てこなければ、叩いて埃すら最早出ない。
一から作り直せば、霊地としての使用に耐え得るだろうが、それが出来るようになるには大和レベルの才能を以てしても、最速で数か月だ。聖杯戦争が終わるであろう期間を考えれば、最早霊地にはなりえない。
決して安くない犠牲を払ったにも関わらず――カイドウを、仕留められてない。
その事が、大和には手に取るように解った。確かに、カイドウの魔力の反応も、暴力的とすら言えるあの覇気も、消滅している。
しかしそれは、生命活動の停止に伴って消えたのではなく、『移動に伴う消滅』だ。より言えば、空間転移、ワープの類で、その場から消えて居なくなったから消滅したに過ぎないのだ。
「皮下め、令呪を切ったな」
この場から逃げおおせた、憎らしい男。
自分とは異なる、不愉快な形での平等の理想を叶えようとする道化の名を、大和は忌々し気に口にする。
燃焼を飛び越えて、爆発とも言うべき熱波と炎の暴力の中を、大和は難なく生き残っていた。
芝生は燃え尽き、樹木は炭化し地面に圧し折れ倒れていて、池の水は余す事無く全て蒸発し切っていた。憩いの地、としての面影は最早ない。
ケルベロスを盾にしつつ、炎による害意を無効化する術式を編み上げ、その場をやり過ごす。難しい事はしていない。
たったそれだけの工程で、堅牢な要塞にすら致命的なダメージを与えうる焔の一撃を防ぎ切ったのだった。
皮下とて、あの程度で大和を殺しきれるとは露も思っていないだろう。
アレは本当に、攪乱の為の一撃。大和をその場に留め置かせ、遠くに逃げる為の策だ。
そしてそれは事実、功を奏している。但しそれは、皮下の作戦がスマートだったからではない。凄まじい破壊と被害を振りまきながら新宿に現れたベルゼバブとカイドウ。
彼らをどうやって処理しようか考えていた、その一瞬の空隙を奇跡的に縫えたからに他ならない。間違っても、皮下はクールでもクレバーでもない。
その証拠に、去り際の皮下の顔は、慌てたような表情だった。これは、大和の追跡に焦っているのではない。自分が手綱を握っている、あのライダーの事を思っての事だろう。なんて事はない、皮下にしても、カイドウが何をしでかすか解らないから、心配だったのである。その点については、大和も理解出来る。大和が従えるサーヴァントも、人の言う事を聞く手合いではないからだ。
恐らく何処かで、皮下は令呪を使った。
命令内容は大方、『龍の姿から人間に戻った上で自分の所に戻ってこい』、と言う所だろう。そうでなければ大和とベルゼバブは撒けない。
鬼ヶ島に招かれた事で分かった事がある。あの宝具はまだ完成の中途だ。魔力、兵力。それらを全て十全に整えた上で、地上に出現させる運用をせねばならないのあろう。
カイドウは単体でも恐るべき強さだが、鬼ヶ島完成の暁には、あの内部にいた恐るべき戦士達が東京に大挙するのだろう。ゾッとしない話だ。
今それをしない理由は、単純に、皮下があの宝具の使用に耐えられるだけの魔力を持っていないからだろう。だからこそカイドウは、大和相手に霊地の分割を提案したのだ。
元より大和は霊地の分割など誰であっても提案もしないが、あの主従のアキレス腱を、早々に見抜いていた大和は、この観点があったからこそ断ったと言う一面もある。
恐らくベルゼバブは、鬼ヶ島に甚大な被害を与えている。
カイドウを殺せなかったのは惜しいが、実質的に、戦略的には此方が勝利したと言うべきだろうと大和は解釈した。
この解釈が正しければ、皮下達は、大幅なタイムロスを強いられる形になるだろう。破壊された鬼ヶ島の復旧だけじゃない。
誰の目にも明らかな形で被害を振りまき、悪目立ちもしてしまった為に、潜伏と言う形もとるだろう事が予測される。
そうはさせない。
弱り目には、祟り目を与えてやるのが峰津院大和だ。石の下の虫がどれだけ蠢こうが、大和は普通気にしないが、皮下とカイドウを小虫と判断するのは、余りに愚かだ。
危険過ぎる。陣地にダメージを受けた今だからこそ、叩く必要がある。とは言え、今この状況で深追いするのは危険だ。
大和には、峰津院財閥と言う、権力と金の面で言えば無敵に近いロールがある。これを有効活用しない手はなかろう。
アレを追い詰める手筈を考えながら、大和は、懐に忍ばせていた、ベルゼバブの鋼鉄の翼から抜かれた羽の一枚を取り出す。
この羽を、白く輝く長槍に変化させた大和は、天空に向かって、光の筋を一本、穂先から射出させた。
狼煙のようなものだ。この光の筋を矢印に、向かって来いと。事前に、ベルゼバブとは打ち合わせている。此方に向かってくるのは、時間の問題だろう。
周囲を警戒させる為に、召喚したままにしていたケルベロスが、唸り声をあげた。
姿勢を低くし、周囲を警戒している。その様子を見て、大和は、回路に魔力を走らせ、一言、こう口にした。『テトラカーン』。
背後から、可視化された三日月状の力場めいたものが、高速で飛来してくる。
狙いは勿論、大和ただ一人のみ。ケルベロスがそれに反応し、火炎を吐き出した。力場、或いは、エネルギーとも形容するべきそれが、ケルベロスの炎に呑まれ消滅。
頭上からも、同じような力が降り注ぐ。だが、一度見た攻撃だ。大和の頭は冴えている。手にしていたアストラルウェポン、ロンゴミニアドを振るい、エネルギーを破壊。
高度30m地点を飛翔する。金髪の男性。大和はこれを認めた。顔立ちは、日本人のそれではない。欧風だ。そして、若い。二十代前半か。どちらにしても、三十は超えていなかろう。
「小物が喧しい」
穂先から、光芒を射出する大和。
音に優に数倍するスピードで飛来するそれの速度に、空を飛ぶその男――
リップは反応出来なかった。
そのまま射線を移動し続ければ、頭蓋を射貫く。聖杯戦争の芳名帳から、一人の名が黒く塗り潰されるか? その運命に、待ったが掛かった。
「通行規制(アイン・ヴィーク)」
唐突に聞こえて来た、年端の行かない、少女の声。
その言葉と同時に、本来曲がる筈がない、一直線に進むしかないロンゴミニアドのレーザーが、ゴルフの素人の様なヘタクソなスライスの軌道を描いて、逸れて行く。
「流石にいるか」
空を飛翔するリップが、如何なるカラクリが内蔵されているのか。
西洋鎧で言う所のグリーヴに似た脚甲から噴出させているエネルギーを推進力に、器用に地面に降り立った。
リップの真正面に、まるで彼を守る様に、そのサーヴァントは現れた。守る様に、とは言ったが、姿を見れば笑止、である。
何せそのサーヴァントの姿は、中高生の少女どころか、小学生に近い年代の幼女そのもの。外見で年齢を判断するなら、10歳かそこらかも知れない。
寧ろ、背後のリップの体格の良さを思えば、彼女の方が寧ろ守られる側だろう。何と、弱弱しい姿か。――だが実際は全く違う。その黒髪の少女の身体から露出される機械の部品は、如実に、彼女が人間以外の何者かである事を、語らずとも雄弁に物語っていた。
「品のない山猿だ。何者だ、貴様ら」
ケルベロスに油断なく見張りを命じながら、大和はリップと、機械仕掛けのアーチャー――
シュヴィ・ドーラに対して、鋭く厳しい言葉を投げかけるのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
ベルゼバブの姿をカイドウや皮下が認識するよりも前。
つまり、峰津院大和が皮下医院の玄関に入って来た、その時点から、この主従の強さを正確に把握していたサーヴァントがいた。
それこそが、ほんの一時間前、皮下医院に襲撃を仕掛けるも、失敗を喫してしまい、結果としてカイドウらと同盟を組まざるを得なくなった不運な主従。即ち、リップと、シュヴィ・ドーラの二名に他ならない。
同盟と言っても、実際はカイドウの方が立場的に上である事は論を俟たない。
何せリップとシュヴィは、鬼ヶ島内界に事実上軟禁に近い形で待機させられている状態に等しく、滅多な事で外に出られない。
この上、カイドウ自身も桁違いの実力を秘めていて、隙を見て反旗を翻す事も出来ない。何せカイドウの強さは、全典開を開帳して漸く勝率が2割か、と言う化物のそれ。
恐らく、生前のスペックの話なら、シュヴィを起動停止に追い込ませた、天翼種(フリューゲル)のあの女性を上回る怪物の可能性が高い。とてもじゃないが、勝てる相手ではない。
結果として、雌伏の時を過ごしつつ、牙を磨いて待機していた事になるのだが――そんな折に、シュヴィは峰津院大和と、その近辺で霊体化している、衝撃的な怪物の姿を認識したのだ。
時空を隔てての解析、これ自体は珍しい話じゃない。難しい話でもない。
機凱種(エクスマキナ)――とりわけ、戦闘能力を排して、その排したブランクエリアに解析と計算機能を詰め込んだ、解析体(プリューファ)であるシュヴィならば。
時空と時空の裂け目に隠された秘密のエリアは勿論、異なる空間の内部から別の空間の内部にいる何者かの生体情報すら距離によっては計算が簡単に出来る。
鬼ヶ島の内部にいるからと言って、その外部の様子を全く窺えない訳ではないのだ。だからこそシュヴィは、鬼ヶ島内部の構造情報を集めると同時に、外部、つまり皮下医院の近辺の様子にも気を張っていた。
最初、その姿を見た時、シュヴィは、人間の形をした、人間以外のサーヴァントだと認識していた。
カイドウ。アレは、人間――にしてはサイズが規格外だが、世界観の違いだろう――であった。
人間ではあるが、後天的に会得した何らかの手段によって、その身体に龍精種(ドラゴニア)に似た何らかの生き物の因子を宿している、と言う事実をシュヴィは認識していた。
ベルゼバブは、全く解らない。
先ず、人の形をしているが、その身体の中に、天翼種に似た何らかの命を宿しているのと、幻想種(ファンタズマ)の突然変異種。即ち魔王に似た何かの命を宿しているのだ。
キメラ、と言う生き物がいる。乱暴な言い方をすれば、一つの生き物に複数の生き物の性質を付け加える人造生命体であるが、実際はそんな簡単に行くものではない。
生き物の身体には拒絶反応と言う仕組みが備わっており、要は異物を肉体的に付属させた場合、肉体が壮絶な痛みや病状を以てその異物を拒否するのである。
この拒絶反応があるからこそ、今日に至るまで臓器移植(ドナー)と呼ばれる技術は移植後も予断を許さぬ技術になっているのだ。
同じ人間の臓器ですら、これなのだ。人間と全く別の生き物の身体や性質を付け合わせて、無事で済む筈がない。それを思えば、カイドウも途方もなく異常な生命体なのだ。
異次元を隔てた解析の段階ですら、人間以外の生き物、しかも極めて高度な生命体の性質を二種類、それも全く異なる水と油と言っても良い性質の物を取り込んで、無事でいられる。尋常の生命体である筈がなかった。だからシュヴィは、峰津院大和が従えるこのサーヴァントは、人間の形をした人間以外の何かだと、本気で認識していたのである。
そして実際、ベルゼバブが鬼ヶ島に現れ、その姿を同一の次元で正確に観測し、認識がアップデートされた。
人間の形をした人間以外の何か、ではなく、『人間に近い超弩級の怪物の類』であると言う認識に。
先ず鬼ヶ島の内部に入る手段にしても、異常だった。無理やり空間に孔を生じさせ、その穴を思いっきり引き裂いて押し広げ、そのまま空間の裂け目に身を投げる。
そしてその状態から、鬼ヶ島の座標を探知し、空間転移を行ったのだ。原理は珍しくない。機凱種も良く使う、体系化され、技術化された空間航法。
彼女らの言葉で『一方通行(ウイン・ヴィーク)』と呼ばれる技術だが、これを行う為には勿論、これを行う為の武装が必要になるのだが、ベルゼバブはこれを『素手』でやっている。完全に、異常者の行動だった。
カイドウとベルゼバブの戦いは、被害が及ばないよう遠く離れた場所で、音と激震を感じているだけのリップが、『戦術核のぶつけ合いかよ……』と零す程壮絶なもの。
解析体として、この世の演算機器を全て超越して一笑に付す処理能力を持つシュヴィは、二人の戦いの様子を冷静に観測出来ていた。
後の星の環境の事など知った事ではない、地上の生命体が一切死に絶えても自分達の種族さえ生き残っていれば良い。
そんな究極のエゴの下に、あらゆる兵器の使用が許されていたあの大戦時の観点から考えて見てすら、この2名の戦闘能力は別格。
種族の代表になり得るだけの、規格外の実力を秘めている事は、諸々の攻撃の威力、そして移動スピードや攻撃に対応する反射神経からも明白だった。
そして、これだけの強さを発揮していながら、この2名はまだ余力を残している。音速を超える速度での移動と、音の8倍以上の速度での攻撃の応酬。
大地を叩き割り、岩山をも砂糖菓子のように崩す攻撃を乱発しておきながら、これですらまだ本気ではない、と言う事実。何れは乗り越えねばならない、高すぎる壁。シュヴィらの前途は暗かった。
リップもシュヴィも、カイドウと皮下の事を欠片程も信用していなかった。
カイドウの方は一言二言会話を交わしただけで解る、略奪者・アウトローの類。人間社会に生きて良い類の人物ではない。
思想、理念、夢。全てが全て、人間社会の通年通俗に反するそれだった。相容れられる筈がない。
皮下の方も、尤もらしい事を口にするペテン師だった。皮下がこの世界でも、そして元の世界でも、手足の指の本数では賄えない程の人数を殺して来ているのは間違いない。
人の人生を台無しにして来たその手で夢を掴むと誓い、何人もの人間の人生を魔道に誘ってきたその口で高邁な理想を語る。
皮下真は、リップとシュヴィから見れば、恥知らずの屑であった。
折を見て、カイドウを殺すか、或いは此処から脱出するか。リップとシュヴィは当初この作戦を念話で相談していたが、それが不可能である事を理解した。
何故か。カイドウはベルゼバブとの戦いに没頭しながらも、『シュヴィ達の動向にも気を張っていたからに他ならない』。
そう、あの龍人のライダーは、ベルゼバブと壮絶な死闘を繰り広げながらも、見聞色の覇気で彼女らが変な気を起こさないか探っていたのだ。
この事を解析で即座に理解したシュヴィは、完全に動きを封殺される状態になってしまった。鬼ヶ島から脱出しようにも、異空間から異空間へと逃れる兵装は、
基本的に魔力を多量消費するので、間違いなく相手に感づかれる。カイドウの不意を打って範囲破壊を繰り出すのは、最早論外。
何故ならカイドウが気付くのは勿論の事、ベルゼバブの方にも気づかれてしまう蓋然性が極めて高いと言う結論が出てしまったからだ。
一対一ですら勝利が不可能な相手に、二人同時に襲い掛かられる可能性が高い。要はそう言う事だった。そうなってしまえば最早逃げるどころの話ではない。リップ達の聖杯戦争は、終局を迎える以外の意味はなくなってしまう。
転機が訪れたのは、カイドウとベルゼバブの戦いが大詰めを迎えた頃だった。
シュヴィは解析によって、鬼ヶ島を格納してある異空間が、ベルゼバブとカイドウの激突によって限界を迎えている事を既に理解していた。
特に致命的な影響を与えているのはベルゼバブの方で、如何も、彼の周りだけ時空や、物事の物理的な因果関係が散逸している。因果律の歪みが生じていると言うべきか。
この歪みと、カイドウの発する凶悪無比な覇気の力で、遂に、空間に断末魔の様に裂け目が生じ始め――其処からリップとシュヴィは脱出。
一方通行の力で転移を行い、両名は新宿区の国立競技場近辺に出現。これも、本来だったら皮下医院の辺りを転移先にシュヴィは設定していた筈だが、転移先が大幅に狂ってしまった。やはり、因果律に致命的な狂いが生じているらしかった。
「チッ、如何なってやがるこいつは……」
ベルゼバブとカイドウが鎬を削っていた鬼ヶ島内部は酷い地獄だったが、外に出てみればこれまた大概な地獄が広がっていた。
正常な世界と、いつも通りの日常が無惨に打ち壊される。この新宿は今や、そう言う土地になってしまっていた。
車道では車の列がムカデか数珠のように連なっている大渋滞の有様で、クラクションの音が途切れない。
クラクションの音だけなら、不快なだけで済んだ。はるか遠くから、人々の怒号や悲鳴、慟哭が混然一体となって聞こえてきていて、耳をずっと傾けていれば心が参ってしまう程だ。
その上あの、彼方から立ち上る、不穏な黒煙と、建物の崩落音だ。朦々と立ち込める黒い煙を背に、高層ビルのような建物が、リアルタイムで崩壊していくその様は、派手な爆発をウリとするハリウッドの映画でも見ているかのようだった。
極めつけが、あの空の色。
空が血を流しているかのように真っ赤に染め上がっていて、しかも、ハリケーンでもこれからやって来るんじゃないかと言う程に、スパークを孕んだ分厚い積乱雲が生じている。
UMAが現れたとて、こうは行かないだろうと言う程、終末的な光景。いや、最早終末そのものだ。最後の審判の日が遂にやって来たんじゃないかと言う程に、今この新宿は『終わっていた』。
「……あれが……原因」
シュヴィは、冷静に、新宿に途方もない災禍を招いたものの正体を認識していた。
と言うより、シュヴィの凄まじい演算能力も解析能力も、今回に限って言えば無用の長物。誰でも、原因が解りきっているからだ。
新宿区上空を浮遊し、まるで我が箱庭の様子を睥睨し、其処に生きる人々を所有物として見下ろしているような、あの青い巨龍。
シュヴィはあの青き龍と、鬼ヶ島で姿を確認した9mを容易く超える巨漢と、ありとあらゆる情報の一致を認めた。同一の存在なのだ。
恐らく、身体の中の龍の因子を、励起させた結果こうなったのだ。カイドウはあの姿に、可逆的に変身出来るのである。
あの巨体、あの質量。あの生命体が、音速を超える速度で移動すれば、如何なる結果が齎されるのか。
シュヴィの演算能力を駆使すれば、その結果は想定し得る被害者数から破壊規模まで、綿密に計算出来てしまう。その最悪の結果が、起こってしまったのだろう。
ベルゼバブとカイドウが、超音速で鬼ヶ島から脱し、外界に出現する。たったそれだけ、破壊の意志など何もなく、ただ目的の場所へと移動する。それだけの行為で、何千人ものNPCを、彼らは容易く葬り去れるのだ。
「この事態を引き起こしてるマスターの下に行くぞ、アーチャー」
「了解」
シュヴィとしても、リップの意見には同意だった。
カイドウとベルゼバブの戦いの様相を眺めようにも、俄かに信じがたい事に彼らの周りをスーパーセルが取り囲み始めた為、これ以上の解析が不能になってしまった。
ならば、この事態を収める為には、サーヴァントの下へ行くよりマスターの所に向かった方が速い。リップがマスターに対して如何出るのか?
その点については不安が残るが、今はリップの言う通り、皮下の下に往くか、ベルゼバブを従える峰津院大和の下へ向かった方が速い。
大和の居場所は直ぐに特定できた。
元より大和自体、容貌から社会的立ち位置に至るまで、特徴の塊過ぎる男だったので、一目見ただけで特定が容易い人物だった。
だが、シュヴィにとってそれ以上に驚きだったのが、大和自身に備わるあの魔術回路の多さである。人類種は、魔法を使えない。感知も出来ない。
シュヴィにとっては常識を超えて最早前提とすら言っても良い知識を、大和は粉々に破壊した。聖杯戦争に際して界聖杯に与えられた回路のみでは説明出来ない。
今回の聖杯戦争以前からずっと、何かに備えて用意して来たとしか思えない程、身体中に魔術回路を大量に、大和は備えていたのである。
外面は勿論、身体の内面と言う観点から言っても特徴的なこの大和と言う青年を、解析に優れるシュヴィが見逃す筈がない。
バリケードで封印され、関係者を含めた誰からの侵入も拒んでいる、新宿御苑。其処に、大和は一人で佇んでいた。
その場所へと急いで駆け出して行き、人込みをかき分け、邪魔な車をリップは飛び越し――。
御苑の外縁をなぞる様に建てられた金属板の仮囲い塀を乗り越える。所々がパチパチと、野焼きにでもされたように燃え上がっている新宿御苑の真っただ中に、大和はいた。
いや一人ではない。この現実世界に於いては余りに異物としか言いようのない、鋼色の獣毛が特徴的な巨大な獅子を、彼は従えている。
「峰津院大和と、極めて強い契約の下結ばれている」、リップがそうと忠告してくる。想定され得る身体能力も同時に付け加えて来た。並のサーヴァント、数体分。サーヴァントのみならず、マスターも異常な手合いのようだった。
走刃脚(ブレードランナー)の力を解放、足裏から空気を噴出させ、リップは高度数十m地点を飛翔。大和の下へと距離を詰め、脚を振るい、三日月状の可視化された斬撃エネルギーを飛ばす。
その全てを悉く破壊され、此方に向かってレーザービームを槍から放ってくるが、シュヴィの助けもあり、危なげなく回避し。
そうして地上へと降りたって――漸く、今に至るのであった。
「品のない山猿だ。何者だ、貴様ら」
こちらの行為も相まって、大和は敵対的な態度を崩しもしない。当たり前といえば、当たり前か。
リップの目から見ても、優れたその顔貌を不愉快さと怒りに歪めさせながら、大和は此方に対し殺意を放射してくる。
「名乗る程の名でもねぇよ。アンタからすればつまらない白猿だ」
「何の用があって、私を襲う」
「惚けるなよ。アンタなら解る筈だろ。聖杯戦争の参加者ならアンタがダウトなのはバカでも解る。それに加えて、使役してるサーヴァントも、アンタ自身も。他の参加者からすれば不公平を嘆く程にバケモノと来た。一人の所を叩かない理由が何処にあるよ」
「道理だな。貴様が正しい」
意外な事に大和は、リップの言葉を認めた。そして同時に、微笑みを浮かべもした。笑みながらリップを見つつ、背筋が凍るような殺意の投射も、忘れていなかった。笑顔のままに、殺しに来る。その可能性は十分過ぎる程、存在した。
【マスター、今は……駄目……】
脚部に力を込めるリップを、シュヴィは窘めた。
【あのマスター。ヤマトは、攻撃を反射するバリアを張ってる……迂闊に攻めれば、傷を負うのはこちら】
【否定者……オレの不治みたいな固有の能力か?】
【多分……違う。技術の一つ。数ある術式の内の、一つ】
【チート野郎かよ、クソッタレめ】
リップの持つ不治(アンリペア)は、戦闘に於いては恐ろしく凶悪な能力である。
何せ、切り傷一つ付けられれば。針で何処かを刺し貫く事が出来たのなら。その傷は、癒えない。いや癒えないどころか、『治療すると言う行為にすら及ぶ事が出来ない』。
ずっと血を流し続ける。瘡蓋が傷を覆う事もなく、血友病の患者の如く。身体中から血液を全て血抜きされるまで。傷つけられれば、サーヴァントですら、この否定の理に抗う事は出来なくなる。
唯一にして最大の欠点は、リップ自身が相手を傷つけねばならないと言う点。
その攻撃手段の殆どを物理的な手段に拠らせているリップにとって、物理攻撃でそもそも傷つかない相手と言うのは、致命的に相手が悪いのだ。
大和の場合は攻撃が通用しないどころか、此方に向かって反射してくる可能性すらあると言う。そうなった場合、不治の否定力が乗った攻撃で、リップが傷つく事になる。
それは、恐ろしい未知の体験。こうなったらどうなるのか、リップにすら予測出来ない。自分の不治の能力で、傷を治せないまま退場する可能性すらある。攻撃に、出れない。
リップの行動を一方的に封印出来るそのバリアがしかも、大和にとっては何て事はない技術の一つに過ぎない。これ程の、不公平。許されて良いものか。
「好機を窺っている、と言う風には見えぬな」
大和はリップの不治を知らないが、彼の脚部に取り付けられた走刃脚の存在はしっかりと認識していた。
大和の目からしても、かなり珍しい代物だ。戦闘に於いても有用なデバイスである事は、リップが実践してしまっている。それだけの物を有していながら、利用してこないのは、おかしな話だった。
「貴様の立ち居振る舞いを見れば解る。貴様は私を恐れていない。そのアーチャーが、私の回路を解析した上でなお、だ。それにもかかわらず攻めて来ないという事は、貴様の攻撃が通用しない事を認識しているな?」
「ベラベラとよく回る口だ」
「誤魔化しは、肯定と認める」
大和の疑念が確信に変わった。リップは攻められないのだ、と。
「このまま無為に時間を浪費するつもりか? 解らぬ頭でもないのだろう、このまま棒立ちしていれば、私の従えるサーヴァントが来るぞ」
「もう来ている」
この場にいる誰の物でもない、声。声紋認証。大和の従える、ランサー――――――――
「ッ!!」
リップの服の襟をひっつかみ、霊骸――を模した魔力をシュヴィは噴射。
一瞬にして初速300㎞/hの加速を得たシュヴィは、大和らから40m程も遠のいた。
――リップとシュヴィが佇んでいた地点。その場所を中心とした直径15m圏内に、高さにして10mはあろうかと言う黒いドーム、半球が生じ始めた。
球の表皮には黒い泡が煮え立ち、プラズマめいたものがバチバチと飛び散っていて、それが傍目から見ても不吉なエネルギーの塊である事は明白だった。
その球が消える。地面が、丸く抉り取られていた。ドームではない。完全球だったらしく、抉り取られた跡とは、球の下半分であるらしかった。
【恩に着る】
突然のシュヴィの行動を咎めようとするも、それを止めて礼を言うリップ。あの場で呑気に突っ立っていれば、死んでいたのはリップの方なのだったから。
大和の右前方の空間が、ぐにゃりと、水飴の様に歪み始める。
その歪みが矯正された時には、既に、男はいた。180㎝を超える偉丈夫、余分な脂肪はなく、身体の至る所に搭載されている、研鑽と研磨を怠らなかった鍛えられた筋肉。
優れた美貌を不愉快そうに歪めさせながら、鋼の翼を携えたそのランサー・ベルゼバブは、あれだけの死闘を経ながら、大したダメージを負っている様子もなく、無事大和の下へと帰還した。
「倒したのか」
大和の問いに、更にベルゼバブは機嫌を悪くする。
「解りきった事を聞くな。令呪を切られて逃げられたわ。あの羽虫めが……大見得を切っておいてふざけた真似を」
如何やらベルゼバブの方も、カイドウが消えた理由を正確に把握していたようである。そうでなければ、あれだけの巨体が手品のように消え失せる筈がない。
大和との会話を適当に切り上げたベルゼバブは、目線を、リップとシュヴィの方に向けた。リップの皮膚が、粟立って行く。
化物だとは、聞いていた。怪物だとも、知っていた。だが、実際こうして目の当たりにすると、リップも、正確にその戦闘力を計測していたシュヴィですら、戦慄する他ない。
人類の可能性の範疇にまだ収められるような姿形をしていながら、しかし、常識を絶した力を秘めたる者。それがベルゼバブだった。
「……嘗て見かけた月の兵器に似ているな」
意味を掴みかねる事を呟きながら、ベルゼバブはシュヴィの方を睨んだ。
物質的な質量と重圧が宿っていると錯覚しかねぬ、その目線の強さ。機械の演算や計算では、説明出来ぬ、再現出来えぬ。途方もない武練の持ち主である事を、シュヴィは認識した。
カイドウに比べれば、勝率は高いとシュヴィは認めた。
身体の中に取り込んだ天使の因子。サーヴァントは何処までも、生前の逸話に引きずられる、人類の想念の結晶、夢と思いの権現である。
その逸話自体に、成程シュヴィは覚えがあるし、活用出来るのなら有効活用したい。そしてベルゼバブ相手にこの逸話が刺さるのであれば、意味は確かにあったのだ。
――だが、絶対に勝てる訳じゃない。勝率は確かに、カイドウと比較すればまだベルゼバブの方が高いと言える。……ほんの、1割程。
確かに、天使としての要素がベルゼバブに備わっている以上、シュヴィにとっては有利に戦える相手である事は間違いない。
ただそれは裏を返せば、切り札である『全典開』を用いて初めてベルゼバブを相手に戦える可能性がある、と言う事に過ぎないのだ。
恐らく全典開を用いた場合の勝率は、良くて四割、最悪三割程度であろう。勿論、これを用いなかった場合の勝率は、相手が余程弱ってない限りはゼロである。
シュヴィの機凱種としての役割は、解析。そもそもの身体の作りが『戦闘に特化していない』のだ。
対してベルゼバブの身体つきは、戦闘用に作られた機凱種以上に、戦闘に特化した、生物の限界を超えた肉体スペックなのだ。
音速以上の速度で移動し、極音速を遥かに超えるスピードで矢継ぎ早に攻撃を繰り返すだけでなく、カイドウとの戦いを観察するに、武芸にも精通した動きをも披露出来る。
この暴力的なまでの戦闘能力を以て、全典開した上から殺される可能性もあるし、しぶとく喰らい付かれて、リップの方の魔力が枯渇して脱落する可能性すら出てくる。
特攻が働くからと言って、勝てる訳ではないのだ。この序盤で戦いを挑まれれば、拙いかも知れない。ベルゼバブとの戦いの後に、カイドウと悶着があれば、本当にシュヴィもリップも聖杯戦争から退場する。逃走の選択肢をも、エミュレートしたその矢先だった。
「この場をどう収めるつもりだ、ランサー」
「目障りな物は、消すに限ろう」
「少し待て。私にこの場を与らせろ」
助け舟を出したのは、誰ならん。
リップの不意打ちによって、怒りを覚えている筈の峰津院大和その人だった。
リップもシュヴィも、豆鉄砲でも喰らったような表情だ。ベルゼバブが不機嫌な表情を隠しもせず、大和に対して何かを言うよりも速く、ズイ、と。彼よりも前に出る。
「私が聖杯戦争の参加者である事など、貴様の言う通りだ。少しの学があれば誰だとて想到し得る結論だ。其処に驚きはない。だが貴様は、私がこのランサーのマスターだと理解した上で、接触を図ったな? 何処でこの関係を知った」
一触即発の舞台が、一気に、交渉のテーブルに変った事をリップ達は理解した。
但し、何時までも続くような物じゃない。薄氷の上に成り立つテーブルだ。しくじれば瞬時に、殺し合いに発展する程の、危ういそれである事を重々承知していた。
「お前達も戦っただろ、馬鹿みたいな図体のあのライダーとだよ。あいつの拠点の中にいた」
「……ほう。気づいていたか? ランサー」
意識を、背後のベルゼバブにやりながら、大和は問う。
「あの拠点自体、かなりの魔力が立ち込めて、余であっても気配の探知は困難を極めた。癪に障るが、見つけられなかった事は認めよう」
鬼ヶ島内界は、カイドウの放つ覇気と魔力とが混ざり合い、カイドウ以外のサーヴァントの魔力を探知する事は、難しい状態にあった。
これを逆手に取ったシュヴィは、自らの兵装の一つを用い、サーヴァントとしての気配を実はずっと、鬼ヶ島にいた時は隠していたのだ。
ベルゼバブには効いたようだが、流石に、鬼ヶ島の持ち主であるカイドウには、通用しなかった。そう言う理屈が、実はあったのである。
「それで、貴様らは何故ライダーの宝具の中にいた? 首でも獲るつもりだったのか?」
「最初はな」
リップは、大和との交渉に乗る事にした。虚実をいりまぜながら、有利な条件を引き出そうと火を吹かんばかりに脳を回転させる。
「だが、時期に恵まれなかった。失敗して、同盟を組むって運びになったのさ」
「アレと同盟を組もうと思ったのか? 使い潰されるのが関の山だぞ」
「そんな事は解ってるんだよ。そうせざるを得ない状況に陥っちまったんだ」
「無能、か」
せせら笑うベルゼバブ。客観的に見れば、確かにその通りだ。怒りの念が湧いてこない。
「当初アイツが提示した条件は、部下、だぞ。それに比べれば、対等の同盟に持ち込めたのは、中々持ち直した方だと認めてくれや」
「成程、それはある意味そうだ」
カイドウが如何に、『ぶっちぎれた』サーヴァントであるのかは、直接話した大和と、戦ったベルゼバブが何よりも知っている。
自分の都合が第一、欲しいものは奪う、我が欲望を隠しもしない。力で押し通る、その性情。
とてもじゃないが、同盟を組むには値しないサーヴァントだ。誰であっても、付き合いの果てが裏切りの末の死である事が、解りきっているのだから。
アレを相手に、アレの望んだ結果を跳ね除け、此方の条件を呑ませて、譲歩させるその手腕。成程、確かに認めるべき所はある。
「迂遠な会話は嫌いだろう。単刀直入に言おう。『私と組め』」
「……何?」
警戒の閾値が、シュヴィもリップも、そして、ベルゼバブですらも。最大の値を振り切った。
同盟の、申し出? 峰津院大和が、である。ベルゼバブも大概だが、この大和にしても、性格と我の強さでは似たり寄ったりである。
自分以外は並べて、格下、道具。そのように思っているような青年が、まさかこのような提案をしてくるなど……。
「お前自身が良く分かっていようが。あのライダーと組んだ先に、未来はないぞ」
「んな事は解ってるんだよ」
「ならば話は速い。乗りかけている船がタイタニックだと解っているのなら、とっとと降りてしまえ。あの狂人と一緒に沈みたくはあるまいが?」
「お前だって信頼するに値しない」
当たり前の話だ。出会ってすぐで信用出来ないとか言う問題以前だ。
大和の性格も、態度も、気に食わないと言うのは確かにある。だが、人目を一切憚らず、破壊を振り撒いて反省の色も一切ないベルゼバブに対し、咎める様子も見られない。
そんな人物を誰が、信頼出来ると言うのか。加えて従えるサーヴァントが、カイドウよりは多少はマシなのかも知れないが、正直な所信頼出来る出来ないの話では五十歩百歩だ。組めと言われて、即答できる筈がない。
「価値観の話で言えば、私の狂気など、あのライダーと似たり寄ったりだろうな」
意外な事に――大和は、リップの言を肯定した。目を、丸くするリップ。
「隠し立てをしてもしょうがなかろう。貴様と、其処のアーチャーの懸念の通りだ。私は貴様らを、道具として使おうとしている」
「ふざけんな。交渉は不成――」
「そして、私の信念の下に、貴様らを生かす事もまた吝かじゃないと思っている」
リップが全てを言い切るよりも前に、大和は言葉を紡いだ。
「目を見れば解るぞ。貴様は私の望む世界の側で生きるに相応しい人物だとな」
「アンタの望む、世界? 独裁でもするつもりか? 第三帝国思想は最終的に失敗に終わる、止めておけよ」
「今この瞬間まで続いている社会的な立場、階級、年齢や性別を軸として諸々の仕組み。これらを撤回した上で、個としての強さで全てを決められる世界。それが、私の望みだ」
これに反応したのは、シュヴィの方だった。目を見開いて、信じられないような目で、大和を見る。
そして、何となく、その世界についてイメージがわくのは、リップの方だった。不治とは言ってしまえば、神(クソッタレ)から授けられた、有難くもなんともない呪いなのだ。
そもそもリップは医者であると言うのに、この能力のせいで治療行為に及べないのだ。メスを使えば、切開した場所の縫合が出来ない。その後の結末がどうなるか、最早語るべくもなかろう。
才能とも言えぬ才能のせいで、煮え湯を飲まされ続け、この呪いのせいで人の社会から弾き出されたリップだから、大和の言いたい事は、確かに理解が出来る。
不治は呪いではあるが、間違いなく稀有な才能なのは確かだ。これだけの力を授かっていながら、自分達は排斥される。そう言う世の在り方に疑問を抱いた事はなかったか、と問われれば、肯定出来ない。確かに、思っていた事もあるし、今でも思う所はある。
――だが
「アンタの地位までそのまま、は通らねえよな」
「当然の疑問だな」
織り込み済み、と言わんばかりに大和が笑った。
当たり前だ。他人には、今までの世界で築き上げてきたものや、受け継いできた特権を捨てろだとか、実力で生きろとか言う癖に、自分だけが全てを引き継ぐ。そんな虫の良い話、あって良い筈がない。リップの論駁は、当然の事である。
「私は私の地位に対して何ら拘泥していない。あれば便利なのは認めるが、所詮は理想を叶える為に敷設されたレールに過ぎん。いつまでも利用するつもりはない」
「捨てられるのか」
「私がそれをできなくて何になる? 私の願いは、世界中の全ての民が実力主義の世界に目覚める事だ。個としての性能、強さ、特異能力こそが、全てに優先される。力で得られるものがあるのなら、全て得ても良い。叶えるべき理想の過程で、実力主義の世界を創造した私ですら邪魔だと思ったのなら、殺すのだって私は許容する。その世界に於いて、私の命ですら、価値がないのだから」
リップからすれば究極的に、狂っていた。
恐るべき事に、大和の目は本気だった。完全かつ純然たる実力主義の世界が樹立され、その世界の中でなら、自分が邪魔だと思えば殺されても良い。
普通の人間なら、自分は別だ、自分だけは例外で君臨し続ける。何とも惨めでわがままで、見苦しい考えだが、そうと考えるのが当たり前だろう。
大和には一片とて、そんな感情がない。自分が淘汰される事すら、是。本当に、実力主義の礎を築き、時と次第によっては、その理想の中で死ぬ事すら、厭ってないのだ。
「……財閥のサイトの情報を信じるならよ。アンタの年齢は、17だって聞いたんだが?」
「間違ってはいない。その通りだ」
「何が、アンタを狂わせたんだ? その思想に目覚めるには……アンタは、若すぎると思うんだがな」
平和な先進国の日本で目覚めるには、余りにも異質な思想。
これに開眼したのが、富も名声も思うが儘。才に溢れ、華も盛りもセブンティーンであると言う事実が、やにわにリップには信じられなかった。
この年齢ならば、カネの力もあって毎日のように違う女の子をとっかえひっかえ出来たであろうし、高い車を走らせて自慢する事だって出来たであろうに。
金のある17歳がやりたいであろう、あらゆる楽しみに見向きもしないで、叶える理想は実力主義の樹立、この一点。如何なる境遇が、峰津院大和を狂わせたのか。リップにはそれが想像出来なかった。
「守られるべきでない屑が、この世には多すぎる」
吐き捨てるように、大和が言った。悲しい目で、シュヴィは大和の事を見ていた。
「世襲した物だけにしか価値がないゴミがいる。自分にはそれしかないからと理解しているから、己の特権を守る為に社会のあるべき形を歪めるクズがいる。それに諂う羽虫がいる。……自分に不幸な噛み合わせを強いている元凶が誰なのか理解しているのに、その誰かに慴伏する弱者がいる」
言葉を、大和は紡いで行く。
「強くもない、立派でもない、美しくもないし褒められもしない。そんな者の為に命を懸ける事は、余りにも馬鹿馬鹿しい。ゴミとクズとが我が物顔で踏み付けている地面に、いつか芽吹く筈であった才能の芽が潰されたままでいる。……その事実に、私は憤りを覚える」
その瞳に、野心で燃える焔と、鋼鉄の決意を携えた徹死の光を宿させて、大和が言った。
「肥えた豚共には、死を喰らわせる。媚びる事でしか己を保てぬ弱者には、百年の孤独と千年の寂寞を与える。私の目指す世界には……ただ、邪魔なだけだ」
「本当に、それが貴方の理想……?」
今まで、沈黙を貫いていたシュヴィが、此処に来て、口を挟んで来た。
「何に代えてでも叶えたい。私の理想だ」
「弱いから、生きる価値がない……。そんな風になった世界を、私は知っている。……だから、言える。貴方の世界は、破滅するしかない世界……」
「その世界は――」
「やめた方が……良い。悲しいだけの、辛い……世界だから。もっと違う願いを、探してあげて」
――空が蒼いと言う事実が、むかしむかしある所に、から始まる御伽噺であった世界。それが、シュヴィの生まれた世界だった。
シュヴィの知る嘗ての世界に於いて、人類種(じゃくしゃ)には希望など、一縷として残されていなかった。
人類が存続出来る環境の水準、その水準をあの世界は大幅に下回っていた。より言ってしまえば、人類が生き残れる可能性などゼロに等しい環境だった。
地に植えて育つ作物は何もなかった。土地の栄養が大地より失われて、数百と余年を優に経過していて久しい。人為的な御業の助けなしに草一本生えない土地など珍しくもない。
安心して口に出来る水など何処にもなかった。飲んだら腹を下す、程度などマシな方、戦争の過程で放出された毒素は水源を即座に犯し、農業用水にも使えない程だった。
満足に、呼吸出来る場所すら見つけるのが難しかった。霊骸……魔法を行使する為に必要な意志あるエネルギー体の死体は、地上の至る所に降り積もり、人類種であればガスマスクなしに呼吸をする事は自殺行為とすら言える場所が地上の7割以上も存在した。
凡そ、人類に対して、夢も希望も、僅かな安心すらも。用意されていない地獄だった。
上述の環境だけじゃない。多少拠点に使える場所を見つけたとしても、山すら消滅させる上位種の兵器によって、何が起こったのかも解らないまま消し飛ばされる事もある。
哨戒中の幻想種や獣人種(ワービースト)に見つかり、原形すら留めない程に肉体を破壊されてしまう事など、日常茶飯事と言うべきケースであった。
空が蒼い。誰もが知っていて、疑問にすら思わないこの当たり前を、知らないまま死んでいった人類は大勢いる。空が蒼いと言う事実を、神話の中の出来事だと認識したまま、一生涯を終える者だとて無数に存在していた程なのだ。
シュヴィは知っている。空は今日とて、何処までも蒼く、それが何処までも広がっていた事を。
自由と未来、そして平和を象徴する、清澄たる蒼い色を湛えている、あの空。時に、昔の事を思い出して泣いているのか、時々酷い雨だって降らせるけども。
それでもその雨は時に恵みになって、地の潤いになって。空の模様にも在り方にも、天気の一つ一つにも意味があって。
そんな天気の下で、人々は今日も生活の為に活動している。生きる事は、難しい。この世界に於いても、それは同じ事なのかも知れない。
今日もこの東京では、哀しみや苦しみ、怒りや憂いなどを抱きながら、生き抜いている人間が数多く存在しているのだろう。
だが、それだけじゃない。人の世の営みには、喜びや楽しみ、愛や安らぎだってある。そしてこの世界には、その良き領分が存在しているのだ。
大和の目指す世界は、これを否定する。
シュヴィの居た世界だとて、弱者の方が圧倒的に多かった。人間以上の強さの種族とは言うが、その種族であっても、真っ先に死んでゆくのはその種族の中でも弱い者からなのだ。
人類種以外の十六種族の誰もが、あの戦争を肯定していたとは思えない。彼らの中にはいつ終わるとも知れぬあの大戦の終戦を願っていた者だって、いた筈なのだ。
弱い者に、生きる価値がない世界と言うのは、強い者にしか権利と価値の集中する世界の事であり、その世界に於いては、強い者が舵取りを間違えたその時、全てが終わるのだ。
だからあの世界は、皆が死に絶えるまで戦いを続ける寸前まで行ってしまった。星杯を巡る戦い。これを戦い以外で終らせるもう一つの方法に、神霊種すら気付かなかったのだ。
無限にも等しい連環の時間を、戦争に費やしていたあの世界。その戦いを終わらせたのが、ちっぽけで、卑劣で、悪魔などよりもずっと狡猾で、神などよりもずっと全てが見えていた、一人の弱者である事を知っているシュヴィだからこそ。大和の理想は、到底受け入れられないのだ。
この空の下では、苦しみもあるし、楽しみもある。苦しみの方が多いのかも知れないし、同じだけの数なのかも知れない。
大和の言った、彼が唾棄するべき不平等、理不尽。それらは確かにあるのだろう。平和な世界であるが故に起こり得る、怠惰と独占、悪徳の類がある事は間違いない。
だが、ゆっくりと、向き合えば良いじゃないか。苦しみも悪徳も、確かにない方が良い。それは間違いないが、急にそれを全部なくす事は出来ない。
漸進的にでも良いから減らして行けば良いだけの話だろう。息苦しい社会の中で、小さく縮こまって、幸福を享受する者達をも、切り捨てる事は、ない。それを切り捨てた果てに、何が待ち受けるのか。痛い程知っているシュヴィだからこその、考えだった。
「他に手立てがなければ……そう言う考えを持っていたのかも知れんな」
腕を組み、シュヴィの言葉を受け止めた後に、大和は言った。
「だが我々は今、何を求めてこの東京の地を踏んでいる? 貴様らサーヴァントは、何の為にこの地に招かれた? それすら理解出来ぬ愚物ではないだろう」
「解ってる……!! だけど、綺麗な空を血みたいに赤くしなくても……この街の人達をこんなにも殺さなくても……!!」
自分以外のサーヴァントの姿を見ると、シュヴィは思う。何の為に、彼らは戦うのだろうと。
決まってる。聖杯戦争だからだ。この戦いが如何なる目的で開かれて、その戦いの末に何が手に入るのか。その事をよく知っているからこそ、彼らは命を削るし、他の命も葬れるのだ。
万能の願望器と言うトロフィーを巡る戦いについて、シュヴィはこれをよく知っている。
――いや。『知り過ぎている』と言った方が正確なのかも知れない。同じような戦いに、シュヴィは生前にも長年従事していたからである。
因果なものだった。この世界では聖杯(ユグドラシル)で、元居た世界では星杯(スーニアスター)。言い方は違うが、字にした時の読み方は殆ど同じ。ちょっとした言葉遊びだ。
如何なる願いをも叶える魔法の杯。それがどれ程魅力的に映るのか、シュヴィは理解している。その魅力は、黄金の眩さよりも、宝石の煌めきよりも。ずっと価値があり。
その獲得の為に、知性を宿したあらゆる生き物は同じ種族にどれだけ犠牲が出ようが戦争を続行出来る。
星が悲鳴をあげようがお構いなく、無慈悲な破壊を齎す兵器を星の至る所で炸裂させる事だって出来る。
そんな連中であるから、自分達の国や種族以外のあらゆるものに対して、それが当然の如く殺戮と死とを振り撒く事が出来る。だって彼らは、己が理想の敵だから。
神に等しい力を誇る連中ですら、万能の願望器の持つ馥郁たる香りに脳髄を焦がされるのだ。誘惑に弱く、流されやすい人間達が、それを求めるのはおかしい事ではない。当然の理なのかも知れない。
シュヴィ・ドーラではなく、シュヴァルツァーと名乗っていた時代。己の名を、名前ではなく『個体名』と言う機械的な名前で称していた時代。
シュヴィも星杯を求め、機凱種の一員として活動していたし、解析体として彼女が開発・発明に関与した兵器は、数多くの種族の殺戮に貢献もした。
異常な時代だったと、思う。それが機凱種として当たり前の義務だった時代とは言え、その様な事が自分に出来た、と言う事実が、シュヴィにはただただ信じられない。
そしてその事を、正当な行為であると肯定していた己自身が、何よりも信じられない。
「空の色など、太陽から届く光のスペクトルが大気を舞う塵埃によって散逸された結果に過ぎない。戦いを止める理由にもならない。そして、もう一つ。この街の人間達はNPCだ。放っておいてもやがては消え去るが定めの、仮初の幻だ」
揺るぎのない言葉だった。
この世界を徹底して、聖杯戦争の為に誂えられた檜舞台としてしか見ておらず、其処に生きる人間達はまさに舞台装置としか捉えてない。そんな言葉だ。
それは残酷な事に徹底的に正しい事実である。だが、そうと割り切れぬ主従だって、大勢いる。峰津院大和は違うのだ。本当に、割り切れているのだ。
「そこまでして……貴方は、夢を……その世界を、実現させたいの……?」
「貴様らにはないのか」
大和が言った。
「私に聞くだけじゃない。貴様らの理想も語って見せろ」
改めてシュヴィは思う。大和だけじゃない。この聖杯戦争に招かれた者達は、何の為に戦うのだろう。
自分達の世界に不満があるのか? 己の命を天秤にかけてまで叶えたい願いがあるのか? 過去に置き去りにされたままの後悔を、拾い上げ、掬い出したいのか?
それは、この世界の命を蹂躙してまで――――其処まで考えて、シュヴィは、これ以上先を考える事を、止めた。気付いてしまったのだ。その問いは、自分自身にまで跳ね返ってくる事に。
心とは、ロマンチシズムを徹底して排した上で、究極的に言ってしまえば、アルゴリズムの副産物。自律的判断を埋める為の隙間だ。
感情と心とを獲得しなかった、徹底的に合理性の奴隷だった時代のシュヴィ、もといシュヴァルツァーと名乗っていた時代の彼女なら。
聖杯の獲得を至上命題としていただろうし、その獲得の過程で如何なる犠牲が出ようとも、出てしまったその犠牲以上の価値を聖杯に認めていた筈なのだ。
今は不思議と、界聖杯に魅力を感じない。リクに会いたい。その気持ちに嘘はない。再開が叶えられると言うのなら、本当に聖杯の獲得だってエミュレートした事もある。
だけど……人一人、自分の責任が及ばない所で死んでしまうだけで、己のせいだと背負い込み、一人夜の孤独の中で叫ぶあの少年が。
人を殺して殺して殺し尽くして、そうしなければ辿り着けない聖なる杯を利用して再開して喜ぶのだろうか。その可能性を考える時、シュヴィは無性に怖くなる。
痛みは、怖くない。同胞達の犠牲と研鑽の上に成り立っている、彼女が行使する兵装の数々を失う事だって、大した恐怖にならない。
リクに嫌われる。それは、心を得、誰かを尊ぶ事を学んだ彼女にとって、これ以上の物があるのだろうかと想像すら出来ない、恐るべき未来であった。
心を学んでしまったからこそ、彼女はシュヴァルツァーではなく、シュヴィ・ドーラと言うサーヴァントなのだ。
そしてその心の作用があるからこそ、彼女は、界聖杯と言う物に対して、消極的な動きを見せてしまう。
だが――彼女のマスターは違う。マスター、リップは、聖杯を焦がれる程に求めている。叶うのなら、一つだけと言う事などせず、幾つもの叶えたい願いがある程であった。
それを、強欲だと切り捨てる事は、容易い。だけど、それはシュヴィには出来なかった。欲深と呼ぶには、余りにリップの願いは切実で……怒りに満ちていたものだったから。
そしてその怒りが、彼の生来の優しさと人の好さからにじみ出た、悲しい発露である事も、理解していたから。
これを理解してしまったら、リップや、他の参加者の願いの事を、『命を蹂躙してまで叶えたい事なのか』、と問いただす事は、もうシュヴィには出来なかった。
そうと詰問してしまえば返って来るのは『お前の願いはどうなんだ』と言う至極当然の疑問なのであり、これを言われればシュヴィは、沈黙するしかない。
なんて事はない、シュヴィの抱く願いだとて、他者からすれば命を奪ってまで叶えたい事とは思えない、些細なものに過ぎないのであるから。シュヴィにとって、リクとの再会を、つまらない願いだと言われるのは、悲しい事だ。だから、相手の夢の価値を計る事は、したくない。
「……私、は……」
「もういい、大丈夫だアーチャー、この紳士はオレに用があるんだ。オレが話を付ける」
良い淀むアーチャーを制し、彼女の前にリップが出てくる。
大和と、リップ。二名の目線が交錯する。互いに互いの目を見、顔を全く、背けない。
「オレの願いは、過去を取り戻す事。ステロタイプ過ぎて、つまらねぇだろ?」
「万能の願望器を使うには、実に慎ましい願いだ」
「そんな小市民と、途方もない野望を抱いているアンタ。釣り合うと、思っているのか?」
「『願いは本当にそれだけ』か?」
リップの内奥に燻る、怒りの熾火。これを、大和は正確に測っていた。
「……さぁね」
茶を濁すリップ。ふっ、と大和は笑みを零した。真意を測りかねる微笑みだった。
「同盟についてだが、正直な話、アンタと組めると言うのは、オレには魅力的な提案に映る。打算的で気に入らん言葉だろうがな」
「リスクを計算出来る事は悪い事じゃない」
「アンタの言う通り、あのライダーについてはオレだって切れる物なら縁を切りたい。偽らざる事実だが、アンタの事だって今すぐ信用するのは難しい」
「時間をくれ、とでも?」
「当然と言えば当然の話だろ。重大な選択を前に、軽率に即決する奴はアンタだっていらないだろ」
「即断は才能だ。指揮官、指揮者と呼ばれる者に於いて、最も重い罪は、何も決断しないで引き延ばしにする事だぞ」
「急いては事を仕損じる、ってのはアンタらの国のイディオムだろ。先人の言葉には従え」
沈黙の帳がおり、互いに互いを睨み付ける時間が続いた。
――20秒、経過。この重苦しい雰囲気を打ち破ったのは、大和の方であった。
「……よかろう。日付が変わる今日の零時まで、待ってやる」
「その時間を過ぎれば?」
「聞く程の事でもなかろう」
大和の意向は、その言葉だけで、よく理解した。
「解った。その時間までに考えを決めておく」
リップがそう言うと、大和は、ロングコートの裏地から、何かを取り出した。
一瞬リップは腰を低く構えようとするも、シュヴィから念話で武器じゃないと言う旨が告げられてくる。
大和が取り出したのは、長方形の小さい紙片と、ボールペン。その紙が名刺である事に気づいたのは、すぐだった。
名刺の裏地にスラスラと何かを記すや、それを手首だけの動きで、ピッと大和が放り投げて来る。これを指で挟み、リップはその内容を見た。
高級な和紙を思わせる名刺には、峰津院財閥のシンボルマークに、一切肩書も役職も表記されていない、峰津院大和の5文字が記されている。
裏面を見ると、極めて整った典麗な字体で、大和のフルネームがペンで記されているではないか。
「それを持って私の邸宅に来い。守衛にでも見せれば、全てを理解する。そう言う教育をしているからな」
名刺をまじまじと眺めるリップ。
政財経の世界における要人やVIP、その誰もが欲しがる峰津院大和の名刺を、リップはズボンのポケットに乱暴にしまってしまった。ある種の意趣返しか。
「馬鹿が暴れた影響でな。此処も侵入を禁止したが、バリケードを越えて有象無象共が集まって来るのもそろそろだろう。目立ちたくなければ帰れ」
言って大和は、足早に歩を進める。進行方向はリップ達から見て、右方面。
大和らの歩みを数秒程眺めたその後で。リップは、口を開いた。
「オイ」
「……何だ」
立ち止まり、大和が言った。ベルゼバブの方は、シュヴィらの方に油断なく目線を投げかけている。
「オレの願いは、過去を取り戻す事だ」
「さっき聞いたぞ」
「俺によってつけられた傷は、絶対に癒えない。治らない。俺の攻撃を防ぐのに、攻撃を無効化するバリアを張ったアンタの判断は、ハッキリ言って正しいものだった」
傾聴。大和は、リップの言葉に耳を傾けているのが、良く分かった。顔は見えないが、真率そうなそれをしているに間違いない。
「そんな呪いをオレは神から授かっててな。そんな呪いを受けていながら、俺は、執刀すらする医者だった。与えた傷が治らないのに、切開しちまえば、どうなるかなんて解るだろ?」
「続けろ」
「オレの願いは、呪われた手術によって死んじまった……あの患者を救うあの日をやり直したいという事。それが一番大きい。そして……アンタの指摘の通りだよ。俺の願いはそれだけじゃない。この願いのついでに、俺にこんな呪いを与えたもうた神サマとやらを殺してやりたいのさ」
淀みなく、熱を込めて。リップは言葉を紡いで行く。
其処には紛れもなければ嘘もない。魂を絞り出すようにして言い放たれた、真実の言霊、万斛の思いであった。
「オレは、この世でオレを一番頼ってくれて、オレしか救える奴がいない娘を殺しちまった極悪人だ。そして……その娘はまさしく、アンタの理想とする世界では、弱者みたいな人だ」
そこでリップは押し黙り、大和の背中に、矢のように鋭い目線を注ぎ続けた。
「生きる価値がないんだろ、その人は。アンタの世界じゃ」
「そうだな」
即答。大和は、過たずそう言ってのけた。
「だが、貴様が守ると言うのなら、それを否定する事はしない」
「……何?」
怪訝そうな表情を浮かべるリップ。
ククッ、と大和が笑った。彼の方向に向き直り、大和は口を開く。
「骨の髄までの弱者は生きる価値はないが、其処から這い上がろうとする意思まで価値がないとは言わん。この世界に於いて弱者でも、私の築く世界で才能を目覚めさせる者がいるかも知れない。その可能性までは、摘まないと言う事だ。ジェノサイドなど、今時流行らん。皮下にも言った言葉だ」
「……お前」
「弱者は生きる資格がない。蓋しその通りだ。この信念を私は揺るがす事はない。だが、貴様が強ければ、その弱者を護りながら、やりなおしの人生を生きる事もまた自由だ。貴様が強ければ、誰もその行為を咎めはしない。それもまた、私の信念。……それだけだ」
コートを翻し、大和はリップに背を向けた。
今度こそ、振り返る気はないとでも、その背は語っているようだった。
「この聖杯戦争が開催する前に、二十組以上の主従を殺して来たが……漸く、私の目に適う者を見つけた気分だ」
一歩、また一歩。歩を進め、大和は遠ざかって行く。
「貴様は才能がある。善い返事が出来るだけの分別が、備わっている事を願う」
早歩きで遠ざかる大和の背を、リップは十数秒程見送った後で、自分も、この場を去ろうとする。
大和が最後に口にした言葉を一度、反芻しながら。声一つ上げる事無く、リップはその場を立ち去った。
――物思いに耽り、何処か小さくなったように見えるその背を。
シュヴィ・ドーラは、不安と心配の入り混じった表情で、ジッと見つめ続けている事に、リップは気づいていたのであった。
【新宿区・新宿御苑/一日目・夕方】
【峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器(現在判明している武器はフェイトレス(長剣)と、ロンゴミニアド(槍)です)
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
1:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
2:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
3:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
4:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
5:白瀨咲耶、
神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。
6:所有する霊地の一つ、新宿御苑の霊地としての機能を破却させました。また、当該霊地内で戦った為か、魔力消費がありません。
7:リップ&アーチャー(シュヴィ・ドーラ)に同盟を持ちかけました。返答の期限は、今日の0:00までです。
【備考】
※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。
【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】
[状態]:肉体的損傷(小)
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング
[道具]:タブレット(5台)、スナック菓子付録のレアカード
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
1:現代の文化に興味を示しています。今はプロテインとエナジードリンクが好きです。また、東京の景色やリムジンにも興味津々です。
2:狡知を弄する者は殺す。
3:青龍(カイドウ)は確実に殺す。次出会えば絶対に殺す。
4:あのアーチャー(シュヴィ・ドーラ)……『月』の関係者か?
【備考】
※峰津院大和のプライベート用のタブレットを奪いました。
※複数のタブレットで情報収集を行っています。
※大和から送られた、霊地の魔力全てを譲渡された為か、戦闘による魔力消費が帳消しになり、戦闘で失った以上の魔力をチャージしています。
【リップ@アンデッドアンラック】
[状態]:健康
[令呪]:残り3画
[装備]:走刃脚、医療用メス数本、峰津院大和の名刺
[道具]:ヘルズクーポン(紙片)
[所持金]:数万円
[思考・状況]
基本方針:聖杯の力で“あの日”をやり直す。
1:皮下陣営と組む。一方的に利用されるつもりはない。
2:敵主従の排除。同盟などは状況を鑑みて判断。
3:地獄への回数券(ヘルズ・クーポン)の量産について皮下の意見を伺う。
4:ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)は様子見。追撃が激しければ攻勢に出るが、今は他主従との潰し合いによる疲弊を待ちたい。
5:峰津院大和から同盟の申し出を受けました。返答期限は今日の0:00までです
6:カイドウの所に一旦戻るか如何かは、後続の書き手様にお任せします
[備考]
※『ヘルズ・クーポン@忍者と極道』の製造方法を知りましたが、物資の都合から大量生産や完璧な再現は難しいと判断しました。また『ガムテープの殺し屋達(グラス・チルドレン)』が一定の規模を持った集団であり、ヘルズ・クーポンの確保において同様の状況に置かれていることを推測しました。
※ロールは非合法の薬物を売る元医者となっています。医者時代は“記憶”として知覚しています。皮下医院も何度か訪れていたことになっていますが、皮下真とは殆ど交流していないようです。
【アーチャー(シュヴィ・ドーラ)@ノーゲーム・ノーライフ】
[状態]:健康
[装備]:機凱種としての武装
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:叶うなら、もう一度リクに会いたい。
0:…マスター。シュヴィが、守るからね。
1:マスター(リップ)に従う。いざとなったら戦う。
2:マスターが心配。殺しはしたくないけと、彼が裏で暗躍していることにも薄々気づいている。
3:フォーリナー(アビゲイル)への恐怖。
4:皮下真とそのサーヴァント(カイドウ)達に警戒。
5:峰津院大和とそのサーヴァント(ベルゼバブ)を警戒。特に、大和の方が危険かも知れない
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「……オイ、皮下」
不機嫌。今のカイドウの態度を一言で表すなら、まさにそれだった。
皮下真が、己のマスター。殺してしまえば、自分もまたこの聖杯戦争の舞台から消滅する。そうと解っていても、カイドウは金棒で潰してしまいかねなかった。
ベルゼバブとの戦い、その決着をつける事は、結果として出来なくなってしまった。
単純な話だ。皮下医院近辺まで対比していた、その院長、皮下が、令呪一画を切ってまでカイドウを呼び戻したからだ。
完全なる、不完全燃焼。気力は十分過ぎる程に漲っているのに、それを発散させるアテがない。ストレスに歪む顔を浮かべるカイドウを、皮下は悪びれもなく見上げていた。
「悪いな総督。状況を考えれば、こうするしか道はなかったんだ。まぁ許してくれや」
謝意の言葉を述べはするが、その言葉には申し訳ないと言う気持ちよりも、お前も同罪だろうがと言う思いの方が強く出ていた。
令呪の消費内容は単純明快。『人の姿に戻った上で自分の所にワープして来い』、たったそれだけだ。
こんな事で令呪を切るなど、馬鹿らしいにも程があると皮下当人もそう思うが、大和が追跡して来かねないこの状況を思えば、近くまでサーヴァントを呼び戻すのは、悪手ではない。
ベルゼバブとの戦闘で最高にハイ・ボルテージになっているカイドウに、皮下の声が届くとも思えない。そもそも物理的にも、届く訳がない。なぜならカイドウらは高度1500m以上の高さで戦っていたのだから。
口にこそだしてないが、要は『お前ちゃんとしろよ』と言う思いを、皮下は発散させていた。
新宿区は滅茶苦茶に破壊してしまい、最早完全に申し開きが出来ない状況だ。カイドウの姿が余りに目立っていた為に、『新宿区の事変はカイドウ1人によって齎された』。
そう考えられてもおかしくなかった。無論当事者は、新宿を襲った異変が、ベルゼバブとカイドウの衝突であり、カイドウ1人によるものじゃない事は理解している。
ただ、それを理解できている者は極々少数。しかもベルゼバブの方は大きさが人間相応で、人間の目には視認不能なマッハ3近い速度で移動していた為、普通は解る筈などない。
誰が如何見たとて、カイドウが全部悪い、と見られてもおかしくない状況だ。こうなると非常に厄介だ。いよいよもって本格的に、叩かれかねない状況なのだから。
「……チッ、おれも甘くなっちまったモンだ。良いぜ、皮下。俺も遊び過ぎた。許してやらぁ」
「流石、海より深い懐だ。サンキュー総督。……今鬼ヶ島って言うか、皮下医院に戻るのは危険だ。臨時のアジトにでも戻ろうや」
と言って皮下は、念話でカイドウに霊体化を促し、それを受けてカイドウは直ぐにこれを実行。
皮下医院から少し離れた裏路地から、駆け出して移動。皮下医院には行かないと言ったが、状況だけは確かめる必要がある。
様子を見てから、別所に用意したアジトで息を潜めようと言う腹だ。そして、数分で目的地に到達し――その場所に来た事を、激しく公開した。
「……おわ~…………………………………………」
見慣れたものが、皮下医院を『圧し潰す』形で転がっていた。
特にカイドウは、ものの正体をよく認識していた。なんて事はない。『鬼ヶ島のドクロドームの巨大な角』が、皮下医院と言う建造物を圧し潰して破壊してしまっているのだ。
無論、角そのものが大きすぎる為、周辺の建造物も跡形もなく破壊してしまっているし、子供の泣き声や大の大人の叫び声が、痛くなる程に良く聞こえてくる。
ベルゼバブとカイドウの激戦、その余波の一つだった。
破壊されたドクロドームの頭頂部、その破片が空中を舞った時、角が偶然、空間に空いていた裂け目の中に取り込まれ、その裂け目の繋がる先が、皮下医院の上空で。
それがそのまま勢いよく落下して、現在に至ると言う訳だ。その結果が、破壊された皮下医院プラス、左右合わせて十七棟分の家屋の破壊、道路の粉砕と言う現象な訳である。
「……お家が一番!!(オズの魔法使い)」
「おう、そうだな」
カイドウとベルゼバブとの戦いの余波が漸くなりを潜め、元の夕焼け空に戻りつつある東京の天を見上げ、皮下は、100年ぶり位にマジ泣きしそうになっているのであった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
「オラーッ!! ゴミクズ共ォ!! キリキリ働けぇ!! カイドウさんが来る前に塵一つ残さずに瓦礫を片付けておけえ!!
と言うクイーンの発破に対して、「いや無茶っすよ」と口にする部下は一人もいない。
クイーン自身が偉いと言うのもあるのだが、それ以上に、カイドウの方を怒らせると本気で怖い事を、骨身に染みて理解しているからだ。
だから、百獣海賊団の面々は、瓦礫を必死に退かしていたり、ゴミやら何やらを片付け、急ピッチで畳を張りなおしたりと。カイドウが戻って来ても良いような体制を整えているのであった。
「クイーン様!!」
と言って、ギフターズの一人がカイドウの下へとやって来た。
腹の部分に意思を持った象の頭が融合しているような人物で、クイーン程ではないが、一般人からすれば畏怖の対象そのものにしか映らない恐るべき巨漢であった。
「おう、如何だった。被害の方は」
「全然無傷じゃありません!! 葉桜とか言う奴の研究施設も7割程破壊されて、クイーン様が実験していた連中らもかなり殺されてて……」
頭が痛くなるクイーン。
ベルゼバブとカイドウの戦いが早期に終わる事を祈っていたのはこれが理由である。
鬼ヶ島は勿論の事、自分の研究成果である様々な化学兵器にまで累が及ぶのではないかと、ずっと不安だったのだ。
結果は案の定とも言うべきもので、振出しに近い形に戻ってそうなのだった。今から0スタートは、中々精神的に来るものがある。
「……殺されてるだけに終わったのか?」
「? と言うと?」
「お前も見ただろ、鬼ヶ島中に生じた、あの空間の裂け目!! アレに呑まれた奴も、いるんじゃないのか?」
「……あっ、そうです。そうなんです。余波の衝撃波とかで死んでる連中も居ましたけど、そもそも裂け目に呑まれて消息不明の奴も……」
「馬鹿野郎それも併せて報告しやがれ!! だからテメェは何時まで経っても監獄長で出世が止まるンだよ!!」
「す、すいませんクイーン様!!」
「ったく……で、めぼしい奴らは呑まれたのか?」
「それが……クイーン様があのウィルスのサンプルに使ってたガキ2人ですが……」
誰だっけ、と言うような態度で顎に手を当てて考え込むクイーンだったが、直ぐに合点がいった。
「お~~~~~~~~~~~~!! いたいた、『はおり』とか言う女と、『みくる』とか言う奴だな!?」
「……灯織とめぐるでは?」
「良いんだよ細かい事は!! ……もしかして、アイツらが?」
「ハイ。裂け目に呑まれた事を、目撃した奴がいます」
「マジかよ~……」
クイーンは露骨に残念がる。
被検体としては貧弱だったが、限界を超えた痛みに苦しむ度に、『真乃』と呼ばれる少女の名を口にして、歯が砕ける程の勢いで食いしばる様子は、中々感動的な物があった。
『デク』の鑑である。その健気さに敬意を払って、早くこの苦しみから解放させてやろうと言う老婆心から、一足飛びに人体実験を終えられるものを、クイーンは投薬していたのだ。
「折角の研究の経過、見れずじまいになりそうか……!! 残念だ……ああ、残念だ!!」
「この世界の奴らに『氷鬼』のウィルスがどれだけ効くのか、ってのは後々に繋がるデータになるのによぉ……!! ああ、惜しいぜ、ババヌキよぉ!!」
【新宿区・皮下医院跡地/一日目・夕方】
【皮下真@夜桜さんちの大作戦】
[状態]:肉体的損傷(中)、魔力消費(中)
[令呪]:残り二画
[装備]:?
[道具]:?
[所持金]:纏まった金額を所持(『葉桜』流通によっては更に利益を得ている可能性も有)
[思考・状況]
基本方針:医者として動きつつ、あらゆる手段を講じて勝利する。
1:戦力を増やしつつ敵主従を減らす。
2:病院内で『葉桜』と兵士を量産。『鬼ヶ島』を動かせるだけの魔力を貯める。
3:沙都子ちゃんとは仲良くしたいけど……あのサーヴァントはなー。怪しすぎだよなー。
4:全身に包帯巻いてるとか行方不明者と関係とかさー、ちょっとあからさますぎて、どうするよ?
5:283プロはキナ臭いし、少し削っとこう。嫌がらせとも言うな?
星野アイについてもアカイに調べさせよう。
6:灯織ちゃんとめぐるちゃんの実験が成功したら、真乃ちゃんに会わせてあげるか!
7:峰津院財閥の対処もしておきたいけどよ……どうすっかなー? 一応、ICカードはあるけどこれもうダメだろ
8:つぼみ、俺の家がない(ハガレン)
[備考]
※咲耶の行方不明報道と霧子の態度から、咲耶がマスターであったことを推測しています。
※会場の各所に、協力者と彼等が用意した隠れ家を配備しています。掌握している設備としては皮下医院が最大です。
虹花の主要メンバーや葉桜の被験体のような足がつくとまずい人間はカイドウの鬼ヶ島の中に格納しているようです。
※ハクジャから
田中摩美々、七草にちかについての情報と所感を受け取りました。
※峰津院財閥のICカード@デビルサバイバー2、風野灯織と八宮めぐるのスマートフォンを所持しています。
※虹花@夜桜さんちの大作戦 のメンバーの「アオヌマ」は皮下医院付近を監視しています。「アカイ」は星野アイの調査で現世に出ました
※皮下医院の崩壊に伴い「チャチャ」が死亡しました。「アオヌマ」の行方は後続の書き手様にお任せします
※ドクロドームの角の落下により、皮下医院が崩壊しました。カイドウのせいです。あーあ
皮下「何やってんだお前ェっ!!!!!!!!!!!!」
【ライダー(カイドウ)@ONE PIECE】
[状態]:肉体的損傷(小)、魔力消費(中)
[装備]:金棒
[道具]:
[所持金]:
[思考・状況]
基本方針:『戦争』に勝利し、世界樹を頂く。
1:鬼ヶ島の顕現に向けて動く。
2:『鬼ヶ島』の浮上が可能になるまでは基本は籠城、気まぐれに暴れる。
3:リップは面白い。優秀な戦力を得られて上機嫌。
4:リンボには警戒。部下として働くならいいが、不穏な兆候があれば奴だけでも殺す。
5:アーチャー(ガンヴォルト)に高評価。自分の部下にしたい。
6:峰津院大和は大物だ。性格さえ従順ならな……
7:ランサー(ベルゼバブ)テメェ覚えてろよ
[備考]
※皮下医院地下の空間を基点に『鬼ヶ島』内で潜伏しています。
※鬼ヶ島の6割が崩壊しました。復興に時間が掛かるかもしれません
[全体の備考]
※ベルゼバブとカイドウとの戦いの余波により、皮下医院周辺及び、新宿区の新大久保を中心とした直径数㎞範囲に、赤い空の拡大と積乱雲による落雷やスコール、スーパーセルの発生による暴風や広範囲の電波障害や水の煮沸、凍結などの怪現象が発生しました
※上述の余波によって、1万人近いNPCに被害が出、また数百~棟以上の建造物が崩壊しました
※鬼ヶ島内界に生じた時空の裂け目に、『氷鬼』に感染させられた風野灯織&八宮めぐるが界聖杯の東京に弾き飛ばされました。場所の方は後続の書き手様にお任せします
時系列順
投下順
最終更新:2021年11月28日 14:39