◆◇◆◇
息を吸って、吐く。
二度、三度。
深呼吸を繰り返す。
心は、揺れ動いたままだ。
身体が、震える。
冷たい風が、肌に刺さる。
「きらめく、星の力で」
歌を、紡いだ。
一人の少女が、奏でた。
自らを鼓舞するように。
自らを奮い立たせるように。
己が“変身”するための歌を、その喉から絞り出す。
「憧れのワタシ、描くよ―――」
憧れの自分。
なりたい自分。
私らしい私。
―――どこへ、いってしまったのだろう。
星は、見えない。
ひどく、薄暗くて。
か細い唄声は、闇へと沈んでいく。
夜が、好きだった。
顔を上げた先は、煌めきに満ちていたから。
満天の星空を、見上げることができるから。
星は、いつだって輝いている。
ひとつひとつ。それぞれの個性。
違う形で、バラバラの光。
空に浮かぶ星は、みんな独りぼっち。
それでも、精一杯に。
自分らしく輝き続けて。
そして、他の星々の煌めきと結びついて――星座を作っていく。
それはまるで、人と人の繋がりみたいで。
彼女は、そんな絆を手に入れていた。
あの日、宇宙からやってきたララたちと出会って。
ひょんなことで、チカラを手に入れて。
ノットレイダーから宇宙を守るために戦い続けて。
そうして日々を重ねて、彼女の世界は広がった。
“一人で好きなことをする”のも、変わらず好きだったけれど。
“みんなといること”も、同じくらい好きになった。
そして、この世界や宇宙には色々な輝きがあって。
誰もが違う想いを背負っているからこそ、反発し合うこともあって。争うこともあって。
責任を貫くことの重さも、歩み寄ることの難しさも、何度も噛み締めて。
それでも―――分かり合おうとする意思だけは、絶対に捨てなかった。
この宇宙は、誰かのものじゃない。
みんなのものだからこそ、手を伸ばせる。
誰もがバラバラだからこそ、世界は眩しい。
それぞれのイマジネーションが未来を創り、繋げていく。
無垢な少女は、仲間達と共に現実や困難と向き合い。
宇宙を侵略する敵と戦い続け、そして手を伸ばし。
ついには、宇宙さえも救ってみせた。
銀河に伝わる伝説の存在、プリキュア。
彼女は―――
星奈ひかるは、英雄だった。
5人の少女達が歩んだ道は、掛け替えのない日々となり。
そして、紛れもない神話になった。
――きっと、なんだってできる。
――何処までだって、輝ける。
――私達のイマジネーションは、“キラやば”だから。
星は変わらず、そこにいるのに。
ああ、どうして。
夜がこんなに、暗いんだろう。
ひかるは、血に濡れた脚で弱々しく進む。
この地上で、星は独りぼっちだった。
側に仲間は居ない。
共に結びつく“想像の輝き”は、何処にもない。
一人には慣れていたはずなのに。
一人でも平気だったはずなのに。
ひかるは、孤独に苛まれていた。
ほんの少し前の光景が、脳裏によぎる。
守るべき人達が、異形へと成り果てた。
痛ましい慟哭を絞り出しながら。
“少女達”は藻掻き、摩耗し、凄惨な姿を晒した。
絶対になんとかする。絶対に助ける。
そんな誓いは、水泡に消えた。
知っている。理解している。
星々の光は、時に交われないこともある。
想いや矜持があるからこそぶつかり合うし、酷いことをする人達だっている。
星奈ひかるは、分かっている。
彼女は、宇宙を見たのだから。
それでも。
あの惨劇を前にして。
少女達の返り血と共に。
ひかるの心には、深い傷が刻まれた。
無垢な輝きは、夜の闇に淀んだ。
――寒い。
――ひどく、寒い。
それでも、彼女は進み続ける。
痛みを背負いながら、血に汚れながら。
ただひとつの明星は、災厄の現場と化した路上へと立つ。
凍えるような霜を纏う、“鬼の群れ”がいた。
氷に包まれたような姿をした彼らが、
星奈ひかるへと殺意を向ける。
あの怪現象の犠牲者達。その、成れの果て。
感染は際限なく広がり、地獄を作り出していく。
再びひかるは、深呼吸をする。
震える吐息に、見て見ぬ振りをする。
これ以上の拡大を食い止める。
苦しむ“あの人達”を救う。
戦える者としての責任を背負う。
どうすればいい。
どうしたら、止められる。
――悩むまでもない。
答えなんか、分かりきっている。
とっくの昔に。
これが“慈しい鬼退治”だったら。
どれほど良かったのだろう。
淡い希望は、夢となって消えていき。
そして。英雄、キュアスターは。
勢い良く地を蹴り、“氷鬼”へと目掛けて駆け出した。
◆◇◆◇
《あー、こっちは大丈夫だよ。
そんな心配しないで》
デトネラット本社内、数人規模の簡素な小会議室。
“個人的な連絡”の為にその一室を借りていた
星野アイは、キャスター付きのチェアに腰掛けながらスマートフォンで通話していた。
慌てて心配した様子の通話相手――苺プロダクションの社長に対し、アイはいつもの調子で応対する。
《うん、今は向こうで“避難”させて貰ってる。
大丈夫大丈夫、明日の予定はちゃんと守るから。
……まぁ、この様子じゃ十中八九ダメだろうけど》
“こんな事態”が起きれば、今度こそライブはおじゃんだろうなぁ。
レッスンは手を抜かなかったし、打ち合わせもちゃんと繰り返してきたけど。
多分この調子なら、延期じゃなくて中止になるかもなあ。
――そんなことを考えて、アイは名残惜しい思いを抱く。
《……うん。じゃ、社長も気をつけてね》
そう言ってアイは通話を終える。
やれやれ。そんな表情を浮かべながら、物思いに耽った。
ヴィラン連合の盟主であるMの連絡先は確保した。
"課題/試練(クエスト)"への参与も要求されず、行動は社会的ロールを尊重した自由意思に任された。
さて、これからどうするか。聖杯戦争の只中とはいえ、明日にはライブも控えている。
Mと適当に打ち合わせをしてから、一旦帰路に着こうか。
そう思ってた矢先、“災害”が起きた。
空の色がおかしくなった。天候が狂った。
SNSでそんな情報が流れた矢先、“地響き”と共に“なにか”が起こった。
情報は断片的なまま錯綜している。
各地の情報機関も混乱しているらしい。
多数の救急車や消防車が出動してるとか、各地で大渋滞が発生しているとか。
あちこちで建物や何やらが倒壊してるとか、人が沢山死んでいるとか。
当事者でないアイには何が起こっているのかは分からないし、何が事実なのかも読み取れない。
唯一つ理解できることがあるとすれば、新宿近辺でとんでもない事態が発生しているということだけだった。
アイは状況を把握して安全が確保できるまで、デトネラットで“避難”させて貰うことにした。最悪、ここの施設で寝泊まりすることも考えていた。
戦力拡張に勤しんでいるMがこの段階で自分達を罠に嵌める可能性は低い。
そんなことをするくらいなら、車内の盗聴器を利用して闇討ちなり何なりしたほうが余程効率的だ。
下手に“切られる”危険性が薄い以上、今の時点ではデトネラットは安全な拠点になり得る。
現場が相当酷いことになっているのは容易に想像できる。
そしてこの東京には、それほどの大被害さえも厭わないサーヴァントが跋扈していることにもなる。
――“化け物”のペースになんか合わせたくないけど。
――あちらさんはきっと、お構い無しなんだろうなぁ。
アイは改めてそれを認識して、溜息を吐く。
ライダーのサーヴァント、
殺島飛露鬼はいま傍には居ない。
新宿方面で何が起こっているのか、確かめておきたい――という話だった。
情報収集なんか別にM達に任せればいいのにとアイは思ったが、ライダーはあくまで自分の目に焼き付けたい様子だった。
曰く、“懐かしい匂い”がするらしい。
だから、久しぶりに“地獄”の風を感じたい。
そのようにライダーは告げていた。
ああ、偵察って言うか“そっち”がメインなんだろうなぁ――アイはそう思っていた。
尤も、ライダーの私用をアイは特に咎めたりはしなかった。
彼のことは信頼しているし、聖杯戦争が始まってから常に世話になり続けている。
自身の願いの意味を理解してくれるライダーに対して、アイが少なからず気を許してるのは事実だった。
だからこそ、多少の“自由行動”にも目を瞑る。
本人も「ヤバくなったらすぐに撤退する。“警察(サツ)”や“怪物(もっとヤベェの)”から逃げんのには慣れてる」と言ってたので、それを信じることにした。
やっぱとんでもない経歴だなあ、とアイは密かに思う。
「……さて」
そうしてアイは、通話を終えたばかりのスマートフォンを操作する。
そのまま慣れた手付きでメッセージアプリを開く。
画面を細い指先でスクロールし、登録された多数の連絡先を眺めた。
プロダクションの社長。同じユニットの娘。業界での知り合い。顔見知りのアイドル。ちょっとした友人エトセトラ。
そんな面々を尻目に、アイは日中に接触したばかりの相手の連絡先を見つめた。
櫻木真乃。
彼女は、283プロダクション所属のアイドルであり。
この聖杯戦争に参加している、マスターの一人であり。
アイの同業者であり、利用対象だった。
紙越空魚が不審な動きを見せないよう牽制するべく、真乃には定期的に連絡を入れる。
そういう方針を決めていたし、今回の“災害”はある意味でその取っ掛かりにもなる。
友人の安否を心配する同業者として連絡を入れ、それとなく相手の現状を探る。
そうして“友好的なフリ”をしながら相手を飼い慣らし、空魚との駆け引きにも目配せする。
アイは、真乃に連絡を入れようとした。
しかし。指が一瞬、動きを止めた。
直感というか、何というか。
ほんの少しだけ胸騒ぎがした。
詳細不明の“大災害”。
多数出ているという“被害者”。
なにか、妙な予感がして。
一呼吸をしたあと。
そんな疑念を隅に置き、真乃の携帯電話へと“発信”した。
◆◇◆◇
―――真乃さん。
―――ごめんなさい。
その一言を告げられたとき。
自分は一体、何を思ったのだろう。
答えは、分からなかった。
何故なら、受け止めることが出来なかったから。
言葉の意味を察して、ただ呆然とすることしか出来なかったから。
“新宿を出て、安全なところへ”。
ひかるから、そう頼まれて。
櫻木真乃は、宛もなく逃げ続けて。
行き先もわからないまま、彷徨っていた。
区の境目付近まで辿り着いたところで、彼女はぐったりと壁に寄りかかった。
そのまま小さな段差に座り込み、茫然と俯く。
そこは、ビルとビルの隙間にある路地裏だった。
周囲に人の影はいない。放置されたゴミが側に転がっている。
真乃は、打ち拉がれて。
胸の真ん中に、空虚な穴が生まれていた。
心が疲弊して。擦り減って。
どうしようもない現実に打ちのめされて。
まるで魂のない抜け殻のように、その場に留まり続けていた。
そんな矢先。
懐にしまっていたスマートフォンが、振動した。
思わずビクリと震えた真乃は、画面を確認する。
―――
星野アイからの着信だった。
ほんの少しの躊躇い。そして、確かな恐怖。不安。
窶れた心を誤魔化しながら、恐る恐る通話に出た。
《もしもし……アイさん?》
《凄い“地震”だったけど、大丈夫?》
電話に出た真乃は、通話相手のアイからそう問いかけられる。
なんてこともない彼女の態度に、真乃は仄かな困惑を覚える。
《私は……平気、です》
《そっか。多分、明日の予定も危ういだろうけど……。
ともかく、無事なら安心だよ》
真乃の身を案じていたようにアイは言う。
穏やかで、真摯で。そんな声色の言動に対して、真乃は後手に回る。
罪悪感のような後ろめたさが、彼女への追求を足止めさせる。
《あとさ。あの子も、大丈夫なの?》
《え……》
《真乃ちゃんと一緒にいるんじゃないの?
なんか変な炎上してたけど、あの子》
誰のことを言っているのかを、真乃はすぐに理解できた。
神戸あさひ。あの公園で自身を気遣ってくれた、優しい少年。
そして、何者かの手によって槍玉に挙げられてしまった不幸なマスター。
真乃が問いかけるよりも早く、アイは矢継ぎ早に聞く。
一緒にいるんじゃないの。その一言が、ずきりと真乃の胸に突き刺さる。
まるで罪悪感をわざと抉るかのような言葉に、真乃は歯切れの悪い返事をする。
《その、あの後……別れて》
《ふうん。……別れた直後の隙を狙って、あんなことしたのかな。
すぐに鎮火したのも引っかかるけど……》
思いを巡らせるように、アイは白々しく呟く。
彼女はあさひが炎上した一件の真相を知っている。その裏に潜む“蜘蛛”と接触したばかりなのだから。
しかし、真乃には悟らせない。あくまで「自分にも分からない事態が起きている」かのように装う。
現にこの東京では、予想だにしないことが繰り返されている――先程の大災害のように。
少なくとも彼女達にとって、この聖杯戦争における“あらゆる能力の上限”は全くの未知数だ。
どれだけ曖昧な可能性だったとしても、それが絶対に起こり得ないと断言することは何よりも難しい。
《詳しいことは分からないけど……気を付けてね、真乃ちゃんも。
ここのところ、“パパラッチ”が酷いことしてるみたいだから。
何処から狙われるかなんて分かったものじゃない》
嘘をつくことは、
星野アイの特技だ。
すらすらと、台本を読むように言葉を重ねる。
神戸あさひとはもう別れてるし、何が起こってるのか分からないけど、怪しい動きはあるみたいだから気をつけようね。
それだけの無難な対応。だからこそ、真乃は何も言えなかった。
摩美々の手を借りずにアイとの対話をする筈だったのに、言葉が上手く出てこない。
もっと聞きたいことがある。聞かなきゃいけないことがある。
《……あの。アイさん達に、会いたがってた人達って―――》
《ごめん。あれ、罠だった》
え、と真乃は声を上げる。
《ほら、“子供たち”。あさひくん達を追跡してたみたいに、私にも目を付けてたらしくて。
ライダーって、あいつらの知り合いだったでしょ?だから標的にされたみたい。
で、私達はまんまと釣られたって訳。「あなた達と組みたい」って言う餌に誘き寄せられてね》
梯子を外された様子の真乃をよそに。
なんてこともなしに、アイは嘘を連ねた。
子供達――グラス・チルドレンを、都合の良い避雷針として利用した。
彼らの残忍ぶりも、狡猾ぶりも、真乃達はライダーを経由して知っている。そして、その実態を目の当たりにしている。
《ごめんね。暫くあいつらに気取られないようにしてたから、どうしても連絡が遅れちゃった。
あいつら、あちこちでああやって別個に遊撃してたんだと思う》
そして、真乃は283プロダクションの騒動も知っているからこそ、“グラス・チルドレンの暗躍”を否定できない。
《だから……真乃ちゃん達も気を付けたほうがいいよ。
そうやって“手を組みたい”って近寄ってきて、罠に嵌めようとしてくる奴がいるから》
それでも、アイへの疑惑は完全に晴れた訳ではない。
情報は全て、あくまでアイを経由して語られたものだ。
ここで追及しなければ、真乃はその機会を失う。
責任を改めて自覚して、それを貫くはずだったのに。
真乃の口は、上手く動いてくれない。
聲が喉につかえたまま、堰き止められている。
理由は、単純だ。
―――真乃…わたしたち、頑張ったよ……。これからも、もっと…もっと頑張るから……。
真乃は、疲弊していた。
―――わたしが……わたしが必ずどうにかします! だから、今は!
真乃は、憔悴していた。
―――ごめんなさい。
―――わたしはまだやることがあります。
アイを問い詰めようとしても。
立ち向かおうとしても。
その脚は、酷く傷付いていて。
勇気も、責任も、雁字搦めになる。
風野灯織。八宮めぐる。
真乃の大事な仲間で、大切な親友。
真乃は知っていた。
二人は本当に良い子で、本当に優しい子だということを。
真乃は分かっていた。
あの子達は、何も悪くない。
何も悪いことなんてしていない。
酷い目に遭わなくてはならない理由なんて、あるはずがない。
なのに。なのに、なのに。
二人の変わり果てた様子は、真乃の瞳に焼き付いている。
青白い肌も。ボロボロの唇も。
あちこちが酷く凍りついていた身体も。
苦痛にまみれた表情も、叫び声も。
自身の一言で豹変してしまった、あの瞬間も。
そして。そうなっても尚、友達/真乃のことを想い続けている、その姿も。
全部、全部。真乃の記憶に、鮮烈に刻まれていた。
私が、必ずどうにかしますから。
信じてください、真乃さん。
アーチャー/ひかるはそう告げて、真乃を送り出した。
真乃は、ひかるを信じた。
何とかしてくれる。大丈夫。ひかるちゃんなら。きっと助けてくれる。灯織ちゃんも、めぐるちゃんも、無事でいられる。
そう信じた。信じていた。
けれど。ひかるから告げられた一言は。
事の顛末を、残酷に訴えかけていた。
何が起きたのか。
どうしてそんなことになったのか。
それを問い質す勇気なんて、真乃には無かった。
あの時のひかるに問い詰められるほど、真乃は冷淡にもなれなかった。
ただ、確かに分かること。
綺麗だった星々は。
虚しく散らばる、星屑になった。
それだけが、現実だった。
《……ねえ》
暫しの沈黙を破ったのは、アイの呟きだった。
彼女が紡いだ言葉に、真乃は思わず現実へと引き戻される。
《何か、あったの?》
探りを入れるように。あるいは、案じるかのように。アイは純粋な疑問を投げかけた。
真乃の身に、何かあったのか。言うまでもなく図星だった。
アイの問いかけを前にして、真乃は沈黙する。
ほんの数時間前。
電話越しに摩美々から告げられた言葉が、真乃の脳裏に蘇る。
仕方なかった。
願いを叶えるためだった。
だから、貴方は幸せにならないで。
この想いのために、犠牲になって。
――そんなのは、ズルい。
仕方ないなんて、割り切りたくない。
ましてや、その為に大切な人達が踏み躙られるのを、許したくなんてない。
あの時の真乃は思った。
摩美々の言うことは間違いではない。
それでも、誰かに歩み寄る意思だけは捨てたくない。
願いのため。生きるため。大切な誰かのため。
ひかるが抱いてきたもの、向き合ってきたもの―――イマジネーションと同じ。皆、それぞれの気持ちを背負いながら歩き続けている。
例え相容れなくても、争うことになったとしても。そうするに至った気持ちは、否定したくない。
それが真乃とひかるの祈り。そして摩美々から“任されたこと”であり。この聖杯戦争における、彼女達の矜持だった。
心は、硝子細工だ。
無垢であるほど、容易く砕ける。
親友二人の変わり果てた姿。
人々が凍り付く、悪夢のような光景。
ひかるから告げられた顛末。
どれだけ優しい人間だろうと、罪無き人間だろうと、関係はない。
戦争という盤上において、残酷な現実というものは――否応なしに立ちはだかってくる。
真乃には、受け止められなかった。
《……アイ、さん》
言葉がつかえそうになる。
恐怖と動揺が、胸の内でざわめく。
《灯織ちゃんも……めぐるちゃんも。
いつだって、私のそばにいてくれました。
とっても良い子達で、大好きな友達でした》
それでも、真乃は強張りかけた声を絞り出す。
《本物じゃないかもとか、可能性が無いとか、そう言われても納得できないんです。
だって。灯織ちゃんとめぐるちゃんは、確かここで生きてたから。
優しくて、あたたかくって。二人は、二人のままでした》
取り留めもなく。それでも、確かに彼女は。
自分自身の胸の内を、吐き出していく。
《……だから、わからないんです。
なんで、こんなことになっちゃったんだろうって》
飾ることなんて、しない。
いつもの明るさは、影に覆われて。
疲れ切った声で、真乃は零す。
《なんで、あんなことができるんだろう。
考えてみても、わからないんです。
……分かり合おうとする気持ちは、捨てちゃ駄目だって。そう思ってたのに》
“聖杯戦争”。たった一つの願望器を巡る戦い。
願いの為に、生きる為に、他の誰かを蹴落としていく。
その結果が、“あれ”だというのなら――。
《どうすればいいか、わからない》
ぽつりと、呟いた。
《そう、思ってしまいました》
今にも泣き出しそうな声で。
アイにも伝わるほどに、震えた言葉で。
真乃は、告白する。
《戦うことが、ああいうものなら。
願いの為に、なんでもできるのなら。
アイさんも……》
――そして。
《いつかは、“ひどいこと”をするんですか》
真乃は、そう問いかけた。
抑えられない疑心と恐怖。
言葉は、か細い刃となって。
通話先の相手へと、弱々しく突きつけられる。
そして。
沈黙が、場を支配する。
ほんの数秒。あるいは、十数秒。
互いの小さな呼吸音だけが、耳に入る。
ほんの刹那の時間であるはずなのに。
まるで永遠のような静寂が続く。
電話越しのアイは、答えを返さない。
何を思っているのか。どう感じているのか。
真乃にはそれを知ることはできない。
ただ一つ、確かなことは。
向こう側にいるアイは、真顔のまま沈黙していたということだった。
◆◇◆◇
今、ここで防がなければ。
“氷鬼”を、捕まえなければ。
野放しにしてはいけない。
止められるのは、ここにいる自分だけだ。
彼女は言い聞かせる。
自分を奮い立たせる。
赤い血で汚れた衣装を、靡かせながら。
少女/キュアスターは、走り出す。
―――どうするの?
彼女の中で、彼女自身が問いかける。
捕まえる。あの怪物達を。
元は普通の人達だった、あの鬼の群れを。
―――何ができるの?
彼女の中で、声が反響し続ける。
考えろ。考えろ、考えろ。
自分の背中を必死に押し続ける。
生前の親友達を思い浮かべながら。
守るべき存在である、真乃のことを考えながら。
―――無理だよ。
誰かが、彼女の中で囁いた。
ほんの一瞬。刹那の時間。
思考が、永遠のように感じられる。
―――無理なんかじゃない。
彼女が、彼女を否定する。
必死に、必死に拒み続ける。
考えろ。もっと考えろ。
どうすればいい。どうすれば。
―――無理だよ。
―――無理じゃない。
―――無理だよ。
―――無理じゃない。
―――無理だよ。
―――無理じゃない!
自問自答。
繰り返される否定と拒絶。
コンマ数秒の合間に、キュアスターの心が激しく揺れ動く。
伸るか反るか。留まるか、抗うか。
二択の道が、彼女の眼前に立ちはだかる。
いいや。
選択肢など、初めから有りはしない。
キュアスターの脳裏で繰り返される光景。
己の罪が、幾度となく木霊する。
風野灯織と、八宮めぐる。
真乃の大切な人達が、変わり果てた姿で現れ。
苦痛に悶え苦しむ彼女達は、ふとした一言で“豹変”し。
憤怒の表情を浮かべ、味方であるはずのキュアスターへと襲い掛かった。
真乃を守る。サーヴァントから、真乃を救う。
彼女達は、そう呻き続けた。二人は、紛れもなく真乃の親友だった。
優しくて。友達思いで。健気で。
なのに。なのに、なのに。
あんなことに、なってしまって。
あの娘達でさえ救えなかったのに。
どうして、彼らを救えると思っているんだろう。
とっくのとうに、分かっているくせに。
刹那の思考から抜け出し。
一瞬の現実が迫り。
そうして、キュアスターは。
流れ星のように、突撃して。
一直線に突き出した右拳で。
氷鬼の一体を―――吹き飛ばした。
勢いよく道路を転がる氷鬼。
推進力を乗せた一撃を受け、胴体からは血と氷の結晶が撒き散らされ。
その手足は、衝撃によって引き千切れんばかりにへし折れていた。
キュアスターは左手を地面に付けて、滑るような急ブレーキを掛ける。
荒い呼吸を整える。
冷静になれ、冷静になれ。
そうやって自分を押し殺す。
周囲にいた氷鬼たちはキュアスターの突進時の衝撃によって仰け反り、後退していた。
それでも尚、獰猛な本能に従うかのように彼女を取り囲む。
態勢を整えたキュアスターは、怪物達を見渡して構えた。
私。何やってるんだろう。
少女の脳裏に、そんな一言がよぎる。
虚しさと遣る瀬無さが、押し寄せてくる。
助けるんじゃなかったの。
治す方法を見つけるんじゃなかったの。
灯織さん。めぐるさん。
二人を助けられなかったなら、せめてこの人達は―――。
そんなふうに思いを巡らせても、全て風のように吹き消えていく。
他に手立てなんて、なかった。
これ以外に出来ることなんて、ない。
彼女は、“諦めていた”。
キュアスターは、“こうするしかない”と受け入れた。
“私らしい私”なんて、ここには居ない。
酷いことも、悲しいことも。
“こうするしかなかった”なんて、受け入れたくない。
誰かが辛い思いをするような結末を、“仕方なかった”なんて割り切りたくない。
それが、キュアスターの望んだ“自分の在り方”。
しかし、彼女は自分を誤魔化して。
痛みを抱えたまま、立ち続けていた。
最初から、分かっていた。
“伝染病”によって次々に鬼と化す人々。
魔術に長けている訳でもないキュアスターにさえ感じ取れた、不安定な魔力。
ガタガタで、継ぎ接ぎだらけで。
鬼になった人達の身体を、ボロボロに壊していく。
苦しい。苦しい―――魔力が、生気が、彼らの中で悶えていた。
それは、いつ沈んでもおかしくない泥船のようで。
初めから気付いていた。
選択肢など無かった。
分かっていたけれど、分かりたくなかった。
だから拒絶を繰り返して。
それでも、受け入れざるを得なかった。
――もう助からないし、長くはない。
そんな結論に至った。至ってしまった。
だから。もう、迷わなかった。
自分のやるべきことを、貫いた。
再び、意識が現実へと戻る。
視界に入ったのは、迫り来る敵だった。
右腕の拳を、横薙ぎに振るった。
2体の氷鬼を巻き込み。頭部を拉げさせ、砕け散らせ。
コンクリートの路上へと、勢いよく吹き飛ばした。
それに続いて、背後から飛び掛かってきた氷鬼に反応し。
振り向きざまに放った回し蹴りで、脇腹から胴体を抉り取る。
そのまま間髪入れずに、左側面から突進してきた氷鬼に右拳を振りかぶる。
そして―――流星のような突きで、顔面を一撃のもとに叩き潰す。
氷晶が舞う。超低温の破片が飛び散る。
震えるような冷気の中、肉片が弾ける。
人だったモノの残骸が、次々に転がる。
数はまだ、多い。
鬼は未だ、半分も削れていない。
英霊には遠く及ばない異形が、蠢く。
キュアスターは、その瞳を濁らせる。
全力を出せれば、敵にもならなかっただろう。
慈悲を捨てることが出来れば、容易に殲滅できただろう。
そう在れるなら、きっと彼女は彼女でなくなる。
諦めへと直面しても尚、彼女は彼女のままだった。
手を取り合って、困難を踏破して。
それぞれの輝きを胸に、突き進んで。
誰かへと手を差し伸べ、世界を救う。
それが、ヒーロー。
それが、プリキュア。
だから。
力を振り絞れずとも。
立ち向かうしかない。
戦うしかない。
走り出すしかない。
何がしたいの。
何をやりたいの。
私は、どうしたかったの。
何度も、何度も、彼女の中で反復し続ける。
撒き散らされる冷気を振り切り。
襲い来る氷鬼を凌ぎ、躱し。
そして、拳によって容易く粉砕し。
そんなことを繰り返して、何度も。
永遠のような悪夢の中で、彼女は彼女に問い続ける。
――憧れの私って、何?
――これが、私の望みだったの?
わからない。答えは出てこない。
寒い。
暗い。
怖い。
痛い。
辛い。
苦しい。
悲しい。
激しく渦巻く感情。
吐き気のするような濁流。
全力が出せなくとも、氷鬼など相手にもならない。
キュアスターは傷一つ付いていないし、苦戦などする筈もない。
なのに、彼女の胸の内は。苦痛に支配されていて。
戦いの中で、心がどんどんすり減っていって。
それでも、拳を振るう。
氷鬼を砕き続けて、彼女自身の心にもヒビが入って。
それでも、拳を振るう。
ヒトだった彼らの亡骸を、踏み越えて。
それでも、拳を振るう。
戦って、戦って、戦い続けて。
キュアスターの瞳からは、星が掻き消えた。
やっと、半分。
それでもまだ、氷鬼は数多く残っている。
灯織とめぐるを弔っていた合間。
その最中にも、数を増やしていた。
一瞬の隙で、更なる犠牲を増やしてしまった。
キュアスターは、呼吸を整える。
まだ、まだだ。自分がやらなければ。
ここで屈したら、私は――――。
空を見上げられなくなった時。
人は、何を見つめるのだろう。
それはきっと――薄汚れた、足元だ。
「―――あ……」
足元に転がる、氷鬼達の残骸。
身体は砕け。手足は千切れ。
氷晶と血肉の入り混じったものが、散乱している。
それだけでは、ない。
可愛らしいピンクのケースに包まれた、スマートフォンが落ちていた。
学生が使うようなポリエステル製のリュックサックが、転がっていた。
老眼用の眼鏡や、歩行用の杖が、無惨に砕け散っていた。
幼い子どもが履くような、小さな靴が取り残されていた。
視界の端々に映るもの。
ここで沢山の人が犠牲になった証。
氷鬼たちが人間だったという証。
どれも、同じ。霜と血で汚れていた。
それらを、目にしてしまった。
星空を見上げることを恐れて。
キュアスターは、足元を見てしまった。
そうして少女は、鬼達に囲まれる中で。
その動きを、止めて。
両膝をついて。
変身が、解けた。
キュアスターだった少女、
星奈ひかるは。
ただ呆然と、その場で俯く。
どうしようもない無力感。
闇のように深い絶望感。
心が、沈んでいく。
深い深い底へと、落ちていく。
まるで、星が命を使い果たすかのように。
何故、こうなってしまったのだろう。
ひかるは、自分に問い続ける。
何故、誰も救えないんだろう。
ひかるは、自分を責め続ける。
何故、こんなにも痛いんだろう。
ひかるは、己を呪っていく。
―――人殺し。
―――この、人殺し。
あのときの、記憶。
風野灯織の眼差しが。言葉が。
ひかるの胸を、突き刺す。
「ああ……」
一筋の涙が、落ちた。
それは、無垢な少女への罰だったのか。
――違う。
「うあぁ―――」
嗚咽の声が、零れた。
それは、無垢な輝きに課せられた試練だったのか。
――違う。
「うわああぁぁぁ――――――……」
そして。涙も、声も、止め処なく溢れ出す。
それは、無垢な英雄が負うべき責任だったのか。
――断じて、違う。
「ああ、うあああああああぁぁ……――――ッ」
罪ではない。
罰でもない。
必然でもなければ、十字架ですらない。
裏目に出た優しさ。皮肉な結末を齎した愛。誰かを救うことのできなかった善性。
実を結ばぬ徒花に、意味はないのか。
そんな筈がない。
純粋な願いが、無価値である筈がない。
彼女を傷付けるに足る、業である訳がない。
祈りから出た想いが、悪であるものか。
それでも、彼女は打ちのめされる。
運命の悪戯に、翻弄される。
ただ、そうなってしまっただけ。
刻まれる傷に、善悪は関係ない。
痛みで蝕み、痛みで苛む。それだけだ。
痛みの前では、正邪も、道理も、混濁する。
ひかるは、立てなかった。
痛みの前に、膝を付いた。
迫り来る氷鬼達を前にしても。
もはや、戦うことなど出来なかった。
諦めることは。
割り切ることは。
分かり合えないことは。
手を伸ばせないことは。
こんなにも、痛い。
こんなにも、苦しい。
あんなに広かった宇宙が。
ひどく冷たくて、ひどく息苦しくて。
だから、もう。
何も、見えなかった。
何も、感じられなかった。
そうしてひかるは。
襲い掛かる氷鬼達に、何も出来ず。
そのまま、毒牙が眼前まで迫り―――。
爆音が、轟いた。
エンジンの咆哮が、放たれた。
鉄屑の軍勢が、地上を駆け抜けた。
怒号。狂喜。閃光。破壊。混沌。
“漆黒の鉄馬(バイク)”が、群れを成す。
“灰色の大地(コンクリート)”の上を、暴走する。
疾走する鋼鉄。ヘッドライトの光。
それらは無数の流線と化して迸り、ひかるの両脇を風のように次々と突き抜けていく。
制限速度など構いやしない。アクセル全開で突撃を敢行し、地上を闊歩する氷鬼達を容赦なく蹂躙していく。
彼らが人間だった頃の残骸さえも、容易く粉砕されていく。
流星と呼ぶには、余りにもけたたましく。
星々の姿を見出すには、余りにも無機質であり。
だと言うのに―――それは、異様な輝きを放っていた。
暴力と悪徳。退廃と破滅。狂熱に満ちた暴走が、
星奈ひかるの眼に焼き付けられる。
それはまさに、特攻。
明日なき男達の、爆葬。
銀色の雨が、走り抜ける。
煌めいた閃光が、乱れ飛ぶ。
“地獄(テンゴク)”への道は、スパンコールで飾られる。
極光。極星。鋼鉄の極彩色。
入り乱れるヘッドライトの灯火に照らされ、一人の男がひかるの眼前に立つ。
まるで水面の上を渡った“救世主(ジーザス)”の如く、男は悠々と佇む。
「『帝都高爆葬・暴走師団聖華天』」
彼女はただ、呆然と見上げていた。
目の前に立ちはだかった男を、見つめていた。
数時間前に出会った時とは、まるで違う。
気配、魔力――――そして、存在の爪痕。
そこに居たのは、紛れもなく“英霊”だった。
「―――『前夜祭(ファースト・ギア)』」
かつて帝都高(テトコー)を蹂躙した破滅的暴走族・聖華天。
此れは、“その逸話(デンセツ)”の小規模な具現―――いわば宝具の限定的発動。
都市部。潤沢な魔力。発動条件さえ揃えば、“小出し”の発動も不可能ではない。
総勢十万へと達する本来の爆走には程遠い。
その数、百名にも満たず。精々が数十名。
完全開放された宝具と比べれば、火力は遥かに劣る。伝承の再現は愚か、その断片に過ぎない程度の規模だ。
ましてや真の英傑―――サーヴァントと戦う領域(レベル)には、到底及ばないだろう。
「懐かしくなっちまうなァ。
俺達が最期の“青春(ユメ)”を見た――あの夜と同じ“疾風(かぜ)”だ」
しかし、それでも尚。
“悪童(ワルガキ)”達の“神話(カリスマ)”的英雄・
殺島飛露鬼―――彼がそこに君臨すれば。
「俺達も、“疾風(かぜ)“と一つになりたかった。
惨めな人生なんか、振り切りたかった」
明日なき男達は、スパルタの戦士が如き軍勢と化す。
恐れるものなど無い。俺達にはあの御方が憑いている。俺達には“暴走族神(ゾクガミ)”がいる。
神を知らぬ“怪物(ケダモノ)”など―――木偶も同然だ。
理由なき反抗。やがて破滅へと至る“乱暴者(アバレモノ)”。
数十の男達による特攻は、瞬く間に氷鬼たちを粉砕していく。
「“自分(テメー)”がこの世界の主役だと信じてても―――」
ライダーのサーヴァント。“暴走族神(ゾクガミ)”――
殺島飛露鬼が、“煙草(セッタ)”を咥えながら呟く。
ひかるに何が起こったのかを、察しているかのように。
「どうしようもねぇ困難の数々にブチ当たって、最後は“心(タマ)”がへし折れちまう」
憂いを込めた眼差しは、膝を突いたひかるを真っ直ぐに見据えていた。
「辛えよなぁ。嫌になっちまうよなぁ」
苦痛。諦観。遣る瀬無さ。
そして―――根深い共感。
その言葉に宿る感情を、ひかるは感じ取った。
アイの側にいた時の、飄々とした佇まいとはまるで違う。
その姿は、言うなれば。
「“大人になれ”って突き付けられるのは……痛ェよなあ」
現実の壁に直面し、挫折を知ってしまった“大人”だった。
彼が現れたことに驚愕し。
そして、彼が背負う悲哀を感じ取り。
ひかるは、茫然と殺島を見上げた。
そんな彼女の様子を尻目に、殺島は彼女のすぐ横を悠々と通り過ぎていく。
「今回は、散歩ついでの“手助け(スケダチ)”だ。
“特例(サービス)”……って奴だぜ?
ま、そういう訳だ―――」
そう告げながら、ひかるの後方をゆっくりと歩いていく。
そんな殺島へと振り返り、何か声を上げようとした。
しかし、既に遅く。
「―――じゃあな、嬢ちゃん。元気でな」
その一言とともに、殺島は霊体化をしてその場を去っていく。
地上を爆走していた筈の暴走族達も、まるで風が吹き去っていったかのようにその姿を消した。
そうして。鬼達の残骸が散乱する中で。
星奈ひかるだけが、取り残された。
◆◇◆◇
―――いつかは、“ひどいこと”をするんですか。
スマートフォンを片手に、耳を当てて。
星野アイは、沈黙していた。
言葉に詰まっている、というよりは。
真乃の吐露に対して、なにか思いを巡らせているかのように。
咄嗟に慰めの言葉でも投げてやればいいのに――アイの心が、アイ自身にそう囁く。
《んー……》
それでもアイは、考え込む。
《……なんか》
感情を押し殺して。
胸の奥から湧き上がる想いを、留めて。
《なんていうか、さ》
淡々とした声色で、紡ぎ出す。
《真乃ちゃんらしいよね、そういうの》
ふぅ、と一呼吸を置いて。
《あー……なんか、言っていいかな》
思うところがあるかのように、彼女自身もまた打ち明けた。
《……私さ、最初はあんま乗り気じゃなかった》
それは、アイの本心だった。
あまり物騒なことはしたくないし、ライダーに人を殺してほしいとも思わない。
“この世界”に来た当初は、間違いなくそう考えていた。
《物騒なことするのかなぁって、ちょっと憂鬱だった。
今も別に積極的にそうしたい訳でもないけどね》
“あの子達”の為に生きて帰りたい。その想いは本物でも、始まりから冷血になれるほどアイは非情ではなかった。
《でも、この一ヶ月……“あの人”から毎日“見回り”の報告聞かされて。
最後の最後に、“負けた人達の処遇”まで聞かされてさ。やっと実感したんだよね》
敵との直接対面といった“聖杯戦争らしい出来事”と、アイは予選期間中にも出くわさなかったが。
それでもアイは、少しずつ感じ取っていた。
ライダーによる偵察の報告。SNSなどを経由した情報。日常の裏側で日に日に目立っていく、街の異変。
アイドルとして日々研鑽を重ねていても、今まで通りの日常を送っていても、理解できた。
この街の裏側では絶対に“何か”が起こっている。
そうして最後、予選の終了と共に告げられた――敗北したマスターの末路。
生きて帰るためには、他を蹴落としてでも勝つしかない。
《これ、“そういうもの”なんだなぁ――って》
その通達を伝えられ、そして確信したことで、アイは方針を変える決断をした。
穏便に、物騒なことをせずに。そんな調子では、この先生き残れない。
生きて帰る為にも他の参加者間の争いが激化することは見て取れる。その荒波に乗る勇気が無ければ、きっとすぐに飲み込まれる。
悪意や敵意という、激しい濁流に。
だからこそ、アイは甘さを捨てた。強かで、狡猾に。そう振る舞うことを選んだ。
《あのね、真乃ちゃん》
ふいに、アイが呼びかける。
真乃は無言で、彼女の言葉を聞く。
《自分のために戦うのってさ。
別に悪いことじゃないと思うよ》
誰かが勝てば、誰かが負ける。
誰かが笑ってれば、誰かが泣いてる。
幸せの陰で、悲しいことも山ほど転がってる。
そんなの、アイドルだって同じだ――アイはそう考えていた。
足踏みを繰り返した挙げ句に落ちぶれるくらいなら、一歩を踏み出したほうがいい。
それが例え、誰かを傷付けることになっても。
《ズルいって思う?》
真乃の脳裏には摩美々の言葉がよぎっていた。
その矢先に、アイは先回りするかのように呟く。
《未来を手放すくらいなら、私はズルくてもいい》
そして、ぽつりと。
しかし確かに宣言するかのように、そう告げる。
《あんなことを、してでも?》
《必要ならね》
《それじゃ、アイさんは――》
《汚れても、私は立ち続ける》
問いかける真乃の言葉にも、アイは毅然と断言し続ける。
――別に、とうの昔から汚れてるよ。
――お母さんに愛されなかったもの。
――それでも、ここまで来た。
内心に浮かんだ言葉を、押し込めながら。
《アイさんは……傷つくのが、怖くないんですか》
《怖いよ、でもね》
一呼吸を置き、アイは言葉を紡いだ。
《もしも還れたなら……どんなことがあっても、全部ウソの魔法で塗り潰すから。
知りたくもない真実なんて見せてあげない。私は、とびきりの愛で皆を騙し続ける。
傷付いたことも、誰かを傷付けたことも、墓まで持ってくよ。
ステージの上に立つのは、皆が待ち望んでいた“絶対的不動のエース”だもの》
それは、アイドルとして此処まで上り詰めた彼女自身の矜持であり。
あるいは、戦いを是認をする為の詭弁とも捉えられるかもしれない。
されど真乃は、何も言い返せない。
何故なら。自分よりも、ずっと向き合っていたから。
この聖杯戦争の現実というものに対峙して、“アイドルとしての自分”への落とし所を見つけていたから。
それを知ってか知らずか。それとも、分かった上での言葉選びか。
《何があっても、私はアイドルで居続ける。
それが私を想ってくれる人達(ファン)への誠意。
そして、私を送迎(おく)るって約束してくれた……“あの人”への敬意》
――それに、もう一つ。
――今もきっと、帰りを待ち続けている。
――“あの子達”への愛情。
アイの脳裏に浮かぶのは、双子の顔。
嘘偽りのない想いを抱くことができた、掛け替えのない我が子達。
真乃は、沈黙していた。
何も言えなかった。
寄り添うことは、もう出来ない。
擦り減った意思が、彼女の歩を止める。
臆病な心が、後ろ髪を引く。
隠し通したとしても。
誰かを傷つけたことも。
自分が傷ついたことにも、変わりはない。
それはきっと、自分自身を苦しめる――。
そう思っても、言葉が上手く出ない。
毅然と答えるアイは、それさえも乗り越えてしまうのかもしれない。
真乃には、どうすればいいのか分からない。
道標の星は、見えない。
顔を上げることが、出来なくなってしまったから。
《ねえ、真乃ちゃん》
そこに一つの道が示されるとすれば。
きっとそれは、路地裏への誘いなのだろう。
《真乃ちゃんだって、何かあったから此処に“呼ばれた”んでしょ》
そのときは、ふいに訪れる。
《なら、狙っちゃえば》
真乃は、目を見開いた。
言葉の意味は、すぐに理解できた。
《真乃ちゃんの優しさは、いいところだよ。
でも。何もできずに失っちゃうくらいならさ。
せめて、戦う覚悟くらいはした方がいいと思う。
……そうじゃなきゃ、どんどん取り零していくと思うから》
――なんのために?
奇跡の願望器を求める、動機。
元の世界。小さな歪みから、離散へと至ってしまった事務所。
大切なひとを支えられなかった後悔。無理ばかり繰り返して、皆に心配をかけた自分自身。
そして、この世界。すぐ近くにいたのに、歩み寄れたかもしれないのに。
白瀬咲耶の手を、取り損ねた。
灯織も、めぐるも。ずっと傍に居た親友達も、あんな悲惨な目に遭って。
――なんのために?
優しい人達が傷付いて、苦しまなくてはならない謂れ。
どうして、こんなことになってしまったんだろう。
真乃は問い続ける。現実を運んできた、運命と言うべきものに対して。
考えても、考えても、考えても、答えは出ない。
――なんのために?
何処かにいる誰かが、優しい人達を平気で踏みつけにする理由。
わからない。わかりたくもない。
分かり合う。そうなるに至った想いを知る。
そう考えていた筈なのに、足踏みしてしまう。
そして。きっとその人達は、これから先も誰かを傷付けていく。
そうして誰かの痛みを積み重ねた果てに、自分の願いを叶える。
そんな“ズルい人達”に、奇跡を渡してもいいのか。
そこまで考えた末に。
とある思いが、心に湧き上がった。
咲耶を失ったときの摩美々は、どんな気持ちだったんだろう。
何を感じて、何を思ったのだろう。
真乃はふと、それを考えた。
ほんの少しだけ、遠い出来事だと思ってたのに。
今では、限りなく近いものに思える。
ああ。きっと、彼女は。
星野アイは、戦いへと向き合っている。
マスターとしても、アイドルとしても。
覚悟を決めなければ、前へと進むことはできない。
現実と対峙しなければ、舞台には立てない。
そして。それを成し遂げられた者は、間違いなく強い。
だけど。それでも。
―――咲耶さん。
強いことは、何かを奪うことの免罪符になるのだろうか。
―――灯織ちゃん。めぐるちゃん。
罪を犯すことさえも、赦してしまうのだろうか。
―――ひかるちゃん。
大切なみんながいなくなってしまうことが、“仕方のないこと”だと言うのなら。
そのために他の誰かが傷ついていくのが、“この世界の現実”だと言うのなら。
だとしたら。そんなもの。
《……なんて、ごめんね》
ふいに飛んできた、アイの一言。
意地悪をしてしまったことを詫びるように、彼女はそう呟いた。
真乃は呆然としたまま、意識を現実へと引き戻される。
《とにかくさ、ウソでもホントでも。
最後に自分の人生(シアワセ)を決められるのは、自分だけだよ》
真乃の返答を待つこともなく、アイは言葉を続ける。
後輩を諭すように紡ぐ彼女の助言を、真乃は無言のまま受け止める。
聞かなければならないことは、きっと他にも沢山あった。
ただ黙っているだけでは何も始まらないことも、真乃自身が理解していた。
だからこそ。真乃は。
《なんかごめんね、時間取らせちゃって。
……じゃ。気をつけてね》
アイは、長引いた会話を断ち切り。
その一言と共に、通話を切ろうとして。
《――アイ、さん》
最後に、辛うじて絞り出した。
《私は……それでも》
真乃の胸の内に、感情が込み上げる。
《ズルいって、思います》
今までずっと感じたことのなかった思いが、湧き上がってくる。
《……許せない?》
《もう、許せません》
真乃は、気付いていた。
この気持ちは。
これは、きっと。
《許したくない》
怒り、なのだろうと。
憎しみ、なのだろうと。
この瞬間。
真乃は、何かを捨てた。
吐き出した声も、携帯電話を握る手も、震えていた。
《……そっか》
何処か名残惜しそうに、アイが呟いた直後。
真乃の携帯電話のスピーカーからは、ただ無機質なビジートーンが鳴り続けた。
◆◇◆◇
アイが真乃との通話を終えた後。
“偵察”という名の散歩に出かけたライダーに、念話を飛ばした。
街の壮絶な惨状。死屍累々の地獄。
そんな状況報告に続いて告げられたのが、アーチャーと対面したという出来事だった。
『真乃ちゃんは?』
『傍には居なかったし……嬢ちゃんは酷ェ有様だった』
『……どんな感じだったの』
『“自暴自棄(ヤケ)”って感じだな。だが、それでも戦い続けてた。
見てらんねェから、ちょっとばかし“手助け(スケダチ)”してやったよ』
――真乃ちゃんがあの様子だったし。
――アーチャーも、まあそうなるよなあ。
アイは内心でそんな納得を覚える。
『あのアーチャーに何か言ったの?』
『ま……ちょっと“寄り添って”やっただけさ』
自暴自棄になってたアーチャーへの寄り添い。
同盟相手とはいえ、それは敵に塩を送るような行動で。
しかし、アイは咎めることもなく口を一文字に結ぶ。
『私も、まあ……あれアドバイスだったのかも』
アイが省みるのは、自分のこと。
当初の目的は、真乃側の状況確認。空魚達が接触していないかを確かめることも兼ねての連絡。
そこで偶々、真乃の傷心を知った。真乃が潰れて“使い物にならなくなる”くらいなら、軌道修正の余地を作る。
彼女の善意を利用したがっているであろう空魚に対して、カウンターを仕掛けることも兼ねて。
その為に真乃へと発破をかけた。それが裏目に出ただけ。
――アイはそう自分に言い聞かせているものの、何処か釈然としない。
『らしくねぇな、アイ』
『うーん……』
――都合よく利用するのが真乃ちゃんに対するスタンスだったのに。
――あれじゃあ、腹割って話したようなものだよなぁ。
――しかも、変に焚き付けちゃった気がするし。
アイは、何とも言えぬ気持ちの悪さを感じてしまう。
『真乃ちゃん、すごく沈んでてさ』
思いを巡らせながら、アイは言葉を紡ぐ。
『もう折れる寸前みたいな感じだった。
なんていうか、酷い目に遭ったんだなーって。
それに……まだ煮え切らないんだな、ってのも思った』
脳裏に浮かぶ真乃の姿は、何処までも無垢だった。
穏やかで、朗らかで、優しい女の子だ。
そんな娘だからこそ、アイは躊躇なく利用した。
だというのに。分かりきった現実を前に蹲る彼女の様子を感じ取って、アイは少なからず本音をぶつけてしまった。
――まあ、要するに。
『なんかちょっと、言いたくなっちゃったのかな』
『要するに、ムッとなっちまったんだな』
『あー、認めたくないけどそれかも……』
ライダーの言ったことは、概ね的を射ていた。
つまるところ、良くも悪くも思う所があったのだ。
『トチっちゃったかなぁ……』
『しょうがねえさ。アイだって……まだまだ“女の子(トシゴロ)”だろ?』
『子持ちのハタチだけどね』
気さくに軽口を叩いてくるライダーに対し、苦笑い気味にアイは答える。
アイドルは永遠の女の子だから、ある意味間違ってないかもね――なんてアイは思った。
『ま……もう何だっていいんだけどさ』
ともかく。
今後も
櫻木真乃を利用できるかどうか。
その雲行きは、もはや怪しくなっていた
そもそもM達とのパイプを結べた今、真乃との関係はさして重要なものでもなくなっている。
Mと対立する段階で真乃達を頼る算段も一度は考えていたが、“衆目を集めやすい著名人”と“メディアさえも掌握した暗躍者”の相性はあまりにも悪い。
それに騙しながら都合良く利用し続けていくことも、あの様子ではもはや難しいだろう。
使い物になるかも疑わしいし、思い通りに動いてくれるかも怪しい。
また、もしも此方への敵意を固めた場合――真乃達の性格から見込みは薄いとはいえ、「
星野アイはマスターである」という情報を横流しする可能性も否定できない。
『たぶん、ライブも中止になるよね』
そして
紙越空魚が独断で何らかのアプローチを行う危険性もある以上、このまま真乃を野放しにし続けるのも頂けない。
あのアサシンとの関係もMが取り持ってくれる手筈だ。
現時点で更なる戦力を求めているであろうMが、アサシンと結託してこちらを陥れる可能性は限りなく低い。
『……Mさんに伝えてもいいかもね、真乃ちゃん達の情報(ネタ)。
あの娘をどうするか、向こうと相談する』
『……了解(オッケ)。アイの判断に任せるよ』
だからアイは、そう判断した。
ライダーもまた、それを肯定する。
櫻木真乃をMに売る。
それはつまり、彼女を死に至らしめることにも繋がる選択だ。
しかし新宿の大災害が起きた今、アイドル一人の犠牲など“些細な出来事”になる。
状況は変わってしまった。
だからこそ、躊躇を捨てられた。
尤も、アサシンを抱えるMならば既に真乃達の情報を掴んでいる可能性もあるが、その時はその時だ。
例えそうだとしても、真乃について相談する足掛かりにはなる。
どちらにせよ真乃達の話題を切り出すことは、彼女への区切りになる。
『……そういえばさ、情報で思い出したけど』
真乃に対する方針は決めた。
そうしてアイは、ふいに話を切り替える。
『“割れた子供達(グラス・チルドレン)”のガムテ君だっけ』
それは、“クエスト”の件だった。
神戸しおとライダー、そしてMのマスターである
死柄木弔。
彼らは二組の主従との対決を課題として出されていた。
その片割れが、グラス・チルドレンとそれを率いるガムテ。つまり
殺島飛露鬼にとって旧知の間柄だった。
生前の記憶に加え、日中に末端の“子供”を脅した殺島達は、サーヴァントを含めた彼らに関する情報(ネタ)を持っていた。
価値という点では、真乃達に関するそれよりも大きいだろう。
『昼間は聞きそびれたけどさ』
『……なんだ?』
『あの子と絶対に組めないのって、どうして?』
そうして投げかけたのは。
アイのふとした疑問だった。
『ガムテって子、ライダーのこと慕ってたんだよね』
アイは、ライダーからその話を聞いていた。
グラス・チルドレンの首領、輝村照――通称ガムテ。
「破壊の八極道」の一角。「殺人の王子様(プリンス・オブ・マーダー)」の異名を取る最凶の殺し屋。
言うなれば、ライダーの“同僚”に当たる存在だった。
そんな二人の“関係性”を知っていたからこそ、アイは純粋な疑問を抱く。
『それでも、組めないの?』
『あァ』
『ひょっとして、その子のこと嫌いだったり』
『……いいや、可愛いヤツだったよ』
ぽつりと呟くような、ライダーの一言。
アイはすぐに察した。――これはウソじゃないな、と。
『だけど組むのはダメ、と』
『アイツは、玄人(プロ)だからな』
アイは、思う。
そう語るライダーは、ガムテを少なからず恐れているように見えたが。
それと同時に、何処か自慢気とも取れるような――そんな雰囲気があった。
『そこいらの素人(アマチュア)とは違うのさ』
日中、グラス・チルドレンの末端と遭遇した時にライダーは思った。
ガムテとは組めない。奴ならばアイを人質に取り、自身を傀儡として利用することだって出来る。
――ああ、ガムテならやれるさ。
――オレみたいな“半端モンの大人”とは、訳が違う。
ライダーは同じ八極道であるガムテから慕われていた。
兄貴分として懐かれていたし、ライダー自身もガムテを弟や子供のように可愛がっていた。
それ故にガムテの思考も、理念も、“ある程度は”理解している。
だからこそ、ライダーは信頼していた。
彼は、“玄人(プロ)”だ。殺すことにおいては、誰よりも卓越している。
そして、同じ境遇を持つ“子供達”の為ならば―――“救世主(カミ)”にだってなる。“悪魔(バケモン)”にだってなれる。
ライダーが明日なき男達に寄り添ったのと同じように。ガムテは、彼らの味方だ。
八極道の同志を踏み台にして勝ち抜くことなど、彼にとっては容易い。
例え心から慕った相手だとしても、ガムテならば“やれる”。
ライダーは、そう確信していた。
アイに対し、それを語った。
『だからこそ、潰さなきゃならねえ』
ライダーはガムテの手の内を知っている。
ガムテもライダーの手の内を知っている。
だが、ガムテの側に“ビッグ・マム”という未知数の手札が加われば。
必然的に不利となるのは、ライダーの方だ。
その点においても、ガムテはいずれ排除しなければならない。
だからこそ、ヴィラン連合が“グラス・チルドレン打倒”をクエストとして提示したのは僥倖だった。
敵が未知数の手札を持っているように、こちらにも奴らの知らない“協力者”がいる。
かつての同胞であるからこそ、決して油断はしない。
『……やっぱ頼もしいよね、殺島さん』
そんなライダーに対し、アイはふっと微笑みながら呟いた。
無垢で、純粋で。それ故に、壊れやすい。
櫻木真乃とアーチャーは、きっとそんな類いの人間だった。
だからこそ、ああなってしまった。
――私には、この人が着いてる。
――絶望なんてしないし、するつもりもない。
だって、この人は私の幸せを望んでるでしょう?
だったら、とびきりの笑顔で応えてあげないと。
それは
星野アイが贈る、嘘偽りのない想いだった。
【新宿区/一日目・日没】
【ライダー(
殺島飛露鬼)@忍者と極道】
[状態]:健康、魔力消費(小)
[装備]:大型の回転式拳銃(二丁)&予備拳銃
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:アイを帰るべき家へと送迎(おく)るため、聖杯戦争に勝ち残る。
1:アイの方針に従う。
2:M達との協力関係を重視。だが油断はしない。厄(ヤバ)くなれば殺す。
3:ガムテたちとは絶対に組めない。アイツは玄人(プロ)だからだ。
4:アヴェンジャー(
デッドプール)についてはアサシンに一任。
[備考]
※アサシン(
伏黒甚爾)から、彼がマスターの可能性があると踏んだ芸能関係者達の顔写真を受け取っています。
現在判明しているのは
櫻木真乃のみですが、他にマスターが居るかどうかについては後続の書き手さんにお任せいたします。
※グラス・チルドレンの情報を既にM側に伝えているか(あるいは今後伝えるか)否かは後のリレーにお任せします。
【豊島区・池袋/デトネラット本社ビル/一日目・日没】
【
星野アイ@推しの子】
[状態]:健康
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]
基本方針:子どもたちが待っている家に帰る。
1:
櫻木真乃の情報をM達に売って、彼女をどうするか相談したい。
2:敵連合の一員として行動。ただし信用はしない。
3:あさひくん達は捨て置く。もう利用するには厄介なことになりすぎている。
[備考]
※
櫻木真乃、
紙越空魚、M(
ジェームズ・モリアーティ)との連絡先を交換しています。
※グラス・チルドレンの情報を既にM側に伝えているか(あるいは今後伝えるか)否かは後のリレーにお任せします。
◆◇◆◇
「―――きらめく……星の力で……」
路地裏で、歌が奏でられた。
対峙を経て。葛藤を経て。
そして、悲しみと怒りを悟って。
櫻木真乃の中で、ひとつの想いが湧き上がる。
「憧れのワタシ……描くよ……―――」
ずっと自分を守ってくれたサーヴァント。
ずっと自分を支えてくれた親友。
そして、可愛らしい大切な妹のような存在。
そんな彼女の勇姿をなぞるように、真乃は唄った。
それは、勇気の讃歌か。
あるいは、哀しいスワンソングか。
答えは、まだわからない。
『……ひかるちゃん』
そうして真乃は、念話を飛ばした。
返事は、返ってこない。
『ありがとう。ずっと支えてくれて。
この世界で、私の友達でいてくれて。
優しいひかるちゃんがいたから、私は今まで笑顔でいられた』
告げられる感謝の言葉。
灯織とめぐるの件を、責めはしない。
責めるわけがない。
『だから……ごめんね』
謝るのは、自分の方だ。
真乃は、そう思っていた。
『私はもう、笑顔でいられないと思う』
―――だって。
―――こんな酷いことをする人達を。
―――許したくなんて、ないから。
―――分かり合うことも。歩み寄ることも。
―――したくないって、心から思ったから。
夜空を、見上げても。
星の輝きは、見えなかった。
溢れ出る涙に、光は掻き消されていた。
【新宿区・路地裏(区外近く)/一日目・日没】
【
櫻木真乃@アイドルマスターシャイニーカラーズ】
[状態]:疲労(中)、精神的疲労(大)、深い悲しみと怒り
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:当面、生活できる程度の貯金はあり(アイドルとしての収入)
[思考・状況]基本方針:???
1:悲しいことも、酷いことも、もう許したくない。
[備考]※
星野アイ、アヴェンジャー(
デッドプール)と連絡先を交換しました。
※
プロデューサー、
田中摩美々@アイドルマスターシャイニーカラーズと同じ世界から参戦しています。
【新宿区・路上/一日目・日没】
【アーチャー(
星奈ひかる)@スター☆トゥインクルプリキュア】
[状態]:健康、血塗れ、精神的疲労(極大)、魔力消費(小)
[装備]:スターカラーペン(おうし座、おひつじ座、うお座)&スターカラーペンダント@スター☆トゥインクルプリキュア
[道具]:プリミホッシーの変装セット(ワンピースのみ。他は灯織・めぐるとの交戦時に破損)
[所持金]:約3千円(真乃からのおこづかい)
[思考・状況]基本方針:???
1:――――。
[全体備考]
新宿区の氷鬼は限定発動した『帝都高爆葬・暴走師団聖華天』によって殲滅されました。
時系列順
投下順
最終更新:2021年12月20日 05:54