◆◇◆◇
まっさらな空間が。
眼前に、呆然と広がっていた。
そこには、何もなかった。
世界の形と呼べるものが。
一欠片も、存在しなかった。
あるのはただ――――地平線まで続く、空白。
歩けども、歩けども。
眼前の景色は、何一つ変わらない。
永遠のような虚無が、ひたすらに続く。
幾ら進んでも、徒労に過ぎない。
何の価値もない。何の意味もない。
そんな歩みを。
“俺”は、ぼんやりと続けていた。
ここは、ひょっとして。
あの世ってヤツなんだろうか。
“写真の親父”に、道連れにされて。
その果てに辿り着いた、地獄ってものなんだろうか。
答えは返ってこない。
答えてくれる人なんて、居るはずもない。
だって俺は、独りぼっちで彷徨い続けているのだから。
折角、“何か”が変わると思ったんだけどな。
俺のつまらない人生に、本当の“革命”が訪れると思ったのにな。
あの人なら。
死柄木弔なら。
――――そんな未来を見せてくれると、信じていた。
だと言うのに、俺はこんな無様な結末を迎えた。
結局は、あの“殺人鬼”からは逃げられなかった。
俺の人生、やっぱり無意味だったのかな。
何の価値も無いままだったのかな。
そんなことを思って。
胸の内が凍えるような感覚を覚えて。
虚しさを抱えながら、茫然と歩き続けていた矢先。
ふいに、足を止めて。
その場で、振り返った。
真っ白な世界とは裏腹な。
禍々しい、漆黒の“影”が。
其処に――――佇んでいた。
姿形は、はっきりと視認できないけれど。
そいつの輪郭は、まるで“魔女”のようだった。
名付し難い“狂気”と“混沌”の匂いを纏って。
“魔女”は、ほんの微かに。
くすりと、嗤ってみせた。
そして。
ぷつんと、何かが。
俺の中で断ち切れるような。
そんな感覚が、確かに走った。
その瞬間に、俺は確信した。
そんな俺の悟りをよそに。
“魔女”は身を翻して、その場を去っていく。
まっさらな世界の果てに溶け込むように、姿を消していく。
俺は、その姿を見届けて。
魂の奥底で糸が切れたような感覚に、一抹の“寂しさ”を感じていた。
◆
「――――よぉ。目が覚めたかよ」
両瞼を、開いた。
天井が、視界に入る。
男の低い声が、鼓膜を刺激する。
自分が横たわっていたソファーの感覚を、微かに確かめながら。
ゆっくりと、俺は身体を起こす。
周囲を見渡せば、敵連合の面々もそれぞれ佇んでいた。
――――夢だったんだ。
――――まだ、死んでなかった。
そんな実感を、呆然と感じながら。
俺は、声の主である男に視線を向けた。
「丁度良かった。いま出ていく所だった」
“写真の親父”と結託したと言う、あの“黒い男”がそこにいた。
ステータスや魔力の気配といったものは、一切感じられない。
それでも田中には、その男がサーヴァントとして認識できていた。
何故ならば――――己の従者も、同じ匂いを纏っていたから。
一見では常人にしか見えない。英霊としての気配も感じ取れない。
しかしそれでも、“化けの皮を被った人殺し”としての匂いだけは漂っていた。
“親父”の気配は、もう存在しない。
あの自爆によって、そのまま消滅したのだろう。
そして、俺は―――右手に刻まれた令呪を、まじまじと見つめてから。
「……俺のサーヴァント」
ゆっくりと、男に向けて視線を上げる。
ほんの少しだけ、言葉を詰まらせて。
「もう、死んだよ」
確かな感覚として理解できる、“事実”を告げた。
その言葉を口にした瞬間に、仄かな虚しさが訪れる。
まるで恩人が亡くなったような。
あるいは、知り合いと長いお別れをしたような。
そんな奇妙な感覚が、胸の内に込み上げてくる。
そうして俺は、ようやく気付く。
――――あいつが居なかったら。
――――あいつの影響で、人を殺さなかったら。
――――俺は、何も始まってなかったんだな。
その事実に、気付かされる。
ああ、だけど。
それでも。
もうどうだっていい。
街の陰に潜む殺人鬼は、もういらない。
俺を導いてくれるのは―――全てを破壊する魔王なのだから。
◆
部屋の片隅。
チェンソーのライダー、
デンジは。
目覚めた田中を、ぼんやりと見つめていた。
あの禪院という男は、田中と軽くやり取りを交わしてから部屋を後にしていった。
つか誰だあいつ―――デンジはずっと気になっていたが、そんなことを問う空気でも無かった。
田中がぶっ倒れてから暫くの間、Mはずっと電話しっぱなしだった。
やれ蜘蛛だの連合だの、小難しいやり取りを繰り返していた。
何を話しているのかなんて、よく分からなかったけれど。
一つだけ、思うことはある。
直ぐ側にいる少女へと、視線を向けた。
黒い髪のツインテール。
幼くて小さな出で立ち。
猫のような瞳を携えて。
神戸しおは、デンジと目を合わせた。
デンジの脳裏に浮かぶ、あいつの言葉。
自分の代わりに戦っていた“ポチタ”の記憶が、ぼんやりと焼き付いている。
顔にガムテープを貼り付けた少年は、しおの兄のことについて話していた。
その兄―――神戸あさひは、ビッグ・マム達と組んでいると。
そんなふうに、語っていた。
しおは相変わらず、いつも通りの顔だ。
自分の兄貴と、これから敵対することになるかもしれない。
そんな状況を前にしても、やっぱり平然としている。
年相応のあどけない顔で、静かに微笑んでいる。
「ねえ、らいだーくん」
そして、ふいにしおが声を掛ける。
にこりと笑顔を見せながら、デンジを見上げる。
「――――お兄ちゃんのこと、かんがえてる?」
その一言が刺さって。
デンジは思わず、不意打ちを食らったような表情を浮かべる。
「いや、なんで分かったんだよ」
「だって顔に出てたもん。“ポチタくん”が見てたから、おぼえてたんでしょ?」
考えていたことをピンポイントで見透かされて、何とも言えぬ顔でデンジは頭を掻く。
そんな彼をじっと見つめて、しおは顔を覗き込む。
「……なあ、しお」
「なぁに、らいだーくん」
「お前さ」
しおの眼差しに耐えられなくなったように。
あるいは、観念したかのように。
デンジは、問い掛ける。
「兄貴のこと、どう思ってんの」
―――だからね。お兄ちゃんは、“敵”なの。
日が変わる前。夕方の頃に、しおはそう言った。
家族との幸せは、もう要らない。
“さとちゃん”との未来だけ欲しい。
しおは、それ以上は語らなかった。
自分の兄について、何も言わなかった。
そんな彼女の姿が、何となく引っ掛かっていて。
だからこそ。あの“幼い殺し屋”との対峙をきっかけに、改めてそれを聞き出した。
そんなデンジの問いに対し。
きょとんとした顔で。
しおは、彼を見つめて。
ほんの少しだけ、何かを思った後。
「お兄ちゃんはね、きっと私を愛してた」
しおは、ふっと微笑みながら語る。
その表情に、どんな思いが込められていたのか。
デンジには、それを読み取ることは出来なかった。
「でも、お兄ちゃんは愛に生きたんじゃない」
それでも、分かることはある。
黙々と語るしおを見て、理解できることはある。
「それ以外の“かたち”を、知らなかっただけなの」
しおは、しおなりに。
自分の肉親である、兄について。
――――“悟っている”ということだった。
「お兄ちゃんの愛は、なんの味もしない。
だからいらないし、ほしくもない。
でも、お兄ちゃんはまだ愛を諦められないの。
それしか知らないから、そうするしかない」
だからこそ、しおは語る。
自らの兄を、淡々と突き放す。
けれど。そこには。
ほんの僅かにでも。
兄の背負ったものに対する、哀れみのようなものがあり。
「だからね、らいだーくん」
そして、それ故に。
しおは、デンジへと告げる。
「お兄ちゃんとお母さんの、叶わない夢は――――」
そう。
錆びついた、空っぽの瓶は。
何も詰められることのない、虚ろな器は。
「ちゃんと、おわらせてあげなきゃ」
きっちりごみ箱に、捨ててあげないと。
そうしないと。きっと、あの人達は。
永遠に彷徨い続けるのだろうと。
しおは、思いを馳せる。
―――今まで守ってくれて、ありがとう。
“お兄ちゃん”と“お母さん”に伝えた、決別の一言。
それが全て。その先は、何も興味がない。
今の神戸しおにとっては、過ぎ去った感傷でしかない。
だからこそ、思う。
神戸あさひは、“過去の存在”なのだと。
過去に取り零した“何か”に縋る以外の生き方を奪われた、哀しいひとなのだと。
兄(あさひ)は、亡霊だ。
生まれ変わるには、真っ当すぎて。
だから、人間でしかいられなかった。
そうして彷徨っていく、虚しい影だ。
故にしおは、彼を突き放す。
未来を生きることを選んだ少女に。
愛する人以外の思い出なんて、いらない。
「……なあ、しお」
そんなしおに対し。
何処かばつが悪そうな表情を見せて。
デンジは、問い掛ける。
「アニキなんだよな、そいつ」
「うん。お兄ちゃん」
「なんつーかさ……そいつがお前と噛み合わないなのは分かったけどさ」
心の奥底に、引っかかるものがあった。
デンジの脳裏。ふいによぎる景色。
肉親というものに―――良い思い出は、無かった。
閉ざされた記憶の奥底。酩酊した父親。
その果てに、咄嗟に手を出した自分。
思えば、ゴミみたいな環境だった。
血を分けた家族というものが、良いものだとは思えなくて。
「ちょっとは話聞いてやってもいいんじゃねえの」
それでも。
思うところは、ある。
こんな幼い子供が、家族を突き放すことに。
自分のような道を辿るかもしれないことに。
引っ掛かってしまう気持ちはある。
だからこそ、そう投げ掛ける。
そんなデンジの言葉に、ぼんやりとした表情を見せるしお。
やがて彼女は、再びフッと微笑む―――どこか寂しげな顔で。
「いいの、もう」
そして、告げる。
自らの、家族への想いを。
「――――そういうのは」
とっくのとうに、過ぎ去っている。
身内への感情を。
そんなしおの答えを、耳にして。
デンジは、何処か―――複雑な表情を見せた。
◆◇◆◇
「もしもし」
デトネラットを後にし。
伏黒甚爾は、電話を掛け直し。
再び、連絡を取った。
「例のマスターが目を覚ました」
マスターである
紙越空魚に報告する。
“
仁科鳥子の身柄を確保し、此方を強請ってきた連中”についての情報だった。
既に使い魔は排除され、そいつの主からも見限られ。
後は令呪による自害を待つだけだったが。
「仁科鳥子を狙ってた野郎は脱落したとよ。
自害なんかさせずとも、あいつら自身が倒したらしい」
それも、杞憂に終わった。
令呪を使わずとも、件のサーヴァントは落ちた。
つまり、それは。
――――精々、上手くやったらしいな。
仁科鳥子とフォーリナーが、“忍び寄る悪意”を自分達の手で切り抜けたということだ。
「安心したか」
甚爾の言葉に対し。
空魚は、無言だった。
何かを噛みしめるように。
何かを思うように。
暫しの沈黙へと、耽った後。
「……安心、っていうか」
ゆっくりと、言葉を紡ぎ。
次に訪れた一言に、甚爾は思わず呆気に取られる。
「スカッとしました」
「何だって?」
「いや、何ていうか……どこのどいつか分からないですけど。
そいつ、鳥子にぶっ飛ばされたってことですよね」
「……まぁ、そういうことだろうな」
「じゃあやっぱり、清々しい気分です」
取り留めもなく答える甚爾だったが。
空魚はやはり、そう告げる。
――――スッキリした。清々しい気分だ。
そして、そこから間を置かず。
「私の鳥子をナメんな、って思ってたんで」
そんな一言を前にし。
今度は、甚爾が沈黙した。
真顔。無表情。
何とも言えぬ面持ちを見せた後。
―――やれやれ、と。
溜息を吐かんばかりの態度を、密かに取る。
あぁ、だろうな。
お前はそんな奴だったよ。
呆れたような、感心したような。
複雑な思いを胸の内に押し込めて、甚爾は再び口を開く。
「……それと、Mからの情報だ。
フォーリナーを狙ってるリンボについてだが―――」
◆◇◆◇
――――時は、
ベルゼバブが“ビッグ・マム”と対峙するより前。
『不愉快。全く以て下らぬ結末よ』
東京タワー内部。
周囲の魔力の気配を探るように、意識を集中していた大和の脳裏にて。
銀翼のランサー―――ベルゼバブの声が響く。
あの敗走の報告以降、長らく沈黙していたが。
ようやく念話にも気を回せる程度には自己治癒を進められたようだった。
『まさか君が、敗走するとはな』
『まさに不条理よ。何故あのような羽虫の群れが余の覇道を阻むのか。
道理を知らぬ愚者共めが……とはいえ、これは必要な過程でもあったのだろう』
『何故だ』
『無論、“再誕”へと至る為である』
ベルゼバブが行動不能に陥るほどの手傷を負っていることは、大和にも理解できた。
それは彼にとって、間違いなく驚嘆に値することではあったが―――とうの本人は、不遜な態度を貫く。
自らを出し抜いた敵への憤り。虎視眈々と再起を誓う闘志。
予想だにせぬ敗北を突きつけられながらも、ベルゼバブは決して揺るがない。
己こそが究極。己こそが頂点。己こそが最強。
底知れぬエゴを燃やし続け、逆襲の時を待つ。
『君の実力は私も認める所だ。
その働き、次こそは期待しているぞ』
故に、大和は告げる。
その果てなき“力”と“渇望”を信頼するように。
『ほう、不遜な貴様にしては随分と謙ったものだな?』
『失態を犯したのは、私も同じだということさ』
意外なものを見たようなベルゼバブに対し。
大和は自嘲するように呟く。
『―――君の言う“狡智”に、手玉に取られた』
無様なものだと、己を嘲る。
狡智との駆け引きを断ち切ったベルゼバブは、予想外の敗走へと至った。
その狭間で大和は狡智との駆け引きに乗せられ、大連合への対処を余儀なくされた。
互いに出し抜かれ、一杯食わされたということだ。
『フン、無様なものよ』
尤も、例え同じように苦汁を舐めさせられたとしても。
そこで“共感”などという二文字が浮かぶほど、ベルゼバブは感傷的ではない。
全ては己一人。己こそが絶対。
故に、傲岸な物言いは変わらない。
そんな彼の性格をとうに理解している大和は、意に介さず“今後の話”を切り出す。
『これより我々は、霊地防衛を最優先とする。
皮下らを中心とする件の“連合”への対処も無論だが、それだけではない』
『――――あの脱出派の連中が、霊地を奪いに来る可能性を視野に入れている訳か』
『そうだ。“君を撃退し、行動不能に陥れた”と連中が認識している今だからこそだ』
脱出派がベルゼバブの襲撃を凌いだ。
その情報は、大和に霊地防衛を優先させる更なる要因となった。
ベルゼバブからの報告によれば、連中は間違いなく消耗を受けている。
そして善なる蜘蛛が背後に潜んでいる以上、彼らが脱出派にまつわるSNS上の密告を察知している可能性は極めて高い。
即ち、“長期戦になればなるほど包囲網は加速すること”を彼らも認識している。
なればこそ、彼らが霊地の奪取による短期決戦を狙う可能性は高い。
『じきに動けるな、ランサー』
『―――治癒は進んでいる。余はいずれ再臨の時を迎える』
仮にベルゼバブと渡り合ったという“煌翼のライダー”が、霊地の争奪で再びその力を示すならば―――寧ろ都合がいい。
海賊同盟という大勢力の侵攻と競合すれば、確実に“猛者同士の乱戦”へと突入する。
霊地を餌に強大な敵戦力を削りつつ、脱出派の強者を改めて始末する機会を狙うことが出来る。
そして彼らを誘導する余地を作れるという点で、“悪しき蜘蛛”を敢えて泳がせておく意味も生まれた。
意図的にせよ、偶発的にせよ。
此処から先、十中八九乱戦へと縺れ込む。
峰津院の2箇所の霊地を巡り、それぞれの陣営が鎬を削る。
守護を果たすか、否か―――それにより正念場を迎えることになるだろう。
敗北を喫して、大和は気を新たに引き締める。
「さて……君にとっては不本意だろうが。
今回の霊地防衛においては、同盟者である君達の力も借りるとしよう」
そして大和は、“同盟者”へと視線を向ける。
力を示した君が、如何に働くのか―――それを改めて問い掛けるように。
先程まで席を外してサーヴァントと連絡を取っていた紙越空魚は、腹を括ったように大和を見つめ返す。
「いいよ。了解」
フッと、空魚は不敵に笑みを浮かべる。
待ってました、と言わんばかりに。
「意外だな。フォーリナーのマスターとの合流を優先して反発するものだと思っていたが」
「うちのサーヴァントから聞いたことがあってさ。その蜘蛛からの情報なんだけど」
そんな空魚の態度を、少しばかり意外に思う大和。
彼は空魚の“同盟者としての価値”を改めて確認するべく、敢えて彼女を試すように吹っ掛けたのだが。
そんなこと試されるまでもなく―――空魚は言葉を紡ぐ。
「リンボのヤツが、霊地争奪戦に噛んでくる可能性が高いって」
アサシン曰く、鳥子の身柄をネタに脅しを仕掛けてきたサーヴァントは既に“脱落”した。
そのサーヴァントを従えていたマスターの証言、そして魔力パスの消失によって裏付けられた。
恐らくはフォーリナーが撃退に成功したのだろう。
それにより、鳥子達を直接狙う脅威はリンボのみとなった。
「……アルターエゴ・リンボとやらは、件の連合の傘下に加わっているということか」
「そんなとこ。真っ先に蜘蛛の拠点を割り当てた奴がリンボで、十中八九そいつ経由で池袋にカチコミ仕掛けられたんだってさ」
アサシンがMから聞いた情報によれば。
池袋のデトネラット襲撃に至るまでの情報漏洩に、リンボが関わっている可能性が高いのだという。
新たな拠点へと移転した際、Mは「何故ビッグ・マムらは連合の拠点へとピンポイントで攻め込んだのか」を推理し、先んじて本社を訪れていたリンボの存在に目を付けていた。
恐らくはリンボを経由してビッグ・マムの陣営へと拠点の情報が漏洩し、鏡面を介した盗聴へと至ったのだろう―――と。
窮極の地獄界曼荼羅。
フォーリナーの覚醒によって聖杯戦争の枠組みさえも破壊する、壮大なる計画。
そんな目論見を企てて、尚且つ他の主従にまで喧伝していたというリンボが、何故今まで排除されていなかったのか。
恐らくは―――早々に“強大な後ろ盾”という地盤を得て、彼らの存在を背景にしながら立ち回っていたから。
そして、後ろ盾の可能性として最も高いのは。
283への攻撃のために戦力拡張を必要とし、更にはリンボのデトネラット来訪直後に“鏡面による傍受”を行ったであろうビッグ・マムだ。
「あいつがビッグ・マムとかいう奴らの下に付いてて、今回の陣地争奪戦に駆り出されるかもしれないなら―――」
リンボの背後にビッグ・マムが存在し、そのビッグ・マムが青龍のライダーと同盟を結んだ。
つまり彼は十中八九『海賊同盟』の傘下に収まっている。
“二人の皇帝”が盟主として連合を支配する立場にあるのならば、リンボは彼らの尖兵として戦場に駆り出される算段が大きい。
―――即ち、それが何を意味するのか。
「ここで直接、ぶっ倒せるかもしれない」
そう、素っ頓狂な野望のために鳥子を狙う大馬鹿野郎を。
迎え撃って徹底的に叩き潰す、チャンスなのだ。
峰津院大和の戦略に付き合う気など、あまり無かったが。
鳥子にちょっかいを出すクソッタレが絡んでくるなら―――話は別だ。
◆
「“あっち”はいいのか」
時間は遡り。
田中一の覚醒を経て、連絡を取り合った際。
電話越しの通話相手であるマスター、紙越空魚に向かって。
彼は―――伏黒甚爾は、そう問いかけた。
「鳥子よりリンボの方を優先するのか、って言いたいんですか」
「分かってるんなら話は早ぇな。あいつとの合流がどうこうって散々言ってたろ」
「言っときますけどね、アサシンさん」
甚爾の投げかけた疑問に対し。
空魚は、釘を刺すように言葉を紡ぐ。
甚爾を霊地へと呼び寄せ、じきに現れるであろうリンボを倒す。
既に田中一のサーヴァントは退けられたとはいえ。
確かに、鳥子を一旦見過ごすかのような選択に見えるだろう。
「合流を後回しにして、リンボを迎え撃つんじゃない」
だが、それは違う。
紙越空魚というマスターにとって。
その選択は、仁科鳥子を隅に置くことを意味するのではない。
つまるところ、それは。
「リンボをぶっ殺して、鳥子と合流するんです」
鳥子を守るための。
鳥子と再び逢うための。
怒れる女の―――開戦の狼煙だった。
「アサシンさん、言ってましたよね。生かすことより殺すことのが巧いって」
峰津院大和という圧倒的な後ろ盾も付いた。
だからこそ、ここで“ブッ殺す”。
確実に仕留められるかもしれないタイミングを、最大限に活用する。
鳥子を供物にしようとするクソ馬鹿野郎を、ここで直接ぶん殴る。
それが空魚の下した選択であり。
「――――やっちゃってください。思いっきり」
己のサーヴァントに告げる、絶対的な“指命”だった。
◆
「ならば、存分に働いてもらう」
そして、大和は。
空魚の意思を前にして、満足気に微かな笑みを見せる。
その胆力と闘志、やはり私が見込んだだけのことはある―――そう言わんばかりに。
“こいつに認められても何も嬉しくないんだけどな”と空魚は内心思うが、彼は意に介さず。
空魚の目に映る大和は、常に不遜だ。
まだ10代そこらだというのに、やけに偉ぶってて。
常に生意気な口ぶりで、こちらに対して高圧的な態度を取ってくる。
何とも可愛げがないし、妙に気に食わない。
もうちょっと年上を敬った方がいいんじゃないか―――などと思っていたが。
「覚悟しろ」
やがて大和は、一呼吸を置き。
ゆっくりと、改めて口を開く。
「――――此処から先は、修羅の世界となる」
その一言と共に。
空気が、切り替わる。
――――瞬間。
空魚の思考が、吹き飛ばされる。
焔のように滾る気迫に。
刃のように鋭利な殺気に。
絶対的な暴君のような、その威圧感に。
思わず空魚は、身を竦めさせられる。
先程まで何事なく会話をし、悪態をついていた相手が。
途端に、全く違う世界の“怪物”の如く目に焼き付く。
別次元。別格。
そんな言葉が、空魚の脳裏を過ぎる。
迸る魔力と闘気が、まるで熱のように突き刺さる。
そして、改めて思い知らされる。
――――いずれ、この峰津院大和さえも乗り越えなければ。
――――鳥子と共に生きて帰ることは、できない。
それは、当然の事実でありながら。
余りにも大きな壁であり。
こんな怪物とも最終的には対立することになるという事実に、空魚は息を呑む。
それでも、空魚は。
何処か怯えてる自分を、奮い立たせる。
馬鹿野郎。なに足踏みしてるんだよ。
鳥子と二人で生きるんだろ。
それが全てじゃないか。
何が峰津院だ。何がリンボだ。何が聖杯戦争だ。
――――そんなもの、全部ぶっ飛ばしてやる。
――――鳥子と生きるために。
――――それが私だ。それが紙越空魚だ!
「覚悟しろ、って?」
そうして己を鼓舞して。
腹を括ったように、大和へと言い放つ。
「そんなの、とっくに決めてる」
なけなしの表情。
精一杯の、不遜な笑み。
空魚は、ニヤリと答えた。
【峰津院大和@デビルサバイバー2】
[状態]:頭痛(中、暫く持続します)
[令呪]:残り三画
[装備]:宝具・漆黒の棘翅によって作られた武器(現在判明している武器はフェイトレス(長剣)と、ロンゴミニアド(槍)です)
[道具]:悪魔召喚の媒体となる道具
[所持金]:超莫大
[思考・状況]
基本方針:界聖杯の入手。全てを殺し尽くすつもり
0:霊地に留まり防衛を行う。皮下の陣営が来るならば確実に仕留める。
1:海賊同盟の波状攻撃に備え、ベルゼバブも霊地防衛に駆り出す。283の陣営が来る可能性も警戒。
2:ロールは峰津院財閥の現当主です。財閥に所属する構成員
NPCや、各種コネクションを用いて、様々な特権を行使出来ます
3:グラスチルドレンと交戦しており、その際に輝村照のアジトの一つを捕捉しています。また、この際に、ライダー(シャーロット・リンリン)の能力の一端にアタリを付けています
4:峰津院財閥に何らかの形でアクションを起こしている存在を認知しています。現状彼らに対する殺意は極めて高いです
5:東京都内に自らの魔術能力を利用した霊的陣地をいくつか所有しています。数、場所については後続の書き手様にお任せします。現在判明している場所は、中央区・築地本願寺です
6:白瀨咲耶、神戸あさひと不審者(プリミホッシー)については後回し。炎上の裏に隠れている人物を優先する。
7:所有する霊地の一つ、新宿御苑の霊地としての機能を破却させました。また、当該霊地内で戦った為か、魔力消費がありません。
8:
光月おでんは次に見えれば必ず殺す。
【備考】
※皮下医院地下の鬼ヶ島の存在を認識しました。
【紙越空魚@裏世界ピクニック】
[状態]:疲労(小)、動揺、背中と腹部にダメージ(いずれも小)。憤慨、衝撃、自罰、呪い、そして覚悟
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:マカロフ@現実
[所持金]:一般的な大学生程度。裏世界絡みの収入が無いせいでややひもじい。
[思考・状況]基本方針:鳥子を助ける。
0:リンボをぶっ殺して鳥子を助ける。
1:鳥子を助けに行く。何が何でも。何を利用しようとも。だから……死ぬんじゃないぞ。
2:峰津院と組む。奴らの強さを利用する。
3:アイ達とは当分協力……したかったけど、どう転ぶか分からない。
4:アビゲイルとか、地獄界曼荼羅とか……正直いっぱいいっぱいだ。
【杉並区/二日目・早朝】
※時間軸は120話「STRONG WORLD」以前です。
【ランサー(ベルゼバブ)@グランブルーファンタジ-】
[状態]:極めて不機嫌+再誕の高揚感、一糸まとわぬ姿、全身に極度の火傷痕、左翼欠損、胸部に重度の裂傷、霊核損傷(魔力で応急処置済)、胴体に袈裟の刀傷(再生には時間がかかります)
[装備]:ケイオスマター、バース・オブ・ニューキング(半壊)
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:最強になる
0:平伏すが良い。王の帰還である。
1:霊地を巡る乱戦へと備える。
2:それはそうと283は絶対殺す。
3:狡知を弄する者は殺す。
4:青龍(
カイドウ)は確実に殺す、次出会えば絶対に殺す。セイバー(
継国縁壱)やライダー(ビッグ・マム)との決着も必ずつける。
5:鬼ヶ島内部で見た葉桜のキャリアを見て、何をしようとしているのか概ね予測出来ております
6:あのアーチャー(
シュヴィ・ドーラ)……『月』の関係者か?
7:ポラリス……か。面白い
8:龍脈……利用してやろう
9:煌翼……いずれ我が掌中に収めてくれよう
【備考】
※大和のプライベート用タブレットを含めた複数の端末で情報収集を行っています。今は大和邸に置いてあります。
※大和から送られた、霊地の魔力全てを譲渡された為か、戦闘による魔力消費が帳消しになり、戦闘で失った以上の魔力をチャージしています。
※ライダー(
アシュレイ・ホライゾン)の中にある存在(ヘリオス)を明確に認識しました。
※星晶獣としての“不滅”の属性を込めた魔力によって、霊核の損傷をある程度修復しました。
現状では応急処置に過ぎないため、完全な治癒には一定の時間が掛かるようです。
※一糸まとわぬ裸体ですが、じきに魔力を再構築して衣服を着込むと思われます。
※失われた片翼がどの程度の時間で再生するか、またはそもそも再生するのか否かは後のリレーにお任せします。
【中野区/二日目・早朝】
※時間軸は120話「STRONG WORLD」以前です。
【アサシン(伏黒甚爾)@呪術廻戦】
[状態]:健康
[装備]:武器庫呪霊(体内に格納)
[道具]:拳銃等
[所持金]:数十万円
[思考・状況]基本方針:サーヴァントとしての仕事をする
0:峰津院の霊地へと向かい、どちらかに現れるであろうアルターエゴ・リンボを殺す。
1:場合によっては写真のおやじ(吉良吉廣)の残穢を辿り、仁科鳥子の元へ向かう。
2:
幽谷霧子の誘拐は保留。ただし283プロへの牽制及び調査はいつでも行えるようにする。
3:都内の大学について、(M以外の)情報筋経由で仁科鳥子の在籍の有無を探っていきたい。
4:ライダー(
殺島飛露鬼)やグラス・チルドレンは283プロおよび
櫻木真乃の『偽のゴール』として活用する。漁夫の利が見込めるようであれば調査を中断し介入する。
5:ライダー(殺島飛露鬼)への若干の不信。
6:あの『チェンソーの悪魔』は、本物の“呪い”だ。
[備考]
※櫻木真乃がマスターであることを把握しました。
※甚爾の協力者はデトネラット社長"四ツ橋力也@僕のヒーローアカデミア"です。彼にはモリアーティの息がかかっています。
※櫻木真乃、幽谷霧子を始めとするアイドル周辺の情報はデトネラットからの情報提供と自前の調査によって掴んでいました。
※モリアーティ経由で仁科鳥子の存在、および周辺の事態の概要を聞きました。
最終更新:2022年10月20日 01:35